"Riddle"
「なぞなぞをしよう」

「朝には『翼を持つ私は鳥だ』と言い、夜には『牙を持つ私は獣だ』と言う。
どっちにもなりきれない半端者、それは誰?」

カタ、カタ、カタとタイプライターの音が鳴る暗がりの空間に声が響く。
空間の中には異様としか言いようがない風貌をした二人の男。
全身に包帯を巻き付け、ボロボロのコートを着込んだ男に向けて、所々にクエスチョンマークをあしらった柄の緑色をしたスーツと帽子を被った男が謎かけをする。

「蝙蝠だ。確かイソップの寓話の一つだったか」
「正解だ。そして我々にも健常者にもなりきれない、この街にいた筈の酔狂な半端者の事でもある」

タイピングを続けながら、包帯男が回答する。
スーツの男はその回答に満足げに頷きクルクルと手に持ったステッキを回しながら正答を告げる。

"Riddle"
「次のなぞなぞだ」

ビッという風切り音とともに、芝居がかった動作でスーツの男が包帯男にステッキを向ける。

「私は愚者にして識者。
王にもなり、女王にもなり、兵士にもなる。
杯にも剣にも杖にも貨幣にも姿を変えられ、高くもなれば低くもなる。
一人を二人に、二人を三人に、三人を四人に、四人を五人に増やすこともできる。
欺き、馬鹿し、顰めっ面のあいつを哄う。さて、私は誰でしょう?」
「……ジョーカーだ。ポーカーを始め他のカードの代用となるゲームは多い。
フォーカードに加えればファイブカードとなるルールもある。
モチーフとなった道化師は愚かな振る舞いをする一方で、その時代の王政をおどけた調子で風刺する見識者でもあったというしな」
「また正解だ、少しヒントを出しすぎたかな? ……まあいい。
ジョーカー、カードの絵柄が有名だが、この街ではもう一つの意味をもつ」

自身の出すなぞなぞをいとも容易く答える包帯男に機嫌をよくしながら、スーツの男が取り出したのは一枚のジョーカーのトランプ。
男の指先に挟まれ、薄ぼんやりとした明かりに照らされたトランプの道化師は毒々しい紫のスーツに白い顔、そして狂気的な笑顔を浮かべている。

「この街でも1・2を争う狂人だ。私も幾度となく彼に会っている。時に商売敵として、時に同盟者としてね。
私の配下達の中に、いや、この街の住人の中にこの男を知らない人間などいる訳がない」
「だが、彼らは誰一人知らなかった」
「その通りだ」

包帯男の言葉に頷きながら、スーツの男が指に挟んでいたトランプをピン、と弾く。
宙を待ったトランプがヒラヒラと舞いながら、深い闇の中に沈んでいく。

「何もバットマンやジョーカーだけではない、ペンギン、ロビン、キャットウーマン、バットガール。
秩序を守っていた者達も、我々犯罪者も、この街にいた筈の彼らを誰もがいない者として認識している」

ともすれば、私もそうだったのかもしれない。とスーツの男は続ける。

「私が目覚めずにいたら、エドワード・ニグマであるとずっと認識をしていたならば、きっと私はここにいなかった。
このスーツを着ることもなく、あの蝙蝠男との因縁を思い出す事もなく、ただただ平凡で無為な偽りの日常を歩まされていたのだろう」

エドワード・ニグマ。
それは本来のゴッサムにおいて、リドラーの名で知られる犯罪者の正体。
謎を解くことに病的な執着を見せる、ゴッサムの街でも古参に入る狂人の一人。
偶然手に入れたシャブティから聖杯に導かれた彼は、記憶が戻るまでエドワード・ニグマとしてこの街に蔓延る無数の悪党達の親玉の一人という、与えられた役割をこなしていた。

「だが、君は目覚めた。君の真実に辿り着くことができたのだ。だからこそ私はここにいる」

底冷えのするような、狂気を孕んだ楽しげな声を包帯男があげた。
包帯の奥に隠れた瞳が煌々と光ながら見開かれる。
カタカタとタイプライターを打つ速度は変わらず、その異様に延びた頭頂部がくつくつと揺れる。

"Riddle"
「謎かけの好きなマスターよ、私から一つ謎を問おう。
片や謎を解く者、片や真実を見つける者。私と君は似通っている、だが違う。
そんな我々の決定的な違いとは何か?」
「私にその程度の謎かけとは片腹痛いなキャスター。答えは『結果と行為』だ」

謎かけをした包帯男――キャスターのサーヴァント――に対し、リドラーは得意気に鼻をならしながらステッキを向けた。

「私は『謎を解く行為』に執着している。難問・奇問、謎が解ければその先にある答えがどんなものであろうと私にはさして関係ない。
そして君は『真実という結果』に執着している。そこに至るプロセスまで君は頓着しない。ただ愚直なまでに隠された真実のみを求めている」

カタカタ、というタイプライターの音が止む。
キャスターの口が三日月を描く。

「その通りだ。『謎を解く』『真実を見つけ出す』その二つは近しい様で違う。
君は真実を見つけたとしても、そこに謎を解く過程がなければ満足はしないだろう」
「そして君は謎を解いたとしても、そこに真実という答えがなければ満足はしない」

聡明な頭脳を持ちながら、父親に理解されなかった過去を持つ男。
記憶を失い、記憶を失った街でただ一人真実を求め、誰からの理解も得られなかった男。
孤独であり、異端であり、果てに狂人と化した男達はその笑みを一層深くする。

「だが、この戦争では謎を解く事は即ち真実への到達を意味する」

何故、ゴッサムシティが舞台として選ばれたのか。
この舞台の水先案内人であるシャブティが持つ意味とは。
この街を騒がす、あるいは平穏を守っていた者達は何故いないのか。
聖杯は彼らに何を望んでいるのか。

数多の謎を解いた先には、この聖杯戦争の真実が待っている。

「受け取りたまえ、いまこの聖杯戦争で分かりうることは書いたつもりだ」

キャスターが立ち上がり、タイプライターで打ち込んでいた書類を纏めてリドラーへと手渡す。
薄汚れた、何の変鉄もない手記。
だが見るものが見れば、この手記に微かな神秘と、精神を汚染する何かが付与している事に気付くだろう。

「より真実に近づくことができたのであれば、もう少し上等な物も書けるがね。それでも役割をこなすだけの愚かな群衆どもには充分効果はあるだろう」

パラパラとリドラーがキャスターに手渡された書類を捲る。
読者に真実に対する執着を植え付けるその手記は、より強い狂気で精神を汚染されているリドラーには届かない。
一通り読み終わり、満足げに手記が閉じられる。

「これを読んで参考にされた歌詞や映像作品にも効果はあるのだったな?」
「そうだ。手記を直接読んだ者に比べれば効果は薄いが、その作品に何らかの影響さえ受けていれば、私の宝具の対象となる」
「よろしい、部下に手配して使えそうな人間にこれを送りつけておこう。だが、その前に一つだけやらねばならない」

そういうと、リドラーは手記を置き、立ち上がっていたキャスターと入れ替わる様に椅子に座り込み、タイプライターを打ち込み始めた。

「何をしている?」
「証さ」

首を傾げるキャスターに対し、愉しそうに口許を歪めながらリドラーが答える。
カタカタ、カタカタとリズミカルにタイプライターの音が鳴る。

「君の文章は素晴らしい、真実に対する狂的な執着が見てとれる。だが、これを流布するのは誰の意思か?
そう、私、リドラーの意思だ。で、あるのならばこの文章だけでは固すぎる。
これでは私がこの手記を広めた事が伝わらない。それでは何も意味がない」

謎への執着と注目願望。
リドラーの持つ精神の異常性は全てがそこへと起因する。
本来、これを広めた人物が何者かを知られるのはデメリットでしかない。
だが、リドラーにとってその程度は些末事だ。
肥大し、捻くれた自尊心が、自分の存在を隠し通すことを拒絶する。

「刻む必要があるのさ。私がこの聖杯戦争という謎に挑むという宣誓を、このゴッサムにリドラーが返り咲いた証を」

カタン、とリドラーが最後の一文字を打ち終える。

「最後は署名だ。差し障りなければ君の名前も欲しい、無論クラスの名でも偽名でも構わないがね」

スッ、と音もなく立ち上がり、リドラーが席を譲る。
キャスター、それも魔術を行使するのではなく、所謂作家型のキャスターにとって、些細な事でも自分の情報を相手に与える事が遠回しな自殺行為である事は明白である。
それをわかっていて署名などという馬鹿げた真似は行わない。
……そのサーヴァントが、まともな感性でもって行動をしているのならばの話だが。
哄笑が響く。
肩を揺らし、背を反らしながらキャスターが笑う。
だがその笑いに己が主に対する侮蔑めいた感情はなに一つない。

「いいだろう、君の酔狂に乗るのも一興だ」

愉快そうに笑いながらキャスターがタイプライターの前に座る。
三日月に開かれた口と狂気を孕んだ瞳が暗がりの中でギラギラと光を放つ。

「フム、この名前は……」
「ただ答を提供するのは私の主義ではないさ。この名前は私という存在を探り当てる最大のヒントだ。
これを読んで私を探すというのであればこの程度の謎は解いてもらわないと話にならないからな」
「ならば、私も君の流儀にあやかるとしよう。私も同じ真実を求める者であるならば、自ら思考する者の方が好ましい」

カタリ、カタリとリドラーにならってキャスターが署名に名を連ねる。
打ち終わった用紙をリドラーが受け取り、満足そうに眺める。

「興味本意の質問ではあるが、この名前は?」
「真実を求め、真実に気付かず、その身を紅蓮の炎に包まれる事になった哀れな新聞記者の名前だ。
この手記に綴るのであればこの名以上に適したものもあるまい」
「なるほど、お似合いじゃないか」

狂人達が嗤う。
聖杯に願う確たる望みのない異端者達は、静かにこの聖杯戦争に狂気の根をおろす。
この世界そのものに挑もうとする怪人達は、この戦において毒となるか薬となるか、それとも路傍の石と成り果てるのか。

その日、ゴッサムに暮らす複数の人間に奇妙な手記が送られた。
あるものは訝しみ、あるものは不気味に思い、その手記を読まずに捨てた。
だが、あるものはその手記に添えられた一文を見て、思うところがあったのか手記へと目を通した。
手記を読んだ後、彼らは共通して、何かに憑かれたかのように創作活動を始めた。
その作品が世に出回り、民衆の目に留まるのはもう少し先の事である。


"Riddle"
謎を出そう

いるべき者がここにいない。

いない筈の者がここにいる。

この街は虚偽に満ちている。

この街に住む自分の記憶は本物か?

この悪徳の街の日常が本来自分が送るべき日常か?

もしも違うと感じたならば、自分自身の記憶の奥底を振り返れ。

かくして私は私を取り戻すことが出来た。


さて、本当の君は何者だ?


我々は真実を追求し、この街の謎に挑戦する者である。

願わくばこの手記を贈呈した諸氏らも同様の願いを抱いてくれることを望む。

――署名
 『E・ニグマ』
 『M・ゼーバッハ』




【クラス】
キャスター

【属性】
混沌・悪

【真名】
シュバルツ・バルト@THE・ビッグオー(漫画版)

【ステータス】
筋力E 耐久E 敏捷D 魔力B 幸運C 宝具A

【クラス別スキル】
陣地作成:D
魔術師ではないが、自らに有利な陣地を作り上げる。
自身の執筆用のスペースを作り出す事が可能。
スペースへの入り口はキャスターの許可を得た者しか発見できない。
但し、ランク以下の直観、観察眼に類するスキルがあれば発見可能。

道具作成:C
魔術的な道具を作成する技能。
キャスターの場合、自身の記した手記を作成するスキルとなっている。
キャスターの手記を読んだ者は一定の確率で精神汚染:E-を取得する。
このスキルを取得した者は、何らかの真実に対して強い執着を見せるようになり、その執着状態に限り他者との意志疎通が困難となる。
また一部の職種の人間は、例えば歌手なら歌詞を、映画監督ならば映像作品をといった具合に、この手記を元になんらかの作品を生み出すことがある。
この手記によって生み出された作品を見た者も低確率で精神汚染:E-を取得する。

【保有スキル】
高速詠唱:C
魔術詠唱を早める技術。
彼の場合、魔術ではなく原稿の進みに恩恵がある。

精神汚染:C
精神が錯乱している為、他の精神干渉系魔術を高確率でシャットアウトする。
ただし同ランクの精神汚染がない人物とは意思疎通が成立しない。

騎乗:EX
騎乗の才能。乗り物を乗りこなす事はできないが、ビッグデュオのドゥミナスとして選ばれた為、規格外のランクとなっている。

【宝具】
『何でも知りたい男の子(シュバルツバルト)」』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:∞ 最大捕捉:∞
常時発動宝具。
キャスターの手記の効果で精神汚染が付与されている対象全員から微力の魔力を継続的に得る。
一人から得られる魔力は一定であり、対象者が多ければ多い程、キャスターが得られる魔力総量は増加する。
感染する狂気。哀れな新聞記者の死によって生まれた怪人は、彼の手記とそれを参考にした作品の影響を受け真実を求める人間の数だけ存在する。
それらは全て怪人になり得る可能性を秘めており、即ちキャスターと同等の存在として魔力のパスが自動的かつ無意識に接続される。

『ある晴れた日に天使が降りてくる(ディッヒ デュオ エスギプト ショウ ツァイト)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:0~15 最大捕捉:60人
巨大ロボ、ビッグデュオを召喚・搭乗し、その間スペックを以下に変更する
  • 筋力と耐久をBに敏捷をAに変更する
  • weaponに眼部レーザー砲、胸部ミサイル砲、脚部メガトンミサイルを追加する。


【weapon】
なし。強いて言えばタイプライター


【人物背景】
40年前の記憶を失った街、パラダイムシティの真実を探し求めた神出鬼没にして正体不明の狂人。デザインモチーフは透明人間
街の影で暗躍する中、彼が発見し、搭乗者として選ばれたビッグデュオを初めとするTHE・BIGがその力をもって40年前の世界を一変させたという解釈にたどり着いた。
結果、40年前に起こった出来事を再演という形で街の人々に「真実」として見せようとするが、ロジャー・スミスとビッグオーによって阻止され、爆炎に消えた。
その後は生死不明の亡霊の様な形でその存在が示唆されている。
また彼の前身とも言えるマイクル・ゼーバッハの手記は各所で騒動の原因となっており、手記を参考に作られた映画はブームになると同時に真実を求めて暴走する民衆を作り上げた。

【サーヴァントの願い】
聖杯戦争の真実に辿り着き、それをこの街の住民に知らしめる


【マスター】

リドラー@バットマン

【マスターとしての願い】

誰よりも早くこの聖杯戦争の謎を解き、その事実をこの街の住民に知らしめて注目を浴びる。

【weapon】
特になし
マフィアのリーダーをしているので、複数人の部下を動員可能

【能力・技能】

天才的な頭脳を持っており、パズルやなぞなぞを解くのが得意
格闘戦などの心得はない


【人物背景】
本名はエドワード・ニグマ。
謎を解くことに対して変質的なまでの執着を見せる狂人で、犯行を行う際にはなぞなぞやパズル形式で証拠を残し、自分を捕らえようとする者との知恵比べを楽しむ愉快犯気質のヴィラン
聡明な少年であったが凡庸な父親に理解されなかった事がトラウマとなり精神を歪ませる。
バットマンとは、何度も知恵比べに敗れていたことから強い恨みを抱いている。
余談ではあるが、ある作品でバットマンを倒したと誤解したリドラーは満足して犯罪から足を洗った事があり、『バットマンの存在が犯罪を呼ぶ』という説の範例とされている

【方針】
作成した手記をバラ撒く事、また、手記を参考にした作品を流布する事で宝具分の魔力を確保しながら、隠ぺい効果のある陣地に引きこもるのが最適解だろう。
しかし、最終目的が聖杯戦争の真実を見つけ出す事なので、他の参加者との接触を含め情報収取が必須。
リドラーの配下達を活用しながら、戦闘意欲のない、あるは聖杯に懐疑的なマスターを探し出して接触し、同盟を組むのが最優先事項か。
魔力さえ溜まれば『ある晴れた日に天使が降りてくる』により上空から一方的な蹂躙が可能だが、そもそも優勝が目的ではないので緊急事態でもなければ戦闘は避ける。




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最終更新:2015年05月06日 01:31