テモテ第一6:13-16の翻訳と釈義
■テモテ第一6:13-16 訳文
私は[あなたに]命じる。
万物を生かしめている神と、ポンティオ・ピラトの前で良き告白を証言したキリスト・イエスの御前で。
あなたを、この戒めに関して、斑点のなく、非難されるところのない者として保ちなさい。我らの主イエス・キリストの顕現まで。
この顕現を、彼は然るべき時期に示すであろう。
幸いなる且つ唯一の権力者、王なる者たちの王、また主なる者たちの主、
不死を持つ唯一の方、
近づきがたい光を住居とする方、
人間たちの誰もこの方を見たことがなく、また見ることもできない。
この方に誉れと永遠の威力が(あるように)、アーメン。
■テモテ一6:13
παραγγέλλω ○[σοι] ἐνώπιον ○1 τοῦ θεοῦ τοῦ 「ζῳογονοῦντος τὰ πάντα καὶ ∫ Χριστοῦ Ἰησοῦ ∫ τοῦ μαρτυρήσαντος ἐπὶ Ποντίου Πιλάτου τὴν καλὴν ὁμολογίαν,
私は命じる [あなたに] 面前に(の) この 神の この 生かしめている者の この 全てのものを そして キリストの イエスの この 証言した者の 上に ポンティオの ピラトの この 良いを 告白を、
私は[あなたに]命じる。
万物を生かしめている神と、ポンティオ・ピラトの前で良き告白を証言したキリスト・イエスの御前で。
※異読
○ [σοι](あなたに)が省略されている写本。25版では採用されたが変更された読み(♰)、シナイ写本の元来の読み(ℵ*)、アウギエンシス写本(F)、ウォルフィA写本(G)、アトウス・ラウレンシス写本(Ψ)、小文字写本6.33.1739、他少数(pc)、ラテン語スペクルム写本(m)、二つ以上のサヒド方言の写本(sa.mss)
¦本文の読みを採用する写本(txt)。シナイ写本の第二の修正者の読み(ℵ2)、アレクサンドリア写本(A)、ベザ写本(D)、ウォルフィB写本(H)、小文字写本1881、多数派写本(ℳ)、ウルガタと一部の古ラテン語伝承(lat)、シリア語訳(sy)、一つのサヒド方言(sa.ms)、ボハイル方言(bo);テルトゥリアヌス(Tert)
○1 [τοῦ](冠詞)が省略されている写本。シナイ写本(ℵ)、他少数(pc)
「 [ζωοποιουντος](生命を作り出す(者)の)に置き換えられている写本。シナイ写本(ℵ)、多数派写本(ℳ)
¦本文の読みを採用する写本(txt)。アレクサンドリア写本(A)、ベザ写本(D)、アウギエンシス写本(F)、ウォルフィA写本(G)、ウォルフィB写本(H)、ポルフィリアヌス写本(P)、アトウス・ラウレンシス写本(Ψ)、小文字写本33.81.104.365.630.1175.1505.1739.1881、他少数(pc)
∫ [Χριστοῦ Ἰησοῦ](キリストの・イエスの)の語順が入れ替わっている写本。シナイ写本(ℵ)、アウギエンシス写本(F)、ウォルフィA写本(G)、小文字写本326、他少数(pc)、シリア語ペシッタ訳(sy.p);テルトゥリアヌス(Tert)
¦本文の読みを採用する写本(txt)。アレクサンドリア写本(A)、ベザ写本(D)、アトウス・ラウレンシス写本(Ψ)、小文字写本33.1739.1881、多数派写本(ℳ)、ウルガタと一部の古ラテン語訳(lat)、シリア語ヘーラクレーア訳(sy.h)
παραγγέλλω(παρά(傍らに)+ἀγγέλλω「伝える」) 命じる、指示する。
ἐνώπιον 準
前置詞。属格的用法「面前で(顔の前で)」。
ζωογονοῦντος(ζωογονέω) (ζοως「生きている」+γίνομαι「生じる」) 現在分詞形。「生命を生じさせる、生かしめている」。別の読みでは、ζωοποιουντος(ζοως「生きている」+ποιέω「作る」)「生命を作り出す」。
πάντα(πᾶς) 「すべて、あらゆる」。中性形。冠詞+
形容詞で名詞化し「万物(すべてのもの)」。
μαρτυρήσαντος(μαρτυρέω)「証言する」のアオリスト分詞形。
ἐπί 前置詞「上に」。ここでは属格の用法のうち「~の面前で」。
καλός 「美しい」。または、良い、優れた、善い、立派な。
ὁμολογία(ὁμοῦ「同じ」+λέγω「言う」)同じことを言う。同意、承諾。告白。公言、主張。
■テモテ一6:14
τηρῆσαί σε τὴν ἐντολὴν ἄσπιλον ἀνεπίλημπτον μέχρι τῆς ἐπιφανείας τοῦ κυρίου ἡμῶν Ἰησοῦ Χριστοῦ,
見張ったこと あなたを この 戒めを 斑点のない者を 非難されるところのない者を ~まで この 顕現の この 主の 私たちの イエスの キリストの、
あなたを、この戒めに関して、斑点のなく、非難されるところのない者として保ちなさい。我らの主イエス・キリストの顕現まで。
※または「斑点のなく、非難されるところのないこの命令に関して、あなたを保ちなさい」。
τηρῆσαί(τηρέω) 見張る、保持する、保つ、守るのアオリスト不定詞。不定詞では時称の意味は欠落する。ここでは、不定詞による命令法「~すること」。
ἄσπιλος 斑点のない、ぶちでない。厳密には「傷のない」ではなく、犠牲の動物の穢れのない完全性を表す。
ἀνεπίληπτος(ἀ(否定)+ἐπί(強意)+λαμβάνω「取る、捕まえる」) 捕まえるところのない、非難されるところのない、咎められるところのない;ἐπιλαμβάνομαι「(言質を)取る」「(言葉尻を)捕まえる」。
ἐντολή(ἐν(中に)+τέλος「終り」) 命令、戒め、掟。七十人訳では「מִצְוָה」。
ἐπιφάνεια (ἐπί(強意)+φαίνω(輝く、現れる、明白になる)) 出現、顕現。神の働きが目に見える形ではっきりと現れること。
■テモテ一6:15
ἣν καιροῖς ἰδίοις δείξει ὁ μακάριος καὶ μόνος δυνάστης,
ὁ βασιλεὺς τῶν βασιλευόντων καὶ κύριος τῶν κυριευόντων,
この(顕現)を 時(複)に 自分たち(然るべき)に 彼は示すだろう この 幸いな者は そして 唯一の者は 力を持つ者(権力者)は、
この 王は この 王である者たちの そして 主は この 主である者たちの、
この顕現を、彼は然るべき時期に示すであろう。
幸いなる且つ唯一の権力者、王なる者たちの王、また主なる者たちの主、
ἣν 関係代名詞。女性単数。前節の「顕現」(女性・単数)を指す。
καιροῖς(καιρός) 「時」の複数形。直訳では「諸々の時」。幅をもった時として「時期、時代、季節」と訳せる。時を表すギリシャ語はクロノス(Χρόνος)とカイロス(καιρός)がある。いずれもギリシャ神話の神の名だが、クロノスは「時間」を指し、カイロスは時間とは無関係な機会としての「時」を指す。
ἰδίοις(ἴδιος) 「自分」の複数形、与格で「自分たちに」。独自の、固有の、本来の、という意味もある。ここではカイロス(時)の複数形と組み合わせ、「本来の時期、然るべき時期、相応しい時期」という意味に用いられている。
δείκνυμι 指し示す、示す、見せる、証拠を示す、立証する。この「彼」はおそらく13節の「神(τοῦ θεοῦ)」。
μακάριος 形容詞の主格。幸いな(者)は。ここから以下は、「神」のことか、「キリスト」のことか意見が分かれる。どちらとも取れる。しかし、テモテ第一1:17、2:5を参照。
μόνος 形容詞の主格。唯一の(者)は。但し、「冠詞+幸いな+そして+唯一の」という「冠詞+A+and+B」構文なので、「幸いなる且つ唯一の権力者」と訳される。
δυνάστης 形容詞の主格。力を持つ(者)、つまり権力者は。イザヤ書9:6「力ある神」(אֵ֣ל גִּבֹּ֔ור)を参照。
βασιλεύω βασιλεύς「王」の動詞形。「王である、王となる」。
κυριεύω κύριος「主」の動詞形。「主である、主となる」。究極的に「神」のことか。あるいは、キリストの顕現の完全さを、地上の王(主)たちのそれと比較している。黙示録17:14,19:16にはキリストのことが「王の王」「主の主」と呼ばれている。
■テモテ一6:16
ὁ μόνος ἔχων ἀθανασίαν,
Tφῶς οἰκῶν ἀπρόσιτον,
ὃν εἶδεν οὐδεὶς ἀνθρώπων οὐδὲ ἰδεῖν δύναται·
ᾧ τιμὴ καὶ κράτος αἰώνιον,
ἀμήν.
この 唯一の者は 持つ者は 不死を、
光を 住居とする者は 近づくことのできない(を)、
この者を 彼は見た 誰も~ない(は) 人間たちの また~もない 見たこと 彼はできる・
この者に 評価は そして 力は 永遠の(は)、
アーメン.
不死を持つ唯一の方、
近づきがたい光を住居とする方、
人間たちの誰もこの方を見たことがなく、また見ることもできない。
この方に誉れと永遠の威力が(あるように)、アーメン。
※異読
T [και](そして)が挿入されている写本。ベザ写本の元来の読み(D*)、小文字写本629、ラテン語アルマカヌス写本(ar)、ラテン語ヴェロネンシス写本(b)、ラテン語スぺクルム写本の元来の読み(m*)、ウルガタ訳クレメンス版(vg.cl);テルトゥリアヌス(Tert)、アンブロシアステル(Ambst)
ἀθανασία (ἀ(否定)+θάνατος「死」) 不死。
οἰκέω 動詞。住居とする。
ἀπρόσιτος (ἀ(否定)+πρός(~の方へ向かう)+εἰμί(である)) 近づくことのできない。
ἀνθρώπων(ἄνθρωπος) 「人間」の複数・属格。「人間たちの」 ここでは、人間たちの(内で、中で)誰も、という意味。
ὃν 関係代名詞。「この方を」は神(τοῦ θεοῦ)かキリストかどちらとも取れる。口語訳、新共同訳、新改訳のいずれも、ここを「神」と限定して訳出するが、それは中立的でも字義的でもない。フランシスコ会訳は正しく「この方」と訳している、さすが。
οὐδεὶς~οὐδέ~ 誰も~なく、また~もない
ᾧ 関係代名詞。この「この方に」も、神(τοῦ θεοῦ)か、あるいはキリストのこと。
τιμή 「評価」を意味する。これが人物を正当に評価することを指すと、尊敬、誉れ、栄誉といった意味合いが含意される。
κράτος 「力」。ギリシャ神話でクラトスは力の神。ギリシャ哲学ではデュナミス(δύναμις)は可能態のことで、潜在的な力を意味するが、クラトスは力の強さ、支配力、威力を意味する。
最終更新:2017年04月13日 03:20