タロウの受難 ◆NXFS1YVsDc
このバトルロワイアルに参加するフィギュアには、元となったキャラクターの人格や記憶が自我として与えられる。
しかしキャラクターは決して不変ではない。一部に例外こそあれど、物語の展開や時間と共に、常に変わりゆくものである。
どの時間軸や世界軸をベースにしたかで、同じキャラクターでも人格は多種多様に変化するものだ。
「ソウルジェムが魔女を生むなら……みんな死ぬしかないじゃない!!」
魔法少女の真実を知り、信じていたものに裏切られ、その果てに彼女の心は折れた。
その世界軸において、魔法少女達はそれぞれ十分な信頼関係を築けなかったことも原因の一つだっただろう。
仲間達と無理心中を図った結果、逆に仲間の手にかかりソウルジェムを破壊され、死に至る。
よりにもよって
巴マミの自我のベースとなったのは、そんな最悪の世界軸と精神状態の時だった。
巴マミを模したフィギュアは、崩壊寸前の自我を与えられたまま、殺し合いの地に放り出される。
ただ最後の一人になるまで不毛に殺し合え、壊し合え……そこには何の正義も存在しない。
既に自己のアイデンティティを崩壊させたこの時の彼女にとって、絶望の最後通告とも言えた。
「だったら……死ぬしかないじゃない」
今のマミの精神状態であれば、恐らくソウルジェムは一気に濁り、すぐにでも彼女を魔女へと変貌させたことだろう。
だが、今マミの手にあるソウルジェムはこの期に及んでなお何の反応も示さない。濁り一つ見せない。
それは、彼女がフィギュア……紛い物の玩具であるという何よりの証拠。
どこまでも、救いがない。
オリジナルの魔法少女達の宿命に負けず劣らず、今置かれているフィギュアの自分達の境遇は絶望的だ。
紛い物でしかない自分が、ここで戦い続けて何になるのか。
仮にここで勝ち残り、生き残ったとして、それでどうなるというのか。
全てが終わった後、行き着く先はどこだ?この狂ったゲームを開催した者達の呪縛から逃れられるわけでもない。
どうにもならない。足掻いた所で、辿り着く先は絶望だけ。
疲れ切った彼女の心は、生きる意思を放棄することを選んだ。
拡張パーツとして、見たことのない拳銃が一丁、支給されている。
……自殺にはお誂え向きだ。
魔法少女になれば銃などいくらでも出せるが、変身するのも手間だ。
そもそも自分の出すマスケット銃では大きすぎて、自分に撃つには手に余る。
虚ろな目で、死に導かれるかのように、拳銃の銃口を蟀谷に当てる。
引き金を引き――
銃声が、轟いた。
「やめるんだっ!!!」
拳銃が地面に弾き落とされる。撃ち出された光弾はマミの頭部を貫くことなく、明後日の方向へと飛んでいった。
間一髪のところでマミの自殺は阻止された。この場に介入した、もう一体のフィギュアの手で。
「バカなことはよせ!ここで死んだところで、何になる!!」
そう呼びかけるフィギュアの姿に、マミは一瞬面食らう。
彼は人間ではなかったからだ。しかし、異形の怪物ともまた違う。
それは赤と銀の色に包まれた――永遠のヒーロー、ウルトラマンのフィギュア。
ウルトラの父と母の実の息子であり、高いポテンシャルを誇るウルトラ兄弟の6番目。
彼の名は――
ウルトラマンタロウ。
「死なせて……お願いだから、もう死なせてッ!!」
「しっかりするんだ。自分を見失っちゃいけない!」
拳銃を叩き落され、自殺の手段を失った彼女には、できることなど限られていた。
絶望の表情と共に、ただそれでも何かを抑え込むかのように、肩を震わせるだけ。
そんな姿から、彼女の一番の苦しみが漠然とながらタロウには感じ取れた。
昔、同じような葛藤を抱え込んでいた少年がいた。オリジナルのタロウの記憶の中に、刻み込まれている。
「辛いことが、どうしても耐えられないことがあるなら……我慢しなくてもいい。
思いっきり人前で泣いてみるのも……気持ちがいいもんだぜ?」
マミは事故で両親を失い、魔法少女となってからは孤独な戦いを続けていた。
やがて後輩もできたが、彼女は常に頼れる先輩として、先頭を走り続けていた。誰かに甘えられる立場ではなかった。
本来なら仲間達が拠り所としてその心を癒していたかもしれないが、それも今現在の彼女には叶わぬことだ。
孤独への不安。中学生の少女が背負うには、元々重過ぎる宿命。
「う……あああああああああああッ!!!!」
マミは、泣いた。
泣いて、泣いて、泣きじゃくった。
今だけは相手が誰であろうと、気にしている余裕はなかった。
人前でこれほど泣いたことが、巴マミにあっただろうか。
タロウもまた、そんな少女を静かに見守っていた。
「ごめんなさい、初対面の人の前で取り乱したりなんかして。ええと……タロウさん、と言いましたか?」
「ああ。落ち着いたようだな、巴マミ君」
散々泣き腫らし、マミは幾分落ち着きを見せていた。
まだ絶望こそ完全に晴れたわけではないとはいえ、驚くほど早く持ち直していた。
何の不自然もない。元々巴マミは、身も心も十分な強さを兼ね備えていた。
重過ぎる宿命を、今までずっと耐えてこられるだけの強さが。
「君に、そして君の元になっているキャラクターにどんな事情があるかは知らない。
こんな状況では絶望に暮れるのもわかるが……それでも、絶望に悲嘆できるだけの心があるなら、
それを糧に変えて前に進むこともできるはずさ」
タロウはそう言うが、マミの心は晴れない。
例え絶望を跳ね除けたところで、今自分達が追いつめられている状況は何も変わらない。
「タロウさん、あなたはこれからどうするつもりですか?」
「もちろん、戦うさ。このバトルロワイアルとね」
「戦う……バトルロワイアル、と?」
タロウは事も無げに、しかしはっきりとした意志をもって宣言した。
「そうだ。ここにはいろんな世界、いろんな物語のヒーロー達が集められている。
僕と同じように、殺し合いをよしとしない者達は必ずいるだろう」
「……私達はただのフィギュアなんですよ?自我や、オリジナルを模した力を与えられたとはいえ……
それに、もしその戦いに勝ったとしても、私達の末路は……」
「だからって、こんな馬鹿げた殺し合いは君も望まないだろう?」
「それは……」
「だったら勇気をもって、自分の心に正直になればいい」
「自分の心に、正直になる勇気……?」
タロウは立ち上がり、教室の窓の外を見据える。
「嫌なこと、許せないものと戦える、勇気ある心。僕はそれを体現してみせる。
本物のウルトラマンタロウがそうであったように。彼の名を裏切らないために。
もしかしたらそれすらも、これを開催してる連中の思う壺なのかもしれないが……
そうだとしても、僕はこのバトルロワイアルへの抵抗は諦めない」
行われている殺し合いとは不釣り合いな星空が、広がっていた。
この星空に、この世界のどこかに、ウルトラの星が輝いていることを信じて。
「そうだろう?せっかくの玩具を使ってこんな遊び方なんて、あまりに悲しすぎるじゃないか」
「なんで……あなたはそんなに前向きになれるの?」
問いに向き直るタロウ。マミは、そこに爽やかで自信に満ちた笑顔を感じた。
フィギュアの、表情すらないウルトラマンのマスクで、確かにそんな気がした。
「いつ如何なる時にも、最後の最後まで戦い抜くためさ」
それはタロウという名のウルトラマンが地球人として生きていた時の――東光太郎の確かな面影かもしれない。
時に無謀で、時には空元気で、しかしそれだけで終わらせずがむしゃらに前へと進む。
最後の最後まで諦めない。それがウルトラマンであり、ウルトラマンタロウであり、東光太郎という男だった。
そんな頼もしい輝きが、絶望に落ちている少女には確かな救いと、そして希望となった。
この人と、共に戦ってみたい。
まだ心の整理を全て付けられたわけではない。
でも彼と一緒に戦うことができたなら――もう一度、立ち上がれるかもしれないと。
「タロウさん、私も一緒に戦わせて――」
その時――
タロウの足元に、何かが転がり落ちた。
「あ……タロウさん、何か落ちましたよ?」
どうやら、タロウのフィギュアに付いているパーツの一部らしい。
それは青く輝く丸い――
「……え?」
前触れは、たったそれだけだった。
マミがパーツを拾い上げようとして、その時、突然――
タロウが、倒れた。
まるで魂が抜け落ちたような、まさに壊れた人形のように。
「え……?」
思わぬ事態に、思考が混乱する。
倒れたまま、タロウは動かない。
「タロウ……さん……?」
タロウに駆け寄り、体を揺り動かす。
反応がない。まるで死んだかのように、いや……
「死ん……で、る……?」
【ウルトラマンタロウ@ULTRA-ACT 機能停止】
「嘘……でしょう……?」
何で?何が?
タロウの身にいったい何が起きたというのか?誰の手で?
混乱する思考の中、彼女の持つ冷静な理性が、状況から考えられる可能性を導き出す。
この周囲には自分とタロウ以外誰もいない。なら、今自分の他にここに介入できるのは……?
まさか、この殺し合いの開催者達が、タロウの自我を消したというのか?
何故?まさか、ここでの会話を聞かれている?タロウが殺し合いに抗うことを口にしたから?
「い……」
彼は私を元気づけようとしてくれた。つまり、彼にそのことを喋らせたのは――
「いやあああああああああああああああああッ!!!!!」
絶叫し、その場を逃げるように駆け出す。
ボロボロの心に差しのべられた暖かな希望が、冷たく奪われた。
その事実は、今度こそマミを絶望のどん底へと叩き落すこととなった。
修復されかけた心が、再び崩壊へと導かれる――
【深夜/エリアN(校舎1階廊下)】
【巴マミ(制服ver.)@figma】
【電力残量:99%】
【装備:なし】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(ソウルジェム)、拡張パーツ×0~1(未確認)】
【状態:損傷なし。絶望】
【思考・行動】
基本方針:!?!?!?
1:もう何も考えたくない
(……く……ッ!マ、ミ……!)
少女の絶望に満ちた叫びが、タロウの脳裏に響く。
途切れ、そのまま消えていくはずだった意識が呼び覚まされる。
(ダメだ、ここで倒れるわけには!彼女を放っておくわけにはいかない……!)
停止していた機能が、再び起動する。
いや厳密には、タロウはまだ完全に機能を停止したわけではなかった。
突然襲い掛かった死にも等しい感覚が、タロウの意識を一時的に闇へと葬ったのである。
視界に霞がかかる中、目の前に転がる、青い宝石に目をやる。
タロウは眼を疑った。そしてすぐに、自分の胸元に手を当てる。
――ない。
自分に、ウルトラ戦士に付いているはずの、命の源が。
そして気付く。
目の前にある青い宝石が、それであることに。
カラータイマーだ。
(……何だってぇぇぇぇ!?)
つまり、胸のカラータイマーが、いきなりポロリと外れて落ちて、このざまだ。
何故外れた?どうしてそんな事態が起きた?
理由を考えている暇などない。意識は今も急激に遠ざかっていく。
ただ、現在自分を死へと導いている原因はこれであると確信できた。
消えかかる意識の中で自らを奮い立たせながら、カラータイマーに手を伸ばし……掴み取る。
そしてすぐに、自分の胸元――カラータイマーのあった場所に、付け直した。
本体にカラータイマーが戻ると同時に、タロウの意識は何事もなかったかのように回復していく。
「……ッッ!? どうなってるんだ、今のは!?」
死の感覚に乱れた思考を素早く整理する。
カラータイマーと言えば、ウルトラマンの命の源。
初代ウルトラマンがカラータイマーを狙われて、ゼットンに敗れたことは有名だ。
帰ってきたウルトラマンがカラータイマーを取られると、ペシャンコになって死ぬのもよくネタにされる。
カラータイマーはウルトラ戦士にとって命の源。それはフィギュア状態においても同様だったようだ。
そしてこのULTRA-ACTでは、カラータイマーの取り外しが可能である。青と赤、二つの状態を表現するために。
本体からカラータイマーが外れてしまうと、急激にタロウの意識が遠のき、そのまま死へと転がり落ちてしまう。
どうやら少し外れただけならすぐに戻せば問題ないようだが、放っておけばそのまま機能停止してしまうだろう。
これは彼のCSCが、このカラータイマーに埋め込まれていると解釈すべきなのだろうか?
確かに、ウルトラマンのフィギュアに埋め込むならここ以上に最適な場所はないだろう。
そうなると本体から切り離された時点で機能は完全停止したはずだが、すんでの所で意識を繋ぎ止められたのは、
構造的に外れてしまうことを考慮して開催者が修正を加えたか、はたまたタロウ自身の精神力あってのものか。
ああ、これ何てソウルジェム。魔女化しないだけマシではあるとはいえ。
そんな突っ込みを入れてくれそうな少女は既に錯乱して部屋を出て行ってしまった。
ふいに地面に目を向ける。マミが自殺に使おうとしていた拳銃が落ちていた。
「こうしてはいられない!すぐに彼女を追わなければ!」
拳銃を拾い上げる。護身のための拳銃も放り出して、今の彼女はあまりに無防備だ。
あるいは彼女もフィギュア化されている以上、自分の知らない戦う力を持っている可能性は十分あるが……
今の彼女の取り乱した状態では、どの道危険なことこの上ない。
マミの身を案じ、タロウは走り出す――
ポロリ。
再び、カラータイマーが落ちた。
倒れるタロウ。遠ざかる意識――
(うぅっ!?……っていかん、こんなことをしている場合ではっっ!)
慌ててもう一度、カラータイマーを拾い直し、付け直す。
しかしどうもおかしい。ちゃんと填るけど装着がやたら甘く、きっちり固定できない。
少し動くだけですぐに外れかけてしまう、緩い保持しかできないではないか。
「くそっダメだ、何度やってもすぐ外れる!?何だこれ!?もしかして不良素体なのか、このボディは!?」
……皆さんはULTRA-ACTのウルトラマンタロウの実物を手に取ったことはあるだろうか?
このタロウのフィギュア……カラータイマーのパーツが極端にポロリしやすいのだ。
ストリウム光線発射ポーズ再現のために胸回りのアーマーが取り外しできることとの兼ね合いかと思われるが、
他のウルトラマンのULTRA-ACTに比べて、とにかくカラータイマーがポロポロとよく外れてしまう。
このパーツは小さいから、紛失もしやすい。だから遊ぶにもいちいち気を遣って取り扱わなければならないのだ。
実にめんどくさい。今月の再販分で改善されていることを切に願う。
外れやすいカラータイマーというのは、今のタロウにとって命に直結する極めて危険な事態である。
これだけ外れやすければ、動きや戦い方にも制限を余儀なくされることだろう。
特に得意のスワローキックなんて使えたもんじゃない。
空高くジャンプし、宙で激しく回転を繰り返し、急降下で敵に蹴りを叩き込む華々しい技……
今そんな動きをしたらタイマーがすっぽ抜けて、そのまま紛失してしまうこと請け合いである。
「冗談じゃないぞ、まったく……!!」
胸に付けたカラータイマーを手で押さえながら、マミを追うべく走り出す。
テープなり接着剤なり、何かカラータイマーを固定する物でも探したいところだが、今はそれどころではない。
「早まるんじゃないぞ、マミ君……待っていろ、すぐに行く!!」
フィギュアならではの、想定外のハンデを背負う羽目になったタロウ。
しかしその程度の受難で彼の心は折れない。
……こんな不便な状態でも、オリジナルが味わった無力感よりはずっとマシだ。
ウルトラマンギンガの番組の中で、スパークドールに……500円のソフビに変えられていたオリジナルの記憶が蘇る。
あれは手足の稼働すら皆無だった。タロウもウルトラ念力で微々たるサポートしかできない有様だった。
だがこの体は自由に稼働できる。自我が与えられた今は様々な動きも可能だし、ストリウム光線などの必殺技も使える。
キングブレスレットも、ご丁寧に使わなくなったタロウブレスレットまである。
あの時の無力さに比べれば、遥かに恵まれた状態なのだから。
【深夜/エリアN(校舎1階教室)】
【ウルトラマンタロウ@ULTRA-ACT】
【電力残量:99%】
【装備:キングブレスレット、クライムバスター(宇宙刑事シャリバン)@S.H.シリーズ】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(タロウブレスレット)、拡張パーツ×1~2(確認済み)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:バトルロワイアルへの反抗。最後の最後まで戦い抜く
1:マミを追う
2:共に戦う仲間を集める
【備考】カラータイマーのパーツが外れやすくなっています。
外れると意識が薄れ、さらにその状態で一定時間放置するとそのまま機能停止します。
最終更新:2014年08月09日 01:51