まとめwiki ~ 「♀29匹のボックスに♂1匹を入れてみた」

01話 - ルカリオ、ボックスへ行く

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f29m1

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「お疲れさまルカリオ。しばらく休んでてちょうだいね」
 とあるバトルの後、こんな言葉を残して御主人は僕をボックスへと転送した。
 今日の相手は手ごわかった。波動弾を撃ち尽くした体は明らかに疲れていて、それを見越したご主人が僕をボックスに預けるのは当然だった。
 ポケモンに休みを与えないダメトレーナーもいるって言うけど、僕のご主人はそうじゃない。ポケモンマスターを目指して頑張る立派なトレーナーだ。
 そんなわけで僕は預かりシステムのボックスに転送された。
 御主人が使っているシステムには、僕のような、ジムリーダーやライバルとバトルするときに使われるポケモン専用のボックスがある。ボックス名は確か『ひかえしつ』だった気がする。
 そこに転送されるとき、僕は目を閉じていつも同じ事を考えている。
 ――ボックスの片隅で体を休めて次のバトルに備えよう。そして、次もご主人のために一生懸命戦おう。
 転送が終わって、意気揚々と目を開ける。――あれ?
 ガブリアス君がいない。ミロカロスさんもいない。あの二人は御主人が本気のときしか使わないのに……? というか、いつも以上に混雑してるなぁ。御主人、こんなに対戦用ポケモン持ってたっけ?
 などということを考えていると、一匹のポケモンが声を掛けてくる。
「あら、あなた新入り?」
 やけにかわいらしい声だった。振り向くとそこには、一匹の白いポケモンが居た。トゲキッスの女の子だ。
 トゲキッス――実際戦ったことはないけど、恐ろしい強さを誇るポケモンだって話をカイリキー姐さんから聞いたことがある。
 秘密の力を持っていて、戦慄を生み出す空気の流れを操り、神の如き速さで敵を倒す。
 更に僕と同じ波動弾を使いこなす虐殺の天使……なんて言ってたけど、こんな子がそんなに凶悪なポケモンだとは思えない。
 なんていうか、笑顔がかわいい。こんなかわいい子なら、一度会ったら忘れないと思うけどひかえしつで一緒になったことなんてない。なんだよ、新入りはそっちじゃないか。
 などと思っていると、彼女は僕の姿をまじまじと見るや否や大声でまくし立ててきた。
「あー! あなた男の子じゃない! ここは女の子だけのボックスなのに!」
 え? ええ? この子、今なんて言いました?
「どういうこと? ご主人様の間違いか何か? 早く気づいてもらって出てってよね!」
 ……一瞬でもかわいいなんて思った僕がバカだったみたいだ。何この凶暴女。
「こっちだって早く出て行きたいよ。でも、自力でどうにも出来ないんだから仕方ないだろ」
「ふん、まったく、何でこんなことになったのかしら。
 いい? みんなにやらしいことしたり口説こうとしたり、『俺ハーレム完成!』とか考えたら絶対に許さないんだからね!」
 キッスは僕を思いっきり睨んでからその場を飛び去った。何でこんなことになったのかなんて、僕が知りたいよまったく。
 ため息をついてからあたりを見渡すと、今の騒ぎを聞きつけた他のポケモンたちが僕の周りに集まりはじめていた。さっきのキッスの言葉通り、本当に女の子しか居ないみたいだ。
 さてどうしよう。困惑するしかないじゃないか、こんな状況じゃ。
「あ、本当に男の子がいる。
 マスター案外ドジっ娘だから間違って入れられちゃったのね」
 しどろもどろになりかけていた僕に話しかけてきたのはラッキーだった。あ、いや、運がいいんじゃなくて、ポケモンのラッキー。
「あの、ごめんなさい。御主人が気づくまでおとなしくしているんで」
「別に謝らなくてももいいよ。でも、ここの娘たちは男の子に慣れてないから、珍しいものを見る目で見られちゃうかもしれないけど」
「はぁ……」
 先が思いやられる。ご主人、早く気づいてください。
「まあ、わからないことがあったらなんでも訊いてちょうだい」
「はい。ありがとうございます」
 よかった。親切ないいポケモンだ。こういうポケモンばかりならいいんだけど、さっきのトゲキッスみたいなのもいるんだろうなぁ。
「とりあえず君、疲れてるみたいだから少し休んでおくといいよ。何か飲む? っていってもミルタンクさんのモーモーミルクしかないんだけどね」
 それって……、搾るの?
「あ、いや、大丈夫です」
「遠慮しなくてもいいよ。ミルタンクさんのミルクおいしーよ?」
 でも、搾るんでしょ?
「いやほんとに、喉渇いてないですから」
「そう? じゃあ飲みたくなったらいつでも言ってね。ミルタンクさんのお願いして搾ってくるから」
 やっぱり搾るんだ……。
「じゃあわたしはミンナに事情を説明して回ってくるから、また後でね。ゆっくり休んでて」
「はい……」
 ラッキーさんが去った後、僕は脱力してその場に座り込んでしまった。そこにまた、新たにポケモンがやってくる……。
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