マッド・ティーパーティー ◆PatdvIjTFg
◇
こういう歪さは嫌いじゃない、と
江ノ島盾子は心の中で独りごちる。
無機質な外見のマンションの一室――某号室、
諸星きらりの家に入ってみれば、まるで女の子のおもちゃ箱のような、そんな素敵な光景が広がっている。
色々な種類のぬいぐるみ、ドールハウスの中にあるような家具、柔らかくて可愛くて素敵なもの、たくさん。
甘ったるさすら感じるような素敵な匂いはどこから来ているのだろう。
マンションという外枠の無機質さすら、中にある大切な宝物を守る宝箱のようにすら感じられる。
なんて素敵な部屋なんだろうと思う、お姫様の仮宿――そう呼んでも過言ではない。
(楽しい……楽しくない?ランサー)
ソファー代わりのきらりのベッドに腰掛けて、
江ノ島盾子はランサーに念話で語りかける。
壁を背にして立ったままのランサーは言葉を返さない。
江ノ島盾子にとって、ランサーの何もかもが娯楽だ。
行動の針でランサーを突いては、迂闊にも漏れだしたその中身を啜り上げて、その味の感想を直接彼女に伝えるような、人格という存在に対する吸血鬼だ。
無反応すら、
江ノ島盾子にとっては心地よい。
かつて、ランサーが戦った最凶の魔法少女――アレですら、まだ困り顔を浮かべるだけ可愛げがある。
江ノ島盾子はサディストでマゾヒストで、ある意味で超越者だ。
何かもを受け入れて、そして愉しもうとするから――非常に性質が悪い。
(守ってあげたくならない?可愛い物を部屋の中にいっぱい詰め込んで、でも自分の中身は空っぽ……
ううん、げろげろげろげろ、彼女が大切にしてたもの、いっぱい吐かされちゃったね。
そんな気もないのに、こんなカワイイ部屋に暮らしているんだから……私、同情しちゃうよ)
「こんなものしかないけど……」
きらりがおずおずと差し出した紅茶を、
江ノ島盾子は受け取った。
ベッド脇に寄せられたテーブルの上には、お茶菓子のバタークッキーとチョコクッキーが小皿に盛られている。
紅茶を口元に近づけて軽く匂いを嗅ぐ、林檎の爽やかな匂いだ。
「こんなものだなんて……そんなことないよ!」
そう言って、
江ノ島盾子は軽く紅茶を口に含んで、飲み干す。
「うん、とっても美味しい」
そう言って、
江ノ島盾子はきらりに微笑みかける。
きらりも
江ノ島盾子の微笑みに安堵したように笑い返す。
(ランサー、アタシ……心を読む魔法なんて使えない、つ・か・え・な・い、けっ……ど!
きらりちゃんの心の声が、バッチリ聞こえるよ。教えてあげようか、教えてあげる、あっ……教えてあげるぽん!)
(『本当に喜んでくれてるのかなぁ、気を使わせてるだけじゃないのかなぁ……』)
きらりから流れてくる心の声と寸分違わず、
江ノ島盾子の発した言葉は一致していた。
傷つけられた心が、自分への自信を失わせ、他者とのかかわりに関する不安感を著しく増大させている。
「ラ、ランサーさんもどうぞ!」
「どうも」
きらりの差し出した紅茶をランサーも受け取る。
紅茶などテーブルの上に置けばいいものを、彼女は紅茶を直接渡す。
ただ、そうした方がいいのではないかという漠然とした不安感がある。
いじめによって破壊された対等の友人関係という概念は、今きらりの中で再構築の過程にある。
テーブルの上に置いておいて、相手に取らせるなど無礼ではないかという疑念が彼女の中にある。
自分がもてなさなければという圧迫感がある。
無意識の奥底にあって、きらり本人ですらしっかりと意識しているわけではない。
ただ、いじめによるトラウマが静かに根を張っていた。
「……ありがとう、きらりさん」
目の前にある状況を前にして、素直に笑えるわけがない。
だが、ランサーは精一杯きらりに微笑んでみせた。
変に自分がきらりを怯えさせて――そして、きらりが
江ノ島盾子を慰める。
そして、きらりは知らず知らず、深く深く、
江ノ島盾子に絡み取られる。
後手に回ってしまった時点で、自分が出来ることは少ない。
だからといって、この最悪の循環に協力してやるつもりはない。
一息に紅茶を飲み干す。
サーヴァントにも魔法少女にも、食事は必要ない。
けれど、きらりの入れた紅茶は温かく心地よかった。
(いい笑顔です、ランサーさん)
きらりも
江ノ島盾子もランサーも、皆笑う。
笑うことしか出来ない。
「ところできらりちゃん、携帯電話持ってないかな?」
「にゅ?持ってるけど……」
「ちょっとだけ貸してくれないかな?今ちょうど壊れてて……でも、どうしても今、連絡したい人がいるんだ」
「うん!もちろんおっけー!」
「ありがとう!あっ……私のが直ったら、メールアドレスとか交換しようね!」
きらりの携帯電話を受け取って、
江ノ島盾子は当然のように掲示板へのアクセスを開始する。
(きらりちゃん……いい子だし、ビビってるよね。
疑いなくケータイを貸したんじゃなくて、疑えずにケータイを貸したんだよ。
言う通りにしなかったら嫌われるかも、って考えちゃうんだよ。多分ね、多分。
ランサーさぁ、きらりちゃんをいじめたら……特にケータイ壊すとか、やっちゃダメだよぉ……?うぷぷ)
今となっては時代遅れの代物であるガラパゴスケータイのボタンを指で軽やかに押しながら、
江ノ島盾子はランサーへの念話を欠かさない。
(いや、アタシはケータイ壊してもいいと思うよぉ?でもきらりちゃんはどう思うかなぁ?きらりちゃんのサーヴァントもどう思うかなぁ?
いやアタシはいいけどねぇ、ランサーが多分勝つと思うからぁ、アタシは別にいいけどねぇ)
言うまでもない牽制だ、
江ノ島盾子の物ではなく、
諸星きらりの携帯電話を破壊することの危険性などランサーはわかりきっている。
どう考えても長期的に考えれば、
諸星きらりの携帯電話も破壊したほうが良い。
だが、きらりはともかく、きらりのサーヴァントから見れば――二度と解けない狂気の中にあるバーサーカーから見れば、ランサーは明確に彼女達の敵となる。
江ノ島盾子から携帯電話を取り上げても結果は同じだ。
きらりに返せば、きらりは再び
江ノ島盾子に自分の携帯電話を渡す。
奪ったまま返さなければ、きらりは異変を悟り――バーサーカーが動き出す、かもしれない。
いっそ、
江ノ島盾子の腕の方を刺すか。
いや、その場合でもバーサーカーはどう動くかわからない。
きらりはバーサーカーを制御出来てはいない、彼女が怯えるのに応じて――その原因を絶とうとするかもしれない。
つまりは、きらりと
江ノ島盾子が会ってしまった時点で――そして、
諸星きらりのサーヴァントがバーサーカーである時点で詰んでしまっていた。
江ノ島盾子が掲示板を開く。
彼女が
輿水幸子を散々に煽った時よりも、スレは増えている。
その中で
江ノ島盾子は『きらりさん、見てますか』というスレッドに着目する。
きらりさん、見てますか
名前:名無しメイデン[SUPER_Kitakami_sama@] 投稿日:20XX/0X/XX(X) XX:XX:XX ID:OixKtkm0
ここで名前を明かすのは危険が伴うと思うので、私の名前は伏せさせてもらいます。
私は、きらりさんのことをよく知っています。
私はきらりさんが、心優しい貴女が、他のところで言われているようなことをする人だとは思えません。
何かの間違いだと信じています。
もしかして、きらりさんが本当に関わっているとしても、なにかの理由があったのだと思います。
もし、可能ならば、連絡をいただけませんか?
逢って、貴女がどんな状況なのか、聖杯戦争をどう思っているのかが聞きたいです。
ここには書けないこともあるだろうから、私の名前の隣に書かれているメールアドレスにメールをください。
私の情報がきらりさんにばれてしまいますが、私は、貴女だけは信頼しています。
だから平気です。
なのでお願いです。
私に、話を聞かせてください。
最後に。
私のメールアドレスにメールが来なければ。
貴女が聖杯戦争に巻き込まれていなければ。
それほど嬉しいことはありません。
心優しい貴女と戦いたくはありませんし、貴女にはこの戦いなど知らず笑っていて欲しいから。
この書き込みへの返信がないことを、心から祈っています。
大切な友人へ。
大切な友人より。
愛をこめて。
(いい話だね、ランサー……アタシ、きらりちゃんに友達がいて……本当に嬉しいよ、うぷ、うぷぷ、うぷぷぷぷ)
江ノ島盾子の背後に回ったランサーがスレッドの文面を覗き込む。
諸星きらりに友人がいるならば、
諸星きらりを支えてくれる友人がいるのならば、優しくしてくれたクラスメイトが殺されても――優しく励ましてくれる友人がいるのならば、
ランサーの肩の荷は下りる。
諸星きらりを壊すこと無く、
江ノ島盾子を殺害できる。
(それが本当ならね)
それが本当ならば。
(具体性が一切無い、きらりちゃんに会ったこと無くても、この程度でいいなら、この程度ならアタシのソースだけで……いや、見なくても十分書ける。
これならまだ、『やめてください!怒りますよ!』って即レスした誰かの方がよっぽど信用できるね。まぁ、今のきらりちゃんなら間違いなく信じちゃうけどね)
『本当に、
諸星きらりには大切な友達がいるのかもしれない……その大切な友達は、自分の計画を破壊するかもしれない。
だから、些細なことを大げさに喚き立てて、そういう可能性を諦めさせようとしている』
(急に口数が多くなったね、姫河ちゃん……そういうところ、アタシ好きだよ。
特に、このスレッドのことを一ミリも信じてないのに、アタシに圧力を掛けるためだけに、きらりちゃんに大切な友達がいるってことを事実にしようとしているところ、それ大好き)
『真実を言えば、私にもどちらかはわからない。でも…………今はっきりと、私にはあなたの怯える心の声が聞こえている』
(……なんて言ってる?)
『どうか、このスレッドが嘘っぱちでありますように』
(……うぷ、うぷぷ、うぷぷぷぷぷぷ)
瞬間、
江ノ島盾子がケータイのボタンをピアノを弾くように動かし始める。
きらりさん、見てますか
2 名前:
諸星きらりの友人[] 投稿日:20XX/0X/XX(X) XX:XX:XX ID:mrbsKRL0
今からきらりちゃんと一緒に小学校に行きます。
信じてもらえないでしょうが、本当です。
校門で待ってます
軽やかに『きらりさん、見てますか』スレッドにレスを返すと、
江ノ島盾子はスレッドの一覧を更新する。
特に新着スレッドは無い、レスも増えてはいない。
それを確認すると、ブラウザの履歴を消して
江ノ島盾子はきらりに携帯電話を返した。
(うん、怖いよ。怖いから、はっきりさせようよ)
「きらりちゃん、小学校行かない?」
(もちろん、見え見えの罠っぽい誘いだから誰も来ないかもしれない……
でも、見え見えの罠にわざわざ突っ込んでくるような王子様がいたら……きらりちゃんも小雪ちゃんも……ハピハピできるに☆)
◇
黒髪黒目顔の多いこの学校において、彼女の容姿が目を引くことはそれ程不自然なことではない。
まじまじと見られることも、先ほどの教室でたっぷりと――きっと、一生分味わった。
だが、今が聖杯戦争の最中で、己を見るその瞳の中に驚愕の念が篭っていたならば、それは、疑う材料として十分に値する。
最悪だとも好機だとも考えるよりも先に――アサシンが霊体化を解いて、その姿を現す。
マスターの不興を買うことを覚悟で、この場の敵達を全員皆殺しにする。
自分【プライド】には、それが出来る。
「待って」
戦いを止めたものは、プライドの虐殺でも、
フェイト・テスタロッサが咄嗟に構えたバルディッシュでも、未だ姿を見せぬ
フェイト・テスタロッサのサーヴァントでもない。
アリスの手により屍鬼として再誕した少年だったものが、その姿を変える。
少女がいる。幻想の中で語られるのが似合うような、少女の完全性がそこにいる。
青いワンピース。腹部を覆うほどに大きい、エプロンのような白いリボン。
頭にリボンを冠したさらさらと流れる金髪、触れれば破れてしまいそうな薄くて白い肌。
そして、金色の目。人間を惑い、滅びへと導く者の目。妖魔の目。
第三勢力であると、アサシンは感じた。
彼女が
フェイト・テスタロッサのサーヴァントであるのならば、そもそもこの場所に
フェイト・テスタロッサが姿を現す必要はない。無駄にリスクを増やすだけだ。
そして、フェイトも彼女を警戒している。
故に、アサシンもフェイトも動けない。
戦場に三勢力があって、完全なる一対一対一は難しい、そもそも――そうしてやる必要はない。
一対一を行えば、残りの勢力は勝利した方を潰すか、あるいはそもそも戦いに巻き込まれないように逃走する。
全員を巻き込めば、大抵は二対一だ。
この場にいる全員を敵に回して、アサシンは勝利できるか。
マスターの命を度外視すれば可能、とアサシンは心の中で結論付ける。
そして、アサシン【セリム・ブラッドレイ】がその選択肢を取ることはありえない。
「…………」
庇うようにしてアサシンは知世の前に移動する。
ちらりとアサシンは知世の方に振り返る。不安気な、しかし意思のある瞳だ。
彼女がこれから何をしようとするか、十分に予想出来る。
「フェイトさん、新しく現れた方、私、
大道寺知世に戦うつもりはありません」
交渉だ。
少なくともこの状況下においては、戦闘を行わないというのは悪手ではない、もっとも最善手でもないが。
アサシンは、特にマスターを隠匿しなければならない。
本来の力を発揮出来るなら、あるいはマスターが並以上の魔術師ならば、プライドは他のサーヴァントに遅れを取ることはない。
だが、自分の力がアサシンという枠組みにある中で、そしてマスターが魔術師ですらない一般人である状況下で、正面から戦えば、敗北する可能性は高い。
故に、正体を隠さなければならない。常に自分が攻める側でなければならない。ガラスの剣は鋭くても、脆い。
「……」
アサシンから視線を逸らさぬままに、フェイトはバルディッシュを下ろす。
何も言わないが、交渉の卓に着くという意思表示だろう。
(ランサー、わたしたちが戦えば、勝てる?)
『ごめんなさい、諦めた方がいいわ』
答えはわかりきっていたが、念のためランサーに確認しておく。
ランサーの宝具は、この聖杯戦争において最強と言っても過言ではないだろう。
だが、強すぎる宝具に対してランサー自身は弱くはない、だが強くない。
二人のサーヴァントを相手に決して負けはしないだろう、だが、勝てない。
乱戦になってしまえば、ATフィールドという最硬の盾の中に
フェイト・テスタロッサを隠すことは出来ない以上、
その内に、フェイトという剥き出しの心臓が狙われて、終わる。
先手を取って、
大道寺知世を撃てていれば――と思わずにはいられない。
けれど、アサシンの顕現を許すほどに躊躇してしまった。
そうだ、躊躇した。
ほんの少しだけど、普通の女の子のように振る舞えた時間を壊すことに。
小学生という偽りの身分を放棄することに躊躇してしまった。
――ともだちに、なりたいんだ……
フェイトの脳裏になのはの言葉が過ぎる。
欲しいのはともだちじゃない、と何度も心の中で繰り返す。
「なっなっなっなっなっなっ、なにが起こってんだよ!!!」
四人の――いや、今となっては残り3人の小学生の一人、権田原
ジェノサイド太郎が叫ぶ。
目の前の状況が何一つとして理解できないが、少なくとも大変なことになっているのは理解できる。
そして、この状況は死神様のような――教師では解決出来ないような問題であることも理解できる。
それだけだ。それ以外は何一つとして権田原
ジェノサイド太郎も他の小学生も理解できない。
そんな彼らの様子を見て現れた少女が微笑みかける。
思わず赤面する。顔が――体全体が熱い。
頭がぼんやりとして上手く働かない。
視界が霞む、少女のことだけははっきりと見えている。少女以外見えない。
――マリンカリン。
魅了の呪文が、小学生達の心に刻み込まれた。
少女は今見たことを何もかも忘れて教室に帰るように命じた、小学生達は素直に従った。
愛する者に従う喜びを、小学生の時点で理解してしまった彼らのことは、もうどうでもよい。
「……これで、たっぷりランデヴーできるね」
少女が小学生を帰らせるのを見て、他の者も立ち位置のわからない彼女が交渉の卓に着いたことを理解した。
「はじめまして、ワタシはキャスター」
あるいは、彼女はこう呼ばれるべきであろう。
【怪異 死神様 が一体出た!】
◇
Now we dance looby, looby, looby.(さあ踊りましょう ルビルビルン)
Now we dance looby, looby, light.(さあ踊りましょう ルビルビルン)
Now we dance looby, looby, looby,(さあ踊りましょう ルビルビルン)
Now we dance looby, looby, as yesternight.(さあ踊りましょう 昨日の晩と同じように)
くるくると踊っている。
少女が二人踊っている。
手を繋いでくるくると踊っている。
世界はひたすらに渺茫で、そして彼女達以外人間は存在しない。
そこは遊園地だった、表の世界に存在するものではない。
かの最果ての町と同じだ。
死神様はこの街の小学生に思い出させた、近代科学の光でも照らしきれぬ闇があることを。
一笑に付すような儀式で、友人は死んでしまうことを。
幼い激情は容易く人を殺す狂気に陥ることを。
死神様は実在する。
殺人に至る悪意も実在する。
ならば何故、他の怪談が実在しないと言える。
死神様以外の誰かがいるかもしれない、何かがあるかもしれない。
それは夜に歌う人体模型かもしれない。
それは車に轢かれて人間を憎んでいる化け猫かもしれない。
それは火を吹き踊るように跳びはねる怪人かもしれない。
それはチェーンソーを持った決して捕まることのない殺人鬼かもしれない。
もしかしたら、三階のトイレの三番目の個室を三回ノックしたら花子さんから返事が返ってくるかもしれない。
もしかしたら、学校のある階段を夜中に昇ると異次元に繋がっているのかもしれない。
もしかしたら、誰もいない音楽室からピアノが聞こえるかもしれない。
もしかしたら、美術室のモナリザは人間を食らうかもしれない。
4時44分に大鏡の前に立つと鏡の中に引き込まれるかもしれない。
最上階から、さらに上に繋がる階段があるかもしれない。
誰もいない空き教室を十三回ノックしてから開けると異世界に繋がるかもしれない。
だって死神様が実在するのだから。
だから、繋がった。
学校と『不思議の国のアリス』は繋がった。
本来ならば別の場所にあるはずの『不思議の国のアリス』の異世界への入口は、
死神様という噂と蘇った学校の怪談によって、学校へと移った。
『不思議の国のアリス』は学校と重なり合う。
長休みの時間、キャスターは未だ完成しない遊園地で踊っていた。
見えている。聞こえている。
キャスターは、新手のマスターとサーヴァント、そして
フェイト・テスタロッサを屍鬼だった
アリスを通して認識している。
屍鬼とは――動く死人の形で再構成された
アリスだ。
魔力で以て構成されている
アリスの感覚器官だ。
故に、その姿形は元の死体よりもむしろ
アリスが相応しいといえる。
「おともだち増えるといいな」
「おともだち増えるといいな」
「頑張ってあいちゃん」
「頑張ってあいちゃん」
◇
『さくら、サーヴァントが出現しました』
急激に燃え上がり鎮火した一瞬の殺気、それをセイバーは感じ取った。
どうやら戦いには至らなかったらしい、だが未だサーヴァントは顕現したままだろう。
既に校内に侵入している以上、先程の輩よりも危険だ。
もしも戦いが起これば、今度は確実に学徒に被害が生じる。
(場所は!?)
『上……この様子だと屋上です』
教室から飛び出して、
木之本桜は一気に駆け出す。
この状況下で廊下を走ってはいけないという
ルールは守れなかった。
このまま自分が行くまで何も起こらないことを願わことしか出来ない。
誰かが傷つくかもしれない、自分にとって大切な誰かか、誰かにとって大切な誰かが。
屋上へと続く階段の前。
不意に温もりを感じた。
実体化していたセイバーが桜に手を重ねている。
桜はセイバーの手を握る。
『さくら、貴方はここまでです』
「えっ」
セイバーの言葉に、念話で返すことは出来なかった。
『はっきりと言います、私は貴方を守りながら戦えない』
「……っ」
どうしようもない事実である。
先程の戦いにおいて、桜がセイバーの弱点となっていたのは明らかだった。
最終的に彼女が敗れた原因となったのは、彼女自身の病である。
しかし、桜がいなければ――あるいは、病よりも疾く薔薇のアーチャーを撃てたかもしれない。
『だから、さくら……貴方は、あいを探しなさい』
(あいちゃん……?)
今、屋上にいるのはそのものずばり
蜂屋あいとそのサーヴァントであるかもしれない。
というよりその可能性のほうが高いだろう。
だが、もしもそうでないのならば――桜は別行動で援軍を連れてくることが出来る。
あい自身が戦いに巻き込まることを望まないにしても、少なくとも桜を邪険に扱うことはない。
『私は貴方を守れない、しかし貴方がしなければならないこともある。
あいは今何が起こっているのかわからないのかもしれない、だから貴方が伝えなければならない……お願い出来ますね』
(……うん、任せて!)
『そして、もう一つ……私が斃れても貴方は貴方自身の力で、貴方の友達を守らなければならない、わかりますね』
(うん……)
結局これはただの方便かもしれない。
ただ、この戦場において――
木之本桜はただの少女だった。
だから、十全の信頼を受けたような顔をして、自分が出来ることのために駆け出した。
振り返らず、セイバーは進む。
桜の思いと同じように、彼女もまた桜を守りたいと思っている。
だから、彼女一人でも戦う。
階段を昇る。
彼女は光を見た。
◇
『きらりさん見てますか』スレッドの最新書き込み。
きらりと共に小学校へ向かうというレスを見て、
双葉杏は大いに溜息をついた。
こんなもの誰が信じるというのだ。
正気の精神をしているのならば、こんなあからさまに怪しい書き込みを信じるはずがない。
まだオオアリクイに夫を殺された未亡人の存在のほうが信じることが出来る。
そして
双葉杏は自分でも理解している。
今の自分は正気ではない。
絶対に絶対に絶対に嘘であると自分の理性が判断している。
それでも、と。
それでも、もしかしたら、と思わずにはいられない。
絶対に有り得ないことだとわかっていても、それでも――きらりのことなのだ。
刹那に近い可能性であっても、それでもきらりの事であるのならば、切り捨てることが出来ない。
だって、きらりが――あの優しい女の子が今、傷ついているのかもしれないのだから。
なんて面倒くさい状況に自分はいるのだろう。
このままお家に帰って、だらしょうがないのだだらしていたい。
ああ、そうしたい。
アイドルも辞めたい。
聖杯戦争も辞めたい。
ああ――でも、しょうがない。
自分は本当に、こういう状況で、
きらりのことだけは面倒くさがれない。
「やっぱ、小学校に――」
そう言おうとして、窓の外にあるものにきらりは気づく。
反対車線を挟んで歩道を歩く3人の少女、その中でどうしようもなく目立つ、身長の高い少女。よく知っている少女。アイドル。
「ここで降ろして!!」
叩きつけるように料金を放って、杏はタクシーから降りる。
「きらり!!」
向かい側を歩く
諸星きらりに、杏は思いっきり叫ぶ。
「杏ちゃん!!」
この時間帯の交通量は少ない、いとも容易く彼女は道路を渡りきって、きらりは杏を抱きしめた。
「きらり……元気そうで良かった、本当に良かった……」
「杏ちゃん……良かった……良かったよぉ」
きらりは泣いた。
喜びに泣いた。
少しずつ取り戻されていく優しい世界の欠片に泣いた。
「きらり……そろそろ……離して……」
(ニェーーーーット!!きぃらり! 何故抱き合ってますか!? ここは路上です! ラブホの一室じゃないです! バカタレ!?)
その様子を見て、
江ノ島盾子は姫河小雪に目の前の様子を揶揄するような念話を送る。
『……
江ノ島盾子、あなたはもう用済みよ』
(用済み……?違うぽん、
江ノ島盾子はここからが本番だぽん。だって……アタシ、これを待ってたんだから)
きらりと杏に心の底から優しげな微笑みを投げかけてやると、
江ノ島盾子は再び言葉を発した。
(好きなんだよね、アタシ。友情とか愛情とか、そういうのをぶち壊しにしてやるの。
ねぇ、今のきらりちゃんいい表情してるよね。希望に溢れたいい……笑顔です。だから、絶望はより深くなる)
嗤っている。
今、姫河小雪と対峙する
江ノ島盾子はどうしようもないほどに嘲笑っていた。
(超得意だよアタシ。友情破壊とか、そういうのね。
もちろん、あの小さい子を殺してアタシに縋り付くしか無い……ってところまで追い詰めてもいいけど。まぁ、そういうわけだから、小雪ちゃん。
こっからが本番だから、がんばれ♡がんばれ♡ )
ず り し ま じ ゅ ん こ
◇
「やれやれ本当に何を考えているんでしょうね!こんな書き込みに騙されるわけないじゃないですか!」
輿水幸子もまた、その書き込みを見ていた。
一笑に付すべき内容である、信じられるはずがない。
きらりさん、見てますか
3 名前:名無しメイデン[] 投稿日:20XX/0X/XX(X) XX:XX:XX ID:ksmzsciO
証拠がない書き込みは信用できませんよ、いたずらはやめてください
正論を書き込んだ後で、幸子は猛烈な不安感に駆られた。
しかし、もしかしたら真実かもしれない。
杏は、これがきらりのことだから無視出来なかった。
だが、幸子は己の善性が故に、立ち返って不安感に襲われる。
もしかしたら本当にきらりさんの友達かもしれない、きらりさんと一緒に小学校に行くのかもしれない、
今、困っているきらりさんを一緒に助けたいのかもしれない。
名前を明かせないのは当然だ、今この場所で聖杯戦争の真っ最中だからだ。
メールアドレスだって、そうそう簡単に明かせるものじゃない。
いや、ただ打ち込み忘れただけなのかもしれない。
色々と否定的な感情を打ち消すような案を頭のなかに思い浮かべて、自分に言い訳を重ねる。
結局のところ、幸子は善人で――そして、誰かを信じたかった。
どう考えても、信じられないような書き込みも、本当はハッピーエンドにつながっていると信じたかった。
自分へのいじめやきらりへの攻撃で奪われたものを、本来なら世界に満ち溢れているべき優しさで取り戻したかった。
「……」
再度、携帯端末を取り出して、幸子は再びレスを書き込もうとして、指が止まる。
結局、自分が信じたいだけで、書き込み自体は間違っていない。
【でも、やっぱり信じます】と書き込めない。
ドッキリという笑って終えることが出来る嘘に巻き込まれることと、悪意ある嘘に巻き込まれることは違う。
騙されるのは辛い。
馬鹿を見ることが嫌なのではない、自分の心を踏み躙られるのがどうしようもなく辛い。
どうしようもないこんな書き込みを、どうしようもなく幸子は信じたい。
でも、信じられるわけがないと幸子は自分ではっきりとわかっている。
だから、幸子はどうしようもなくなって駆け出した。
結局、行けば分かる。
そう思って、幸子は小学校へと向かった。
輿水幸子はアイドルで、どうしようもなく普通の少女で、
だから、今まさに殺し合いに巻き込まれていることが、別の国の戦争のように、遠くに感じられている。
◇
The nightingale sings when we’re at rest;(ナイチンゲールが鳴きだせば)
The nightingale sings when we’re at rest;(ナイチンゲールが鳴きだせば)
The little bird climbs the tree for his nest,(小鳥たちが木の上の巣に上る)
With a hop, step, and a jump.(ホップ ステップ ジャンプして)
「私の合図でさぁ、飛んで」
「ワタシの合図でさぁ、飛んで」
◇
大道寺知世とアサシン、
フェイト・テスタロッサ、
アリスは小学校の屋上へと場所を移した。
人目を避けられるという単純な理由もあるが、出入り口が一箇所しかないために、単純に逃亡がし辛いのだ。
人目を避けるためという理由を付けて屋上に上がることを提案したアサシンは、最悪の場合には二人のサーヴァントを殺すつもりであった。
そして屋上に辿り着いた途端、
フェイト・テスタロッサもまた、気づいてしまった。
この状況下にあれば、確実に他のサーヴァントを殺せる方法を。
そうなれば、もう二度と小学校にいることは出来ない。
だが、あり得るはずのない友情と平穏、良心の痛みとちっぽけな希望を対価に早期の内に二騎を潰せるのならば、
たったそれだけで、母の願いを叶える事ができるのならば、何を望むものか。
アリスは考えない。
キャスターの手駒――いや、捨て駒としての役割を果たすだけだ。
未来のヴィジョンは明確に見えている。
結局、どうなろうとも――おともだちは増える。
全員が卓の下に刃を隠していた。
つまるところ、言葉を刃として振るう方法は誰も知らなかった。
大道寺知世とアサシンは出口付近に、
フェイト・テスタロッサは落下防止用のフェンス付近に、そして
アリスは屋上の真ん中に。
三組は三角形を作るような位置取りでそれぞれ立っていた。
知世が出口付近に――つまり、すぐに逃げ出せる位置にいることに、不思議と二人からの反発は無かった。
その反応からアサシンは用心を深める。
「まず、初めに言っておきます」
言葉を発しようとしていた知世を遮るようにして、アサシンが先手を取る。
「
フェイト・テスタロッサ、君のサーヴァントをこの場所に呼び出して下さい。
姿が見えなければ、不意打ちに脅えながら、会話をするつもりはありませんからね」
「……そんなことするつもりはない」
「私達だって別にあるとは思っていませんよ、ただ……これは君のための提案でもあります。
全員がサーヴァントという剣を持ってこの場所にいます、そんな中ただ一人丸腰でいろというのはあまりにも残酷でしょう。少なくとも、見かけだけでも平等は守るべきでしょう」
「ふうん、じゃあワタシはマスターを呼んだ方がいいんじゃないかな?」
アサシンとフェイトの会話に割り込むようにして、
アリスが声を掛ける。
「マスターは私達サーヴァントにとって、心臓のようなものです。
それを剥き出しにしろとは言えません、もちろん……今こうしてこの場所にいる以上、マスター、
大道寺知世と
フェイト・テスタロッサはこの場所にいてもらいますが」
勿論、アサシンとしては
大道寺知世を逃したい意思はある。
だが、自分が
大道寺知世を守りつつ戦うリスクと、未だ得体のしれぬ小学校にマスターを一人で解き放つリスクを天秤にかけ、どちらが重いとも判断しきれない。
だからこそ、表面上は交渉の場に居る方がマシだと思うしか無い。
「……ランサー」
「……」
フェイト・テスタロッサに寄り添うようにして、ランサーが顕現する。
柄が螺旋に捻れた二股の槍を構えた少女だ、身体能力が高そうには見えない。
だが、全員がわかっている。
アサシンが少年の容姿であるように、
アリスが少女の容姿であるように、
サーヴァントとして呼ばれるような存在の実力を外見から判断するのは非常に難しい。
「さて、何度もくり返すことになりますが、マスターに戦闘の意思は無く、君……
フェイト・テスタロッサを捕らえるつもりはない。マスター、そうですね」
「……はい、フェイトさんが何故、このような状況にあるのかはわかりません。ですが、私はフェイトさんが悪い人のように思えないんです。
ですから、フェイトさんが小学校にいることも誰にも言いません」
大道寺知世から見て、
フェイト・テスタロッサは悪人であるようには思えなかった。
その理由を強いて上げるのならば、勘だ。
長く生きたわけではない、それでもわかる。
フェイト・テスタロッサの瞳の中には哀切がある。
そして、知世自身もまた――この世界の中で、相手が優しくあることを願っていた。
「私は聖杯が欲しいわけではありません、お願いごとがあるわけでもありません……ですから」
「知世ちゃん、聖杯いらないんだ……じゃあ、ワタシもいーらないっ!」
「聖杯がいらない……?」
聖杯のために争わなければならないというのならば、聖杯を諦めることでこの競争から脱落することは出来る。
それが真実であると知世本人以外には判断する手段はない、
アリスの言葉も同じことだ。
だが、この言葉はこの交渉事においては鬼札だ。
フェイト・テスタロッサは殺さずして、二組の脱落を確定させたこととなる。
理性を超える物を除けば。
心の奥底より湧き出づる暗く熱い感情を除けば。
ああ、そうだ。
フェイト・テスタロッサには母の言葉が全てであり、この聖杯戦争に勝利し、聖杯を手に入れることが全てであり、
自分の望むものが無価値のように扱われれば。
「……私には聖杯がどうしても必要なの」
怒りもしない。
悲しみもしない。
ただ、羨ましい。
自分が血反吐を吐いて手に入れなければならないようなものを、きっと、もう持っている。
「条件があります」
アサシンは
フェイト・テスタロッサの目を見た。人間の目を見た。嫉妬【エンヴィー】の目を見た。
何もかもを持っているように思わせてはいけない。
「死神様と呼ばれる存在が、この聖杯戦争にあります。多分サーヴァントでしょう。
それを捕らえることに協力すること、そして、マスターを無事に元の世界に戻すこと。
そうすれば……私は君……
フェイト・テスタロッサが聖杯を取ることに協力しても良い」
故にアサシンは、感情が彼女を動かす前に、取引を彼女につきつけた。
無理やりにでも彼女の理性を働かせて、正しい選択を取らせてやるのだ。
「あら、ワタシと鬼ごっこがしたいのね」
けれど、駄目なのだ。
一瞬だけ、命と引き換えに、
アリスは出来る。出来てしまう。
「はじめまして、死神様です」
ただの自己紹介で、全てをぶち壊しに出来てしまう。
世界が凍りついたその瞬間を見計らって、
フェイト・テスタロッサは屋上から跳んだ。
アサシンはランサーと死神様、どちらを狙うよりも先に知世を庇った。
死神様は何もしない、ただ嗤っている。
つまり、フェイトの策略は実に単純だった。
屋上から飛行し、上空から――攻撃する。
槍のような魔力弾が降り注ぐ。
ランサーを巻き込むことも構わず、雨のように平等に――全員を撃つ。
魔力弾が着弾し、
アリスが消滅する。
弱すぎるなどと言っている暇は無い。
「小人の影(ホムンクルスシャドウ)!!!」
アサシンの本体たる影が――刃の形状を取って、降り注ぐ魔力の槍を切り払う。
弱い――余りにも弱すぎる。
フェイト・テスタロッサの攻撃はただのめくらましに過ぎないのか?
全てをぶち壊しにしてまで、隙を突いてまでやりたかったことがこれなのか?
そして、ランサーは――魔槍の雨を避けること無く、ゆっくりとアサシンの元へと歩いている。
フェイト・テスタロッサとランサー以外の誰が知るものか、彼女の対魔力を超えし対魔力――心の壁、A.T.フィールド。
拒絶する。それは
フェイト・テスタロッサの攻撃を拒絶する。
常人が駆ける程度の速さで、彼女はアサシンの元へと近づく。
つまるところ、身体能力は高くない。
ならば、一撃のもとに首を刎ねる。
影の刃が鎌の形状を取り、死をもたらさんとランサーの首元に迫る。
それと同時に、複数の影を束ねた刃が彼女の臓物を抉らんと、意趣返しのように槍の形状を取って、ランサーへと迫る。
つまるところ、A.T.フィールドに対し小人の影は勝利出来るか。
そういう勝負であると、アサシンは判断した。
そして、それは間違ってはいない。
彼女が殺すよりも先に、彼女を殺すことは、これ以上ないランサーの攻略法である。
A.T.フィールドを撃ち抜いて、アサシンの影が迫る。
「残酷な天使の運命(ロンギヌス・オリジナル)」
ランサーの槍が、救世主を穿つ者の名を冠する槍が、これ以上ない英雄殺しの槍が、影を穿つ。
屋上という狭い場所、
フェイト・テスタロッサによる一方的な支援砲撃、
支援砲撃を受けながら一切意に介すことのないランサーの対魔力、マスターを守りながら戦わなければならないアサシン、
当たりさえすれば勝利する槍、全てがアサシンそのものである影の攻撃。
アサシンはどうしようもないほどに詰んでいた。
彼は、殺される前に殺しておくべきだった。
その影を用いて、
フェイト・テスタロッサの首を刎ねておくべきだった。
冷血非道なホムンクルスならば容易く行えていたことを、なるべくならば、と
大道寺知世の前で躊躇しようとしていた。
心優しい彼女のために、彼女の手助けを行おうとしてしまった。
故に、彼は。
冷血非道なホムンクルスにはなれなかった。
だが、心優しい少年でも無かった。
プライドでもセリム・ブラッドレイでもなく、
ただアサシンくんであろうとして、彼はこの聖杯戦争より脱落する。
【アサシン(プライドあるいはセリム・ブラッドレイ)@鋼の錬金術師 強制退場】
「アッ……」
何一つ、別れの言葉も言えぬままに――セリム・ブラッドレイは消えてしまった。
相も変わらず無表情の、ランサーと、天に座する
フェイト・テスタロッサを前に、
大道寺知世が出来ることは何もない。
ただ、明らかに
フェイト・テスタロッサはその顔に疲労の色を浮かべていた。
ゆるゆると高度を下げ、再び屋上へと降り立つ。
弱威力とは言え、魔力を放出しながらの宝具の真名解放――普通の魔術師ならば耐えられるわけがない。
「……さよなら」
フェイトは、なるべく無感情であるように呟いた。
ランサーは霊体化し、その姿をもう見せてはいない。
大道寺知世を殺害するのならば、自分で行う必要がある。
銃口を向けるように、バルディッシュを知世へと向ける。
だが、知世に向けて再度魔力弾が放たれることはなかった。
新たに屋上へと現れた乱入者、セイバーへと魔槍は放たれる。
セイバーは魔力の光を見た。
対魔力が最低ランクとは言え、かすり傷程度で済んでいる。
だが、到着した時には、何もかもが遅かった。
◇
「あいちゃん!」
「どうしたのさくらちゃん?」
教室を何部屋も巡って、ようやく桜は音楽室でピアノを弾く
蜂屋あいの姿を発見した。
「キャスターさんはいる!?屋上にサーヴァントが出て、それで……助けてほしいの!」
「……もちろん」
助けてほしい、その言葉を聞いた途端、
蜂屋あいは桜に駆け寄った。
「大丈夫、何が起こってるかわからないけど、私絶対さくらちゃんのこと助けるよ」
――"絶対"に、何が起ころうと、私"が"、さくらちゃん"を"、助ける。
蜂屋あいは絶対にそうするだろう、彼女が望むままに彼女を助けるだろう。
「とにかく……すぐに屋上に行こう?」
『……知世ちゃん、屋上の女の子はワタシが死神様だって知ってるわ……そして、とってもいい子よ。ねぇ、オトモダチにしていいでしょう?』
(どうしようかなぁ……?)
『もう、いじわる。そんなんじゃワタシ、あいちゃんのことキライになっちゃうよ?』
(……大丈夫、嘘だよ。知世ちゃんは新しいオトモダチにしてあげよう?)
『でも、驚いちゃったな……ワタシが死神様であることを明かしただけで、戦いになっちゃうなんて』
(ううん、
アリスちゃんが死神様じゃなくても戦いは起こっていたわ……ただ、ちょっとした、些細な、ささやかなきっかけがあるだけで。
だって、わんこじゃないいじめられっ子は……まだ牙を持ってるんだよ?)
「あいちゃん!はやく!」
「ええ、すぐ行くわ!」
(だって、私も待ちきれないよ。
さくらちゃん……初めて、戦いに負けた女の子を見たらどう思うのか、早く知りたいもの)
◇
フェイトがバルディッシュを
輿水幸子に向けると、勢い良く幸子は両腕を上げた。ホールドアップだ。
「待ってください!ボクはその……つまり、カワイイので!ええ!カワイイんです、わかりましたか!?」
わからなかった。
「つまり、そのボクのカワイさでこの争いを止めたい……そうです、そういうことなのでまずはその斧を降ろし」
予想外の
フェイト・テスタロッサを前に幸子は完全にテンパってしまっていた。
だが、それもそうだろう。
アイドルアニメが始まったと思ったら、何故かアイドルがロボットに乗っているような、それほどに幸子には予想外すぎる展開なのだ。
もちろん、きらりがいないことは予想していた。
だが、渦中の人である
フェイト・テスタロッサが――つまりは、ヤバ過ぎる人が来ることは流石に、幸子のカワイイ頭では予想出来てはいなかった。
「武器を降ろせ」
だが、そんな二人に割り込むようにして、新たな客人が現れる。
地に足を着けながら、二人の少女を天の高みから見下す者。
人類最高峰の天才、プレイヤーにしてゲームマスター、人の身でありながら冥府を統べんとする者。
キャスター、
木原マサキ。
「
フェイト・テスタロッサと……小蝿か、お前の方に用はない、向こうで勝手に死んでいろ」
高校に向かう途中、偶然にも――いや、屋上で打ち上がった魔力の花火は周囲からもよく見えていただろう。
なればこそ、
木原マサキは進路を変えてやって、小学校へと赴いた。
小蝿扱いされた幸子の抗議を完全に無視して、
木原マサキは言葉を続ける。
◇
大鏡から白い人形が現れる。
ああ、噂があった。
4時44分に大鏡の前に立つと鏡の中に引き込まれる。
彼女は執行人なのだ。
鏡の中に人間を引き摺り込むための執行人、
ルールを破りし者への執行人。
罪の名は何だ。
敗北だ。
All the birds of the air fell a-sighing and a-sobbing,(空からは大勢の鳥たちが 悲しみながら舞い下りてきました)
When they heard the bell toll for poor Cock Robin.(あわれなコック・ロビンの 弔いの鐘の音を聞きつけて)
人形が唄う。
彼女のために唄う。
敗北者たる
大道寺知世のために唄う。
皆が皆、歌い踊る。
もはやどうしようもない。
◇
【D-2/小学校・屋上/1日目 午後】
【
大道寺知世@カードキャプターさくら(漫画)】
[状態] 健康
[令呪]残り三画
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] たくさん
[思考・状況]
基本行動方針: 街の人達を守る
1.アサシンくん……
[備考]
※死神様について調べていますが、あまり成果は出ていません
※サーヴァントを失ったため、
ルーラー雪華綺晶に狙われています
【セイバー(
沖田総司)@Fate/KOHA-ACE 帝都聖杯奇譚】
[状態] 疲労(中)、ダメージ(小)
[装備] 乞食清光
[道具] なし
[思考・状況]
基本行動方針: さくらのために
1. 状況を確認する
2. 余裕があれば鞘を取りに行く
[備考]
※使わない間は刀を消しておけるので、鞘がなくてもさほど困りません
【D-2/小学校・音楽室/1日目 午後】
【
木之本桜@カードキャプターさくら(漫画)】
[状態] 疲労(中)、魔力消費(小)
[令呪]残り三画
[装備] 封印の杖、
[道具] クロウカード
[所持金] お小遣いと5000円分の電子マネー
[思考・状況]
基本行動方針: わからない
1. 屋上へ向かう
[備考]
※ローラースケートは学校の裏に置きっぱなしです
【
蜂屋あい@校舎のうらには天使が埋められている】
[状態] 疲労(極小)
[令呪]残り三画
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] 小学生としてはかなり多めの金額
[思考・状況]
基本行動方針: 色を見る
1.屋上へ向かう
2.さくらの色をもっと見たい
3.
江ノ島盾子に強い興味
[備考]
【キャスター(
アリス)@デビルサマナー葛葉ライドウ対コドクノマレビト(及び、アバドン王の一部)】
[状態] 健康、作っておいたトランプ兵は全滅
[装備] なし
[道具] なし
[思考・状況]
基本行動方針: オトモダチを探す
1. さくらに興味
2. サーヴァントのオトモダチが欲しい
[備考]
※学校には何人か、彼女と視界を共有できる屍鬼が存在します
※学校の至る所に『不思議の国のアリス』への入口が存在しています
※不思議の国のアリス内部では、二人のアリスが遊園地の完成を目指して働いています
【D-2/小学校・大鏡前/1日目 午後】
【
ルーラー(
雪華綺晶)@ローゼンメイデン】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:
???
1.
大道寺知世を――
[備考]
※アイドルの物真似が出来ます
※クリエイター(
クリシュナ)の幻想世界(未完成)を確認しました。
【D-2/小学校・校門前/1日目 午後】
【
フェイト・テスタロッサ@魔法少女リリカルなのは】
[状態] 疲労(中)、ストレス、魔力消費(極大)
[令呪]残り三画
[装備] 『バルディッシュ』
[道具]
[所持金]少額と5000円分の電子マネー
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に勝利する
1.
木原マサキに対応する
[備考]
※小学校に通うつもりでいます
【ランサー(
綾波レイ)@新世紀エヴァンゲリオン(漫画)】
[状態] 健康
[装備] 『残酷な天使の運命』
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従う
【
輿水幸子@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]健康、怒り、恐怖(微)
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]中学生のお小遣い程度+5000円分の電子マネー
[思考・状況]
基本行動方針:この聖杯戦争をカワイイボク達で止めてみせる
1.ボクは小蝿じゃありません!
2.
諸星きらりに会う。
3.商店街で起こった事件が気になる。
4.きらりの捜索+事件を見ていたというNPCの捜索を兼ねて別の地区へ。
5.何かあったら輝子の家に避難……?
6.放課後18:00に『エノシマ』と会う。場所はC-3もしくはD-4の予定。
[備考]
※商店街での戦闘痕を確認しました。戦闘を見ていたとされるNPCの人となりを聞きました。
※小梅と輝子に電話を入れました。
※『エノシマ』(大井)とメールで会う約束をしました。
また、小梅と輝子に「安否の確認」「今日は少し体調がすぐれないので学校を休む」「きらりを見かけたら教えて欲しい」というメールを送りました。
【キャスター(
木原マサキ)@冥王計画ゼオライマー(OVA版)】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:冥王計画の遂行。その過程で聖杯の奪取。
1.
フェイト・テスタロッサへの応対
2.高校へと向かう。
3.予備の『
木原マサキ』を制作。そのためにも特殊な参加者の選別が必要。
4.特殊な参加者が居なかった・見つからないまま状況が動いた場合、天のレイジングハートを再エンチャント。『
木原マサキ』の触媒とする。
5.ゼオライマー降臨のための準備を整える。
6.余裕があれば、固有結界らしき空間を調査したい。
7.なのはの前では最低限取り繕う。
[備考]
※
フェイト・テスタロッサの顔と名前、レイジングハート内の戦闘記録を確認しました。バルディッシュも「レイジングハートと同系統のデバイス」であると確認しています。
※天のレイジングハートはまあまあ満足の行く出来です。呼べば次元連結システムのちょっとした応用で空間をワープして駆けつけます。
あとは削りカスの人工知能を削除し、ゼオライマーとの連結が確認できれば当面は問題なし、という程度まで来ています。
※『魔力結晶体を存在の核とし、そこに対して次元連結システムの応用で介入が可能である存在』を探しています。
見つけた場合天のレイジングハートを呼び寄せ、次元連結システムのちょっとした応用で
木原マサキの全人格を投影。
『今の』
木原マサキの消滅を確認した際に、彼らが
木原マサキとしての人格を取り戻し冥王計画を引き継ぐよう仕掛けます。
※上記参加者が見つからなかった場合はレイジングハートに人工知能とは全く別種の『
木原マサキ』を植え付け冥王計画の遂行を図ります。
※ゼオライマーを呼び出すには現状以下の条件のクリアが必要と考えています。
裁定者からの干渉を阻害、もしくは裁定者による存在の容認(強制退場を行えない状況を作り出す)
高町なのはの無力化もしくは理解あるマスターとの再契約
次元連結システムのちょっとした応用による天のレイジングハートへのさらなるエンチャント(機体の召喚)
※街の裏に存在する固有結界(さいはて町)の存在を認知しました。
※アサシン(ウォルター)の外見を確認しました。が、『情報抹消』の効果により非常にぼんやりとしか覚えていません。
【D-3/道路/1日目 午後】
【
双葉杏@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]健康、安堵感
[令呪]残り三画
[装備]
[道具]携帯ゲーム機×2
[所持金]高校生にしては大金持ち
[思考・状況]
基本行動方針:なるべく聖杯戦争とは関わりたくなかったが
1.
諸星きらりとこれからどうするかを話し合う
2.
江ノ島盾子に対してどうするべきか。
3.少女(大井)を警戒。どうするべきか。
[備考]
※大井と出会いました。大井を危険人物(≒きらりスレの>>1)ではないかと疑っています。
【ランサー(
ジバニャン)@妖怪ウォッチ】
[状態]健康
[装備]のろい札
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:なんとなく頑張る
1.
双葉杏に付いて行く
【
諸星きらり@アイドルマスターシンデレラガールズ(アニメ版)】
[状態]精神的疲労(軽)、魔力消費(中)、希望(大)、安堵感
[令呪]残り二画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]不明
[思考・状況]
基本行動方針:バーサーカーを元に戻し、元の世界へと戻りたい
1.杏ちゃん……良かったぁ……
[備考]
※D-4に
諸星きらりの家があります。
※
江ノ島盾子&ランサー(姫河小雪)を確認しました。そして、
江ノ島盾子を信用しています。
※三画以上の令呪による命令によって狂化を解除できる可能性を知りました(真実とは限りません)
※
フェイト・テスタロッサの捕獲による聖杯戦争中断の可能性を知りました(真実とは限りません)
※
ルーラーの姿を確認しました
※掲示板が自分の話題で賑わっていることは未だ知りません
【
悠久山安慈@るろうに剣心(旧漫画版)】
[状態]霊体化
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:
???
[備考]
※
雪華綺晶の存在を確認しました、再会時には再び襲いに行く可能性があります。
※
江ノ島盾子&ランサー(姫河小雪)を確認しました。
スキル『こころやさしいひと』の効果できらりの精神の安定に
江ノ島盾子&ランサーが役に立っていると察知しイレギュラーが発生。狂化中ですが敵意を向けられない限りこの二人を襲いません。
【
江ノ島盾子@ダンガンロンパシリーズ】
[状態]健康、涙で化粧が流れてる、小雪ちゃん(魔法少女育成計画最序盤)の真似中
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]大金+5000円分の電子マネー(電子マネーは携帯を取り戻すまで使用できません)
[思考・状況]
基本行動方針:絶望を振りまく
1.
諸星きらりをプロデュース!
2.放課後になったら、
蜂屋あいと会う
3.ケータイ欲しい……ケータイ欲しくない?
[備考]
※
諸星きらりを確認しました。彼女の自宅の位置・電話番号・性格なども事前確認済みです。彼女が掲示板に目を通してないことも考察済みです。
※自身の最後の書き込み以降のスレは確認できません。
※数十分、もしくは数時間、あるいは数日、ひょっとしたら数年は同じキャラを演じ続けられるかもしれませんし、続けられないかもしれません。
※ランサーのスキル『困った人の声が聞こえるよ』に対して順応しています。順応に気付いているかいないかは不明です。動揺しない限り尻尾を掴まれることはないかもしれません。あるかもしれません。
【ランサー(姫河小雪)@魔法少女育成計画】
[状態]実体化中、健康、絶望(微)、ストレス
[装備]ルーラ
[道具]四次元袋
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:出来る限り犠牲を出さずに聖杯戦争を終わらせる。
1.
江ノ島盾子と
蜂屋あいの再会時に
蜂屋あいのサーヴァントを仕留める。
2.出来ることなら、
諸星きらりに手を貸してあげたい。
[備考]
※
江ノ島盾子がスキル『困った人の声が聞こえるよ』に対応していることに気づきました。
※
諸星きらりの声(『バーサーカーを助けたい』『元いた世界に帰りたい』)を聞きました。
彼女が善人であることを確信しました。
最終更新:2020年06月28日 00:16