剣閃が舞う。
ある者は力強い横薙ぎを、ある者は疾風怒濤の袈裟懸けを、ある者は風をも切り裂く飛来刃を。
見事と称えられるべきそれらも神を屠るには足りない。一つ目を左腕で軌道を逸らし、二つ目を大剣で捌き、三つ目は触手によってあらぬ方向へ弾かれる。
数度届くことはあれど、届いたところでGウイルスが持つ再生能力の前では決定打にはならない。それどころか長期戦になるにつれて疲弊が色濃くなる一方だ。
「が……ッ!?」
「ぐ、おォ…………っ!」
幅跳びの要領で放たれた9Sのジャンプ斬りに対し、地を抉りながら放たれるバスターソードの斬り上げが返される。咄嗟に聖剣の腹で受けるが無防備な空中であるがゆえに小柄な身体が投げ出された。
手数が一つ減った瞬間を狙い今度は左腕の正拳がハンターへ襲いかかる。身を捻るのが精一杯で完全には躱し切れない。左肩を掠めた程度であるはずなのに狩人は錐揉み回転し床へと叩き付けられた。
「…………!」
落下してきた9Sを狙い撃つように剣を引き、刺突を放つ────寸前、セフィロスの首裏に浅い切創が走り追撃は中断される。深紅の扇がカミュの元へ過ぎ行くのを目で追い、天使の名を持つ〝なにか〟は悪魔の如く不気味な笑みを見せた。
「バケ、モンが…………っ!」
吐き捨てるカミュに二人も鈍重な動きで起き上がりながら心中で同意する。
倒す算段がまるで浮かばない。9Sの覚醒により僅かに事態が好転したように見えたがセフィロスにとっては誤差に過ぎないのだという現実を突き付けられる。
これを戦いと呼ぶ者がいたとしたらよほどの節穴だろう。狼が羊の群れを襲うような一方的な蹂躙だ。
「もう終わりにしよう。これ以上お前たちが苦しむ必要はない」
セフィロスが狙いを定めたのは青髪の盗賊。
唸りを上げて迫る肉の翼に遊びも手心もない。本能が訴える。避けねば死ぬ、と。
しかしそれを避ける術はカミュにはない。ハンターたちの助けも間に合わないだろう。せめてもの抵抗でろくに動かない右腕を盾にしようとするが寿命が変わらないことは明白だった。
「────ピオリム、スクルト、バイキルト!」
加速の乗せられた身体は、理解よりも早く死から逃れる。
一瞬回避の間に合ったカミュの横を通り過ぎるそれは壁に突き刺さり、返るはずだった手応えを感じないことにセフィロスは眉を顰めた。
いや、それだけではない。
膨大な魔力から放たれた支援魔法の恩恵はそれを受けた本人たちの、そしてセフィロスの予想を越える効果を生み出す。
現にセフィロスの腹部に気刃斬りによる一文字の傷跡が刻まれ、左肩には聖剣の一撃が食い進んでいた。
「ベホマラーっ!!」
傷ついた戦士たちの身体を緑色の輝きが包む。痛みが引き、傷が塞がっていくのがわかる。
諦めとは違う笑みを乗せたカミュは振り返らないまま、驚愕に染まるセフィロスの顔を見ながら喜色の声を渡らせた。
「ありがとよ、セーニャ!」
「…………はい!」
力強く応えるセーニャの瞳がセフィロスのものとかち合う。忌々しげな視線を乗せたそれに気が付いた瞬間、鞭のようにしなる触手が彼女を肉塊に変えんと迫った。
「させるかあぁッ!!」
しかしそれは9Sの聖剣に断たれる。
本来であれば間に合うことなどおろか、反応することすらできないそれに対処出来ていることに能力上昇を実感する。
鉤型に曲げた左腕の一撃により9Sの身体が吹き飛ぶが、スクルトによる防御力上昇が顕著となった。本来数秒飛ぶはずの意識が持ち堪えられている。
「はぁッ!!」
追撃を許さんとばかりに振るわれる狩人の真向斬り。筋力倍増(バイキルト)を乗せたそれはバスターソードと衝突し──拮抗。無論それは数瞬。すぐに太刀が押され始めた。
しかし少なくともこの瞬間は彼の右腕を抑え込めている。その隙を縫うようにカミュのブーメランがセフィロスの右脇腹を抉った。
「ぬ、おおおォォォォォ──ッ!!」
ほんの僅かに崩れた体勢を歴戦のハンターは見逃さない。大剣の腹を滑らせた刃は火花を散らしながら軌道を変え、セフィロスの右胸から左脇にかけて一筋の深い傷を刻む。確かな手応えだ、膝をつかせてもおかしくはない。
──が、セフィロスは怯みすらしない。洗練された左拳の反撃がハンターの体を撃ち抜いた。
「か────!」
吐血を散らして吹き飛ぶ狩人に目もくれず、返しのブーメランを大剣で叩き落とす。狼狽するカミュが距離を取るよりも先に肉薄を終えたセフィロスはカミュの身体を掴み、立ち上がろうとしていた9Sへ砲丸のように投げつけた。
悲鳴を上げる二人へとセーニャが腕を伸ばす。底の見えてきたMPは無視だ。一瞬でも支援が遅れたら全てが終わる。
「──ベホマラー! スクルト!」
本来の効力を発揮できない回復はセフィロスの一撃に比べれば心もとない。辛うじて身体を動かせる程度ではあるが、それが三人の生命線だ。
戦闘開始から数えて五分程度だろうか。とてもそんな短い時間とは思えない死闘は確実に体力を奪っていく。
セーニャが加わったことでたしかに戦況は変わった。しかしそれは決して優位になったわけではなく、あくまで〝蹂躙〟から〝劣勢〟になった程度の変化だ。
誰かが一つ間違えれば即決壊する極限の綱渡り。加えて度重なる疲弊と消耗はその細い綱を無慈悲に揺らす。
まるで終わりの見えない戦いは一瞬芽生えた希望をじわじわと潰していく。痛感は焦燥に変わり、セフィロスを除く四人の顔に冷たい汗が滴った。
そして、その時は訪れる。
「あ……ッ!?」
バリン、と。
破滅を意味する音と共にマスターソードの刀身が消失した。
瞬間、9Sへと振り向いたセフィロスの眼光が鋭く尾を引く。見惚れるほど美麗な顔だというのに、その冷徹な表情は間違いなく9Sの人生の中で最も恐怖を与えた。
ぶおんッ──と、轟音を立ててバスターソードが迫る。首を刈り取らんとする刃先は、聖剣を失い狼狽する9Sに回避という甘えた選択肢を許さない。
「ジバリアッ!!」
雄叫びに近いカミュの詠唱と共にセフィロスの足元が隆起した。
なけなしのMPを使って放たれた最下級呪文は当然ダメージにならない。が、無理やり体勢を変えられたことでセフィロスの凶刃は9Sの白髪をはらりと落とすだけに留まる。
安堵に現を抜かすほど馬鹿ではない。大幅に距離を取った9Sへ向かう触手をハンターが斬り落とす。間一髪間に合ったが、流れるように繰り出される左の拳に狩人は数メートル距離を取らされた。
「────イオラ!」
攻撃直後の隙を狙い、セーニャの爆破呪文が空気を揺らす。爆発の対象はセフィロスではなく、更に上。美術館の天井。
魔力切れを嫌って中級呪文に抑えたが建物への破壊力としては十分成果を発揮したようで、崩れ落ちる天井の残骸が瓦礫の雨となりセフィロスの身体を埋め尽くす。
巻き起こる塵埃と崩落の跡が彼の姿を完全に消した。わずかな時間稼ぎに過ぎないが、それをありがたく思う者がいた。
「拙者が残ろう。貴殿らは先に行け」
太刀を支えに起き上がるハンターの言葉は、みな心のどこかで抱いていた感情の代弁でもあった。
ここでセフィロスを倒すのは不可能。誰かが残って足止めをしなければ全滅する、と。言葉にしないだけで誰もがそれを確信していたのだ。
セーニャは自分こそ残るべきだと声を上げたかった。が、回復呪文の使い手が居なくなってしまったら美希を治療できない。歯痒い現実がセーニャの喉を詰まらせる。
「…………ハンターさん、ありがとうございます」
聖剣を失ったことで戦力外を痛感した9Sは美希を背負う。床や壁、天井にまで幾度も甚大な被害を受けた美術館は間もなく崩壊する。おまけにセーニャのメラゾーマの残り火が今になって燃え移ったのか、カーテンを伝う火が壁を覆い始めた。
迅速に脱出しなければ全員倒壊に巻き込まれるだろう。それだけは避けなくてはならない。
「おいおい、水臭ぇじゃねぇか」
「…………カミュ殿」
よろり、と。力の入らない身体に鞭打つカミュがハンターの隣に並ぶ。痣の目立つ顔は逆境にしてなお強気な笑みを見せていた。
「付き合うぜ、旦那。一緒に地獄を乗りきった仲だろ?」
カミュのそれは決して算段によるものではない。たしかに一人より二人の方が長く時間を稼げるであろうという狙いはあるが、それよりも彼の中にある義侠心がハンターだけを犠牲にすることが出来なかったのだ。
それを受けた狩人はふ、と微笑む。やはりこの男は優しい。きっと同じ世界に生まれていれば互いを高め合う良き同志となっただろう。
「────かたじけない」
だからこそ、死なせてはならない。
残夜の太刀の柄がカミュの脇腹に突き刺さる。予期せぬ衝撃にあっさりと意識を刈り取られたカミュは床へ伏した。
「え……っ!?」
「まったく、万全の状態であればこの程度の不意打ち躱せたであろうに。無茶をするな、カミュ殿」
突然の行動に驚愕するセーニャ達をよそに、狩人の顔はひどく穏やかだった。死を目前にした者とは思えぬ温和な顔は元来の彼の性格を物語る。
「カミュ殿のポーチの中に氷の杖がある。それを使って入口から脱出し、イシの村へ向かってくれ」
「…………!」
転じて、有無を言わさぬ彼の迫力にセーニャは息を呑む。迷う暇はない。カミュの体を背負い上げた彼女はハンターと逆方向に歩みだし、一度。たった一度だけ顔を向ける。
「必ず、セフィロスを討ちます……!」
感謝でもなく、謝罪でもなく。
今狩人が一番欲している言葉を、セーニャは告げる。それを受けた狩人は口角を釣り上げ、太刀を握り直す。
セーニャに続いて9Sも、一瞬の逡巡の末に場を離れる。遠ざかる足音にひとまずの安堵を覚えるも、まだ彼の役目は終わっていない。
ドォ──ン──ッ!
盛大な音と共に爆ぜる瓦礫の山。
不規則に散りばめられた残骸を踏み抜き、山の中心に降り立つセフィロスは不敵な笑みを宿らせていた。
「勇敢だな。しかし生憎と加減してやるつもりはないんだ」
「構わぬ。全力で来るがいい」
その男は、かつて英雄と呼ばれた者。
その男は、未だ英雄と呼ばれる者。
駆ける双影が刃を振るう。
周囲を囲む炎がゆらりと踊った。
◾︎
「はッ、はッ、は……ぁっ!」
美術館の入口を覆う炎をフリーズロッドの氷でかき消し、無事四人は倒壊を始める美術館を脱出する。
振り返りはしない。そんな暇があるのならば一秒でも早く、一歩でも多く離れなければならない。
大きく揺れたことで二人の背負うカミュと美希が声を洩らす。気遣いたい気持ちはあるが安全を確保してからだ。
彼の、英雄の意志を無駄にはしない。
セフィロスを討つという誓いを現実にするために、生きなければ。
背後で巻き起こる崩音を聞きながら、機人と聖女はイシの村を目指し突き進む。
9Sとセーニャのほつれかけた糸は、幾人が紡いだ助けによって繋がった。
星井美希、カミュ、ハンター。彼女たちが与えた影響はこの殺し合いの命運を変えるほど強く、確かな力を持っているだろう。
道は、光へと伸びる────。
【B-4/一日目 日中】
【ヨルハ九号S型@NieR:Automata】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(中)、混乱(小)
[装備]:マスターソード(破壊)@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:美希を護る。その為に殺し合いを破壊する。
1.イシの村へ向かう。
2.美希……っ!!
3.セフィロスを倒す為に戦力を整えなければ。
※Dエンド後、「一緒に行くよ」を選んだ直後からの参戦です。
※ゴーグルは外れています。
※全ての記憶を思い出しました。
【星井美希@THE IDOLM@STER】
[状態]:肋骨骨折、折れた骨が肺に刺さっている、意識不明、9Sに背負われている
[装備]:
[道具]:基本支給品、モンスターボール(ムンナ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[思考・状況]
基本行動方針:自分にできることをする。
0.意識不明
【カミュ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:HP1/12、右肩脱臼、疲労(大)、MP0、気絶中
[装備]:必勝扇子@ペルソナ4
[道具]:基本支給品、カミュのランダム支給品(1~2個、武器の類ではない) ウィリアム・バーキンの支給品(0~2)(確認済み) 七宝の盾@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド
[思考・状況]
基本行動方針:仲間達と共にウルノーガをぶちのめす。
0.気絶中
1.仲間や武器を集め、戦力が整ったらセフィロスを倒す。
2.これ以上人は死なせない。
※邪神ニズゼルファ打倒後からの参戦です。
※二刀の心得、二刀の極意を習得しています。
【セーニャ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
状態]:HP1/8、疲労(中)、右腕に治療痕、全身に火傷、MP消費(大)
[装備]:フリーズロッド@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド、シルバーバレッタ@FINAL FANTASY Ⅶ、マテリア(いかずち)@FINAL FANTASY Ⅶ、星屑のケープ@クロノ・トリガー
[道具]:黒の倨傲@NieR:Automata、基本支給品、ランダム支給品(確認済み、1個)、軟膏薬@ペルソナ4
[思考・状況]
基本行動方針:罪を償う。
1.ここを離れ、イシの村を目指す。
2.必ずセフィロスを倒す。自分の命に代えても。
3.私はもう、間違えない……!
※世界樹崩壊後、ベロニカから力を受け継いだ後からの参戦です。
※ザキ系の呪文はあくまで生命力を奪う程度に留まっており、連発されない限り即死には至りません。
※放送は気に留めておらず、名簿を見ていません。
※セーニャの体内のジェノバ細胞によって、セーニャの得た情報は、セフィロスにもインプットされます。
※ジェノバ細胞の力により、従来のセーニャより身体能力、治癒力が向上しています。外見は右腕の癒着痕を覗き、少なくとも現在は特に変化はありません。
※体内に胚を植え付けられてGウイルスに感染しました。
※現在はジェノバ細胞の力により適合できています。また、ジェノバ細胞との共存により外見に変化は見られませんが肉体ダメージによりGウイルスが暴走するかもしれません。
【ムシャーナ ♀】
[状態]:HP1/3、ねむり
[特性]:よちむ
[持ち物]:なし
[わざ]:サイケこうせん、ふういん、つきのひかり、さいみんじゅつ
[思考・状況]
基本行動方針:美希についていく。
※所有者は星井美希のままですが、モンスターボールをハッキング済みのため9Sがモンスターボールに情報を送ることで遠隔操作に近い指令ができます。
※レベル20になりました。
最終更新:2024年10月20日 23:56