ゴッサム市警の屋上に設置された、サーチライト形の信号灯。
 光を発する様子を見せないそれの付近に、眼鏡を掛けた男が一人。
 物悲しそうな瞳の先にあるのは、やはり信号灯であった。

 男の名はジェームズ・ゴードン。
 ゴッサム市警の警部補として働く男である。
 この街の警察は不正を見て見ぬ振りする悪党ばかりだが、
 その中において、彼は"悪事を働かない"という変わり者の一人であった。
 自身の純朴な正義感を頼りに、真っ当に悪と戦おうとする存在。
 愚衆の街において、彼の様な警官は異端中の異端であった。

 ゴードンの視線を一身に浴びる信号灯。
 本来であれば、レンズに蝙蝠のマークが刻まれている筈のそれ。
 犯罪者と戦う"闇の戦士"を呼ぶ唯一無二の手段は、"ただの信号灯"となっていた。
 レンズに蝙蝠の姿はなく、それどころか長年使われた形跡すら見られない。

「過去の資料に一通り目を通した」

 "ただの信号灯"を見つめながら、ゴードンが呟いた。
 決して独り言では無い。第三者に向けて放った言葉だ。
 その証拠に、背後の虚空から大きな影が一つ現れる。

 顔面の鼻から下を、黒いボロ布で隠した大男。
 額には黒い太陽コロナめいた痣があり、髪は老人の様に白い。
 無知な者の眼からでは、浮浪者と見間違われそうな風袋である。

 この男の正体は、聖杯に呼ばれし超常の使い魔――サーヴァント。
 彼の存在は、ゴードンが聖杯戦争の参加者であるという証拠でもあった。
 クラスは"アーチャー"、そして真名は"ディテクティヴ"。
 "探偵"の名を冠した英霊に、ゴードンは妙な縁を感じずにはいられなかった。

バットマンとやらの事か?」
「ああ、どうも"この"ゴッサムにはいないらしい」

 "この"を強調したのは、ゴードンが元の世界でもゴッサムの住人だったからだ。
 彼が住んでいたゴッサムには、バットマンと呼ばれるヒーローがいた。
 闇夜に紛れて現れ、街を跋扈する悪を打ち倒す闇の戦士(ダークナイト)。
 彼の出現により、ゴッサムの秩序は少しずつだが回復していったのである。

「彼の存在がゴッサムに秩序を思い出させた……だが……」
「ソイツのいない今、ヒーローはどこにもいないッて事か」
「我々警察がこの体たらくだ、そういう事になるだろう」

 ゴードンの調査した限りでは、この街にバットマンが現れた形跡はない。
 それはつまり、悪を挫くヒーローの不在を意味しているという訳で。
 抑止力無き今のゴッサムは、案の定悪党の巣窟と化してしまっていた。

「道理でマッポーめいている訳だ」

 まるでアンダーガイオンだなと、アーチャーは言い零す。
 彼もまた、このゴッサムに匹敵する程の暗黒都市で暮らしていたらしい。
 その頃を回想したのだろう、彼の表情には曇りが見えた。

「ところでアーチャー、市民の件だが……」
「オイオイ、俺が言った事もう忘れちまッたのか?
 "魂だけは間違いなく本物だ"ッて言ったばかりだろ?」

 そう、冗談の様な話だが、アーチャーの言う通りなのだ。
 この街は仮初のものだが、そこに住む人間の命は本物なのである。
 元の世界で平穏に暮らす筈の彼等は今、聖杯の傀儡と化している。
 闘争を盛り上げる駒として、ゴッサムシティの住人に仕立て上げられているのだ。

「いや、それは知っているさ。私が知りたいのはそこじゃない。
 もしマスターが聖杯を手に入れたとして、この街はその後どうなる?」
「さあな。だが……俺が思うに、この街と一緒に廃棄処分だろうよ」
「やはり、そうなるか」

 胸糞悪りィ話だと、アーチャーは顔を顰めた。
 聖杯戦争が完結した時点で、模倣されたゴッサムは用済みとなる。
 主催者の目論見が何かは知らないが、駒として民間人を拉致する様な輩だ。
 不要という理由で、ゴッサム諸共全市民を消し去る可能性も大いにあり得る。

「わざわざ呼び出してすまないなアーチャー、今後も探索にあたってくれ」
「いいさゴードン=サン。この程度どうって事はねェよ」

 そう言って、アーチャーは笑みを見せる。
 彼の主であるゴードンの願いは、この聖杯戦争の中断である。
 偽りのゴッサムに捕らわれた人間を救う為、彼は聖杯を否定するのだ。

 アーチャーが良心的なサーヴァントで良かったと、ゴードンは改めて安堵する。
 それがお前さんの"依頼"なら、俺はその為に動くまでだ、と。
 サーヴァントの意思とは相反する筈の方針を、彼は受け入れてくれたのだ。

 マスターがそうである様に、サーヴァントもまた願いを持っている。
 優勝景品が万物の願望器なのだ、持ってない方がおかしいと言えるだろう。
 聖杯を否定するという事はつまり、願いを叶える権利を放棄するという事だ。

 願いを叶えさせてやれないという事に、申し訳ないと思う気持ちはある。
 だが、今は自身の意思に賛同してくれた喜びの方が優っていた。
 最初こそ発せられる威圧感に本能的な恐怖を覚えたものの、話の分かる男で本当に良かった。
 確かな善性を持つであろう彼とであれば、きっと上手くやっていけるだろう。

 気付いた頃には、アーチャーの気配は消えていた。
 ゴードンの指令である"他のサーヴァント捜索"の為、霊体化して移動したのだろう。
 代わりと言わんばかりに、飛んできた鴉が信号灯で羽を休めていた。
 さながらアーチャーの黒布の様に黒い鴉だ。
 色合いのせいで、周囲の闇にすっかり溶け込んでいる。

「しかし、あれでニンジャとはな」

 ゴードンの知る"忍者"とは、隠密活動を得意とする日本の戦士であった。
 だが彼の前に現れた"ニンジャ"は、無骨な拳銃を得物とする大男ではないか。
 ああも洋風な外見をした男が忍の者だとは、世の中分からないものだ。
 自身の微妙な勘違いを疑わぬまま、ゴードンは息をついた。

「この街にバットマンはいない」

 この街には、バットマンがいたという事実自体が抹消している。
 同様にジョーカー等の大犯罪者の記録も消えているが、犯罪が消失した訳では無い。
 この街はバットマンが現れる前の、ドス黒い犯罪都市のままだ。

 もしサーヴァントが魂喰いの為に市民を殺しても、止める者はいないだろう。
 悪意に飲み込まれた街は、ヴィランを野放しにしたまま動き続ける。

 バットマンとの最後のやり取りを思い返す。
 彼は別れの間際、"誰もがバットマンになれる"と言い残した。
 世界の誰もが、他者を救済できるヒーローになり得るのだと。

 だが、もしそのバットマンがいないとしたら。
 街に住む者全員が、ゴッサムの守護者を忘却していたのだとしたら。
 誰もがヒーローになり得る事実を、誰もが知らないのだとしたら。
 そして、その事実を知るのが、自分一人なのだとしたのなら。

「……我々がヒーローになるしかないんだ」

 鴉が気だるげに鳴き、翼をはためかせ空を舞う。
 闇夜に踊る黒翼は、さながら蝙蝠の如し。




【CLASS】アーチャー
【真名】ディテクティヴ
【出典】ニンジャスレイヤー
【属性】中立・善
【ステータス】筋力:C 耐久:C 敏捷:B 魔力:C 幸運:A 宝具:A

【クラス別スキル】
対魔力:D
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
Dランクの場合、一工程(シングルアクション)によるものを無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

単独行動:B
マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
例えマスターを失っても、Bランクならば二日は現界可能。

【固有スキル】
ピストルカラテ:A++
大口径拳銃・49マグナムの反動をカラテの威力向上に生かした武道。
全盛期に比べれば多少の衰えはあるが、それでも強力である事に変わりは無い。

薬物中毒:B
精神安定剤『ZBR』の重度中毒者。
薬物の効果が切れた場合、頭痛や思考の鈍化等が起こり、最悪の場合死に到る。
逆に言えば、ZBRさえ摂取していれば優れた勘と判断力を発揮できる。

弱点看破:B
ミヤブリ・ジツとも呼ばれる能力。
ニンジャソウルにより強化された網膜ディスプレイは、相手の弱点部位を映し出す。
そうして見つけ出した弱点には、"光る輪"の目印が現れるという。

【宝具】
『カラス・ニンジャ』
ランク:A 種別:対己宝具 レンジ:1 最大補足:1人
ニンジャとは平安時代の日本をカラテによって支配した半神的存在である。
この宝具はガンドーに憑依したカラス・ニンジャのニンジャソウル、つまり魂そのもの。
ニンジャソウルに憑依されたものは個人差こそあれど、超人的な身体能力や生命力を獲得する。
その戦闘力は常人を遥かに凌駕するものの、急所への攻撃はニンジャといえど致命傷となる。

『影に潜むは黒翼(カラス・ガン)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:10 最大補足:1人
アーチャーが持つ"ユニーク・ジツ"。所謂固有能力。
"影"からカラスを創って操り、更には49マグナムの弾丸代わりに装填する事が可能。
銃に装鎮した影、言わば"カラス弾"は、ガンドーの意思である程度軌道の制御ができる。
ただし、殺傷力は実弾より劣ってしまう為、この宝具で敵を倒すなら距離を詰めるか急所に当てる必要がある。
また、あくまで影から作るという性質上、完全な暗闇の中では機能しないという弱点を持つ。

【weapon】
『49マグナム』
アーチャーが愛用する拳銃。二丁携帯している。
威力が折り紙付きだが反動が大きい代物ではあるものの、
アーチャーはこれらを片手に一丁ずつ携えて戦闘を行っている。
弾丸は魔力で製造が可能。ただし、一発に必要な魔力量は前述のカラス弾より多い。

『高密度バイオニューロンチップ』
アーチャーの額の下に埋め込まれたチップ。
彼の助手であった「シキベ・タカコ」の記憶を移植したものであり、
ニンジャであるアーチャーはローカルコトダマ空間を通し彼女の記憶や人格と断片的なコンタクトを取ることが出来る。
なお、このチップは定期的に脳漿液を新鮮なものに取り替える必要があるが、アーチャーはこれを頭部に埋め込む事で脳漿液を自力で賄っている。

【人物背景】
劣悪な環境にあるキョート・アンダーガイオンでガンドー探偵事務所を営んでいた私立探偵。
伝説の探偵クルゼ・ケンの元弟子兼相棒であり、腐敗したキョートの闇に光を当てたいという願いを内に秘めている。
ある時、キョートを支配するザイバツ・シャドーギルドを追って来たニンジャスレイヤーに相棒めいて協力する事となる。
……が、 自身に恨みを持つニンジャ"ガンスリンガー"の強襲に遭い、簀巻きにされ琵琶湖に沈められてしまう。
本来ならばそこで死に至る筈だったのだが、そこでカラス・ニンジャのソウルが憑依。
次に湖から上がった時、そこにいたのは人間"タカギ・ガンドー"ではなく――ニンジャ"ディテクティヴ"であった。

【サーヴァントとしての願い】
かつて助手だった女を生き返らせてやりたい。


【マスター】ジェームズ・ゴードン
【出典】ダークナイト ライジング

【マスターとしての願い】
聖杯戦争に捕らわれた民間人を解放する。

【weapon】
『グロック17』
オーストリアのグロック社が開発した自動拳銃。
アメリカだけでも警察関係を中心に4000もの機関で採用されている。
また、これ以外にも『シグザウエルP226』を始めとした他の拳銃を利用する事もある。

【能力・技能】
警察官としての技量、そしてゴッサムの中でも正義を貫く強き意思を持つ。

【人物背景】
腐敗と汚職に塗れたゴッサム市警に籍を置く警部補。
強い正義感を持つ市警の良心であり、腐敗にも徹底的に戦う姿勢を見せる。
バットマンにもその正義は認められており、ゴードン自身も彼の自警活動に協力している。

【方針】
聖杯戦争中断の為の手段を模索する。
また、可能であれば協力者を集めたい。





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最終更新:2015年04月12日 01:35