ティーネ・チェルク&セイバー◆aptFsfXzZw
……だって、キミは言っただろう。
大地に足をついて生きたい、生きて何かを残したい、と。
世界を救い、微笑みを残して消えていったおまえの未来を、
■■はまだ夢見ている。
旅はまだ終わらない。
少なくともキミの旅は。
まだ駆けるべき草原の夢が残っている。
◆
――今の己の状態に、何かが違う、という感覚が張り付いたのはいつからだっただろうか。
「ティーネ様。例の件、手配完了いたしました」
近代化の波に飲まれてしまった現代にあっても、先祖代々の大地を守護せんとする土地守りの一族。
その族長である亡き父の跡を継ぎ、総代として仲間を束ねる立場にある彼女は、齢十と少しを数えたばかりの幼童であった。
古くより大地と穏やかに共生してきた部族であったが、二度目の世界大戦と前後して、『スノーフィールド』という名の新興都市に伝来の土地を塗り潰されてしまってからは、その奪還に向けて水面下で闘争を続ける羽目となっていた。
そして一族の悲願を背負った先代の族長、すなわちティーネの父が志半ばで息絶えてしまってからは、その重荷はティーネの肩に載ることとなっていた。
一族の者からは大切に扱って貰っているとはいえ、そのような……将来を著しく縛られた立場に、今の己が在ること。そのこと自体は、何の違和感もなく受け入れられる現状認識だ。
しかし――
「……よくやってくれました」
「いいえ、大したことではありませんとも。あちらの代表とは我らの総代であるチェルク家の者が直接交渉に当たる必要がありますが、心配は無用です」
自身に代わって政治交渉を担当していた、立場上は部下となる男の報告に、ティーネは無感動な労いの言葉をかける。
感情の篭もらぬその声に、しかし以前よりの付き合いですっかり馴染んだ彼は気を悪くすることもなく、安心させるように穏やかな語調を続けた。
「あなたはその場に居てくれるだけで結構です。後は全て、我々に任せておいて頂ければ」
何気ないその宣告に。自身は、こんなにも無力でよかったのだろうかと、不意にティーネは思う。
無論、肩書ばかりは当代の族長といえど、所詮ティーネは幼い孤児に過ぎない。
部族の中でも、親類に当たる者が家政婦としての役目を果たす程度で、基本的には一人、家で過ごすばかりがティーネの日常だ。
一族としての集会や、あるいは協力者足り得る者達との会談の席に、象徴として呼ばれる程度で、族長として背負わなければならないような責務も決断も、全て誰かが肩代わりしてくれていた。
所詮子供である今のティーネに、彼らの真似事ができるわけではない。それは幼いながらにも理解している。
だからこそこうして、日々族長として必要な学びを重ね、将来に備えているわけなのだが……
だが。
自分はここまで、こうも不自由/自由であっただろうか?
そんな疑問がまず、一つ。
そしてもう一つ。何か大きなものとの繋がりを断たれたような違和感が、ティーネの裡で伽藍となって吹き抜けていた。
目に見えない、大きな何かとの繋がり。
その何かが、あるいはティーネが喪ったと感じる自由/不自由と密接に結びついた要素であったのではないかと、ふと思考が過ぎる。
その欠落が在るから、ティーネは本来の在り方と今の状態とに、齟齬を感じているのではないか?
己が感情を発露させないのは、両親を亡くしたことに塞ぎ込んでいるからではなく――もっと異なる要因で。
なのにそれを忘れているから、こうも違和感があるのだ。
でも、ならば何故忘れているのだろうか。
そしてそれは、何なのだろうか。
……そんな考えが浮かんでは、気づけば泡沫のように消えて行く。
所詮は焦りだ。考え過ぎだ。肉親を亡くしたショックから目を背けるために、今の己の状況に別の要因があると思いたがっているのだと、内なる声が言い聞かせてきて。
その声に抗うことができず、結局はこの違和感が、記憶するにも及ばないものだとティーネは誤認し続ける。
――そうして幾度となく浮かび上がっては沈んでいく引っかかりが、最後は沈むことなく残ることになったきっかけは、偶然目にしたテレビ番組の中にあった。
テレビで特集されていたのは、アメリカ合衆国という国(侵略者)の歴史。
珍しくもないような企画だが、初回放送であるそれはつまるところ最も新しい時代の知見で再編された情報だ。
敵を知り己を知れば百戦危うからず、という言葉から、ティーネは敵情視察のつもりでその番組を視聴していた。
その一分野として語られた第一次産業。ちょうど、先祖がこの土地を奪われた頃の記録映像が流された。
草原と見紛うほど、広大な土地に青々と生い茂る農作物の上を、科学技術によって大型化した収穫機(ハーヴェスター)が駆け抜けて行く。
冷淡な数字で効率化した機械の刃の上には、共生していた大地から無感情に引き抜かれた命が並んでいて。
それがまさに、共生していた大地から機械的に切り離された己と重なって――――
――そこで思い出した。
そうだ。そうだった。
彼女の故郷を奪ったはずのこの街は、しかし真実のスノーフィールドではなく。
共生し、そこに満ちる力を貸し与えてくれる大地から切り離されてしまったからこそ、幼くして一族でも優れた魔術使いであった己がこうも無力でしかなく。
昼間に顔を見せた彼も、他の大勢も。同じ土地に生きてきた、真実の朋輩ではなく。
ここは全てが偽りの、箱庭――――
その真実を、取り戻した直後。
ちょうどティーネが家に一人であることを見計らったかのように、眩い閃光を放つカードが即座に一枚、現出し。
次の瞬間、更なる輝きが爆発した。
同時。強烈な風が、室内で吹き荒れる。閃光から目を庇ったティーネの髪が乱暴に梳かれ、顔を庇うように交差した両腕の後ろにはためき。
そして。
「サーヴァント、セイバー。召喚に応じ参上した」
中からの突風で窓の開放された室内に、"それ"は姿を表した。
◆
「問おう。おまえが私の、マスターか?」
鈴の鳴るような声で、冷徹に思えるほど朴訥と尋ねてきたのは、ティーネと同じく褐色の肌の上に、幾何学的な文様を刻んだ女性だった。
その短い銀髪の長さを見誤らせるのは、花嫁を思わせる純白のヴェール。ティーネたちとは異なる民族の衣装に身を包んだその年若い女性は、感情を覗かせない緋色の瞳で、じっとティーネを眺めていた。
サーヴァント。マスター。
そして、聖杯戦争。
それらの単語の意味するところを、ティーネは月に招かれる以前より知っていた。
何故なら自ら調べ上げ、参入しようと画策していた殺し合いであるからだ。
その聖杯戦争こそが、ティーネらの土地が奪われた元凶であったから。
しかしそれは、月ではなく、地上において行われるはずだった聖杯戦争のこと。
故に、とうに決めていたはずの覚悟は、不測の事態に揺るがされていた。
それでも、何故己が感情を殺していたのか、その理由を取り戻したティーネはもう一度。心を冷たく固めて、目の前に立つ剣姫へと口を開いた。
「……我が名はティーネ・チェルク。月ではなく、地上においてスノーフィールドという名に穢された土地に生きる、一族の娘です」
「そうか」
感情を殺したままのティーネの返答を認めると、沈黙の間、無機質にこちらを観察していたセイバーも淡々と名乗りを返した――まるで、機械のように。
「我が真名は
アルテラ。匈奴(フンヌ)の末たる軍神の戦士だ」
覚えのない名前だった。
アルテラという名の女英雄は、ティーネの記憶の中に存在しない。
ならば異世界の英霊だろうかと、思考が逸れかけたところで。聖杯戦争に向けて積していた英雄譚の知識が、続いた単語に引っかかった。
史実において、女性であったという記録こそないが……それらのキーワードに該当する、近しい響きの英雄の名を、ティーネは知っていたからだ。
その者こそは、匈奴の末裔たる戦士の一人。そして軍神(マルス)の剣を武器に大帝国を成し、暴力によって他の文明を蹂躙した恐怖の大王。
「……恐れながら、貴方様はフン族の大王にあらせられますか」
「如何にも、そうだが」
セイバーは鷹揚に頷き、ティーネの推察を肯定した。
アルテラと名乗るセイバーの正体――それこそは、アッティラ・ザ・フン。
西アジアからロシア・東欧・ガリアにまで及ぶ、広大な版図を制した五世紀の大英雄。
「御身と拝謁が叶うとは、身に余る栄誉にございます」
彼女もまた王である、ということを知ると同時、ティーネは跪き、頭を垂れていた。
カテゴリーにおいては使い魔である、縁遠い異郷の英霊とはいえど――同じ星に生きた祖霊への礼節と、これより縋るべき力の化身への敬意を、心より込めて。
本来臨むはずであった聖杯戦争で、ティーネが全てを懸けようと目していた黄金の弓兵。その猛威を伝え聞くかの英雄王には及ばぬとしても――この大王もまた、人類史でも指折りの征服欲を持つであろう強大な英霊。
我欲によって簒奪された一族の土地を取り戻すためならば、それを越える力、つまりは侵略者にも勝る強欲を胸に抱き、彼奴らこそを蹂躙しなければならないと――そのように、本来のティーネは教育されてきた。
だからこそ、月はこの戦闘王を自らに与えたのだと――ティーネにはそのように理解した。
「我が望みは、祖先より続く土地を蹂躙する侵略者(魔術師)達を退けること。そのために……」
そこで、微かに言葉が詰まった。
だが、とうに覚悟は済ませているはずだと、ティーネは自らを叱責する。
「……どうか、大王の御力添えを願いたく」
「征服者であるこの私に、解放のための戦いを望むのか」
無感動にセイバーが答えた。
そのとおりだ。たとえどんな暴君であろうとも、故郷を蹂躙した外敵を更なる蹂躙を以って排除できるのならばそれで良い。
祖先から受け継いだ土地を取り戻し浄化するために、ティーネは感情を廃し、力ある暴君に己の全てを贄として差し出すつもりだった。
だが。征服者側であった当人からすれば、快いばかりとは限らない頼られ方だ。
ティーネにとっても、同胞すら奪われたこの偽りのスノーフィールドにおいては、唯一縋れる存在がセイバーだ。
他の選択肢がないとしても、仮に彼女の機嫌を損ねてしまえば、何も為せず、何も残せず終わってしまう。
心を捨てたはずの少女でも。そんな結末には、拭い難い忌避感を覚えていた。
「いいだろう」
しかしそのような懸念は、セイバーのあっさりした返答で霧散した。
「契約は成った。これより我が力、おまえに預ける」
そう言って背中を見せるセイバーに、ティーネは思わず面を上げ、問いかけていた。
「よろしいのですか?」
「私は闘う者、殺戮の機械だ。おまえが、私を使いこなせ」
あまりにも呆気なく、セイバーはティーネに全権を委任した。
譲歩ですらなく。我の強いはずの英霊が、魔術師風情、それもティーネの如き若輩に、こうも易々と従うというのだ。
胸を撫で下ろす心境だが、しかし疑念は尽きない。
セイバーの様子に、ティーネの言動に感じ入る物があったから、という気配は微塵もない。
それは人間として信頼しているというよりも、もっと別の理由。
戦闘行為に全機能を注いだ機械が、思考するソフトウェアを外部に委託しているような、そういった呆気なさだ。
「……私はただ殺すだけだ。物言わぬ機械のように、物思わぬ機械のように。考えることも、感じることも、おまえに任せる」
そんな予想を裏付けるように――あるいは念を押すように。殺戮兵器(セイバー)は、背中越しに心を捨てた少女(ティーネ)に告げる。
それは、ある意味都合の良いことだが……一方で、彼女が何を考えているのか窺い知れないということでもある。
即ち、この大英雄の力は信用に値しても、信頼することはできないのだと、ティーネは己に言い聞かせた。
……結局のところ。故郷を追われた今の己はひとりきり。
それでも一族の悲願のためには、肚の知れぬ破壊の大王をこの手で制御し、誰にも頼れないまま戦い抜かなければならないのだ、などと。
自らに無関心な契約者の白い姿を目にしながら、少女はそのように考えていた。
――その時は、まだ。
◆
――この両足が月の大地を踏みしめるのは、おそらくは初めてのことだ。
強大な英霊でありながらも、彼女はそのデータベースからSE.RA.PHに喚ばれることがなかったから。
その事実に、感慨を挟み立ち止まるわけでもなく。己の起源すら忘れた殺戮の機械として、破壊の化身として、ただ闘うのみ。
そんな、生前の在り方を無意識にトレースする己を認識しながらも。願望機を巡る争い、その真の参戦権を初めて与えられた機会に、セイバーの胸は密かに高鳴っていた。
……生前の己は、出処も知れぬ破壊衝動に突き動かされ続け、他の何かを考えることもなかった。
そんな人生を後悔するわけではない。自身を大王と奉じ、同胞として受け入れてくれた者達に報いることができた戦士としての生涯は、決して悪いものではなかったから。
けれど、今はこうも思ってしまう。
人々から本来の性別すら忘れ去られた戦士ではなく、平凡な、しかし自由な普通の女であったなら――自分の人生は、どんな旅路になったのだろうと。
死した亡者、英霊の身でありながら。あれだけ大勢率いた同胞の、誰一人として大切な記憶の中にいない空虚を知った、今更に。
あれだけ溢れていた衝動は、今は随分と弱々しい残滓へと変貌している。
経緯を知る由もないが、あるいは。この世界では、その衝動の源泉であった"本体"と、本当の意味で切り離されてしまっているのではないかと――セイバーは、そのように推察した。
己の起源(ルーツ)を知ることもないまま、その本体が消えてしまったのだとしたら。これまで朧ながらに感じていた巨(おお)いなるものとの繋がりを断たれた喪失感に、寂寥を覚えないわけではない。
しかし、そうであるというのなら、せめて。破壊しかできなかったこの手にも――万象を記録する器、万能の願望機たる聖杯を、壊すことなく掴める可能性が生まれたのではないか。
そんな期待を込めた朱い視線で、セイバーは戦場となる街の明かりを睥睨する。
弱ったとはいえ、条件反射のように疼き出す本能を、ささやかな夢を実現する機会を潰さぬように留めながら。
「――戦いは、まだか」
外目には、機械のように冷淡な態度を保つ中。抑えきれぬ衝動を漏らすように、セイバーは呟きを零していた。
【出典】
Fate/Grand Order
【CLASS】
セイバー
【真名】
アルテラ
【属性】
混沌・善
【ステータス】
筋力B 耐久A 敏捷A 魔力B 幸運A 宝具A+
【クラススキル】
対魔力:B
魔術に対する抵抗力。
魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。
騎乗:A
乗り物を乗りこなす能力。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。
【保有スキル】
神性:B
神霊適性を持つかどうか。
セイバーは神霊との血縁関係を有していないが、「神の懲罰」「神の鞭」と呼ばれ畏怖された逸話――――あるいは、彼女が手にする軍神の剣により獲得したスキル。
軍略:B
多人数を動員した戦場における戦術的直感能力。自らの対軍宝具行使や、逆に相手の対軍宝具への対処に有利な補正がつく。
天性の肉体:EX
生まれながらに生物として完全な肉体を持つ。
このスキルの所有者は、常に筋力がランクアップしているものとして扱われる。
更に、どれだけカロリーを摂取しても基本デザイン(体型)は変化しない。
……規格外、にランクされるのは、それが「この星」の規格からは本来外れる代物であるから、とも。
星の紋章:EX
体に刻まれた独特の紋様。
紋を通じて魔力を消費する事で、瞬間的に任意の身体部位の能力を向上させることが可能。
魔力放出スキルほどの爆発的な上昇値はないが、魔力消費が少なく燃費がいい。 更に、直感スキルの効果も兼ね備えた特殊スキルでもある。
……実は、本来の名称から一文字欠けた、スケールダウンしている状態にあるスキル。
文明侵食:EX
無自覚に発動しているスキル。手にしたものを自分にとって最高の属性に変質させてしまう。
ここでいう最高とは優劣ではなく、マイブーム的な意味。
セイバーの場合は、彼女を「剣を揮う者」として定義させている因子である、下記の宝具の所有権を示すスキルとなる。
【宝具】
『軍神の剣(フォトン・レイ) 』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1~30 最大補足:200人
「神の懲罰」、「神の鞭」と畏怖された武勇と恐怖が、軍神マルスの剣を得たとの逸話と合わさって生まれたと思われる宝具。
長剣の剣状をしていながらどこか未来的な意匠を思わせる三色の光で構成された「刀身」は、本来地上に於ける「あらゆる存在」を破壊し得るという。
「刀身」を鞭のようにしならせる他、真名解放を行うことで「刀身」は虹の如き魔力光を放ち、流星の如き突進で敵陣を殲滅する。
ただし現在発揮できているのは制限された力であり、本来の性能はセイバー自身が抱えた歪みにより行使できなくなっている。
真の力を発揮すればランクと種別が向上し、地上に於ける「あらゆる存在」を破壊し得る光を「落涙」のように降らせる、「世界を焼く大宝具」と化すとされている。
【weapon】
『軍神の剣』
【人物背景】
大帝国を成した大王。アッティラ・ザ・フン。
匈奴(フンヌ)の末裔、フン族の戦士にして王。軍神(マルス)の戦士。
西アジアからロシア・東欧・ガリアにまで及ぶ広大な版図を制した五世紀の大英雄。 東西ローマ帝国の滅亡を招いたとも言われる。
戦場の武勲とは対称的に統治には成功せず、自身の死の後に帝国は急速に瓦解し消え果てたが、畏怖と恐怖を示す「アッティラ」の名は、近代、現代に至るまで人々に記憶されている。
誇り高く理性的な戦士だが、どこか無機質な「空虚」を感じさせ、また自身を「文明を滅ぼすもの」と定義しており、一部からは「人類の天敵」指定されてしまっている。
「この星」の生命の第一原則は生存と繁栄だが、彼女の根底に刻まれた厳守は「破壊」であり、進んで人間を殺害したくないが壊したいという矛盾を抱えている。
一方で自分を文明を滅ぼすのための装置だと割り切っているようで、その言動は冷静を通り越して自動的に動く機械のようですらある。
ここに召喚されたのは、同族の繁栄を願う己の祈りとも、得体の知れない衝動ともつかぬもので戦い続け、そして大地に還った、草原の少女から続くサーヴァントである。
――――事実として。彼女の正体は、上記に語られているとおりではない。
それはムーンセルにとっても最大級の禁忌であり、脅威であるもの。
故に本来、セイバーはムーンセルにおいてはその記録を厳重に封印された、召喚されるはずのないサーヴァントであった。
しかし、先代のムーンセルの王に、その電脳体を構成する三要素が分裂するという事件が起きる。
独立してしまった三つ意志の再統合、その混乱の中。粉雪のように消える仮初の心が願ったのは、世界を救った少女が在ることを許される未来。
先王の死に際に託された幾つかの願いの一つ、ムーンセルの更新に際し、異なる目的を持ったその自我が混入した結果。「この世界」においては本来、月が封印していたはずの記録が解禁される運びとなった。
それは先王が願った少女そのものではなく、彼女の視た夢。
同じ名を持ち、同じ顔と姿をして、「本体」から独立しながらも起源を等しくする、地上の英雄に関する記録だった。
このセイバーはそこから召喚された存在であり、既に滅びた「本体」とは始まりを同じくしながらも、既に別の存在として確立されたひとりのサーヴァントである。
それでも。
仮令、夢の残滓だけでも――この世界の彼女はもう一度、草原を駆ける眺めの続きを与えられたのだった。
【サーヴァントとしての願い】
「戦士ではない人生を生きてみる」こと。
決して戦士である自分を嫌悪していた訳ではないが、もしも戦士ではなかったら自分はどのように生きるのか、と興味を抱いている。
【基本戦術、方針、運用法】
直感力に優れ、あらゆる事態に際しても理性を放棄せず立ち向かい、無慈悲な殺戮を遂行する戦闘機械と化す純然たる『戦闘王』。
最優のクラスに相応しい、非常に高く纏まって穴のないステータスと優秀なスキルを併せ持つセイバーであり、トップランクに座するサーヴァントの一角。
マスターがその能力を支える魔力を十全に供給できる以上、その力を正面から揮うことが最良の戦術となり得るだろう。
ただし、本人の知り得ぬ理由――月に巣食っていた巨神本体の消失――により、生前も縛られ続けた破壊という厳守が著しく弱くなっており、自らの在り方にエラーを起こしている状態が深刻化している。
今は生前の振る舞いを再現できている――あるいはそれしかできないとしても。新たに生まれた戸惑いが、盤石であるはずの大王にどんな変化を齎すのか……それはまだ、誰にもわかることではない。
一つだけ言えることがあるとすれば、文明を破壊したいという衝動が弱まっていることで、討伐令を受ける可能性が本来よりも著しく低くなっているということだろう。
【出典】
Fate/strange Fake
【マスター】
ティーネ・チェルク
【マスターとしての願い】
一族の悲願である故郷の奪還
【weapon】
なし
【能力・技能】
彼女の一族はスノーフィールドと呼ばれている土地と共生関係にあり、その領域内にある限りは無音にまで圧縮された高密度詠唱により、非常に高度な魔術を瞬時に、魔術師相手にすら気取られず行使することができる。
土地を一歩でも離れれば力を失い、一般人程度の存在となってしまうが、ティーネは月に再現された偽りのスノーフィールドにおいてもその魔術行使を可能としている、大地と魔力を共有する魔術師である。
ただし、ムーンセルが再現したスノーフィールドには異物も数多含まれているため、完全に地上と同様の魔術行使が可能なわけではなく、わずかながら劣化している。
使い魔としては情報収集用の目としてコンドルを飼っており、それらの個体はムーンセルにも持ち込まれている。
また、この偽りのスノーフィールドでも土地守の一族の長として、父祖の地の奪還を目指す彼らを統括する立場にあるが、地上とは異なり、一族は皆魔術と縁がない一般人となっており、聖杯戦争への協力の取り付けには注意を要している。
【人物背景】
スノーフィールドの原住民である、土地守の一族の長。
ティーネの部族は千年前から霊脈の地と共生し、ヨーロッパ大陸からの侵略者すらも退けて一族と土地を守り抜いてきた。
しかし、この土地を偽りの聖杯戦争の舞台として利用せんと企む魔術師の一派がアメリカ政府と組んで襲来、七十年のうちに一族の地は蹂躙され、「スノーフィールド」という街へと作り変えられてしまう。
父の跡を継ぎ部族の総代となったティーネは、聖杯戦争の参加者としてこの地を奪還するという一族の悲願を背負っていた。
本来の偽りの聖杯戦争ならばその後、英雄王のマスターとなった魔術師から令呪を強奪しマスターとして参戦していたが、この世界線ではそれ以前に、地上の偽りの聖杯戦争を模した月の偽りの聖杯戦争に召喚される。
そして魔術師より強奪した英雄王ではなく、月より宛てがわれた戦闘王の傍らで、この偽りでしかない聖杯戦争を己という偽らざる真実に塗り替えるために。
――それが真実己の願いなのか、運命の濁流にただ押し流された結果なのかも、わからないまま。
一族の大地に帰り、そして続く子孫たちへと誇りを残すために。幼き長は、全てを懸けた戦いに望む。
【方針】
部族の情報網を活かして聖杯戦争の敵を探り、セイバーの力で勝ち進む。
最終更新:2017年02月28日 23:16