ふたば系ゆっくりいじめ 947 はげの復活(上)

はげの復活(上) 33KB


希少種 現代 創作亜種 独自設定 パニック カオス はげまんじゅうVS市井の人々 二行作



【はじめに】

 このSSは、人々と通常/希少/カオスゆっくりの非日常を淡々と描くものです。
 過度な期待はしないで下さい。

 anko526「はげの行進」の登場人物ゆん物が出てきます。
 未読でも、支障はありません。

 いつにも増して、混沌とした内容となっております。
 特にヒャッハー目的でお読みになると、精神的にアレ化することがあります。

 今作は長ーーいので、上中下に区切りました。
 ぼちぼちお読み下さい。

 (上)は特に、登場人物ゆん物が多いです。
 ほとんどは、その場限りのキャラなので、ノリをお楽しみ頂ければ幸いです。





【本編】


『はげの復活(上)』 (作・二行)


#1 『無垢なる混沌』


 山は豊かだった。
 秋の実りが一帯を潤し、白く点在する岩もまた優しげだ。

 そんな自然の中に、小さいながらも美しい泉がある。
 僅かにそよぐ水辺に、珍しいものが漂っていた。

 ちるのである。

 アイス饅頭は、ぼんやりとした顔で、ふらふらと浮いていた。
 熱でもあるかのように見えるが、これが普通である。

 ここは、ゆっくりが暮らす群れの外れ。
 泉の後ろにある森を抜けると、ゆっくりの居住区となる。

 群れゆにとっても、ちるのは珍しいらしく、会いに来るゆっくりも多い。
 ちるのは希少種には珍しく通常種を毛嫌いしないので、好かれているのだ。

 今日も群れに続く獣道から、人影ならぬ饅頭影が近づいてきた。
 しかしそれは、明らかに尋常のそれではなかった。

「「はげまんじゅう! はげまんじゅう!」」
「「ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう!」」

 ゆっくりらしきものが2匹、元気におうたを歌っている。
 お馴染のものとは違い、随分はっきりとしたテーマソングである。

 歌い手はこれまた変わっていて、髪の毛やお飾りなど一切なかった。
 代わりに左右1本づつ、長いもみあげのような肉茎が伸びている。

 これぞ世にも恐ろしい、はげまんじゅうである。

 何が恐ろしいのか。
 それは、これから起ることをご覧頂ければ、よくお分かりになるだろう。

 2匹のはげまんじゅうが、ちるのを挟むような位置を取る。
 その顔は陽気な笑顔で、ゲスの如き邪念など微塵も見られない。

「ちるのは、ゆっくりしているねっ」
「だねっ」

 当のちるのはボーッとしていて、クリーチャーの存在にも気付いていないようだ。
 はげゆの方も、もう何もかもお構いなしに、次の行動に出た。

「でも、はげのほうが、ゆっくりできるねっ」
「だねっ」

 右のはげまんじゅうが、ちるのの髪の毛に吸い付く。
 左は、ちるのの羽を1個づつ口に含む。

「ちゅるちゅる」
「ぽりぽり」

 はげまんじゅうは、ゆっくりのお飾りや髪の毛を食べる。
 食べきった後に出来上がるのは、ただただつるっとした、はげまんじゅうである。

 ちるのも、そんな目に遭っていた。
 青い髪もリボンも特徴的な氷の羽も、今ははげゆの中身の中だ。

「はげまんじゅう! はげまんじゅう!」
「ちるのも、きょうから、はげまんじゅう!」

 こうやって、はげまんじゅうは仲間を増やしていく。
 外面がはげゆ化すれば、ゆっくり特有の思い込みにより内面も同化するのだ。

「じゃあ、はげはむれへ、かえるねっ」
「だいじなはなしがあるから、はげも、あとで、きてねっ」

 2匹のはげゆっくりが帰っていく。
 もみもみと自称する肉茎を揺らしながら、例の歌と共に足並みを揃える。

「「はげまんじゅう! はげまんじゅう!」」
「「ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう!」」

 ちるのだったものは、見た目は完全にはげまんじゅうだった。
 他のそれと違うのは、肉茎が伸びていないことだけである。

 しかし、先ほどの来襲者は勘違いをしていた。
 泉の側にいるゆっくりは、まだ、はげまんじゅうではない。

「あたいったら、さいきょーね!」

 今の今まで考え事でもしていたのだろう。
 ようやくちるのだったものは、活発に動き出した。

 つまり、さっきまで自分の身に起ったことは、何も認識していない。
 内面は、未だにちるののままであったのだ。

 それでも外見ははげ上がっている。
 顔の付いた、つるっとした球体。
 それが虫のように、ふわふわと飛んでいるのである。
 生物学者が見れば、卒倒するに違いない。





 翌日。
 はげの感染は、群れを完全に掌握していた。

「「「「「「「「「「はげまんじゅう! はげまんじゅう!」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう!」」」」」」」」」」

 はげの軍団が、山道を下っていく。
 その列に、群れのゆっくりだったものは残らず参加していた。

 能天気な表情とテーマソングが、山々を圧倒する。
 肉茎をプラプラさせて行く様は、まるで何かの行進のようだ。

「みんなー、げんきに、はげてるー?」
「「「「「「「「「はげてるー!」」」」」」」」」」

 ある1匹の声に、他のはげゆ達が答える。
 どれがどれやらは、見分けが付かない。 

「はやく、おやまを、おりよー!」
「「「「「「「「「「おー!」」」」」」」」」」
「そして、ゆっくりをみんな、はげにしよー!」
「「「「「「「「「「おー!」」」」」」」」」」
「はげは、ゆっくりできるねっ」

「「「「「「「「「「はげまんじゅう! はげまんじゅう!」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう!」」」」」」」」」」

「ヒャッハー! ここが地獄の一丁目だー!」

 唐突に、はげの行進を止めたもの。
 それは革ジャン・火炎放射器装備の、モヒカン鬼威惨であった。

「汚物ゆは消毒だー!」

 機械から激しく噴出した炎が、はげまんじゅうを焼き尽くしていく。 

「まるやけー」
「こんがりー」
「みんな、ばいばーい」
「ぷれっつぇる!」
「はげまんじゅう! やきまんじゅう!」
「ゆっくり、もえてる、はげまんじゅう!」
「はげまんじゅう! やきまんじゅう!」
「ゆっくり、こげてる、はげまんじゅう!」
「はげまんじゅう! やきまんじゅう!」
「ゆっくり、くろずみ、はげまんじゅう!」

「ヒャァァア! うるせぇぇぇぇぇ!」

 はげまんじゅうは、鬼威惨が喜びそうな苦悶や悲痛とは無縁である。
 ご陽気に生き、ご陽気に死んでいく。

 それでも今、行われているのは虐殺であった。
 仕事を追えたモヒカンが、ぶつぶつ言いながら帰っていく。

 ちるのだったものは一部始終を、木々に身を隠しながら目撃していた。
 マルキュー脳にも、この光景は鮮烈に焼き付いたに違いない。





 ただ1匹死を免れた、はげちるの。
 よく見せる虚勢も、今は、見る影もない。

 それからというもの。
 泉の側で佇む時間だけが、長くなっていった。

 秋を過ぎ、冬になり、年が明けた。
 中身がアイスなだけに、はげちるのは冬ごもりをすることもない。

 その日も、ちるのは泉の側にいた。
 今までと全く同じように、ひたすら水辺に漂っている。

 しかし、たったひとつだけ、違うことをやった。
 ちるのは、俯(うつむ)いたのだ。
 昨日までは、常に前だけを見ていた。
 そうすることで、淋しさに耐えていたのかもしれない。

 視線を下げた先にあったのは、泉に映る自分の姿。
 ちるのではない、はげまんじゅうの全身。

「あたいったら、はげまんじゅうね!」

 それを認めた瞬間に、はげちるのの両端から肉茎が伸びる。
 ちるのだったものは、ようやく、自分が何者であるかを知った。


 こうして、はげまんじゅうは蘇った。
 たった1匹のそれは、咲き誇るような笑顔で山道を下りる。

 道の先には林があり、そして、街がある。
 孤独な行進を続けるはげゆの中身には、先達の全てが刻まれていた。

「はげまんじゅう! はげまんじゅう!
 ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう!」





 野良ゆっくりは、冬でも、割とたくましく出歩く。
 生ゴミ等を漁る狩りは、季節の影響を受けにくい。
 適当なぬくぬくプレイスさえ確保できれば、冬でもそれなりーに暮らしていけるのである。

 無論、凍死するゆっくりもいる。
 しかし梅雨に流され、猛暑に焼き殺されるゆん生である。
 冬ばかりが、特別なのではない。

 クリスマスのイルミネーションの下にも、お正月の門松の側にも、野良ゆはいた。
 それは正月を過ぎ、本格的な寒さを迎えている今も、変わりはない。
 ダンボールや暖かい機械の下を住処としつつ、今日もまた街をさまよう。

 山から来たはげまんじゅうが、そんな野良ゆと出会うのは必然であった。

「はげまんじゅう! はげまんじゅう!
 ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう!」
「うるさいよ! 
 れいむのおうちのまえで、へんなおうた、うたわないでね!」
「ちゅるちゅる」
「れいむのかみのけさん、たべないでぇぇぇ!」


「「はげまんじゅう! はげまんじゅう!」」
「「ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう!」」
「おかしなやつがいるのぜ。せいさいっしてやるのぜ!」
「ちゅるちゅる」
「かみかみ」
「ばりざのおぼうじど、ぷろんどざんがぁぁぁ!」


「「「はげまんじゅう! はげまんじゅう!」」」
「「「ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう!」」」
「むきゅ、そこまでよ! このまちいちばんのけんじゃが」


「「「「はげまんじゅう! はげまんじゅう!」」」」
「「「「ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう!」」」」
「わからないんだねー、わかるよー」


「「「「「はげまんじゅう! はげまんじゅう!」」」」」
「「「「「ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう!」」」」」
「すかるふぁっく!」





「「「「「「「「「「はげまんじゅう! はげまんじゅう!」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう!」」」」」」」」」」

 はげの大行進が始まるまで、さほど時間はかからなかった。
 アスファルトを、はげまんじゅうが埋めていく。
 人々は、怪訝とも唖然とも付かない表情で、それを見送る。

 ただここに、看過を許さない男達がいた。

「ヒャッハー! わけわからんが、虐待だー!」

 街の愉快なモヒカン鬼威惨である。
 彼らはある男に憧れ、一様に髪を逆立て、革ジャンに身を包んでいた。

「ヒャッハー! 喰らえ、怒りの虐待スターンプ!」

 大層な名前を叫びつつ、モヒカンは、はげゆを踏み付ける。
 苦痛が響いた。

「痛ぇーっ!」
「どうした、モヒカン!」
「足の裏が、刺ささるように痛えよ!
 気を付けろ、モヒカン。こいつら、みょんに硬えぞ!」
「ならば喰らえ、復讐の虐待シュート!」

 モヒカンは、シンプルに蹴り飛ばした。
 今度は鮮やかに決まり、はげゆは軽やかに飛んでいく。
 そしてビルの壁に跳ね返って、モヒカンの頭に当たった。 

「痛ぇーっ!」
「どうした、モヒカン!」
「気を付けろ、モヒカン。こいつら、みょんに硬えぞ!」
「ならば喰らえ、復讐の虐待シュー」
「それはもういい」
「とにかく、蹴れ! 蹴れ!」

 モヒカンは、蹴った。蹴りまくった。
 なるべく跳ね返らないように、時にはソフトタッチに、蹴った。

 そして、モヒカンは気付いてしまった。

「なんだ、こいつら」
「全然、痛がってないぞ」
「ドMか? てんこなのか?」
「喜んでもいねぇよ。それでも笑ってるんだよ」
「もう俺、足先が痛えよ」
「いったい、中身は何なんだよ! こんなに硬いゆっくりがいるかよ!」

「「「「「「「「「「はげまんじゅう! はげまんじゅう!」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう!」」」」」」」」」」

「おいおいおいおい、近付いてんぞ」
「くんな、くんなよ・・・」
「何でこいつら、虐待できねぇんだよ」
「蹴っても蹴っても、潰れないぃぃ!」
「はげはゆっくりできなぃぃぃ!」
「おい、しっかりしろ! おい・・・」

「「「「「「「「「「はげまんじゅう! はげまんじゅう!」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう!」」」」」」」」」」

「「「もうやだ、おうぢがえるぅぅぅ!」」」

 地面が、割れたように見えた。
 それほどの衝撃だったのだ。
 3人のモヒカンの前にいたはげまんじゅうは、粉みじんに消し飛んでいた。

「大丈夫か、お前達」
「唐井のアニさん!」

 はげまんじゅうの破片が舞う、向こう側。
 短髪スーツ姿の男が、手刀を構えて立っていた。





#1 『愚者の選択』


 3つのモヒカンが、短い髪に集まっていく。

「まさか、チョップで制裁しちまったんですか?」
「やっぱり、アニさんは強え!」
「すげぇよ! あこがれちゃうよ!」

 唐井猛(からい・たけし)は、少し後悔していた。
 封じたはずの業を、使ってしまったのだ。

「いや俺はもう、引退した身だからな」
「そんなこと言わないで下さいよ」
「俺達もう一度、唐井のアニさんのヒャッハーを見たいんですよ」
「アニさんがいたから、俺ら、鬼威惨やってるんスから」
「お前達、これからも鬼威惨でいたいのか?」
「「「当然ッス!」」」
「ならば、良いことを教えてやる」

 そう言って、唐井はまだ残っているはげまんじゅうを指差した。

「あいつらには、関わるな。
 あれは、ゆっくりであって、ゆっくりじゃない」
「じゃあ、何なんですか?」
「カオスゆっくりだ」
「カオス?」
「虐待鬼威惨じゃ、勝ち目はないってことだ」
「でも、アニさんはチョップ一撃で制裁したじゃないですか?」
「負けるのは、身体じゃない。心だ」
「こころ・・・」
「さっきは身を持って、知っただろ?
 あれを相手にし過ぎると、心が壊れる。だから、やめとけ」

「ヒャアアアアア!」

 モヒカンの雄叫びが聞こえた。唐井の周りにいる者ではない。
 少し離れた路地裏からだ。

 歓喜の歌声かとも思えたが、何か、おかしい。
 4人の男が、声の主へ足を向ける。

「ヒャ、ヒャ、ヒャアア・・・」
「どうした、モヒカン!」
「モヒカン。それに、唐井のアニさん」

 薄暗い路地裏に、腰を抜かしたモヒカンがいた。

「何を見た?」
「アニさん、あ、あれ」

 アスファルトの上に尻を着いたモヒカンが、指で奥を示す。
 4匹のはげまんじゅうが、仲良くテーマソングを歌っている。

「「「「はげまんじゅう! はげまんじゅう!」」」」
「「「「ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう!」」」」

「あいつら、野良まりさの飾りや髪の毛を、食いやがったんだ。
 そしたら、まりさも、あいつらと同じみたいに・・・」
「はげまんじゅうは、ゆっくりを丸ハゲにして仲間を増やす」
「仲間を? それが、カオスゆっくりなんですか?」

 唐井は答える代わりに、はげまんじゅうへ近付いた。

「モヒカン、まりさだったヤツは、どれだ」
「今、アニさんの足元にいるヤツです」

 言われるが早いが、それをつかみ上げて、左右に引っ張る。

「みっちみちー」
「「「みっちみちー」」」

 皮膚に亀裂が入るほどの虐待を受けているにも関わらず、はげゆは笑顔だ。
 仲間もニコニコとそれを見上げて、被害ゆと唱和したりする。
 脅えているのは、モヒカンの方だ。

「くぱぁぁぁぁ!」

 はげまんじゅうが、裂けた。
 何の悲愴感もない、断末魔と共に。
 中身が音を立てて、地に落ちる。

「あっはっはっは」
「くぱー、だってー」
「はげはしんでも、ゆっくりしてるねっ」

 虐待を楽しんだ、モヒカンの感想ではない。
 仲間の死を前にした、はげまんじゅうの言葉である。

 唐井猛は、足元に転がった『中身』を拾い上げた。
 小豆色だが、硬くて、冷たい。

「どうりで硬いはずだ」
「それは何なんです?」
「あずきバーってあるだろ。それと同じものだ」
「アイスの中で最も硬いとされる、アレですか」
「元々、ちるの種だったのかな? 以前は、ただの餡子が入ってたはずだが」
「ちるの種って、それはまりさだったんですよ?」
「はげになる前は、な」
「待ってください、アニさん。今、以前って言いましたよね。
 もしかして、カオスゆっくりを虐待したことがあるんですか?」

 短髪の男は、肯いた。
 逆立てた髪が、瞬間、喜ぶように揺れた。

「だったらカオスだかはげだかを、俺らと一緒に制裁して下さいよ!」
「「「アニさん!」」」
「言っただろう。カオスゆを虐待すれば心が壊れる、と」

 男の手が、はげまんじゅうの中身を離す。
 乾いた音を立てて地にぶつかり、割れた。

「もう俺は鬼威惨になれない。ゆ虐すると、嫌なことを思い出すんだよ」
「そんな!」
「希望はないんですか!」
「もう一緒に虐待してくれないんですか?」
「やだー!」
「はげまんじゅうどもは、行政に任せとけ。
 これだけの騒ぎだ。流石に何とかするだろう」

 唐井はこれ以上口を開くことなく、その場を後にした。
 語れば語るほど、どこかにある古傷が、うずくような錯覚を覚える。

 街は夕焼けに染まり、人々はそそくさと家路を急ぐ。
 はげまんじゅうの群れだけが、活発に動いていた。





 唐井は、だらしなくテレビを見ている。
 芸人が出て来ては消えていく様を、クスリともせず眺めていた。

「兄さん。最近『ゆたた』のダイレクトメール、見てないみたいだね」

 童顔に無精髭を付けた青年が、ちゃぶ台に肘を付いている。
 唐井猛の弟で同居人の、強(つよし)である。

「興味がない」
「この前まで、穴開くほど見てたじゃん。
 ヒャッハー! 新作の虐待グッズだー!って」
「ゆ虐からは、足を洗ったんだ」
「兄さんからゆ虐を取ったら、何が残るの」
「真っ当なフロアマネージャーとしての、信頼と実績」
「つまんないね」

 ちゃぶ台の上には、開けられてもいない封筒が無造作に置かれていた。
 派手なデザインの中央には、『ゆ虐ネット・ゆたた』の文字が躍っている。

「じゃあ、僕、仕事にいくから」
「お前な、その髭で『僕』はやめろよ。
 だいたい老人ホーム勤めで、その無精髭はないぞ」
「しょうがないよ。
 おじいちゃんもおばあちゃんも、僕を『ヒゲの人』って呼んでるんだから」
「早く別の特徴を見つけてもらえ」
「いってきます」

 似合わない無精髭が、部屋を出て行く。
 アパートの階段から音がして、遠ざかっていった。

 唐井兄はテレビを見ながら、夕飯はラーメンにしようなどと考えていた。
 液晶の中で、売れない漫才師がネタを披露している。

「「はいどうも、水袋砂袋です」」
「いやー、この前ゆっくりを殴ったら、骨を折っちゃいましてね」
「お前、どんだけ貧弱なんだよ」
「砂袋さん、ああ見えてもゆっくりには餡子がたっぷり詰まってるんですよ」
「水袋は、水風船にも負けるからな」
「ゆっくりは、重いんです」
「ゆっくりは、軽いんです」
「重い」
「軽い」
「重い!」
「軽い!」
「「はいはい、設定次第設定次第」」





 久々に饅頭と戯れたこともあり、唐井猛はこってりしたものを欲していた。
 こってりした男の食べ物といえば、『ラーメン次狼』を置いて他にはあるまい。

 そんな自明の理に基づき、唐井は次狼ののれんをくぐった。
 男くさいラーメンとはいえ、店内には女性客もチラホラ。
 中でも、入口近くのカウンター席にいた3人の女は、ちょっと目を引いた。

 ともあれ唐井は食券を買い、セルフの水を取ると、開いてる席に座った。
 3人の女性客の近くだったのは、たまたまである。
 たまたま座ったからには、その会話が漏れ聞こえて来るのも、仕方がない。

「私、ボンちゃんと結婚するのよ・・・」
「おめでとう、荒沢さん、おめでとう」

 結婚宣言をした女は、ハイネックを着ている。
 泣きながら祝福している方は、灰色の髪とアホ毛が特徴的だ。

「ありがとう嘆木ちゃん。私、幸せになるからね」

 どうやら妙齢のハイネックが荒沢、心優しいアホ毛が嘆木というらしい。
 そして一番入口に近い席に、黒い眼帯をした女が赤ら顔で座っている。

「ほら、D.Oさんも」
「お、おめでとうございます・・・」

 D.Oと呼ばれた女は小さく息を切らしている。表情もまるで酔っ払ってるようだ。
 もしかして熱いのだろうか。ラーメン屋なのに、コートなんか羽織っているからだろう。
 脱げばいいのに。

 唐井は厨房に目を向けた。
 ワイルドな店員と視線がかち合う。
 そろそろ、トッピングを聞かれる頃合だろう。

「にんにく入れますか!」
「ニンニク、野菜、めーりんマシで!」
「じゃお!」

 唐井が注文を終えたのと、3人娘の席にラーメンが並べられたのは、ほぼ同時だった。
 嘆木のどんぶりが、一際うず高い。

「うまいッス。おめでたい席での次狼さんは、うまいッス」
「ほらほら嘆木ちゃん、もう泣き止んで」

「「「「「はげまんじゅう! はげまんじゅう!」」」」」
「「「「「ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう!」」」」」

 やたら聞き覚えのある歌声が、唐井の盗み聞きを妨げた。
 振り返ると、そこにはやはり。

「「「「「はげは、ゆっくりできるねっ」」」」」

 カオスゆっくりが、券売機の前に並んでいた。
 ちゃんと順番を守っているのは、感心するべきか、否か。

「ここに、めーりんがいるよねっ」
「めーりんを、はげにしようねっ」
「そうすれば、じゆうに、しゃべれるねっ」
「げんきにはげれば、ふりーだむっ」
「はげててごめんねっ」

 店内がざわつき出した。
 次狼のコッテリ分を一手に担う、自家製めーりん。
 それがはげるなんて、とんでもない。

 戸惑う人々には目もくれず、厨房へと繋がる道へ、はげが往く。
 そこに颯爽と立ち塞がったのは、店員でも唐井でもない。

 眼帯コートの女、D.Oだった。
 彼女はハラリとコートの前をはだけ、その中にあるものを、はげゆに晒す。

「D.Oさんの公開露出自虐プレイが出たわ!」
「流石、『ハートキャッチ痴女キュア』の名を欲しいままにする女(ひと)ね!」

 D.Oの麓に到着したはげまんじゅうが、無邪気な視線を上へと向ける。

「じゃんぐるー☆」

 正直な感想であった。

「ぴんくいろのくさが、うっそうとしてるねっ」
「これは、はげさせないと、いけないねっ」
「ちきゅーしんりゃくだー。のりこめー」
「わぁーい」

 D.Oの股座付近目掛けて、5つのはげが烈風のように飛び掛る。
 見かねた。
 唐井は女とはげゆの間に割って入り、右足で蹴り上げた。

「シュゥゥゥーッ!」

 一撃で、5はげは仲良く吹っ飛ぶ。
 その先には、次狼の入口。
 察しの良い常連客が、店の引き戸を開けた。

「「「「「ちょー! えきさいてぃーん!!」」」」」

 断末魔と共に、店外という名のゴールへ、はげまんじゅうが消えていく。
 次狼を愛するもの達が見せた、見事な連携プレーであった。

「やったー! 次狼は守られたー!」
「ウチのめーりんは、はげてねー!」
「じゃお! じゃお!」
「寒いから、早く閉めろー!」
「おー!」

 店内は無駄に沸き上がる。
 お前ら見てただけだろ、という声を男は呑み込んだ。
 そんな喧騒の中、唐井の指先に、しなやかなものが絡む。

「恥丘(ちきゅう)を守って頂き、ありがとうございました」

 開け放たれたままのD.Oが、男の手を取り、優しく握っている。
 手元を確認するため視線を下げると、ついつい目に入ってしまった。

「じゃんぐる・・・」




 唐井は部屋に戻ると、早々に寝床に入った。
 布団の中に入り、掛け布団をみぞおち辺りまで下げる。


 眠れない。
 別に刺激的な丘を見たからではない。
 第一、上から確認できるのはピンクの森ばかりで。
 そうではない。

 忘れていたのに、思い出してしまったのだ。

 唐井には、雨宮という古い友人がいる。
 大学でゆっくりを研究して口を糊する、物好きにも程がある男だ。
 彼は仕事柄、ゆっくりを教育したり、あまつさえ改造を試みたりする。

 はげまんじゅうは、雨宮が作り出した。
 さらに悪いことに、生態調査と称して群れに放ってしまったのだ。
 そして群れは、はげ上がった。

 秘密裏に事態を収束させるため、雨宮は唐井を頼った。
 ゆっくりを虐待虐殺し放題という甘言に、ゆ虐好きはまんまと引っ掛かる。

 クリーチャー相手と知って鬼威惨は渋ったが、最終的には受けた。
 それからのことは、重いトラウマとなって圧し掛かっている。
 どんなに潰しても、焼いても、殺しても、はげまんじゅうは笑っていた。
 それは初めて目にする、カオスゆっくり。
 心が気付かないうちに、壊されていく。

 最終的に、はげ化したドスとも戦った。
 10m級というふざけた大きさの個体だ。
 正気ではなかったのだろう。
 唐井は、素手で立ち向かった。

 気付けば、弟の車の中で寝かされていた。
 全身丸裸で、ドスの皮が毛布代わりに被せられている。
 後から聞けば、あにゃるから体内に入り、内部から爆散させたという。
 今でも信じられないし、それを信じてはいけない気がする。

 そして唐井猛は、鬼威惨を辞めた。
 ゆ虐に資格や免許があるわけではない。
 あくまで心の問題だ。

 それでもモヒカンを剃り、革ジャンを後輩に譲ると、周囲は事件扱いまでして騒ぎ立てた。
 唐井は、全て無視した。

 二度と、ゆ虐はしない。そう決めたはずだったのに。


 唐井の意識が、眠りの中へ混ざっていく。
 頭の中に、様々な事象が落ちては濁り出す。

 はげまんじゅう。カオスゆっくり。自己増殖。行進。笑顔。
 モヒカン。ゆ虐。過去。業。
 次狼。アラサーがたどりついた島。アホ毛がすする山。美しく生える森。

 そうだ、雨宮にメールを送っておこう。
 ほんの少しだけ目覚めている部分が、唐井に告げた。





 翌朝。
 携帯の履歴を見る限り、メールはちゃんと送れたようだった。   

 肌寒い。
 布団の中で蠢いていると、窓の向こうから嫌な歌が流れてくる。

「はげまんじゅう! はげまんじゅう!」
「ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう!」

 男は跳ね起きると、窓を開け外気に身を晒す。
 2階から見下ろした光景。できれば夢の続きと思いたい。

「「「「「「「「「「はげまんじゅう! はげまんじゅう!」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう!」」」」」」」」」」

 最早、行進とすら呼べなかった。
 はげまんじゅうが川となって、道の上を流れていく。
 昨日とは比べ物にならないほど、爆発的な増殖だった。

 人のものだったはずの往来に、人影は見えない。
 このような状況下で、まともに通行できるはずもなかった。

 唐井は辺りを見渡し、出来る限り遠くまで瞳を凝らす。
 その結果、気付く。

「・・・これだけの騒ぎになって、何故、行政も警察も動かないんだ?」

 中身は最硬度のあずきアイスとはいえ、所詮は饅頭。
 消防車で放水でもすれば、鎮圧は簡単なはずだ。

 男は窓を閉め、TVのスイッチを入れた。
 アナウンサーが、見覚えのある風景の中でマイクを握り締めている。


「ご覧のように、この街は謎のゆっくりによって占拠されてしまいました!
 このゆっくりは『はげまんじゅう』を名乗り、世話品市一帯を包囲しています。

 はげまんじゅうは、あらゆるゆっくりを、はげにする程度の能力を持っています。
 世話品市にお住まいの方は、決して飼いゆを外に出さないで下さい! 

 このはげまんじゅうの中には、感染した飼いゆや商品ゆが大量に含まれていると見られます。
 そのため、行政も一斉駆除などの対応が取れない模様です。
 政府も前例のない事態に・・・」


 唐井は、静かにリモコンのスイッチを切った。

「お役所仕事が・・・」

 家の中は、静かになる。
 しかし、外からは混沌とした歌声が押し寄せ、心を乱した。
 感情が揺れている。

 携帯電話が鳴った。
 手に取る。
 声の主は、元凶であった。

「やあ。随分愉快なことになっているようだな」
「雨宮。今、どこにいる」
「アメリカだ」
「アメリカ?」
「YHKの取材に同行してるんだ。なにせ世界で始めて純ドスの撮影に」
「何がドスだ!
 こっちはお前が作った化け物のせいで、大変なことになってるんだぞ」
「知ってるよ。市も国もお手上げだってな。
 だからといって、私に何ができるんだ?
 急いで帰って来て、カメラの前で切腹でもすれば良いのか?」

 唐井は頭を激しく掻いた。
 長い付き合いだが、この物言いには本当に、慣れない。

「だったら知恵を貸せよ」
「知恵も何も。法が無力なら、個人が頑張るしかないだろう。
 ましてや、相手はゆっくりだ。ゆっくりを始末する存在は・・・分かるよな?」
「相手は、カオスゆっくりだぞ。並みの鬼威惨でどうにかできるか」
「私は、そいつらと戦って、帰ってきた男を知ってるがね」
「俺にやれってのか?」
「他に誰がいる?」
「俺はゆ虐からは足を洗ったんだ」

 電話の向こうから、低く長い笑い声。 
 太平洋を挟んで、唐井は馬鹿にされている。

「何がおかしい」
「唐井。鬼威惨が、ゆ虐に染まった人間が、普通の人間に戻れると思うのか?」

 無意識に、唾を飲んだ。
 存外大きな音を立てたので、それにさえ少し怯む。

「お前の全身には、ゆっくりの餡子が染み込んでるんだ。
 それから目を背けて、引退だ? 
 水袋砂袋と組んでお笑いでもやるつもりか?
 やあ、水袋砂袋虐袋。デビューしたなら見に行ってやるぞ」
「・・・お前とは、絶交だ」
「仲良くしてきたつもりはないな。私は馬鹿な鬼威惨を利用してきただけだ。
 友達とでも思ってたのか?」
「この糞袋が! 今度見かけたら、ドスに食わせて饅頭の具にしてやるぞ!」
「そうだ、俺を怒れ、恨め、罵れ。
 そして、お前のやるべきことを見失うな」

 電話が、切れる。
 唐井は、いつの間にか自分がはげまんじゅうの真上にいることに気付いた。
 窓から飛び出したらしい。

 着地の衝撃で押し潰す。
 はげゆが2ダースほど四散した。
 全体から見れば僅かな数だ。

 拳を振るい、足を打ちつけ、五体を衝動に委ねた。
 誰もいなかった。
 他人も、友人も、はげまんじゅうでさえも、唐井の蹂躙を見てさえいない。

「「「「「「「「「「はげまんじゅう! はげまんじゅう!」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう!」」」」」」」」」」

 大量のカオスゆは、仲間の死さえ眼中にない。
 ひたすら歌い、歩き、笑っている。

 唐井猛は、尻を地に付けた。
 息が上がっている。
 汗で濡れた四肢の上を、はげまんじゅうが流れていく。

 寝転がる。
 本当に川の中のようだ。
 視界には、はげゆの底部と空が交互に現れる。

 はげのテーマソング以外は、何も聞こえなかった。
 普段なら人の作ったものが、煩わしいまでに泣き喚いている時間なのに。

 たったひとつだけ、誰かの声がした。
 人のようで、人でない。はげと唱和することもない、か弱い叫び。

 男が身を起こすと、乗っかっていたはげがパラパラと落ちる。
 微かな音を頼りに、彼は化物の波をかき分けた。

「ゆー・・・はー・・・」

 ゆっくりの声だ。
 まだ、はげになっていないヤツが残っているのだろうか。

「ゆーはー」

 しかし、こんな鳴き声は聞いたことがない。
 それに、たったひとつだけのようだ。

「ゆーはー! はげは、ぎゃくたいだー!」

 目を疑ったが、同時に今更だとも思った。
 唐井とはげを挟んだ対岸に、袋小路がある。
 そこに、風変わりなゆっくりがいた。

 金髪が綺麗に逆立って、モヒカン状になっている饅頭。
 ご丁寧にも、側面の髪の毛は剃られている。

「ゆーはー! もう、がまんできねー!」

 モヒカンゆっくり、とでもいうのだろうか。
 それが何度も何度も、はげの列へ体当たりを敢行していた。
 はげゆの方は、ゆっくりと認識できないのか、完全に無視している。

「ゆーはー!」

 それでもモヒカンゆは、生き生きとした顔をしている。
 理論でも理屈でもない。
 ただただ、相手を叩きのめすことしか頭にないのだろう。

 唐井猛は、思う。
 これこそが、モヒカンというものではないのか。

「ゆー・・・はー・・・」

 体当たりの勢いが鈍ると、たちまちモヒカンが沈み出した。
 激流に飲まれ、逆立った髪が沈んでいく。

 唐井は、初めて駆け寄った。
 それがいた場所を見下ろすと、もうモヒカンゆの体はなくなっていた。
 はげゆに踏まれ続け、すり潰されたのだろう。

 これを奇跡と呼んでいいのか。
 小さなモヒカン髪だけが、残っていた。
 アスファルトの上には、剥がれた頭皮。
 そこから金髪が屹立していて、はげの進攻をかい潜っていた。

 思わず、手に取る。
 崩れることもなく、そのまま男の手に納まった。

「モヒカンの、魂か」

 モヒカンゆっくりが何処のどいつかなんて、分かるはずもない。
 ただ手の中にある小さな髪の毛が、唐井には燃えているように感じられた。

 鬼威惨は、はげが往く先を見つめる。
 どうやら、全てが同じ方向に進んでいるようだ。


 一旦家に戻ると、唐井は押入れからダンボールを取り出した。
 箱には、『ゆ虐一式』と書かれている。

 彼はある衣装を取り出すと、モヒカンゆっくりの髪の毛を結い付けた。
 細かい作業をする自分に苦笑していると、再び電話が鳴った。

「兄さん」
「強か。ダンボールに虫避けいれてくれて、ありがとな」
「やる気になったんだね」
「お前、もう上がりか? だったら早く家に帰って、一眠りしておいてくれ。
 多分、手伝ってもらうことになる」
「そうするよ。それで兄さん、はげの目的は」
「分かってる。あの先には・・・」





 世話品市の外れに、小さな山がある。
 はげの群れがいた場所とは、街を挟んでちょうど反対側だ。
 そのはげてない山には、ある施設が建っていた。

 希少種ゆー園。
 普段はなかなかお目にかかれない貴重なゆっくりを集めた、レジャー施設だ。

 世話品市の観光スポットは、休日ならば家族連れで賑わっていることだろう。
 しかし今日ばかりは、園内を緊張が走っている。

 ゆー園の一室。
 事務室兼管理センター兼会議室という、小さな部屋だ。

 そこの一番奥にいる人こそ、園長。
 希少種収集に生涯をかけた男であった。

「諸君。希少種ゆー園は、開園以来最大の危機を迎えている」
「はげまんじゅうとかいうゆっくりが、ここを目指している、ということでしょうか」

 部屋は園長の他、職員で埋め尽くされている。
 誰も彼も実にゆっくりしていない表情だ。

「そうだ。恐らく奴らの狙いは、園内の希少種。
 可愛い可愛い我々のゆっくりを、はげまんじゅうにしようというのだろう」
「そんなことになったら、ゆー園は破滅だ」
「それだけじゃない。もし、希少種がはげになってみろ。
 希少種好きのお兄さんお姉さんが、どんなに怒り狂うか。
 きっと彼らは暴徒化するだろう。
 そして社会不安が広がり、テロが頻発し、各地は無政府状態に陥る。遂には」
「遂には?」
「世界は滅亡する!」

「「「な、なんだってー!!」」」

「そんな危機的状況を回避するべく、園内の希少種を疎開させることにした。
 これから総員総力を挙げ、直ちに作業に入って欲しい。
 地球の未来は、君達にかかっている!」

「「「おー!!!」」」

 職員は血相を変えて部屋を出る。
 園長はといえば、案外のんびりとした顔で、お茶など啜っていた。


 30分後。
 ゆー園裏の車両出入り口に、マイクロバスが続々と到着した。
 職員達は希少種を連れ立ってそこに集まり、園長に報告する。

「こーまかん一座、全ゆん集まりました!」
「ちれーでん、完了です!」
「やくも一家、集まってます!」
「てんかい、よーかいの山、はくぎょくろーはどうした?」
「もうすぐ来ます!」

 希少種は、賢い。
 職員の指示に従って、バスに乗り込んでいく。

「こーまかん一座、しゅっぱつだどー!」
「おぜうさま! おぜうさま!」
「こあーこあー」
「じゃおおーん!」
「しねっ! しねっ!」
「むきゅきゅ。みんな、ざちょーが大好きね」
「ぱちぇ、胴付きのくせに遅いんだどー!」

「・・・・・・」
「お、なんだい、おりん。ゆーぎのつのが、きにいったかい?」
「ほらおりん、エロいこと考えてないで、さっさとバスにのりなさい」
「おりんりんらんど、はじまるよー!」
「わぁい!」
「ねたましい・・・」

「こぼねー、こぼねー」
「ひぃぃぃぃ!」
「ゆゆこさま、みすてぃを食べちゃだめだみょん」
「こぼねぇ」
「あらあらゆゆこ、あいかわらずね」
「ちぇぇぇぇぇん!」
「らんしゃまぁぁぁぁ!」
「そっちも、てんぷれっぷりがひどいみょん」
「ゆゆこ。ようむのきょういく、なってないんじゃない?」
「こぼねっ!」

「このおう金でできた鉄のかたまりであるてんこが、皮そうびのまんじゅうにおくれをとるはずがにぃ」
「でも、おくれてましたよね。ゆうかにふまれまくって、伸びてましたからね」
「おっと、いくに言い負かされた感」
「そんなに、ゆうかのあんよがいいんですか?」
「ふまれるんじゃない。ふまれてしまうのが、どえむ」
「なら、一生ゆうかのところにいれば、いいじゃないですか」
「すいまえんでした。きげんなおしてくだしぃ。
 ・・・おい、いく、きいてんのか。いく、いく、いくいくいくいくいく」
「名前をれんこしないで下さい。おりんがこっち見てますよ」

 こんなやり取りを、園長は緩んだ顔で眺めていた。
 彼は希少種を見れば、食欲さえ満たされるタイプの人間であった。

 幸せは長くは続かない。
 ある職員の言葉で、園長の眉間に皺が寄ることになる。

「あの、もりや一家はどうしましょう」
「・・・もりやだと? あんな出来損ない、放っておけ」
「でも、あれも希少種じゃないですか?」
「出来損ない。そう言ったはずだ」

 さっきまでのえびす顔はどこへやら。
 人でも殺してきたかのような目付きで、部下を睨んでいる。

「あれは、置いていく」
「はげにするおつもりですか?」
「犠牲は必要だからな。身を挺して仲間を守った、悲劇のもりや一家。
 これは良いコンテンツになる」

 それで、初めて役に立つ。
 言葉にはしなかったものの、園長の思惑は明らかだった。

「あと、あのでかいのは」

 今度は、いくらか表情が和らぐ。

「おいおい、あんなのどうやってバスに乗せる気だ?」
「それはまあ、そうですが」
「あれも置いていく。勘違いするなよ、あいつの意思だ。
 このゆー園を最後まで守りたいとさ。泣かせる話じゃないか」
「はあ」
「知ってるか。ドス種の中には、責任感が詰まってるんだ。
 こっちにとっては、好都合というものだ」

 園長はそれ以上話すことはない、とでも言うかのように席を立った。
 愛らしい希少種で満たされたバスに、乗り込んでいく。

 これからこのバスは、はげが少ない裏道を通って市外へ脱出する。
 先ほど園長と対した職員は、最後の乗客となる前に、ゆー園を振り返った。

 そっけない箱型の檻に、目を向ける。
 あそこに置きざりになるのは、3匹のゆっくりだ。
 できれば、はげずに無事でいて欲しいと願いながら、彼はれみりゃの隣りに座った。  





『はげの復活(中)/来るべき神徳』に続く。





【過去作】

※カオスVS鬼威惨
 本作
 ふたば系ゆっくりいじめ 428 はげの行進




※ぬえ
 nue059 「スキャット・ゆん・ジョン」
 nue022 「ゆナッフTV」
 nue009 「ブラックペーパー・チャイルド」

 その他の作品に関しては、ふたばSS@WIKIの『二行の作品集』をご覧下さい。
 餡娘ちゃんとWIKIあきに、多謝。


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感想

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  • DIO「おい、まだ全員じゃないぞあとえいえんていとみょうれんじが、いねーじゃねーかよ」
    ホルホース「確かにいねーな!!」
    ブロリー「そんなの関係ねーだろ、それより俺たちで、ハゲ共を倒そうぜ」
    DIO「もうちょっと様子を見てから行こーぜ、行ったて、俺たち邪魔じゃん」
    ブロリー「そうしよう」 -- 2015-01-18 13:57:18
  • はげまんじゅう!はげまんじゅう!
    ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう! -- 2013-06-17 15:54:55
  • はげまんじゅう!はげまんじゅう!
    ゆっくり、すなわち、はげまんじゅう! -- 2013-06-17 15:54:11
  • こーまかん、ちれーでん、やくも、てんかい、ようかい、はくぎょくろー、もりやとは勢揃い・・・かと思ったらえいえんてい無いぞ。えいえんていどうした? -- 2013-03-20 22:38:21
  • 謎の感動
    -- 2012-07-29 22:33:58
  • 俺これ大好きだ……
    改めて場面想像するとギャグでしかないのに
    読んでて思うことは「怖い」
    -- 2011-09-01 23:03:20
最終更新:2010年03月07日 20:02
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