聞こえない声 ◆NXFS1YVsDc
「こちらスネーク。現在位置は【エリア:R】小学校西門手前。状況は……俺の視界を通じて、そちらにも見えているはずだ」
『確認している。厄介な場面に出くわしてしまったようだな』
無線を通じて……という形式で、スネークはサポートAI・カズヒラとの通話を行う。
会話の中に静かに張り詰める緊迫感は、彼が修羅場の真っ只中にいることを表していた。
それはまさに、目前での出来事だ。
今、2体のフィギュアが、スネークの目前で戦闘を繰り広げている。
『2体共に、ロボット型フィギュア……どちらも戦闘タイプのようだ。正攻法で太刀打ちできる相手ではない』
片方は、仮面と鍔広の帽子を被ったような頭部の、仮面の貴公子を思わせるような姿。
その両手に2本の剣を持ち、二刀流で戦いを挑んでいる。
対するもう片方は、胸部に大きなXの字の傷が印象的な、武骨なロボット。
こちらは、その左手に黒い棍棒を手にしていた。デザインが統一されていないことから、拡張パーツの類と思われた。
二刀流の貴公子が、必殺の二連撃を相手に向けて放つ。
その強力な攻撃は、相手の黒い棍棒により、完全に防がれた。
『スネーク、これ以上は危険すぎる。すぐにその場から離れるんだ』
「いや……まだその機ではない。今下手に動けば、かえって巻き込まれかねん」
スネークは『その場』に身を隠したまま、両者の戦いを見据え機を伺う。
見る限りX字傷のほうが好戦的であり、そして優勢であった。
貴公子も今放った二連撃が切り札だったのか、それを境に徐々に押され始めていた。
やがて、カズヒラから再度の通信が入る。
『スネーク、あの2体の検索結果が出た。どちらもROBOT魂のカテゴリに存在している。
2体の名称は……
タウバーンに、
ターンXだ』
◇ ◇ ◇
門の突破を巡り、攻防を繰り広げる2体のロボット型フィギュアが。
駐車場方向から聞こえた声のもとへと急ぐべく、門を抜けたいタウバーン。
それを逃がさんとばかりに門を死守し、戦いを望むターンX。
両者の力は拮抗していた。攻防は一進一退を繰り返し、膠着状態に縺れ込む。
一刻を要するタウバーンにしてみれば、最悪の展開といえた。
だが、膠着の均衡は崩れる。それも、タウバーンにとってはさらに窮地に傾く形で。
ターンXが、自身に支給された拡張パーツという名の武器を持ち出したことで、流れが変わった。
戦場は、学校敷地内の塀寄りに位置する植え込みへと場所を変える。
「どうした銀河美少年!!青春を謳歌するのではなかったのか!?」
左手に握る棍棒をタウバーンへと向け、ターンXが挑発する。
その先端からエネルギーの濁流が放出され、植え込みの木々や草を次々と倒し、燃していく。
砲撃を木や茂みの影に隠れやり過ごしながら、タウバーンは毒づいた。
「勝手なことを……っと!?何なんだあの武器は!」
タウ・銀河ビームが。あの棒の一振りでいとも容易く弾かれた。
今しがた繰り出した銀河十文字斬りも、あの棒一本の前に完全に防がれた。
立ち塞がるサイバディを次々と打ち倒したタウバーンの必殺技が何の効果も示さず、傷一つ与えられず無力化されたのだ。
そして技の使用による消耗が、逆にタウバーンを窮地に追いやることとなった。
「これがギガバトルナイザーと云う物か!!たった一本で光の国を壊滅させた逸品というだけのことはある!!」
ギガバトルナイザー……それがターンXの持つ黒い棍棒の名前だった。
最悪の武器が、最悪の戦闘狂の手に握られている。その組み合わせは悪夢以外の何物でもなかった。
ついでに言うと、タウバーンはあの武器を見ていると何故だか嫌な気分になってしょうがない。
何だろう、この言い知れない不快感。まあ、大した理由ではないだろうが。
「出てこないか!?逃げて隠れるしかない青春など、負け犬の人生と云う物だッ!!」
「まさか!こんな不毛なだけの殺し合いに青春を費やすつもりはないね!!」
再度の砲撃により、木々が炎上する。
このまま戦い続けても、さらなる窮地に追い込まれるのは目に見えていた。
負けてやるつもりなど毛頭ないが、勝てたとしても無傷では済まないだろう。
だからと言って、大人しくそれを受け入れる気はない。
「ピンチはチャンス、ってことか……僕には、見えているッ!」
戦力を拮抗させ互いに神経を張っていた先程までなら、かえって見えなかっただろう。
強い武器の入手と戦局が優位に傾いたことで、ターンXに無意識の傲りが生まれた。
また、ギガバトルナイザーの砲撃は強力だが、連射能力には秀でてはいないようだ。
そして、草木と燃える炎と上がる煙が、ターンXの視界を妨げる。
それらから生まれる僅かな猶予をかき集め――タウバーンは事態を打開する隙を見出した。
即ち、自らに支給された拡張パーツを呼び出し、使用準備を整えられるだけの隙を。
「ギガバトルナイザーだかなんだか知らないが……
二万年早いぜ!!そして、僕の青春というビッグバンは、もう止められないぜ!!」
……って、我ながら何を言っているんだろう。
タウバーンは思わず口をついて出た独特のセンスの言葉に内心で突っ込みながら、
アクセルを、踏み込んだ。
同時に、エンジンの音が鳴り響いた。
「何ッ――!?」
ターンXが驚愕の声を上げるも、束の間――
白い弾丸が、ターンXの真横を通過した。
「貴様!?」
ターンXが振り返った時には、もう遅い。
弾丸は――タウバーンを乗せた白いマシンは、光と見紛う速度でターンXを引き離していく。
ロードセクター。タウバーンに支給された、一台の白いバイクだ。
「あんたに付き合ってる暇ないんだって!」
「おのぉぉれッ!!」
逃がすまいと、ギガバトルナイザーの矛先から稲妻が迸った。
ロードセクターは、背後から迫る稲妻の雨を掻い潜りながら、さらに加速。
そのスピードで門を突破し、そのまま一気にぶっちぎる――
「ッ!!……逃がしたか。まあいい」
遥か彼方に姿を消していくタウバーンをなす術なく見届けながら、ターンXは言った。
追跡はしなかった。彼にはあのバイクに追いつける足がない。
下手に追いかけて内蔵電力を無為に消耗させることもない。楽しみが後に延びたと考えればいい。
「フフフ……ギム・ギンガナムも、小生を――ターンXを得た時は同じ高揚を得たか?」
自身に与えられた拡張パーツ・ギガバトルナイザーを見定める。
この武器ひとつで、膠着していた戦局は一気に大きく有利に傾いた。
格闘戦としては勿論、射撃武器としても強力無比。威力に反し、燃費も良好。まだまだ秘められた能力もあるようだった。
だが連射はさほど利かないようで、素早い立ち回りには厳しい。
自前のライフルやバズーカと、うまく使い分ける必要があった。
何にせよ、取り回しの利く格闘戦用の武器というのは、彼にとってはありがたかった。
――その時。
「……うん?」
ターンXは『何か』に気付いた。
(――気付かれたか!?)
その『何か』を見つけた方角を見据え、ターンXは笑う。
ちょうど校門の右手――ここから北の方角。そこに見えた、小さな影。
「ほう。タウバーンには逃げられたが……新たな相手が迷い込んできたようだな」
その闇しか見えないはずの目の奥に、狩る者の光を湛えて。
ターンXは校門を飛び出し、走り出した。
そして。
校門の前には、誰もいなくなり。
校庭の隅に、場違いなダンボール箱だけが残されていた。
◇ ◇ ◇
「危うく気付かれたかと思ったが……どうやら他に何かを見つけたらしいな」
『……まさかこれで本当に誤魔化しきれるとは』
被っていたダンボールを取り払い、その中から出てきた男――スネークは立ち上がった。
『現時点でこれ以上奴と関わるのは危険だ』
「わかっている、今のうちにここから離れる」
スネークはダンボール箱を素早く仕舞うと、すぐにその場から駆け出した。
校門を出ると、ターンXの向かった方角とは逆の左手へと曲がり、そのまま道路を南下する。
走っている最中も、スネークは周囲への警戒を緩めない。
既に空は明るんできている。それだけ、スネーク自身も発見される危険が高まったということだ。
そんな中で思い返すのは、先の2体のロボットフィギュアのことだった。
「深入りして傷を広げる前に、逃げを選んだか。正しい判断だ。タウバーンと言ったか」
『追いつけないと見るや追跡を中断した、あのターンXというフィギュアの割り切りの良さもだ』
「不必要なバッテリーの消費は避けるべきだからな。戦闘能力も含めて、どちらも手強い相手になりそうだ。
それで、検索はできたのか?」
『ああ。あの2体のフィギュア……そして、あのターンXの持っていた黒い棍棒の正体もだ』
カズヒラの調べ上げたデータが、スネークの思考回路に転送されてくる。
スネークは2体のフィギュアのみならず、棍棒の詳細の検索も彼に依頼していた。
膠着状態だった戦局を一変させたのはあの棍棒だ。無視できるものではない。
スネークは一旦物陰に身を隠し、そのデータの閲覧を試みる。
「ギガバトルナイザー……あの棍の名前か」
『あのターンXがご丁寧に名称を叫んでくれた分、調べがつくのは早かったよ』
ギガバトルナイザー。
闇に堕ちたウルトラ戦士・ウルトラマンベリアルがかつて使用した武器。
彼はこの棒一本だけで――単独で、M78星雲光の国を、壊滅に追いやったことがある。
「……単独で光の国を壊滅、だと?ウルトラマンというのは、有名な巨大ヒーローのことだろう?」
『そうだ。ウルトラマン達の故郷である光の国のその全戦力を……
つまり、歴代のウルトラマン達のことごとくを、あの棒一本だけで全て沈黙させたという話だ』
その性能は言語に絶していた。
先端からは光線や稲妻、敵を拘束する光の鞭まで、強力かつ万能な攻撃を繰り出すことができる。
それらは、歴代のウルトラ戦士達が束になって挑んでも、その全てを僅か一撃で撃破する力を持っていた。
加えて、戦士達の放つ攻撃を全て防ぎ切ることのできる強度。
単独光線技最強と言われるゾフィーのM87光線に真っ向から直撃しても、難なく掻き消す。
ウルトラ兄弟三人がかりによる必殺光線の合体技すらもいとも容易く防ぎ、そのまま跳ね返す。
もはや並の攻撃など物ともしない、などという生易しいレベルではない。
最強クラスの必殺技だろうが、幾重にも必殺技を束ね撃ち放った総攻撃だろうが、あの棒には全く意味を為さない。
「タウバーンの切り札と思しき攻撃も、あの一本だけで難なく防いでいたな。他のパーツと同じ素材とは思えん」
『もしも強度までが再現されているとすれば……あれはもう超合金どころの話ではない。物理的な破壊は不可能と見ていい』
「だがそれは、あくまで人間の技術的に可能な範囲内でのことだ」
戦慄を走らせつつも、しかしスネークはそれに呑まれることはない。
どれほど強力な武器といえど、使い手が存在する以上は決して無敵ではない。
現にベリアルはウルトラマンゼロの前に敗れた。戦闘中にギガバトルナイザーを手放すという形で。
「恐ろしく強力ではあるが、どんな武器も使いこなせなければ真価は発揮できないはずだ。
そのベリアルにしても、使いこなしたからこそあの棍棒の絶大な力を発揮できたのだろう?」
『それはそうだが……』
「あのターンXというフィギュアは、あのギガバトルナイザーという武器を完全に使いこなせていない。
それは使い慣れていないという意味ではなく……あのフィギュアでは使いこなせないようにできている、というべきか」
『どういうことだ?』
一連の戦いをその目で見届けたスネークは、ギガバトルナイザーを扱うターンXの違和感をも見抜いていた。
「奴の右手は特殊な形状をしている。物を握れるようにはできていないようだ。
現に、先の戦いでも奴はギガバトルナイザーを、左手だけで運用していた」
『確かに、あれだけの得物を片手だけで、不自然な振るい方をしていた。
もっとも、奴には片手でもあれを十分に振るえるだけのパワーが備わっていたようだが……』
「それでも、棒術というものは片手だけでは成り立たないものだ。ならば付け入る隙はある。
フィギュアの可動区域という観点からしても、片手では必ず限界は生じるはずだ」
『理屈はわかるが……あれは射撃武器としても脅威だ、それだけで隙を見出すことは難しいぞ』
通信越しに聞こえる相棒の声には懸念の色が晴れることはない。
そもそもギガバトルナイザーを抜きにしても、あのターンXはスネークが正面から戦って勝てる相手ではないのだ。
スネークとて、決して楽観視しているわけではない。
限界があったとしても、使い続ければ必ず使い慣れる。
もし次にターンXと遭遇することがあれば、彼は今以上に危険な存在と化していることだろう。
それまで彼が生存し、ギガバトルナイザーを手放していなければ……という前提でだが。
「いずれにせよ、あの武器……入手できれば、大きな強みになるな」
『使用する気か?慣れない棒術の真似事になど、手を出すべきではないぞ』
「格闘戦だけでなく、狙撃用のライフルとしてもあの武器は優秀だ。例の車輪も、あれなら貫けるかもしれん……
それ以上に……気になることもある。可能であればだが、下手に他の連中の手に渡る前に、こちらで確保したい」
『……わかった。ではそれらの点を踏まえて、対ターンX戦とギガバトルナイザー奪取に関するプランを練ることにしよう。
だがくれぐれも慎重に動いてくれ。このミッション、想像以上に危険なフィギュアやパーツが仕込まれているようだ』
「了解した。では、こちらは物資調達の任に戻る」
一通りのやり取りを終え、カズヒラとの通信は閉じられた。
スネークが気にかけたこと……それは、ギガバトルナイザーの持つもう一つの能力のことだ。
それは本来のバトルナイザーとしての能力。
通常のバトルナイザーよりも遥かに多く、百体ものモンスターをも意のままに操ることができる。
ベリアルはこれで、怪獣墓場に眠る怪獣の霊を甦らせ、手駒として操ったようだ。
死者を甦らせて操る……もし、この機能があの拡張パーツにも備わっていたら?
ナンセンスなオカルトと嗤われそうな話だが、一概にそうとも言えないだろう。
自分達バッテリー仕掛けの人形の命など、所詮は仮初の物に過ぎない。
機能停止したフィギュアを外部から遠隔操作する……その程度であれば、決して非現実的な技術ではないはずだ。
杞憂かもしれない。そこまで偏重した外部パーツは、人形同士の殺し合いに与えられる武器としては相応しくないように思えた。
だが万が一ということもある。注意はしておくに越したことはない。
朝の光が街を照らし始める。
ここからは夜の闇に紛れることもできない。ミッションの難易度はさらに上昇していくだろう。
気を引き締め直し、スネークは再び商店街への道を駆け出した。
【早朝/エリアV(道路)】
【スネーク(MGSPW)@リボルテック】
【電力残量:95%】
【装備:Mk.22(麻酔弾x8/8)、スタンロッド】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(M16A1(ライフル弾x30/30)、ダンボール)
:煙草(ルパン三世)@リボルテック、大型N2ミサイル(エヴァンゲリオン零号機・改)@リボルテック】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:ミッション(BATTLE ROYALE)の達成。
1:フィールド南西の商店街へと向かい、そこで物資調達。
2:寝るための安全地帯の確保。
3:ターンXを警戒。ギガバトルナイザーを確保したい。
◇ ◇ ◇
雪菜はただひたすらに走り続けていた。
自らの罪の意識に、追いかけられているかのように。
なぜ?どうして?一体何が?
あれから幾度となく、心の中で繰り返す。
自分の中から抜け落ちた記憶、その間に起きた事態。
自分がハンター達を攻撃し、その果てに一体のフィギュアを破壊したこと。
それだけではない。もしかしたら他にも、誰かを破壊したかもしれないこと。
わからない。自分の身体に何が起きたのか。
自分の身体の中に、何が潜んでいるのか――
彼女には一つ、思い当たるフシがあった。
ユニコーンガンダムの機能として彼女に搭載された、デストロイモードだ。
今も全身に生々しく残る熱から、それを発動させていたことは確かだった。
だが、発動している間の記憶が、見事にすっぽりと抜け落ちている。
そして、モードが解除したとほぼ同時に、意識は戻った。
……それらの断片的な情報から、彼女は誤った認識を導き出してしまう。
――原因が、デストロイモードにあるのではないか、と。
何かの拍子で彼女の中のユニコーンガンダムの機能・デストロイモードが発動。
その際に自身の意識が失われ、暴走を引き起こした。
暴走の結果、アーレスを手にかけ、ハンター達を襲い、仮面のヒーローらしきフィギュアを破壊した――
現時点で彼女の把握している情報を整理すると、確かに辻褄は合う流れだった。
記憶が不明瞭なため、如何なる経緯でモード発動に至ったのかは不明だが、今の彼女にそこまで考えを回す余裕はなかった。
彼女にとって、その身に装備されたユニコーンガンダムの要素とは、あくまで『武器』であり『装備』である。
ユニコーンガンダムとしての一通りの性能・機能は把握しているし、それらの扱い方もわかる。
しかし、実際にそれらの機能や武器を使用してどんな効果が得られるかまでは、把握していない。
なぜなら、彼女には実戦経験がないのだから。
MSGの企画としてMS少女の素体となった彼女ではあるが、言ってしまえばそれは単なるコスプレの類だ。
戦闘を前提とした存在ではなく、その姿で実際に戦った経験などない。
さらに言えば、今このフィギュアの身体で活動すること自体が、彼女にとっては初めてのことである。
――彼女はあくまで実戦経験がないだけであって、戦い方自体は把握していることは補足しておく。
雪菜同様にMS少女であるヒメ=スカーレットは、初戦からバンシィの力を十分に発揮していた。
この差は、単純に雪菜とヒメ双方の性格的な部分に依る所が大きいといえるだろう。
無論、デストロイモードには別に電子頭脳の理性や意識を失わせるような副作用はない。
現に、ヒメは何の問題もなくバンシィのデストロイモードを使用していたではないか。
いや、そもそも彼女の暴走は、アーレスの――サガの放った悪意の拳による洗脳が原因であって。
デストロイモードやユニコーンの機能など、最初から全く関係がないのだから。
……もっとも、デストロイなどという物騒極まりないネーミングでは、誤解するのも仕方ないのかもしれないが。
自分の身体は、一体どうなっているのか。
自分の中に、一体何が眠っているというのか。
自分の中に存在する未知なる何かに――ありもしないものに、彼女は恐怖する。
故に彼女は、周囲への注意を怠ってしまっていた。
突如、響き渡る銃声。
「ひ……っ!?」
同時に、雪菜の足元に火花が散る。
どこからともなく撃ち込まれた一筋の光線が、彼女の行く手を遮った。
「ほう。貴様が小生の次なる相手ということか」
声の方角に、光線が撃ち出された方角に、雪菜は怯えながら視線を飛ばす。
その先にいたのは、雪菜もよく知るMS‐モビルスーツ‐のフィギュア。
歴代ガンダムシリーズに登場するMSの中でも、最も危険な2体のうちの片割れ。
――新たな獲物に心躍らせる戦闘狂、ターンXだ。
その左手にはビームライフルが握られ、銃口は真っ直ぐ雪菜に向けられていた。
「貴様のその装備……見覚えがあるぞ。黒歴史のガンダムの一つに語られた、ユニコーンのものか!」
ターンXは即座に、雪菜が模したガンダムの名を言い当てる。
彼の電子頭脳には黒歴史そのものが宿っている。そこに記されたガンダムの存在も知り尽くしていた。
その狂気すら思わせる嬉々とした物言いに、雪菜は恐怖する。
彼女もまた、ガンダムシリーズのMSについての知識はある。無論、それに乗っていたパイロットの知識も。
ギム・ギンガナム――彼の人格が、あのターンXにそのまま適用されているとすれば。
「戦場で戦装束に身を包む以上は、貴様も戦う覚悟があってのことであろうなぁ!?」
こうなるだろう。あの男の生き写しであるかのように、実に楽しげに戦いを求めてくる。
雪菜は慌てて、訴えるように叫ぶ。戦う意思はないということを。
「ま、待ってください!私は……私は戦うつもりなんて……」
「隠した所でためにはならんぞ娘!貴様、既に戦いを経験しているな!?」
そんな彼女の僅かな望みは、脆くも一蹴された。
ターンXが見逃すはずもなかった。雪菜の全身に残された、戦いの傷跡を。
「口で何と言おうが、貴様も一応はMSなのだろう!?どうだ、さっそく何体壊した!?」
その言葉に、雪菜の表情が青ざめた。
呼び覚まされるように、自分の中の記憶が脳裏を過ぎる。
自分が壊したフィギュア達の、自分が傷つけたフィギュア達の姿を。
手に残る罪の感触を、ターンXの言葉は容赦なく甦らせてくる。
「ち、違う……違います!壊すつもりなんてなかった!!私じゃない、私、が……!」
その罪から逃げるように、雪菜は叫ぶ。
だがそれは自らの犯した殺しの暴露であると共に、悪魔にさらなる弱みを晒したも同然だった。
「ほう……だが恥じることなどないぞ娘!!戦いこそ、人間に課せられた永遠の宿命!!
その申し子である我らもまた、戦うことは必然といえよう!!」
ターンXの手のライフルが、再び火を噴く。
発射されたビームは先程と同様に、雪菜の足元を挑発的に走った。
「う……うわあああああああっ!!」
恐怖に叫びながら、バーニアを噴かし襲撃者から逃げる。
しかし混乱した頭では、満足な姿勢制御が行えない。
そんな無様な姿をあざ笑うかのように、襲撃者は迫ってくる。逃げ切れない。
怖いけど、戦うしかない。
そう自分に言い聞かせ、雪菜はすぐに手持ちの武器を確認した。
(武器、武器は……っ!?ビームマグナムがない!?そんな、どうして!?)
自身の主力武器が失われていることに、再び青ざめる。
洗脳され意識を失っていた彼女には知る由もないが、先の戦いで彼女はビームマグナムを手放していたのだ。
仮面ライダーオーズの最期の一撃を受けた直前に放棄し、そのまま回収することなく逃げ出していた。
そんな彼女の事情など意にも介せず、ターンXは悠々と迫り来る。
ライフルを取り下げ、代わりにギガバトルナイザーをその手に持ち替えた。
「どうした!?我々は戦ってこそ意義がある!!」
「わ……私達は、そんなことのために作られたんじゃありません!!」
「MSは兵器である!!壊し殺すためのッ!!」
「フィギュアですよ!?私達は!?」
「それを使って殺し合えと言うなら、同じことだ!!」
雪菜の言葉など意にも介せず、叩き壊さんとばかりにギガバトルナイザーを振り下ろしてくる。
雪菜はビームサーベルを手に取り、その一撃を受け止め――
それだけでも、華奢な少女の素体が壊れてしまうかのような衝撃が、全身を走り抜けた。
パワーに耐え切れず、膝をつく。これだけで、両腕は感覚がなくなるほどの痺れに支配される。
「く……ぅぅぅぅぅっ!?」
「それでいい!!我らは壊し合うために生まれたんだからな!!」
飛びそうになる意識をかろうじて持ちこたえながら、雪菜は懸命に反論を叫んだ。
「違う……違います!私はMSG……そういう目的で生まれたわけじゃ……!」
「笑止!!戦うための力、人はそれをガンダムと呼ぶッ!!
そいつに憧れてるから、コスプレなんぞをやるんだろう!?」
「何を、言ってるの……?」
「力に憧れ戦いを望んでいるから!年頃の娘なのに、可愛げのないガンダムの真似事なんかやれるんだよ!!」
突飛を通り越して滅茶苦茶な理屈だ。
ただひたすら自分だけに都合がいい、一方的な偏見と決めつけ以外の何でもない。
「違いますッ!!MS少女は、そういう企画じゃありません!!」
MS少女という企画そのものを侮辱するかのような発言に、雪菜は思わず声を荒げた。
だがターンXの口撃は止まらない。雪菜の有無を言わさず、勢いのままに畳み掛ける。
「本物の戦場に放り出されて!!それですぐさま戦場に適応して簡単に戦える!!
戦う気のないただのコスプレ少女ごときにできる芸当ではない!!
だがお前は早くも敵を破壊したッ!!それはお前は本質的に戦いを望み、求めているということだろ!?」
「そんな……そんなの……」
正論と屁理屈を綯交ぜに、凄まじく自分に都合のいい超理論を構築してくる。
少しでも頭が冷えていれば、こんな酷い詭弁など馬鹿馬鹿しいと一蹴して終わりだ。
いや、たとえ頭に血が上っていようが、真っ向から反発するだけの話だ。
少しでも自分を持っていれば、こんなものに惑わされることなどありえない。
しかし……彼女は惑わされてしまう。
何故なら、彼女は自分という存在に対し、大きく揺らぎを見せていたからだ。
自分がデストロイモードを発動させ、他のフィギュアを殺したのは紛れもない事実。
そしてその一連の記憶がないことが、不安をこれ以上ないほどに掻き立てた。
雪菜が自分を保つには、ターンXの声に反発するには、今の雪菜の心はあまりに弱り切っていた。
確固たる自分を持てるだけの自信は、自らの中の不安定により奪い取られていた。
こうなってしまえば、あとは無理が通り道理が引っ込められるというのが世の常。
雪菜の弱り切った心は、いいように浸食されていく。
「貴様がMSの真似事をする限り、貴様の中にMSが存在する限り!!
貴様はその破壊の願望を切り離すことは――できんのだ!!」
雪菜を押し込んでくるギガバトルナイザーに、力がさらに加えられた。
少女の力では到底対抗できるものではない。
ユニコーンのビームサーベルが弾き飛び、音を立てて地に転がった。
「うああっ……!!」
「弱い……弱いぞ!!ユニコーンがそんなものであるわけがない!!」
地に落ちたサーベルの光の刃が消失する。
雪菜自身も尻餅をつき、その身体は無防備となった。
まだダブルハーケンが――いや、焦りと不安に邪魔されて、思考がそこに行き着かない。
ハンター達を圧倒したほどの戦闘力が、今の彼女からは見る影もない。
通常のユニコーンモードである点を差し引いても、あまりにも彼女は弱すぎた。
戦い方がわからないわけではない。慣れてなくとも、戦おうと思えば戦えないわけではないはずだ。
「何を恥じらう!?既にお前は処女をユニコーンに捧げているんだろうがッ!!
ならばその力で存分に乱れてみせろッ!!力を貪る淫らな本性を曝け出してなぁッ!!」
デストロイモードを発動させて、自分の中の本性を見せろ。ターンXはそう言っている。
その言葉が、雪菜の誤った認識をさらに加速させていく。
(私の中に、そんな心が……?そのために、私は……?)
もしも自分の中に、自分自身も知らない凶暴な本性があって。
デストロイモードが、それを目覚めさせるスイッチとなっているとしたら。
「違う、違……私、は……」
戦える精神状態などでは、なかった。
誰かを傷つけることが、怖かった。
自分が自分でなくなることが、怖かった。
自分の中に見知らぬ存在が眠っていることが、怖かった。
そしてそれが、自分の知らぬうちに誰かを壊してしまうことが、怖かった。
いや――それ以上に。
内蔵電力が、もう残り少ない。
視界にノイズがかかり始める。
その中に、ターンXの黒き棍が、自分を目掛けて振り下ろす光景が見えて――
そこで、雪菜の意識は途絶えた。
◇ ◇ ◇
「興が醒めた。戯れが過ぎたようだな」
ターンXの足元で、少女が倒れている。
遭遇する前と、何ら変わらぬ姿で眠っている。
――油を注ぎ過ぎて、かえって逆効果になったか?
機能停止はしていない。結局、ターンXは少女に手を出すことはなかったのだから。
そして彼女の身体の下には、彼女自身のクレイドルが敷かれていた。
彼が少女に興味を失い、それでいてまだどこか期待をしているが故の、戯れだ。
「小生がわざわざ手を下すこともあるまい」
力なき小娘を嬲り殺すことに興味はない。彼が求めるは強者との戦いだ。
今のような不甲斐ないざまを晒し続けるようなら、どの道この戦場では生き残れはしない。
電力を完全に回復させたところで、すぐに他の誰かに屠られるのは目に見えている。
その一方に存在する、期待。
彼女がユニコーンガンダムである以上、この程度ではないということは間違いないはずだ。
もしもこの戦いの中で彼女にスイッチが入り、吹っ切れることがあるとすれば。
その時こそデストロイモードを発動し、戦いがいのある強敵として目覚めるかもしれない。
無力なまま野垂れ死ぬか、覚醒し自分の前に立ちはだかるか。
どちらであろうと、損をする話ではない。
彼女が期待に応えることを期待しつつ、ターンXはその場を後にした。
「さて……これからどうするか」
最初に戦ったタウバーンとやらが去ってから、それなりに時間も経った。
こちらには十分な足もない以上、今さら無理に追いかけた所で、追いつけることもない。
ならば、新たな敵を求めて街を徘徊するか。
それもいいが、連戦でこちらも少なからず消耗した。次なる戦いに備える意味でも、休息は必要だ。
時間的にも、最初に宣言された6時間の経過まで、長すぎず短すぎずという所か。
それまでにどこか適当な場所で、充電も兼ねて仮眠をとっておきたいところだ。
ここまでの二度の戦いは、どちらもターンXにとっては消化不良のまま終わりを告げた。
結局、この手で一体も屠るには至っていない。不満はある。
だが、まだまだ強者の気配は感じる。ならば、出会いを焦ることはない――
◇ ◇ ◇
――ごめんなさい。
眠りに浸した意識の中で、雪菜は謝罪する。
――ごめんなさい。
自らを気遣ってくれながら、この手で傷つけてしまったハンターに。
その隣にいた、同じように傷つけてしまった女の子に。
そして、この手で壊してしまった、仮面のヒーローに。
意識を失う直前に出会い、その後姿を消した――恐らくは自分が手にかけたであろう、アーレスという男性に。
いや、もしかしたら意識を失っている間に、他にも誰かを壊してしまったかもしれない。
――ごめんなさい。
結局、最後の瞬間まで彼女は力を発動させることはなかった。
彼女の抱いた『恐怖』と、誰かを傷つけたくないという『優しさ』。
それらが、最後までデストロイモードの発動を拒んだのだ。
だがその優しさ故に、彼女の心は傷ついていく。
罪悪感という名の刃が、彼女の心を壊していく。
――どうしてこんなことに?
――私は、誰?本当の私は、何者?
――赦して。助けて。誰か助けて。誰か――
壊れていく心、その中で最後に残った、影。
ヒメ=スカーレット。
孤独なフィギュアである彼女が、唯一寄り添えるかもしれない、まだ見ぬ妹のような少女。
全てに絶望する闇の中、彼女に救いを、光を求めながら――彼女の意識は、落ちていった。
【早朝/エリアQ(路上)】
【ターンX@ROBOT魂】
【電力残量:40%】
【装備:ギガバトルナイザー(ウルトラマンベリアル)@ULTRA-ACT】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(同梱装備一式)】
【状態:右手に損傷(軽微)】
【思考・行動】
基本方針:気の赴くままに闘争を楽しむ
1:ユニコーンの
2:タウバーンを破壊する
【MS少女ユニコーンガンダム@AGP】
【電力残量:5%(回復中)】
【装備:ダブルハーケン(グレンダイザー)@リボルテック】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(ビームマグナム以外の同梱装備一式)、拡張パーツ×1(確認済み)】
【状態:睡眠中。全身に小ダメージ。ユニコーンモード】
【思考・行動】
基本方針:???
1:自身の人格に疑念・デストロイモードの発動に恐怖
※紛失したビームマグナムはエリアL(マンション3F廊下)に放置されています。
◇ ◇ ◇
「くそっ、遅かったか……!」
タウバーンの行き着いた駐車場。
そこにあったのは、目を覆いたくなるような無惨な骸……武装神姫のなれの果てが残されていた。
先程聞いた悲鳴の主は、彼女に間違いはないはずだ。
「惨すぎる……!さっきのターンXとかいうフィギュアといい、どれだけヤバい連中が揃ってるんだ……!?」
少女の命を救えなかった、守れなかった――その無念が彼の中に込み上げてくる。
だが、それと共に、彼には新たな危険フィギュアの情報が与えられた。
「ん……これは!?」
痕跡、だ。
泥のついた足跡らしきものが、僅かに残されている。
東の空から差し込む陽の光が、それを照らし出していた。もう少し暗かったなら、気付くこともなかっただろう。
「これは……まさか、この子を殺した犯人の!?」
跡は駐車場のエリアの外へと続いている。
これを追っていけば、犯人のもとへと辿り着けるかもしれない。
悲鳴を聞いてからここに来るまでに、あまりにも時間をかけすぎた。
犯人はもう近くにはいないだろう。だが、こちらにはロードセクターという足がある。
追跡するならすぐに移らなければ、この痕跡はすぐに消える。
(こんなことできる連中を放っておけば、この子のような悲劇が繰り広げられる……!)
さあ、どうする?
ここでタウバーンには複数の選択肢が与えられた。
一つは、痕跡を辿ってこの神姫を壊した犯人を追うこと。
この残虐性は危険すぎる。一刻も早く手を打たなければ、第二・第三の犠牲が生まれることは間違いない。
そしてもう一つは……ターンXについてのことだ。
本人の戦闘力ももちろん、手にしたギガバトルナイザーもあまりに危険すぎる。
こちらも放置すれば、さらなる犠牲を生むであろうことは容易に推測できる。
しかしターンXは強敵だ。ギガバトルナイザーは勿論、それ抜きにしても半端な状態で勝てる相手ではない。
まだ見ぬ殺害犯の戦闘力も未知数だが、少なくとも神姫を惨殺できるだけの力はある。
これらの敵に対して、こちらは内蔵電力もあまり余裕があるとは言えない。ならば、休息を優先すべきなのか?
だが休息で時間を費やせば、手を打てるかもしれない危険を見逃すことになるのではないか?
(どうするタウバーン……ツナシ・タクト……!?)
これから、自分のやるべき事は。
これから、自分のやりたい事は。
危険な敵を、倒す。それは本当に今やるべき事なのか?そして、倒すことが自分のやりたい事なのか?
……いや、今はここで燻っている暇はない。
ロードセクターのエンジン音が、駐車場内に鳴り響く。
バッテリー仕掛けのバイクが叫ぶ、紛い物のエンジン音が。
皮肉なものだ。
もしもこの音さえなかったならば。
新たな戦いの音が――嘆きの声が、彼に届いただろうに。
そうすれば、彼はすぐにその戦場へと舞い戻れただろうに。
あるいは、彼があと少しターンXとの戦場からの逃走が後に延びていれば。
彼は――きっと絶望に堕ちる一人の少女を救い、支えることができただろうに。
「よし……!」
そんな事など露とも知ることなく、タウバーンはロードセクターを駆り、走り出した。
――青春苦く、茨の道。長くて暗い夜の道。
かつてロードセクターの主であった青年が、そう歌ったことがある。
その言葉だけを見るなら、奇しくもバトル・ロワイアルという名の過酷な道と重なってもいた。
既に日は昇り、東の空は光を見せている。だが、タウバーンの中の夜はまだ明ける気配はない。
――青春は戦うことと見つけたり。
青年は最後まで戦い抜き、悪の手から世界を守り抜き――
そして自身は、最後に全てを失った。
ならば、ここにいるタウバーンの青春は、いや生き方は――?
世界の声は、まだ聞こえない。
【早朝/エリアV(駐車場)】
【タウバーン@ROBOT魂】
【電力残量:35%】
【装備:ロードセクター@S.H.シリーズ(電力残量:80%)】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(スターソードエムロード、スターソードサフィール)】
【状態:ダメージ小】
【思考・行動】
基本方針:実験何て必要ないね
1:現場に残された足跡を追うか、ターンXに対処するか……
※発見した『痕跡』が、ゼオライマー達の物か、それとも実は
エヴァンゲリオン初号機の物かは、後の書き手にお任せします。
最終更新:2014年08月28日 23:13