Fear isn't the answer
恐怖は、答えではない
高層ホテルの一角から一人の女がゴッサムシティを見下ろしていた。
豪奢な衣装に身を包み煙管を吸う。その瞳はどこまでも冷たいものだった。
「マスター、今戻った」
不意に彼女しかいない筈の空間に声が響いた。
まるで手品の様に、どこからともなくフードを纏った男が姿を現す。
「首尾はどうかしら、キャスター」
「上々だ。まあ英霊の精製した霊験あらたかな薬だ。今代の質の悪い量産品なんぞに後れを取る訳があるまいよ」
女性の問いにキャスターが不敵な笑みを浮かべる。
キャスターは薬物の精製を得手としていた。
極度の酩酊と幻覚の中、極上の快楽が味わえるという触れ込みの依存性の強い麻薬は一度吸引したが最後、キャスターの操り人形と化す。
実際にこの女はキャスターの麻薬によって、現在の拠点を得ている。
この麻薬によって街そのものを支配下に置くことが彼女の戦略であった。
「ただ、一つだけ気になる事がある。流通のルートが一つ潰された」
「……なんですって?」
ピクリ、と女は形のいい眉を歪ませた。
麻薬の流通まで自分達で行えばそこから他の主従に尻尾をつかまれる危険性があったことから、麻薬はこの街既存の流通ルートを複数使用していた。
その内の一つが潰されたという。
麻薬から自身達の存在が感づかれた可能性が脳裏をよぎる。
「どこのルートも警察に鼻薬は嗅がせていた筈でしょ」
「ああ、警察ではない。ルートを潰したのは赤い覆面を被った怪人らしい」
「赤い覆面? サーヴァントかしら」
「接触していない以上どうとも言えんな、銃などの近代兵器で身を固めていたとの情報もあるしサーヴァントかの真偽はつけられんよ」
キャスターから聞かされた情報に女性はますます眉を潜ませる。
単身であるならば、他の主従である可能性はより高くなったが、問題はその奇異な姿と武装である。
英霊は時代が古ければ古い程神秘が高く、その実力も高い反面、時代が現代に近づけば近づく程弱くなる、というのが聖杯戦争の定説である。
もし英霊であると仮定をすれば、銃を使う英霊は恐らくアサシンかアーチャー。
加えて、銃という近代兵器を扱う時点でその実力も低いものとの推察ができる。
総合するとあまり表だって動くには向かないサーヴァントであるといえる。
ならばマスターか?
魔術使いといった人間もいる以上、近代兵器を使用する事も納得が行く。
だが、そうなると奇異な見た目が引っ掛かる。
なぜ態々そのような目立つ格好をするのか。
顔を見られたくないにしても赤い覆面はとりわけ目立つ。
何か、見られたくない理由でもあったのか。
「何にしろ情報が少ない状況で正体のわからぬ存在に想いを馳せても時間の浪費であろうよ」
キャスターの発言に彼女の思考は打ち切られる。
「それもそうね。少なくとも、私と貴方が共同で作り上げたこの工房を抜けられる相手とも思えないし」
不敵な笑みを彼女は浮かべる。
このフロア一帯を彼女は侵入者を迎え撃つ魔術工房兼神殿として作り変えた。
ブードゥーを嗜むキャスターが使役する悪霊と彼女の使役する使い魔による防衛網や数々の趣向を凝らした罠の数々が張り巡らされている
仮に彼女達にたどり着く主従がいたとしてもこの神殿をくぐりぬけ、この部屋へ到着するまでに撤退する時間は十分に稼げるだろう。
流通ルートを潰した正体不明の存在についても、麻薬を吸わせた手駒達を利用し、人海戦術で押しつぶせば事足りる。
「それよりも、潰されたルートの代わりを探す方が先決ね。一つルートが使えないだけで効率が段違いになるわ」
イレギュラーを恐るるに足りないものと判断した彼女は、早々に覆面の男の存在を記憶の片隅へと追いやった。
もし、この女性が生粋のゴッサムの出であったならば、赤い覆面という特徴のを聞いた時点で一人のヴィジランテの姿を連想したであろう。
だが、本来のゴッサムを知らない彼女にとってその存在は知りえないのも当然であった。
そして、それが彼女にとっての不幸と言えただろう。
ゴッサムの悪党どもならば、それがどういう存在なのかを知っている。
赤い覆面。それはかつて、この街で犯罪を起こす不特定多数の人物のトレードマークであり、現在ではゴッサムの犯罪者達と敵対する者でありながら、
バットマンと違い容赦もなく彼らを殺して回る危険人物であった。
窓ガラスが割れる音。
暗闇に染まる部屋。
何が起こったのか。
キャスターと彼女が反応するよりも早くキャスターの胸に刃が生えた。
襲撃者に致命傷を受けたと認識したキャスターの対応は迅速だった。
襲撃者の刃が己が主に向けられるよりも早く手を彼女へと向けて呪文を詠唱した。
「キャス――」
瞬間、彼女の姿が掻き消える。転移の呪文だった。
それを見て襲撃者が舌打ちをした。
「随分と、ゴホッ、無粋な入場だが、察するにアサシンか。残念だが、ゲフッ、マスターはやらせんよ」
「ハッ、サーヴァントのテメェさえやっちまえば、どの道あの女もおしまいだ。負け惜しみか?」
割れた窓ガラスから夜風が吹き込み、若い男性の無慈悲な冷たい声が響く。
暗がりのせいで互いの姿は認識できない。
心臓に当たる部分を貫かれたキャスターに最早助かる術はない。
だが、キャスターは口から血を吐きながらニヤリ、と口元を歪めた。
「私を舐めるな暗殺者風情が」
キャスターの体から魔力が膨れ上がる。
異変を察したアサシンが飛び退る。
哄笑を上げるキャスターから霧状の魔力が立ち上がり形を形成していく。
どさりとキャスターの体が崩れ落ちても哄笑はやまない。
骸骨めいた姿になった魔力の塊が、変わらずに哄笑をあげていた。
ボウっと暗がり光る双眸がぎょろりと部屋を見渡す。
その視界に白髪の長身の男、アサシンの姿を捉えた。
「チッ、モノノケの類か」
「ハ、ハ、ハ。中々いい肉体だ。次の殻にするには申し分ない」
値踏みするようなキャスターの言葉にアサシンが不愉快そうに顔を歪める。
対象的キャスターは愉快そうに顔を歪めた。
この状態になったキャスターは物理的な干渉を受付ない。
そして別の肉体に乗り移り、精神を浸食して肉体の支配権を手に入れるのがキャスターの宝具だった。
「もう勝った気か?」
「三騎士ならともかく、暗殺しか能のないクラスなど誰が恐れるものか」
「……なら、試してみな」
見下した態度に気分を害したアサシンがキャスターを睨みつける。
ブレードに着いた血を払い、肘の部分に装着したアサシンが構えをとった。
瞬間、アサシンの姿が消える。
少なくとも、キャスターに視認する事はできなかった。
「一の太刀、縮地<αブレード>!」
何が起こったのか、キャスターには理解できなかった。
背後から響くアサシンの声と、物理的干渉を受け付けないはずの自身の体が両断された感覚。
「……あ?」
暗転する視界の中、アサシンのブレードがオーラのような光を放っているのをキャスターは目撃した。
魔力放出、それに類するスキルを持っていたのならば、自分を殺害しうる。
そこまで考えが至った時点で、キャスターの意識は途絶えた。
「ハッ、トロすぎんだよ」
着地と同時にアサシンは腕に装着していたブレードを収納、先ほど倒した相手に向かって毒づく。
ホテルを覆っていた禍々しい気配が消えるのを感じ、アサシンはキャスターとそのマスターがまとめて消えた事を認識する。
コキ、と首を鳴らしながらアサシンは自分が侵入したホテルの窓へと足を進めていく。
「あっちも終わったみたいだな」
アサシンは自分の主である赤い覆面の男が目的を遂げた事を察した。
タン、とアサシンが壊れた窓から飛び降りる。
その姿はすぐに、陰鬱なゴッサムの闇に溶け込んだ。
時は少し遡る。
キャスターに転移させられた彼女が、目を開くとそこはどこかの一室だった。
そこはホテルの拠点が襲撃された場合に対比先として作っていた第二の拠点。
「急な襲撃には驚いたけど、もう少ししたらキャスターも帰ってくるでしょう」
ふう、と息を吐き、彼女は額に浮き出た冷や汗をぬぐう。
キャスターの宝具を知る彼女はキャスターの勝利を疑わない。
必ず、襲撃者の肉体を乗っ取り、この拠点に帰還してくれると信じている。
そこで、ふと気付く。
この拠点には備えの一つとして麻薬で洗脳したゴロツキ達を護衛として配備していた。
だが、拠点に人の気配が感じられない。
悪寒が体を駆け巡る。
「ねえ、誰かいないの!?」
扉越しに声を張るが、返事はない。
たまらず、もう一度声を上げようとした瞬間、轟音と共に扉が爆ぜた。
衝撃ともにもんどりうって転がる。腹部を中心に熱と痛みが走った。
「アッ、フッ……」
声を出そうとして血の塊を吐き出す。
撃たれたのだと理解し、顔を破壊された扉の奥へと向ける。
そこには赤い覆面の男が立っていた。
「あ……」
何事か呟こうとしたが、それは一発の銃声により阻まれた。
けたたましいサイレンの音をバックに人通りの少ない路地を赤い覆面の男が歩いている。
その手にはポンプ式のショットガンが握られていた。
しばらく歩いていると不意に上から人影が降ってくる。
「よう、キャスターはやれたか」
「問題はねえよ。ホテルにあったあいつらの仕掛けも解除された。恐らくマスターもキャスターも完全に死んだと思うぜ」
「そうか」
二人の男が並んで歩く。
事の発端は出所不明の麻薬であった。
アサシンのマスターである
レッドフード――本名:ジェイソン・トッド――はマスターとしての記憶を取り戻してからは、本来のゴッサム同様に犯罪者狩りをしていた。
サーヴァントのアサシンも麻薬や犯罪組織の撲滅には乗り気だった事もあり、協力を申し出てくれたのは幸いだろう。
その内に出てきたのが従来の物とはまったく異なる種類の麻薬であった。
アサシンとレッドフードはサーヴァント関与の可能性を感じただちに調査を行った。
キャスター達にとって不運だったのは、アサシンが調査や追跡などの斥候任務も得手としていた事、そしてレッドフードが彼のパートナーであり、探偵<ディティクティヴ>とも揶揄されるバットマンのやり方を完全に学んでいた事だった。
かくして流通ルートを潰し、アサシンの尾行で拠点を割り出し、万が一転移などで逃走された場合も念頭に入れて決行された二正面作戦は成功を収めた。
「で、だ。いつまでこんな事を続けるんだ」
アサシンがレッドフードに問いかける。
この街の犯罪組織は星の数ほどいる。
そしてその中には今回の様に構成員やトップ、あるいは関係者にマスターが絡んでいる可能性が出てくるだろう。
そうなると、今の活動を続けていくだけで彼らがそういったマスター達に目をつけられる可能性がある。
暗に目立つ行動は避けるべきだと、アサシンは告げていた。
「……悪党どもをのさばらせるつもりはない」
ポツリと、レッドフードが呟いた。
レッドフードは犯罪者に対して苛烈だった。
その苛烈さは、一人のヴィランに起因する。
アサシンがレッドフードと初めて出会った時に、彼は自分のマスターに聖杯への願いを訪ねた。
「一人、死んで欲しい奴がいる」
憎悪と怒りにのまれた声で、レッドフードは答えた。
曰く、その男は一度レッドフードを殺している。
曰く、レッドフードの元相棒に男の殺害を願ったが彼に人を殺す事はどうしてもできなかった。
曰く、そのせいで、自分の様にその男の趣味の悪い冗句の犠牲になった人間は山ほどいる。
曰く、自分が殺そうとしても、元相棒達がそれを妨害する。
「まあ、そうなるとな。聖杯にでも願って死んでもらうしかないだろ?」
ここに呼ばれてから思いついたんだけどな。と冗談めかしてレッドフードは言っていた。
だが、アサシンはその中に隠された決意と殺意を確かに感じとっていた。
もう、自分と同じ目にあう人間が出ないように、この男は命を張っているのだと確信した。
かつて、アサシンの師匠が命を張ったように。古い記憶の中、大統領であった一人の少女が命を懸けたように。
後に続く者の為に命を懸けて事をなそうとしているのだと、アサシンは感じた。
それだけで力を貸すには十分すぎる程の理由だった。
「ハァ、まったくしょうがねえマスターだな。おもりする身にもなれっての」
「別におもりをしろって頼んだ覚えはねえぞ」
ギャーギャーと言い争いを始めた二人の影は闇の中へと消えていく。
バットマンのいないゴッサムシティ。だが、それは必ずしもヴィラン達の楽園とは限らない。
闇に潜む悪党達を狩る者達も同様に闇の中に潜んでいるのだから。
【クラス】
アサシン
【属性】
混沌・中庸
【ステータス】
筋力C 耐久D 敏捷A 魔力C 幸運C 宝具D
【クラス別スキル】
気配遮断:A
サーヴァントとしての気配を断つ。
完全に気配を絶てば探知能力に優れたサーヴァントでも発見することは非常に難しい。
このスキルは自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクが大きく落ちるが、後述の宝具の効果によりアサシンの気配遮断は攻撃時でもランクの低下が発生しない。
【保有スキル】
魔力放出(気):B
武器ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出することによって能力を向上させる。
アサシンは人体に宿る気の力を操る事で攻撃の威力や速度を増加させたり、気そのものを放出して相手を拘束する事ができる。
仕切り直し:B
戦闘から離脱する能力。
同ランク以上の追撃スキルがなければ細くは困難を極める
隠形や転移など自身の姿を晦ます術など逃走に有用な技能を多数取得している
単独行動:C
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。
【宝具】
『毅式迷彩』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:自身
瞬時に自身の姿を不可視にし気配遮断状態となる。また、攻撃時に気配遮断のランク低下が発生しない。
正確には宝具ではなく限界まで鍛えた一つの術。
相手の意識の隙を突き、一瞬でその姿を消すだけでなく殺気や気配を完全に気取らせない。
実体が消える訳ではなく、もし宝具発動中に攻撃を受けた場合は効果が解除される。
【weapon】
手裏剣
苦無
腕部に仕込んだブレード
【人物背景】
アメリカ国籍(自称日本国籍)の忍者。
元ストリートの孤児で、麻薬のバイヤーであった時に売り物に手をつけたことがバレ、始末されそうになったところを毅という人物に助けられ更生。彼の元で忍術と気の法術を会得した。
その経歴からヤクザやマフィア、無暗に権力を行使する存在や偽善者を嫌っている。
血の気が多く直情的な性格で基本的な思考は弱肉強食。
だが自身の力とは無関係に「弱い立場」にあるものが多かった世の中を変えたいという願いを持ち、その為に大統領という地位に着く事が夢だった。
勤勉な努力家で、本物の忍者から指導を受けた事もありその実力・忍術は本物。
また師匠の故郷である日本を深く愛しているが、彼の世界では日本が滅んでいた事もあって日本文化の知識も浅く、よくある海外の間違った日本人像そのままのキャラを形成してしまっている。
最新作では彼を慕う人間もかなり増えてきており「オカシラ」と呼ばれている。
【サーヴァントの願い】
マスターの願いを叶える
【マスター】
レッドフード@バットマン
【マスターとしての願い】
【weapon】
各種銃火器及びナイフ
ショットガンやピストルなど一般的な銃器。レッドフードの拠点に複数保管
【能力・技能】
鍛えた身体能力
【人物背景】
本名をジェイソン・トッド、またの名を二代目ロビン。
ストリートの不良少年で元孤児。バットマンのバットモービルからタイヤを盗もうとして捕まり、その技と度胸を買われて二代目ロビンとなる。
ある時、母親をジョーカーに拉致され、救いに向かった所を諸共に爆殺されるが、その後アメコミ恒例のなんやかんやで生き返りが発動。
墓場から自力で這い出た後に死者を蘇らせるラザラス・ピットという泉に入れられ完全復活。
その代償として人格が大きく歪み悪人を残虐に殺害するレッドフードとなってしまった。
自分を殺したジョーカーをバットマンがまだ生かしている事に激しく怒り、バットマンと敵対、彼の不殺主義では犠牲者が増えるばかりだと否定している。なお、先輩や後輩のロビンとはそこまで仲は険悪ではない。
現在はアウトローズというヒーローチームで活動中。
【方針】
犯罪組織を潰して回りながら他のマスターの情報を集める。
仮に犯罪行為に手を染めているようならば容赦はしない。
保有魔力に関してはラザラス・ピットに浸かった影響か一般人と比較すると多め。
また、アサシン自体が低燃費かつ接近戦も対応できるので継戦能力に関してはあまり不安点はない。
アサシンは直接戦闘や斥候に優れる分、殲滅力や決定力が圧倒的に不足しており、格上との直接戦闘などでは逃げの一手を打つのが精いっぱいである。
耐久は低いが死ななきゃ安い、気配遮断のランクが低下がなくワンチャンあれば(マスターを殺害して)勝てるので慎重な立ち回りを心がける必要がある。
最終更新:2015年05月12日 22:24