†

  マリアを一言で表すなら『良い人』だろう。
  幼い頃から品行方正な少女で通っていた。
  悪事など一切せず、むしろ悪事を行おうとする人を咎めて危ない目に会うことだってあった。
  マリアはそんな、真面目が服を着て歩いているような子だった。

  マリアの人生は、絵に描いたように素晴らしい『普通』だった。
  平凡という意味ではない。
  求めても得ることの出来ない人も居る、届かぬ場所にある、『普通』という輝かしい勲章だ。
  初等部の頃、バレエの地区大会で優勝した。優勝記念パーティは誕生日よりも盛大に行われた。
  中等部の頃、初恋を経験したが同時に初めての失恋を経験した。三日泣き続けて体重が五キロ落ちた。
  高等部の頃、国立の大学を受験したが浪人してしまった。大学への進学費用を稼ぐためにバイトをいくつも掛け持ちして、過労で倒れて両親からこっぴどく叱られた。
  大学に合格した日、マリアは初めて父が泣くのを見た。これから先泣かせるのは、結婚の時だけにしておこうとひっそりと誓った。
  マリアは良き娘だった。

  卒業して、結婚した。相手は、少し冴えないけど、それでも優しい人だった。
  子どもが生まれた。男の子だった。夫が泣くのを初めて見た。男は意外と泣き虫かもしれない、と、苦笑した。
  二人目の子どもが生まれ、上の子が学校に通うようになり、父が他界し、追うように母が他界し。
  それでも、家族四人、泣いて、笑って、毎日を過ごしていく。
  夫を支え、子を育む。内助の功を積み上げる。
  マリアは良き妻だった。
  マリアは、ドラマや映画では絶対に描かれない、『普通の幸せ』に満ちた人生を歩んでいた。



  ある日、マリアの夫が死んだ。交通事故だった。
  世界中では毎日多くの人が交通事故で死んでいるのはマリアもよく知っていた。
  だとしても、まさか自分の夫がそのうちの一人になるなんて、思っても見なかった。
  葬式の夜。
  マリアは冷静だった。
  失恋の時に声を上げて泣きじゃくったちっちゃなマリアはもう居なかった。
  そこに居たのは、二人の子を持つ母親マリアだった。
  強く生きる。
  逞しく生きる。
  寄る辺のない母一人、子二人でも生きていく。
  泣くのは、二人の子どもが立派に社会に出てからで十分だ。
  歯を食いしばり、顔を上げる。
  子どもを抱きしめ、強く誓う。この子たちをなんとしてでも幸せにしてみせる、と。
  マリアは、良き母だった。

  食べていかなければならなかったから働くことにした。
  なんてことはない、交通安全に携わる仕事だった。
  それでも、マリアには一つの大きな決意があった。
  これ以上夫のような犠牲者を出してなるものか、と心に強く誓って選んだ職だった。
  マリアは、どうしようもなく良い人だった。


  †

  それは、薄ら寒い夜だった。
  特に霧が深い夜で、少し気を抜けば大事故が起こってしまうかもしれない夜だった。
  霧の深い日は、事故率が高く誰も仕事をしたがらないという事もあって高給だ。
  だからマリアは、自ら進んでこの日の交通警備を申し出た。
  理由は2つ。
  1つは、事故の起きやすい日こそ、事故を起こさせないという心があったから。
  もう1つは、下の子が来週誕生日を迎えるから。すこしでも豪華なパーティと、プレゼントを用意してあげたかったから。

  警備も終盤に差し迫った夜。
  マリアは一台の車と出会った。
  車に乗っているのは男と、おそらく女。運転をしている男は、冴えない感じが夫に少しだけ似ていた。
  規則だからと車を止め、二人に話を聞くことにした。
  しかし、男の方は「急いでいるから」と進もうとする。
  規則を破る訳にはいかない、と食らいつくマリアに、男は思わぬアプローチを仕掛けた。
  「これで見逃してはくれないだろうか」
  手渡されたのは百ドル札だった。
  マリアの心が、少しだけ揺れた。
  百ドル(日本円で約一万円)、それがあれば子どもの誕生日プレゼントを買える。
  しかし、見逃すのは業務の怠慢になる。マリアの良心はそれを拒んでいた。
  マリアが葛藤するうちに、業を煮やした男は、マリアに百ドルを押し付けて、そのまま乱暴な運転で走って行ってしまった。



  マリアは初めて、懴悔の念を覚えた。
  生まれてずっと、優等生として生きてきた彼女は、初めて規則を破ってしまった後悔に押し潰されそうになった。
  心のなかで、父と、夫と、二人の子どもと、神に謝った。自分が悪いわけでもないのに、ただひたすらに謝った。
  この100ドルは、使いません。必ず返します。恵まれない子どもに寄付をします。だからどうか今回だけお見逃しください、と十字を切った。

  それが、彼女の人生最初の罪らしい罪だった。
  それが、彼女の人生最後の罪深き罪だった。

  マリアがその行いを真の意味で後悔するのは、数秒後、見送った車が大爆発した瞬間だった。



  最初は、急いでいた男が事故を起こしたのか、と危惧した。
  しかし、それにしてはおかしい。車は頑丈だ、映画じゃあるまいし、ちょっとやそっとでは爆発なんてしない。
  じゃあ何があったのか、と深い霧に目をこらせば。


「幇助って知ってるか」


  一人の少女が歩いているのが見えた。


「今の男は、殺人犯だ」

  少女はゆっくりとこちらに歩いてきている。

「助手席に乗っていたのは、妻の死体」

  マリアが見逃した『罪』を唱えながら、歩いてきている。

「お前は、悪を見逃した……いや」
「悪の逃亡を手助けした」
「悪を手伝うものは、悪だ」

  少女の眼光は、マリアを射殺さんばかりの強さで。
  霧の中でも爛々と光り、獲物であるマリアを睨み続けている。

  マリアは半狂乱になりながら言い訳を叫んだ。
  そんなこと気付かなかった。
  殺人犯だなんて知らなかった。
  このお金は、押し付けられただけだ。
  もらおうなんて思っていなかった。

「だが、悪は悪だ」

  マリアは絶望した。
  少女に、マリアの懇願は届いていない。
  マリアはヒステリックに泣き叫んだ。
  子どもが二人いるのだ。夫も居ない、両親も他界している。
  そんなつもりはなかった。こんなお金なんていらなかった。
  見逃して、どうか、見逃してくれ。二人の我が子が。お願いだ。ああ。ああ。
  我が身も顧みず、五体を地に投げ打って謝った。

「安心しろ」

  少女が、ふ、と嗤う。

「『コロ』、3番」

  側を歩いていた犬が少女の手に噛み付く。
  すると、少女の腕が巨大な剣に変わった。

「お前の罪を子どもに背負わせることはない。お前一人が、悪だ」

  マリアは地に伏せ、さめざめと泣き、もう一歩のところまで近づいている少女に呟くように問いかけた。

  私は、何を間違ったのだろうか。と。
  車を見逃したことか。誕生日プレゼントを買おうと思ったことか。職についたことか。夫を失ったことか。
  それとももっと、もっと、もっと前か。
  少女の足が止まり、最後の問いにだけ答えを告げる。

「一瞬でも、悪に頼ろうと思ったことだ」

  マリアが最期に思ったのは、二人の子どもの事だった。
  彼らは、夕食をちゃんと食べただろうか。長女のアリスはにんじんが嫌いだ、好き嫌いせずに食べていればいいが。
  彼らは、風邪を引かないように暖かくして寝ているだろうか。長男のジョージはしっかりものだが、寝相が悪いから、すぐにタオルケットから抜けだしてしまう。
  マリアは死ぬ瞬間まで、良き娘で、良き妻で、良き母で、良い人だった。

「『正義執行』」

  一瞬だけ、霧が赤く染まった。
  その後は、高校と燃え盛る自動車の火を受けたオレンジの霧だけが、その場を漂い続けた。


  †

  霧の深い夜から数日後。

「ただいま帰りました!」

  にこにこ笑顔の少女の帰宅を、黒人神父が迎え入れる。

「その様子だと……満足の行く結果が出せたのかな」

「はい! 任務完了です、マスター!」

  びしりと敬礼をキメる少女は、黒人神父のサーヴァントだ。
  クラスは『バーサーカー』、狂戦士の名を関するクラス。
  神父はそうかと答えると、小さくため息をついた。

「そっちの子たちが、その……『孤児』かい」

「はい。この子たちはまだ悪に染まっていないので、今から正義の道を歩いてもらうんです」

  バーサーカーが連れてきたのは、まだ幼い子ども二人。
  くすんだ金髪の少女・アリスと、同じくくすんだ金髪の少年・ジョージだった。
  バーサーカーが『孤児』を拾って教会に連れてきたのは、契約後これで八人目だ。
  それも、揃いも揃って親が『何の前触れもなく蒸発してしまった』孤児。
  ここまで続けば、だいたいの察しは付く。
  毎度のことながら白々しいものだと、神父は内心舌を巻く。
  ただ。
  バーサーカーの狂気は、狂おしいまでの正義の心は、神父の『夢』を後押しするのに申し分ないパワーを持っている。
  神父は、その点だけはバーサーカーを高く評価していた。

「『孤児』が増えすぎじゃないか。あまり増えすぎると、暮らしもままならなくなるぞ」

「『悪』がはびこるよりも数倍マシですよ」

  冷めた神父の一言に、更に冷めたバーサーカーの一言が重なる。
  神父は、わりと自分勝手なバーサーカーに対してため息をつくと、新しい家族に話しかけた。

「事情は彼女……セリューから聞いてるね?
 私がこれから君たちの両親のかわりとして面倒を見させてもらう、エンリコ・プッチ神父だ」

  ジョージとアリスが生気の抜けた顔で、ぼうっと神父を見つめる。
  親が死んだばかりなのだ。当然だろう。

「そんなに固くならないで……私達は今日から家族なんだから」

「ほら、家に入りましょう。今日からは神父様と私が、二人のお兄さんとお姉さんですからね!」

  セリュー、と呼ばれた少女がにこやかに子どもたちの背を押す。
  プッチ、と名乗った神父もにこやかに子どもたちに手を差し伸べる。

  自分勝手な正義を追い求める少女。
  自分勝手な幸福を追い求める神父。

  似たもの同士は、互いに互いの仮面の下の狂気は見せず、朗らかに新たな家族を迎え入れた。




【クラス】
バーサーカー

【真名】
セリュー・ユビキタス@アカメが斬る!

【パラメーター】
通常時 筋力:D 耐力:D 敏捷:D 魔力:E 幸運:E 宝具:C
狂化発動時 筋力:C 耐力:C 敏捷:D 魔力:E 幸運:E 宝具:C
(コロおくのて 筋力:B 耐力:EX 敏捷:C 魔力:C 幸運:C)

【属性】
秩序・狂

【クラススキル】
狂化:C-
通常時は一切狂っていないように見える。
だが、彼女が『悪』を見つけた時、このスキルはその真価を発揮する。
正義以外の理性を大きく失う代わりに筋力と耐力が一段階ずつ上昇する。


【保有スキル】
絶対正義:A+
正義の名のもとに悪を討つ者が持つスキル。
彼女は悪と出会った瞬間に狂化が発動し戦闘体勢に移る。
ここで言う悪とは『彼女が悪と判断した全ての者』である。
例え善属性だろうと彼女が悪と判断できる行動を行っていた場合、彼女の敵となる。
また、例え善行を積んでいようが悪属性を持つサーヴァントならばそれだけで彼女の敵となる。
狂化のせいで生前よりも『正義』『悪』への執着が強くなっており、生前よりも厳しくこのスキルが発動するようになっている。
例え受動的に悪事を行ったものでも見逃さない。まさに狂おしいまでの正義の味方となった。

なお、生前の仲間が悪属性で呼び出されていた場合も一切の容赦なく彼女の敵となる。

精神汚染(正義):A
正義を盲信しており、どんな小さな悪だろうと見逃さず正す精神の持ち主。悪からの精神干渉を全て無効化することが可能。
このスキルが狂化に大きく関わっている。
バーサーカーの狂化は『正義への偏った盲信』から来るため、狂化の際にも正義の心と悪を憎む心を失わない。

人造人間:A
人造人間である。
毒物・薬物への耐性に加え、同ランクの戦闘続行を持つ。

悪を狩る者(イェーガーズ):EX
悪を狩る者として生涯を終えた少女。
悪がある限り彼女の存在理由は消えない。
バーサーカーが『悪』を認識している場合マスターへの魔力負担が減少。『悪』の数が増えれば増えるほど魔力消費は小さくなる。


【宝具】
『魔獣変化ヘカトンケイル(コロ)』
ランク:C 種別:対悪 レンジ:1-10 最大捕捉:5
生物型帝具。愛嬌のある顔をした犬のような見た目をしている。
その能力は『捕食』。無数の乱杭歯で敵をすり潰して食す。
コアを破壊しない限り死なず、その腹の中にバーサーカーの宝具『十王の裁き』のうち9つを隠している。
バーサーカー同様『狂化(おくのて)』で一時的にバーサーカーに従う以外の理性の全てを捨ててステータスを大幅向上させることが可能。
『狂化』中は咆哮で相手の動きを止めたり、腕を伸ばしてラッシュを放ったりも可能。


『十王の裁き』
ランク:E 種別:対悪 レンジ:1-90 最大捕捉:10
コロの中にしまわれているバーサーカーの9つの武器。それぞれ
1番・正義秦広球……トゲ付き巨大鉄球
2番・初江飛翔体……小型ミサイル
3番・正義宋帝刀……巨大な刀
4番・五官鞭……ウインチ、移動のほか攻撃にも使用可能
5番・正義閻魔槍……巨大ドリル。射出も可能
6番・変成弾道弾……超大型ミサイル。硬度最強
7番・正義泰山砲……レンジ最大90まで狙撃可能な大砲
8番・平等魚雷……水陸両用魚雷
9番・正義都市探知機……周囲の魔力反応を探ることが可能
となる。
9番以外はそれぞれ筋力と同等の破壊力を有する。


『十王の裁き 最終番 五道転輪炉』
ランク:D 種別:対悪 レンジ:1-80 最大捕捉:999
手も足も出なくなったバーサーカーに残された最期の悪あがき。
頭に仕込まれた爆弾を魔力の全てを注ぎ込んでレンジ80以内を巻き込む大爆発を起こす。
レンジ内の『悪』を完全に消滅させる。
通常、参加者以外には効果を及ぼさないが、悪であったならば全ての者が消滅の対象となる。

【weapon】
トンファーガン。口の中の銃。義手の内側に隠された剣。
悪が相手でない場合に限りこれらを威嚇用に使う。かもしれない。



【マスター】
エンリコ・プッチ@ジョジョの奇妙な冒険第六部 ストーンオーシャン

【参戦経緯】
DIOの遺品回収にエジプトに行った際に現地のシャブなんとかさんに触る

【マスターとしての願い】
覚悟がもたらす幸福な世界、すなわち『天国』へ到達する。

【能力・技能】
ホワイトスネイク。
サーヴァントにダメージを与えられるほどの強い神秘は持っていないためガードくらいにしか使えない。
また、サーヴァントのDISCは抜き取り不可能。
ただし、対マスター戦ならいつもどおりのスペックで戦えるため無比の強さを発揮する。
また、スタンドがある分精神エネルギーが強いため魔力も常人よりは潤沢であるといえる。

【方針】
セリューの行動方針は唯一。
悪を許さない。それだけである。
他者を殺して願いを叶えるような奴はだいたい悪なので見敵必殺と言い換えてもいいかもしれない。
さらに言えばNPCだろうと悪は悪、当然裁きの対象となる。ゴッサムシティ全体が彼女の獲物と言っても過言ではない。
なお、プッチは神父であるし、セリューと同じく正義側の人間であるとセリューが判断しているのでプッチの殺しはノーカン。今はまだ。

敏捷にやや難があるが遠中近距離全てに対応できる『十王の裁き』を持つバーサーカー。
ステータスの低さも彼女を上回るステ値のコロちゃんで補える。その上魔力が許す限りは二対一で戦える。
狂化中も一応会話が可能であり、バーサーカーの中ではかなりの当たりと言えるかもしれない。
ただし、プッチが『悪』だと判断すればセリューは迷わずプッチを殺す。彼女はそういう存在だから。




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最終更新:2015年05月23日 01:22