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シュガー・ラッシュ ◆EAUCq9p8Q.


◆◆


  大井は激怒した。
  必ずや、この厚顔無恥な参加者を倒さねばならぬと。


◆◆

  大井がその書き込みに気づいたのは、本当に偶然だった。
  やることもないので携帯を開いてニュースサイトの巡回をしており、そしてふと、今朝方立てたスレのことが気になった。
  もしかしたら『輿水幸子』以外の誰かが引っかかっているのではないか。
  そう思い、何の気なしにスレを開いた。
  見れば、新着レスが一つ増えている。顔がほころぶ。やはり大井の計略は完璧だ。
  しかしそこで大井が見たものは、以下のレスだった。

―――

2 名前:諸星きらりの友人[] 投稿日:20XX/0X/XX(X) XX:XX:XX ID:mrbsKRL0

今からきらりちゃんと一緒に小学校に行きます。
信じてもらえないでしょうが、本当です。
校門で待ってます

―――

  あまりの衝撃に、言葉を失った。
  そして、理解が追いついて言葉を取り戻す頃には、憤怒が驚愕を乗り越えていた。

「な、なによ、これ……!!」

  思わず言葉が溢れる。
  なんだこれは。
  これでは大井の緻密な計画がパアではないか。
  大井の計略を逆に利用しようとしている人間が居る。それは想定内だ。
  だが、ここまで大っぴらに、大井自体の計略をぶち壊すような方法を取るのは想定外だ。
  大井は激怒した。
  そして当然、大井の計画をこんな形で壊そうとする輩を許しておけなかった。
  頭の中で色々と思考を巡らせ、今後の方針を切り替える。
  そして、方針が決まってすぐ、自身のサーヴァントへと念話を飛ばした。



(聞こえますか、アーチャー)

『どうしたね』

(小学校方面に参加者が集合する可能性があります。取り急ぎ、潰してきてください)

  大井の言葉に、アーチャーは「ほう」と相槌を打ち。
  そして、少しだけ間を置いて、こう返してきた。

『それはまた……唐突だね。様子見はいいのかい』

(放っておくと私の計画に差し支えるので、早急にお願いします)

  どうやら大井は、大井自身が思っているよりも気が立っているらしい。
  意図せずに突っぱねるような言い方になってしまったのを少しだけ恥じていると、アーチャーは事も無げに言葉を返した。

『そうか……ならば仕様がない。向かってこよう。変身を行う。魔力を少し使うから、気をつけ給え』

(ええ、じゃあ、お願いします)

  念話はそこで終わった。
  少しした後に熱が退くような、疲れがたまるような感覚が身体に広がる。
  これが、魔力を使ったということだろうか。
  あまりいい感触ではないなと考えながらも、大井はわりと気を良くしていた。
  アーチャーは、やはり優秀と言っていいサーヴァントだ。
  大井の指示にきちんと従っている。この戦場でどう動くことが重要なのかをちゃんと理解している。
  その時思い浮かんだのは、大井の金言を意味なく切り捨てた長門の真面目を装った顔だった。
  そして、長門の指示の無知蒙昧さを理解せず二つ返事で従った数十人の艦娘たちの顔が頭をよぎる。
  馬鹿な奴らめ。今に見ていろ。
  お前らが数十人がかりでなんとか覆した運命を、私は一人で覆してみせる。
  愛の力で、この手の中に、北上を取り戻してみせる。

  令呪の刻まれた左手で、北上の温もりの残るお守りを握りしめる。
  そして、教室の向こう、窓の外、小学校を見据える。
  今からあの場所には、大井と北上の愛の御旗がそびえ立つ。
  せいぜい、つかの間の勝利に酔っていろ。『諸星きらりの友人』よ。




  小学校の屋上に展開された光の槍。そしてマスターである大井からの連絡。
  二つが重なれば嫌でもわかる。
  大井の策略を利用する形で小学校に参加者が集い始めている。
  これからしばらくもしないうちに、戦闘が始まるだろう。

「そこに飛び込めというのだから、我がマスターながら、なかなかに無茶を言う」

  どう考えても危険だ。
  数もクラスもわからぬサーヴァントたちが集う戦場に赴くなんて、一歩間違えば消滅してしまう可能性もある。
  だが、これはアーチャーにとってもまたとないチャンスだった。
  参加者たちがあの光を求めて集まる。ならば当然、その参加者たちを狙った力を持つ者たちが集まる。
  その中にはきっと居るだろう。アーチャーの求める『戦う力』を有したマスターが。
  戦場に向かえば、彼らと会うことが出来る。
  そして、戦場ならば、アーチャー側の事も運びやすい。
  別のマスターとの再契約。
  乱戦地帯に突っ込んでくるような血気盛んなマスターを捕まえ、大井を切り捨てる。
  サーヴァントに不満を持っているマスターでもいいし、なんならアーチャーがサーヴァントを殺しても構わない。
  まだ付き合い始めて数日しか経っていない開始初日の段階ならば、サーヴァントに対して情が移っていることもないだろう。
  もし別のマスターとの再契約が駄目なら大井の元に帰り今までどおりの関係を続ける。それだけだ。

  アーチャーの離反計画と大井の激情が、歪んだ形で噛み合った。
  だからアーチャーは、この大井の一見無茶苦茶としか言えない指示を飲んだ。

「さて、では……そろそろ行こうか」

  取り出したのは、赤い柄に黒と白の文様、そして頂点には輝く恒星を模した装飾の施されたスイッチ。
  只の人間を、人ならざるものへ。人類を、人類を超えたものへ。
  超銀河の神秘によって単なる猿を宇宙の意思の元へと押し上げる、アーチャーの宝具。

  スイッチを押す。光が溢れ、『我望光明』が消える。
  12の星の輝きと宇宙空間にも似た暗黒が晴れた時、そこに立っていたのは怪物だった。
  『サジタリウス・ゾディアーツ』。黄道十二宮を統べる者。アーチャーのもう一つの姿。
  夜にはまだ早いその時間。D-2に射手座が輝いた。



【D-2/高等学校/1日目 午後】

【大井@艦隊これくしょん(アニメ版)】
[状態]怒り、健康、魔力消費(小)
[令呪]残り三画
[装備]北上の枕の蕎麦殻入りお守り
[道具]通学鞄、勉強道具、スマートフォン
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:北上さんへの愛を胸に戦う。
0.聖杯戦争に北上さんが居る可能性を潰す。
1.スレを利用した人間への怒り。
2.メールを送ってきた人物をC-3もしくはD-4に集める。そのためにアーチャーに集合場所に赴く偽大井を用意させる。
3.作戦開始直前になれば偽大井を使って2.の場所に少女(双葉杏)も上手いこと誘導する。
4.メールの件が片付いたらしばらくはNPCとして潜伏する。
[備考]
※双葉杏を確認しました(電話番号交換済)。また、輿水幸子の名前を確認しました。ただ、偽名を疑っています。
※北上が参加者として参加している可能性も限りなく低いがあり得ると考えています。北上からと判断できるメールが来なければしばらくは払拭されるでしょう。
※『チェーンソー男』『火吹き男』『高校の殺人事件』『小学校の死亡事件』の噂を入手しました。
 また、高校の事件がらみで諸星きらりの人相・性格、『エノシマ』という少女が諸星きらりを探っていたことを教師経由で知りました。
フェイト・テスタロッサの顔と名前を把握しました。
※きらりスレの最新レスを確認しました。怒ってます。すごく怒ってます。


【アーチャー(我望光明)@仮面ライダーフォーゼ】
[状態]サジタリウス・ゾディアーツ形態
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を得る
1.小学校方面へ。『諸星きらりの友人』他を襲撃。その際に良さそうな敵マスターに目星をつける。
2.フェイト・テスタロッサが現れた場合、大井に連絡を入れる。
3.大井の代わりに集合場所に向かうNPCを調達。方法はスキル『催眠術』による一時催眠。
4.放課後、集合場所に現れる『輿水幸子』他参加者の偵察。必要とあればアーチャー直々に手を下す。
5.戦闘力に秀でたマスターが居れば大井を切り捨てることも思案。
[備考]
※双葉杏=マスターであるとしています。諸星きらりと江ノ島盾子は見てない可能性が高いです。
 双葉杏のタクシーの進行方向は知っていますが具体的にどこに向かったかまでは知りません。
※アサシン(クロメ)と近い位置に居ますが存在に気付いていません。(菓子の咀嚼音も距離のこともあり届いていません)
 ただ、アサシンが不用意に近づいたり、臨戦態勢に入ったりすれば気配遮断の効果が切れて気づきます。
※大井に対する意識は可寄りですが、彼女の戦闘能力には不満があります。
 もっと力の強い参加者が居、その参加者が望むのであれば大井を屠っての再契約も視野にいれてあります。
※降り注ぐ光の槍(フェイト)を確認しました。



◇◆

  不意に、感覚に襲われた。
  この感覚は、間違いなく『あの』感覚だ。
  雪崎絵理が感じたのは、今までよりも格段に、途方も無く強い『予兆』。
  遅めの登校を終え、授業を受け、昼食を食べ、午後の授業も滞り無く受けた矢先にこれだ。

  現れる。
  あの男が、チェーンソー男が現れようとしている。
  時計を確認する。まだ夕方と呼ぶには早い、午後だというのに、確信にも似た感覚が『チェーンソー男』の襲来を告げる。
  まただ。
  絵理は頭を抱えそうになり、人前だということを思い出して持ち直した。
  しかし、最近はおかしなことばかり起きる。
  襲撃ペースが変わったこともそうだし、山本と会えなくなったこともそうだ。
  なんとなく、ぽっかりと大きな穴が開いているような気がする。
  絵理を置き去りに、世界だけがぐるぐると回っているような、そんな錯覚を覚える。
  今何が起こっているのかを、正確に把握できていないのは、なんだかとても気分が悪い。
  このもやもやにも、そのうち決着を付けたい。

  ただ、その前にやることがある。
  この『直感』に向き合う必要がある。
  この『直感』の先には、チェーンソー男が居る。
  今朝のように、誰かを巻き込んで、周囲を切り飛ばしながら、暴れまわる可能性がある。
  あいつが誰かを傷つけようとするならば、戦わなければならない。
  絵理にとってそれは、使命のようなものだから。

  人目を忍んで、高等学校を飛び出す。
  向かう先は直感の示す先、小学校方面。

  頭上で奇妙な光が輝いたのに、絵理が気づくことはなかった。



【D-2/高等学校/一日目 午後】

【雪崎絵理@ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ】
[状態]魔力消費(?)
[令呪]残り三画
[装備]宝具『死にたがりの青春』 、ナイフ
[道具]スマートフォン、制服
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:チェーンソー男を倒す。
1.チェーンソー男の気配のする方、小学校方面へ。
[備考]
※チェーンソー男の出現に関する変化に気づきました。ただし、条件などについては気づいていません。
※『死にたがりの青春』による運動能力向上には気づいていますが装備していることは知りません。また、この装備によって魔力探知能力が向上していることも知りません。
白坂小梅&バーサーカージェノサイド)を確認しました。真名も聞いています。
※記憶を取り戻しておらず、自身がマスターであることも気づいていません。
※もしかしたらルーラーも気づいてないかもしれません。
※聖杯戦争のことは簡単に小梅から聞きました。詳しいルールなどは聞いてません


【???/???/一日目 午後】

【チェーンソー男@ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ】
[状態]復活可能
[装備]チェーンソー
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:雪崎絵理の殺害
[備考]
※雪崎絵理がマスターだとかそういうことは関係ありません。
※聖杯戦争中、チェーンソー男は夜以外にも絵理がサーヴァントの気配を感じた場合出現し、当然のように絵理を襲います。
 このことには絵理も気づいていません。
※致命傷を受けての撤退後、復活にはある程度の時間を要します。時間はニュアンスです。
※白坂小梅&バーサーカー(ジェノサイド)組を確認しました。



◇◇

  輿水幸子と同じく白坂小梅も欠席だと知った。
  久々の、キノコと二人で食べる昼食は、とても寂しかった。

「……二人共、どうしたんだろうね……ダロウネー!……ふ、ふ」

  キノコを持ち上げて、幼い少女がぬいぐるみでそうするように、キノコに声を当ててみる。
  寂しさは少しだけ紛れたが、やっぱり、幸子や小梅と一緒のほうが良かった。

  午後の授業も平々凡々。座学で将来役に立つらしいことを一つまた一つと学んだ。
  授業が一段落すればまた一人ぼっちの時間がやってくる。
  再びなにもやることがなくなり、仕方なく携帯電話を開いた。
  幸子からのメールは来てない。
  また少しだけ鎌首をもたげ始めた寂しさを隠すように携帯電話を閉じようとして、あることを思いだした。
  通達の『掲示板』。
  ご自由にどうぞと書いてあったから暇な時に見ようと思っていたのだが、すっかり忘れていた。

「そういえば……あったな、そんなの……」

  ふ、ふふ、と鼻歌を口ずさみながら携帯電話をいじる。
  しばらくして、目的のページに辿り着いた。
  調子っぱずれな鼻歌が、だんだん小さくなり、次第には消えてしまう。

  輝子は、アイドル状態ではない彼女にしてはやや真剣な面持ちで、掲示板の中身を確認して、メールを打った。
  宛先は幸子。
  言葉を選び、内容を確認し、消して、打って、また消して。
  そしてそこで輝子の指は止まり、そのまま動かなくなった。
  輝子は何かを考えるようにじっと液晶を眺め続け、そしてそのまま、メールを閉じ、携帯の電源も落としてしまった。



  携帯の電源を落としたあとで、考える。
  今の掲示板は聖杯戦争の参加者しか見ることが出来ない。
  きらりはまるで聖杯戦争の参加者であるかのように書かれていた。
  そして、丁寧に今から向かう場所まで書かれていた。
  それが意味するところはなにか。
  聖杯戦争の参加者がこれを見たら、小学校に集まってくる可能性がある。
  そうすると、もしかしたら、戦いが始まってしまうかもしれない。
  だとすると、危ない。
  ここに向かっていると書かれているきらりも。
  そして、きらりを探していた幸子も。
  輝子が幸子にメールを打たなかったのは、『もし幸子がただのNPCで、メールのせいで戦いに巻き込まれるようなことがないように』。
  しかしひょっとすると、幸子も聖杯戦争の参加者で、あのスレを見て今朝からずっときらりを探していたのかもしれない。
  だとすると、あのレスを見た幸子は、確実に小学校にやってくるだろう。
  知り合いのアイドル二人も参加者なんて、偶然に偶然が重ならなければこんなことは起こらない。
  でも、ないとは言い切れない。
  だとするとどうするべきだろうか。

  少し考えて、結論を出す。
  そして、教室を抜けだして朝のようにトイレに入り、自宅に電話をかけた。
  何度かのコール音。
  ぷつりという繋がった合図。
  受話器の向こうから、聞き慣れた声が聞こえてくる。

{もしもし}

「あ、もしもし……ライダー?」

{なんだ、なにかあったか}

「あのさ、今からさ……小学校まで、む、迎えに来て、くれない、かな……」



{……で、なにがどうしてそうなったんだ}

「……理由……」

  なんというべきか。
  どこまで話すべきか。
  『掲示板で殺人犯扱いされていたきらりを助けるため』なんて言ったらライダーは絶対頷かないだろう。
  『幸子を拾う』と言ったら、幸子の居場所がわかった理由や現地できらりも連れて帰るときに理由も聞かれてしまうかもしれない。
  輝子はあまり嘘が得意じゃないので、ライダーをごまかしきれないと思う。
  だから輝子は、彼女にしては珍しく、言葉を濁した。

「……それは、まあ……後々話すよ、後々ね……」

{……}

  ライダーからの返答はない。
  胡散臭そうなライダーの顔が思い浮かぶようだった。
  もう一度頼むと、ライダーは大きな大きなため息をついた。 

「頼むよ」

{頼むって言うけどな、俺様だって、なんでもはいはい言うわけじゃないんだぞ! マスターってば、わがままばぁーっかり!}

  その、およそ悪役らしくない物言いにそれがなんだか面白くって少し笑うと、ライダーは電話越しにぷりぷり抗議の声を上げ始めた。
  でも、抗議は抗議で、本気で怒っているわけでも、深く追求するわけでもなさそうだ。
  少し悪い気がしてちくりと心が痛んだが、それでも、ライダーの声を聞いていると安心できた。
  彼と一緒ならば、きらりも、幸子も、救える気がする。
  万感とまでは行かないが、とても大きな感謝を込めて、輝子は初めて、ライダーをこの呼び方で呼んでみた。

「じゃ、頼んだよ、親友」

{なあにが親友だい! 調子のいいことばっかり言って!!}

  そう言って、電話はそれきり誰の声も届けなくなった。
  勢いに任せてライダーが電話を切ってしまったのだろう。
  輝子は知っている。口ではああ言ってるけど、ライダーはきっと来てくれるということを。
  じゃあ、今からどうしようか。
  少し考えて、輝子は歩き出した。
  危険かもしれないが、遠巻きに様子だけを確認しておこう。
  もし、幸子たちが居たら、早めに合流しておく必要がある。
  もし戦いが起こっているようなら、参加者だとバレないように、逃げてしまおう。

  輝子は一人、ふらふらと小学校の方へ向かった。
  近づき過ぎないように気をつけながら、それでも、もし知り合いが居れば見逃さないよう注意を払いつつ。




「小学校、ねえ」

  ライダー・ばいきんまんは地団駄を踏んでひとしきりの不平不満を口にした後、一人顎に手をやり考えていた。
  輝子は同年代に比べて背丈こそ小さいが、立派な高校生だ。
  それが何故、小学校に向かえということになるのだろうか。
  もしかしたらなにか進展があったのかもしれない。
  輿水幸子、白坂小梅。その二人を守るという彼女だけの聖杯戦争に。

「なんにせよ、行かなきゃならないんだがなあ」

  呼ばれたのだから行く。そこは問題ない。
  ライダーは輝子の英霊なのだから、最大限便宜は図る。
  ただ、少し問題がある。
  今はまだ昼間だ。『ばいきんUFO』を飛ばすには日が高い。
  真昼の空をメタリックな円盤が飛んでいれば、必ず悪目立ちしてしまう。しかもライダーの場合、日本での知名度を考えるとその円盤の姿だけで真名がばれかねない。
  火急の用ならばこのままマンションから『ばいきんUFO』を飛ばすのだが、電話口の対応を聞くにそういうわけではないのだろう。
  こういう場合、本来ならば『もぐりん』で気配を隠しながら地中を進むのがいいのだろうが、困ったことにもぐりんは現在エンチャント中だ。
  途中で打ち切ってしまってもいいが、ライダーのエンチャントは『機械の改造』なので、エンチャントを打ち切ると一言で言っても追加したものを剥ぎとって元の形に戻す手間がいる。
  魔力的にも、時間的にも、ここでそのロストはキツい。

「俺様だけが霊体化していくってのはナシだし、どうしたもんか」

  ライダーが単体で行くというのも考えたが、それは危険が過ぎる。
  ライダーはそもそも身体能力が高くないので、身体を晒しているところを襲われたらおわりだ。
  更に、迎えに行く以上帰りの道中は安全に帰る必要がある。
  何かに乗って行くのは当然として。
  『だだんだん』はそもそも問題外。
  すぐに飛ばせる『ばいきんUFO』か、気配遮断の『もぐりん』か。

「ふうむむむ……」

  目をギュッと閉じて首をひねる。
  あまり長く待たせるわけには行かないので、長いこと考えこむ訳にはいかないが、機械の仕様が全く違うのでこの選択は大きい。
  失敗しないように、出来る限りの可能性を辿り、より状況に対応できる方を選んで乗って行く必要がある。

「かび」「かび」「かび」「かび」

  かびるんるんは、そんなライダーの心境はつゆ知らず、『もぐりん』のエンチャントを指示通りに続けていた。



【D-2/中学校/1日目 午後】

星輝子@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]
[道具]多機能携帯電話
[所持金]一人で暮らせる程度にはある
[思考・状況]
基本行動方針:幸子ちゃんと小梅ちゃんを守る。
1.学校で小梅ちゃんを待つ。
2.フェイト・テスタロッサが気になる。
3.緊急時にはライダーを令呪で呼ぶ。
4.きらりちゃんを探す。
[備考]
※掲示板を確認していません。
※念話は届きませんが何かあったら自宅に電話をかけます。



【C-2/マンション/一日目 午前】

【ライダー(ばいきんまん)@劇場版それいけ!アンパンマン】
[状態]魔力消費(小)、魔力回復(微)
[装備]宝具『俺様の円盤(バイキンUFO)』、『踏み砕くブリキの侵略者(だだんだん)』
[道具]宝具『地の底に潜む侵略者(もぐりん)』(エンチャント中)
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:宝具を改造して、準備を整えてから行動したい。
1.輝子を迎えに小学校へ向かう、が……
2.『地の底に潜む侵略者』をエンチャント中。加速機能と索敵レーダーを開発予定。
3.輝子緊急時には見られることを気にせず宝具で逃亡。
4.幸子が来たらどうするかな……
[備考]
※マンションの一室をエンチャント部屋として使用中(作中表記は『工房』ですが陣地ではありません)。
※原木にかびるんるんをとり付かせることで魔力回復(微)の効果を得ます。星家の原木がキノコパラダイスになれば効果がなくなります。
※現在の宝具エンチャント。
『俺様の円盤』……搭乗員数最大拡張、掃除機ノズルアーム、トリモチバズーカ
『地の底に潜む侵略者』……搭乗員数最大拡張、魔力レーダー(開発中)、加速装置(開発中)
『踏み砕くブリキの侵略者』……搭乗員数最大拡張
※輝子の素質上の問題で念話は届きませんが星家に電話がかかってくると応対を行います。




  壁掛け時計の音で目を覚ます。
  見れば、もうお昼をとっくに超えていた。
  お腹は空いてない。
  特に動きもしなかったので、朝食べたものがまだお腹の中に残っている。
  この分なら、夜まで何も食べなくても持ちそうだ。
  それを確認して、海野藻屑は再びベッドの中で目を閉じた。
  深く大きい呼吸。規則的に、吐いて、吸ってを繰り返す。
  でも、眠れない。
  当然といえば当然だ。昨日から数えて、二十時間くらいは寝ているのだから。
  仕方なく体を起こす。体の節々が『汚染』で傷むのとはまた別に、寝すぎてこわばった関節が傷んだ。
  サイドボードに置いてあったミネラルウォーターのペットボトルを取り、がぶりがぶりと飲む。少しだけ、乾きは取れた。

「ポチ、おはよう」

  藻屑のベッドの直ぐ側で寝ていたポチがぱたんと尻尾を振った。上等な羽箒みたいな、黒くて大きな尻尾が揺れる。
  藻屑が手を伸ばすと、ポチはむっくりと起き上がってその手に頭をすり寄せた。
  少し硬めの毛がこそばゆい。
  そのままベッドのヘッドボードにもたれかかり、置かれている状況を確認する。
  特に変わりはない。寝る前と同じ時間が、今もまだ続いていた。
  頭の中でアーチャーに声をかけるが届かない。アーチャーもまだ帰ってきてないらしい。

「色々やってるのかな」

  藻屑は何も知らない。今、街で起こっているほぼ全ての出来事を知らない。
  このままずっとぐうぐう寝続けて、気づいたら、聖杯戦争が終わっていたなんてことも、あるかもしれない。
  それは悲しいことじゃない。何もせずに願いが叶うんだから、きっと喜ぶべきことだ。
  窓の外を見る。日は高く、木々を照らしている。
  空にはまるで作り物のような、わざとらしいほどの青空と白い雲が貼り付けられている。
  でも、この街の誰かにとって、この戦争は、そんなに綺麗なものじゃない。
  今も何かに『汚染』されながら、必死に、誰かと戦っている。
  心のなかに、空風が吹いたような気がした。この街で、海野藻屑は、やっぱり一人だ。
  この広い街の中の、海に近い家の中で、一人ぼっちで泡を吐き出し続けている。

「なんだか、遠い国のことみたいだ」

  現実離れした戦争。
  たった一人でまどろむ人魚。
  小さな小さな水槽のようなこの家の天井に向けて、また一つ、泡が上がった。



  手持ち無沙汰でスマートフォンをいじる。
  電話も、メールも来るわけない。ただ、一つだけ、見ることの出来るものを持っている。
  海野藻屑と聖杯戦争の数少ない接点。『掲示板』。今朝方確認した時から、死神様のことや、諸星きらりのことはなにか進展はあっただろうか。
  読み込みが終わってページが開かれる。諸星きらりスレの書き込みが増えていた。
  小学校に、諸星きらりとその友人が向かう、という書き込みだ。

「よくやるよね、本当」

  これもまた、罠だろう。
  誰かが小学校にわざと人を集めようとしているに違いない。
  不意にまた、アーチャーのことを思いだした。
  藻屑の意思に関係なく、アーチャーは戦いに向かい、勝利を上げてきている。
  戦うことはアーチャーの自由で、藻屑に止める権利はない。
  そんなアーチャーはこのことを知っているのだろうか。知ればどうするだろうか。
  彼女のことだ、フェイト・テスタロッサのように敵を釣るためのいい餌としてこれを利用するだろう。
  場所が明かされている分、こちらの方が使いやすい。
  この書き込みのことを知れば、きっと小学校に向かい、そして集まった主従と戦って……
  戦って、戦って……

「それでまた、誰かと戦うんだろうなあ。アーチャーは」

  アーチャーはきっと、このレスについて教えれば喜んで小学校に向かうだろう。
  藻屑としても、生き残れる確率が高くなるのは良いことだ。
  ただ、なんとなく、自身の英霊アーチャーには、このことを知らせないでおこうと思った。
  伝える手段がない。携帯端末のようなものを使えればいいのだろうけど、アーチャーはそんな便利なものを持ち歩いてない。
  なにかあったら令呪で呼べ、なんて言ったが、教えるだけで呼び戻してたら令呪がもったいない。
  様々理由をつけたあと、その書き込みを見なかったことにして、スマートフォンの電源を切って横になった。



  手近においてあったリモコンを使ってテレビをつける。
  特別見たい番組があるわけじゃない。
  ただなんとなくそうした方が、この家の中に音が増えて、一人ぼっちの水槽が賑わうような気がした。それだけだ。

  画面の向こうからは情報番組の司会の楽しげな声が聞こえてくる。
  少しだけ音の増えた水槽の中で、小さな海の外を見ながら、少しだけ、考える。
  もしかしたら、藻屑は。あの書き込みが本物で、諸星きらりと誰かが出会えることを望んでいるのかもしれない。
  少女たちを殺しあわせて死体の山を築いたアーチャーに、その出会いを邪魔してほしくないだけなのかもしれない。
  そして、心の何処かで。この聖杯戦争の舞台の上で、まるで世間で愛されるハッピーな物語のように。
  奇跡的に巡り会える諸星きらりと友人に、誰かと誰かを重ねたいのかもしれない。

「はは、なんだよ。そんなの、柄にもない」

  やけにセンチメンタルになっているな、と思い、目を閉じる。
  父、海野雅愛が居ないことで、藻屑の精神が少々不安定になっているのかもしれない。
  現実に心を揺り動かされすぎている。海野藻屑の『現実』とは、こんなものではなかったはずだ。
  なんだか、苦しい気がする。気のせいかもしれない。きっと気のせいだ。
  先程まで陽気な声色で話していた司会は、打って変わって緊迫した様子でこう繰り返していた。
  『早朝の商店街を襲った謎の衝撃』『この後現場から生中継』と。
  誰かが戦ったニュースが流れる。
  そのニュースは、やはりどこか遠くのことのように、藻屑の耳をすり抜けていく。
  そうして藻屑はまた一つ泡をこぼした。

「遠いなあ。ぼくには、まだ」

  戦っても、戦っても、戦っても。
  海野藻屑がいくら必死に戦っても。
  水槽の中から見つめた外の世界は、まだずっと遠い。
  あの日、嵐の夜にはぐれてしまったきりの現実は、まだ、まだ、ずっとずっと遠い。


  砂糖菓子の弾丸は、水槽の中で、少しずつ、少しずつ、溶けていく。




  当然、見逃すはずがなかった。
  高い空、魔法少女の視力で見えたやや遠い場所。
  建物の屋上に浮かんだ、昼目にもとても目立つ数十数百の光の槍たちを。
  誰かが戦っている。
  夜を待たず、建物の屋上なんていう目立つ場所で。
  その『招待状』を受け取ったアーチャー・森の音楽家クラムベリーは、当然のように進路をその光の方向へと切り替えた。

  本来英霊は日中派手に動きまわるのは得策ではない。
  英霊同士の戦いは、まさに小規模な戦争と呼ぶにふさわしい。
  技の応酬だけでもとても目立つし、近隣への被害だって尋常じゃない。
  最近はメディアツールの発達が著しい。目立った戦闘をすれば即座にネットワークに公開されてしまう。
  戦闘が報じられれば不利益が発生する。戦闘スタイルがばれる。宝具を見られる。姿形の情報が映像として残る。真名にたどり着かれやすくなる。
  だが、アーチャーはそんな不利益を気にする少女ではなかった。
  不利益が発生するというのは事実だ。だが、戦場で、殺し合いで、不利益に怯えてたたらを踏んでなにが始まる。
  それに、あの光を見ているだけで、居てもたっても居られなくなった。

  あの光を求めて、サーヴァントたちが集まってくる。
  光を放った誰かは、アーチャーと同じように、後に振りかかる不利益なんてものを蹴っ飛ばして戦いを求めている。
  アーチャーには、聞こえるはずのない声が聞こえた気がした。
  時は今。場所は目と鼻の先。
  お前らの戦争の相手は、お前らの望む敵はここに居る。
  だから早く戦いに来いと言っている、まだ見ぬ英霊の声が。
  素晴らしい招待状だ。
  どうしてここで立ち止まれる。向かわずには居られない。

  屋上を蹴り、大きく飛び上がる。
  光を塗りつぶすような漆黒のコートがはためいた。
  あれから数分。もう、屋上を覆い尽くしていた光の槍は見えない。
  速く、少しでも速く。
  あの光を放った者と、あの光のもとに集まる者達に会いに。
  この甘ったるい戦場で、闘争を望む者達に会いに。
  気分が高揚し口元が緩みそうになるのを抑えながら、アーチャーは道無き道を全速力で駆け抜けた。


【Bー1/海野邸/一日目 午後】

【海野藻屑@砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない】
[状態]健康(?)
[令呪]残り三画(内腿の青あざの中に)
[装備]なし
[道具]ミネラルウォーター入りペットボトル、おてがみ、スマートフォン
[所持金]クレジットカード(海野雅愛名義のゴールドカード)、5000円分のクオカード
[思考・状況]
基本行動方針:山田なぎさに会いたい
0.安心したい
1.アーチャーに全てを任せる。諸星きらりスレのことは知らない。
2.惰眠をむさぼる
[備考]
※家にはポチが居ます
※すぐに出前が届いて空腹ではなくなります。
※NPC海野雅愛が存在するかどうかは不明ですが、少なくとも海野邸には出入りしていません。
※掲示板を確認しました。少なくとも江ノ島のスレと大井のスレは確認しています。


【C-3/ビルの屋上/1日目 午後】

【アーチャー(森の音楽家クラムベリー)@魔法少女育成計画】
[状態] 健康、気分やや高揚
[装備] 黒い、フード付きコート
[道具] なし
[思考・状況]
基本行動方針: 強者との闘争を求める
1. 学校地区(D-2)へ。

[備考]
※フェイト・テスタロッサを見つけてもなのはに連絡するつもりはありません
※小学校屋上の光の槍(フェイト)を確認しました。

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016:ホワイト&ローズ アーチャー(森の音楽家クラムベリー)
014:絶望少女育成計画Reflect 星輝子&ライダー(ばいきんまん
019:情報交換 雪崎絵理&バーサーカー(チェーンソー男
013:Because,I miss you/逢いたくて 海野藻屑 040:外へ

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最終更新:2020年06月28日 00:17