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INSIDE IDENTITY ◆QotHY4VA.M



朝焼けの街の中をサイクロン号が疾駆する。
内蔵電力で動くサイクロン号は本来なら無音のはずだが"原作を出来る限り再現する"という目的で、擬似的なエンジン音と振動を操縦者――仮面ライダーシンの体に伝えている。
彼の優れた感覚(センサー)は風と排気音の中で、1つの異常を捉えていた。

(……妙だな)

何がかといえば、この街が、だ。
人がいない……それはまだわかる。
だが動物は? 犬猫どころか鼠一匹いない。
それだけではない。自由に空を飛ぶ鳥達は?
ありとあらゆる環境に生息する昆虫類は?

最初は偶然かもしれないと訝った。
故にシンはTブロックの住宅密集地に向かい、裏路地、植木の陰……様々な場所をその小さな体を活かし調査した。
だが、どこにも自分以外に動く影を見つけることができなかったのだ。

全高15cmのフィギュアに擬似的な心を与えるまでに進歩した科学ならば、一切の生物を排除することもあるいは可能であるかもしれない。
だがたとえ技術的に可能だとしても、それを実行に移すには途方も無い財力と権力が必要だ。
その底知れなさは、まるで自身の原作にある"財団"のようだ。
正体不明の圧倒的な力を持つ組織……風祭真が辿りつけなかった悪の組織。

「……だとしても諦める訳にはいかない。俺は……"仮面ライダー"なのだからな」

そう人知れずつぶやいたところで、彼の感覚は新たな何かを捉えた。
複眼の視線の先、住宅街から車道に続く道路の中央に"何か"がいる
それが四肢を持つ人型だと認識した瞬間、ブレーキを掛け、相手の出方を伺った。

「鬼が出るか蛇が出るか……ハッ、鬼の方が出やがったか」

暗闇から歩み出たのは一体のフィギュアだった。
黒と青を基調とした鎧兜姿の男性型フィギュア。
全長15cmでありながら、その全身から威風堂々としたオーラを放つ、長身痩躯の男の姿であった。

「……何者だ?」
「――奥州筆頭・伊達政宗。テメェにちょいと聞きたいことがある」


――数分前


「Shit! なんてspeedだ!」

顔を歪める伊達政宗のフィギュア。
あれから数分後、我々はこちらを砲撃してきたフィギュア……艦隊これくしょんの島風の姿を見失っていた。
彼女のスピードはこちらの予測をはるかに超えていたのだ。
第二次世界大戦当時、島風は当時の駆逐艦として常識破りのスピードを記録している。
それをモデルとする彼女も相当な速度を持っていたということだ。

『参考:
 駆逐艦島風は1943年4月7日の過負荷全力公試で、40.9ノットを記録している』

「あっという間に見えなくなってしまいましたね……」
「チッ……馬でもあれば話は別だったんだがな……。
 Hey、アンタ何か持ってねえか」
「……流石に馬はないですね」

この特別任務につくにあたり私もタイムスクープ社より特殊な装備を幾つか支給されている。
だが、その中に流石に馬はない。

「それにしても……これからどうしましょう?」

我々の現在位置はTブロック。
伊達政宗のフィギュア……政宗自身には『天下を取る』という大目標はあるものの、具体的な行動方針を決めなおさねばならない状態であった。
だがそのときだった。
政宗の隻眼が道路の向こう側に何かを捉えたのだ。

「Be quiet……少し静かにしな」

私は政宗に言われるまま口をつぐんだ。
その時、私の耳に届いたのはバイクの排気音だった。
本当に細やかな、集中しなければ聞こえないような僅かな音……それに気づいたのは流石戦国武将だということだろうか。

「沢嶋とか言ったか。……お前はここで待ってろ」
「どうするんです?」
「ハッ、決まってんだろ。まずは"ご挨拶"ってやつだ」

そう言い残し、彼は道路へと足を進めた。
路地裏から大通りに続く道……人間にしてみれば人一人がすれ違うのもやっとの小さな道だが、彼らアクションフィギュアにとっては広大なフィールドである。
その中央、隠れること無く腕組みをした状態で彼は音の主を待ち受けていた。
そして待つこと約30秒後、彼らは接触した。

「鬼が出るか蛇が出るか……ハッ、鬼の方が出やがったか」

確かに一見するとバイクに乗っていた彼は政宗の言うとおりの鬼……モンスターのようだ。
だが私は『知っている』。
バイクに跨った彼の名は仮面ライダーシン。
『真・仮面ライダー』の主役キャラクターのフィギュアだ。

私はこの会場に潜入するにあたり、タイムスクープ社から事前にある程度の情報を得ている。
私が先程、初見のはずの少女型フィギュアを艦隊これくしょんの島風と判別できたのもそのためだ。
視線の先、バイクから降りた異形が政宗に問いかける。

「……何者だ?」
「――奥州筆頭・伊達政宗。テメェにちょいと聞きたいことがある」

2人は睨み合ったまま、互いに口を開かない。
互いの出方を警戒しているのだ。
この隙に私は本部へと連絡を取ることにした。

「本部、本部。こちら沢嶋です。応答願います」
『はい、こちら本部。古橋です』
「仮面ライダーシンについて、調査をお願いしたいのですが……」
『はい、"仮面ライダーシン"についてですね?
 ……『真・仮面ライダー 序章』の主役キャラクター、風祭真の改造人間レベル3としての姿です』
「……以前から気になっていたのですが、真・仮面ライダーというのは"序章"だけなのですか?」
『はい。ビデオ自体の売上は好調だったのですが企画が移り変わり、ZOやJといった劇場版、そしてその後長期シリーズとなる平成ライダーシリーズへと企画が変化していったようです』
「なるほど……昭和と平成の間をつなぐキー作品だったんですね」

いつぞやタイムスクープ社のライブラリで見た青い仮面ライダーに妙な親近感を覚えたのを覚えている。
たしかあれも平成仮面ライダーシリーズだっただろうか。

『フィギュアとしてはとりたてて危険な付属品はありませんが、戦闘タイプのフィギュアです。接触の際には最新の注意を払ってください』
「なるほど……ありがとうございました」

通信を切り、再び視線を二人に向ける。
そこにはバイクを降りた仮面ライダーシンの姿と刀の柄に手をかけた伊達政宗の姿があった。
2人の間に、一触即発の空気が漂っていた。

「聞きたいこと、だと?」
「ああ。大砲抱えた子供を見なかったか?
 こっちに向かっていきなりShootしてきたんでな……きっちり落とし前付けさせなきゃいけねぇ」
「……それで貴様はどうするつもりだ。その子を破壊するのか?」
「あん?」

返答次第ではただでは置かない。
シンのその気迫が離れている私にも伝わってくるかのようだった。
まるで空気が個体になったかのような緊張感。
誰もがその空気の前には萎縮するか、もしくは敵意を燃やすだろう。
だがその空気の中で、――政宗は笑ったのだ。

「ハッ、独眼竜を見くびるなよ飛蝗の大将!
 子供に興味はねぇ。どういうつもりだったのか問い質したいだけよ!
 俺が興味あるのは天下取りという名のpartyだけだ! you see?」

政宗の返答。そこには一切の迷いがない。
数秒の沈黙の後、シンがゆっくりと構えを解いた。

「……わかった。その言葉、信じよう。
 そこのお前も出てくるがいい」

……どうやら私の存在は最初からバレていたようだ。
私は言われるまま物陰から姿を表した。

私は改めて目の前フィギュア……仮面ライダーシンの姿をまじまじと見る。
ディティールをリアルに再現した表面処理。
第三の目まで作りこまれた禍々しいフェイスパーツ。
電灯に照らされたその姿は一見して怪人のようだ。
だがしかし、その立ち振舞には確かな理性の光が垣間見えた。

「俺の名はシン。仮面ライダーシンだ。
 さっきの質問だが……俺はその少女型フィギュアとは接触していない。
 俺が出会ったのはゲッターアークと名乗った個体だけだ」
「……ゲッターアーク、ですか?」
「ああ……深紅のボディと、鬼のようなシルエットを持った、鬼神のような強いロボットだった」
「で、早速partyを楽しんで来たってところか?」

彼の言うpartyとは言葉通りの意味ではないだろう。
それが意味するのはすなわち――戦いである。

「……何故分かった?」
「少しCoolに考えればわかることだ。
 ただ会話しただけなら"強い"って言葉は出てこねぇ。
 そしてテメェはソイツ以外に会っていない……だったらAnswerは明白ってことだ」

私は内心、伊達政宗の洞察力に舌を巻いた。
流石は一軍を率いる将だということだろうか。
そして仮面ライダーシンは少女型フィギュアに対し保護感情を見せ、我々に対しても友好的な接触を見せている。
ということはそれと相対したゲッタアークは……

「で、テメェがそれだけ言うってことは相当Dangerな野郎みてぇだな」
「ああ、恐らく不意打ちも辞さないだろう……それだけのものを背負って奴は戦っている」
「……何か戦う理由を知ってるみたいですね」

私の問いかけにシンは頷きを返す。

「……奴は、自身の存在を証明するために戦っている。それが理由だ」
「An? そりゃどういうことだ」
「俺はお前たちのことは知らない。
 だがお前たちには恐らく原作、もしくはベースとなる人格があるのだろう。
 しかし奴はそれを持たされていないまま、この空間に解き放たれた」

それはいったいどういうことだろうか。
我々は更に詳しい話を聞くことにした。

「実験には様々な"入力値"があるほうが望ましい、ということだ」

それを聞いて私は内心戦慄した。
たったそれだけの理由で、一つの人格の蹂躙するような真似ができるのかと。
……人間はどこまで残酷になれるのだろうか。
様々な歴史で証明されていることとはいえ、陰鬱な気持ちが

「そして全てを奪われた奴に残されたのは怒りと闘争本能……そして空っぽの絶望だけだ。
 その空虚を埋めるため、奴は人間たちの思惑に乗った。
 自分だけの物語を、破壊によって綴るために」

彼……アークを襲ったのはどれだけの絶望だったのだろうか。
人間である私には想像するしか無いが、それはとても悲しいことのような気がしてならない。

「……気に食わねぇな」

だがそれに真っ向から叛意を示す声が上がる。
左目を鋭く尖らせ、伊達政宗は怒りの表情を浮かべていた。。

「気に食わないとは、一体何に対して……」
「決まってんだろうが! テメェが刃を向けるべきはここにいるfigureじゃねぇ……
 こんなことを押し付ける奴らだろうが!
 Coolじゃねぇな、ゲッターアークとやらよ……!」

私は驚いてた。
私の眼の前にいるのは伊達政宗のフィギュアだ。
ゲームキャラクターの人格を再現した機械じかけの存在。
だが、だというのにその"怒り"に思わず、私は数歩後ろへと下がっていた。
あまりの気迫に気圧されていたのだ。
まるで本物の人間の怒りに気圧されたかのように……!

「ハッ、決めたぜ沢嶋。次のTargetをな……!」
「次のターゲット、ですか……?」
「ああ。俺が天下を取るためには、まず赤鬼退治と洒落込まなきゃいけないらしい……!」

つまり政宗は赤鬼――ゲッターアークの行方を追うということらしい。

「そうか……それがお前の行く道か……伊達政宗」
「止めるかいKAMEN RIDER? アンタは赤鬼に思い入れがあるようだったからな」
「……いや、止めはしない。
 奴を放っておく訳にいかないのは俺も同じだからな」

そういえば我々は仮面ライダーシンのスタンスを聞いていなかった。
そのことについてインタビューすると彼は快く答えてくれた。

「奴が破壊によって存在証明をなすのなら、俺は自由のために戦う。
 たとえ相手がどれだけ強大だろうと俺のオリジナル……風祭真が出来なかった仮面ライダーとしての生き方を貫く。
 それが俺の存在証明だ」
「ハッ、何とも愚直な生き方だな。
 だが、男だったら貫いてみせろよ! そのとびっきりのSpiritでな……!」
「言われるまでもないさ」

表情をゆるめ、互いに笑い合ったように見えた。
正義の味方と戦国武将。
姿形、フィギュアの種類は違えど、彼らにはなにか通じるものがあったのだ。

そしてシンは我々に背を向け、止めていたバイクの方へと歩みを進めた。

「行くのかい?」
「ああ……俺もこのままじっとしている訳にはいかないからな」

だが、その足がピタリと止まる。

「An? どうした?」
「伝えなければならないことがあった。
 奴は……アークは俺達の事を……俺達の原作を知っている。
 そして実験の主催者とつながりのある自分は61番目のジョーカーだと」
「え……」

私はその言葉を聞いて、息を呑んだ。
事前に渡されたこの実験に参加しているフィギュアの情報。
それはあまりにも正確すぎた。
もしやタイムスクープ社もこの実験に関連しているのか……?

いや……それよりも内部に犯罪者、オルタナスナッチャーのような存在がいるのかもしれない。
以前、安土城の一件に巻き込まれた時にもそのようなことがあった。
人の心は弱く、何時の世も犯罪という闇が消えることはない。
もしやこの任務にも何らかの魔の手が関わっているのではないだろうか……
そんなことを考えていたからだろうか。
2人の視線がこちらを向いているのに気づくのが遅れたのは。

「あの……な、何でしょうか?」

私は恐る恐る2人に声をかけた。
先ほどといい、もしかしたらこの場所はニューロ分子が希薄なのかもしれない。
だとしたら特殊な交渉術が破られてしまう可能性もある。
そうなれば彼らにとって私は宇宙人のような存在だ。
警戒され、取材どころではなくなってしまう可能性も高い。

「……もしかして気づいていないのか? お前は……」
「よしときな!」

私に向かって言いかけた何かを、政宗の声が引き止める。

「……何故止める?」
「Useless……無駄だからだ。
 自然と目に入る手や肘を見りゃあ、――いや、それ以前に周りを見渡せば自分がそうじゃないことなんざ簡単に理解できるはずだ。
 だがそれが"ない"ってことは俺やアンタがどう言った程度じゃ変わんねぇってことだろ。
 "そう"なっちまってるのが、必然か偶然かは俺にもわからねぇがな」

目の前の二人の会話の意図は読めない。
"自身の肘や膝を見たところで異常はないし、周囲にもこれといった異常はない"
いや、仮面ライダーと戦国武将……戦闘の達人である彼らにしか知り得ない何かがあったのかもしれない。

「……君自身が、いつか気づくことを願っている」

私に対し意味深な言葉を言い残して、彼は去っていった。
闇夜に消えていくサイクロン号のテールランプを眺めながら私は考えていた。
タイムスクープ社のこと、普段と違う取材対象のこと、そしてこの任務のことをだ。
江戸時代を中心に活動する私に言い渡された、フィギュアの実験を取材するという奇妙なミッション。

今回の任務が一筋縄ではいかない事を肌で感じ取っていた。


【黎明/エリアT】
【仮面ライダーシン@S.H.シリーズ】
【電力残量:70%】
【装備:サイクロン号@S.H.シリーズ(電力残量:70%)】
【所持品:クレイドル、拡張パーツ×1(未確認)】
【状態:損傷軽微】
【思考・行動】
 基本方針:オリジナルの代わりにライダーとなる
 1:仮面ライダーとして自由のために戦う


【伊達政宗@リボルテック】
【電力残量:90%】
【装備:ムラマサブラスター@ROBOT魂】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(愛刀・景秀)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
 基本方針:天下を取る
 1:ゲッターアークを追う

タイムスクープハンター沢嶋雄一@figma】
【電力残量:90%】
【装備:なし】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(タイムスクープ道具)、拡張パーツx1-2】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
 基本方針:アクションフィギュアの取材。
 1:政宗を追って取材。

※ 自分自身がフィギュアである事に気付いていません。
※ 参加者の情報を(少なくとも外見は)把握しているようです。


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最終更新:2014年07月08日 01:15