ふたば系ゆっくりいじめ 596 復讐の為の人生なんて

復讐の為の人生なんて 19KB


制裁 悲劇 理不尽 実験・改造 同族殺し 飼いゆ れいぱー 透明な箱 現代 独自設定 れいぱー退治もの

※独自設定垂れ流し
※やや人間虐め要素あり

「ご用件を伺いましょうか」

女性に促され、男は戸惑いの表情を浮かべた。
美しい女だった。
陽光の下にあったなら、その光のなかに溶けてしまいそうなプラチナブランドの髪。きら
めく湖面を思わせる、深く澄んだ蒼い瞳。顔立ちは彫刻のように彫りが深く整っており、
燦然とその美を主張しながら少女の可憐さも併せ持っていた。
白衣に包まれた体は細い。しとやかな手も優美に伸びる長い脚もまた細く、女をどこか現
実離れした、人形めいた魅力に感じさせる。
男は目を瞬いた。
この場所と、ここに来た目的。それらにあまりそぐわない女の美しさは、やがて男に懐疑
の念を抱かせる。

「あの、失礼ですがあなたは……」

男の問いに、女は自らの名を告げた。

「あ、あなたがあの有名な……」
「ご存知でしたか。でしたらご用件は……」
「はい」

男は座っていたソファから立ち上がった。

「俺の大切なれいむを殺したれいぱーありすに、復讐したいんです!」

ここはゆっくり研究所の応接室。女は、ゆっくり生態学の、それもれいぱーありす対策に
ついての権威なのだった。




復讐の為の人生なんて




れいぱーありす。
溢れる性欲を「とかいはなあい」とうそぶき、死ぬまでゆっくりをれいぷする最低のゆっ
くり。
発情状態では通常種のゆっくりを大幅に上回る身体能力を持つ。だが、その最大の特徴は
独自の価値観だろう。
とかいは。
自分を至上の存在とし、自分のセンスを絶対であると疑わず、自分の為すことすべては愛
に満ちた行為であると盲信する。自分に向けられるあらゆる悪意を「ツンデレ」と曲解し
て都合良く受け取る。
れいぱーありすの「とかいは」とは、閉じた世界なのだ。ゆえに、常識に照らし合わせそ
の罪を自覚させることは不可能に近いと言われている。
男はそのことを知っていた。しかし、あきらめられなかった。
れいむ。優しいゆっくりだった。穏やかなゆっくりだった。かけがえのない、大切な家族
だった。
事件が起きたのは、ほんのわずかな男の油断。
れいむを庭に遊ばせていた時、家を訪ねる者があった。応対に向かい、世間話に興じてし
まった。ほんの30分ほどだっただろう。
庭に戻って男が見たのは、黒ずみ朽ち果てる最愛のゆっくりと、ふてぶてしく笑うれいぱ
ーありすだった。
男はれいぱーありすを捕らえ、それから思いつく限り、ありとあらゆる苦痛を与え続けた。
突き、切り裂き、抉り、焼き、侮蔑し、飢えさせた。
だが、決して殺しはしなかった。ゆっくりは脆いナマモノだが、修復はたやすい。生かさ
ず殺さず、男の断罪は続いた。
しかし、結局れいぱーありすは屈することはなかった。

「とかいはのあいにつつまれて『えいえんにゆっくり』したれいむは、さいこうに『しあ
わせー』なのよ!」

あまりにも身勝手なれいぱーありすのその主張は、ついに覆ることはなかった。
策は尽きた。それでも男は納得がいかなかった。
今でも思い出せる、れいむの優しい声。穏やかな笑顔。
楽しかった思い出は、しかし、思い出すたびに黒く塗りつぶされてしまう。あの、おぞま
しいれいぱーありすの嬌声と淫欲にまみれた顔によって。
そんなとき、男はれいぱーありすについて専門に研究している者がいると聞いた。
そして今日、藁にもすがる思いで、れいぱーありすをこの研究所に持ってきたのだ。

「お待たせしました」

呼びかけられ、男は顔を上げた。先ほど男を出迎えた、れいぱーありす研究の権威だ。
美しい。それに若い、と男は思った。目の前の女は20代半ばほどに見える。欧米人は日
本人に比べて早熟だから、見た目より年齢は低いかもしれない。
多くのれいぱーありすを正しく制裁してきたという女の勇名は聞いている。だから先ほど、
女に言われるままにれいぱーありすを「実験体」として預けた。
だが、ここに来て不安が首をもたげてきた。目の前のこの女に任せてよかったのか? 本
当に、れいぱーありすへの復讐は成るのか、と。

「一時間もお待たせして、疲れました?」

不審が顔に出てしまったらしい。待たされた、という感覚はない。復讐のことで頭がいっ
ぱいだった。れいむが「永遠にゆっくり」してから復讐のことばかり考えていて、時間な
どどうでもよくなっていた。

「いえ」
「では、行きましょう。処置は完了しています」

女に促され、男は研究所の待合室を出た。


 ・
 ・
 ・


「処置されたれいぱーありすをお見せする前に、その原理についてご説明しましょう」

研究所の廊下の道すがら、女は説明を始めた。

「ゆっくりが言語以外で意志疎通を行っているのはご存じですか?」
「心が通じ合う、ということですか?」

男の脳裏にれいむの姿がよみがえる。
言葉などいらなかった。気持ちが通じ合った、大切な存在だった。
男の感傷を、女の怜悧な言葉が断ち切る。

「いいえ。精神的なことではなく、物理的に、です。ゆっくり固有の言葉、『ゆっくりし
ていってね』や『むーしゃ、むーしゃ、しあわせー!』、あるいは『すっきりー』。全て、
周りのゆっくりと示し合わせたように同期をとって発言します。おかしいと思いませんか?
 ゆっくりは常に自分本位で周りのことが見えていない。それなのに、これらの言葉は常
に唱和します」

ゆっくりを悪くいう女の言葉に、男は少々ひっかかりを覚えた。

「ただの習性じゃないんですか?」
「ええ、習性です。ですが、その実現には理由があります」
「理由? ゆっくりが言葉も使わずにどうやってそんなことを……」
「振動を使っているのです」
「振動って、揺さぶったりする振動ですか?」
「ええ、そうです。ご存じかと思いますが、ゆっくりは一定以上の振動を与えると発情し
ます」
「……知っています」
「そして常に同時に『すっきりー』します」
「ええ、よく知ってますよ……!」

男はいらだった声を上げた。女の言葉に、男は醜悪なれいぱーの姿を思い浮かべてしまっ
たのだ。
そんな男の様子を気にせず、女は続ける。

「先ほど言った定型句を口にするときも、ゆっくりはこの振動を使います」
「振動を使うって……それじゃゆっくりは常に震えているとでも言うんですか?」
「ええ、そうです。人間の目では見えず、触れてもわからないぐらいの微細な振動。それ
によって信号を伝えあい、同期をとって定型句を口にするのです」

男の頭の中に、学生時代の理科の実験が思い起こされた。
それは音叉だ。離して置いた二つの音叉。その一つをたたくと、もう一つもやがて震えて
音を放つ。共鳴と呼ばれる現象だ。
だが、ゆっくりが常にそれを行っているなど、男は聞いたことはないし想像もつかない。

「ゆっくりは『すーりすーり』と呼ばれる肉体的接触を特に好みます。それは振動を直に
伝えあうことができるからなのです。また、『すっきりー』に時間を要するのは、新たな
生命の創造という複雑な活動であるため、同期をとるのに手間を要するからです」

女の言うことは理路整然としており、矛盾はしていない。だが、男には受け入れ難い。
男はれいむとの接触において、そんな「特別な感触」を受けたことはないのだ。
戸惑いの中、女の言葉はさらに飛躍していく。

「振動によるコミュニケーションは近距離に限りません。不思議に思ったことはありませ
んか? 『加工所はゆっくりできない』、『おやさいはかってにはえてくる』。活動範囲
が狭く、流通という概念も持たないのに、なぜか遠く離れたゆっくり同士で共通の認識を
持っている。これは振動によって情報を伝播しているからなのです。一匹の得た知識が、
ゆっくりからゆっくりへ次から次へと伝わっていき、その内容によってはやがて共通認識
になる。すべてのゆっくりが発信局となり、中継局となり、受信局となり、ネットワーク
を構築しているのです。このネットワークでゆっくりは種として知識を共有するのです。
……もっとも、ゆっくりの基本的な思考に合わない都合の悪い知識は伝わりにくようです
が」
「……信じられません、そんな話」
「興味がおありでしたら実証データをおみせします。いま言ったことをまとめた正式な論
文もありますよ」

自信に満ちた女の言葉に、男はグウの音も出なくなる。
きっと専門的な知識を持たない男の反論を許さない材料など、いくらでもあるのだろう。

「ゆっくりは痛みにとても弱い。それは、この振動を感知するため、肌が鋭敏にできてい
るためです。また、お飾りはその振動を大きく伝えるスピーカーのような役目を果たしま
す。ゆっくりが時にお飾りを無くした同族を激しく排斥するのは、見た目の区別がつかな
くなるからというだけでなく、このコミュニケーション能力を減ずるからなのです」

女の言葉はもっともらしく聞こえる。だが、男はどうしてもひっかかりを覚える。
ずっと一緒に暮らしてきたれいむ。毎日話した。何度もなでた。れいむのことはなんでも
知っているつもりだった。
そんな振動のことは知らない。ゆっくりだけにしかわからないコミュニケーションがあっ
たなど、男には受け入れ難いものがあったのだ。

「実際にご覧になればおわかりいただけると思います。れいぱーありすに施した処置は、
そのゆっくり特有のコミュニケーション能力を活用したものなのです」

はっ、と、いつの間にかうつむいていた顔を上げると、女は立ち止まり、ドアを開けよう
としていた。
目的の場所に着いたようだ。
部屋の中には一辺三メートルほどの大きな透明の箱が設置されていた。
その中でうごめくモノを見て、そこから響く声を聞いて、男は女の胸ぐらを掴み叫んだ。

「どういうことだっ!?」

透明な箱の中。そこには何匹もの黒ずんだゆっくりのなれの果てがあった。そして、

「んほおおおおおおお!!」

今もなおゆっくりを犯す、男の憎むれいぱーありすの姿があったのだ。

「俺はっ! れいぱーを断罪するためにここに来た! それなのにどうして、あのクズが!
 あの最低のクソ野郎が、快楽をむさぼっていやがるっ!?」
「お、落ち着いて……くだ……」
「これが落ち着いていられるかっ! 俺はあいつにっ! れいむを黒ずませたあいつにっ
……!」
「……復讐……したいのでしょう?」

男は固まった。女の言葉は凍えるような冷たさを持っていた。
男の力が緩むと、女はそっと男の手をどけた。

「あのれいぱーの顔を見なさい」
「顔……?」

女に促され、男はれいぱーの顔を見た。
見慣れた顔だった。れいむのことを思い出すたび、その思い出を黒く塗りつぶす憎いれい
ぱー。巨大な透明な箱の中には、あまりにも見慣れた顔があった。

「……苦しんで、いる……?」

歯を食いしばり、眉を寄せ、目はギョロギョロとせわしなく蠢いている。
まぎれもなく苦悶の表情。それはれいぱーを虐待によって断罪し続けてきた男にとって、
見飽きるほどに見てきたれいぱーありすの顔だった。
だというのに、

「んほおおおおお!!」

れいぱーはれいぷの真っ最中であり、嬌声を上げているのだ。
異様な光景に、男の皮膚が粟立った。

「あのれいぱーありすには、ゆっくりの感覚同期能力を上げる薬剤を投与してあります」
「感覚同期能力……?」
「先ほど説明したように、ゆっくりは振動によって感覚を同期します。通常、れいぱーは
送信側……相手に一方的にすっきりーさせる信号を送っているだけです。ですがあのあり
すは今、受信能力を極端に向上させている」
「よくわからない。どういうことなんだ?」
「簡単に言えば……れいぷしながら、れいぷされる苦しみを感じているということです」

男はありすを見た。

「んほおおおおおおお!」

叫ぶ声の中には、快楽の響きが確かにある。それでありながら、その顔はこれ以上ないほ
どに苦しみに満ちている。
だが、納得がいかない。

「本当にれいぷされる苦しみすべてを感じているのか? もしそうなら、やめるはずだ」

男には理解できなかった。れいぷされる苦しみ。れいむの無惨な遺骸を思い起こせば、そ
れがどれほど苦しいものかは想像がつく。
そんな苦痛を受けながられいぷするなど考えられない。

「やめられないんです。れいぷすれば苦しい。苦しみから救われたくてれいぷする。その
繰り返し。れいぱーありすであるから、快楽がまったくないわけではないから止めること
ができない。喉の乾きを癒すのに海水を飲むようなもの。いくら求めても、決して安息に
いたらない無限地獄」

愛を与える優越感。
肌を擦りつける快感。
相手を蹂躙する征服感。
それがあの快楽に満ちた嬌声だ。

自分という存在を踏みにじられる絶望感
肌を擦りつけられる嫌悪感。
蹂躙される絶望感。
それがあの苦悶の表情だ。

「そしてれいぱーありすは、共感してしまう……」

ありすの動きが止め、犯されるゆっくりとありすはそろって「すっきりーっ!」と叫んだ。
もう何度目かのすっきりーなのだろう。
相手のゆっくりはついに力つき、黒ずみ朽ち果てた。

「……死の、感覚すらも」

れいぱーありすはかっと目を見開いた。口をだらしなく開き、そこから舌をだらりと垂ら
す。
そこには生気というものがまるで感じられない。それはまぎれもなく死相。

「死んだのかっ!?」
「ゆっくりは思いこみのナマモノ。このまま放って置けば死ぬでしょう。でも……」

部屋の一角に待機していた研究員が、透明な箱に備え付けられた扉を開くと、そこから一
匹のゆっくりまりさを投げ込んだ。

「ゆっ!?」

まりさの声に反応したのか、ありすの目が動く。
まりさを見た。もちもちの肌の、生命力にあふれる美ゆっくりだ。

「んほおおおおおおお!!」

ありすは吼えるやいなや、まりさに飛びかかった。
それはまるですがるようだった。おぼれる中、藁を掴むような。あるいは極寒の寒空の中、
やっと見つけたろうそくの灯火に引かれるような。そんな必死さに満ちていた。

「れいぱーありすには、こうして死ぬまでれいぷし続けてもらいます。その過程は記録し
ていますので、ご希望でしたらコピーを差し上げます」

男は呆然と立っていた。どんな苦痛でも代わりにもならないと思っていた。
だが、これは違った。
れいむの味わった苦痛と死の恐怖。そのすべてを同じように、何度も何度も味わう。
なった。復讐がなったのだ。

「ありがとうございます……」

感動に打ち震えながら、男は絞り出すように女に例を言った。


 ・
 ・
 ・


「……もう、終わりです」

あれからずっと、男はれいぱーありすを見つめ続けた。
その苦しむ様を、一瞬たりとも見逃すまいと見つめ続けた。
それから数時間。
ありすはもはや新しいゆっくりを与えられてもほとんど動かなくなっていた。もうそれだ
けの体力がないのだ。

「これで、あいつは反省しましたよね?」

女に問いかける男の声は弾んでいた。

「れいむと同じ苦しみを味わって、あいつも自分の罪がどれほど重いものか理解しました
よね?」

男の問いに、しかし女は沈黙する。

「ねえ、あのれいぱーありすは反省したんですよね……?」
「……きっとそうです。だから、あなたの復讐は終わりです」

女の言葉に、男は違和感を覚える。「きっと」、とはどういうことだ。男はハッとなり、
透明な箱を叩く。

「これを! これをどかせ! あのれいぱーありすと話をさせろっ!」
「落ち着いて……」
「あいつが罪を認めなきゃっ! あいつが反省しなきゃっ! 俺の復讐は終わらない! 
れいむが浮かばれない! 早く開けろ! あのれいぱーと話をさせろ! あいつはもう死
にかけだ、ここからじゃあいつの声が聞こえない!」
「れいぱーありすは苦しんで、あなたの復讐は終わり……それでいいじゃないですか!」
「いいや、だめだ! 早く開けろ! 俺は、れいむのために……れいむの復讐をっ!」
「れいむはそんなことを望んでいないっ!」

男は透明な箱を叩くのをやめた。
女に向き直り、殺意をたちのぼらせにらみつける。

「あんたに俺のれいむのなにがわかるっ!? なに知りもしないくせに!」
「ええ、知りません。でも断言できます。れいむはそんなことを『望んでいない』」
「なぜ断言できるっ!?」
「死んだものはなにも望むことができないからです」

男は絶句した。
否定したかった。叫びだしたかった。だが、何かが押しとどめた。これ以上続けたら、知
ってはいけない、目を向け続けている何かを見てしまいそうに思えたのだ。
だが、女はその何かを、言葉で形にした。

「あなたは逃げている。大切なゆっくりの死という、つらい現実から逃げている。逃げ込
んだ先が復讐。そんなことは、もう終わりにしてください」

うめき、男はがっくりと膝を折った。
そうだ。わかっていた。
れいむは永遠にゆっくりした。もうかえってこない。あの笑顔も、あの声も、二度と見る
ことも聞くこともできない。
その空しさが受け入れられなくて、男はれいぱーありすに罪を認めさせたかった。心の底
から反省させたかった。
だが、れいむはそんなことを望んでいたのだろうか?
きっと望まないだろう。あの優しかったれいむがそんなことをのぞむはずがない。男は、
ゆっくり特有のコミュニケーション能力も知らなかった。れいむが死の間際に何を望んで
いたかなんて、本当はわからない。
男の復讐は、男の意思によるものだ。ただのひとりよがりにすぎない。
そして、復讐を遂げたとして、どうなる?
なにも変わらない。れいむは帰ってこない。虚しさはきっと埋まることがない。

「でも、どうしたらいいんですか……俺はあのれいぱーが許せない。あいつに罪を自覚さ
せたい。すでなければ復讐の意味がない……やらずには終われない……!」
「復讐に意味など求めてはいけないのです。復讐に意味なんてありません。これで終わり
にして、れいむの死を受け入れて……それで、あなたはがんばって生きて、しあわせにな
りなさい」
「れいむを忘れろっていうんですか? れいむのことを忘れて、別な幸せを受け入れて…
…それで脳天気に笑っていろと……?」

女は頭を振った。

「れいむの死を受け入れて、その上で幸せになりなさい」

男は乾いた笑みを浮かべた。

「綺麗事だ……!」
「ええ、綺麗事です。それでもあなたはそうしなくてはなりません。大切なゆっくりの死
を受け入れ、あなたがしあわせになること……それこそが、最高の復讐なのです」

男は泣いた。涙があふれて止まらなかった。
今まで悲しみに目を背けていた。だから泣けなかった。
今、れいむの死に向き合った。だから、泣いた。
女はそんな男をそっと抱いた。
男は暖かさを感じた。だからなおいっそう泣いた。
どのくらいそうしていただろうか。
男は女から身を話し、立ち上がった。泣き腫れた目に、迷いはなかった。

「それでも……俺は復讐したい……復讐が無意味なのはわかる。でも、それでも……! 
この気持ちはどうしようもない……!」

女はため息をついた。身体の底から出すように深く、鉛でも吐き出すように重く。

「この研究所には、過去、あなたのような何人も来ています。私はそのたびに復讐の無意
味さを説くのですが……ほとんどの人が最後にはあなたのように、それでも復讐したいと
言います」
「そいつらは、最後にはどうしたんですか?」

女は目を逸らした。目を伏せ、美しいまつげをふるわせ、

「ひとつ、例え話をしましょう」

そう物憂げにつぶやくと、語り始めた。

「ある年老いた男が、あなたと同じように大切なゆっくりをれいぱーありすによって失い
ました。その男は復讐に一生を捧げることを誓いました。ですが、途中で気がついてしま
いました。れいぱーありすに罪を自覚させ、反省させることなど不可能に近く、残り少な
い自分の寿命ではおそらく成し遂げられないと。その人、どうしたと思います?」

男はぞっとした。復讐をなす前に自分の命が尽きてしまう。それはなんと無念なことなの
だろう。今まで考えたこともない恐ろしい想像に、男は言葉に詰まる。
女は曖昧な微笑みを浮かべた。呆れたような、諦めたような、なにより、悲しげな微笑み。

「その人、諦めなかったんです。その人の恨みは、復讐の念は、それほどまでに強かった。
そして思いついたのです。自分がだめなら、次代に復讐を受け継がせればいい、と」
「そんな! 子供や家族には関係ないだろ!」
「復讐というのはそういうものです。どこかで終わらせなければ、いつまでも続く。怨念
のようなもの」
「……それで、従ったっていうのか?」
「そんな個人的な復讐、普通なら受け継がれなかったでしょう。ですが、その人が復讐を
受け継がせようと決心したとき、折り悪く孫が生まれました。そしてその孫は、れいぱー
ありすへ復讐するための宿命と、そのための名前が与えられました」

ハッと、男は女を見た。
驚きの視線を受け止め、女はゆっくりとうなずいた。

「わたしにはあなたの無念の思い、苦しみ全てを理解することはできません。ですが、復
讐の無意味さだけは誰よりも知っているつもりです。だから、もう一度言います。復讐は、
ここで終わりにしてください」

男には、女に帰す言葉がなかった。


 ・
 ・
 ・


夕日が研究所をおだやかに照らしていた。
その門の前、男は研究所から去ろうとしていた。

「それでは……れいぱーありすの処分は研究所で引き受けます」
「はい、よろしくお願いします」

男の言葉に迷いはないが、表情が曇る。

「……まだ、わりきれませんか」
「ええ……でも、復讐はもう終わりにします。これから時間をかけてれいむの死を受け入
れてようと思います。、そして……前に歩もうと思います」
「ええ。あなたが前に進める日が一日でも早く来ることを祈っております」

女は柔らかな笑顔を浮かべた。
男は思う。
美しい女性だ、と。
夕日に照らされきらめくプラチナブロンドの髪。深い水面を思わせる青い瞳。白衣をまと
ったほっそりとした身体。とてもゆっくりの研究者には見えない。別の道を「選べた」な
ら……どれほど輝かしい未来があったのだろうか?
この人はどれだけの悲しみを受け止めてきたのだろう。そしてこれから先、どれだけの復
讐を受け止めていくのだろうか。
男は頭を振った。自分にそんなことを思う資格など無い。

「ありがとうございました。ンーホ・レーパリス博士」

心からの感謝の言葉を述べ、男は研究所を去った。
ンーホ・レーパリスは、しばらくその後ろ姿を見つめていた。男の姿が見えなくなると、
物憂げに空を見上げ、ため息をついた。
男の自ら背負った復讐は終わった。彼女の背負わされた宿命は、まだ終わらない。



by触発あき

 ・過去作品
ふたば系ゆっくりいじめ 163 バトルゆ虐!
ふたば系ゆっくりいじめ 172 とてもゆっくりした蛇口
ふたば系ゆっくりいじめ 180 ゆっくりばけてでるよ!
ふたば系ゆっくりいじめ 181 ゆっくりばけてでるよ!後日談
ふたば系ゆっくりいじめ 199 ゆっくりたねをまいてね!
ふたば系ゆっくりいじめ 201 ゆっくりはじけてね!
ふたば系ゆっくりいじめ 204 餡小話の感想れいむ・その後
ふたば系ゆっくりいじめ 211 むかしなつかしゆーどろ遊び
ふたば系ゆっくりいじめ 213 制裁は誰がために
ふたば系ゆっくりいじめ 233 どすらりー
ふたば系ゆっくりいじめ 465 おぼうしをおいかけて
ふたば系ゆっくりいじめ 469 おぼうしをぶん投げて
ふたば系ゆっくりいじめ 478 おぼうしのなかにあったもの
ふたば系ゆっくりいじめ 513 ネリアン
ふたば系ゆっくりいじめ 534 ラストれいむロストホープ
ふたば系ゆっくりいじめ 537 地べたを這いずる饅頭の瞳に映る世界
ふたば系ゆっくりいじめ 574 けがれなきゆっくりパーク

上記以前の過去作品一覧は下記作品に収録
ふたば系ゆっくりいじめ 151 ゆっくりみわけてね!



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感想

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  • いや防犯対策しっかりしてたられいぷされないよね?あと名前どうした -- 2023-03-11 06:41:43
  • >>「ゆっくりが時にお飾りを無くした同族を激しく排斥するのは、見た目の区別がつかな
    くなるからというだけでなく、このコミュニケーション能力を減ずるからなのです」

    振動による集団の同期知覚は面白い視点だと思った。 -- 2012-08-04 15:46:17
  • せいぜいただの『アリス』って名前だと思ってたのに、まさか本当にそのまんまとは‥‥。
    最初シリアスで後半も結構良いこと言ってるのに名前で全部台無しだよw -- 2012-01-27 03:58:31
  • ↓↓差別の心算でコメントしたわけじゃねえよ。 -- 2011-05-08 20:06:43
  • ↓↓はいはい差別厨は黙ろうねー。

    親は…この名前にするためだけに改姓までしたのか!? -- 2011-03-06 12:12:09
  • 名前wwwヒデエww -- 2011-03-01 18:32:32
  • どうかんがえてもれいむなんか飼ってる飼い主が悪い
    運良くれいむが死んだんだからそのありすを飼えばよかったんだよ -- 2011-03-01 17:23:22
  • もう少し…
    もう少しまともな名前は… -- 2010-11-25 16:21:29
  • 本当にそのまんま名前背負っちゃってるよ -- 2010-11-11 19:26:21
  • いや、良い話だと思ったぜ…名前は確かにアレだけどww
    イイハナシダナー;; -- 2010-10-18 14:26:24
  • もう宿命すら感じるね、、運命なんて生易しいもんじゃない -- 2010-08-12 09:42:44
  • 最悪だww権威にもなるわww -- 2010-07-23 22:45:25
  • 最後レイパーw -- 2010-07-09 19:45:40
  • 名前が酷い -- 2010-06-29 21:02:58
  • 最後で全てが台無しに -- 2010-06-26 01:25:26
  • ないわー -- 2010-06-25 13:16:42
  • うん、これは酷い名前だ・・・。 -- 2010-06-09 01:25:37
  • 酷い名前だ -- 2010-05-08 23:19:00
最終更新:2009年12月18日 21:26
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