SS




『ノンストップ・ツインガールズ』



 ばたばたばたばたっ!
 騒々しい足音と共に廊下を走る人の気配。
 その正体を、自室で待ち受ける金髪少女──────一模糊(にのまえ・もこ)は知っている。
 ばーんっ!
 「模糊ちゃん模糊ちゃん模糊ちゃんっ! これ見て見て見てっ!」
 勢い良く扉を開け、握り締めてくっしゃくしゃに丸められたチラシを突き出して見せつける様は、まるで捕らえた獲物を誇らしげに報告する猫のよう。
 「どうしたの~、刹那ちゃん?」
 元気良く部屋に飛び込んできた黒髪少女──────一刹那(にのまえ・せつな)とは対照的に、至極おっとりとした口調で尋ねる模糊。
 刹那と模糊。その二人の少女の容姿は僅かに一点、髪の色を除けば正しく瓜二つだった。
 「とゆーわけでっ、参加しよっ!」
 説明を一切省き、結論を求める刹那。その性急さは通常なら相手に混乱しか生まないだろう。
 しかし、魂の片割れたる模糊だけは例外だった。
 「バトルチェイス、だっけ~?」
 刹那の持つチラシには、辛うじて車のイラストの一部が見えているだけ。それでも模糊は正確にその意図を悟っていた。
 バトルチェイス。それは、希望崎学園で行われるというレースイベントだった。
 無論、刹那の意志が模糊にテレパシーで通じたという訳ではない。
 種明かしをすれば、模糊もそのイベントの開催を小耳に挟んでおり、そして御祭り好きな刹那ならば間違いなく参加しようと言い出すと予測出来た事。刹那の持つチラシに車が見えた事。
 その三点からの推測である事を模糊はわざわざ説明しないし、刹那も疑問を抱かない。
 大事なのは、心が通じていると言う事。
 それ以外は瑣末な問題に過ぎなかった。
 「希望崎学園ってところも一回行ってみたいしっ!」
 「そうね~、見学がてら、いいかも~」
 二人は未だ中学二年生。あと二年後には通う事になるかもしれない学校を見ておくのも悪くない。
 刹那の意見に模糊が追従する。
 それは二人のいつもの光景。
 「決まりっ! じゃあ僕はエントリーしてくるっ!」
 「それなら私は、乗り物と衣装の準備するね~」
 役割分担に一片の迷いもない。
 一刹那と一模糊。
 火と油。或いは火種と火薬。
 燃え上がる炎を消し止める水はない。
 一家の誇るノンストップ暴走双子少女、その行く先に広がるは破壊の荒野か、叫喚の地獄か。


                                 <了>


SS「ヒャッハー団希望埼学園へ来る」


ぶぅぅーん…
転送魔法の淡い魔法光が消え屋外の広場に飛ばされたことに気付く。

ブルーウッド「おい、どこだここは」
ナイトメア(角の生えた種族、様々な種族から生まれ穢れを持つとされる忌み子)の青年が呟いた。
リタ「知らない。またリンゴのせいじゃないの?」
特に興味もなさそうにエルフの少女が答える。
エメリ「とりあえず情報が欲しいですね」
困りましたね、と魔術師風のエルフの少女が答える。
サコン「探索してこようか?」
と影の薄いグラスランナー(小人族)の少年が提案する。
ニート「ワイバーンは無事だろうな、怪我してないか?誰だよ、こんな事したのは!!」
ルーンフォーク(人造人間族)の青年が抗議の声を上げた。

見事なまでにバラバラ、ヒャッハー団の日常の姿であった。
彼らは決して仲が良いわけではない。
冒険者としての評判は…
はっきりいって悪い、お尋ね者ギリギリといった感じすらある。

???「おーい!!おめーら喜べ!!」
ルキスラ地方では見かけない様式で建造された城?だろうか
箱のような建物(希望埼学園の校舎である)のほうから巨大なメイス『トロールバスター』を担いだドワーフが走ってくる。

リンゴ「仕事だぜ、し・ご・と。リンゴ様が仕事とってきてやったぞ」
ドワーフ族のおっさんが意気揚々と皆に告げた。
サコン「へえ、どんな仕事なんです?」
リタ「マジで?リンゴが仕事とってくるとか。」
エメリ「まずは状況を見極めたほうが良いと思いますが…」
ブルーウッド「まて、その仕事の報酬はどうなっているんだ?しけた仕事は受けんぞ」
ニート「仕事してりゃ、状況がわかったりするんじゃない?」

リンゴ「驚け、レースだとよ。騎獣レースみたいなのがあるんだって。賞金もがっぽり、情報も手に入る。」
ブルーウッド「ほう、この規模の城で開催されるレースか、賞金もそれなりだろうな。」
リタ「いいじゃん、出てみようよ」
サコン「僕は賛成だな」
エメリ「まあ、レースが開催されるほどの文化のある町でしたら安全でしょうし。情報収集も兼ねて参加してみるのも良いかもしれませんね」
ニート「俺のワイバーンが怪我するような事はないんだろうな?」

ヒャッハー団。
冒険者としての腕前はそこそこ、個人個人の力量もそこそこ。
ただチームワークとしての戦力は侮れず凶悪な魔物を退けたりもするのだ。

しかし決して仲は良くない。

そして彼らは知らなかった。
このレース。
特に賞金とかない事を。
特に情報とかない事を。

そして相対する魔人たちに常識などなく決して安全ではないことを!!


ダンゲロスバトルチェイス 下馬評ver不祝誕生日


みんな自分なりの下馬評書いて張ろうぜ!


結昨日箒&王乱華【安定した性能でトップを狙う】

  • 高い加速力と走行技術を生かした先行型。
 特殊能力を使えば転倒する可能性はなくなり、精神攻撃マスもかわせるようになる。
 安定してトップを狙える性能ではあるが、精神攻撃が居らず通常攻撃特化のキャラクターが多い今回のキャンペーンではやや不利か

ヒャッハー団onワイバーン【積み荷を捨てれば性能はピカ1】

  • 初期状態での性能はそれほど高くないものの、能力を使い切れれば加速力は8と抜群の性能を誇る。
 転倒確率が上昇するリスクこそあるものの、高い加速力は通常ルートを通るにせよショートカットを渡るにせよ常に有利に働く。
 防御力の低さから攻撃対象に選ばれるとつらいが、それを含めても十分に優勝を狙えるキャラクター。

一 刹那&一 模糊【攻撃力はNo.1】

  • 攻撃力と加速力に特化したキャラクター。
 特殊能力により一方的な攻撃と実質二回移動、大量飲酒が可能になっているため先行能力は圧倒的。
 転倒に弱い、他のキャラクターと同マスにいなければ能力が発揮できない、意志乃・アトラスが天敵である、εさんが飲みすぎる危険がある等弱点は多い。
 だが、爆発すれば止められないだけの力をこのキャラクターは秘めている。

六車風吾【風車の力でショートカットを超える】

  • バランスの良いステ振りと、高い確率でショートカットを超えられる能力に賭けた一発逆転型
 加速力5は他の加速特化キャラクターと比べると少々見劣りするが、能力を使えば高確率でショートカットを超えることが出来ることはそれを補って余りある魅力だ。
 上手く壊マス&転倒を避けられればトップを狙える性能だろう。

アトラス・ミニットマン【攻防一体のミサイルマシン】

  • 高い攻撃力と能力による事実上無敵の防御力が持ち味。
 一 刹那&一 模糊や意志乃の攻撃を防ぎつつ、こちらの攻撃で他のキャラクターを一回休みにしながら進む戦略をとることになるだろう。
 上手く相手を行動不能にしつつ先行できれば有利にゲームをすすめられるが、逆に先行を許すと加速力の低さから逆転は厳しくなる。
 なかなかリスキーなキャラクターだ。

仮面ライダー禅僧&夢術香奈絵【勝利への道を超えて行け】

  • ショートカットによる一発逆転に賭けたキャラクター。
 任意の場所にショートカットを設置できる能力は有用だが、着地点の隣接1マスが壊マスになる制約はなかなか重い。
 また、後続もショートカットを利用できるため敵に利用されてしまう可能性もある。
 どのタイミングで能力を使うか、が鍵となるキャラクターだろう。
 あと栄光の三騎士の残り一人どうした。

浅宮ミズキ&白金虹羽【空に虹はかかるのか】

  • 後方からの妨害で上位を狙う。
 能力はアトラス・姦崎・能力使用前のヒャッハー団以外のキャラクターが空白マスに止まった場合1回休みにさせられるという非常に強力なもの。
 ただ、6位以下でないと使えないという制約は重く、トップを射程に入れられなかったり使いたい時に5位だったりとかゆいところに手が届かない場面も多そうだ。
 本体のステ振りも悪くないが、優勝するには兎に角運が絡んでくるキャラクターだろう。

姦崎繋【……知ってる?ニューロンが焼けると、すごく、気持ち良いんだって……】

  • 強力な逆走能力と安定性に自信あり。
 能力による逆走は強力の一言で姦染したキャラクターは1ターン以上を無駄にしたのと同じことになる。
 上手く連鎖的に姦染すれば一気に姦崎がトップに躍り出る可能性もあるだろう。
 本体の性能はぱっとしたところはないものの安定している。
 即効性が無いのが欠点であるものの、確実に上位を狙える強キャラクターといえるだろう。

意志乃鞘&ヒロイックダイナー 【ヒロイックダイナー――オーバー!!】

  • 戦闘で優位に立てるステータス&能力と特化した加速力。
 能力は基本的に「敵から戦闘を仕掛けられない」というものと考えて間違いないだろう。
 特に一 刹那&一 模糊を50%の確率で行動不能にできるのはかなり有効だ。
 超稼働の為にこちらからも戦闘を仕掛けていきたいところだが、ポイントをためるには少々攻撃力が心もとない。
 加速力で先行しつつ、戦闘でも優位に立てれば勝利の目が見えるといったところだろうか。

一 四四【サラマンダーよりはやーい】

  • 加速と走行技術に特化した先行型。
 能力を使えば合計4ターンの間ダイス目が二倍になるため、純粋に先行する能力でいえばこのキャラクターが一番だろう。
 他の先行型と違ってショートカットをするには不安が残る能力だが、通常ルートを通っても十分に優位に立てるだけの性能を秘めている。


●バトルチェイス一般生徒の反応


「ハイ、トム。ハウアーユー?」
「ハイ、ボブ。アイムファイン」

「ところでバトルチェイスの件は聞いたかいトム」
「ああ、聞いたよ。学園を一周するっていうレースだろ?まあレースに参加しない一般生徒からすれば校内で走りまわられるのは迷惑な話だけど、いつものハルマゲドンに比べればよっぽどマシさ。」
「それなんだけどなトム、今回のレース、そんなに平和的というわけではないらしいぜ」
「どういうことだいボブ?」
「なんでも、今回のレース主催者はとんでもなく恐ろしい奴なんだそうだ」
「なんだって!?」
「エントリーする時に能力名をちょっと間違えただけで既に一人シベリア送りにされたらしい」
「OH!なんて酷い!ジャパンじゃシベリア出兵は死と同義らしいじゃないか」
「他にも、『コレちゃんと本人の許可取ったのか釘刺したのにこの始末かよ!!』とか言って参加者の一人を30分正座させるつもりらしい」
「な、なんて恐ろしい…」
「それだけじゃない。聞いた話だと、『なんで下馬評にゲロ子いねーんだよ!あいつ強いよ、絶対優勝候補だよ!!』とか言って相当な転校生贔屓らしいぜ」
「ガクガクブルブル…」

「今回のレースは荒れるな…」
「ああ、そうだな。正月だからって浮かれて何やっても許されるってわけじゃねーんだな。いや、年始めだからこそ襟を正してルールとマナーを守ってみんなで楽しんでレースをしないとな…」



ダンゲロスバトルチェイス本レース、1月3日21:00から開始予定!!
賭けレースもあるよ!みんなルールとマナーを守って楽しんでね!


『にのまえっ! 刹那&模糊の巻 保護者さんたちのハラハラドキドキ』



 本日開催されるレースイベント、その名もバトルチェイス。
 この日の為に希望崎学園に特設されたレースコースと、それを観戦する為の特設観客席。
 レース開始前だと言うのに既に観客席は一杯に埋まっており、出場選手入場前から誰もがスタートを今か今かと待ちわびていた。
 そんな中、通路できょろきょろと少し苛立たしげに周囲を見回している少女が一人。意志の強そうな眼差しとすらりと伸びた脚線美が群衆の中にあっても一際眩しい。
 恐らくは空席を探しているのだろうが、生憎の大盛況でなかなか座る場所を見つけられないでいる。
 そんな少女の様子に気付いたのは、既に座席を確保していた三人、その内の一人。
 自らの両隣に弟と妹を座らせていた彼女は、ほとんど思考の間を置かずに口を開いた。
 「一くん、そっちに少し詰められるかな?」
 「え? うん、少しなら…………」
 一と呼ばれた少年の行動と、それを促した眼鏡の少女の意図に気付いたのか、最後の一人である少女も無言で僅かに空間を作る努力を行う。
 普段は姉に反発してばかりだが、今回は珍しく異存はないようで大人しく従っている。
 姉弟三人の行動が功を奏し、二人の──────一一(にのまえ・はじめ)と一∞(にのまえ・むげん)の間には辛うじて一人分程度の空白が出来上がる。ファーストクラスのようにゆったりとした快適さ、とは行かないまでも立ち見より遥かにましというものだろう。
 「そこの輝くばかりに素敵なお嬢さん、良ければこっちで一緒に観戦しないかい?」
 ナンパでもするかのように爽やかに軽やかに、∞は通路で彷徨う少女に声を掛けた。
 思ってもみない申し出だったのか、少女は不意を突かれたように立ち止まったが、少考の末に一たちの方へ歩み寄ってくる。どうやら誘いに乗る事にしたようだ。
 「別に、感謝とかしてないからねっ! 輝くばかりに素敵なお嬢さん、って言われたから来てあげただけなんだからね!」
 筋金入りである。
 「あれ…………埴井さん?」
 その声に聞き覚えを感じ、一は近づいて来た少女が誰なのかを悟る。
 「げ…………変態!?」
 うげぇ、と美少女がしてはいけない表情第四位くらいに顔を顰め、少女──────埴井葦菜(はにい・あしな)は声を上げた。
 「正解!」
 「正解じゃないよ、四ちゃん……」
 代わりに回答した少女、一四(にのまえ・あずま)に、げんなりとした表情の一。Sっ気の強そうな二人の美少女に蔑まれいじられるという業界的にはご褒美の筈だが、気苦労が勝ったのだろう。
 「ほら、場所を空けたからね。遠慮せず座るといい」
 そんな三人の様子はさておき、∞は構わずに葦菜へ空席を勧める。
 一の存在に逡巡の素振りを見せた葦菜だったが、この期に及んで立ち去るのもどうかと思い、結局は腰を落ち着けることにした。
 「…………ちょっと! くっつきすぎじゃないの?」
 「そんなこと言われても、狭いんだから仕方が無いよ……」
 比較的小柄な少年少女とはいえ、元々三人で座っていたところを四人で並んでいるのだから多少は窮屈にもなる。
 むずむず、と一と葦菜の間でポジションの微妙なせめぎ合い。
 「ひゃっ!? あんた今、変なとこ触ったでしょ!?」
 「さ、触ってないよ! 濡れ衣だよ!」
 お尻に触れられたような感触に、びくん、と背筋を伸ばして好反応を見せた葦菜。一に食って掛かるが、身に覚えのない一は当然否定するばかり。
 「…………ちょっと、遊ぶのもほどほどにしときなさいよ?」
 「なんのことかな?」
 呆れた様子の四のたしなめにも、とぼけた表情の∞だった。


 「へぇ、姉弟で観戦に? 仲が良いのね、あんたたち」
 落ち着いたところで話を聞き、複雑そうな表情で葦菜がぽつりと零す。その横顔は何処か憂いと寂しさを帯びていた。
 「仲良し家族だからね」
 屈託無く微笑む∞。途端に微妙な表情をする一と、明らかに不満そうな表情をする四。
 「ふんっ……くだらないわ」
 継承権を巡り、血の繋がりを持つ者同士で争う事を余儀なくされている葦菜にとっては複雑な心境なのだろう。
 「そう捨てたものじゃないさ、家族っていうものもね」
 優しく包むように、∞は葦菜を諭す。
 「なんならうちに嫁に来るといい。それならきみも家族だからね。どう思う、一くん?」
 ほのぼのと爆弾を投下。
 「えええええええ!? そ、それは…………う、嬉しくなくはない、けど……」
 「ななななななな!? な、何を馬鹿なこと言ってるのよ!?」
 直撃した二人はたちまち爆発炎上。
 「っていうか、嬉しくなくはない、って何よ、煮え切らない! あたしのような超絶美少女が嫁に来るって言うんだから、そこは光栄に思いなさい!」
 「え、ええー……じゃ、じゃあ、光栄で嬉しい……」
 「なんであんたなんかを嬉しがらせなきゃいけないのよ!!」
 「どうしろっていうの……?」
 困り顔と怒り顔。共通しているのはどちらも顔が真っ赤になっているという事だった。
 「嫁に来たら、とは言ったけれど、別に一くんの、とは言ってない、かな?」
 「「!?」」
 二人の同じような驚愕と紅潮の絶句姿に、実に愉快そうな笑顔で微笑みかける∞。全て計算ずくだった。
 「もう、からかうのはそのくらいにしときなさいよね」
 流石に見かねて四が助け舟を出す。普段は自分が一番∞の被害に遭う事が多いので、二人に共感するところもあるのだろう。
 「そうだね、そろそろ参加選手が出てくる頃合いだし……ところで、四ちゃんは誰が優勝すると思う?」
 「そんなこと、予知能力持ちの私に聞くなんて…………」
 ∞に水を向けられ、憮然とした表情を作ろうとするものの、内心の得意を隠せず自慢そうに予想を語ろうとする四。
 「ぼくの予想だと、白金虹羽(しろがね・こうう)くんか意志乃鞘(いしの・しょう)さんじゃないかと思うんだ。なんと言っても……」
 「はいはい眼鏡眼鏡。 それでね、私の予測なんだけど」
 「僕は誰が優勝するかとかは全然分からないけど、刹那ちゃんと模糊ちゃんを応援しなくちゃね」
 「ふーん、妹さんたちだっけ? じゃあ、仕方がないからあたしも応援してあげるわよ。……か、勘違いしないでよ、別に誰を応援しても一緒だからしてあげるだけなんだからねっ!」
 「ちょっと! 話聞きなさいよ!」
 と、そんな訳で保護者さんたちも開始前からヒートアップ。
 そして、レースが始まる。

                         <了>


【ダンゲロスバトルチェイス 観戦者SS 「とある観戦者の優勝予想」】


「……最悪」

 まるでゴミのような人の群れを見下ろし、少女は溜息とともに呟いた。
 手入れの行き届いた長い髪を揺らし、ショートパンツからすらりと伸びた自慢の脚は
 紫のカラータイツに包まれて猶その存在を惜しげもなく主張している。

 蜂使いの一族・埴井家の後継者候補が一人――埴井葦菜である。

「このクッソ忙しい時期に、このあたしがせっかく見に来てやったってのに……。
 もおっ! あたし専用に観戦用ステージでも用意しときなさいよ! ブツブツ……」

 恐らくは席を探しているのだろう、不機嫌さを露わにキョロキョロと忙しない様子だ。
 そんな少女に、少し離れた所から声がかけられる。
 凛とした声色は、少女を差し伸べられた救いの手か、はたまた悪魔のいざないか――。

「――そこの輝くばかりに素敵なお嬢さん、良ければこっちで一緒に観戦しないかい?」



「……ほんっと、最悪」

 かくして葦菜は一家の三姉弟の中に座り、不本意そうに身体のあちらこちらを
 触れ合せつつ、しばらく前の如く悪態をついているのだった。
 と、葦菜はほんのり朱の残した顔で、「そういえば」と口を開く。

「あたし、今日のレースに出るやつらって、全員は把握してないんだけど」

「ああ、それなら一君がいいものを持っていたはずさ。どれ、見せてあげるといい」

「そうだね……ええと、どこにしまったかな」

 葦菜の言葉を受けたのは、世界で最も眼鏡に愛されし少女・一∞。彼女に促され
 ゴソゴソと荷物を漁っているのは、類稀なるToLoveる体質の少年・一一である。
 葦菜と因縁浅からぬ彼が何かを探して腕を動かすたびにその身体も連動し、
 触れ合った二の腕や太腿で感じる微動が、葦菜を刺激しびくびくと反応させる。

「ちょっ……! ばか、そんな動かないで……ナカで手ぇ、掻きまわさないで……!」

「え、えええっ……! そ、そのセリフは、色々とマズイというか……!」

「何やってんだか……」

 何故か恥ずかしい二人に、ドジッ子予知能力少女・一四が冷やかな視線を送る。
 やがて一が取りだしたのは、簡素なつくりの小冊子であった。
 表紙には「ダンゲロス・バトルチェイス パンフレット」と印字してある。

「これに出場者の紹介とかが載ってるんだ」

「へえ、そんなのあるんだ。便利なものねえ。……ちょっと、早く見せなさいよ」

「あ、うん、ごめんっ」

 必然的に定まった上下関係により、一は葦菜のためにページを捲る。
 小さなパンフレットを見るために、二人は無意識に顔を寄せ、紙面を覗きこんでいる。
 そんな二人を見て眼鏡を光らせる∞と、そんな∞を見て呆れた表情を浮かべる四。

 なかなかに愉快な四人組であった。


「まず一組目は、『結昨日箒&王乱華』組だよ」

「ふんふん。高い加速力とそれを制御する走行技術が売りってワケね」

「それに加えて、箒になってるひとの能力で、抜群の精神的な安定も得られるんだ」

「なかなか強力なコンビね……って、何よ『箒になってるひと』って」

「なんでも、結昨日さんが『跨いだものを何でも空飛ぶホウキにする』能力者みたい」

「変な能力もあったものね……。それで、こいつらはどうしてレースに?」

「えっと、『錆少年』とかいう言葉を広めたいらしいよ」

「ナニソレ……女の子同士の絡みが好きな男!? 病院行った方がいんじゃない!?」

「そ、それは言いすぎじゃないかなっ……!」

「……なに? あんたもそういうの好きなワケ? へえ、ふーん、そう」


「いや、えっと……つ、次見よっか! 『ヒャッハー団onワイバーン』だって!」

「そうやって話題逸らそうたって――ワイバーン!? そんなの有りなの!?」

「乗り物の制限は特にないみたいだよ……このチームは、六人で一つのチームみたい」

「ふーん。そんなにいるなら、重くてスピードもでなそうね。条件は五分かしら」

「ん……どうやら、同乗してるメンバーを一人ずつ蹴落としてくみたいだよ……」

「な、なるほど……。レースが進むにつれて、どんどん速くなってくってワケね」

「うん。その分転倒しちゃう危険性も高まるけど……」

「何言ってんのよ、勝つためにはリスクなんて望むところじゃない」

「でも転んだら痛いし、落とされる方もたまったもんじゃないんじゃないかな……」

「るっさいわね! ナヨっちいのに用はないわ! あたしはこいつら気に入ったわ!」


「三組目は……あれ、この苗字。これがあんたらの言ってた?」

「そうそう。僕たちの妹、『一刹那&一模糊』コンビだよ。双子なんだ」

「……で、なんなのこの『脳筋』が自転車乗ってるような猪突猛進っぷりは……」

「あはは……。やんちゃな刹那と、それに拍車をかける模糊のコンビだからさ……」

「それだけじゃないわ。こいつら、近づくやつ全員ぶん殴るつもりじゃない!?」

「あ、あはは……。ほら、ふたりは火と油みたいな……」

「混ぜるな危険、よ! 兄バカにも程があるわよ! ……まあ、立ちはだかる敵を

 ぶっとばして貪欲に勝ちを狙いに行くスタイルは嫌いじゃないケド。うん、有りね」

「じゃあなんでそんなつっかかるのさ……」

「そりゃあんたがずっと庇ってるから……ごにょごにょ……な、なんでもないわよ!」



「四組目は『六車風吾』……げっ、なにこいつ。キャラ、濃っ……!」

「登録されてる車名が装飾品で、実際は自分の脚で走るんだもんね」

「このレースで目立ってやろうっていう魂胆が見え透いてるわね……むかむか」

「ど、どうやら素みたいだけど……性能としては、防御力と加速力を兼ね備えてるね」

「ソツのなさが売りってコトね。カッコの割に、意外と堅実派なのね」

「……でも、能力はそうじゃないみたいだよ。一度だけすごい加速を見せるって」

「ふんふん。ショートカットとか向いてそうね。なかなか豪快なことじゃない」

「他にも、危険地帯を通り抜けたりとか、アブない対戦相手から逃げたりとか……」

「せっかくの加速をそんな消極的に使うワケないでしょ、このチキン!」

「え、ええー……ひどいよ……」


「いつまで萎れてんの、次行くわよ。五組目は『アトラス・ミニットマン』ね」

「高い攻撃力と、そこそこの加速力。でも、何よりも特筆すべきなのは……」

「……この能力よね。殴ってきた相手を吹っ飛ばして、しかも動けなくする、と」

「攻撃に対しては、ほぼ無敵に近いね。刹那と模糊とは相性が悪い、かな……」

「強いわねえ。で、こいつの乗り物は……み、ミサイル……!?」

「さすが何でもありだね……。どうやらミサイル自体は別の子が操ってるみたいだよ」

「ふーん……出場者が攻撃と防御、んで安全圏で操縦の分担なワケね。考えたじゃない。

 ……ところで。あんた、さっきからずっとこいつの胸見てるみたいだけど……?

 すぐ隣にこんな美少女がいるのに、平面の巨乳のがいいワケ? この……しねっ!!」

「えっ!? そ、そんなことな――ぎゃあーっ!!」


「うう、ひどいメに遭った……。次は、『仮面ライダー禅僧&夢術香奈絵』組だね」

「これも異色のコンビよね。性能としては、攻撃を捨てて走り逃げる感じかしら」

「だね。このコンビの最大の特徴は、能動的にショートカットできるところかな」

「……へえー、なんかよく分かんないのを呼び出して、踏み台にして近道するワケ?」

「うん。着地した時にクラッシュしやすかったり、後続車にも利用される可能性は

 あるけど、使うタイミングを誤らなければすごい効果を発揮すると思うよ」

「で、これ。地味に二度使えるのよね。結構な距離を短縮できそうね」

「その代わり、ゴール付近はエッフェル塔が邪魔で使えないみたいだけど……」

「ああ、肝心なとこで役に立たないのね。でもまー、強力なことに違いはないわ。

 ……このショートカットで勝負を決めたら、すごい目立ちそうね。妬ましいっ!」


「七組目は『浅宮ミズキ&白金虹羽』組ね。……あの教育実習生、バイク乗れんの?」

「運転自体は白金くんがするみたいだよ。浅宮先生は掴まってるだけみたい」

「なんじゃそりゃ……いる意味あんの?」

「うん。彼らの戦法は、二人の能力で水溜りを作って他の参加者を転倒させるんだ」

「ははーん。雨女と風使いのコンビならではの技ね。自分たちは平気なのかしら」

「そのための練習も積んだみたいだよ。引っかかるのは、加速しすぎたひとだけみたい」

「レースで一番必要な力を狙い撃ち、と。こりゃあ強いわ。優勝は決まったわね」

「……それが、自分たちの順位が高すぎると使えないみたいなんだ」

「う、それは痛いわね。ギリギリの順位で邪魔してそのまま抜き去れれば、って感じ?」

「性能もバランスいいし、うまくハマれば、文字通り台風の目になるね」


「次は……げえーっ! 今までで一番、インパクトっ……! 『姦崎繋』、ね……」

「うん……。メカで触手らしいよ……」

「コレ、あいつ的にはアリなのかしら……アリなんだろうな……。で、性能は?」

「加速力自体は他に劣るんだけど、特徴的なのはその能力で……」

「……ぎ、逆走!? こりゃあまた、ずいぶんと独特ねえ……」

「でも効果は確かだよ。加速力があるひとほど甚大な被害になるんだ」

「ふんふん……効果発揮は少し遅いけど、それに見合うリターンはありそうね」

「しかも、これ、すれ違った相手にどんどん感染していくんだよ」

「おっ……おぞましい……! 触手らしいというか、なんというか……!」

「そういえば、六車さんはどうなるんだろう。風車を乗っ取って、自分で逆走……?」


「九組目は、『意志乃鞘&ヒロイックダイナー』組だよ」

「意志乃鞘……ああ、あのヒーロー部の。ふふん、お手並み拝見ってとこね」

「このコンビは高い加速力と、申し分ない攻撃力・防御力を持っているね」

「バランスがいい……ように見えて、走行技術は低いのね。転倒しちゃうんじゃ?」

「ただ、この犠牲には理由があって……搭載された『ANTシステム』が強力なんだ」

「なになに……ああ、そういうことね。つまり、『ヒーローポイント』稼ぎ特化、と」

「そうだね。戦闘で勝つため・負けないための性能で序盤はポイントを稼いで、

 ただでさえ高い加速力を何倍にも強化して一気にゴールまで突っ走るつもりかな」

「『一撃必殺の逆転奥義……これぞヒーロー!』、とか、あいつは言うのかしらね。

 ……あとは、ダイナーが普通にいい子っぽくて、あいつに騙されてないか心配だわ」



「最後は、『一 四四』……あら、こいつも一家なのね」

「……うん」

「性能は加速力と走行技術に全振りで、とにかく先行するつもりのようね。

 能力もそんな方針みたい。転倒するリスクを負ってでもどんどん前へ、と。

 かなりチャレンジャー……ん、どうしたのよあんた。さっきから黙りこくっちゃって」

「ああ、うん……。四四とは、その……いろいろ、あったから」

「……ふーん。よく分かんないけど、あんま気に病み過ぎてもロクなことないわよ。

 あんたがそんなんだと、あたしも調子でな――くない! 嘘! なんでもないっ!」

「……ふふ。ありがとう、埴井さん」

「なっ……! べ、別にお礼言われるようなことなんてしてないわよ、ばかっ!!」


 一通り出場者を見終わり、二人はパンフレットを閉じた。
 と同時に、今までお互いの顔がどれだけ近くにあったのかに気付き、真っ赤になって
 仰け反った。……そして、ひと息ついて一が口を開く。

「……エントリーした魔人たちは、これで全員だね。埴井さん、誰が優勝すると思う?」

 一の問いに対し葦菜は腕を組み、「ふっふっふ」と不敵な笑みを浮かべる。
 そうして溜めに溜めたのち、得意げに言葉を紡ぐ。

「あんた、甘いわ……。まだ、最大の優勝候補を見てないじゃない」

「えっ?」

 きょとんとする一の視線を導くようにすっと伸ばされた指先は、
 番長小屋のすぐ外――『今年のミスダンゲロス!』とタイトリングされ、
 当時の番長の首級を高々と掲げた、赤いお団子髪の少女のポスターを指していた。

「バトルチェイス前哨戦で引き分けた、あたしの終生のライバル――ダンゲロス子
 あたしを差し置いて他の有象無象に負けたりなんかしたら、タダじゃおかないわ!」

 ぽかーんとする一に構わず、葦菜は語り続ける。

「あの時の戦いは、あたしがちょっと手加減してあげたおかげで引き分けだったけど、
 本気でやってたら、ま、アレだったわよ、うん。
 ほんとならあたしも出場して真の決着をつけてやりたいとこだったけど、
 ちょうど今日、収録の予定があったのよね。昨日いきなりキャンセルになったから、
 見るだけ見てやろうかなーって来てはみたけど……。とにかく、優勝はゲロ子よ!」

「あのー、埴井さん……?」

 力説する葦菜に対し、一は何かを言いかけるが……。

「……いや、やっぱりいいや」

「ん……なに、文句でもあるワケ? あんたあの場にいなかったから分からない
 でしょうけど、ゲロ子、すっごい強いんだからね! 攻撃! 防御! 加速!
 そして能力も規格外の二つ持ち! チートよチート! このあたしが防戦一方
 だったんだから! ……あ、もちろん手加減してやってたからよ? そこ重要よ?」

「あはは……。(確かに強いんだけど、ゲロ子さん、そのぶんスタート遅いよ……)」

 葦菜の言葉に曖昧に笑いながら、一は静かに言葉を飲み込んだ。
 そうこうしているうちに選手たちはスタートラインに勢揃いしていた。

 葦菜も一も、なんだかんだで仲の良い二人を見守っていた四と∞も、
 そして会場にいる全ての観客たちの熱い視線の先で――

 ――今、戦いの幕が切って落とされる!                <終>



意志乃鞘&ヒロイックダイナー、プロローグSS

『MACHINE HERO』



「さぁ、目覚めるがいい……新たなヒーローよ!」



 希望崎学園ヒーロー部。
 学園のどこかに存在するという、部員以外に知る者はいない秘密基地にて新たな正義が目覚めようとしていた。
 開発室の中央に設置されているベッド、そこに寝かされているロボの目に光が宿る。
「ボクハ……」
 ロボは起き上がると、その足を地面につけて立ち上がる。
 二足でしっかり立つ姿はまさしく人型ロボットのそれ。しかし、顔は昆虫を思わせる作りをしている。
 大きさとしては大の大人よりやや大きい程度だろうか。ロボにしてはどちらかというと細い印象がある。
「そう、君こそがヒロイックダイナー――激走蟻兵人ヒロイックダイナーだ!」
 スーツの上に白衣を纏った少女が、目の前の新入部員ならぬ新造部員の名を告げる。
「ヒロイック、ダイナー……」
 名を告げられた蟻兵人ロボ、ヒロイックダイナーが確かめるように自分の名前を呟く。
 そうだ、確かに自分の名前はヒロイックダイナーだ。彼のAIに刻まれた初期データも同じ答えを返している。
 それ以外にも分かることはいくつかある。例えば、自分は希望崎学園ヒーロー部に属しているということ。では、ここが……?
「ココガ……ヒーローブ・ナノ?」
「うむ、そうだ。中々理解が早いじゃないか」
 腕組みをしたまま言葉を続ける少女。ダイナーが大きい為に見下ろす形になっているが、だからといって別に小さいわけではない。
 何より自信に満ちた笑顔と力強い目が彼女の強さを物語っていた。
「おっと、自己紹介をすべきだな。私がヒーロー部の部長、意志乃鞘だ」
「イシノ・ショー?」
 彼女の名前も自分の初期データに入っている。それだけ自分にとって重要な情報なのだろうか。
 ヒーロー部の部長ということは、指揮系統の中で一番上の人物の筈だ。それが理由だろう。
「ショー・サン? リーダー?」
「うーん、呼びやすい呼び方で構わないよ」
「ソレジャー・ブチョー!」
「あぁ、よろしくな。ダイナー君」
「ワーイ・ヨロシクー!」


 簡単な動作テストを終え、ヒロイックダイナーはヒーロー部内のブリーフィングルームで説明を受けていた。
「バトルチェイス?」
「うむ、番長グループを纏める為に開催されるみたいだな」
 とはいっても、今の所生徒会にも番長グループにも属していないヒーロー部にはあまり関係ない事情だ。
 そう、ヒーロー部に関係ない企画ではあるのだが……
「デモ・デルノー?」
「あぁ、出るぞ。私とダイナー君のタッグで出場だ!」
「ワーイ・ブチョートイッショ!」
 せっかく楽しめそうなイベントがあるのだからということで、鞘は出場を決めたのであった。
 尤も特に問題があったわけでもなくすんなりとエントリーすることができた辺り、相当緩い企画なのだろう。これで本当に新しい番長が決まるかどうかも怪しいところだ。
 ヒロイックダイナーも初めてのイベントということで嬉しそうにしている……が、企画概要を聞いているうちに何故かしょんぼりしはじめた。
「ア……デモ……」
「ん、どうした?」
「ボク……レースニ・ムイテナイ……」
 残念そうにかくりと肩を下ろすダイナー。彼をがっかりさせたのはこの企画が『レース』だからだ。
 バトルと冠してるだけあって戦闘もあるのだろう。しかし、あくまでもメインはレースだ。
 そして、ダイナーは人型ロボである自分はレースに向いていないことを理解していた。
 だが、
「ふふっ、諦めるのは早いぞダイナー君!」
 鞘が大仰に右手を振って前に突き出す。引っ張られた白衣がばさりと音を立てた。
 そのまま彼女は腕をぐっと構えるようなポーズを取りながら続きを話す。
「今の君は蟻兵人型……この形態を蟻甲神形態という! そして、君にはもう一つの姿がある!」
「モウヒトツ……?」
「それこそが、馬駆神形態だ!」
「バクシンモード――!」
 その言葉を認識すると同時、ヒロイックダイナーは己を制御するシステムにかかっているロックの1つが外れるのを感じた。
 制御システムからAIに流れ込む新たな情報。それは自身を変形させる『トランスフォーム』の方法だ。
「ワカル・ワカルヨ!」
「さぁ、魂の炎に従い……その駆体を燃やすんだ!」
「ウン! バクシンモォォォド!!」
 変形は一瞬! 魔人蟻とヒーロー部の技術の結晶だけあり、実に流麗な変形であった。
 手は前足に、顔はフォルムを蟻のものから馬のものへ。全身は純粋な彼のイメージにぴったりな純白に覆われている。
 そう、馬駆神形態とは白馬型ロボだったのだ。いや、一本角があることからユニコーンロボの方が相応しいかもしれない。
「コレガ……ボクノ・モウヒトツノ・スガタ!」
「分かるだろう――今の君なら例えどんな車が相手でもスピードで負けることはない、と!」
「ワーイ!!」
 スピードの化身となった姿を喜ぶようにヒロイックダイナーはぴょんぴょんとその場を飛び跳ねる。
 もしブリーフィングルームが広ければ走り回っていたに違いない。
「コレナラ・ハシレルー!」


 と、しかしふと疑問が浮かんだダイナーは首を傾げる。
「レースナラ……ギコウシンモード・イラナインジャ?」
 そうだ、自分はバトルチェイスの為に生み出されたダイナーロボの筈。
 それならレース向きではない蟻甲神形態はいらないはずじゃ……そう、部長である鞘へと問いかける。
「理由か? ふ――実に簡単だ」
「ドキドキ」
「それは……カッコイイからだ!!」
 かっこいいから人型ロボに変形させる。普通ならそんな理由でわざわざ変形システムを搭載したりはしないだろう。
 だが、そこは浪漫を好むヒーロー部。むしろ変形させない方が有り得ない――!
「ヒーローロボとしては、やっぱり人型に変形しないとな!」
「エット……ボク・カッコイイ?」
「あぁ、とてもかっこいいぞ!」
「エ・エヘヘ」
 褒められることで、なんだか嬉しくなるダイナー。AIが素直なお陰で、生まれてすぐでもこんなに感情豊かなのだ。
「それに……だ」
「?」
 鞘が再び口を開く。
「君はバトルチェイスだけじゃなく、長くヒーロー部の部員になるのだからな。そう考えると、やはり人型形態は欲しいだろう?」
「ワァ――」
 ロボというのは何かの目的の為だけに作られ、それが終わればお払い箱だと思っていた。
 でも、そんなことはなく……機械の自分を仲間だと認めてくれる鞘の言葉が、ダイナーにとっては無性に嬉しい。
「――アァ」
 だから、頑張りたい。
 部長に、自分を作ってくれた開発者に、仲間と認めてくれるヒーロー部の皆に――
 勝つことで恩返しをしたい。
 だから、頑張りたい。
「ヨーシ・ガンバルゾー!」
「あぁ、往くぞヒロイックダイナー! ヒーローの力を見せてやろう!」

 意志乃鞘&ヒロイックダイナー、出陣!





 ――そして。
「……? イモタレ・カナー?」
 ロックされたままの謎のシステムは――依然として沈黙している。

<終>
最終更新:2012年01月04日 11:11