新約聖書の写本の分類
新約聖書の写本にはパピルスで書かれた写本と、羊皮紙に書かれた写本がある。羊皮紙に書かれた写本は、大文字写本(アンシャル体)と小文字写本(カーシブ体)に分類される。その他に、礼拝用の聖句集として聖書日課がある。
パピルス写本が最も古い年代層の写本であり貴重である(2~4世紀)。大文字写本(4-9世紀)が次に古い層であり、小文字写本(9世紀以降)は比較的新しい写本群といえる。礼拝用の聖句集である聖書日課は7世紀以降のもの。
・パピルス写本 …2~4世紀
・大文字写本(羊皮紙) …4-9世紀
・小文字写本(羊皮紙) …9世紀以降
・聖書日課 …7世紀以降
パピルス写本は現在およそ134本見つかっており、P1~134という番号で分類される。主にオクシリコン・パピルス、ボドメル・パピルス、チェスター・ビューティー・パピルス等がある。
・オクシリコン・パピルス
P1、5、9、10、13、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、26、27、28、29、30、39、50、51、69、70、71、77、78、90、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、119、120、121、122、123、124、125、127
・ボドメル・パピルス
2号(P66)、7-9号(P72)、14-15号(P75)、17号(P74)
・チェスター・ビューティー・パピルス(1~3号)
1号(P45)、2号(P46)、3号(P47)
大文字写本は現在およそ322本見つかっている。特に重要なのは、シナイ写本(アレフ記号)、ヴァチカン写本(B)、アレクサンドリア写本(A)である。その他にも、エフライム写本(C)ベザ写本(D)、バシリエンシス写本(E)等、様々ある。
・シナイ写本 …4世紀
・ヴァチカン写本 …4世紀
・アレクサンドリア写本 …5世紀
小文字写本は現在およそ2882本ある。また、聖書日課は現在およそ2385本ある。これらを合計すると5723本となり、新約聖書の写本は5千7百本を越える。ただし、比較的に初期の頃の写本は数百本である。
これらの写本には「異読」があり、写本によって文字や文章が追加されていたり、削除されていたりする。それら異読の特徴を分類したものが型である。異読の型には、アレクサンドリア型、西方型、カイサリア型、ビザンティン型がある。
・アレクサンドリア型
文章が簡潔で飾り気がない。したがって原文に最も近いと見なされる。ヴァチカン写本やシナイ写本などが挙げられる。
・西方型
文章が装飾的で長くなっているので、アレクサンドリア型よりも後に加筆されたと見なされる。ベザ写本など。
・カイサリア型
アレクサンドリア型と西方型の混合である。
・ビザンティン型
9世紀以降の小文字写本群にみられる型で、文体が修正されて整えられているため、原文には遠いと考えられている。
これら数々の写本をその型ごとに比較検討し、最も原文に近いと思われる形に復元したものを「底本」という。
1516年にエラスムスがビザンティン型により復元した底本をテキストゥス・レセプトゥス(TR)という。テキストゥス・レセプトゥスの底本を用いて翻訳された聖書は、マルティン・ルターのドイツ語訳聖書(1522年)、ウィリアム・ティンダルの英訳聖書(1525年)、ジェームズ王欽定訳(KJV,1611年)などである。
その後、写本の収集や本文批評の技術が発達し、ウェストコット・ホート(W&H)がアレクサンドリア型により復元した底本(1881年)が多く用いられるようになる。これを基に翻訳された聖書は、改定訳(RV,1895年)アメリカ標準訳(ASV,1901年)、新世界訳聖書(NWT,1950)などである。
その後、現代において標準的に用いられいる底本はネストレ・アーラント(1913年~,現在NA28版)である。これには学術版と簡易版(UBS4版)があるが、これらを基に翻訳された聖書には、改定標準訳(RSV,1952年)、日本の大正改訳聖書(文語訳,1917年)、口語訳聖書(1954年)、新改訳聖書(1970年)、新共同訳聖書(1987年)などがある。
最終更新:2016年09月18日 22:16