薫(0048〜不明)は、紫式部の物語作品『源氏物語』の第三部の主人公格のひとり。別称薫君、薫大将。初登場は『柏木』(第三十五帖)、最終登場は『夢浮橋』(第五十四帖)。表向きには光源氏の次男とされるが、出生には様々な疑惑がある。「宇治十帖」では、匂兵部卿宮との恋の争いが描かれる。
略歴
疑惑の誕生〜順調な昇進
0048年、誕生。父親は光源氏、母親は女三宮とされるが、その出自には疑問がある。
母親は、妊娠前に柏木と密通しており、光源氏の実子であるかどうかは不明である。母親は薫を出産後まもなく出家し、冷泉院と秋好中宮に実子のごとく愛されて成長する。
0061年、元服し侍従となり、同年右近衛中将に昇進。0066年には、宰相中将となる。源氏の子として、冷泉院や今上帝から優遇されていたと思われる。
母親は、妊娠前に柏木と密通しており、光源氏の実子であるかどうかは不明である。母親は薫を出産後まもなく出家し、冷泉院と秋好中宮に実子のごとく愛されて成長する。
0061年、元服し侍従となり、同年右近衛中将に昇進。0066年には、宰相中将となる。源氏の子として、冷泉院や今上帝から優遇されていたと思われる。
宇治来訪〜大君の死
0069年、厭世の想いを募らせた薫は、俗聖の噂を聞きつけ宇治を訪れる。薫は、宇治八宮と打ち解け合い、信頼関係を築く。同時に、薫は宇治大君に強く惹かれ、八宮の娘二人の後見になることを決意する。また、八宮邸の女房で、かつて柏木に仕えていた弁尼から、自らの出自の秘密を聞くことになる。
0070年、八宮が薨去し、薫は大君に想いを伝えるが拒絶される。薫は、匂宮と中君の仲を取り持ち、大君に結婚を迫るが、大君は絶望し食事を絶って亡くなった。薫は自責の念に苛まれる。
0070年、八宮が薨去し、薫は大君に想いを伝えるが拒絶される。薫は、匂宮と中君の仲を取り持ち、大君に結婚を迫るが、大君は絶望し食事を絶って亡くなった。薫は自責の念に苛まれる。
浮舟との邂逅〜物語の終焉
0073年、薫は宇治で八宮の落胤浮舟と出会う。大君と酷似した浮舟に惹かれた薫は、中君の取り計らいで結ばれる。しかし、薫の留守中に匂宮が邸に侵入し、浮舟と契りを結ぶ。浮舟は、二人の貴公子の板挟みとなり、翌年入水する(実は、この入水は失敗している)。薫は悲嘆に暮れ、供養に勤しんだり、義姉女一宮の美貌に心を慰めたりしていたが、0075年、明石の中宮に仕える小宰相君から浮舟生存の連絡を受ける。薫は、浮舟に手紙を送るも返事がなく、他に彼女を匿う男性がいるのではないか、と疑いながら『源氏物語』は幕を閉じる。
人物像
鬱屈とした性格
薫は礼儀正しく真面目な性格であり、周囲からは高い評価を得ているが、出自の秘密を知っているためか厭世的な思想の持ち主である。その一方で、女性に対しては優柔不断でどこか屈折した態度で接してしまうため、どの女君とも良好な関係を築けない。英雄的・神話的性格を持った光源氏とは異なり、鬱屈とした性格の主人公として異色の存在感を放ち、後世の文学作品にも影響を与えている。
仏教的志向・俗物的志向
自分は産まれながらにして不義の罪を背負っていると考え、仏教的に強く帰依している。宇治八宮との関係も、仏教によって結ばれたものだった。反面、研究者の間では、なかなか出家の決意が定まらなかったり、浮舟や女一宮に対する恋慕の情があったりと、俗世間への執着を断ち切れていないという指摘もある。いずれにせよ、複雑な性格で人間味に富んだ人物描写をされている。
身体の芳香
「薫君」という通称の由来は、生来その身体から芳香を放っていたことに由来する。これは、光源氏の、身体から光を放っているという神話的な性質を受け継いだものとされる。香は、仏教において身体・精神を浄めるものだとされ、薫の仏教的性格を体現する表現なのだろう。
実父に関する諸説
薫の実父は、後世柏木で間違いないとする説が有力視されているが、作中では明記されていない。実際に、容姿は光源氏に似ているという描写があるなど、光源氏の実子であるという可能性は無視できない。
妻子
- 正妻:女二宮(今上帝)
- 妾:浮舟