++第五話 メロンとメイド++
ルイズがめちゃくちゃにした教室の片付けが終わったのは、昼休みの前だった。
魔法を使わず、というか使えずに片付けるので、作業はなかなかはかどらない。おまけに、働くのはほとんどが花京院で、ルイズはいくつかの机を拭いただけだ。
不満ではないといえば嘘になるが、花京院はだんだんとルイズの性格を把握していた。
だから教室を掃除すると決まったときに、諦めている。
魔法を使わず、というか使えずに片付けるので、作業はなかなかはかどらない。おまけに、働くのはほとんどが花京院で、ルイズはいくつかの机を拭いただけだ。
不満ではないといえば嘘になるが、花京院はだんだんとルイズの性格を把握していた。
だから教室を掃除すると決まったときに、諦めている。
着替えるために部屋に戻り、それから二人は食堂に向かった。
授業が終わってから一言も喋らないルイズを横目に、花京院は考えていた。
授業が終わってから一言も喋らないルイズを横目に、花京院は考えていた。
魔法の成功の可能性、ゼロ。だから、ゼロのルイズ。
実際に、ルイズは魔法に失敗して机を爆発させていたから信憑性はある。
しかし、魔法が全く使えないわけでもないだろう。
もしもそうだったら彼女は貴族を名乗れないだろうし、爆発も起きない。
だとしたら、彼女はどれぐらい魔法を使えるのだろうか。
これから先、使い魔としてやっていくためには情報が必要だ。
実際に、ルイズは魔法に失敗して机を爆発させていたから信憑性はある。
しかし、魔法が全く使えないわけでもないだろう。
もしもそうだったら彼女は貴族を名乗れないだろうし、爆発も起きない。
だとしたら、彼女はどれぐらい魔法を使えるのだろうか。
これから先、使い魔としてやっていくためには情報が必要だ。
「ルイズ。一つ質問があるんだが、君はどんな魔法が使えるんだ?」
「……」
「僕を召喚できたから召喚の魔法は使えているようだし、爆発の魔法も使えていた。他に使える魔法はあるのかい?」
「…………」
「……」
「僕を召喚できたから召喚の魔法は使えているようだし、爆発の魔法も使えていた。他に使える魔法はあるのかい?」
「…………」
ルイズはさっきからずっと黙り込んでいる。
魔法に失敗して落ち込んでいるんだろう、花京院はそう思った。
魔法に失敗して落ち込んでいるんだろう、花京院はそう思った。
「土属性の魔法は苦手そうだったからな。なんとなく風か水って感じがするが?」
「……」
「少しは答えてくれ。他に使える魔法がないってわけじゃあないだろう」
「……」
「少しは答えてくれ。他に使える魔法がないってわけじゃあないだろう」
花京院が何を聞いても、ルイズは何も答えなかった。
いつものルイズなら何か文句を言ったり、暴力に訴えたりしそうなものだ。
無言を貫き続けるルイズは無気味だったが、気にしなかった。
だから、花京院は気付かなかった。
ルイズの右手が白くなるほど固く握られていることに。
いつものルイズなら何か文句を言ったり、暴力に訴えたりしそうなものだ。
無言を貫き続けるルイズは無気味だったが、気にしなかった。
だから、花京院は気付かなかった。
ルイズの右手が白くなるほど固く握られていることに。
食堂につくと、花京院はルイズのために椅子を引いた。
ルイズは相変わらず無言のままで椅子に座る。
ここまでは今朝の食堂と変わらぬ光景だ。
でも、少しだけ違った。
ルイズは相変わらず無言のままで椅子に座る。
ここまでは今朝の食堂と変わらぬ光景だ。
でも、少しだけ違った。
「僕の朝食は?」
床に置いてあるはずの朝食が無かった。
「……そんな物があると思うの? あんたに?」
ルイズは震える声でそう言った。
その声に花京院は聞き覚えがあった。
その声に花京院は聞き覚えがあった。
中学生の頃、先生に呼び出された時のことだ。
話の内容は花京院の生活態度について。もっと明るくしなさい。もっと友達に合わせなさい。いい加減、うんざりだった。
話を聞き流している花京院に業を煮やしたらしく、次第に教師は大声になってきた。
あまりにもうるさいので、「静かにしてください」と花京院が言った直後、教師は殴りかかってきた。
スタンドを使うまでもなく、花京院は当て身で教師を気絶させた。
話の内容は花京院の生活態度について。もっと明るくしなさい。もっと友達に合わせなさい。いい加減、うんざりだった。
話を聞き流している花京院に業を煮やしたらしく、次第に教師は大声になってきた。
あまりにもうるさいので、「静かにしてください」と花京院が言った直後、教師は殴りかかってきた。
スタンドを使うまでもなく、花京院は当て身で教師を気絶させた。
ルイズの声はその教師の声と似ている。
最後に殴りかかってきたとき、教師が発した声と同じ震え方だ。
それから分かること。すなわち、怒り。
しかし、花京院にはなぜルイズが怒っているのかわからない。
最後に殴りかかってきたとき、教師が発した声と同じ震え方だ。
それから分かること。すなわち、怒り。
しかし、花京院にはなぜルイズが怒っているのかわからない。
「君は何を怒っているんだ? 僕が何かしたのか?」
「うるさい。そもそも、ここは使い魔が入っていい所じゃないのよ。早く出てって! 出てってよ!」
「うるさい。そもそも、ここは使い魔が入っていい所じゃないのよ。早く出てって! 出てってよ!」
ルイズはがむしゃらにそう繰り返した。
突然の暴挙に花京院は戸惑った。そして、理不尽だと憤った。
突然の暴挙に花京院は戸惑った。そして、理不尽だと憤った。
……怒るなら理由を言えばいい。納得できるなら謝るし、必要なら土下座でも何でもしよう。
でも、理由を言わなければどうしようもない。謝ることも、文句を言うこともできない。
それは卑怯だ。
でも、理由を言わなければどうしようもない。謝ることも、文句を言うこともできない。
それは卑怯だ。
頭に文句が次々に浮かび上がってくる。それは正論で、道理としてはこちらの方が正しい。
だが、花京院の冷静な部分は言っていた。彼女とここで関係を切るのはまずい。まだ帰る方法も見つけていないのだから、と。
花京院は文句の数々をぐっと飲み込んで、一言だけ言った。
だが、花京院の冷静な部分は言っていた。彼女とここで関係を切るのはまずい。まだ帰る方法も見つけていないのだから、と。
花京院は文句の数々をぐっと飲み込んで、一言だけ言った。
「それで君は満足なのか」
ルイズは雷に打たれたように一瞬はっとした表情になった。
そして、何か言おうと口を開くが、そこから出る言葉は無い。
花京院はルイズに背を向けると、そのまま食堂を去っていった。
そして、何か言おうと口を開くが、そこから出る言葉は無い。
花京院はルイズに背を向けると、そのまま食堂を去っていった。
食堂を出て、しばらく歩いたところで、ぐぅとお腹が鳴った。
お腹に手をあて、花京院は顔をしかめる。
お腹に手をあて、花京院は顔をしかめる。
「少し足りなかったかな……」
昼食が無かったのに加え、朝食の少なさも影響していた。
いくら華奢な身体をしているとは言え、健康な高校男児の朝食が固くてまずいパンとスープだけでは足りるはずがない。
かといって、花京院に食事の当てはない。
花京院が困り果てていると、誰かの声が聞こえた。
いくら華奢な身体をしているとは言え、健康な高校男児の朝食が固くてまずいパンとスープだけでは足りるはずがない。
かといって、花京院に食事の当てはない。
花京院が困り果てていると、誰かの声が聞こえた。
「どうなさいました?」
声のした方を向くと、そこには一人の少女がいた。
大きな銀のトレイを持ち、カチューシャで黒髪をまとめた素朴な感じの少女だ。メイドの格好をしていて、心配そうな顔で花京院を見つめている。
大きな銀のトレイを持ち、カチューシャで黒髪をまとめた素朴な感じの少女だ。メイドの格好をしていて、心配そうな顔で花京院を見つめている。
「なんでもないよ……」
平然とした顔で、花京院は手を振った。
少女は花京院の顔を覗き込み、
少女は花京院の顔を覗き込み、
「あなた、もしかしてミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう……」
「知ってるのかい?」
「ええ。なんでも、召喚の魔法で平民を呼んでしまったって、噂になってますわ」
「知ってるのかい?」
「ええ。なんでも、召喚の魔法で平民を呼んでしまったって、噂になってますわ」
少女はにっこりと笑う。
その素朴な笑みに花京院は少し見とれてしまった。
その素朴な笑みに花京院は少し見とれてしまった。
「ひょっとして君も魔法使い?」
「いえ、私は違います。あなたと同じ平民です。貴族の方々のお世話をするために、ここでご奉公させていただいてるんです」
「いえ、私は違います。あなたと同じ平民です。貴族の方々のお世話をするために、ここでご奉公させていただいてるんです」
平民じゃなくスタンド使いだったが、説明してもわからないだろう。
花京院は自己紹介していないことを思い出した。
花京院は自己紹介していないことを思い出した。
「そうか……。僕は花京院典明。よろしく」
「カキョーインさん? 変わったお名前ですね。私はシエスタっていいます」
「カキョーインさん? 変わったお名前ですね。私はシエスタっていいます」
シエスタが片手を差し出してきたので、花京院もそれを握り返した。
その時、運悪く花京院のお腹が鳴った。
その時、運悪く花京院のお腹が鳴った。
「お腹が空いてるんですね」
「実はそうなんだ……」
「実はそうなんだ……」
シエスタは思案顔で、少しの間沈黙した。
「あの、今お時間はありますか?」
「ああ。特に用事はないが」
「……じゃあ、ちょっとついてきてください」
「ああ。特に用事はないが」
「……じゃあ、ちょっとついてきてください」
シエスタは歩き出した。
その行動の意図がわからず、花京院は躊躇したが付いていくことにした。
その行動の意図がわからず、花京院は躊躇したが付いていくことにした。
To be continued→