ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

『女教皇と青銅の魔術師』-1

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『女教皇と青銅の魔術師』



某教師の日記

○月○日
先日手に入れた東洋の海草から抽出した秘薬の成果が出たのか、頭皮がむず痒い。
大枚をはたいた甲斐があった。
この海草成分の何が効いたのかを研究すれば、さらなる成果を生み出せるだろう。
淡水で育ち養殖が簡単なものから抽出できれば、この薬だけで巨万の富を築ける。
東洋の生物図鑑のセットを経理に陳情。最優先としておく。
あと、本日は恒例の春の使い魔召喚の日であったが、平民を呼び出した生徒が二人出た。
ルーンが両者独特であった。これも今後の研究対象にメモしておこう。


ギーシュ・ド・グラモンは武門の生まれである。
父も兄も立派な騎士であり、ギーシュは彼らに並び立つべく努力していた。
しかし現在の彼はドットメイジ。土の最底辺のメイジでしかない。
一応それなりの術は使えるが、戦力としてはまだまだ未熟。
親兄弟に認められる為にはもっと強力な、戦場でも役に立つほどの力が要る。
認められなければ?
―――知れたこと。血縁上価値ある人質として適当な人脈の娘をあてがわされ、ただの種馬扱いにされる。
他の貴族はいざ知らず、グラモン家は実力でその地位を掴み取った貴族なのだ。
力無い身内は、足手まとい。
だから彼は、使い魔の儀式には悲壮な決意をもって(外面は何事もないかのように振舞いつつ)挑んだ。
そして…

「はい?」

ギーシュは困惑していた。
召喚の儀式自体はうまくいった。呪文もつっかえなかったし、手応えだってあった。
一ヶ月前からの特訓(もちろん皆には秘密だ)は無駄ではなかったとほっとしたくらいだ。

―――なのに何故、目の前には
顔面に重傷を負った女が、倒れているのか―――

…級友は静まり返っている。リアクションに困っているようだ。

(ひょっとしたら僕がこの平民に大怪我させたって思われてる?)

「コルベール先生!召喚に失敗したようなのでもう一度やらせて下さい」

とりあえず怪我人を仰向けにしながら云う。目は開いているが意識は無いようだ。

(うわこの平民歯をボロボロに砕かれてる…グロい…)

友人がおっかなびっくり近づいてきて覗き込む。

「…うわ」「…ねえギーシュ、それ生きてるの?」「ぅぇぇ(嘔吐中)」

泣きたくなった。
誰も好き好んでこんなの召喚しねえよと言おうとしたら、コルベールU字禿から駄目押しが来た。

「ダメだ。君のやった儀式には何も問題は無かった。それは君が正しく召喚しそれに応えた使い魔だ。」

「…(心中罵詈雑言の嵐一分間)わかりました先生。では…契約します…」

口がボロボロなので上唇だけにキスをする。

(うう…なんでこんな目に…後でモンモランシーに口直しを…ってアレ?)

ルーンが刻まれていく最中もその女は反応を示さなかった。
精神リンク確立。呼びかけるも思考の反応なし。やっぱり意識が無いのか…
五感リンク確立…ってしぎゃぁぁぁぁぁ!

当然、ダイレクトに重傷の痛みを共有してしまい、気絶した主と使い魔は共に救護室に運ばれる羽目になった。

(コルベール…知っててやったな…覚えてろ…育毛剤に脱毛剤入れてやる……)

この後、ゼロのルイズが再び平民を召喚し契約したがギーシュがそれを知るのは翌日のことであった。

★☆

召喚儀式より数時間後―――
治癒魔法で怪我を完全に治癒しても、使い魔はほとんど反応を見せなかった。
名前だけは何とか聞き出せた。『ミドラー』というらしい。
正直、呼び出したのがフレッシュゴーレムやできたてゾンビの類じゃないと判ってほっとしたギーシュであった。
しかし…

(精神リンク、五感リンク共完全に繋がっている。意思ある生き物なら多少の抵抗はあるのにそれすら全くない)

(何か黒いような蒼いような感情が感じられるけど…絶望かな、これは?)

(あの大怪我とこの状態から考えると、どこかの間諜が捕まって拷問を受けていた、ってところか。)

治療してみれば割と整った顔立ちをしている。
怪我に気を取られて気付くのが遅れたがよく見れば服装は踊り子のようだ。
当然彼はそんないかがわしい場所には入ったことは無い。服装をまじまじと見てしまい顔を赤らめたくらいだ。
とりあえずありきたりの服を着せておく。

(間諜ならそれなりのスキルはあるだろうし、意思が回復するまでは我慢するか…)

何とか自分を納得させる。これでただの平民だったらというのは考えない事にして。

「先生、僕の使い魔ですが回復するまで病室に置いてもらってかまいませんか?」

「かまいませんが、ちゃんと世話をしに来るように。明日以降はきちんと連れ回して外界に適応させる事。」

「はい。じゃあお願いします。」

(ああ、できれば見栄えのするグリフォンとかの幻獣がよかったなあ。)

などと暢気な愚痴を漏らしながら自室に帰る。
彼は、自分が呼び出した者がどれだけ危険な存在か全く理解していなかった。

★☆

召喚翌日 ギーシュの日記

今日は人生最大の厄日だった。
まず最初の講義に使い魔を連れて行けなかったせいで、皆から笑いものになった。
よりによってゼロのルイズも同じ平民を召喚していた(しかもこっちは健康体だ!)ため、同レベル扱いされた。
何たる屈辱か。とりあえず嘲笑した奴の名前はちゃんとメモしておく。

その後食堂で、モンモランシーに派手に誤解された。
下級生のケティと二股かけてると勘違いしたらしい。完全に濡れ衣だ。
情緒不安定になってた後輩の気晴らしに付き合って遠乗りしただけなのに、なんでこんな目にあうのか。
まあその焼きもちが彼女の可愛いところでもあるのだが、公共の面前であの仕打ちはないんじゃないかモンモランシー。

あげく、うっかり話の流れと場の雰囲気でルイズの使い魔と決闘するハメになった。
なんとかこっちが話の落とし所を探して会話を打ち切ろうとしてたのに、あの馬鹿がつっかかってきて引けなくなった。
何も能力がないならせめて社会常識というか会話のマナーぐらい教えとけよルイズ…
なんで僕が他人の使い魔に貴族への服従を躾けなきゃならないのか。

そして最後に

『その使い魔との決闘に負けた』

あの使い魔は残像ができるほどのスピードで動き、僕のゴーレムを両断するほどの剣術を見せた。
悪夢だ。
これで僕はこの学年で(いや、学園全体で、か?)ぶっちぎりの最下位メイジになった。
直前にモンモランシーが誤解したおかげで、彼女まで評価を下げることにならなかったのが唯一の救いか。
死にたい。

★☆

召喚二日目

昨日ギーシュは人生最大の厄日と日記に書き連ねていたが、それは昨日までの人生においての最悪であった。
そして今日、その記録は更新されることになる。

朝、使い魔を伴って授業に出る(朝飯は抜いた。)
教室に入った瞬間、皆の視線が一斉にギーシュと使い魔に向けられた。

(うう…視線が痛い…)

何やらぼそぼそと聞こえてくる全ての会話が自分の噂話のようにギーシュには聞こえてくる。
ミドラーは他人の視線にも全く反応していない。
ため息を付きつつ彼は図書室から借りてきた「精神と魔法」でなんとか対処法を見出そうと奮闘していた。

昼飯時、三年生の三人組がわざわざギーシュのところへやってきた。
教師の遠縁の下級貴族だ。

「ぎゃあーはっはっは、見ろよ相棒!本当に平民召喚してやがるぜぇ!」

「まあ平民に決闘申し込んで返り討ちにされる奴にゃあ似合いジャネーノ?」

「ああ、ガキくせー。」

(こいつら、まだ昔のこと根にもってやがる…)

ギーシュはうんざりして無視を決め込む。
この三人が下級生の女子生徒にからんでいた所を、ギーシュが横から(予定があった様にあらわれて)女性を連れ出したのが確執の始まりであった。
女性には感謝されたが、モンモランシーに誤解されて危うく刺される所だった。
ギーシュは『美しいモノは相応の扱いを受けるべきである』という信条を貫いただけだったのだが…

「ああ!こっちを向けよテメーッ!」

「おいこの女白痴じゃね?」

何も喋らない使い魔の頭にソースをかけながら取り巻きが喋る。
そして致命的な一言を親分格が言ってしまう。

『まあ、こんな奴の主じゃあ知れたモンだろーなぁ!』

ソースをかけられたミドラーが何か反応を示すかと精神リンクを張っていたギーシュは、絶望や後悔を表す黒と蒼の精神の色が一瞬で怒りの赤一色に変化するのを感じた。
あまりの感情の波に引きずられてうっかり荒ぶる鷹のポーズを取ってしまったくらいだ。
そして彼は、自分の使い魔の意思ある言葉を初めて聞いた。

「DIO様のことを、侮辱したなッ!」

その場に居た全員が(誰?)と感じた。
しかし次に発生した事態のために誰もそんなことを構っていられなくなった。

床の石畳から、妙にカラフルな巨大な鉄の塊が飛び出して三年生を空中にふっ飛ばしたのだ。

「でェーッ!」「あ、兄貴!」

慌てて杖を構え…る前に、残り二人の足元から巨大な鉄のアームが瞬時に生えて二人を壁まで叩き付けた。
もちろん、途上にある豪勢な昼飯を全て巻き込みながら。
その時、その場に居た全ての生徒、全ての教師がミドラーを注視し、同時にほぼ同じ事を考えた。

(魔法を使っているッ!)

(あの女、杖なしで魔法を!)

(先住魔法か!)

天井に叩きつけられた最初の男が、静寂の中べちゃりと床に顔面から着地する。
それと同時に
悲鳴と怒号が交錯し、学院始まって以来の危険な使い魔がその猛威を奮い始めた。

フォークが踊るように飛ぶ
針金が束ねられたような縄が壁から生えて先生を団子のように縛り上げる
石畳から生えたトラバサミが生徒の足に噛み付く
三年生が呼び出した銅のゴーレムが、数十本の銛で壁に磔にされている

ギーシュは自分の見ているものが信じられなかった。
明らかにこれは―――魔法だ。
スクウェアクラスの速さと強度を誇る、土の練成だ。
しかも杖を持っていない。
もしかして自分は、捕らえられていたエルフの間諜を呼び出してしまったのではないか?

(止めなきゃ)

がくがくと震えながらギーシュはバラを構える。

(止めないと皆殺される)

(ただのメイジがエルフに勝てるもんか教師だって無理じゃないか)

(止められるのは主のぼくだけででも怖い強制力なんてないし怖いそもそもこのエルフぼくを見てないし怖
い怖い怖い―――)

ミドラーは飛ばそうとしていた銛を空中で急停止させた。
眼前に、バラの造花をこちらに捧げる様にした子供が飛び出してきたからだ。
記憶はおぼろげにしか無いか、たしかこの子は…怪我を治してくれたような…恩人?
とりあえずこいつは敵ではないと判断する。

「隠れてなボウヤ」

「ららら乱暴はやめたまえ!」

ただの馬鹿のようだとミドラーは判断を下方修正し、とりあえず排除しようと―――

空気が震えるような凄みを食堂の入り口に感じ、反射的に身構えてそちらを見る。
長い白髪、床に届こうかとするほどの白い髭。
横一文字に構えた杖。
人の形をした悪鬼がそこに居た。

「やってくれた喃…」

妙なテンションでオールド・オスマンが囁く。
ミドラーは無言。両者15メイルほど離れて対峙する。
間に挟まれたギーシュはただ、

(空間が軋むようだ…)

と、半ば死を覚悟していた。

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