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Q -Question-   ◆EAUCq9p8Q.


☆ 輿水幸子

  悪夢を見ていたんだと思う。目が覚めてしまえば思い出すことも出来ない、影のような悪夢を。
  どろりとしたものから意識が抜け出す。
  ぐわりぐわりと頭の中が伸び縮みする感覚は、あまり良くない睡眠を取った時特有のものだ。
  頭のてっぺん寄りの部分がじくじく痛む。
  痛みに従い、鼻の奥と喉の奥に違和感が広がる。
  口の奥が水分を求めあい、お互いにべったりとひっつく感覚で、喉が乾燥してしまっているんだと分かった。
  そこから、意識がだんだん明らかになる。
  水が飲みたい。喉が乾いたままだとアイドル活動に支障が出そうだ。
  体を動かそうとしても、思うように筋肉が動かない。凍えてしまったみたいにカチコチだ。
  うんうん唸りながらようやく身を起こすと、傍に何かがガバッと動いた。

「お、起きた!?」

  少しだけ、聞き覚えのある声だった。
  声の主はどたばたと動き回り、なにをひっくり返したのかガッシャンという轟音を響かせ、そして静寂が戻ってきた。
  一秒、二秒、三秒。

「おいおい、すごい音だけどなにがあった」
「たすけて」
「うーむ、芸術的な生花だ。オブジェとして飾っておこう!」
「たすけて、たすけて」
「おっと、この大根喋るぞ!」
「ひょっとしてだけど、これ、玲の姉ちゃんなんじゃ……」
「はっはっは、まさかだよ。あの玲ちゃんがこんなドッグゴッドハウスなポーズでイェイイェイしてるものかね」
「じゃあ試してみるよ。えい」

  香ばしいソースの匂いが漂う。
  ぐー、と大きなお腹の音が鳴る。

「なんと、玲ちゃん! 何故生花の真似なんかを!」
「たすけて」
「よーし、うら若き乙女の両足をしっかり握って自分の方へ引き寄せるプレイだ!」

  喉の乾きより気になる会話に、自然と目が開いてしまう。
  開けた視界の先では、どうやったのか棚に上半身が突き刺さった少女と、彼女の下半身を引っ張る人だかりがあった。
  ヤイサホーヤイサホーという叫び声。びくともしない少女の下半身。
  悪夢がどうとか喉の乾きがどうとかそういう言葉を飲み込んでしまうよくわからない状況に、流石の幸子もただ見つめ続けることしか出来なかった。




「先ほどは、お肉欲しいところを見せまして」
「……お見苦しい、なのでは?」
「うーん、惜しかった!」
「言うほどだと思いますよ」

  無事にはちみつ色の髪の毛の少女(玲、と呼ばれていた)の救出に成功し数分。
  アレク輔と呼ばれたリーダー格の青年率いるマルサというらしいグループの少年少女は、玲を引っこ抜いたあとで棚からお菓子をいくつか取って遊びに行ってしまった。
  秘密基地に残ったのは、幸子と玲だけだった。
  幸子はぼんやりと、玲を見つめる。
  泣いていた幸子を見つけてくれて、幸子の手を引いてくれた少女。聖杯戦争の参加者の少女。
  聖杯戦争について考えると、頭の中でいろいろな情景がよぎっていく。
  他の参加者とのやり取りのこと。戦闘のこと。戦闘とは全く関係のない日常のこと。
  どんな情景を浮かべても、最後に思い出すのは輝子のことだった。
  この先どれだけ後悔を重ねても埋めることの出来ない不完全な別離と、望まぬ結末のことばかりだ。

「……なにか、あったんだよね」
「……」

  答えられない。
  口に出せば、その言葉が幸子の胸を刺し、その場に縫い止めてしまうと思ったから。
  黙る幸子を見て、玲はうーんと考え込んで、ゆっくりゆっくり話し出す。

「私もさ、なにかがあったんだと思うんだ」

  『なにか』というぼかした単語がもう一度口にされる。
  だが、幸子が抱きしめて泣いていた『なにか』に対して、玲が抱いている『なにか』は随分おぼろげなものだった。

「目が覚めて、ここに居て。それが普通だった。
 ここは、暖かくて、楽しくて、安心できて、とっても素敵な町で。ずーっと、ここで暮らしていければ、それが一番の幸せかもって思うんだ。
 ……でもね、私の心のどこかがね、時々ふっと、『なにか』を探すの」

  人々の行き交う大通りに。
  逆さまの町並みに。
  力の集う坂のどこかに。
  渦巻く海の奥深くに。
  葉桜並ぶ道のその先に。
  紅葉舞う神社の流れ星に。
  夕暮れの商店街の向こう側に。
  どこかにあるかも知れない『なにか』を、玲の心が探し、玲自身がぼんやりと目で追ってしまうのだと言う。

  あまりに鮮烈でどこまでも痛切な幸子の喪失とは真逆の、穏やかで、緩やかで、なだらかな、夢の中に置いてきてしまったような喪失。
  玲もまた、『なにか』を失い、迷っている。

「そして、私の心が『なにか』を探すそのたびに、頭によぎる言葉があるんだ」

  ゆっくりと、静かに、しかし確かに紡がれるのは、楔。

「『これでいいのか』」

  安寧の町で暮らす玲に、彼女の心は問いかける。

「優しい男の人の声が、そう、聞いてくるの。
 玲、君はこれでいいのか、って」

  薄く笑みを浮かべるみたいなのんびりとした表情と、のんびりとした語り口。
  でも、そこには、幸子よりも随分大人な横顔があった。途方に暮れる幸子の一歩先で、佇む少女の顔だった。



  振り返ってみれば。輝子を失い、幸子もまた、ひたすらに、『なにか』を探していた。
  歌を聞かせてくれた歌姫にも手を引き守ってくれた玲に問い、自身の心に渦巻く後悔や憤怒や憐憫や絶望の奥に隠れている『なにか』を探していた。
  目の前の少女の笑みが、陽光のように輝いて見えるのは、きっと、幸子が探す『なにか』に一歩だけ近いから。
  その『なにか』は、きっと、答えだ。
  自分の向かう先、たどり着く場所の、答え。
  ひっくるめた過去の、広がる未来への、どうしようもない現在での、答え。
  幸子が得た答えは希望もなにもない喪失だった。輝子を失ったという結果だけが墓標のように突き刺さる、無骨な答えだった。

「これでいいかどうかなんて、誰が教えてくれるんですか」

  思わず口を突いて出た問いは、幸子の胸の内で暴れる傷跡が放つもの。

「結局、答えなんてないんですよ!
 誰かの出した答えが正解だとは限らない! 誰かの答えが、誰かを傷つけるだけかも知れない!
 だったら、本当にこれでいいかどうかなんて、誰にも―――!」

  輝子は、きっとあの時、迷わず答えに向かっていたんだろう。
  幸子を守るというその一点に向けて、迷わず飛んでいけたのだろう。
  でも、その答えは正解だったのか。輝子にとっての答えは、幸子にとっての正解だったのか。
  誰かを守るために散らす命は尊いのか。
  そんなわけがない!
  誰かを守れなくたって、泥まみれだって、生きて、笑って、横に居てくれる方が絶対にいい。
  失われた命では、この胸に空いた穴が埋まることはない。少なくとも、輝子の答えは幸子にとっての正解からは遠い。
  納得も、理解も、追いつかない。

「私も、なにが正解かなんて分かんないなぁ」
「じゃあ……ッ!」
「でも、分かんなくてもいい……んじゃないかな?」

  玲の言葉に、次いで吐こうとしていた幸子の言葉が止まる。
  てっきり、玲は答えを見つけ、その答えに従って進んでいるのだと思った。なのに。

「これから先、いつかどこかで『なにか』に出会って。『玲、君の答えは間違ってたんだよ』って言われても。
 ここで食べたご飯が美味しいこととか、桃本やマルサの皆と一緒に居たのが楽しいことまでは変わんないから。
 昔のことはわかりませんが、今は幸せなので! きっと明日の私から見ても、昨日の私は幸せです!」

  それは、先に出た言葉で言うならば、答えではなく納得だった。
  玲は納得している。答えのない世界で、自分の今に納得している。
  幸子が輝子のことを後悔し続けるのは、納得していないからだ。
  あの場面で手に入れたかった正解は、二人で生き延びることだった。
  でも、もしも幸子が戦うことを選んでいて、たどり着いていた結末がそれでも輝子を守れなかったり、逆に幸子が倒れたり、二人共倒れだったり、そんな正解から外れた結末だったとしても、きっと幸子は今ほど自分に問うては居なかった。
  幸子がひたすらに責めているのは、結局、『あの時自分に従い行動できなかった自分』だ。
  『これでいいのか』。
  胸の内の問い。この場の答えがその場で正解かどうかなんて分からない。でも、そこに納得がアレば。

「正解じゃなくても、間違いじゃない」
「うん、たぶんそれ!」

  玲は幸子の呟きににっこり笑って答えた。
  玲が自分にぽっかり空いた穴のことまで晒して幸子に伝えたかったことと、幸子が受け取った答えが合っているかは分からない。
  ひょっとすると玲はくよくよすんなよと言いたかっただけかもしれない。
  深い意味などなく、自身の傷と同調させることで幸子の傷を一緒に背負おうとしてくれていただけかもしれない。
  この答えは、幸子が勝手に組み上げた理論で、玲の本心とはちぐはぐかも知れない。
  でも、玲を問いただし実際の答えを求めようとは思わない。今の幸子には答えなんてどうでもいいと思えたから。そこに納得があったから。
  そして、どうすれば失ってしまった輝子に報いることが出来るのか、その尻尾が掴めたように思えたから。
  だから、幸子は涙を拭き、玲を見つめる。

「ね、一緒に見つけに行こうよ!」

  玲は屈託なく笑いながら、片手に焼きそばを持ち、もう片方の手を幸子に差し出す。

「正解じゃなくても間違いじゃないものを、ですか?」
「そうだよ。どこにもないものでも、この町ならどこかにあるかもしれないから!」

  まるで禅問答みたいな誘い文句。
  幸子が立ち上がったのは、握られた手が優しかったから。
  輝子のこと。聖杯戦争のこと。クリエーターのこと。今だけは、そんな全てを横に置き。
  この場の答えは、それだけで良かった。

「どこに行くんですか?」
「そう言えば、おなかが減ったよね! まずは購買部に行こう!」
「焼きそば食べながら言うんですか、それ?」
「焼きそば食べながら言うんですよ、これ!」

  きっとこの選択を、明日の幸子も納得すると信じていたから。



【???/さいはて町 ヒノモト学園裏秘密基地/2日目 早朝】

【玲@ペルソナQ シャドウ オブ ザ ラビリンス】
[状態]健康、魔力消費(小)、『開拓者』
[令呪]残り三画
[装備]『戻す力』
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:街で日常生活を楽しむ。聖杯戦争を終わらせたくない。
1.幸子とさいはてを歩く
[備考]
※聖杯戦争についてはある程度認識していますが、戦うつもりが殆どありません。というか、永遠に聖杯戦争が続いたまま生活が終わらなければいいとすら思っています。
※原作で玲の使えるスキルを使用できますが、開拓者としての『戻す力』を似た形で行使しているだけです。
※『これでいいのか?』という声が聞こえています。


【輿水幸子@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]魔力消費(大)
[令呪]残り一画
[装備]なし
[道具]
[所持金]中学生のお小遣い程度+5000円分の電子マネー
[思考・状況]
基本行動方針:『納得』を得る
1.玲に連れられ、さいはてを歩く
2.輝子に報いるために―――
[備考]
※一気に極大の魔力を消費したことによって一時的に気絶しています。
 魔力がある程度回復すれば自然に目覚めます。
※ランサー(姫河小雪)、フェイト・テスタロッサ&ランサー綾波レイ)、
 キャスター(木原マサキ)、バーサーカー(チェーンソー男)、玲&エンブリオ(ある少女)を確認しました。ステータスは確認していません。
※商店街での戦闘痕を確認しました。戦闘を見ていたとされるNPCの人となりを聞きました。
※固有結界内のため通達の配達が遅れています。



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最終更新:2020年07月26日 20:40