いつか見たグラジオラス ◆EAUCq9p8Q.
君が今見ているものが
君がもう見てきたものだとするなら
君が見てきたものは今どこに
配点(四月馬鹿達の物語)
―――――――――――
×
星が流れていくのが見えた。
森の中から、街の中へ。西から西へ。
中途半端な流れ星だ。昼の空を流れるというのも奇妙極まる。
そして何より、光の素が魔力だというのが、この舞台の上でNPCではない人物の―――参加者の目を引いた。
(魔法……いや、もっと陳腐な、くだらない『なにか』かな)
少女・
シルクちゃんはその箒星の向かう先を見逃さないようにシルクハットのつばを持ち上げた。
その軌道を見るに、移動魔法なのだろう。
シルクちゃんの知っている世界にはそんな魔法は存在しなかった。
なにせ、彼女にとっての世界とは全て歩いていくことが出来る距離だったのだから。
黄泉の国だって、冬の街だって、遺跡だって、月だって、世界の壁の向こう側だって、全部歩いていけるのが当然なのだ。
一般的な世界に照らしあわせて便利な移動魔法など、必要が無いから存在しなかった。(例外的に『どこかにつながっているマンホール』や『入り込めるお菓子の家』はあったが)
だからシルクちゃんはあえてその現象を彼女が知り、彼女も行使できるものとは全く別の『なにか』と称した。
そして、その『なにか』を見てシルクちゃんは少しだけ考えて、シルクハットを再び目深にかぶり直した。
『見に行くのか?』
頭のなかに、偉丈夫という単語に相応しい、年季の入った男の声が響く。
少女のサーヴァントであるランサーが、彼女の意思を読むまでもなく、少女の仕草だけを見てその後の行動を判断した、ということだろう。
(ちょうどいい狼煙だ。行く宛もないし、ひとまずはあれを追おう)
『で、どっちから行く?』
その問いかけでシルクちゃんはもう一度少しだけ考える。
シルクちゃんはあれを単純な移動魔法だと考えたが、ランサーの一言でもう一つの可能性に気づく。
どっち、というのはつまり箒星の始点か終点かという問いだ。
つまり、誰かが何かに魔法をかけて、始点から終点に向けて飛ばしたという物質転移魔法の類の可能性もある、ということだ。
もし移動魔法だったならば終点の方に参加者が居る。
もし物質転送魔法だったならば始点の方に参加者が居る。
仮に誰かが誰かを魔法の力で無茶苦茶にふっ飛ばしたならば、始点にも終点にも参加者が居ることになる。
ここからでは始点も終点も曖昧な位置しか分からない。
もし片方を重点的に探し、仮にそちらがハズレだった場合、魔法を発動した相手に逃げる機会を与えることになる。
じゃあどう動けばいいかと考え、すぐに答えは出た。
シルクちゃんは、この初日の段階では特に積極交戦を望んではいない。
本来ならば戦争が進むに連れて脅威になるであろう『暗殺者』や『魔術師』のクラスを潰しに動くのが定石だろうが、ことシルクちゃんに限ってはそれを急くつもりはない。
幸いなことに彼女のサーヴァントであるランサーは彼らに対して強い優位性を持っている。
気配遮断をしていようが、大仰な陣地を構えていようが、その穂先に姿を捉えて名を結んだならば斬って捨てることが出来る。隠れていようが両断し、陣地だろうと割断する。
彼らが脅威たりえないとするならば、シルクちゃんたちが心配すべきことは混戦に巻き込まれての負傷だろう。
初日で負傷し、その怪我が後々まで祟り続けるなんていうのは避けなければならない。
一対一、正面衝突なら受けて立つ。
その場で倒せるならば倒すが深追いはしない。
容姿や、技能や、スキル。真名を特定する材料が手に入れば御の字だ。
だからシルクちゃんは、頭に響く声にこう答えた。
(どっちも一緒に見に行けばいい。丁度、通り道だ)
『探す方法は』
(近くまで行ってランサーが実体化すれば、暗殺者でもないかぎり分かるだろう。
近くに居るようだったら会いに行って、戦えばいい)
『待ってる相手が暗殺者だったら? さすがの我でも気配遮断で近付かれたら反応が遅れるぞ』
(警戒を怠らなければいいだけの話だ。気配遮断ったって、いつまでだって消えていられるわけじゃない。
ランサーが実体化して、私が臨戦態勢に入っていれば、一撃目だけなら避けられるだろう。
それとも、もしかして、東国無双ってのは初撃以降も不意打ちを許すようなものなのかい)
ランサーの笑い声が頭に響く。
シルクちゃんの言い回しが馬鹿にしたものではなくある程度信頼した上でのものだとちゃんと伝わったのだろう。
ランサーは興が乗ったように、一言返し、話を続けた。
『そこまで言われたなら、期待には答えてやんなきゃな。
それで、もし、どっちにも居なけりゃどうする』
(その時は当初の予定通り街に行くさ。フェイトって子が居そうな場所がどこかは知らないから、また宛もない旅になるだろうけどね)
『Jud.それが一番わかりやすい』
ランサーはその独特な切り返しで肯定の意を示す。
嬉しそうな声だ。
今度は声を上げて笑うようなことはないが、それでも調子が乗り、声が平生よりも少し上ずっている。
あのランサーに対してはしれっと口の悪い宝具が居れば「いくつになっても年甲斐のない」とでも言われてしまいそうだ。
シルクちゃんは箒星から頭のうちでやり取りをした男に意識を向ける。
ただ、まあ、年甲斐がないにしろ。
魔法に対しての着眼点もそうだし。やり取りで話題に上げる点についてもそうだし。
落ち着きはないが、こと戦闘・戦場・戦況に関してはその全てを鋭敏に感じ取り深く考えている。
これであとは、数値上は高位で表されている戦闘力の裏付けが取れれば、文句なしだ。
その辺は蓋を開けてみるまで分からない。
そうしてシルクちゃんはそのまま西の方へ、まずは箒星の始点である森林公園へと向かうことにした。
×
道を歩いていると、いろいろな人とすれ違う。
サラリーマンだったり、主婦だったり。昼間から出歩けるような人だったり、昼間でも出歩けるような人だったり、昼間しか出歩けないような人だったり。
少なくともすれ違った中にマスターが居ないということを確認しながら進んでいくと、道端に小さな本屋を見つけた。
森林公園へと向かっていた足が止まり、ふらりとつま先の向きがずれる。
シルクちゃんの頭の中に、ずっとひっかかり続けているものがあった。
『旅は続く 世界の謎その全てを解き明かすまで!』と書かれた本。
あのあかがね色の、布張りの、見覚えがないはずなのに見覚えがあった本。
シルクちゃんの失っていた記憶を呼び起こし、再び別離の悲しみを与えたあの本だ。
あれは、物語だった。
誰かの冒険の断章を、忘却されていくはずの夢を、永遠のものとしてまとめた物だった。
そして、シルクちゃんは確かに、その物語に覚えがあった。
自分が昔祖父から聞かされていた『マナみ』という少女の物語ではない。
だが、確かに覚えがあった。
シルクちゃんはいつか、どこかでこの物語を―――記憶を取り戻すよりもっと前に、読んだことがあるような気がしたのだ。
本屋で様々な物語の背表紙を眺め、どれもがあかがね色の本とは違うことを確認して、またふらりと店を出る。
歩く道すがら、財布に入れていた名刺を取り出し、眺めてみた。
『余計なもの屋 マツリヤ』
これがシルクちゃんのこの聖杯戦争におけるロールだった。
この舞台ではこの肩書が正規の仕事として存在するのか、それともNPC時代から自称していただけのものなのかは分からない。
ただ、この肩書は重要だ。
『余計なもの屋』とは、マホウ使いだ。
そうぞう力をその羽ペンの先に乗せることが出来る人間だ。世界を生み出し、新たなるマホウを生み出せる唯一の存在だ。
この名刺はそのまま彼女がマホウ使いであるという証明である。
名刺を眺め、再び例の本について考える。
不思議な事に、例の本の中にもこの肩書は登場していたのだ。
ほんのすこし、文章にすれば一文。一つのセリフだけ。
主人公がふと目覚めた時、そばに居た少女がそう名乗った、そんな描写だけ。
ただ、余計なもの屋なんてそうそうある名前じゃない、と思う。
そして、なにより。
あの三流探偵と、背丈の小さなマホウ使いと、ピー子の三人組。そして、姿も顔も描かれていないはずの『あなた』。
その四人組と余計なもの屋を名乗る少女たちの物語に、シルクちゃんはなぜか既視感を覚えたのだ。
五人の物語には続きがあるという。
それを読めば、その物語についてまた思い出せるのではないかと思って、本屋によった。
だが、どの本屋にも、あの本の続きは置いてない。
本について思惑を巡らせながら歩き続け、気づけば、森林公園の前に辿り着いていた。
いけないいけない、と頭を振る。
油断は禁物だとランサーに大言を吐いたのはシルクちゃんの方だ。
あの本については確かに気になるが、戦場でまで優先することではないはずだ。
ふと『忘却』という、少女が世界で最も憎んでいる単語が思い浮かぶ。
シルクちゃんは、話への既視感について心当たりを割り出せないことを『忘却』と関連付けているのかもしれない。
下らない感情論だ。と切り捨てる。
ルーラーと彼らの姿を重ねたように、行き過ぎた憎しみが虚像に向かって怒りを放っているだけにすぎない。
確かに『忘却』は必ず打ち倒すべき敵ではあるが、どれもこれもが『忘却』のせいというわけではない。
こじつけようと思えば、魔法少女同士の殺し合いだろうと、超高校級の学生同士の殺し合いだろうと、『忘却』とこじつけられる。
言い出せばきりがないことだ。ひとまずは戦闘に集中し、本についてはまた後々。
どうあれ19時には家に帰って来いと言われたので、家に帰ったあとにでも考えることにしよう。
一歩踏み込む。
わっとむせかえりそうになるほどの密度で森林の空気がシルクちゃんを包み込んだ。
【D-6/森林公園入り口/一日目 午前】
【シルクちゃん@四月馬鹿達の宴】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]魔法の羽ペン
[道具]マツリヤの名刺
[所持金]一人暮らしに不自由しない程度にはある
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れて、復讐する。
1.魔力の流れ星を追い、森林公園を通り抜けてD-5方向へ。
2.その場所に誰も居なければ街の方へ。
3.
フェイト・テスタロッサに対しては――
4.ルーラーへの不信感。
5.時間があれば『本』について調べる。
[備考]
※フェイト・テスタロッサを助けるつもりはありません。ですが、彼女をルーラーに突き出すつもりもありません。
※令呪は×印の絆創膏のような形。額に浮き上がっているのをシルクハットで隠しています。
※出展時期は不明ですが、少なくも友達については覚えていません。
例の本がどの程度本編を書いているのかは後の書き手さんにお任せします。
【ランサー(
本多・忠勝)@境界線上のホライゾン】
[状態]平常
[装備]『蜻蛉切』
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:主の命に従い、勝つ。
1.マスターと一緒に街へ出て一暴れする。
[備考]
※宝具『最早、分事無(もはや、わかたれることはなく)』である鹿角は、D-7の奉野宅に待機しています。
最終更新:2020年06月28日 00:14