逢魔が時に逢いましょう ◆EAUCq9p8Q.
【from:SUPER_Kitakami_sama@
件名:Re.掲示板の件について
本文:あなたが誰かはわからないので、名前だけ名乗らせていただきます。
私はエノシマといいます。きらりさんと同じ高校に通っていた者です】
携帯端末の液晶面を覗きながら、
輿水幸子はそのカワイイ眉間に皺を寄せた。
エノシマと名乗る少女のメール。
きらりと同じ高校に通っている、ということはこの世界でできた知り合いだろうか。
少しだけ残念に思った心を、頭を振って否定する。
「戦争なんだから、知り合いが居ないに越したことはないじゃないですか!」
再び
星輝子と
白坂小梅の顔が脳裏をよぎる。
小梅は無事だろうか。
被害者は出ていないんだから無事にきまっているが、連絡の一つでも欲しいものだ。
あれ以降携帯端末に着信はない。
焦る心を深呼吸で無理やり落ち着かせようとして、勢い余ってむせてしまう。
駄目だ。今のは少し間抜けだ。
こほんこほんと二回咳払いをして、周囲が誰も見てなかったことを確認して、すぐにカワイイ輿水幸子に戻る。
そして、再び携帯端末に視線を落とす。
話を聞いておく必要がある。
幸子は中学生なので、高校で起こった事件の深い事情までは探れない。
だが、きらりと同じ高校、同じ学年なら深い事情を知っている可能性がある。
それに、きらりと同じ学校に通っているというのなら、連絡網みたいな形できらりの連絡先を知っているかもしれない。
☆
幾つかの
情報交換を済ませた。
相手の名前と学年を聞き、きらりとの関係を尋ねた。
名前は『エノシマジュンコ』、学年は高等学校の三年生(確かきらりと同学年だ)。
きらりとは友人とは言えないまでも顔見知りであり、聖杯戦争が始まる前にそれとなく良くしてもらっていたという。
確かに学校で不審な事件が起きたが、それでもきらりの性格を知る『エノシマ』には到底信じられなかったらしい。
それで、筆を執ったとのことだ。
『エノシマ』の語るきらりは、幸子の知っているきらりと相違ない。
ということは、本当にきらりの知り合いで、きらりの身を心から案じているのだろう。
やはり、クリエイターの言っていることは間違っている。
世の中には、聖杯戦争に巻き込まれても友人の安否を気づかえる人間がいる。
それだけで、幸子はなんだか嬉しくなった。
相手に一方的に聞いているだけでは悪いと思ったので幸子側の情報も渡した。
自身の情報全部を渡すのは流石にカワイイ幸子のプライバシーに関わるので、名前や、自身の学年や、きらりを探しているということを伝えた。
少しでもきらりにたどり着く手がかりになればと思ったが、相手の反応は幸子の予想を超えるものだった。
【from:SUPER_Kitakami_sama@
件名:Re.Re.Re.Re.掲示板の件について
本文:私は今から高校できらりさんの自宅について聞いて回るつもりです。
今すぐに、というわけにはいけませんが、今日の放課後には家の場所を調べて向かおうと思っているんです】
確かに、高校にいるなら高校に通っていたきらりの情報は格段に手に入れやすい。
家の場所がわかれば探す手間は確実に省ける。
すぐに同行を申し出た。出会ってすぐで不躾かもしれないが、なりふりかまってはいられない。
少しでもはやくきらりの無実の証明をし、カワイイボクが味方なんだと駆け付けなければ。
返事は了承。
ほっと胸をなでおろす。
放課後ということなのでとまだ時間はあるが、それでもこれが実ればほぼ高確率できらりの元に近づける。
【from:SUPER_Kitakami_sama@
件名:Re.Re.Re.Re.Re.Re.Re.Re.掲示板の件につ
本文:それでは、放課後1800に待ち合わせということでお願いします。
集合場所はC-3かD-4にするつもりです。】
幸子がお礼を述べ、『エノシマ』はそれにお礼を返し。そこで二人のメールのやりとりは終わった。
☆
放課後までまだ時間はある。
だが、その間をなんもなしでぶらぶらと過ごすのは時間の無駄だ。
出来ることならできるだけ早くきらりに会いたい。
商店街で起きた事件のことも気になる。
そしてなにより、幸子の目標は『犠牲のない形での聖杯戦争の終結』なのだ。
一安心で一拍置いて、気合を入れなおして一歩を踏み出す。
向かう先は、商店街のずっと向こう。別の区域だ。
幸子がその情報を手に入れたのは、商店街の事件について聞いて回っている時だった。
商店街の店の人が、とても重要なことを教えてくれたのだ。
「うーん、その時間は起きてなかったけど……あ、でも。あの人なら知ってるかも」
狐の面を頭につけた少年NPCが、幸子の質問にそう答えた。
「あの人って?」
「なまえは しんない。いっちゃあ あいつは てーへん さ。ちかよると くさいぞ」
奥に居たうさ耳の少女NPCが狐面NPCの言葉を補足する。
二人の話によると、深夜から早朝にかけて商店街を徘徊するNPCがいるとのことだ。
そしてそのNPCが今朝、しかも戦闘の最中に居たのは確定らしい。
「宇佐美ちゃん、知ってたの?」
「あさはやくから うるさかった。 あいえー! にんじゃー!」
要約すると、朝方にそのNPCが悲鳴をあげているのを聞いた、ということだ。
つまり、その人物に聞けば事件のあらましを知ることが可能なのだろう。
二人から事件を見ていたと思われるNPCの容姿を聞く。
壮年の男性らしい。
目立つ容姿ではないし、容姿も曖昧な情報しか知らないので会って情報交換ができるかと言われれば、たぶん無理だろう。
ただ、商店街にきらりが居ないのは歩きまわってほぼ確定しているし、商店街で聞きまわっても事件のことがわからないのはもうさんざん思い知った。
場所を移すには絶好の機会かもしれない。
居ないと思われる場所を何度も探すより、別の場所を探したほうがきっと効率は良い。
「……確か、あっちの方って言ってましたよね」
向かう方向は狐面のNPCが教えてくれた『目撃者NPCがいつも向かっていた』方角。
『エノシマ』との約束や、輝子の思いやりのこともあるのであまりC-2から離れることはない。
せいぜいエリアひとつ分くらいだ。
商店街を抜け、大きな通りを右に曲がる。
日は高い。
18時まであと9時間以上ある。
それまでに、なにか手がかりが見つかればいいのだけれど。
「考えていてもはじまりませんね」
振り返らずに進んでいく。
歩調は、いつもの幸子から考えればとても早い。
ずんずん、ずんずんと進んでいく。
その間もすれ違うNPCの顔を見るのは怠らない。
きらり、目撃者NPC。どちらでもいい。偶然でもどちらかに会えれば上出来だ。
ずんずん進み。NPCの顔をしげしげ眺め。またずんずん進み。
そうしているうちにすぐに商店街のゲートは見えなくなった。
歩いていると始業の鐘が遠くから聞こえてくる。
ふと立ち止まり、音の方を向く。
学校は今から授業だ。輝子や小梅は学校で勉強に専念することだろう。
今日の授業のノートは取れないから、今度誰かにノートを貸してもらわなければならない。
そういえば、仕事以外で学校をサボるのは幸子にとって初めての体験だ。
まるで不良になったみたいだ、と少し場違いな感想を抱く。
少しだけドキドキとか、ハラハラとかしながらも、幸子はまた早足で歩き始めた。
幸子が商店街を去ったのは、ちょうど彼女が身を案じていた白坂小梅が商店街に来るより少し前のことだった。
【C-2/商店街周辺/1日目 午前】
【輿水幸子@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]健康、怒り、恐怖(微)
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]中学生のお小遣い程度+5000円分の電子マネー
[思考・状況]
基本行動方針:この聖杯戦争をカワイイボク達で止めてみせる
1.
諸星きらりに会う。
2.商店街で起こった事件が気になる。
3.きらりの捜索+事件を見ていたというNPCの捜索を兼ねて別の地区へ。
4.何かあったら輝子の家に避難……?
5.放課後18:00に『エノシマ』と会う。場所はC-3もしくはD-4の予定。
[備考]
※商店街での戦闘痕を確認しました。戦闘を見ていたとされるNPCの人となりを聞きました。
※小梅と輝子に電話を入れました。
※『エノシマ』(大井)とメールで会う約束をしました。
また、小梅と輝子に「安否の確認」「今日は少し体調がすぐれないので学校を休む」「きらりを見かけたら教えて欲しい」というメールを送りました。
☆
『輿水幸子』。
聞いたことがある名前だと思うが、どこで聞いただろうか。
大井が集められる人名情報は極端に少ない。
学校を除けばほとんど他者との交流がないから当然といえば当然だが。
そんな大井の意識に残っているということは、かなり状況は限定される。
一応クラス内の学友の名前くらいならそらで言えるようになったが、その中には『輿水幸子』は居ない。
ならばどこで聞いたものか、と顎に左手を添えて考える。
そうして思い至った。
そうだ、そういえば。
街を歩いていた時か、近所のスーパーで買物をしていた時にそんな名前を耳にしたような気がする。
有線放送だったか、テレビの試聴用番組だったか。そこは確かじゃない。
だが、そこで話していた少女が確かそう名乗っていたはずだ、『輿水幸子』と。
記憶を辿ってみる。独特な名前だから聞き間違いはないだろう。
そこまで考えて、職員室前から来客口に向かっていた足を止める。
そういった方面に疎い大井でも名前を知っているということは、『輿水幸子』はこの聖杯戦争の舞台ではかなりの有名人と考えたほうがいい。
そして、今回のメールの相手も身バレを防ぐために有名人の名前を使った、と考えるのがスマートな考え方だ。
そもそも本名を会ってもいない相手に普通に明かすなんて危機管理がなっていなさすぎる。
大井の鉄壁のカモフラージュがあるとはいえすぐに個人情報を晒すのは、今が戦争中という自覚がないか、戦争を舐め腐っているか。
もしくは『エノシマ』の名を騙った大井のように「バレても問題のない名前」を使っているか、だ。
成程、一筋縄ではいきそうにない。
だが、その程度の謀り事、大井の作戦の前では無意味だ。
偽名を使っていようと、こちらに興味を持って接触を図ってきたというのは事実だ。
そこが間違いなく事実であるならば、大井としては及第点だ。
興味があるということは、方針を提示すればなんらかのリアクションを見せるということにほかならない。
この食いつき具合からすれば、集合場所に対して確実に注意を払う。
指定の時間に本人が近くにいるかどうかはともかくとして、確実に『参加者が現れるかもしれない』として方針に組み込むだろう。
集合場所を襲撃してくるにせよ、遠くから観察に徹するにせよ、情報戦で優位に立てている現状ならば大井が更に動きやすくなる。
もし、彼女が仮に本物の輿水幸子もしくは偽名だが諸星きらりの本当の友人で、のこのこ現れてくれたならそれこそ好都合。
一人が食いついた。この事実が大切なのだ。
この一人を逃さないために手を打つ必要がある。有り体に言えば、彼女を釣りだす餌が必要になる。
集合場所に人が居なければ『輿水幸子』は騙されたと思うだろう。そうすれば攻撃にしろ交渉にしろ行動を起こさなくなる。
それは困る。だから集合場所には誰か、彼女を釣りだす餌として人間が居る必要がある。
当然、大井自身が餌になるつもりはない。
しばし少考して、そして天からの啓示のように一つの妙案に思い至った。
(アーチャー)
『なにかな』
(デコイを一人用意して欲しいんです)
『それは……君の代わり件のメールの集合場所に向かう人物、ということか』
(理解が速くて助かります。『エノシマ』が居るなら彼女がいいんでしょうが、推定参加者だから接触は避けるべきだと思うんです。
だから、まあ適当に、それっぽいのをお願いします。相手に容姿情報は与えてないのでどんな子でも構いません)
NPCに大井のふりをさせ、集合場所に送り込む。
集合場所で『輿水幸子』が偽大井を見たら、何か反応を起こす。
本当に諸星きらりの友人だというなら情報交換を望んで釣り出せる。そこを討つ。
もしこちらを利用しようとしていたなら、確実に偽大井は殺される。
だがその攻撃から相手のサーヴァントの位置を特定して、必要に応じて戦闘形態+宝具解放したアーチャーに向かわせればいい。
素晴らしい作戦じゃないか。
先の先まで見据えて、未然の事態にまで警戒を怠らず対策を打てている。
あの脳みそが弾薬か鉄鋼かで出来ている長門に今の大井の半分でも作戦立案能力があれば、北上はおそらく……いや、確実に死にはしなかっただろう。
この程度の事もできずに威張り散らしていた軍の奴らを鼻で笑う。
通りすがりの生徒が不審そうにこっちを見たが、この程度ならルーチンの範囲内だ。問題はない。
鼻で笑い、すぐに思考を切り替える。
いつまでもあの愚図どものことを考えていても時間の無駄だ。
来客口にお客様を待たせているんだから、早いうちに対応しなければならない。
だが、こちらについてももう策は思い浮かんでいる。
少々不安要素が残るが、相手の容姿はもうばっちり記憶した。仮に今逃がしても問題ない。
靴を上靴からローファーに履き替え、つま先で地面を打って履き心地を整える。
『輿水幸子』とやりとりをしながら校内をぐるっと一周。『諸星きらりについて数人に聞いてきた』くらいの時間は経っただろう。
かつかつというタイルを叩く音が、ことことというアスファルトを叩く音に変わる。
あの目立つ見た目の少女はちゃんと待っていた。日光から逃げるように木陰で座り込んでいる。
時間を確認する。予鈴まではもう少しといったところか。
今度のやりとりは数十秒で十分だ。最新の注意を払いながら手早く済ませよう。
☆
「申し訳ありません。諸星さんについて、心当たりの先生方に聞いてみたんですが誰に聞いても教えてもらえなくて……」
「そっか」
「ただ、知人に当たってみたら『諸星さんらしき人の帰宅の方向なら分かる』と」
「へえ」
「生憎、私もその子もこれから授業なので案内することはできないんですが……」
「ああ、いいよいいよ。そこまで無理言うつもりはないから」
金髪の少女はへらへらと笑いながら手を振ってみせる。ぷらぷらと宙を舞う手のひらはまるでもみじの葉のように小さかった。
そしてそのあとで、少女は少しだけ寂しそうな顔をする。
本当に『気にしていない』し『情報が手に入らなかったのが残念』という素振りだ。
こちらに対して一切警戒していない、と捉えていいだろう。
この様子ならいける、と確信を持って次の手を切り出す。
このタイミングならば、相手も引っかかってくれるだろう。
「あの、放課後で良ければ……」
「ん?」
「放課後なら、その子も用事がないと思うので、私から案内をお願いすることも出来ると思います。
といっても家そのものが分かるわけではないので、手助け程度にしかならないと思いますが」
暗鬱、といった感じだった少女の顔がぱっと輝く。華やかな笑顔だ。嬉しさを満面で表現している。
食いついた。
ここまで分かりやすいと思わず笑いそうになってしまう。
輿水幸子は面と向かえないので探り探りだったが、面と向かったこの少女ならば安全策に出る必要はない。
ガッツポーズは心の中で。表面は一切変えずに話を続ける。
「どうでしょう」
「そだね。だったらお願いしようかな」
「じゃあ、何か、情報を交換できるようにしておいた方がいいかもしれませんね」
「じゃ、番号交換しとこうか」
そう言うと、少女はおもむろに携帯端末を取り出した。
番号交換。知識はある。携帯端末同士の固有番号を交換して一対一で通話が出来るというものだ。(実際に試したことはない)
いざという時のために、番号は手帳にメモしてある。電話番号の探し方が分からず慌てて相手に隙を見せるような真似はしない。
ページをちぎって渡すと、少女はなれた手つきで携帯端末を操作した。
ついで、電子音が鳴り響く。液晶画面には11桁の数字の羅列が映っていた。
「なにかあったらさ、ここに電話ちょうだいよ。じゃあ、外も暑いしもう帰るから」
「はい。確かに……あ、それと」
そのまま立ち去ろうとしていた少女を呼び止め、もう一つ餌を巻いておく。
「方角的には、あっちの方……それに、あまり離れてないって話だったので。どうしても早く会いたいなら」
指を刺したのは遊園地の方。当然デタラメだ。諸星きらりの家なんて知らないし、知りたくもない。
場所を指定したのはこの少女を出来るだけアーチャーの監視下においておきたいから+この周囲に足止めさせて作戦に取り込みやすくするためだ。
近所をうろうろと探しまわってくれていれば、こちらから呼び出しやすい。
そういった本心は伏せ、ただ『諸星きらりがいるかもしれない』という情報だけを与えておく。
これはあくまでオマケにすぎない。正直、襲撃を放課後と定めた時点でいらぬ作戦だ。
本作戦の方に引っかかってくれてるのだからここまでやる必要なんて本当はない。
だが、念には念を入れて。動かせる駒は手元に残しておく。
大井はトラック島に戦力の大半を集中させた挙句鎮守府襲撃を受けて壊滅状態に陥った馬鹿どもとは違うのだ。
少女は朗らかな笑みで手を振って去っていった。
少女の影が見えなくなるのを確認して、大井も振り返り、校舎に戻る。
所要時間は二分弱といったところ。
見立てよりは少し長引いてしまったが、それでも朝礼までは時間がある。
大井は達成感を胸に、来客口を後にした。
【D-2/高等学校/1日目 午前】
【大井@艦隊これくしょん(アニメ版)】
[状態]満腹、健康
[令呪]残り三画
[装備]北上の枕の蕎麦殻入りお守り
[道具]通学鞄、勉強道具、スマートフォン
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:北上さんへの愛を胸に戦う。
0.聖杯戦争に北上さんが居る可能性を潰す。
1.諸星きらりとエノシマという女子高生、各種噂を警戒。
2.メールを送ってきた人物をC-3もしくはD-4に集める。そのためにアーチャーに集合場所に赴く偽大井を用意させる。
3.作戦開始直前になれば偽大井を使って2.の場所に少女(
双葉杏)も上手いこと誘導する。
4.メールの件が片付いたらしばらくはNPCとして潜伏する。
[備考]
※双葉杏を確認しました(電話番号交換済)。また、輿水幸子の名前を確認しました。ただ、偽名を疑っています。
※北上が参加者として参加している可能性も限りなく低いがあり得ると考えています。北上からと判断できるメールが来なければしばらくは払拭されるでしょう。
※『
チェーンソー男』『火吹き男』『高校の殺人事件』『小学校の死亡事件』の噂を入手しました。
また、高校の事件がらみで諸星きらりの人相・性格、『エノシマ』という少女が諸星きらりを探っていたことを教師経由で知りました。
※
フェイト・テスタロッサの顔と名前を把握しました。
☆
「はあ、疲れた」
笑顔は疲れる。
しかも営業スマイルならなおのことだ。
双葉杏は引きつりそうな頬を撫でながら、朝来た道を今度は逆方向に歩いていた。
『一発でいい人に出会えたにゃー! オレっちも万引きなんかしなくて良かったニャン!』
ランサーが本当に嬉しそうな声色で念話を飛ばす。
実体化していたなら小躍りくらいはしていたかもしれない。
少々頼りない自身のサーヴァントと、気を張り詰めていた気苦労からため息を一つこぼしそうになり、自分の置かれている状況を理解して飲み込んだ。
(ランサー)
『で、どうするニャン? 今から早速探してみちゃうのかニャ?』
(あれ嘘だよ、たぶん)
『……』
うまく騙せているといいが、と思いながらぼちぼちと歩いて行く。
杏はあの栗毛の少女に対する疑心を一切解いていない。
怪しいと思った瞬間から、彼女は杏を罠にかけようとしているものだとして対応している。
それでも、あの場で逃げ出さなかったのは、相手が戦争でいう敵だとするなら『何も言わずに逃げればサーヴァントを送ってくる可能性がある』と考えたからだ。
そうなると困る。
顔がばれてしまっている以上探されれば見つかるのは必至だし、そうなってしまえば先頭は避けられない。ランサーはイマイチあてにならないので出来ることなら戦闘は避けたい。
それに、下手に動けば今度は杏のことが掲示板に書き込まれてきらりの二の舞いになってしまうかもしれない。
それだけは避けなければならない。
見ず知らずの誰かに付け狙われることになるなんて考えただけでも身震いする。ニートは安心と安全がないと生きていけないのだ。
見つかってしまった以上なんとかして相手に怪しまれずに去らなければならない。
相手の警戒を緩めて自由になるには、『相手の策にまんまとハマった』と見せるしかなかった。
杏だってアイドルだ。その気になれば外面よく振る舞うことは出来る。
普段の杏からは考えられないほどに感情豊かに振る舞ってみせると、栗毛の少女は特になにをするでもなく解放してくれた。
だが、杏の側はまだ警戒をとかない。
あの栗毛の少女のサーヴァントが見張っている可能性は十分にある。不審な動きは最小限に抑えていく。
表情一つ、動作一つ、怪しまれないように考えながら。
ため息一つ気楽につけない現状にため息をつきそうになったが、やっぱり飲み込んでおいた。
ぼちぼち歩いていると高校前の並木道を抜け、道路に出た。
タクシーは来た時に返してあるのでもう居ない。新しいのを捕まえるか、歩くか。
そこは悩むまでもない。すぐに携帯端末を取り出して、朝電話を掛けたタクシー業者の番号を探す。
視界に先ほど連絡を入れた栗毛の少女の電話番号が目に入る。その場で確認したから偽物ということはないだろう。
電話番号を渡すことを「悩みはしなかった。
電話番号程度なら掲示板で晒されても問題ない。電話番号を悪用しても痛くはないし、電話口で得られる情報なんて少ないし、マナーモードか電源をオフにしていれば音をたどって杏にたどり着くなんてこともできない。
自由か、電話番号か、天秤にかければ自由のほうが大事。当たり前の話だ。
タクシー業者に電話をかけると、周回の車が一台近くにいるらしいとの返事がもらえた。
このけだるい日光の下にいつまでも居なくていい、というのはありがたいことだ。
木陰に入って座り込むと、泡を食ったようなランサーの声が聞こえてきた。
『て、て、てことは、つまり、オレっち、結局学校に侵入しなきゃなんないってことかニャン!?
あんまりだにゃ~!! そんなインポッシブルなミッションやらされるなんて聞いてないにゃ!』
(ああ、それももういいよ)
『ほ、ほんとかニャン!? あとで嘘っていっても……』
(いいよ。ランサーだって死にたくないでしょ)
『……オレっち、もう死んでるニャン……』
(そっか。そうだっけ。ごめんごめん)
高校に侵入させて個人情報を得る、という考えはあの少女の登場で瓦解した。
校内で情報を探るには時間の長短はあれど確実に実体化が必要になるだろう。
だが高校で実体化すればあの少女、もしくは他の主従のサーヴァントに見つかる可能性が極めて高い。
再三言っているが、ランサーはあんまり頼りにならない。
戦場に巻き込まれて冷静な立ち回りが期待できるようなキャラをしていないし、三騎士で呼ばれているのに地力がそもそも低すぎる。
あえて藪をつついて蛇を出すことはない。
ただ、そうなると問題が一つ。
『じゃあどうするニャン? きらりって子の家の方向が嘘で、調べにいかなくていいってなると……』
(……そこだよなぁ)
きらりの唯一の情報源である高校が使えない。
そうなると、この状況で取れる方法はかなり限られてくる。
あの少女のリークがこちらの信用を得るためにある程度真実を伝えているものだと仮定してこの近所を調べるか。
それとも完全に振り出しに戻るか。
あるいは。
木陰に座ったまま視線を動かす。
小中高等学校の密集したこの地域にはもう一つの重要な施設があった。
詳しい道筋は思い出せないが、そこなら確実に諸星きらりの情報を持っている人物がいる。
図書館。
今朝確認した通達で、
ルーラーが『フェイト・テスタロッサ』の受け渡し場所に選んだ施設。
それだけ危険ではあろうが、ルーラーならば(通達をきらりに渡すという作業があるため)きらりに関する情報は確実にあると断言できる。
まあ、きらりが参加者だったとするなら、だが。
しかし裁定者であるルーラーが個人情報をそのまま渡してくれるとは思えない。突き返されるか、無理難題をふっかけられるか。
他に楽な道があればいいのだが、悲しいことに今の杏には思い浮かばない。
灰色と白のタクシーが近づいてきて、方向指示器を杏の方に向ける。
音も立てずに止まった車は、また音も立てずに後部座席のドアを開けた。
杏は、太陽の光で力を失ったゾンビのようにのろのろとした足取りでタクシーに乗り込み、クーラーが効いていて他者の目も届かない車内でようやく一息ついた。
「どちらまで?」
扉が閉まり、タクシーが走りだす。
どの道を選んでも、めんどくさいだろうなぁと思いながら杏はとりあえずの向かい先を告げた。
【D-2/タクシー車内/1日目 午前】
【双葉杏@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]健康、焦燥感
[令呪]残り三画
[装備]
[道具]携帯ゲーム機×2、大井の電話番号
[所持金]高校生にしては大金持ち
[思考・状況]
基本行動方針:なるべく聖杯戦争とは関わりたくなかったが
0.諸星きらりに会う。
1.きらりの家はDラインの地区にあるらしいが……?
2.栗毛の少女(大井)を警戒。
3.Dラインの地区を探すか、無為に動くか、図書館か、他の何かか。どうするかなぁ……
[備考]
※大井と出会いました。大井を危険人物(≒きらりスレの>>1)ではないかと疑っています。
※大井からきらりの家の方角情報(偽)を受け取りました。こちらも疑っています。
【ランサー(
ジバニャン)@妖怪ウォッチ】
[状態]健康
[装備]のろい札
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:なんとなく頑張る
1.双葉杏に付いて行く
☆
推定マスターとされている金髪の少女が門前から消えたのを確認する。
千里眼のような視力補佐スキルを持っていないため、金髪の少女の行方をどこまでも追いかけることは不可能だ。
だからただ、来客口前の並木道を通って乗ったタクシーの向かうだいたいの方向を確認するだけしかできない。
それでいい。
今はまだ、それで十分だ。
アーチャー・
我望光明は特に少女を警戒することなく、自身のマスターで
ある少女・大井の方に意識をずらした。
作戦にところどころ穴は見られるが、それでも『勝ち残ってやる』という強い意志を感じる。
ひとえに彼女が出会いたいと言っていた少女『北上』のためだろうと思うと、アーチャーは苦笑した。
大井自身に対人戦の経験や作戦の立案の経験がないのは確認済みだ。
だというのに、最適とはいえないまでも、及第点が得られる程度の作戦を立案し、自ら実行し、不測の事態にも柔軟に対応している。
一人の少女は、狂おしいほどの愛を抱いて戦況に一石を投じようとしている。
そして、そのために知恵を振り絞り敵を誘い出し討とうとしている。
『心』とは。
『絆』とは。
人をかくも狂わせ、さらなるステージへと導く。
『絆』。
下らない幻想だ。そう切り捨てていた。
だが、それが時として強靭な力を生み出すことを、アーチャーは忘れてはいない。
―――だから今日……天高はアンタの支配から卒業する!!―――
―――青春銀河、大・大・大、ドリルキックだ!!――――
―――卒業生代表、仮面ライダーフォーゼ……如月弦太朗―――
心と心の繋がりなんて曖昧なもので。
少女は。
少年は。
若者たちは。
自身の限界を軽く飛び越え、不可能を可能にする。
超新星よりも強く激しい光を放ち、栄光の未来へ向かって一歩を踏み出し、彼らの銀河に足跡を残していく。
「素晴らしいじゃないか。私は少々、君を見誤っていたかもしれないよ」
想像以上だ。
呼び出した少女が戦闘能力を持たないと分かった時は、アーチャーの方から積極的に動かなければならないことを想定していた。
だが、これならもう少しは大井に任せていてもいいかもしれない。
大井が望めばその力を振るうし、大井の要請があれば多少の無理も通してみせよう。
少なくとも、戦況が大井の手に負えなくなるまでは、彼女の良き臣下として働こう。
そう。少なくとも、戦況が大井の手に負えなくなるまでは。
「しかし、そう考えると、非常に残念だ。
君に戦う心だけではなく、戦う力があれば……よりよい関係を築けたのだろうがね」
もし、彼女が強い意志だけでなく、その意志を肯定するだけの力を持っていれば。
戦闘能力でもいいし、優れた知力でもいい。潜在的な魔力でも、あっと言わせる奇術でも、なんでも構わない。戦況に一石を投じられる『戦う力』を持っていれば。
アーチャーはもっと大井に歩み寄り、精力的に仕えただろう。
だが、彼女にはそれがない。あるのは人一倍に強い自尊心と、狂気的な愛という名の『絆』だけだ。
だから当然、アーチャーは大井に懐を見せない。
「……君は、どの程度持ってくれるのかな」
大井が動けばそれだけ多くの参加者が動く。
今の大井の作戦が彼女の目にはどう映っているかは分からないが、駆け引きに秀でた者や対人ゲリラ戦に慣れている者にはすぐに裏をかかれるだろう。
そうなればいつかしっぺ返しが来る。
しっぺ返しがアーチャーの手で握りつぶせる程度ならば問題ないが、それを超えれば一切の容赦はない。
その時は大井を切り捨て、別のマスターを探す。
彼女の忠実な臣下を演じながら、どこかの誰かのサーヴァントを殺し、ついでに大井も始末して別のマスターと再契約をする。
別のマスターが手に負えない状態になれば、またいつか切り捨てて。
仮にもし、戦う力を持つマスターが居れば、大井との関係はそれまでだ。
確かにアーチャーは『絆』に負けた。だが、『絆』の強さが無敵だとは思わない。
裸に『絆』で戦場を駆けるマスターよりは、武装し強い『意志』を持つマスターのほうがいいに決まっている。
相棒は強いほうがいい。それも傍目でも分かるくらいに強いほうが。
その時は、大井をそそのかしてでもそのマスターと交戦し、敵のサーヴァントを屠った上で大井も始末しよう。
無論、再契約は両者の合意が必要なので『再契約が執り行えない』という危険が伴うのでおいそれとは行えない。
願いを持つ者達の戦争なので夢半ばで倒れることを選ぶものは居ないとは思うが、最悪は想定しておくべきだ。
マスターの乗り換えは、出来ることなら避けたい。
大井がこの調子で聖杯戦争を最後の一人まで駆け抜けるというのならば、それが一番楽でいい。
「だから……今だけは、信じているよ。『絆』の強さというやつを」
心にもない言葉で取り繕う。
彼女がアーチャーとともに聖杯を掴む相棒なのか。それとも今一時限りの偽りの相棒なのか。
今はアーチャー自身にも分からない。
ただ、はっきりとしていることは一つ。
アーチャー・我望光明。
彼の赤い瞳が映すものは、いつだって宇宙の果てに輝く夢だけだった。
【D-2/高等学校の屋上/1日目 午前】
【アーチャー(我望光明)@仮面ライダーフォーゼ】
[状態]実体化
[装備]サジタリウスのゾディアーツスイッチ
[道具]理事長時代のスーツ姿
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を得る
1.大井との距離を保ちつつ索敵。双葉杏の監視。
2.フェイト・テスタロッサが現れた場合、大井に連絡を入れる。
3.大井の代わりに集合場所に向かうNPCを調達。方法はスキル『催眠術』による一時催眠。
4.放課後、集合場所に現れる『輿水幸子』他参加者の偵察。必要とあればアーチャー直々に手を下す。
5.戦闘力に秀でたマスターが居れば大井を切り捨てることも思案。
[備考]
※双葉杏=マスターであるとしています。諸星きらりと
江ノ島盾子は見てない可能性が高いです。
双葉杏のタクシーの進行方向は知っていますが具体的にどこに向かったかまでは知りません。
※アサシン(
クロメ)と近い位置に居ますが存在に気付いていません。(菓子の咀嚼音も距離のこともあり届いていません)
ただ、アサシンが不用意に近づいたり、臨戦態勢に入ったりすれば気配遮断の効果が切れて気づきます。
※大井に対する意識は可寄りですが、彼女の戦闘能力には不満があります。
もっと力の強い参加者が居、その参加者が望むのであれば大井を屠っての再契約も視野にいれてあります。
最終更新:2020年06月28日 00:13