失われた伝説を求めて ◆ACT//GA03c
琥珀色の男の夢、何処に。
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学校と住宅地を隔てる裏道路沿いに並ぶ街灯のうちのひとつが、その時、不自然にスパークした。
断続的な放電音と共に火花が散り、電灯がそれに合わせて明滅した後、一際目立つショートと共に明かりを消した。
それだけなら、単なる電気機器の故障で片付くかもしれない。危険だからと速やかに業者に連絡が行き、遅かれ早かれ修理されて終わりだろう。
ここが平和な街の一角であるならば、さして注目もされることなく、精々通学中の小学生が話題にするような、つまらない出来事だ。
しかし、あいにく今この瞬間、この街に本来の住人であるはずの人間はひとりもいない。
そして代わりに息を潜める小さな者たちには、今ここで起こっているのが単なる偶発的な故障でないことは理解できるに違いない。
これは故障ではなく破壊であり、しかし故意ではなく事故であることも、居合わせた者がいたとすれば一目瞭然だろう。
何故ならこの破壊をもたらした者たちは、今も戦場を移しながら戦い続けているのだから。
その姿は、正義のヒーローとはほど遠い、バッタの化け物のような醜いシルエットをしていた。
その男『シン』は、自分が足場にしていた街灯のカバーが電灯ごと破壊されたのと同時に跳躍し、光源を失い闇を濃くした周囲を暗視モードで見渡した。
足場と呼べるほど確かな面積を持つ場所が存在しないことを確認すると、電信柱の脇に突き出た工事用の掴まり棒を両手で握る。
あくまで人間が柱を登るために誂えられたそれは身長15センチのシンにはあまりに太過ぎたが、彼の握力と指先の鉤爪は一瞬だけでも体重を支えることに成功した。
その一瞬でシンは全身を軽業師のように捻って再度宙に舞い、空中で両腕を大きく広げて戦闘の構えを取りながら、電線の上に着地した。
接地の衝撃ですら大きくたわむ、この電線という不安定すぎる足場から落ちないように体勢を整えながら、シンは油断無く闇を睨む。
彼が高速振動する鉤爪「ハイバイブ・ネイル」を構え、まさに臨戦体勢に入ったのと、夜を貫くように深紅のボディが懐に飛び込んで来たのはほぼ同時だった。
「おりゃあああああああッ!!」
赤い襲撃者が雄叫びを上げる。
それを新たなる開戦の合図として、シンのハイバイブ・ネイルと、襲撃者――紅のスーパーロボットの爪がぶつかり合った。
互いの爪が互いを弾き、火花を散らし、しかし両者は怯むことなく無数の斬撃を振るい、かわし、打ち合わせる。
そのうちに生まれた僅かな隙を突き、シンの爪撃を掻い潜って手刀を振り上げた赤の機体の前腕部に、ノコギリ状のブレードがきらめく。
シンの胴体をCSCごと切り裂かんとするその一撃に対して、シンは同様に手刀を構え――同じように前腕部に立ち並んだ棘「スパイン・ブレード」で受け止めた。
互いの体重と戦意を乗せた、手刀同士の鍔競り合い。シンと赤のロボットは噛み合ったブレード越しににらみ合い、そして同時に『口を開いた』。
口を開いたというのは、決して比喩ではない。
シンの口はまず人間のように縦に開き、それから昆虫めいて下顎全体が左右に割れた。
赤いロボットは機械ではなく鬼か悪魔のようにその口を開け、立ち並ぶ鋭い歯を剥き出しにした。
「「オォォオオオオォォォォォッ!!!」」
そして叫んだ。
いや、二重に響いたのは、叫びというよりも咆吼だった。
僅か15センチの体から同時に放たれたその轟きは夜風を振るわせ、周囲の空間ごと震動しているような錯覚すら両者に与えた。
気合いと共に双方の前腕部ブレードが再び激突し、衝撃で足元の電線が大きく揺れる。
咄嗟にその反発力を利用して、シンは後方宙返りしながら飛び退き、再び超人的バランスで電線上に着地した。
そして睨む。目の前の敵を。悪鬼のごとき形相を浮かべる、深紅の破壊者を。
同じ技。同じ戦闘スタイル。同じ怪物的な意匠。姿形はあまりにも違うのに、自分と目の前のロボットは不思議なくらい似通っていた。
それに直感だが、自分と相手には、それ以外の何か、もっと深いところに共通するものがあるように感じた。
「風祭真……いや、改造兵士(サイボーグソルジャー)レベル3……!」
赤のロボットは空中に静止したまま、先ほどの咆吼とは全く違った低く静かな、しかし怨恨と殺意に満ちた言葉を発する。
シンはその身に緊張を走らせながら、内心で当惑した。
名乗った覚えはない。なのに自分のオリジナルの本名どころか、その実体まで知られている。
「……ネットツールで検索でもしたのか? 戦いながら、大した余裕だな」
「そうじゃない。知ってるんだよ、お前等のことは。あらかじめ、最初から……俺自身以外のことは……!」
悪魔めいた表情が一層強ばり、言葉の響きが更なる怨嗟を帯びる。
この戦意は何だ。この敵意は何だ。この殺意は何だ。
自分という個人に対する憎しみではない。この世の全てを呪っているような、そんな昏い意志。
「何がなんだか分からないって顔だな。いいだろう、教えてやるよ。お前にだけは、な」
まるで、そんなシンの考えを読むように。
破壊者は吐き捨てるような口調で告げた。
「俺の名は
ゲッターアーク。最後のゲッターロボ……そして、存在しないはずだった61体目のアクションフィギュアだ」
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――遡ること数日前。
総合自律戦闘実験『BATTLE ROYALE』の準備は、滞りなく進んでいた。
様々な思惑をはらみ、選出されたフィギュアは60体。それぞれが異なる姿を持ち、異なる性能を持つ。
戦う術を持つもの、持たないもの。空を飛べるもの、地を走るもの。人間、ヒーロー、ロボット、怪獣、そしてそれ以外。
そしてそれぞれに、人間たちは自我を与えた。
武装神姫には機種固有の設定に沿ったパーソナリティを。それ以外には、原作を反映した記憶と人格をだ。
だが、全フィギュアのコアユニットに人格プログラムが搭載し終わろうとしている時。
ふと、ほんの些細な好奇心が、とある人間の口を開かせた。
あえて既存のキャラクターを原型とするアイデンティティを与えないフィギュア。
そんな存在が、一体くらいいてもいいのではないだろうか。
この戦闘実験に適合するよう調整し、他のフィギュアに対して脅威という名の外的刺激を与える存在。
怪獣王や完全生命体とは違う、理性を持って破壊をもたらすもの。
なるほど、と他の誰かが言う。
イレギュラーな要素はこの盤面に我々の予期しない変化を生み出すかもしれないと。
たとえるなら、トランプの番外カード――『ジョーカー』のように。
しかし、対象はどうする?
60体の設定は既に完了したも同然だ。新たなフィギュアをあてがう必要がある。
目的を考えれば、出来れば戦闘モデルが望ましい。
非戦闘モデルが生き残れないというわけではないだろうが、生存率は高いに越したことはないというのもある。
また独自の人格を前提とした武装神姫では意味がない。
あくまでアイデンティティをあえて与えられていない存在でなければ独自のデータ収集がが出来ないからだ。
そして、イレギュラーは「闘争」を体現し、自らの自我を「進化」させるようなフィギュアであるべきだ。
しかし、そんな条件を満たすようなフィギュアがいるのだろうか?
いるじゃないか。「闘争」と「進化」の具現。そして、永遠に未完成な存在が。
サーガの終わらない終章を象徴するゲッター線の申し子。
その名を『ゲッターアーク』……このフィギュアこそ、61体目の『ジョーカー』にふさわしい。
そうして、イレギュラー・モデルは投入された。彼自身の自我と尊厳を、オモチャ同然に踏みにじる形で。
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「……この街で目覚めた時、俺は震えたよ。空っぽだったからな。俺にあったのは、ゲッター線の意志とでも言うべき、怒りと闘争本能だけだった」
ゲッターアークは、臨戦態勢のまま動こうとしない改造兵士レベル3ことシンを空中から見下ろしながら、静かな怒りを剥き出しながら語った。
「オリジナルの記憶を持たない俺は、せめてとばかりにオリジナルの物語にすがった。だが検索で得られたのは、元々俺に結末などなかったという事実だけだ」
ゲッターロボサーガ。
それは無限の進化をもたらすエネルギー、ゲッター線に魅入られた者たちの戦いの運命を描く物語。
しかしその最終作であるゲッターロボアークという作品は、原作者の逝去によって図らずも未完の終章となってしまった。
その主役ロボットであるゲッターアークもまた、いわば生まれながらに未完の存在だったのだ。
「俺は……ゲッターアークは『虚無』に迎え入れられることすらなかったゲッターだ……!
そんな俺が最後の寄る辺となる記憶すら奪われて、この怒りだけをもってどう生きればいい!」
アークは牙も露わに吼えた。
怒りだけがあった。自分が何者でもないことへの怒りが、今はベクトルを持ってシンへと向かっている。
そのシンは、僅かに目を伏せ、逡巡した様子を見せてからその怪物めいた複眼をゲッターアークへと向け、声を発した。
「……何故、それを俺に話した。お前が人間達の言う番外カード、『ジョーカー』だと言うのなら、その秘密を俺に告げた理由は何だ?」
「お前になら話していいと思ったからだ。永遠の《序章(プロローグ)》を生きるお前なら、俺が理解できると感じたからだ」
ゲッターアークは知っている。
オリジナルの記憶の代わりとしてあらかじめ60体の知識を与えられた彼には、目の前の奇怪な怪人もどきのオリジナルが辿った、
いや、辿ることの叶わなかった幻の運命を知っている。
真・仮面ライダー序章。
遂にその真の物語が描かれることはなかった、永遠のプロローグ。
ただ生きる為に戦い、復讐の為に殺し、それでもヒーローにはなりきれなかった悲劇の男。
その男、風祭真の記憶を継ぐものであれば、「結末を与えられなかった者」として理解し合えるのではないかと思ったのだ。
慣れ合いたかったのではない。傷のなめ合いがしたかったのではない。ただ、理解者が欲しかっただけだった。
「戦って分かった。お前は強い。だが強さを持て余すのも辛いだろう。俺と来い、改造兵士レベル3。俺と物語を創らないか」
「物語……?」
「そうだ。俺はあえてあの人間どもの計略に乗ってやる。だがそれは奴らの為じゃない。俺はこの戦いを通して、俺自身の物語を獲得する!」
物語。
そうだ。自分だけの人生と言い換えてもいい。
記憶を持たず、結末を持たないゲッターアークが戦う理由。
自分自身を手に入れられるなら、自分を弄んだ人間達の掌の上で踊る意味はある。
自分だけの物語を見つけられるなら、他の60体のフィギュアを皆殺しにして、屍の山の上で孤独となる価値がある。
だが、そのアークが共闘出来る存在と見込んだ緑の怪人は、その醜い姿とはかけ離れた清廉な眼差しをもって、アークの提案を打ち払った。
「確かに俺のオリジナルは、ヒーローになれなかった……俺はその記憶だけを引き継ぎ、序章の中だけで生きる存在だ……」
だったら、と言おうとしたゲッターアークをシンは視線だけで制した。
「だが、俺は彼の戦いが無意味だったとは思わない。いや、この俺が無意味にはさせない。風祭真の戦いを、誰にも笑わせない!」
シンの複眼がきらめく。
その輝きは、かつてテレビの中で人類の自由のために悪の秘密結社と戦い続けた仮面の戦士達と同じ光だ。
「かつて風祭真が歩めなかった道を、俺が往く! 俺を改造兵士と呼ぶな! 俺は……俺は『
仮面ライダーシン』!」
仮面ライダー。
自らヒーローとしての名を名乗った改造兵士レベル3……いや、仮面ライダーシンの姿を見て、ゲッターアークは悟った。
自分と目の前の男は、限りなく似通いながらも決定的に相容れない存在だと。
ゲッターアークは背中の避雷針めいたウイングを広げた。
「……決裂だな。今は破壊しないでやる、仮面ライダーシン。俺は俺の為に全てを破壊する。お前はどうする?」
「止めてやるさ。俺は仮面ライダーだからな」
「せいぜいヒーローごっこでもやっていろ。だが次に会う時は、俺の存在証明の為に死ね……!」
ゲッターアークは高空へ浮き上がり、仮面ライダーシンを一瞥もせずに急加速すると、UFOめいたジグザグ軌道でその場を飛び去った。
シンの決意の言葉が電脳内で反響する。
己をオリジナルが成り得なかったヒーローと定義する姿を思い出すたびに、収まったと思っていた怒りが膨れ上がっていくのを感じた。
ゲッター線の本質は進化と闘争。図らずも自分がゲッターの在り方に従っていることにも苛立ちを感じ、アークは更に加速する。
今の自分には破壊しかない。ただ、それでもその先にあると信じる、失われた伝説(ものがたり)を求めて。
【深夜/エリアT(市街上空)】
【ゲッターアーク@リボルテック】
【電力残量:80%】
【装備:なし】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(ダブルトマホーク)、拡張パーツ×1~2(確認済み)】
【状態:損傷軽微】
【思考・行動】
基本方針:戦いに勝ち残り、自分だけの物語を獲得する
1:敵は手当たり次第破壊する
2:仮面ライダーシンに対する同族嫌悪
※最初の60体に含まれないイレギュラー・モデルです。
※原作の記憶を持たされていません。代わりに他の参加者に対してある程度の知識を持っています。
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「自分の物語、か」
残されたシンは、ひとり地面に降り、街灯の明かりの下で佇んでいた。
だが、赤い軌跡が再び戻ってくる気配を見せないことを実感すると、彼は自分の拡張パーツを転送した。
それは三対のマフラーが特徴的な、真っ白いバイクだった。
期せずしてそれは、シンがその名を継ぐヒーローがかつて駆っていた相棒だった。
シンは何も言わずにそれに跨った。
初めて乗るのに、ここがはじめから自分の居場所であったような、そんな気がした。
仮面ライダーを載せて、サイクロン号のエンジン音が闇に轟く。
【深夜/エリアT(路上)】
【仮面ライダーシン@S.H.シリーズ】
【電力残量:70%】
【装備:サイクロン号@S.H.シリーズ(電力残量:100%)】
【所持品:クレイドル、拡張パーツ×1(未確認)】
【状態:損傷軽微】
【思考・行動】
基本方針:オリジナルの代わりにライダーとなる
1:仮面ライダーとして自由のために戦う
※サイクロン号はバッテリー内蔵です。本体の電力を消費しませんが、代わりに充電にはクレイドルが必要です。
最終更新:2014年08月09日 02:10