惑いのダッチアイリス ◆EAUCq9p8Q.
早朝。
打ち棄てられたはずの廃教会の郵便受けに、一通の手紙が放り込まれる。
配達の青年は少し不思議そうな顔をしたが、別段気にせずに郵便配達用のスクーターを走らせて来た方向へと帰っていった。
スクーターのエンジン音が離れて数分。
油の切れた扉がきいきいと耳障りな、小さな悪魔の上げている悲鳴のような音を立てて開いた。
ぼろぼろな教会から出てきたのは、小さな小さな女の子。
「……これって……」
大きなリボンが特徴的な少女、
桂たまは郵便受けに入れられたすみれ色の薔薇模様の便箋を手にとってしげしげと眺める。
宛名は書いてない。
もしかして配達ミスだろうかなどと考えていると、彼女の頭に声が響いた。
まるで、地獄の底から響いてくるような声。
たまは物怖じせず、その言葉を反芻するように繰り返した。
「ルーラー……」
ルーラー、という存在が居るという知識はたまにもあった。
裁定者として聖杯戦争の進行を担う者。
つまり、アパートの管理人さんとか、スポーツの審判さんみたいなものなんだろうと考えていた。
その人からの手紙。
なんだろう、と少し考えこむ。
そしてすぐに一つの心当たりに辿り着いた。
「この教会、勝手に使っちゃったの、やっぱりいけなかったんでしょうか」
そういえば、目がさめたからなし崩し的にこの教会に住み続けている。
それが悪かったんじゃないだろうか。
ぽやっとしたまま少しずれたことを言うたまの脳内に、再び声が響く。
『なにあれ よんで みないことには はじまらない。
はやく もどって くるのだ』
「そうですね、すぐ戻ります」
ぱたぱたと小さな体で細やかに動き、再び不釣り合いな扉を開く。
再びきいきいと悪魔の悲鳴のような音を立てて、教会は少女を飲み込んだ。
すみれ色の薔薇の便箋の中身を、たまと彼女のサーヴァントであり念話の声の主であるアサシンの二人で眺める。
書面にはいくつかの事項が書かれていた。
たまが予選を通過したという旨。
聖杯戦争用に掲示板をインターネットに用意したという旨(たまは機械系には疎いのでほとんど関係ないが)。
ついでに、5000円分のQUOカードも入っていた(諸事情により億単位の資金を持つためこれもほとんど関係ない)
そして、もう一枚。
マスターの一人である
フェイト・テスタロッサを捕獲対象に定めたという旨を書いた書類と、彼女の顔写真が入っていた。
生死は問わず、もし生かしたままフェイト・テスタロッサをルーラーに引き渡したマスターには令呪一画が報酬として与えられるらしい。
「『ほかく』 か」
アサシンが呟く。
「何かあったんでしょうか」
たまがアサシンに問う。
しかし、裁定者側の都合などアサシンに知る由もない。
「そなたは じぶんのみ のことを あんじておればよい」
アサシンの言葉で、たまの背筋が少しだけ伸びる。
「よせんつうか が かくていした ということは きょうから せんとうが ほんかくてきになる ということ。
これまでのように かくれて すごすことも ままならぬ やもしれぬ」
アサシンに言われて、ようやく実感した。
戦争が始まるのだ。
これまでは運良く誰にも見つからずに過ごせてきていたが、これからは違う。
遅かれ早かれ、参加者がたまを探しだす。
「バラモスが かえらぬ うちに この きょうかいを おそわれれば そなたは なにもできず しぬのみ」
言われて気づく。
アサシンは『バラモス』の生存中は一切の戦闘行動が行えない。
つまり『バラモス』が生きている間にどこかの組がたまを襲いに来たら、その時は成すすべなく殺されてしまうのだ。
どうすればいいのかわからず、慌てふためくたま。
アサシンは特に表情を変えず、ただ闇に向かって指を弾いた。
弾いた指の音をきっかけに、闇の中からいくつもの『得体のしれないもの』が現れる。
「キラーアーマー」 血に染まった鎧を身に纏う物言わぬ騎士。
「ガニラス」 鮮やかな青い甲羅をした、人ほどの大きさの蟹。
「ミミック」 宝箱から覗く怪しい目をした化け物。
「ベホマスライム」 イチゴゼリーのような赤く半透明の頭をしたクラゲ。
「あらかじめ よびだしておいた モンスターだ」
アサシンのスキルの一つによって生み出された、とても強そうなモンスターたち。
彼らに見惚れた後に、得心したとばかりにアサシンに彼らについて聞いた。
「いざという時は、この人たちに戦ってもらうんですね!」
「ちがう」
たまの言葉を突っぱねて返ってきたのは、彼女が予想だにしなかった答え。
「こやつらは しょせん モンスターに すぎぬ。
せめてくるのが アサシンや キャスターの サーヴァントならば かずにものをいわせて わたりあえる やもしれぬ ……
しかし、 さんきしや バーサーカーとでは たたかいに ならぬ。 まず いっぽうてきに ころされる のみだ」
三騎士、セイバー・アーチャー・ランサーのクラス。
バーサーカー、場合によっては三騎士すら凌駕する性能を持つクラス。
戦闘に適したクラス相手なら、戦闘能力に優れたキラーアーマーでも二合切り合えればいい方だ。
「じゃあ、この人たちは一体……?」
「じかんかせぎだ」
たまのくりくりとした瞳がひときわくりくりと開かれる。
そのエメラルドの原石のような深い翠の瞳が、光を吸ってきらりと輝く。
「ごくらくちょう」
どこに潜んでいたのか、空から二羽の鳥が舞い降りる。
赤みがかった毛並みの鳥は、どこか浮世離れした雰囲気を身に纏っていた。
「しゅうげき されたなら、 この きょてん、 この モンスターたちを かえりみるな。
ごくらくちょう と ともに わしのもとまで にげてこい」
「で、でも、そうしたら、この人たちは……」
「あしどめ ていど ならば できる」
足止め、という言葉がたまの胸を少し締め付ける。
たまは必死に、「でも、それじゃ、それは……」とぶつ切りでまだ言葉にならないままの感情をぶつけようとする。
「なにを まよっている? ねがいを かなえるために ぎせいは つきものだろう」
しかしアサシンはたまの言葉を待たず、至極愉快そうにそう言い放った。
願いを叶えるために犠牲はつきもの。
その一言が、再びたまの胸をきゅっと締め上げる。
「あれらは いきものでは ない。 ただの まりょくの かたまりだ。
それが きえるのは し ではない。 ただの しょうめつ よ」
まるで世界の常識のように。
夢がいつか醒めてしまうだと言うのと同じように、たまにそう諭す。
そんなアサシンの言葉を聞いて、たまの胸が居心地悪げに三度うずく。
それは紛れもない事実、なのかもしれない。
だが、たまはその事実が、とても心地の良くないものに思えた。
「では わしは ふたたび じんちの さくせいへ むかう。
なにかあれば ねんわを つかうのじゃ」
言い淀むたまを傍目に、アサシンは会話を切り上げ、霊体化した。
そうして、少々賑やかだった廃教会は沈んだような、停滞しているような沈黙と空気を取り戻した。
アサシンいわく『生き物ではない』モンスターたちと、もやもやとした感情を胸に残したたまをその腹中に収めたまま。
◇
青。
あるいは赤。
あるいは紫。
あるいは緑。
降り注ぐ様々な色をした柔らかな日差し。
人が居なくなって相当の年月が経ち、内外装共に寂れてしまっていたが、建物の高くにはめ込まれたステンドグラス越しのその光だけは、今も鮮やかなままだ。
胸の前で手を組み、飾られた十字架と降り注ぐ光に願いを込める。
神の御下で安らかに眠る人達のために。聖杯に願いが届くように。
目を伏せ、黙して祈りを捧げ続ける桂たまの姿は、まるで絵画に描かれた天使のような無垢さを讃えていた。
「……」
ちち、ちちち。家の外から聞こえる小鳥の鳴き声。
しゃげー、しゃげー。これは家の中の鳥の鳴き声。
がしゃり、がしゃり。鎧の揺れる音。
かちゃかちゃかちゃかちゃ。木張りの床を爪が弾く音。
祈りの裏で聞こえる音たち。
目を開き、音たちの方に向く。
音を発していたモンスターたちは、今もたまの護衛のためにせわしなく動き続けている。
そんな様子を見ながら、たまの脳裏に大魔王たるアサシンの言葉がよみがえる。
―――願いを叶えるために、なにかを犠牲にする。
アサシンは言った。
彼らはアサシンが呼び出したモンスター、命を持つ生命ではないと。
魔力に寄って生み出され、魔力が尽きれば消えるだけの作り物だと。
でも、作り物だとしても。
また、きゅうと胸が締め付けられる。
締め付けられた胸の内を撫でるように、肉付きの悪い胸の上に手をおいて、こころの代わりに服を握りしめる。
彼らを自分のために犠牲にして、また犠牲を増やして、それでも救いを求めて祈り続ける。
たとえそれが作りものだとしても、今はああやって生きている彼らを見捨て、自分だけが生き延びる。
この先、戦争が激化すればそれを受け入れなければならない時がくるかもしれない。
だとしても。
今のたまには、その決断が、どうしても下せなかった。
胸で握りしめた小さな手。
その甲に刻まれている令呪は、迷いから抜け出せない彼女の心を嘲笑うかのように醜く歪んでいた。
【B-5/海辺の廃教会/一日目 早朝】
【桂たま@天国に涙はいらない】
[状態]健康、元気
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]ルーラーからのおてがみ
[所持金]億単位(銀行に貯金してある)
[思考・状況]
基本行動方針:戦闘はアサシンに一任
0.教会からはあまり出ない
1.大魔王城完成まで教会でひっそり暮らす
2.モンスターさんたちを、犠牲に……?
[備考]
※フェイト・テスタロッサの名前と顔を確認しました。
※廃教会内にキラーアーマー×10、ガニラス×10、ミミック×5、ベホマスライム×3が配置されています。
さらにたまが逃げ出せるようにごくらくちょう×2が潜んでいます。
彼らは勝手に増えませんが、今後アサシン(
ゾーマ)の采配とたまの要請次第で増えることはあります。
◆
ごぎ、がが、が、ぎご。
魔力を注ぎ込むごとに、外壁が積み上がっていく。
B-4-B-5に作成されている陣地『大魔王城』は着々とその姿を万全へと近づけていた。
外壁も、残す所あとすこし。
これが完成すれば、『ヤマタノオロチ』『ボストロール』が召喚できるようになる。
一日目の深夜から二日目の黎明くらいには個室が完成し、たまが大魔王城で暮らす準備が出来上がる。
「バラモスよ。 しれいはみっつだ」
まるで映像の巻き戻しのように音を立ててそびえ立っていく大魔王城を見ながら、後ろで控える自身の宝具『まおうバラモス』に語りかける。
バラモスは逸話にあるような尊大な態度は取らず、顔もあげず、身じろぎもせず、ただ、ただ、敬愛する自身の王の言葉に耳を傾け続ける。
「ひとつ。 わが だいまおうじょうの かんせいまでは こうせんはひかえるのだ。
そなたのし、 それはすなわち だいまおう しゅつじんの ときのこえ となる。
せっきょくてきな こうせんは 『だいまおうじょう』 かんせいを まて。 かんせいした そのときこそが うってでる ときだ」
バラモスはただの宝具。
戦闘性能こそあるものの、一線級の英霊との戦いで生き残れるわけがない。
さらに言えばバラモスが打倒されたその瞬間、アサシンはその宝具の効果に則ってすべての参加者に自身の存在を告げてしまう。
こちらの戦力がある程度整うまでにバラモスが負けては面白くない。
バラモスは深く頷いた。
「ふたつ。としょかんには ちかづくな。
れいじゅねらいの さんかしゃ、 さんかしゃねらいの さんかしゃ。 こうせんてきな ものたちが あつまる。
ほうぐに おち、 よわくなった そなたでは しににいく ようなものだ」
通達にあった『図書館への連行』について。
あれを読んだ参加者が、図書館近くに陣取る可能性は高い。
フェイト・テスタロッサを捕まえたものを襲って手柄を横取りせんとするもの。
単純に参加者との交戦目的で図書館近くを徘徊するもの。
どちらにしろ、積極交戦を望むものが目をつけるのが、図書館になるはずだ。
そこで上手く立ち回れれば、様々な有益な情報を得られるだろう。
だが、バラモスの気配遮断はE。参加者にはほぼ筒抜けと言っても過言ではない程のランクの低さだ。
近づけば見つかり、見つかれば追われ、追われれば負ける。バラモスが負ければアサシンが苦境に立たされる。それだけは避けなければならない。
バラモスは深く頷いた。
「みっつ。 なんどもいっていることだが、NPCを きょくりょく きずつけるな。
くだらぬこだわりだが マスターの ねがいだ。 かなえてやろう ではないか」
嗤う大魔王。
その願いになんの意味もないと分かりきっているからこそ、叶えてやる。
もがきたいならもがけ、苦しみたいなら苦しめと。
腹にたまらぬ砂糖菓子にも似た役に立たない優しさで出来た弾丸を武器に、敵と向き合ってからその愚かしさを悟れと。
一切拒絶せずに首にかかった真綿の両端をもたせ、自分の首を締め上げさせてやるまで。
バラモスは深く頷いた。
「では、 いけ。 そのめに せんそうを やきつけて くるのだ!」
「全ては、大魔王様のために」
立ち上がり、うやうやしく礼をする。
そして背を向け、どしん、どしんと歩いて行く。
ただの宝具や、偽のステータス(偽アサシン)などとは程遠い、魔王としての威厳に満ちた振る舞いで。
アサシンは街へ向かおうとするバラモスの背を見ながら少考し、今朝より頭の内を逡巡させていたその名を呟く。
「フェイト・テスタロッサ」
ルーラーからの手紙に書かれたどうにも解せないあの一言。
街に潜む『対象』。裁定者より生死問わずの『捕獲』を命じられた参加者。
その意図する所はなんなのか。大魔王にとって、興味深い人物の一人。
「ルーラーよ。 なにを おそれる。 さいていしゃとも あろうものが なにに おびえている」
もしも通常のルール違反であれば『捕獲依頼』を通達するはずがない。
違反の内容を明示した上で、討伐を行うようにと命ずるだけで事足りる。
ならば、彼女は何者なのか。
存在自体がイレギュラーであるのか。
裁定者にとって不利益を齎す存在であるのか。
それとも、彼女の存在がこの聖杯戦争の中軸たるルーラーに深く関わっているのか。
どうにも気にかかる。
といっても、不快な気がかりではなく。
あえて人間臭い単語で言い換えるならば『探究心』。
この地にすでに立ち込めていた『闇』の見せた綻びが、彼の興味を掻き立てる。
アサシンは立ち去ろうとするバラモスに声をかけた。
「バラモスよ!」
歩んでいたバラモスが足を止め、振り返り、傅く。
「フェイト・テスタロッサの ひととなり、 おぼえているな?
やつも ほかのさんかしゃ どうよう せっしょくは さけよ」
相手がもし、『危険人物』として捕獲を命ぜられたのであれば、関わらない方がいい。
ただ、単なる『危険人物』ではないとしたら……
『何か』がある。
裁定者とは名ばかりで、彼らにも何か『闇』がある。
裁定者側が隠そうとしている秘密がある。
参加者には知られてはならない秘密が、ひとつか、いくつか。
そして、件の少女フェイト・テスタロッサこそがその秘密に近しい場所にいる。
フェイトなる少女がそのことを知っているのか、知らないのかは分からないが、それでも興味深い。
そして、彼女の存在は……きっとアサシンにとって良き『波』を起こす。
「だが もし …… もし、 かのうで あるなら わしの もとまで つれてくるのじゃ。
きけんでないと はんだんできたなら そなたのがわから ほごを もうしでても よい」
バラモスは深く頷く。
そして、続く言葉がないのを確認して、バラモスは再びどしん、どしんと歩き出した。
◆
ゆうしゃ よ ……
よくぞ わしを たおした。
だが ひかり あるかぎり やみもまた ある ……
わしには みえるのだ。
ふたたび なにものかが やみから あらわれよう ……
だが そのときは おまえは としおいて いきてはいまい。
わははは ……… っ。
ぐふっ!
◆
彼の死に際の宣言通り、闇の系譜は続いている。
大魔王の死後、幾つもの魔王が闇より現れ人々に災厄を振りまいた。
数多の並行世界、無限の物語の中で、彼の宣言通り『なにものか』は現れ、世界を破滅へと導いた。
それから、遥か未来のどこかの世界。
なんの因果か、アサシンは英霊として座に記録され、サーヴァントとして呼び出されることとなった。
大魔王としての力を持ち、大魔王としての誇りを持つサーヴァント。
再びこの世に顕現した大魔王の始祖たるアサシンは、仮初の生に何を望むか。
再び世界の闇か。
再び人の破滅か。
再び終わらない苦しみか。
しかし、と作り上げられた偽物の街、自身が呼び出された少女たちの箱庭を見てアサシンは思う。
そこには、今はまだなりを潜めている無色透明の闇があった。
感知できないが背後にある破滅があった。
少しばかりの現在の救済のために永劫続く苦しみがあった。
華やかな少女で彩られた街。
しかしその水面下には願いという泥濁のように底の見えぬ闇と、逃れようのない少女たちの滅びですでに満ち満ちている。
希望のために捧げられた生贄は消えることなく、少女らに苦痛を刻みつけていく。
アサシンが願うまでもなく、たとえこんなちっぽけな箱庭の中でも禍々しき闇の中にある。
アサシンなど関係なしに人は破滅へと自ら歩みだしている。
永久機関のように苦しみは苦しみを生み続けている。
この世界は既に大魔王たるアサシンなしで、一片の綻びもない闇へと向かっているのだ。
彼が生前望んでいた全ての願いが、当の大魔王を差し置いて叶ってしまっている。
これほどにつまらないことがあるか。
顕現したアサシンは、その事実に即座に気づき、大いに興を削がれた。
つまらないを通り越し、大魔王への不遜・侮辱であるとさえ感じていた。
その憤りは、筆舌に尽くしがたいほどであり、当然アサシンを呼び出した『何者か』に向けられるはずだった。
せいぜい、下らぬ願いのために大魔王を呼び出した愚かな人間を持ち得る全ての術により苦痛を与えて殺し、彼の命とその願いをもってその罪を償わせてやろうと考えていた。
そして、アサシンは自身を呼び出したマスターに問いかけた。
『そなたの のぞみは なんだ。 なぜ わしを よびだした』と。
アサシンを呼び出したのは闇からこぼれ落ちたかけらのひとつ。
積んだ死体と流した血で山河を築いた紛うことなき闇。
だのに、前を向き、幸せな世界を夢見てもがき続けるもの。
変えようのない悪魔のくせに、少女で、人間であろうとする存在。
純粋すぎる異物。
桂たま。
悪魔で、人間で、女の子。
彼女の願いを聞いたとき、大魔王は嗤った。
あまりの頓痴気さに声を上げて嗤った。
桂たまの聖杯に捧げる願い。それは『桂たま』という存在の否定。
もし彼女が夢半ばに倒れ、『光』になれずに消えるとしても。
逆に彼女が聖杯を掴み、世界の『闇』として消えるとしても。
彼女は『闇』のままだ。一片も変わることなく、『闇』のままなのだ。
少女でもなく。
人間でもなく。
悪魔のまま、悪魔として、ただただ救われず死んでいくのだ。
もがき、苦しみ、甲斐なく死ぬ。見知らぬ世界の泥濘の中で孤独と共に死んでいく。
それでも犠牲になったもののためと割り切り死ににいくというなら、なんとも素敵な自己犠牲ではないか。
彼女は、その無駄だらけの高尚な精神だけなら人間だ。それは人間をよく知る大魔王たるアサシンも否定しない。
ただ、精神が変わろうと、悪魔が天使に生まれ変われるわけがない。
そんなことにも気づかずに、悪魔がわざわざ人間のふりをしてもがき苦しむ。
アサシンとはまた別のどす黒い『闇』が人への儚い願いを抱き、砂糖菓子のように脆く甘い夢に溺れ、いつかは泡のように消えていく。
これほどまでに滑稽で、これ以上の余興があるだろうか。
世界はすでに闇の中。
人々は勝手に破滅していく。
人間同士で苦しみを押し付け合い、傷つけあう。そんな下らぬ状況。
だが、アサシンは座に帰ることを選ばなかった。
一重に目の前の禍々しい悪魔で、胸焼けするほど人間な、ただの少女の一世一代の喜劇に。
計り知れないほどの、それこそアサシンの削がれた興を埋めてもまだ釣りが来るほど愉悦を覚えたから。
アサシンがこの聖杯戦争に何かを望むとするなら。
それは、桂たまの願いの果てを見ること。
光に憧れ、光であろうともがいた闇の、愚かな夢の終わり。
人ならざる者が抱いた人としての夢という喜劇の幕引き。
心躍るほどに逃れようのない『闇』の物語の結末。
アサシンにとっての此度の聖杯戦争とはすなわち。
少女・桂たまの誕生で始まり。
少女・桂たまの死で終わる。
見知らぬ少女たちとの醜い争いで彩られた、世界でもっとも短く、もっとも美しい、とある少女の叙事詩。
結末だけが定められ、これから書き上げられていく物語を、特等席で楽しみ続けるためのもの。
だからこそ、アサシン/ゾーマは桂たまに従う。
ちっぽけな悪魔であるたまのために大魔王が手ずから戦闘を行うし、助言も行う。
彼女のために他の参加者の夢を破壊し、願いを叩き折り、祈りを粉砕し、彼女の愚かな願いに宝石を散りばめる。
時折彼女の心に石を投げかけ、波紋が起こる様を嗤う。
そうやって、良き従者として、常に隣でもがく悪魔を眺め続ける。
そして、だからこそアサシン/ゾーマは最善の策を選ばない。
バラモスを大魔王城に残し、陣地完成までは攻めてくる者だけを排除するという道を選ばない。
フェイト・テスタロッサへの無関心という道を選ばない。
安定と安寧に塗れた勝利の物語など、面白くない。
桂たまの惑い、怯え、焦り、絶望、更に言えば擬似討伐令を敷かれた相手との接触から生まれる何か。
そういった波が多いほど、舞台は起伏に富み、面白くなる。
どちらも共通して理由はひとつ。
桂たまが自身を呼び出したマスターでもなく。
桂たまの死が自分の消滅とつながっているからでもなく。
自身が願いを叶えるための足がかりというわけでもなく。
ただ、この聖杯戦争における桂たまという存在が、大魔王にとってとても愉快な見世物だから。それだけ。
「さあ マスターよ。
そして このせかいに うみおとされた あまたの ねがいたちよ」
「そなたらの ゆくすえ みせてもらうぞ」
聖杯戦争。
仄暗く深き闇の渦中。
回り続ける舞台の上で、もがき続ける矮小な異物と彼女を囲う演者たち。
アサシン/ゾーマは、嗤いながらその見世物を楽しむ。
【B-4-B-5/孤島/一日目 早朝】
【アサシン(ゾーマ)@ドラゴンクエストⅢ そして伝説へ】
[状態]魔力消費(微小)
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:たまの ゆくすえを みとどける
1.だいまおうじょうの かんせいを いそぐ
2.ひつようにおうじて モンスターを さくせい
3.フェイト・テスタロッサ に きょうみ。 さいていしゃ の ねらいは?
[備考]
※偽アサシン(バラモス)生存中のため一切の戦闘行動が行えません。
もしバラモス生存中にたまを襲われれば彼女が成すすべなく死ぬということは理解しています。
※B-4-B-5の孤島に大魔王城を作成しています。
準備期間中から作成を開始しており、現在外壁の仕上げにとりかかっています。現在のペースで陣地作成を続ければ二日目早朝には大魔王城が完成します。
※通達における「フェイト・テスタロッサを『捕獲』」という一文に興味を持っています。
もしかしたら彼女が裁定者側(聖杯戦争)についてなにか知っているのではないかとも考えています。
彼女を保護することの危険性も知っていますが、わりと望むところです。
※孤島の周囲の海にだいおうイカ×1が居ます。陸地―孤島間の魔物運搬用で、積極戦闘は行いません。
【偽アサシン(宝具『まおうバラモス』)@ドラゴンクエストⅢ そして伝説へ】
[状態]なし
[思考・状況]
基本行動方針:大魔王城完成まで図書館には近寄らずに情報収集
[備考]
※宝具であるため念話・霊体化は使えません。魔力はアサシン(ゾーマ)のものを使用します。
また、実際のバラモスとは違って状況によって思考判断を行い、分が悪ければ防御・撤退もします。
※彼の持つ気配遮断:Eは『NPCには見つからない』『参加者には隠れていれば見つからない』程度です。
参加者に一人で歩いているところを見られれば見つかります。
※『NPCを極力殺さない』というゾーマの命令を守ります。ただし極力なので必要に応じて殺します。
※早朝、もしくは非常時と判断した場合にのみ廃教会に帰ってきます。
※フェイト・テスタロッサを見つけた場合、彼女の危険性を判断します。
危険ではないと判断した場合、保護を申し出て教会まで連れ帰るつもりです。(ただし生存優先のため、危険であると判断した場合は交戦・逃走もやむなし)
最終更新:2020年06月27日 23:59