はげの復活(上) 33KB
希少種 現代 創作亜種 独自設定 パニック カオス はげまんじゅうVS市井の人々 二行作
【はじめに】
このSSは、人々と通常/希少/カオスゆっくりの非日常を淡々と描くものです。
過度な期待はしないで下さい。
anko526「はげの行進」の登場人物ゆん物が出てきます。
未読でも、支障はありません。
いつにも増して、混沌とした内容となっております。
特にヒャッハー目的でお読みになると、精神的にアレ化することがあります。
今作は長ーーいので、上中下に区切りました。
ぼちぼちお読み下さい。
(上)は特に、登場人物ゆん物が多いです。
ほとんどは、その場限りのキャラなので、ノリをお楽しみ頂ければ幸いです。
【本編】
『はげの復活(上)』 (作・二行)
#1 『無垢なる混沌』
山は豊かだった。
秋の実りが一帯を潤し、白く点在する岩もまた優しげだ。
そんな自然の中に、小さいながらも美しい泉がある。
僅かにそよぐ水辺に、珍しいものが漂っていた。
ちるのである。
アイス饅頭は、ぼんやりとした顔で、ふらふらと浮いていた。
熱でもあるかのように見えるが、これが普通である。
ここは、ゆっくりが暮らす群れの外れ。
泉の後ろにある森を抜けると、ゆっくりの居住区となる。
群れゆにとっても、ちるのは珍しいらしく、会いに来るゆっくりも多い。
ちるのは希少種には珍しく通常種を毛嫌いしないので、好かれているのだ。
今日も群れに続く獣道から、人影ならぬ饅頭影が近づいてきた。
しかしそれは、明らかに尋常のそれではなかった。
「「はげまんじゅう! はげまんじゅう!」」
「「ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう!」」
ゆっくりらしきものが2匹、元気におうたを歌っている。
お馴染のものとは違い、随分はっきりとしたテーマソングである。
歌い手はこれまた変わっていて、髪の毛やお飾りなど一切なかった。
代わりに左右1本づつ、長いもみあげのような肉茎が伸びている。
これぞ世にも恐ろしい、はげまんじゅうである。
何が恐ろしいのか。
それは、これから起ることをご覧頂ければ、よくお分かりになるだろう。
2匹のはげまんじゅうが、ちるのを挟むような位置を取る。
その顔は陽気な笑顔で、ゲスの如き邪念など微塵も見られない。
「ちるのは、ゆっくりしているねっ」
「だねっ」
当のちるのはボーッとしていて、クリーチャーの存在にも気付いていないようだ。
はげゆの方も、もう何もかもお構いなしに、次の行動に出た。
「でも、はげのほうが、ゆっくりできるねっ」
「だねっ」
右のはげまんじゅうが、ちるのの髪の毛に吸い付く。
左は、ちるのの羽を1個づつ口に含む。
「ちゅるちゅる」
「ぽりぽり」
はげまんじゅうは、ゆっくりのお飾りや髪の毛を食べる。
食べきった後に出来上がるのは、ただただつるっとした、はげまんじゅうである。
ちるのも、そんな目に遭っていた。
青い髪もリボンも特徴的な氷の羽も、今ははげゆの中身の中だ。
「はげまんじゅう! はげまんじゅう!」
「ちるのも、きょうから、はげまんじゅう!」
こうやって、はげまんじゅうは仲間を増やしていく。
外面がはげゆ化すれば、ゆっくり特有の思い込みにより内面も同化するのだ。
「じゃあ、はげはむれへ、かえるねっ」
「だいじなはなしがあるから、はげも、あとで、きてねっ」
2匹のはげゆっくりが帰っていく。
もみもみと自称する肉茎を揺らしながら、例の歌と共に足並みを揃える。
「「はげまんじゅう! はげまんじゅう!」」
「「ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう!」」
ちるのだったものは、見た目は完全にはげまんじゅうだった。
他のそれと違うのは、肉茎が伸びていないことだけである。
しかし、先ほどの来襲者は勘違いをしていた。
泉の側にいるゆっくりは、まだ、はげまんじゅうではない。
「あたいったら、さいきょーね!」
今の今まで考え事でもしていたのだろう。
ようやくちるのだったものは、活発に動き出した。
つまり、さっきまで自分の身に起ったことは、何も認識していない。
内面は、未だにちるののままであったのだ。
それでも外見ははげ上がっている。
顔の付いた、つるっとした球体。
それが虫のように、ふわふわと飛んでいるのである。
生物学者が見れば、卒倒するに違いない。
翌日。
はげの感染は、群れを完全に掌握していた。
「「「「「「「「「「はげまんじゅう! はげまんじゅう!」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう!」」」」」」」」」」
はげの軍団が、山道を下っていく。
その列に、群れのゆっくりだったものは残らず参加していた。
能天気な表情とテーマソングが、山々を圧倒する。
肉茎をプラプラさせて行く様は、まるで何かの行進のようだ。
「みんなー、げんきに、はげてるー?」
「「「「「「「「「はげてるー!」」」」」」」」」」
ある1匹の声に、他のはげゆ達が答える。
どれがどれやらは、見分けが付かない。
「はやく、おやまを、おりよー!」
「「「「「「「「「「おー!」」」」」」」」」」
「そして、ゆっくりをみんな、はげにしよー!」
「「「「「「「「「「おー!」」」」」」」」」」
「はげは、ゆっくりできるねっ」
「「「「「「「「「「はげまんじゅう! はげまんじゅう!」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう!」」」」」」」」」」
「ヒャッハー! ここが地獄の一丁目だー!」
唐突に、はげの行進を止めたもの。
それは革ジャン・火炎放射器装備の、モヒカン鬼威惨であった。
「汚物ゆは消毒だー!」
機械から激しく噴出した炎が、はげまんじゅうを焼き尽くしていく。
「まるやけー」
「こんがりー」
「みんな、ばいばーい」
「ぷれっつぇる!」
「はげまんじゅう! やきまんじゅう!」
「ゆっくり、もえてる、はげまんじゅう!」
「はげまんじゅう! やきまんじゅう!」
「ゆっくり、こげてる、はげまんじゅう!」
「はげまんじゅう! やきまんじゅう!」
「ゆっくり、くろずみ、はげまんじゅう!」
「ヒャァァア! うるせぇぇぇぇぇ!」
はげまんじゅうは、鬼威惨が喜びそうな苦悶や悲痛とは無縁である。
ご陽気に生き、ご陽気に死んでいく。
それでも今、行われているのは虐殺であった。
仕事を追えたモヒカンが、ぶつぶつ言いながら帰っていく。
ちるのだったものは一部始終を、木々に身を隠しながら目撃していた。
マルキュー脳にも、この光景は鮮烈に焼き付いたに違いない。
ただ1匹死を免れた、はげちるの。
よく見せる虚勢も、今は、見る影もない。
それからというもの。
泉の側で佇む時間だけが、長くなっていった。
秋を過ぎ、冬になり、年が明けた。
中身がアイスなだけに、はげちるのは冬ごもりをすることもない。
その日も、ちるのは泉の側にいた。
今までと全く同じように、ひたすら水辺に漂っている。
しかし、たったひとつだけ、違うことをやった。
ちるのは、俯(うつむ)いたのだ。
昨日までは、常に前だけを見ていた。
そうすることで、淋しさに耐えていたのかもしれない。
視線を下げた先にあったのは、泉に映る自分の姿。
ちるのではない、はげまんじゅうの全身。
「あたいったら、はげまんじゅうね!」
それを認めた瞬間に、はげちるのの両端から肉茎が伸びる。
ちるのだったものは、ようやく、自分が何者であるかを知った。
こうして、はげまんじゅうは蘇った。
たった1匹のそれは、咲き誇るような笑顔で山道を下りる。
道の先には林があり、そして、街がある。
孤独な行進を続けるはげゆの中身には、先達の全てが刻まれていた。
「はげまんじゅう! はげまんじゅう!
ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう!」
野良ゆっくりは、冬でも、割とたくましく出歩く。
生ゴミ等を漁る狩りは、季節の影響を受けにくい。
適当なぬくぬくプレイスさえ確保できれば、冬でもそれなりーに暮らしていけるのである。
無論、凍死するゆっくりもいる。
しかし梅雨に流され、猛暑に焼き殺されるゆん生である。
冬ばかりが、特別なのではない。
クリスマスのイルミネーションの下にも、お正月の門松の側にも、野良ゆはいた。
それは正月を過ぎ、本格的な寒さを迎えている今も、変わりはない。
ダンボールや暖かい機械の下を住処としつつ、今日もまた街をさまよう。
山から来たはげまんじゅうが、そんな野良ゆと出会うのは必然であった。
「はげまんじゅう! はげまんじゅう!
ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう!」
「うるさいよ!
れいむのおうちのまえで、へんなおうた、うたわないでね!」
「ちゅるちゅる」
「れいむのかみのけさん、たべないでぇぇぇ!」
「「はげまんじゅう! はげまんじゅう!」」
「「ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう!」」
「おかしなやつがいるのぜ。せいさいっしてやるのぜ!」
「ちゅるちゅる」
「かみかみ」
「ばりざのおぼうじど、ぷろんどざんがぁぁぁ!」
「「「はげまんじゅう! はげまんじゅう!」」」
「「「ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう!」」」
「むきゅ、そこまでよ! このまちいちばんのけんじゃが」
「「「「はげまんじゅう! はげまんじゅう!」」」」
「「「「ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう!」」」」
「わからないんだねー、わかるよー」
「「「「「はげまんじゅう! はげまんじゅう!」」」」」
「「「「「ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう!」」」」」
「すかるふぁっく!」
「「「「「「「「「「はげまんじゅう! はげまんじゅう!」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう!」」」」」」」」」」
はげの大行進が始まるまで、さほど時間はかからなかった。
アスファルトを、はげまんじゅうが埋めていく。
人々は、怪訝とも唖然とも付かない表情で、それを見送る。
ただここに、看過を許さない男達がいた。
「ヒャッハー! わけわからんが、虐待だー!」
街の愉快なモヒカン鬼威惨である。
彼らはある男に憧れ、一様に髪を逆立て、革ジャンに身を包んでいた。
「ヒャッハー! 喰らえ、怒りの虐待スターンプ!」
大層な名前を叫びつつ、モヒカンは、はげゆを踏み付ける。
苦痛が響いた。
「痛ぇーっ!」
「どうした、モヒカン!」
「足の裏が、刺ささるように痛えよ!
気を付けろ、モヒカン。こいつら、みょんに硬えぞ!」
「ならば喰らえ、復讐の虐待シュート!」
モヒカンは、シンプルに蹴り飛ばした。
今度は鮮やかに決まり、はげゆは軽やかに飛んでいく。
そしてビルの壁に跳ね返って、モヒカンの頭に当たった。
「痛ぇーっ!」
「どうした、モヒカン!」
「気を付けろ、モヒカン。こいつら、みょんに硬えぞ!」
「ならば喰らえ、復讐の虐待シュー」
「それはもういい」
「とにかく、蹴れ! 蹴れ!」
モヒカンは、蹴った。蹴りまくった。
なるべく跳ね返らないように、時にはソフトタッチに、蹴った。
そして、モヒカンは気付いてしまった。
「なんだ、こいつら」
「全然、痛がってないぞ」
「ドMか? てんこなのか?」
「喜んでもいねぇよ。それでも笑ってるんだよ」
「もう俺、足先が痛えよ」
「いったい、中身は何なんだよ! こんなに硬いゆっくりがいるかよ!」
「「「「「「「「「「はげまんじゅう! はげまんじゅう!」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう!」」」」」」」」」」
「おいおいおいおい、近付いてんぞ」
「くんな、くんなよ・・・」
「何でこいつら、虐待できねぇんだよ」
「蹴っても蹴っても、潰れないぃぃ!」
「はげはゆっくりできなぃぃぃ!」
「おい、しっかりしろ! おい・・・」
「「「「「「「「「「はげまんじゅう! はげまんじゅう!」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう!」」」」」」」」」」
「「「もうやだ、おうぢがえるぅぅぅ!」」」
地面が、割れたように見えた。
それほどの衝撃だったのだ。
3人のモヒカンの前にいたはげまんじゅうは、粉みじんに消し飛んでいた。
「大丈夫か、お前達」
「唐井のアニさん!」
はげまんじゅうの破片が舞う、向こう側。
短髪スーツ姿の男が、手刀を構えて立っていた。
#1 『愚者の選択』
3つのモヒカンが、短い髪に集まっていく。
「まさか、チョップで制裁しちまったんですか?」
「やっぱり、アニさんは強え!」
「すげぇよ! あこがれちゃうよ!」
唐井猛(からい・たけし)は、少し後悔していた。
封じたはずの業を、使ってしまったのだ。
「いや俺はもう、引退した身だからな」
「そんなこと言わないで下さいよ」
「俺達もう一度、唐井のアニさんのヒャッハーを見たいんですよ」
「アニさんがいたから、俺ら、鬼威惨やってるんスから」
「お前達、これからも鬼威惨でいたいのか?」
「「「当然ッス!」」」
「ならば、良いことを教えてやる」
そう言って、唐井はまだ残っているはげまんじゅうを指差した。
「あいつらには、関わるな。
あれは、ゆっくりであって、ゆっくりじゃない」
「じゃあ、何なんですか?」
「カオスゆっくりだ」
「カオス?」
「虐待鬼威惨じゃ、勝ち目はないってことだ」
「でも、アニさんはチョップ一撃で制裁したじゃないですか?」
「負けるのは、身体じゃない。心だ」
「こころ・・・」
「さっきは身を持って、知っただろ?
あれを相手にし過ぎると、心が壊れる。だから、やめとけ」
「ヒャアアアアア!」
モヒカンの雄叫びが聞こえた。唐井の周りにいる者ではない。
少し離れた路地裏からだ。
歓喜の歌声かとも思えたが、何か、おかしい。
4人の男が、声の主へ足を向ける。
「ヒャ、ヒャ、ヒャアア・・・」
「どうした、モヒカン!」
「モヒカン。それに、唐井のアニさん」
薄暗い路地裏に、腰を抜かしたモヒカンがいた。
「何を見た?」
「アニさん、あ、あれ」
アスファルトの上に尻を着いたモヒカンが、指で奥を示す。
4匹のはげまんじゅうが、仲良くテーマソングを歌っている。
「「「「はげまんじゅう! はげまんじゅう!」」」」
「「「「ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう!」」」」
「あいつら、野良まりさの飾りや髪の毛を、食いやがったんだ。
そしたら、まりさも、あいつらと同じみたいに・・・」
「はげまんじゅうは、ゆっくりを丸ハゲにして仲間を増やす」
「仲間を? それが、カオスゆっくりなんですか?」
唐井は答える代わりに、はげまんじゅうへ近付いた。
「モヒカン、まりさだったヤツは、どれだ」
「今、アニさんの足元にいるヤツです」
言われるが早いが、それをつかみ上げて、左右に引っ張る。
「みっちみちー」
「「「みっちみちー」」」
皮膚に亀裂が入るほどの虐待を受けているにも関わらず、はげゆは笑顔だ。
仲間もニコニコとそれを見上げて、被害ゆと唱和したりする。
脅えているのは、モヒカンの方だ。
「くぱぁぁぁぁ!」
はげまんじゅうが、裂けた。
何の悲愴感もない、断末魔と共に。
中身が音を立てて、地に落ちる。
「あっはっはっは」
「くぱー、だってー」
「はげはしんでも、ゆっくりしてるねっ」
虐待を楽しんだ、モヒカンの感想ではない。
仲間の死を前にした、はげまんじゅうの言葉である。
唐井猛は、足元に転がった『中身』を拾い上げた。
小豆色だが、硬くて、冷たい。
「どうりで硬いはずだ」
「それは何なんです?」
「あずきバーってあるだろ。それと同じものだ」
「アイスの中で最も硬いとされる、アレですか」
「元々、ちるの種だったのかな? 以前は、ただの餡子が入ってたはずだが」
「ちるの種って、それはまりさだったんですよ?」
「はげになる前は、な」
「待ってください、アニさん。今、以前って言いましたよね。
もしかして、カオスゆっくりを虐待したことがあるんですか?」
短髪の男は、肯いた。
逆立てた髪が、瞬間、喜ぶように揺れた。
「だったらカオスだかはげだかを、俺らと一緒に制裁して下さいよ!」
「「「アニさん!」」」
「言っただろう。カオスゆを虐待すれば心が壊れる、と」
男の手が、はげまんじゅうの中身を離す。
乾いた音を立てて地にぶつかり、割れた。
「もう俺は鬼威惨になれない。ゆ虐すると、嫌なことを思い出すんだよ」
「そんな!」
「希望はないんですか!」
「もう一緒に虐待してくれないんですか?」
「やだー!」
「はげまんじゅうどもは、行政に任せとけ。
これだけの騒ぎだ。流石に何とかするだろう」
唐井はこれ以上口を開くことなく、その場を後にした。
語れば語るほど、どこかにある古傷が、うずくような錯覚を覚える。
街は夕焼けに染まり、人々はそそくさと家路を急ぐ。
はげまんじゅうの群れだけが、活発に動いていた。
唐井は、だらしなくテレビを見ている。
芸人が出て来ては消えていく様を、クスリともせず眺めていた。
「兄さん。最近『ゆたた』のダイレクトメール、見てないみたいだね」
童顔に無精髭を付けた青年が、ちゃぶ台に肘を付いている。
唐井猛の弟で同居人の、強(つよし)である。
「興味がない」
「この前まで、穴開くほど見てたじゃん。
ヒャッハー! 新作の虐待グッズだー!って」
「ゆ虐からは、足を洗ったんだ」
「兄さんからゆ虐を取ったら、何が残るの」
「真っ当なフロアマネージャーとしての、信頼と実績」
「つまんないね」
ちゃぶ台の上には、開けられてもいない封筒が無造作に置かれていた。
派手なデザインの中央には、『ゆ虐ネット・ゆたた』の文字が躍っている。
「じゃあ、僕、仕事にいくから」
「お前な、その髭で『僕』はやめろよ。
だいたい老人ホーム勤めで、その無精髭はないぞ」
「しょうがないよ。
おじいちゃんもおばあちゃんも、僕を『ヒゲの人』って呼んでるんだから」
「早く別の特徴を見つけてもらえ」
「いってきます」
似合わない無精髭が、部屋を出て行く。
アパートの階段から音がして、遠ざかっていった。
唐井兄はテレビを見ながら、夕飯はラーメンにしようなどと考えていた。
液晶の中で、売れない漫才師がネタを披露している。
「「はいどうも、水袋砂袋です」」
「いやー、この前ゆっくりを殴ったら、骨を折っちゃいましてね」
「お前、どんだけ貧弱なんだよ」
「砂袋さん、ああ見えてもゆっくりには餡子がたっぷり詰まってるんですよ」
「水袋は、水風船にも負けるからな」
「ゆっくりは、重いんです」
「ゆっくりは、軽いんです」
「重い」
「軽い」
「重い!」
「軽い!」
「「はいはい、設定次第設定次第」」
久々に饅頭と戯れたこともあり、唐井猛はこってりしたものを欲していた。
こってりした男の食べ物といえば、『ラーメン次狼』を置いて他にはあるまい。
そんな自明の理に基づき、唐井は次狼ののれんをくぐった。
男くさいラーメンとはいえ、店内には女性客もチラホラ。
中でも、入口近くのカウンター席にいた3人の女は、ちょっと目を引いた。
ともあれ唐井は食券を買い、セルフの水を取ると、開いてる席に座った。
3人の女性客の近くだったのは、たまたまである。
たまたま座ったからには、その会話が漏れ聞こえて来るのも、仕方がない。
「私、ボンちゃんと結婚するのよ・・・」
「おめでとう、荒沢さん、おめでとう」
結婚宣言をした女は、ハイネックを着ている。
泣きながら祝福している方は、灰色の髪とアホ毛が特徴的だ。
「ありがとう嘆木ちゃん。私、幸せになるからね」
どうやら妙齢のハイネックが荒沢、心優しいアホ毛が嘆木というらしい。
そして一番入口に近い席に、黒い眼帯をした女が赤ら顔で座っている。
「ほら、D.Oさんも」
「お、おめでとうございます・・・」
D.Oと呼ばれた女は小さく息を切らしている。表情もまるで酔っ払ってるようだ。
もしかして熱いのだろうか。ラーメン屋なのに、コートなんか羽織っているからだろう。
脱げばいいのに。
唐井は厨房に目を向けた。
ワイルドな店員と視線がかち合う。
そろそろ、トッピングを聞かれる頃合だろう。
「にんにく入れますか!」
「ニンニク、野菜、めーりんマシで!」
「じゃお!」
唐井が注文を終えたのと、3人娘の席にラーメンが並べられたのは、ほぼ同時だった。
嘆木のどんぶりが、一際うず高い。
「うまいッス。おめでたい席での次狼さんは、うまいッス」
「ほらほら嘆木ちゃん、もう泣き止んで」
「「「「「はげまんじゅう! はげまんじゅう!」」」」」
「「「「「ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう!」」」」」
やたら聞き覚えのある歌声が、唐井の盗み聞きを妨げた。
振り返ると、そこにはやはり。
「「「「「はげは、ゆっくりできるねっ」」」」」
カオスゆっくりが、券売機の前に並んでいた。
ちゃんと順番を守っているのは、感心するべきか、否か。
「ここに、めーりんがいるよねっ」
「めーりんを、はげにしようねっ」
「そうすれば、じゆうに、しゃべれるねっ」
「げんきにはげれば、ふりーだむっ」
「はげててごめんねっ」
店内がざわつき出した。
次狼のコッテリ分を一手に担う、自家製めーりん。
それがはげるなんて、とんでもない。
戸惑う人々には目もくれず、厨房へと繋がる道へ、はげが往く。
そこに颯爽と立ち塞がったのは、店員でも唐井でもない。
眼帯コートの女、D.Oだった。
彼女はハラリとコートの前をはだけ、その中にあるものを、はげゆに晒す。
「D.Oさんの公開露出自虐プレイが出たわ!」
「流石、『ハートキャッチ痴女キュア』の名を欲しいままにする女(ひと)ね!」
D.Oの麓に到着したはげまんじゅうが、無邪気な視線を上へと向ける。
「じゃんぐるー☆」
正直な感想であった。
「ぴんくいろのくさが、うっそうとしてるねっ」
「これは、はげさせないと、いけないねっ」
「ちきゅーしんりゃくだー。のりこめー」
「わぁーい」
D.Oの股座付近目掛けて、5つのはげが烈風のように飛び掛る。
見かねた。
唐井は女とはげゆの間に割って入り、右足で蹴り上げた。
「シュゥゥゥーッ!」
一撃で、5はげは仲良く吹っ飛ぶ。
その先には、次狼の入口。
察しの良い常連客が、店の引き戸を開けた。
「「「「「ちょー! えきさいてぃーん!!」」」」」
断末魔と共に、店外という名のゴールへ、はげまんじゅうが消えていく。
次狼を愛するもの達が見せた、見事な連携プレーであった。
「やったー! 次狼は守られたー!」
「ウチのめーりんは、はげてねー!」
「じゃお! じゃお!」
「寒いから、早く閉めろー!」
「おー!」
店内は無駄に沸き上がる。
お前ら見てただけだろ、という声を男は呑み込んだ。
そんな喧騒の中、唐井の指先に、しなやかなものが絡む。
「恥丘(ちきゅう)を守って頂き、ありがとうございました」
開け放たれたままのD.Oが、男の手を取り、優しく握っている。
手元を確認するため視線を下げると、ついつい目に入ってしまった。
「じゃんぐる・・・」
唐井は部屋に戻ると、早々に寝床に入った。
布団の中に入り、掛け布団をみぞおち辺りまで下げる。
眠れない。
別に刺激的な丘を見たからではない。
第一、上から確認できるのはピンクの森ばかりで。
そうではない。
忘れていたのに、思い出してしまったのだ。
唐井には、雨宮という古い友人がいる。
大学でゆっくりを研究して口を糊する、物好きにも程がある男だ。
彼は仕事柄、ゆっくりを教育したり、あまつさえ改造を試みたりする。
はげまんじゅうは、雨宮が作り出した。
さらに悪いことに、生態調査と称して群れに放ってしまったのだ。
そして群れは、はげ上がった。
秘密裏に事態を収束させるため、雨宮は唐井を頼った。
ゆっくりを虐待虐殺し放題という甘言に、ゆ虐好きはまんまと引っ掛かる。
クリーチャー相手と知って鬼威惨は渋ったが、最終的には受けた。
それからのことは、重いトラウマとなって圧し掛かっている。
どんなに潰しても、焼いても、殺しても、はげまんじゅうは笑っていた。
それは初めて目にする、カオスゆっくり。
心が気付かないうちに、壊されていく。
最終的に、はげ化したドスとも戦った。
10m級というふざけた大きさの個体だ。
正気ではなかったのだろう。
唐井は、素手で立ち向かった。
気付けば、弟の車の中で寝かされていた。
全身丸裸で、ドスの皮が毛布代わりに被せられている。
後から聞けば、あにゃるから体内に入り、内部から爆散させたという。
今でも信じられないし、それを信じてはいけない気がする。
そして唐井猛は、鬼威惨を辞めた。
ゆ虐に資格や免許があるわけではない。
あくまで心の問題だ。
それでもモヒカンを剃り、革ジャンを後輩に譲ると、周囲は事件扱いまでして騒ぎ立てた。
唐井は、全て無視した。
二度と、ゆ虐はしない。そう決めたはずだったのに。
唐井の意識が、眠りの中へ混ざっていく。
頭の中に、様々な事象が落ちては濁り出す。
はげまんじゅう。カオスゆっくり。自己増殖。行進。笑顔。
モヒカン。ゆ虐。過去。業。
次狼。アラサーがたどりついた島。アホ毛がすする山。美しく生える森。
そうだ、雨宮にメールを送っておこう。
ほんの少しだけ目覚めている部分が、唐井に告げた。
翌朝。
携帯の履歴を見る限り、メールはちゃんと送れたようだった。
肌寒い。
布団の中で蠢いていると、窓の向こうから嫌な歌が流れてくる。
「はげまんじゅう! はげまんじゅう!」
「ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう!」
男は跳ね起きると、窓を開け外気に身を晒す。
2階から見下ろした光景。できれば夢の続きと思いたい。
「「「「「「「「「「はげまんじゅう! はげまんじゅう!」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう!」」」」」」」」」」
最早、行進とすら呼べなかった。
はげまんじゅうが川となって、道の上を流れていく。
昨日とは比べ物にならないほど、爆発的な増殖だった。
人のものだったはずの往来に、人影は見えない。
このような状況下で、まともに通行できるはずもなかった。
唐井は辺りを見渡し、出来る限り遠くまで瞳を凝らす。
その結果、気付く。
「・・・これだけの騒ぎになって、何故、行政も警察も動かないんだ?」
中身は最硬度のあずきアイスとはいえ、所詮は饅頭。
消防車で放水でもすれば、鎮圧は簡単なはずだ。
男は窓を閉め、TVのスイッチを入れた。
アナウンサーが、見覚えのある風景の中でマイクを握り締めている。
「ご覧のように、この街は謎のゆっくりによって占拠されてしまいました!
このゆっくりは『はげまんじゅう』を名乗り、世話品市一帯を包囲しています。
はげまんじゅうは、あらゆるゆっくりを、はげにする程度の能力を持っています。
世話品市にお住まいの方は、決して飼いゆを外に出さないで下さい!
このはげまんじゅうの中には、感染した飼いゆや商品ゆが大量に含まれていると見られます。
そのため、行政も一斉駆除などの対応が取れない模様です。
政府も前例のない事態に・・・」
唐井は、静かにリモコンのスイッチを切った。
「お役所仕事が・・・」
家の中は、静かになる。
しかし、外からは混沌とした歌声が押し寄せ、心を乱した。
感情が揺れている。
携帯電話が鳴った。
手に取る。
声の主は、元凶であった。
「やあ。随分愉快なことになっているようだな」
「雨宮。今、どこにいる」
「アメリカだ」
「アメリカ?」
「YHKの取材に同行してるんだ。なにせ世界で始めて純ドスの撮影に」
「何がドスだ!
こっちはお前が作った化け物のせいで、大変なことになってるんだぞ」
「知ってるよ。市も国もお手上げだってな。
だからといって、私に何ができるんだ?
急いで帰って来て、カメラの前で切腹でもすれば良いのか?」
唐井は頭を激しく掻いた。
長い付き合いだが、この物言いには本当に、慣れない。
「だったら知恵を貸せよ」
「知恵も何も。法が無力なら、個人が頑張るしかないだろう。
ましてや、相手はゆっくりだ。ゆっくりを始末する存在は・・・分かるよな?」
「相手は、カオスゆっくりだぞ。並みの鬼威惨でどうにかできるか」
「私は、そいつらと戦って、帰ってきた男を知ってるがね」
「俺にやれってのか?」
「他に誰がいる?」
「俺はゆ虐からは足を洗ったんだ」
電話の向こうから、低く長い笑い声。
太平洋を挟んで、唐井は馬鹿にされている。
「何がおかしい」
「唐井。鬼威惨が、ゆ虐に染まった人間が、普通の人間に戻れると思うのか?」
無意識に、唾を飲んだ。
存外大きな音を立てたので、それにさえ少し怯む。
「お前の全身には、ゆっくりの餡子が染み込んでるんだ。
それから目を背けて、引退だ?
水袋砂袋と組んでお笑いでもやるつもりか?
やあ、水袋砂袋虐袋。デビューしたなら見に行ってやるぞ」
「・・・お前とは、絶交だ」
「仲良くしてきたつもりはないな。私は馬鹿な鬼威惨を利用してきただけだ。
友達とでも思ってたのか?」
「この糞袋が! 今度見かけたら、ドスに食わせて饅頭の具にしてやるぞ!」
「そうだ、俺を怒れ、恨め、罵れ。
そして、お前のやるべきことを見失うな」
電話が、切れる。
唐井は、いつの間にか自分がはげまんじゅうの真上にいることに気付いた。
窓から飛び出したらしい。
着地の衝撃で押し潰す。
はげゆが2ダースほど四散した。
全体から見れば僅かな数だ。
拳を振るい、足を打ちつけ、五体を衝動に委ねた。
誰もいなかった。
他人も、友人も、はげまんじゅうでさえも、唐井の蹂躙を見てさえいない。
「「「「「「「「「「はげまんじゅう! はげまんじゅう!」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう!」」」」」」」」」」
大量のカオスゆは、仲間の死さえ眼中にない。
ひたすら歌い、歩き、笑っている。
唐井猛は、尻を地に付けた。
息が上がっている。
汗で濡れた四肢の上を、はげまんじゅうが流れていく。
寝転がる。
本当に川の中のようだ。
視界には、はげゆの底部と空が交互に現れる。
はげのテーマソング以外は、何も聞こえなかった。
普段なら人の作ったものが、煩わしいまでに泣き喚いている時間なのに。
たったひとつだけ、誰かの声がした。
人のようで、人でない。はげと唱和することもない、か弱い叫び。
男が身を起こすと、乗っかっていたはげがパラパラと落ちる。
微かな音を頼りに、彼は化物の波をかき分けた。
「ゆー・・・はー・・・」
ゆっくりの声だ。
まだ、はげになっていないヤツが残っているのだろうか。
「ゆーはー」
しかし、こんな鳴き声は聞いたことがない。
それに、たったひとつだけのようだ。
「ゆーはー! はげは、ぎゃくたいだー!」
目を疑ったが、同時に今更だとも思った。
唐井とはげを挟んだ対岸に、袋小路がある。
そこに、風変わりなゆっくりがいた。
金髪が綺麗に逆立って、モヒカン状になっている饅頭。
ご丁寧にも、側面の髪の毛は剃られている。
「ゆーはー! もう、がまんできねー!」
モヒカンゆっくり、とでもいうのだろうか。
それが何度も何度も、はげの列へ体当たりを敢行していた。
はげゆの方は、ゆっくりと認識できないのか、完全に無視している。
「ゆーはー!」
それでもモヒカンゆは、生き生きとした顔をしている。
理論でも理屈でもない。
ただただ、相手を叩きのめすことしか頭にないのだろう。
唐井猛は、思う。
これこそが、モヒカンというものではないのか。
「ゆー・・・はー・・・」
体当たりの勢いが鈍ると、たちまちモヒカンが沈み出した。
激流に飲まれ、逆立った髪が沈んでいく。
唐井は、初めて駆け寄った。
それがいた場所を見下ろすと、もうモヒカンゆの体はなくなっていた。
はげゆに踏まれ続け、すり潰されたのだろう。
これを奇跡と呼んでいいのか。
小さなモヒカン髪だけが、残っていた。
アスファルトの上には、剥がれた頭皮。
そこから金髪が屹立していて、はげの進攻をかい潜っていた。
思わず、手に取る。
崩れることもなく、そのまま男の手に納まった。
「モヒカンの、魂か」
モヒカンゆっくりが何処のどいつかなんて、分かるはずもない。
ただ手の中にある小さな髪の毛が、唐井には燃えているように感じられた。
鬼威惨は、はげが往く先を見つめる。
どうやら、全てが同じ方向に進んでいるようだ。
一旦家に戻ると、唐井は押入れからダンボールを取り出した。
箱には、『ゆ虐一式』と書かれている。
彼はある衣装を取り出すと、モヒカンゆっくりの髪の毛を結い付けた。
細かい作業をする自分に苦笑していると、再び電話が鳴った。
「兄さん」
「強か。ダンボールに虫避けいれてくれて、ありがとな」
「やる気になったんだね」
「お前、もう上がりか? だったら早く家に帰って、一眠りしておいてくれ。
多分、手伝ってもらうことになる」
「そうするよ。それで兄さん、はげの目的は」
「分かってる。あの先には・・・」
世話品市の外れに、小さな山がある。
はげの群れがいた場所とは、街を挟んでちょうど反対側だ。
そのはげてない山には、ある施設が建っていた。
希少種ゆー園。
普段はなかなかお目にかかれない貴重なゆっくりを集めた、レジャー施設だ。
世話品市の観光スポットは、休日ならば家族連れで賑わっていることだろう。
しかし今日ばかりは、園内を緊張が走っている。
ゆー園の一室。
事務室兼管理センター兼会議室という、小さな部屋だ。
そこの一番奥にいる人こそ、園長。
希少種収集に生涯をかけた男であった。
「諸君。希少種ゆー園は、開園以来最大の危機を迎えている」
「はげまんじゅうとかいうゆっくりが、ここを目指している、ということでしょうか」
部屋は園長の他、職員で埋め尽くされている。
誰も彼も実にゆっくりしていない表情だ。
「そうだ。恐らく奴らの狙いは、園内の希少種。
可愛い可愛い我々のゆっくりを、はげまんじゅうにしようというのだろう」
「そんなことになったら、ゆー園は破滅だ」
「それだけじゃない。もし、希少種がはげになってみろ。
希少種好きのお兄さんお姉さんが、どんなに怒り狂うか。
きっと彼らは暴徒化するだろう。
そして社会不安が広がり、テロが頻発し、各地は無政府状態に陥る。遂には」
「遂には?」
「世界は滅亡する!」
「「「な、なんだってー!!」」」
「そんな危機的状況を回避するべく、園内の希少種を疎開させることにした。
これから総員総力を挙げ、直ちに作業に入って欲しい。
地球の未来は、君達にかかっている!」
「「「おー!!!」」」
職員は血相を変えて部屋を出る。
園長はといえば、案外のんびりとした顔で、お茶など啜っていた。
30分後。
ゆー園裏の車両出入り口に、マイクロバスが続々と到着した。
職員達は希少種を連れ立ってそこに集まり、園長に報告する。
「こーまかん一座、全ゆん集まりました!」
「ちれーでん、完了です!」
「やくも一家、集まってます!」
「てんかい、よーかいの山、はくぎょくろーはどうした?」
「もうすぐ来ます!」
希少種は、賢い。
職員の指示に従って、バスに乗り込んでいく。
「こーまかん一座、しゅっぱつだどー!」
「おぜうさま! おぜうさま!」
「こあーこあー」
「じゃおおーん!」
「しねっ! しねっ!」
「むきゅきゅ。みんな、ざちょーが大好きね」
「ぱちぇ、胴付きのくせに遅いんだどー!」
「・・・・・・」
「お、なんだい、おりん。ゆーぎのつのが、きにいったかい?」
「ほらおりん、エロいこと考えてないで、さっさとバスにのりなさい」
「おりんりんらんど、はじまるよー!」
「わぁい!」
「ねたましい・・・」
「こぼねー、こぼねー」
「ひぃぃぃぃ!」
「ゆゆこさま、みすてぃを食べちゃだめだみょん」
「こぼねぇ」
「あらあらゆゆこ、あいかわらずね」
「ちぇぇぇぇぇん!」
「らんしゃまぁぁぁぁ!」
「そっちも、てんぷれっぷりがひどいみょん」
「ゆゆこ。ようむのきょういく、なってないんじゃない?」
「こぼねっ!」
「このおう金でできた鉄のかたまりであるてんこが、皮そうびのまんじゅうにおくれをとるはずがにぃ」
「でも、おくれてましたよね。ゆうかにふまれまくって、伸びてましたからね」
「おっと、いくに言い負かされた感」
「そんなに、ゆうかのあんよがいいんですか?」
「ふまれるんじゃない。ふまれてしまうのが、どえむ」
「なら、一生ゆうかのところにいれば、いいじゃないですか」
「すいまえんでした。きげんなおしてくだしぃ。
・・・おい、いく、きいてんのか。いく、いく、いくいくいくいくいく」
「名前をれんこしないで下さい。おりんがこっち見てますよ」
こんなやり取りを、園長は緩んだ顔で眺めていた。
彼は希少種を見れば、食欲さえ満たされるタイプの人間であった。
幸せは長くは続かない。
ある職員の言葉で、園長の眉間に皺が寄ることになる。
「あの、もりや一家はどうしましょう」
「・・・もりやだと? あんな出来損ない、放っておけ」
「でも、あれも希少種じゃないですか?」
「出来損ない。そう言ったはずだ」
さっきまでのえびす顔はどこへやら。
人でも殺してきたかのような目付きで、部下を睨んでいる。
「あれは、置いていく」
「はげにするおつもりですか?」
「犠牲は必要だからな。身を挺して仲間を守った、悲劇のもりや一家。
これは良いコンテンツになる」
それで、初めて役に立つ。
言葉にはしなかったものの、園長の思惑は明らかだった。
「あと、あのでかいのは」
今度は、いくらか表情が和らぐ。
「おいおい、あんなのどうやってバスに乗せる気だ?」
「それはまあ、そうですが」
「あれも置いていく。勘違いするなよ、あいつの意思だ。
このゆー園を最後まで守りたいとさ。泣かせる話じゃないか」
「はあ」
「知ってるか。ドス種の中には、責任感が詰まってるんだ。
こっちにとっては、好都合というものだ」
園長はそれ以上話すことはない、とでも言うかのように席を立った。
愛らしい希少種で満たされたバスに、乗り込んでいく。
これからこのバスは、はげが少ない裏道を通って市外へ脱出する。
先ほど園長と対した職員は、最後の乗客となる前に、ゆー園を振り返った。
そっけない箱型の檻に、目を向ける。
あそこに置きざりになるのは、3匹のゆっくりだ。
できれば、はげずに無事でいて欲しいと願いながら、彼はれみりゃの隣りに座った。
『はげの復活(中)/来るべき神徳』に続く。
【過去作】
※ぬえ
nue059 「スキャット・ゆん・ジョン」
nue022 「ゆナッフTV」
nue009 「ブラックペーパー・チャイルド」
その他の作品に関しては、ふたばSS@WIKIの『
二行の作品集』をご覧下さい。
餡娘ちゃんとWIKIあきに、多謝。
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- DIO「おい、まだ全員じゃないぞあとえいえんていとみょうれんじが、いねーじゃねーかよ」
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ブロリー「そんなの関係ねーだろ、それより俺たちで、ハゲ共を倒そうぜ」
DIO「もうちょっと様子を見てから行こーぜ、行ったて、俺たち邪魔じゃん」
ブロリー「そうしよう」 -- 2015-01-18 13:57:18
- はげまんじゅう!はげまんじゅう!
ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう! -- 2013-06-17 15:54:55
- はげまんじゅう!はげまんじゅう!
ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう! -- 2013-06-17 15:54:11
- こーまかん、ちれーでん、やくも、てんかい、ようかい、はくぎょくろー、もりやとは勢揃い・・・かと思ったらえいえんてい無いぞ。えいえんていどうした? -- 2013-03-20 22:38:21
- 謎の感動
-- 2012-07-29 22:33:58
- 俺これ大好きだ……
改めて場面想像するとギャグでしかないのに
読んでて思うことは「怖い」
-- 2011-09-01 23:03:20
最終更新:2010年03月07日 20:02