「ようやく辿り着いたぞ、
ゾーマ!」
王者の剣を構え、今にも飛び掛らんとする
アルス。
ゾーマは玉座に座したまま動かない。ただ、クツクツと喉を鳴らす。
「相も変わらず勇ましいことだ。だが光の玉もない貴様に何ができる」
「光の……玉?」
まただ。また訳のわからない感覚だ。
知っていた筈のこと、とても大切であるはずのこと。
しかし、頭に靄がかかった状態は一向に解けようとしない。
「さて……一つだけ問おう。もう一度、ゲームをやり直すつもりはないか」
「なんだと……!?」
ゾーマの言葉に、
バッツは聞き返す。
「
我が城で不逞を働いた罪は許す。生き残ったものには生存を約束しよう」
「ふざけるなっ! もう殺し合いなんか出来るか! もうたくさんだ!」
叫びながら
ブレイブブレイドを引き抜く。
それは他の者も一緒だった。それぞれの獲物を構え、ゾーマを包囲する。
「では、仕方あるまい。我が手を下すのは意に反するが、直接選定しよう」
「みんな、いくぞ! これが最後の戦いだ!」
エドガーの掛け声と共に、アルス、ライアン、パパス、とんぬら、クーパー、アイラ、バッツ、
ティーダ、
アーロン、
リュックが一斉に飛び掛る。
ゾーマは立ち上がらない。ただ片手を上げる。
その手から生まれた光の波動は、一瞬にしてフロア全体を大爆発の渦に巻き込んだ。
とんぬら、バッツ、ティーダは床を蹴って直撃をかわす。
ライアン、パパス、アーロンはすかさず防御体制を取って凌ぐ。
アルス、クーパー、アイラは止まらなかった。
アルスの王者の剣は爆風を切り裂き、クーパーが纏う天空の武具は主を守り、そしてアイラは死を恐れない勢いで舞う様にしてかわす。
「ゾーマ、覚悟っ!」
二つの伝説の剣がゾーマに迫る。それでもゾーマは動かない。
「な―――!?」
振り下ろされた剣は、片手だけで防がれた。
呆然とする二人の勇者に、ゾーマは淡々と語る。
「その程度か」
フゥ、と溜息のような仕種。瞬間、二人を冷たく輝く息が襲い掛かる
魂すらも凍てつかせる冷気が完全に二人を包み込む前に、リュックとアイラは二人を突き飛ばす。
「アルスくんっ!」
ティナはファイガの魔法を完成させた。
サマンサ、アニー、
バーバラもそれぞれ攻撃魔法を唱え終える。
後は放つだけだ。しかし、
「待て、不用意に呪文を撃つな」
「ピサロ卿、しかし」
「反射されるかもしれん。私が合図するまで待て」
デスピサロはそう言うと、死神の鎌を手に前線へと向かった。
つい先程放たれた爆風と冷気の波が入り混じっている。
そんな気持ちが悪い風を受けて、デスピサロは冷然とゾーマを見据えていた。
そして、傍らに対比した二人の勇者を見下ろす。
「愚か者が。今、貴様たちが為すべき事はそれではない」
「なっ……!」
デスピサロは二人の反論も聞かず駆け出した。
目指すはゾーマの首一つ。ゾーマが放つ光弾をかわしつつ、死神の鎌を振りかぶる。
「終わりだ、ゾーマ。この数日で何があったかは知らんが、弱体化した貴様になど負けん」
「ほう……よく言った、小僧」
ゾーマは腕を振るい、デスピサロの体を叩き潰そうとする。
しかし、それは見切っていた。体重が無いかのように宙を待って回避すると、そのまま斬りつける!
だが、それは。
ゾーマの前の空間を僅かに歪めただけで終わった。
「大言壮語も程々にするがいい」
翻った腕が空中にあるデスピサロを捕らえる。
「ぐ……!」
腹部に腕がめり込み、更に宙に浮き上がった。
攻撃はまだ止まらない。デスピサロを射す指に業火の塊が生まれる。
メラゾーマ。奇しくも魔王の名を関する、全てを焼き尽くす火炎系最強呪文だ。
それが放たれようとした瞬間、
「させないよっと!」
リュックの拳がゾーマに迫る。
進化の秘宝で強化されたリュックの拳は並みの武器より遥かに強い。しかし、
「またか、小娘。何度試そうが貴様の攻撃など効かぬ」
「あちゃ……やっぱ卑怯だぁ」
ゾーマが纏う歪んだ空間の前に、無効化されてしまう。
デスピサロの代わりにリュックがメラゾーマの餌食になって吹き飛ばされた。
「あつつ……もう、ホント死んじゃうって」
「デタラメね、これで生きてるんだから」
何とか身を起こすリュックに駆け寄った
エーコは回復魔法を唱える。
効果はすぐさま現われた。ただでさえ強化された体力が回復を支えているのか。
「ん、ありがと。そんじゃ行ってくるね!」
「もう、ちょっとは落ち着いたら!」
子供の言うことなど耳を貸さず、リュックは再びゾーマ目掛けて走り出した。
床に落下したデスピサロの傍に、とんぬらが駆け寄る。
何も言わずに回復魔法をかけ、デスピサロが立ち上がるのを確認して、とんぬらは剣を構えた。
「今でも桁外れである事に違いはない。どうする?」
自分に話し掛けてくるとんぬらを不思議な男だとデスピサロは思う。
彼は魔と呼ばれるものを前にしても全く萎縮しない。
ライアンとはまた違う意味で、何故か信用してみたくなる。
「時間を稼いで状況を整える」
「わかった」
「ったく、この状況でどうしろってんだよ!」
ティーダは悪態をつきながら走り回っていた。
攻撃するためではなく、ゾーマの攻撃をかわすためだ。
雨霰と降り注ぐ光弾は、かするだけでも根こそぎ力を奪っていく。
かわすしかない。それはバッツやライアン、パパスやアーロンも同じことだった。
攻撃の合間をぬって攻撃を仕掛けるが、やはり歪んだ空間の前に飲み込まれてしまう。
暫くして、ゾーマが立ち上がった。
「口ほどにもない。この茶番も終わりだ」
何処かしらに傷を負った戦士たちを見下ろす。
ライアン、デスピサロ、とんぬら、パパス、アイラ、バッツ、エドガー、ティーダ、アーロン、リュック。
後方にはサマンサ、アニー、バーバラ、ティナ、
エアリス、エーコ。
デスピサロは、口元に滲んだ血の塊を拭き取ると、不敵に言い放つ。
「そうだな、全く手間取らせる」
「なに?」
そういえば、何かが足りない。
魔王の前に立ちふさがるのは、戦士でも僧侶でも魔法使いでもなく。
「いまだ、撃て!」
「言われ、なくても!」
刹那、光が溢れた。ゾーマの左右にいる二人の勇者の手が眩しく輝いている。
爆砕せんとゾーマは魔法を唱えるが、もう遅い。
闇を剥ぎ取り、あるべき姿へと返す聖なる魔法が発動した。
『マジャスティス――――ッ!』
最終更新:2011年07月18日 08:22