ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ドロの使い魔-6

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匿名ユーザー

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 貴族狙い専門の盗賊、「土くれ」フーケはこの学院に潜入してからの日課である宝物庫のほころび探しを今日もやっている。

 強力な固定化がかかっているとはいえ、物理的な衝撃への魔法防御はされてないまでは判明したものの、壁の厚さ自体が数メイルもあるせいでなかなか難しい。
 破壊するだけなら破城槌を練成して、得意のゴーレムに振り回させればいいのだが、中のお宝が無事ではすまない可能性が高いためなるべくやりたくない。
 先週の決闘騒ぎで塔の一部が崩れたときは狂喜乱舞したが、
 よく確認すると微妙に宝物庫からずれていて結局涙をのんだ。
 いい加減潜伏も疲れてきた、何とかしなければ……
 そうだ、力の掛け方を変えればどうだろうか。



「ねえ、セッコ。」
「何だ」
「何で昼あれだけ厳重に縛ったデルフリンガーの鞘が外れてるのよ。」
「うるせー娘っ子、あんな縛られたら苦しくて生きていけねえや。」
 ああもうウザい!
「情報が得られねーかな、と思って」
「この様子じゃ全く期待できないんだけど。
 だってさっきから何聞いても、わからん・覚えてねえ ばっかりじゃない。
 固定化がサビる程の年月経過してるくせに記憶喪失とか、本当に使えないわね。」
「覚えてねーもんは仕方ねえだろが!なあ相棒!」
「それ言われたらオレも記憶喪失なんだけどよおー。」

 あ゙―そういえばそうだった……
「まあ若いんだから気にすることないわ。」
「わかった。」
「少しは気にしろよ相棒!」

「少なくともあなたが言うセリフじゃないわよ!」
 とりあえず鞘で思い切りぶん殴る。
「プゲッ」
 相変わらず叫び声が汚いわね。超硬いし、殴られ屋でもやらせようかしら?
「ひでー ひでーよ!」
 本当に使えないわこいつ。
 記憶を取り戻す魔法とかないのかしらね、喋らせる薬や魔法はアホほどあるのに。
 とりあえずデルフリンガーを鞘にしまう。
 セッコが嫌そうな顔をしたので、縛るのは止めといた。わたし優しいわね。

「ルイズ」
「なによ。」
「変な音がするぜぇ」
「何も聞こえないわよ。」
「オメー耳が悪いな」
「あなたが良すぎるのよ。で、どんな音?」
「ドリルが回ってるみてーな感じ。」
「どりるって何よ。」
「壁とか鉄板とか硬い物に穴あけるもの」
「聞いたことないわね。」
「この辺には無いんじゃねーの?多分」
「なんで無いものの音がするのよ。」
 ああ、気になるわ

「見に行かない?案内して。」
「わざわざ行くのかよぉ」
「そもそもあなたが変って言ったんじゃない。行くわよ。」
「……わかった。」



 所変わって女子寮5階。
「タバサの方から私を呼ぶなんて珍しいわね。」
 本当に珍しい。
「ルイズ・ヴァリエールの使い魔を調べて欲しい」
「は?」
「気になる。部屋、隣。」
 タバサってばあんなのがいいのかしら?
 ま、外見以外はタバサと似てなくもないかもしれないけれど。ご飯優先とか。
「応援するわよ。」
「勘違い。」
「あ、能力ってことね。せっかくタバサにも春が来たと思ったのに、残念。」
 相変わらず固い子ねぇ。まあそこがいいって人もいるかもね。

「キュルケ。」
 突然タバサが私を引っ張る。
「ちょっと、どうしたのよ?」
 さらに引っ張られる。
「な、なによあれ……」
 窓から見えたその光景は、いろいろと不自然だ。
 まず巨大ゴーレムが学園内に居る時点でおかしい。
 宝物庫ってあの辺りだったかしら?泥棒?

 それはまだいい。
 そのゴーレムは遠目では微動だにしてないように見える。
 いくら巨大ゴーレムとはいえ、あの宝物庫の壁は簡単には破れないはず。
 壁を破るならもっと激しく動いているはずだし、
 既に首尾が終わっているならあんな目立つ物を残す理由がない。
「変。」
 そうね、どう考えてもおかしいわよね。
「どうする?」
「見に行く。」
 そう。



 いけるとは思った。我ながら素晴らしい思い付きだったわ。
 でも……でもねえ……
「うふふふふふ」
 まさかここまで効果抜群なんてねえ……もしかして私って天才?
 これ、もしかして歴史に残るんじゃないかしらあ?
 回転を、力に!一点集中!!!
 着実に宝物庫の壁は削れていく。
 もう少しで[破壊の杖]に手が届く!



 建物から出てきたルイズたちの見たものは。
「な、なによあの巨大なゴーレム」
「やっぱドリルの音だったじゃねーか」
 ゴーレムの影に人がいるみてーだな、女か?
 ルイズに言ったら追いかけかねないし黙っとくかぁ。
「おでれーた……」

 左腕を高速回転させながら宝物庫の壁に突っ込んでいる、
 身長30メイルはあろうかというゴーレムだった。



 タバサとキュルケはシルフィードに乗り、上空からそのゴーレムを観察していた。
「でかいわね」
「フーケ?」
「タバサもそう思う?」
「かなり」
「ところで、あのゴーレム崩れ始めてない?」
「……」

 ヤバい、人の気配がしてきたわ、急がないとねえ。
 ん、手ごたえが変わった!貫通したかしら?

 すばやく宝物庫に滑り込み、犯行声明を刻む。
「破壊の杖、確かに領収いたしました。土くれのフーケ。」
 次に壁を破るときも、あの技を使うことにしよう。
 なんか名前でもつけてやろうかしらね? 自分の発想に乾杯。
 そんなことを思いつつ、フーケは闇の中へ消えていった。

「と、止めなきゃ!ファイアボール!」
 よし、命中!
 失敗の爆発だけど。
「「おい」」
「何よ!ファイアボール!」
 ああ、外れたわ。 爆発だけど。

「よく見ろ、何もしねーでも崩れてるぜぇー」
「え?」
「え、え、ええ!」
 ゴーレムが こっちに向かってくる。
 いや、こっち側に向かって崩れてくる……
「きゃああああ」
 ドビチャャアアアア



「うおおおわあ、っとと」
「危なかったなー相棒。」
「うおう」
「なあ、相棒、相棒の主人はどこ行った?」
「おあ」

「ちょっと……早く助けなさいよ……」

 先走って突撃したルイズは、崩れてきたゴーレムの土をもろに被って首まで埋まっていた。

「無様ね、ルイズ。」
「きゅいきゅい!」
「……」

「なんであなた達がここにいるのよ。
 私を助けにきたんなら早く掘り出してちょうだい。」
「通りがかっただけよ。」
「誰でもいいから助けなさいよ!セッコもボーっと見てないで!」

「アレ……」
 セッコが宝物庫の方を指差している。
 人間は首を180度回せないのよ、見えないわ。死ね。

「あの宝物庫の壁があんなになるなんて、何をしたの?」
「最低でもトライアングル。」
「いいから早く助けてよ!」
 何とか掘り出してもらって宝物庫を見る。
 壁が、円形にくりぬかれていた。



 翌朝。

 トリステイン魔法学院では、昨夜からの蜂の巣をつついた騒ぎが続いていた。
 何せ、秘法の破壊の杖が、ゴーレムで壁をぶち破るなどという無茶な方法で破られたのである。
 宝物庫には、学院中の教師が集まって口々に好き勝手なことを言っている。

「土くれのフーケ!貴族の財宝を荒らしまくっているとか!
 学院にまで手を出すとは、なんと不遜な!」
「衛兵は一体何をしていたんだね?」
「いや当直は誰だ!」
「寝てたわ!ああ寝てたわよ!でもあんたも一昨日当直サボって
 酒かっくらってたじゃない!人の事言えるの!」

「あまりわめき散らすでないぞ。ハッキリ言って油断してた全員が悪いわ。
 わしも含めてのう。」
 学院長老オスマンの登場により、ようやく静寂が訪れた。
「で、犯行の現場を見ていたのは誰だね?」
 オスマン氏が尋ねる。
「この3人です」
 コルベールがさっと進み出て、自分の後ろに控えていた3人を指差した。
 ルイズにキュルケにタバサの3人である。
 デルフリンガーとそれを持ったセッコもそばにいたが、
 というか最初に異常に気づいたのはセッコなのだが……
 やはり「使い魔」は人として数えられないらしい。

「ふむ……君たちか。」
 オスマン氏はふと興味深そうにセッコを見つめた。

 なんだぁ?このジジイホモの気まであんのか?
 口には出さないことにして、少し睨みつけておく。

 オスマン氏が視線を外し、再び口を開く。
「詳しく説明したまえ。」
 ルイズが進み出て見たままを述べた。
「あの、大きなゴーレムが壁に穴を開けていたんです。
 近づいてみたときには既にモノは盗まれた後みたいで、
 ゴーレムは崩れ始めていました。」
 後ろで2人と1匹?と1本がうなずく。
「黒い服を着た人影をチクリとだけ見たぜ。」
 セッコが補足した。

「ふむ……」
 オスマン氏がヒゲをねじって遊んでいる。
「後を追おうにも、手がかりナシかのう……」
 それからオスマン氏は、気づいたようにコルベールに尋ねた。
「ときに、ミス・ロングビルはどうしたね?」
「それがその……朝から姿が見えませんで。」
「この非常時に、どこに行ったのじゃ。」
「どこでしょう?」

 そんな風に噂をしていると、ちょうどミス・ロングビルが現れ、後ろから声をかけてきた。
「朝ここに来る前、フーケについて調べろと私に言ったのはオールド・オスマンじゃありませんか。今まで聞き込みしてたんですよ!」

 コルベールがかわいそうな目でオスマン氏をチラ見し、そして視線をそらした。
「あ、ああ、そういえばそうじゃったの。それで首尾はどうじゃね?」
「はい、フーケの居所がほぼ分かりました。」

「な、なんですと!」
 コルベールが、素っ頓狂な声を上げた。
「誰に聞いたんじゃね?ミス・ロングビル。」
「はい、近在の農民に聞き込んだところ、
 近くの森の廃屋に入っていった黒ずくめのローブの男を見たそうです。
 おそらく、彼はフーケで、廃屋はフーケの隠れ家ではないかと。」
 オスマン氏は、目を鋭くして、ミス・ロングビルに尋ねた。
「そこは近いのかね?」
「はい、徒歩で半日、馬で4時間といったところでしょうか。」
「すぐに王室に報告しましょう!山狩りです!」
 コルベールが叫んだ。
 オスマン氏は首をひねると目をむいて怒鳴った。さっきまでとはえらい違いだ。
「ばかもの!王室なんぞに知らせていたらその間に逃げられるわ!
 その上……宝物庫が破られたなど、魔法学院の立場が更に悪くなる、
 冗談ではない!当然我らで解決する!」
 ミス・ロングビルは微笑んだ。まるでこの答えを待っていたかのように。
「では、捜索隊を編成する。我と思う物は、杖を上げよ。」



「なあー、ルイズよお、何でわざわざ志願したんだあ?」
 ミス・ロングビルが引く馬車の中で、セッコはルイズに訪ねた。
 タバサとキュルケも首を縦に振り、デルフリンガーがカタカタと揺れる。
「だって、誰も挙げなかったじゃない。」
「確かに学校の先生なんて信用できねえけどよおー」
 デルフリンガーが横から口を挟んだ。
「とりあえず娘っ子はあの二人に礼を言うべきだと思うぜ。」
「うるさいわね剣の癖に!あとせめて名前で呼びなさいよ!
 タバサはともかく、ツェルプストーに礼なんて……っ!」

「オレにはスゲー仲よさそうに見えるけどなあ。」
「んだ」
 デルフリンガーがセッコに頷く。
(なーデルフリンガー)
(何だ相棒。)
(あの人影は確かに女だと思ったんだが、[フーケ]って男なのかぁ?)
(俺様って目はあまりよくねーんだよ。)
(使えねーなあオメー)
(おめーこそ剣に視覚を期待すんじゃねーよ馬鹿野郎。)



(ねえ、タバサ、あんたもなんで志願したのよ。)
(気になる)
(ルイズが?そもそもタバサとあいつが知り合いだったことに驚いたけど。)
(違う)
(ああ、大体分かったわ。あんまり危ないことしちゃダメよ。)

 タバサとキュルケがこそこそ話している。
 なんだかわたしだけ仲間外れみたいじゃない。まったく。
 そもそもあの状況で誰も志願しない先生達ってのはどうよ。
 ああもう。着くまで寝とこうかしら。



 所変わって学院長室。
「オールド・オスマン?」
 コルベールが尋ねる。
「彼女達を行かせてよかったのですか?」
「仕方ないじゃろう。他に誰もおらんかったんじゃし。
 ま、生徒とはいえミス・タバサとミス・ツェルプストーはトライアングルじゃし、急襲すれば大丈夫じゃろ。
 それに、あの使い魔の印が本物かどうかも確かめたいんじゃ。
 もし、[ガンダールヴ]そのものなら単体でもフーケごときに遅れを取ることはあるまいよ。」
 コルベールの顔は浮かない。
「まあ、そうですが……」
「わしは学院を離れられんし、コルベール君が戦いたくないというのではなあ」
「ううむ……しかし……」
「何か気になることでもあるのかね。」
「あの宝物庫の壁ですよ。フーケはラインかトライアングルという説が一般的ですが……あの穴はどうやってあけたんでしょう?」
 宝物庫の壁にはスクウェアの「固定化」が何重にもかかっている。
 ゴーレムでぶん殴るにしても、あんな綺麗な穴になるわけがない。

「いくらなんでもスクウェアってことはないと思うんじゃが。」
「いや、それはそうなんですが。」
 これ以上オスマン氏に愚痴を言っても始まるまい。
 コルベールは学院長室を後にした。




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