マヒロ・ユキルスニーク・エーデンファルト&アサシン◆aptFsfXzZw







 ――それは、唐突な発言だった。



「我が同意なき暴力の行使、その一切を令呪によって禁止する」

 再現された箱庭、偽りのスノーフィールド。
 そこに招かれたマスターと、記憶を取り戻した彼に月が宛がう形で召喚されたサーヴァント・アサシン。
 状況確認程度の、そう長くはない会話を交わした直後のマスターの行為に、アサシンも困惑するより他になかった。

「……何を考えている?」

 令呪によるサーヴァントへの禁則事項の押し付け。一個の意志を持つ英霊に対するそれは、基本的に関係性の破綻を招く悪手だ。
 しかし、ただマスターを対象にすることを禁ずるのではなく、一切の暴力――すなわち戦闘力の行使を禁止する、とした意図は容易には読み取れない。
 努めて平静に真意を問うアサシンに対して、マスターである眉目秀麗な少年は気楽な様子で笑っていた。

「いえ、記憶を取り戻してからずっと考えていたのですが……余にはこの選択肢しかないかなぁ、って」
「……」
「あ、誤解しないで欲しいのですが、余は別に逃げ腰なわけではないですよ?」

 やや険しいにしても、無表情を装っているつもりだったが。それでも軽蔑の色が染み出したのを見咎められたのだろう。
 ……倫理や命惜しさに争いを降りるにしても、およそ最も愚かと言える選択を前にしたのだから、アサシンの心証が冷ややかなものとなるのも当然だ。
 だが、その反応も織り込み済みと言わんばかりの、あまりに軽い、しかし逃げではないというマスターの反応に。アサシンもほんの少しだけ、彼の言葉の続きに興味を惹かれた。

「――僕は聖杯を手にして帰るつもりです。僕の世界の人類存続のために」

 その変化を見透かしたかのように、少年の纏う雰囲気が変わった。
 そして畳み掛けるような宣言と、彼の背負った物の重みを仄めかされたことで、アサシンは彼の話に更なる関心を抱いていた。

「ただし、先程確認したように……やはり僕は、魔力を持ち合わせていません」

 それが令呪使用に踏み切った発端かと、アサシンは静かに得心する。
 確かに、彼が魔力を持たないことを知った瞬間から……召喚された以上は一人の忍として応じる心積もりだったアサシンにも、微かな侮りが心中に生まれていたことは否定できない。
 それが大きくなり、独断専行を招く前に、まず令呪で持って制御する。妨害されぬよう、令呪という文言を最後に回す用心も忘れずに。
 そこに至る論理、及び結論そのものの是非はまだ保留として、即断即決の思考の速さは評価に値するかもしれないと、アサシンは天秤に載せることとした。

「魔術も魔法も使えないし、他の特殊能力も何もない。剣や銃も上手く扱えない。こんなマスターが不慣れな戦いにいきなり臨んで、都合良く勝てると思いますか?」

 なるほど、言われてみればもっともな問題提起だ。
 しかし。

「最初から諦めるよりは、よほど目があると思うがな」

 勝ち目が薄いから降りる、という選択を執ることは、この戦いにおいてはほぼ不可能と言って良い。
 不承知の身としても、一度ムーンセルの招待に応じてしまえば、帰還できるのは最終勝利者となったただ一人――敵前逃亡は許されないのだ。
 どれだけ極小の可能性であろうと、賭けている以上は、挑みすらしない無よりは大きい。

 そんな当然の返答に、しかし聖杯獲得の意欲を見せていた少年は小さな苦笑を漏らしていた。

「諦めてはいませんよ。これでも己の責任は理解しているつもりです。いざとなれば僕個人の感情なんか無視して、他のマスターを皆殺しにする義務があることも。だから暴力(それ)も、完全には放棄していないでしょう?」

 告げる彼の瞳、爛々と輝くそれは、確かに腑抜けの見せる光ではなかった。

「ただ僕は、この戦いを自分の得意分野で――話し合いで勝ち抜く方が目があると、そう判断したに過ぎません」






 ……そんな出会いから、既に半日が経過していた。

 アサシンのマスター――マヒロ・ユキルスニーク・エーデンファルトは、たちまちは、NPCの頃に与えられた役割に順じていた。
 その間にアサシンは、彼の指示通りに他主従の情報収集に当たっていた。

 今も、心からマヒロに従っているわけではない。
 だが少なくとも、令呪の効力が切れるまで――アサシンには現状、他の選択肢がなかった。

 マスターの同意を伴わない暴力の行使、その一切の禁止。
 限定的な条件を付けられた令呪の縛りは、魔力を持たないマヒロの命でも充分な強制力を発揮した。

 ……厳密に言えば、彼は純粋な人間ではないらしく。
 厄介なことに。今こそ一切の魔力を持ち合わせずとも、その身に宿る回路は超一級の代物だった。
 そこに根付いた令呪もまた、魔力を持たないとはいえ超一流のマスターが行使したに等しい効力を発揮しており。曖昧ではない明確な条件を設けられている以上、対魔力を備えないアサシンでは数日で跳ね除けられる拘束ではないという、退っ引きならない理由があった。

 こんな状態でも、他ならぬマヒロを暗殺しようと思えば、アサシンには幾らか手はある。
 だが、その他のマスター、言わんやサーヴァントを屠ることは、少なくとも令呪の効力が働く間は不可能と言っていい状態だ。
 ただでさえ、マスターとサーヴァントが一対一の契約しか結べないこのSE.RA.PHにおいて、野良となったサーヴァントが再契約を結ぶことは困難というのに――マヒロとの契約が解消されたとしても、アサシンに纏わりついた令呪の縛りは残り続ける。
 令呪を最低一画消費しなければ殺傷力を取り戻せない、しかも既に主の寝首を掻いた曰くつきの暗殺者など、誰が今ある契約を捨ててまで召し抱えようとするだろうか?

 せめて戦いが進み、サーヴァントを喪ったマスターを捕捉できるようになるまでは、アサシンはマヒロとの契約を反故にする旨みがない――それ故に今は、確実に益となる諜報活動に従事しているのだ。



 とはいえ、果たして。そもそも自分が、本当にそのような道を進んで選ぶかと問われれば、アサシンも確信は持てていない。

 特別、叶えたい願いがあるわけではない。
 その気になれば黄泉より帰還する術も準備できたが、既に己の為すべきことは全て果たした身の上だ。現世のことは後に続く者達が自由にしてくれればそれで良い。
 また、実力や覚悟のない者に無理強いすることをアサシンは好まない。かつて親世代の強要したそれで、多くの弟たちを喪ったからだ。
 故に、マスターが好戦的であろうと、平和主義者であろうと、アサシンはその意を尊重して闘う意志はあった。

 だが、逆を言えばそんなアサシンでも、無意味に終わることは容認できないということだ。
 そして、マヒロが道連れを請うているのは、普通に考えればそんな結末しかない選択だ。

 だから今も、アサシンとて心からマヒロに従っているわけではない。
 だが、それでも。考慮すべき可能性の一つとしてではなく、彼との契約破棄を主目的には、既にアサシンも置いていなかった。






 ……あの後、アサシンは彼に、言葉だけで全てを解決できるのかと問いかけた。

 否定のつもりで投げかけた言葉に対し。彼はすぐに、暴力だけで全てを解決できるのかと尋ね返してきた。

 曰く、確かに暴力はわかり易い。しかも目に見えて効果的だ。
 だが、それだけにはっきりと優劣が出る。早い話が、その上を行く暴力に出遭えばそれまででしかない。
 そして自分達の持ち得る戦力は、どうしてもその上限が小さな物で終わってしまうのだと。

「僕は今でこそ戦力的な価値は皆無でも、実はヒトではない存在の血を引いています。ムーンセルの目的は人間の魂の観測とのことですが、僕が喚ばれたということは対象を純粋なホモサピエンスに拘るわけでもないのでしょう。
 なら同じように、一先ずは人間に数えられているだけの類の者がマスターとして含まれている可能性は考慮すべきだ。その中に、僕が知るような不死に近い者が存在する可能性も」

 そう述べるマヒロの表情は真剣というよりも、ただ淡々と事実を並べているだけの様子だった。

「確かにあなたはアサシンのクラスで召喚されたサーヴァントだ。仮に戦力が乏しい場合でも、他のサーヴァントとの交戦を極力避けて勝ち進むこともできるかもしれない。たとえ相手が不死身だろうと、マスター相手に遅れを取る心配も不要かもしれない。
 でも暗殺といえど、実力行使が伴う以上はどうしても、僕という無に等しいパワーソースの制約を受けてしまう。そんな状況では相性の悪い敵を仕損じることも出て来て、僕という急所を狙われかねません」

 超常の存在であるサーヴァントは、その力を揮うのみならず、この世に存在することさえもマスターに依存する。
 魔力の供給源としてだけではなく、現世に留まる依代としてマスターを必要とするのは、最高ランクの単独行動スキルを持つアサシンといえど例外ではない。
 そして攻められる側に回った暗殺者ほど脆いものはないこともまた、事実だ。

「とはいえ、僕がこのザマでは頭ではわかっていても焦りが生じるでしょう。本来は敵同士をぶつけ合わせ、消耗させたところを狙うべきなのに、僕の力不足であなたも存在するだけで消耗してしまうんですから。
 そんな状態で置いていてはどうしても思考は短期決戦に偏って、やがては粗が出て、なおさら勝機を失ってしまう」

 そこでアサシンはふと、値踏のために尋ねることとした。
 己が積極的に行いたいわけではないが、検討していて然るべき選択肢を。

「勝ちに貪欲であるつもりなら、魂喰いで魔力を補う手は考えなかったのか?」
「あなたの人格や手腕に関係なく、この舞台でその選択はありえません。確実に足がつきますから」

 返事は即答だった。

「ムーンセルの再現したこの時代のこの街は、戸籍管理も治安も高水準に発展しています。人が消えれば確実に痕跡が残ってしまう。普段なら深入りされず忘れられる程度の痕跡だとしても、事情を知り、特殊な力を持つ者達が情報収集に必死となっている聖杯戦争の最中に楽観はできません。魔力の確保も満足にできない鴨がいるって、仕留め損ねた相手以外にも喧伝するようなものですよ。極力気づかれないような条件の相手を選別し、少数を対象に敢行するとしても割に合いませんし、同じ手間をかけて網を貼っている敵の動きも予想されます。だったらそのリソースを他に回す方が効果的でしょう」

 補足としてマヒロが述べたのは、一般的な魂喰いのリスクと費用対効果についての問題だった。
 アサシンもその認識には概ね同意するが、ただ一つ、異なっているのは魂喰いの効率についてだった。

 数百人を犠牲にしても、半人前の魔術師の魔力供給に届くかどうか――というのが通常の魂喰いであり、故に大半の魔術師は合理的に放棄する選択肢ではあるが、それは魂喰いの対象が一般人となる聖杯戦争での話。
 超常の徒に抵抗する一切のチカラをなくしながら街を行く人々。その全てが本来マスター適正を持った人物であるこのムーンセルの聖杯戦争では、NPC一人当たりから得られる魔力量も文字通り桁違いなのだ。
 決して、費用対効果が小さいということはない。

 とはいえ、それはサーヴァントの中でも、気配感知スキルを持つアサシンだからこそ早々に看破できたことだ。
 また、従来以上に効率的だからこそ魂喰いへの関心を高める主従が後々増加する危険性も、従来の聖杯戦争以上に考えられる。結果複数の陣営から目を向けられては、魔力の貯蓄ができたとしてもこのクラスでは荷が重い。

 故にこの時点で一般論を説くマヒロを、この一点で以って責める意味はないと考えたアサシンは、この場での反応を後ほど事実を告げる決意に留めた。
 ……アサシンにしても、進んで無関係な民草を犠牲にしたいわけなどないのだから。

「――とまぁこのように、纏めてみても、主に僕のせいで我が陣営は弱小です。正面からはもちろん、暗殺という絡め手でも、実力行使では明白な詰みが数多く存在します」

 アサシンの内面も知らず、そのように告げるマヒロは、どこか嬉々としているようにも見えた。

「そんなわかり易い暴力に対して、話し合いはわかり難い。でも、だからこそ可能性があると僕は思うです」
「可能性か」
「ええ。暴力の根源は何かというと、それを揮う者の意志です。なら、その意志をどうにかすればいい。
 そして、真の意味で心を挫けるのは暴力ではなく、その崩れる人格を構成する言葉、それを認識する理性だけですよ」

 故に戦争は、政治によって左右されるのだと、十代の少年が言ってのけた。
 だから自分は、故郷における戦乱を、言葉だけで防いで来れたのだと。

「ならば何故、儂に令呪を使った? そこまで言葉を信仰するなら、貴様はまず、言葉だけで儂に全てを納得させるべきだったのではないか?」

 そんなアサシンの問いかけに、マヒロは笑って答えてみせた。

「だってあなた、何もなしにこんな話を真面目に聞いてくれましたか?」

 アサシンの経歴を調べ上げた後でなら、マヒロも言葉だけで従えられる可能性はあったと豪語する。
 だが、自身が魔力を持たないマスターであると判明した時点で――事実その傾向があったように、サーヴァントに軽んじられ制御を外れる危険性こそを重視した。
 しかし召喚早々では、時間も手札も不足していた故に。要であると理解している令呪を消費してでも、自分達が話し合うしかない状況を作ることにこそ苦心したのだと。
 サーヴァントの意志に反した令呪の行使、そこから生じる危険性への自衛と、他主従との交渉までの暴走を抑える制御、その両面の保険足り得る条件を速やかに構築しながら。

 話し合いに持ち込むためなら、手段を選ばない――それが自身のやり方であると、端的にマヒロは示したのだ。

「ここまでしなくとも、これまでの僕には交渉の手札があった。ミスマルカの王子、帝国中原領政務官、聖魔杯の管理者……そういった立場や権力、個人的な人脈で、情報を集め場を整えることができた。
 でも今の僕にはそれがない。あなただけだ、アサシン。聖杯戦争においては極論、あなたのマスターという立場しかない。聖杯戦争に関して動かせる駒が、今の僕にはあなたしかいない。
 これからの戦いを勝ち抜く時間を手札を揃えるために、そのどちらもがない状況でも、アサシン。運命共同体となるあなたを迅速に、かつ確実に制御する必要があった。そのためなら手段は選びませんよ」

 アサシンをして、わずかに舌を巻く思いだった。
 マヒロは本気で、言葉だけで勝ち抜いてみせると、その意志が口先だけではないことを示してみせた。そのために必要なものも、今置かれた状況から正しく逆算し揃えていた。
 そして、言葉しかない状況に持ち込むという――真の意味での言葉の使い方も、この少年はよく弁えている。
 奇抜さばかりに目を奪われるところだが、その発言はよくよく考え抜かれている。反論しようにも、誤認の隙すら他で埋められるほど、確かに筋が通っているのだ。

 あくまで今のところ――根本的なことを除いては。

「……だが仮に、そうして話し合いに持ち込んだとしても、だ」

 故に、その根本にアサシンは切り込んだ。

「仮に儂が相手の情報を集め、貴様に提供したとしよう。それだけ有利な条件を整えられたとして……貴様は本当に、全て口先だけで何とかできるつもりなのか?」

 そう。結局のところ、その根拠。

「言葉も暴力も、不確実という点では同じだと貴様は述べた。それでも暴力には明確な勝利の形がある。だが言葉はどうだ?」

 確かに彼は、話し合いに人並み以上の自負があるのだろう。
 しかし得意だからと言って、そもそもそれが勝利に繋がる長所であるという理由。それが示されていなかった。

「何を勝ちの目として、貴様は言葉を選んだ。どんな形で口先だけで全てに勝利するというつもりだ。その根拠を示してみろ」
「……全て、は無理かもしれません。特にサーヴァントは」

 そこでマヒロは初めて言い淀んだ様子を見せたが、それすらも引きであったかのように二の句を継いだ。

「けど、マスターさえ抑えれば、結果的にサーヴァントも御せる。そして彼らの大部分に対しては、共通した勝算があります」

 確信を込めた宣言に、アサシンも幾らか興味を惹かれた。

「それは何だ?」

 ――しかし、それについて具体的な言及がされる前に、邪魔が入った。
 邪魔とは敵襲ではなく、マヒロの家人のロールを与えられたNPCの接近だ。

「マヒロ様っ、出発のお時間でっす! ラヒル様もお待ちされていますよっ」

 鬱陶しいほど賑やかな執事を介した、この偽りのスノーフィールドの市長である、彼の父からの呼び出しだった。
 その来訪を受けたマヒロから、どうせ話せば長くなる、明日また時間を用意するから、今日は一旦待って欲しい……と言われては、正体の秘匿を考えるとアサシンも強く引き止めることはできず。時間潰しにと情報収集の指示を与えられていたのだった。



 ……だが、聖杯戦争のそもそも傾向として、日中は雌伏の期間であるためか。結局アサシンはこの間、これといった釣果を得ることができずにいた。
 夜を迎え、他のサーヴァントが本格的に活動を開始すれば探知も容易くはなるだろう。しかしサーヴァントが出揃ってすらいない現状では、霊脈の流れなどから目ぼしい箇所を当たるほかには、せいぜいが街に流れる噂を拾い歩く程度。
 後に戦いが有利となるよう、仕掛け(マーキング)を施した以外には大した成果は得られていないままだが、待ち合わせの時間が近いことを悟ったアサシンは主の家へと帰投することにした。






「……武装集団に殺害された方々を追悼し、蛮行を糾弾する集会や行進が取り組まれました」

 スノーフィールドにおけるマヒロの自宅、その居間を霊体化したアサシンが通りがかると、テレビニュースでちょうどそのような文言が読み上げられていた。
 海を挟んだ別の地域で問題となっている、武装組織による被害と、それに対し噴出する怒りの声に関する報道だった。
 どうやら、その組織の構成員とは同胞に当たる者達までもが、他民族と一丸になって批難するほどの残虐行為が行われていたらしい。

 この報道も、所詮はムーンセルの用意した偽りに過ぎない。スノーフィールド以外の土地の存在しないこのSE.RA.PHにおいて、新たに死者となった異国の民など実際には一人も存在しないことだろう。
 だが、それでも。その伝達だけでも再現されたこれもまた、いつか、どこかの世界で現実として起きていた出来事に変わりはない。
 最早、生きるためという切実な願いですらなく。正義を謳いながら、たかが信条や肌の色の違いで殺し合う人間の性(サガ)。
 言葉と理性の無力さを示すようなそれを尻目に、アサシンは約束の場所へと足を運んだ。

「お待ちしていました、アサシン――いえ、木ノ葉隠れの二代目火影、千手扉間様」

 そして至った彼の部屋にて。肩書までは伝えていなかった己の真名を口にするマヒロに、実体化したアサシンは予想が的中したのかと確認を投げる。

「……儂の情報は、ネットとやらで検索できたのか」
「はい。どうやら異世界の英雄譚の一部は、諸外国の創作物という形で把握できるようになっているみたいですね。流石に聖杯戦争そのものは引っかかりませんでしたけど」

 マヒロの補足に、なるほど己の情報のみならず、この偽りのスノーフィールドという戦場に与えられた舞台設定を探っていたのかとアサシンは得心する。
 何しろ神秘の秘匿という一点が、監督役よりペナルティを課されるか否かの最大の焦点となる。サーヴァント同様、異なる時代、異なる世界から招かれたマスターであっても、この二十一世紀前半のスノーフィールド市民としての知識を、聖杯戦争の知識と合わせて知り得た状態で召喚されるというが……所詮はどちらも、経験のないままに植え付けられたもの。果たして聖杯戦争の知識のどこまでが、世俗の認識に内包されているのかは曖昧だろう。
 どこからが神秘の秘匿を脅かすのか――即ち、どこまでなら一般人でも知り得るのか。
 その境界を正しく認識しておいて損はない、というのが二人の共通見解であった。

「そうか。だが今の儂はアサシンのクラスだ。穢土転生に期待しているのならアテが外れているぞ」
「いえ、それは別に要りませんので……」

 態度を改めてきた様子から、何かしらを期待しているのだろう――そう推測し、最も知名度が高い自身の禁術について言及したところ、マヒロは些か、普通に引いたように目を瞬かせた。
 が、それも数瞬。マヒロはすぐに表情を引き締め直した。

「……昨日言ったとおりですよ。僕は伝説の大魔術やら神剣などより、まず、情報が欲しい。それを集められる能力を持ったサーヴァントが必要でした。その点でアサシン以上の適材は居ないでしょう」

 戦における情報の重要性は、敢えて語るまでもない。時にはそれだけで決着することもあるのだから。

「ましてやあなたです、二代目火影様。単なる英雄や将とは違う。諜報を得意とする忍者であり、隠れ里の長として乱世の政治にも携わった傑物です」

 これ以上の逸材はない、とばかりにマヒロはアサシンを絶賛してきた。どこまで本心かはわかったものではないが。

「何より遂に、黙して忍んでいる本物の忍者が余の配下に付きました……どんなにこの日を夢見てきたか!」

 ……案外、全部本心かもしれない。
 そういえば召喚直後もこんな反応だったな、などと間の抜けた様を思い返しながら、アサシンは嘆息と共に先を促した。

「……それで。昨日の続きを聞かせて貰えるか」

 吐き終えた頃には、既に感情はその時点の物を再現し終えていた。

「貴様の見出した、話し合いにおける勝算とやらを」

 できるはずがない、という当然の疑問。それを踏まえた彼の自信に対する興味。
 マヒロの思惑を知り、此度の戦の身の振りを決める分水嶺に臨む心境を。

「得意分野だと言ったが、それだけで勝てるとは思っていまい。その程度の楽観主義で勝てるほど、政治という戦場も甘くはない。本当に勝てると思っているのなら、その根拠を見せてみろ」
「勝算は……」

 問われたマヒロは、一度目を伏せ、勿体振ったその後。悠然と、両手を広げてみせた。

「この、再現された聖杯戦争という状況そのものです」
「……何?」

 その返答は予想外だった。
 閉鎖空間において最後の一組まで殺し合い、優勝者のみが願望成就と生還の権利を獲得する。
 現実の戦争以上に、話し合いや、政治的駆け引きが無意味となる諸要素を与えた聖杯戦争の状況が、話し合いにおける勝ちの目になるのだと?

「貴様のロールは市長の息子だったな。ただでさえ偽りの、しかもその程度の肩書が何か役に立つというのか?」
「いやいやまさか」

 マヒロもとんでもないとばかりに手を振り否定するが、アサシンにも容易には内容を伺えない発言だった。
 ……いや待て。マヒロとアサシンで、明確に違う視点が得られるとすれば、それは。

「僕や他のマスター達は、マスター権を獲得するまではスノーフィールドの一般市民として行動するNPCと化していました」

 アサシンの思考が及んだのを見計らったかのようなタイミングで、マヒロは口を開いた。

「その間に与えられた偽りの記憶や役割――二十一世紀のスノーフィールド市民としての常識、文化的背景、倫理観は、引き続き記憶として残っています」

 そう――マヒロ達にあって、アサシンにないもの。それは市民でもあるマスターとして与えられた、知識の差だ。

「つまりマスターとして活動する全員に、相互理解のための共通基盤が与えられている。過去に本で読んだ知識程度の認識だとしても、確かに戦争の世紀と呼ばれた二十世紀を経た教訓を共有しているのです」

 そうして続けたマヒロの物言いに、アサシンは眉を顰めた。

「まさか、道徳心があるから勝てるというのか?」
「はい」

 マヒロの真顔を認めたアサシンは、思わず目を伏せ、首を振った。

「……馬鹿馬鹿しい」
「そうでしょうか? それはあなたがまだ、自らの時代、その思考形式に囚われているからではありませんか?」

 アサシンは苦味を増した嘆息とともに、つい先刻見聞した事実を以って指摘した。

「先程、居間でニュースを見たぞ。ムーンセルの再現したこの時代でも、変わらず人間は傷つけ合っている……愚かなことだが、それが現に世界で起こっていることだ」
「その点は僕も心から同意します。でも、その報道で伝えられていたことは、それだけではなかったでしょう?」

 切って捨てようとするアサシンに対し、マヒロは焦りもせずに言葉を繋げて来る。

「昨日あんな別れ方をした後ならなおさら、バイアスが掛かるのはわかりますよ。でも一つのことだけを見て早計し、他を見ないのではただの誤認です。他の事柄もきちんと、現実に起きていることとして目を背けず向き合わないと」
「……何が言いたい?」

 アサシンの問いかけに、マヒロはさらに自論を展開する。

「争いは敵となる者が居るから発生する。平和を掴み取るためには敵の全てを亡き者とするしかない。そのためならば幼子にも武器を持たせ、戦場で死なせる……あなた達の変えようとした、あなたの父君のような行いをする者は確かに、この時代にも存在します。しかしそのような者達は、この時代では世界中から非人道的であると痛烈に批判されています。世界中からです」

 ……言われてみれば、確かに。件の報道も、ただ武装組織の脅威を伝えるだけではなく、それを許さぬとする、国境や人種、宗教を越えた人々の団結についても述べていた。
 それが完全な一枚岩と思えるほどに夢見がちではなかったが、確かに、およそ直接の被害と無縁の者達までもが、揃って声を上げていたことにもまた、思考が及ぶ。

「それは、多少の揺り戻しはあるとしても……利己的で理不尽な暴力はただ嫌な、自分達が関わりたくないことで終わるのではなく、許されないことなのだと。徹底的な倫理が既に、総体として育っているからです」

 滔々と語る彼の表情は、単に見通しの甘い楽天家の顔ではなかった。
 むしろ齢不相応の、ある種の威厳すら覗かせて、少年は真摯に訴え続けた。

「ムーンセルがモデルとしたこの街は、あなたの時代から地続きの世界にあったものではありません。ですが、その社会を営むのが同じ人間である以上、文明の度合いに応じた基本法則にも差はないはずです。
 だから、若者たちを守ろうとしたあなたと同じように。より多くの未来のためにと命を燃やした人物がかつて、この世界にも現れた。そして次代にバトンを渡し続けた」

 マヒロの言葉により、アサシンの記憶にも蘇る。
 己にとっては所詮、ムーンセルにより与えられた仮初の知識、遠い異世界の出来事に過ぎないとしても。
 事実としてそれぞれの人類史に燦然と輝いてみせる、数多の英雄偉人の、そして名もなき人々の奮闘の記録が。

「あなたたちは諦めなかった。そんなあなたたちのおかげで積み重ねられた祈りの末に、別々の土地で産まれ、異なる世界観で生きたはずの人々の心は、同じ方向に収斂した。
 それこそが憎しみを抑え、耐え忍び、そして次代の者により良い世界を繋ぐためにこそ生きる意志……あなたがたの言う“火の意志”が普及した時代こそが、ムーンセルの再現した今この時なのです」

 仮令、未だ人類は不完全で野蛮な愚か者だとしても。
 変えたいと願ったあの日、あの時からは、少しだけ。あの頃子供だった者達が望んだ通りの方向に、進むことができている。
 ……そしてそれを願ったのは、決して独りではなかったのだと。

「この街は結局、参加者にとっては何の因縁もない偽りの箱庭です。でも、だからこそ余計な過去に囚われる必要もなく。あなたがた先人の用意してくれた、人間同士で話し合う余地がまだ、この聖杯戦争にはあるのだと――僕はそう思うのです」

 はるか未来から招かれた少年が、戦乱の時代を生きた英霊に向けて、そんな事実を誇らしげに説いていた。
 その眺めに。戦乱を見て荒み、忍として凍てつかせた胸の奥が微かに震えるのを、アサシンは確かに自覚する。

「……だが、それでもだ」

 しかし。アサシンは彼のサーヴァントであるが故に、言って聞かせなければならなかった。

「仮に、誰もがいつか辿り着く可能性があるとしても。結局はこの時代の人間性など、貴様にとってさえ別世界の価値観、偽りの倫理に過ぎないはずだ」

 なのに、誰もがそれを第一に掲げるなど、あり得ない。
 諫言するアサシンに対し、マヒロはこれまで見せた中で最も年頃に見合った――素直な微笑を浮かべていた。

「それでも、魅力的ではないでしょうか」
「……魅力的、だと?」
「はい。そんな世界が実在し得る。その可能性が頭の片隅にある、今はたったそれだけで良い」

 尋ね返したアサシンに、マヒロは我が意を得たりとほくそ笑んだ。

「聖杯戦争に臨む者の最終目的は、聖杯の獲得です。より正確に言えば敵を殺し尽くすことではなく、その結果得られる願望成就の権利でしかない」

 さらりと、ムーンセルの課した聖杯戦争のテーマを否定するようなことをマヒロが口にしたが、それ自体には特に驚きはなかった。
 いざという時、という発言も含め。ここまでの彼の態度を見ていれば、その方が自然だろうとアサシンにも予想できていたからだ。

「なら、僕らが共有する倫理は、その事実を突く穴になる。敵を殺し尽くさずとも、願いを叶える道があるなら、と……そんな考えに至るための足がかりとなる認識を、全てのマスターが有している」

 確かに、マヒロの語る世界に魅力を感じるかどうかと問われれば、アサシンにはこの滾りを否定する術がない。
 きっとそれは、あの狂気の男さえ含んだ――ヒトという種族が共通して夢見た、理想郷たる未来に繋がる眺めなのだから。

「そんな、等しく平和を尊ぶ同胞たちを、これ以上すれ違いの悲劇には導かない。彼らの願いに折り合いをつけ、共存させ、最大多数が幸福となる結末を掴み取る――それが僕の、王族の戦いです」

 そして、そんな未来を導くのは、確かにそう――王や長、様々な呼称で示される、人々の指導者たる者の役割だ。
 己の責任を踏まえたかのように、マヒロは高々と宣言していた。

「もちろん、倫理だ道徳だと唱えるだけではほとんど解決はしないでしょう。ですが、なまじ客観的な知識として与えられた人間性を拒否する強い動機があるのなら、それこそがその人物の根幹です。
 崩すべき要を曝け出させた後は、その根幹と道徳心の対立を解消してやれば良い。それで少なくとも、一時休戦には持ち込める。それを重ねることで状況を整えられる。
 最後の一組しか生還できないルールを変える手段の追究にも、並行して協力者を募り易くなる」
「……だからといって、全てを説得できるとはおまえも思ってはいないだろう。中には闘争そのものを願う者とているはずだ」
「殺人中毒の変態まで行けば知りませんが……戦いたいだけなら、好きにさせれば良い。最終的に足並みを揃えさせるだけなら、殺しさえさせなければ、後でいくらでも言い包められます」

 なおも問いかけるアサシンに、マヒロは苦笑を挟みながらも回答する。

「そもそも別に。誰も彼もに、ありのままの僕の主張を認めて貰う必要はありません。協調して貰えない時は騙せばいい」

 そしてあっさりと。理想を説いた少年は、同じ口で詐術を弄すると告白した。
 潔癖なだけではないらしい、アサシンの好むようなその手法を。

「僕とは異なる暴力主義者だとしても、彼らなりの利益を追い求めているのなら、まやかしでもそれを提示すれば交渉は可能です。
 そして最初は嘘でも、最終的に願いを叶えてやれば文句は出ない――例え相手が、全人類でも」

 ――おそらく、だが。最後の例えは、単なるハッタリではないのだろうとアサシンは直観した。
 昨日の発言からの連想と、確信させるだけの何かを、彼が隠そうとしていなかったから。

 故に、その迫力に釣られるようにして、アサシンは思わず問いかけていた。

「……本当にできるのか? 願いに思考まで染められた者達の抱いた闘志を、言葉だけで曲げることが。おまえは」
「それは個々の相手がわかってから考えるしかないことです。どこまでが味方にできて、どこまでが騙すしかない相手なのか。その比率次第では詰みもするでしょう。
 でも、出たとこ勝負になるのは暴力に頼ったところで同じですし――否定的だったあなたの考えを、可否を問う形に変えた程度になら多分、他のマスターにも働きかけることはできるはずです」

 マヒロが述べていたのは単なる全体論、包括的な方針で終わるものではなく、何より己に向けた説得として調整されたものであることは、アサシンもとうに理解していた。
 幼き日の千手兄弟が夢見た忍の隠れ里を、アカデミーを、同盟という名の平和条約を、やがて長として形作って行ったことと、重ねて見るように促しているのだろうと。
 ……火の意志や父である仏間に直接言及されれば、勘づくのも当然の話だが。

 人の可能性、未来を信じるという、理想論。
 そしてそのためには、手段を選ばないというリアリズム。
 それは確かにアサシンの、千手扉間の好むところのビジョンだ。

(確かに、兄者とマダラのできなかったことを……あの若者達(ナルトとサスケ)は、成し遂げたのだったな)

 マヒロの言葉から連想するように、アサシンは座から授けられた知識を紐解く。

 それは子孫である二人の英雄が、初代火影とうちは一族最強の男の因習を越えたという意味であり。
 彼らを育てた、かつてアサシン達が心血を注いで築いた里が、世界が、それだけの進歩を遂げられたことの証左であった。

 ならばマヒロの言うように。未来に生きる彼が唱える、耐え忍ぶ人間の進歩。その断片だけでも全てのマスターに分け与えられているのなら、それに賭けてみても可能性があるのではないか――

 そんな考えが、アサシンの中にも確かに、芽生えようとしていた。

「でも、それを現実にするのは僕一人では無理だ。個々の相手に合わせようにも、その情報を集める手足が足りない。マンパワーを埋められる技術もない。それを覆せるのはあなただけだ、アサシン」

 そこを衝いたようなタイミングで、さらにマヒロは畳み掛ける。

「仮に、どうしようもない危険人物が存在して、その者が勝ち残った結果、あなたの里に危険が及ぶと判断された時には。その頃には令呪の縛りも解けているでしょうし、僕に義理立てする必要はありません。僕は、うちはマダラと大筒木カグヤを倒した後、後進に任せ潔く昇天されたあなたに、今更現世への未練もないものと勝手に思って話を進めていますから。その前提が崩れるような時には、僕も受け入れます」

 こちらの問うたその手口の詳細を、アサシン好みに仕立て述べていたマヒロは、その上で取引を持ちかけて来た。

「そして、もしも僕の思惑通り事が進んでも、最後にムーンセルの課したルールを撤回できなかった時には……油断しきっている他の主従をどうするのかも、あなたにお任せします」

 どの道僕にはどうにもできませんから、と述べるマヒロにはしかし、自嘲の色は存在していなかった。まるで確信しているかのように。

「ただ、他に何も不都合がないのであれば。あなたの見た夢の続きを、僕に賭けて貰えませんか?」
「……良いだろう」

 そこまで見透かされていては、強く反対する理由もない。
 何より、個々の相手に合わせた説得の実例というものを、こうして示されてしまったなら。

「既に令呪も切られた後だ。ここから武に訴えるより、貴様の口先に賭けた方が、この戦争を勝ち残る上では分があると――認めてやろう。
 そして勝つために、このアサシン――千手扉間は、今は貴様を主君と仰ぎ、仕えてやる」
「光栄です。伝説の忍、二代目火影様」

 ここで真に、契約は交わされた。
 これより先の未来を担う、異邦の若き火の意志と。彼という若葉を守る影の、共闘の誓いが。






「――しかし解せぬな、マヒロよ」

 そうして、一つの駆け引きが終わった後。
 立場を変え、視点を変えたことで、話しておきたいことをアサシンは見つけていた。

「最初の令呪、役割(ロール)の関係で一度会話が中断となり、儂のことを調べてから改めて席を設けることも考慮していたのだろうが……それでも、悪手に近い」

 あの時点では、マヒロの考えをまるで読み取れていなかったが故に、アサシンとしても判断に苦慮していたことだったが……一から十まで説明された今でも、否、今だからこそ、思う。

「無論、意味はある。今のように、儂の協力を取り付ける道筋は事実としてあったわけだからな。だが、貴様ならばもっと上手くやれただろう」

 相手の性質もわからぬ間の令呪の行使は、結局は反発を招き、説得を危うくさせる恐れがあったことに変わりない。

 確かにそれで、マヒロにとっての勝ち筋を自ら潰す愚はほぼ完全に絶つことができた。だがこれだけ弁が立つのなら、令呪を用いずとも、そのリスクは近似値にまで落とし込めたはずだ。
 対して仮に武力行使を縛ったところで、本気で抵抗されれば。あるいは敵を呼び込まれれば、それでマヒロは詰んでしまっていた。
 勝ちを追求する姿勢は良い。だが他に穴がない分リスクの管理、その優先順位の設定にどうも疑問が残るのだ。

 そんなアサシンの問いかけに、マヒロは薄く微笑んだ。

「買ってくれますね」
「そうでもなければ、付き合う気など起きはしない」

 からかうような物言いに嘆息を返した後、一転、やや深く息を吸い。アサシンは、微かに眉を寄せた。

「何故不要に命を賭けるような真似をした?」
「不要、というほどではありませんよ」

 問いかけに対し、マヒロは相変わらず淡く微笑んだまま、改めてアサシンに向き直った。

「ムーンセルは人間の観察を目的としている。だからマスターが造反されて即終了、などとならないよう、ある程度人格的に相性の良いサーヴァントが宛てがわれると考えました。なら僕が余ではなく、僕らしく振る舞って即座に詰むようなサーヴァントが召喚される可能性はさほど高くない、とも」

 それらしい根拠を並べながらも、マヒロはそこで言葉を区切る。

「仮にダメなら、どうせそこまででしたよ」
「それを言っているのだ」

 指摘の後、アサシンは肩を落とした。

「……貴様のそれは、聖杯戦争に勝つためではないだろう」

 そうして、核心に踏み込むこととした。

「先程の貴様の考えが勝ちを放棄したものではなく、むしろ分があるものだということは認めてやる。
 だが貴様自身は、ただ重度に暴力を嫌悪しているだけだ。違うか?」

 そこを見誤れば、いずれ致命的になり兼ねない彼の根幹に。

「――お見事。正解ですよ、アサシン」

 問い詰めるアサシンに対して、マヒロは悪びれる様子もなく答えた。
 ただ、その雰囲気が切り替わったのを、アサシンも既に感じ取れるようになっていた。

「白状すると、僕はそれはもう暴力が嫌いです。傷つけ合うだけなら犬猫にもできる。なのにそれを喜々として誇るような人未満の馬鹿にも、そんな奴らにケダモノの真似事をさせられるだけの空っぽな人形にも、僕はなりたくない。いっそ、死んだほうがマシなぐらいに」

 彼は笑った。
 まるで、同意を求めるかのような気軽さで。

「だってそうでしょう? 明らかに自分より劣るような馬鹿に、意思決定も、生殺与奪も握られて、餌を奪い合うが如きケダモノの真似事をさせられる……それは理性ある者にとって、この上なく屈辱的で、侮辱的で、想像するだけで耐え難いことだ――あなたにも、ご経験があるのでは?」
「……だが、ただ不平不満を漏らすだけではその獣や人形にも劣るぞ」

 幼き日に、そして成人してからも遭遇した理不尽を思い返し、一瞬だけ押し黙ったアサシンだったが、それでも返答は口を出ていた。

「現状が間違っていると理解していても、そこで諦めては何も変わらない。強制された理不尽だろうと、その中で選択し最善を尽くすことも、貴様の言う理性ある者だけができることではないのか」
「ええ、そうです。だから命を懸けるんです。死んだほうがマシなことになるぐらいなら、死の瞬間まで、生きている自分の意志で抗うと決めた。運命などというものに迎合し流される空っぽの人形ではなく、理性を持った人間として生きるのだと。
 暴力に頼るのがどんなにわかり易く確実で、甘美なのだとしても。ムーンセルが人間を観測するというのなら、僕は理性ある者として、自身と人間をそんなケダモノの一種に貶めたくないのです」

 先程の説得に比べれば、物静かなはずのマヒロの声には、しかし。その裏に潜む、痛々しい叫びすら覗いているように見えた。
 彼にそうさせたもの。あるいはそれは、ケダモノと蔑まれ、忌避され、迫害されながらも英雄となるまで戦い抜いた、人柱力の少年の中にも――

「だから暴力に頼るなら。暴力に負けるというのなら、その時点で死んだも同じだとおまえは言いたいのか?」
「はい」

 マダラを追い詰めたあの時、友でも弟でもなく、己の腹を切ろうとした兄、柱間のように。
 マヒロもまた、運に命を賭けるのではなく、信じるものに命を懸けている――

「理性だけが、僕が家族から貰った人間であることの全てです。だったら、それを放棄することは僕の生きてきた全てを否定することになる」

 なるほどと、アサシンはそこで得心した。

「だから貴様が勝手に死なないよう、そんな事態に陥る道こそを潰すよう注意しておけと儂に言いたいわけか……ならばいい」

 落ち着いたアサシンの反応に、マヒロは目をぱちくりと瞬かせた。
 それから初めて、居心地が悪そうな様子でこちらの顔色を窺って来た。

「……いいんですか?」
「ああ。貴様はある意味儂が知る中で一番の馬鹿だが、真っ当な意味では兄者たちほど馬鹿ではないからな」

 ならばそのお喋りにも意味はある。
 先刻以上に鬼気迫った語り口は、出任せではないだろう。仮に駄目なら、というのも本心だったと見てまず間違いない。
 だが、はぐらかすことなくその優先順位を前面に押し出してきたのは、アサシンが彼に従うこと、つまりは共闘を認めた後からだ。
 その時点で既にマヒロは、アサシンにとっても死ねば面倒ではなく、基本的に死なれてはならない相手となっている――彼の命自体に、アサシンにとっての価値が生まれているのだ。

 つまりその喪失の危機を秤に載せることで、こちらを思惑通りに誘導できるカードになっており、マヒロはそれをちらつかせるために自分語りなどしていたということだ。

「貴様と儂では立場が違う。求める利益、そのための優先順位が異なるのは道理だ。命より優先したいものがあり、命を惜しまない素振りが本心だとしても、それさえ交渉のカードとして勘定できているのなら問題はない」

 いくら勝ちを求めていても、玉砕覚悟の死にたがりでは先はない。それでは託す意味がない。
 だが己の命をも駒として捉え使い所を惜しまない思考は、一人の忍であるアサシンからすれば至極馴染み深い心構えであった。
 同時に為政者でもあった立場からすれば、実際には与えることなく得るだけのためにカードを見せる、そのために演技をするという彼の振る舞いも理解できる。

「価値がわかっているのなら、おまえはこの先無駄に取られるような真似はしないだろう。本当に賭けざるを得ない時が来たとしても、その死線を越える意志が確かにあるのなら、これからは儂が助ければよいのだからな」
「……まぁ、そのとおりですけど……いや助かりますけど、なんだか味方にいると面白みのなさそうな方ですね、あなた」

 愚痴のような物を漏らすマヒロの様子から、そも理解が及ぶかどうかを試されていたのだろう、ということも透けて見えた。
 この先も、一目では無鉄砲にしか見えない真似を繰り返す。しかしそれは彼の確たる思考の末なのだと察し、合わせた行動が取れるのか。そしてさらに死線に踏み込んだ時、見誤らずに曲げられるのか、伝承ではなく直に確認したかったのだろう。
 言うなればこちらの利用価値を無遠慮に値踏みされたわけだが、アサシンとしてもその程度は頭を働かせて貰っていた方が安心できるために、腹を立てるようなこともなかった。

「乗り気でなかった儂を引き込んだのは貴様だぞ」
「ええはい、まぁそうなんですけども」
「……しかし、だ。儂が貴様に分があると見たのは、あくまでも他のマスターとのやり合いに過ぎないことは、肝に銘じておけ」

 そうして安心した上で、アサシンは更に先を見据えた言葉を口にした。
 いずれ訪れる死線を、今から曲げておくために。

「王族、人類の代表だという貴様にはその責任のために、個人であることを捨ててでも、決断しなければならない時が来るかもしれぬとな」

 そこでマヒロは少しだけ、寂しげに表情を変えた。

「……あなたの兄上のように?」
「そうだ」

 よく調べてある。確実にアサシンを説き伏せるために、彼も全力を尽くしたのだろうと理解できる。
 故に、その努力が報われぬ痛みを思いながらも、アサシンは今から最後の盤面と向き合っておくことを促した。

「聖杯が望んでいるのは、あくまで貴様の嫌う戦争なのだからな」
「違いますね。観測機の至上命題は人間の魂を解析することだ。聖杯戦争などはそのための手段、舞台装置でしかない」

 そこに勝算はない――暗に告げるアサシンに、なおもマヒロは言い返して来る。

「単なる殺し合いが見たいだけなら、こんなところに僕らを招くまでもない。あらゆる生物の中で人間だけを特別視する必要がない。
 小聖杯の収集、などという殺傷力を競う以外の要素がわざわざ用意されているのなら、ムーンセルも単なる暴力にとどまらないナニカを期待しているはずです」

 ただの根性論ではない返答は、むしろ現状を誰より直視しているからこそ諦めず、様々な方面から自身の勝ち筋を見つけようとしている証なのだろう。
 だが、それではまだ、今の状況を否定するには足りない希望的観測に過ぎない。
 厳しく見守るアサシンの前で、果たしてマヒロは言葉を続けた。

「……仮に小聖杯の正体が、僕の考える最悪に当てはまるとしても。そのものではなくとも、要求される数を揃えることならできる。
 その後はただ暴力的な行為だけに結果が収束するような、実験形態の不備を訴えれば良い」
「おまえの考える最悪に当てはまり、その不備が恣意的なものである場合はどうする?」

 それが何なのか、この場では敢えては聞かなかった。
 少なくともマヒロの厭うものであること、それさえ分かれば大凡の目星が着いたからだ。

「そんなことがあれば……それを導いた意志こそが」

 そこで彼は、また笑った。
 愛想笑いでも、壊れたようなそれでもなく――挑戦的な喜悦の滲んだ、蛇の笑顔で。

「――僕の、“敵”です」

 告げるこの少年の在り様は、アサシン――千手扉間の目から見ても、酷く矛盾して見えた。

 ……よく笑う少年であったが、違ったのだ。最後に見せたその笑顔だけは。

 兄や七代目のような、真っ直ぐに理想を語る破顔ではない。己のような、勝機を前にして浮かべる笑みでもない。あるいは死に場所を見つけた老兵の顔ですら。
 彼の目から覗いた爛々とした覇気は、ただ清純な理想に燃えているだけではあり得ない。
 それは未来の希望を写しているのではなく、今この瞬間にこそ充足している狂気に他ならないからだ。

 これは、その言葉どおりに――ただ純粋に、“敵”が存在することを喜ぶ獣の目。
 そんな目をした男をかつて見たことがある故に、扉間はそれを理解できていた。

 平和を望みながら、一方で闘争がなければ充足できない人格破綻者。
 親しき者への情を持ち、心の底から人々を救いたいと願いながら、あるいは人類の理性を信じながら、その実、他者の心というものにまるで関心がない。

 ――味方ではつまらない、などというマヒロのそれと記憶から手繰ると同時。平和を望んだアサシンの兄を友と呼びながら、その初代火影との闘争こそを至上の悦楽としていた男を思い出す。

 マヒロの抱える矛盾はまるで、そう――かつて世界を滅亡寸前にまで追い込んだ、うちはマダラのそれなのだ。

(――だが、それでもだ)

 マヒロと、マダラと。彼らを分かつものがあるとすれば、それは。
 そんな己の本性に絶望し、ヒトそのものを見限ってしまったのがマダラならば――マヒロは己の歪みを認識した上で歯牙にもかけず、歴史の積み重ねによる倫理の発達という人間の理性を信じている、という一点だろう。
 だが彼が歪みに翻弄されていないという状況が、この先も保証されるとは限らない。
 この少年が火の意志の後継者ではなく、新たなマダラに転ぶようなことがあれば――縁もゆかりもない、既に現世より退場した亡霊であろうとも、大事となる前にその命を断つ役目を担う責任はあるだろう。

 彼を導くにしても、手折るにしても。その実行にも、その見極めにも、おそらく己ほどの適任者はそうは居るまい。だから願いもないはずのこの身が、そんな相性だけを縁に召喚されたのだろうと、扉間は静かに得心しながらも。
 気負うわけではなく、自然とそんな思考を導きながらも。

(……あの時兄者は、こんな心境であったのか――?)

 できることなら前者であって欲しいと、アサシンは願わずにはいられなかった。













【出展】NARUTO
【CLASS】アサシン
【真名】千手扉間
【属性】秩序・善
【ステータス】筋力C 耐久D 敏捷A+ 魔力B 幸運C 宝具-
【クラススキル】
気配遮断:A+
 自身の気配を消す能力。
 完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく低下する。

【保有スキル】
忍術(忍宗):A+
 宝具の域にまでは昇華され得なかったが、歴史に名を刻んだ偉大な忍として研鑽し続けてきた類希なる武芸。六道仙人を祖とする術の習熟度。
 水遁に代表される東洋魔術的な狭義の忍術発動には、詠唱ではなく一定の印を結ぶ必要がある。但しアサシンは印等の前準備を不要とする忍術も開発・習得している。

単独行動:A+
 忍としての基礎能力の一つ。マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。マスター不在でも行動できるようになるが、多大な魔力を必要とする行為にはマスターの存在が必要不可欠となる。
 マスターがサーヴァントに満足な魔力供給が行えなくなった場合などに重宝するスキル。
 また、霊核に致命的な損傷を受けても短期間ならば生存できる。

気配感知:B-
 気配を感じ取ることで、効果範囲内の状況・環境を認識する。近距離ならば同ランクまでの気配遮断を無効化する。
 見知った相手ならば細胞レベルでの感知・識別が可能となるが、精度を上げるほど他者からも察知され易くなる。

道具作成:C+
 忍具の作成が可能。
 クナイや手裏剣と言った一般的な代物のみならず、互乗起爆札、飛雷神の術のマーキング等の高等忍術のための忍具も容易に量産可能。


【宝具】
 なし。これは彼が出生に由来する特別な才を持たず、伝説に謳われる武器も持たず、忍であれば鍛錬次第で誰でも習得できる類の忍術を徹底的に研鑽することで歴史に名を残した忍であり、宝具足り得る象徴となるような独自の伝説を持ち合わせていないためである。
 唯一、彼が開発した後に他の使用者が存在する術の中でも『口寄せ・穢土転生』 のみ、開発者として名が知られ宝具たり得たが、キャスターではなくアサシンとしての召喚であるため他の禁術の大半諸共現在は使用できない。


【Weapon】
 忍具一式


【人物背景】

 木ノ葉隠れの里の二代目火影であり、初代火影千手柱間の弟である伝説の忍。

 世に忍の隠れ里などなく、忍が一族同士で殺し合っていた戦国時代に生を受け、泥沼の消耗戦で兄弟のほとんどを喪う。
 強硬な父の姿勢を非合理的であるとし、これ以上の犠牲を疎んでいたが非現実的な強弁もせず、世を変えられる時を淡々と待ちながら戦っていた。

 やがて父や弟の全員が戦死したうちは一族との戦も、成人した兄柱間の活躍により同盟の成立を果たし、史上初の忍の隠れ里である木ノ葉の里誕生に立ち会う。
 戦乱期に続いて兄の補佐役を務め、後に勃発した第一次忍界大戦では「口寄せ・穢土転生の術」「多重影分身の術」など後に自ら禁術とした数々の術を開発して運用、他国にその名を恐怖と共に知らしめた。
 特に穢土転生は生きた人間を生贄にするという非人道的な発動条件、術そのものの凶悪さにより後世においても悪用されたことなどから、直々に禁術指定を行っていながらなおも非難されることが多い。

 兄のライバルであったうちはマダラが里を抜け、あまつさえ襲撃したこともあってか、柱間の死後には二代目火影に就任。兄の意思を受け継ぎ忍者学校(アカデミー)の設立や木ノ葉警務部隊の設立など里の基盤を作り上げた。
 しかし第二次忍界大戦での雲隠れの里との和平の際に雲隠れの金角銀角兄弟のクーデターを受け、若い部下達を逃がすために自らが囮となり死亡した。

 後世、木ノ葉崩しの際に大蛇丸の穢土転生によって復活するが、弟子である三代目の屍鬼封尽によって封印された。その後第四次忍界大戦の際に大蛇丸によって再度復活させられ、他の火影と共にうちはマダラとの決戦に挑む。

 兄である柱間と同じく世界の平和と安定を求めて行動していた人間だが、理想主義者の柱間とは違ってリアリストであり、里の脅威になりかねないうちは一族を隔離するなど卑劣な非情な行動も多々見られる。
 ただし、これは警察組織の独占という優遇措置を与えた上でのことであり、うちはは政治の中枢から遠ざけられながらもエリート一族として里の羨望を集めていた。うちは一族の行いを考えれば彼らに厳しい目を向けるのは当然であり、その上でなお扉間は彼らを里の中で活かす道を模索し、一定の成果を上げたといえる。また、うちはカガミのように一族であっても信頼し重用していた者はおり、彼らを警戒しながらも一律に差別的な扱いはしていない。

 肉親を喪っても感情に囚われない極めて合理的かつ冷徹な考えの持ち主であり、一方で柱間の理想に理解を示すだけの情もあり、単に冷酷なだけではなく多くのために最善を考えて判断を下せる人物であったと言えるだろう。
 敵から見れば卑劣なほどに容赦ない一方、味方としてはこの上ないほど頼れる人物として、里の内外では評価が大きく異なっていたとされている。



【サーヴァントとしての願い】

 既に己を過去の人物であると弁えているため、英霊千手扉間としては特に無し。
 サーヴァント・アサシンとしては、今後の世界のためにマスターであるマヒロを導くか殺すかを見極めるが、できれば前者であって欲しい。


【基本戦術、方針、運用法】

 忍らしく諜報戦に優れた性能を持つサーヴァント。
 生前に比べると魔力で現界しなければならないため諸々と劣化し、現時点では同時には二体出すのが限界であるものの、影分身の術によって単身で優れた間諜組織として働くことが可能。忍術による変装や、気配感知のスキルと組み合わせることで脅威的な情報収集能力を誇り、更に飛雷神の術で奇襲・戦線離脱も容易なため、仮に本気でマスター暗殺に専念すれば充分優勝を狙い得るポテンシャルを秘める。

 一方、サーヴァントとの直接戦闘に関して言えば、生前は効率的な対人戦闘を極めて来た反面、宝具の喪失も相まって火力不足がやや目立つ。
 とはいえ、そもそもが令呪による縛りとマスターの方針から、彼の役目は如何に直接戦闘を避けられるかに細心の注意を払いつつ、情報収集することが主となるだろう。

 ちなみにマヒロは超一級の回路はあってもエルクレセルの一件より生涯魔力が枯渇しており、アサシンが単独行動スキルの許す限りでやり繰りしている状態のため、能力的に小聖杯の回収には向いていても『■■■■』をこの主従だけで戦力として運用するのは不可能である。






【出展】ミスマルカ興国物語
【マスター】マヒロ・ユキルスニーク・エーデンファルト
【参加方法】
 原作最終巻における人類会議後、資料に紛れ込んでいた『白紙のトランプ』によりムーンセルに召喚される。

【人物背景】
 現代の文明が滅びた後、これまで表に出ていなかった魔に属する者達の助力もあって人類が文明を再興した数百年後。
 かつて大陸の中原一帯を纏め上げたミスマルカ王朝の末裔にして魔導学の天才ラヒル・アルンスト・エーデンファルトは、野心から同国の伝承する神器の性質を元にした生体兵器の開発を目論んだ。
 彼の策略の末、二つの同盟国を含む三つの王家に、かつて世界を制した聖魔王を再現するための子らが産み落とされる。
 その中でも、最も膨大な魔力の獲得に成功したのがラヒルの子、ミスマルカ王国の第一王子マヒロ・ユキルスニーク・エーデンファルトであった。

 しかし幼き日、マヒロはその同盟国の一つであるエルクレセルの王女パリスティエル姫と遊びに出た折に魔物と遭遇し、その魔力の行使を余儀なくされる。
 見事に魔物を退けたが、強大過ぎる力を幼きマヒロは制御できず、パリスティエルにまで傷を負わせた上に、エルクレセルの国土を焼き払い崩壊に追い込んでしまう。
 既に妻を亡くしていたラヒルは、この一件で親友であるエルクレセル王リュミエルまで喪い、また暴走の結果魔力を枯渇したマヒロも己が所業への罪悪感に囚われるようになる。

「お前など、魔力を蓄えるだけの人形でよかった」――失意の父に罵倒され、一度は幽閉されるに至ったマヒロは言われたとおりの人形のようにして、ただ生きるだけの日々を過ごす。
 ただ、乳母である侍従長エーデルワイスが持ち込む本、それを読み学ぶことだけを楽しみに。

 更に月日は流れ、かつてエルクレセルを併呑したグランマーセナル帝国による侵略戦争が大陸を震撼させるようになった頃。
 帝国三番姫によるミスマルカへの侵攻を、ラヒルより国を預けられていたマヒロはかつて喪った暴力に頼ることなく、言葉とハッタリだけで退ける。
 そして素性を隠したパリスティエル姫こと、近衛騎士のパリエルを護衛として伴い、一切の暴力に頼ることなく大陸を平定させるため、世界を律する者の証・聖魔杯を復活させる旅に出るようになった。

 奇想天外な行動をするトラブルメーカーだが、ミスマルカが帝国に滅ぼされる以前も放蕩振りが目立つ割に民衆からの人気は高かった。
 しかしその姿は半ば道化を演じているだけであり、本性は奇抜な発想、大胆な行動力、巧みな話術などを併せ持つミスマルカの若き「蛇」。
 主な一人称は「余」であるが、「蛇」の時は「僕」。偽名は「マヒマヒ」をよく使う。

 上記のエルクレセルの一件以降、暴力を拒絶し、また生まれながらの宿命、能力といったものに身を任せることを嫌うようになった。
 その延長として、試練も困難も、等しく逃れられぬことであるのなら、せめて自分で選んだ形で命を懸けたいと考えている。
 また同様の理由から、英雄や勇者という人種のことも快く思っていない。ただし、自由の騎士は例外とのこと。

【weapon】
 なし

【能力・技能】
 上記のとおり、本来は国一つ滅ぼして余りあるほどの魔力を蓄えた生体兵器となるはずだったが、エルクレセルの一件で自前の魔力は完全に枯渇してしまっている。
 そのため、回路こそ超一級ながら一切の魔力を持たないマスターであり、せいぜい令呪による縛りが強い程度で、その効果は補助にも使えない役立たずである。
 剣も弓も銃も上手く扱えず、道具の補助があっても魔術もロクに扱えないが、オートバイの運転技術は高水準にあり、また工作員相手に通用するレベルのスリの腕前を持つ。

【マスターとしての願い】
 暴力に頼ることなく、聖杯を手に入れる。

【令呪】
 舌部に発現した、双剣に絡んだ二頭の蛇と王冠(ミスマルカ王家の家紋を模したもの)

【方針】
 アサシンの収集した情報を元に、他の陣営を言葉で以って説得、あるいは騙すことで暴力による戦いを止めた上で、小聖杯を擬似的にでも収集し、聖杯を手に入れる。






第一階位(カテゴリーエース):イリヤスフィール・フォン・アインツベルン&アーチャー 投下順 第三階位(カテゴリースリー):ズェピア&ライダー
時系列順
GAME START マヒロ・ユキルスニーク・エーデンファルト OP2:オープニング
アサシン(千手扉間)

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最終更新:2017年02月28日 22:28