玩具

「せぇのっ!」
リュックの元気のいい声とともに、彼女の目の前にある巨大な門がはじけ飛んだ。
門の欠片が彼女の髪をまとめていた紐を断ち切って、その綺麗な金髪を自由にする。
「あっ…もうっ!」
リュックはほどけた髪を軽くなでつけて、歩み出した。

もうどれくらい駆け回っただろう?敵にも味方にも会うことなく、ただただゾーマを探してかけずり回って。
「全くどこに…」
言いかけて、彼女の口が止まる。
何故か?簡単なことだ。そんな愚痴よりも大事なことが目の前に存在していたからだ。
ついさっきまで気づかなかったのは、何でだ?
髪のことを気にしていたからか?それとも…

「ほう?エビルマージの玩具ではないか」

そういってこちらをみているゾーマから、まるで覇気が感じられなかったからか。

「あっ、あんた…」
リュックは真正面にある玉座に腰掛けているゾーマを見た。
ゲームの最初に見たときと、同じ姿だ。
心が芯まで冷たくなるような、髑髏に似たその顔。不自然に白いローブ。
そして彼の全身を包み込むようにほの青く光る『バリア』。
何もかも、あのときのままなのに。

まるで、違う。あの、ずっしりと肩にのしかかるような重圧感。迫力だとか覇気だとか、そういったモノがまるで抜け落ちている。
それは、この玉座の間にあの最初の部屋のような禍々しい装飾がないからか。ゾーマの眉間に不自然なひび割れが走っているせいか。
…否、すべて違う。もっと、根本的な何かが足りない。

「死にゆく玩具に用はない。貴様も我が手の中で眠るがいい」
巨大な玉座に腰掛けた、巨大な体を持った魔王は静かに言った。
リュックに言った風ではない。むしろ、独り言のようなつぶやき。
「五月蠅いっ!アンタを倒して、みんなで帰るんだからっ!」
リュックがピッとゾーマを指さすと、その腕が見る見るいびつにふくれあがる。
バキバキと何かが砕けるような音とともに、三つ又の昆虫の脚のようなかぎ爪がその姿を露わにし、
薄手のシャツを突き破って背中からコウモリの羽が二つ、生えそろう。
「アンタなんかにっ!殺されてっ!たまるもんかぁぁぁぁぁぁっ!」

どんっ!

砲音のような音とともにリュックが地面を蹴った。
異形に変じた右腕を振り上げ、その邪悪な面貌に叩きつけようと…

     「     小     賢     し     い    っ     !     」

ゾーマが立ち上がり、吼えた。
眼がつり上がり、顔中を走る腱に力がこもって般若のようなぞっとする貌を作り出す。
同時に、今まで毛ほどもなかった威圧感というべき精神的な圧力がゾーマから発せられ、暴れ狂う。
「っ…?!」
飛びかかったリュックの動きが空中で止まり、その圧力に身を固くする。
上からのしかかるような、あの威圧感ではない。もっと若々しい、まるで横殴りの突風のような…
「魔王たる儂をあなどるでないぞ…美しく、死にゆくがよい…!」
ゾーマはそう言ってにやりと笑った。以前では考えられぬほどに、生気に満ちて。
彼の眉間のひび割れが、ピシリと広がった。


【リュック(進化完全制御) 所持品:なし
 最終行動方針:ゾーマを倒し、仲間を救う】


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最終更新:2011年07月18日 08:22
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