第一話 「"始まり、使命、焔星"」
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火星上空、大量のデブリが漂う中を一隻の輸送船が進んでいく。
それを狙う三機のグワッジの姿がデブリの陰にあった。
『へへ、また獲物が来たぜ』
『ありゃあレアメタルの輸送船だぜ』
『じゃあ、あれを襲えば俺達は金持ちだな』
無線を通じて下卑た笑い声が聞こえてくる。グワッジのパイロット達の声だ。
火星周辺は多くの資源衛星があり、またそこでは多くのレアメタルが採れる。
それが火星コロニーの人々を支える貴重な収入源の一つとなっている。
だが、その労働環境は劣悪極まりなく、毎月何人もの死者が出ている。
更には親がいない子供たちを引き取って働かせるところまである。
しかしそんな劣悪な環境でも、生きるためには働かなければならない。
そんな過酷な火星の環境が、時に非常に厄介な副産物を生み出す。
そう、彼ら、グワッシュのパイロット達のような宇宙海賊である。
海賊の存在はいつの時代も厄介でしかない。そしてその存在が、火星周辺の治安の悪さに拍車をかけていた。
『見たところ護衛もいなさそうだ。一気にやっちまおうぜ』
そういって一機のグワッジが120ミリマシンガンを構えた。
久々の大物だ。逃す手立ては無い。他の二機も同意の声を上げ、武器を構えようとした。
しかし、それよりも早く、デブリの影から突如現れた何かが最初に武器を構えてグワッジに直撃し、それと同時に爆発する。
更にもう一つ、またもデブリの影から長方形の筒、ミサイルが飛び出し同じグワッシュに命中した。
二発のミサイルの直撃を受けたグワッジが無残に爆散する。それと同時に他の二機が背中合わせに武器を構えた。
『な、何だ!! 何が起きているんだ!!』
『敵がどこかに隠れてるんだ!』
二人のパイロットは慌ててカメラとレーダーの両方で敵を探した。しかしレーダーに反応は無く、カメラでも捕捉できない。
『見つけたか!?』
『いやみつかんねぇ!! いったいどんな手品を使ったんだ!?』
そういいながら、二人のパイロットは懸命に見えない敵を探した。
熱探知、電波、カメラなど考え得る方法を尽くして探したが一向に見つからない。
いくらデブリの中とはいえMSレベルのものが近づけば熱探知やレーダーに何らかの反応が出る。
一撃離脱の戦法で逃げたと思い緊張を解いたパイロット達の耳に、歌声が聞こえてきた。
思わず惚れ惚れしそうな女性の声である。普通なら聞きほれるところだが、パイロット達は違った。
初めに凍りついた。信じられないものを見たときの人の反応と同じように。
次に二人同時して同じ行動を取った。つまり、それぞれ別の方向に逃げ出したのだ。
今二人の頭には女性の歌声は入ってこない。彼らの頭にはその時、一つの名前が焼き付いていた。
(ローレライの悪魔)
"目に見えず、熱すら持たない悪魔。その歌声を聴いたらすぐに逃げなければいけない。さもなければ必ず殺されるだろう。"
行きつけの酒場のマスターが口にした、目に見えない歌姫の噂話。
初めにその話を聞いた時、彼らはその話を笑い飛ばした。
姿の見えない悪魔などいない、いたとしても如何程のものか、と。
しかし、今ではそんなことも忘れ、ただ見えない恐怖から逃げ出そうとした。
彼らは今、まさにその(ローレライの悪魔)に襲われているのだ。
機体にデブリが当たっても気にせずに逃げる。
肉食獣から逃げる草食動物のように。
ひたすらに逃げ、やがて少し落ち着きを取り戻した。
先ほどの場所からずいぶん離れた。ここならもう大丈夫だろうと、彼は安堵し、休もうとした。
そして、姿を隠そうとデブリの後ろに回りこもうとした男が見たものは緑色の光だった。
グワッシュがデブリごと真っ二つに切断され、爆散する。
二機のグワッシュを葬った悪魔は、翼から伸ばした光の刃を消し、残った一機に向かって突撃した。
先程のグワッシュとは反対方向に逃げていた為、その姿は豆粒ほどに小さい。
しかし悪魔は、恐るべきスピードでデブリの中を駆け抜けていく。
全力でバーニアを吹かしているグワッシュよりもなお速く、しかもほとんどデブリに当たらずに宇宙の暗闇を進む。
見る見るうちにグワッシュとの差は狭まり、迫っていく。
寸前でそれを探知したグワッシュのレーダーが警告音を鳴らす。
それに気付いたグワッシュのパイロットが死ぬ物狂いで反撃しようとグワッシュを振り向かせようとした。
しかしグワッシュが振り返るよりも速く、悪魔は翼から再び光の刃を出現させ、グワッシュを追い抜きざまに両断した。
それを狙う三機のグワッジの姿がデブリの陰にあった。
『へへ、また獲物が来たぜ』
『ありゃあレアメタルの輸送船だぜ』
『じゃあ、あれを襲えば俺達は金持ちだな』
無線を通じて下卑た笑い声が聞こえてくる。グワッジのパイロット達の声だ。
火星周辺は多くの資源衛星があり、またそこでは多くのレアメタルが採れる。
それが火星コロニーの人々を支える貴重な収入源の一つとなっている。
だが、その労働環境は劣悪極まりなく、毎月何人もの死者が出ている。
更には親がいない子供たちを引き取って働かせるところまである。
しかしそんな劣悪な環境でも、生きるためには働かなければならない。
そんな過酷な火星の環境が、時に非常に厄介な副産物を生み出す。
そう、彼ら、グワッシュのパイロット達のような宇宙海賊である。
海賊の存在はいつの時代も厄介でしかない。そしてその存在が、火星周辺の治安の悪さに拍車をかけていた。
『見たところ護衛もいなさそうだ。一気にやっちまおうぜ』
そういって一機のグワッジが120ミリマシンガンを構えた。
久々の大物だ。逃す手立ては無い。他の二機も同意の声を上げ、武器を構えようとした。
しかし、それよりも早く、デブリの影から突如現れた何かが最初に武器を構えてグワッジに直撃し、それと同時に爆発する。
更にもう一つ、またもデブリの影から長方形の筒、ミサイルが飛び出し同じグワッシュに命中した。
二発のミサイルの直撃を受けたグワッジが無残に爆散する。それと同時に他の二機が背中合わせに武器を構えた。
『な、何だ!! 何が起きているんだ!!』
『敵がどこかに隠れてるんだ!』
二人のパイロットは慌ててカメラとレーダーの両方で敵を探した。しかしレーダーに反応は無く、カメラでも捕捉できない。
『見つけたか!?』
『いやみつかんねぇ!! いったいどんな手品を使ったんだ!?』
そういいながら、二人のパイロットは懸命に見えない敵を探した。
熱探知、電波、カメラなど考え得る方法を尽くして探したが一向に見つからない。
いくらデブリの中とはいえMSレベルのものが近づけば熱探知やレーダーに何らかの反応が出る。
一撃離脱の戦法で逃げたと思い緊張を解いたパイロット達の耳に、歌声が聞こえてきた。
思わず惚れ惚れしそうな女性の声である。普通なら聞きほれるところだが、パイロット達は違った。
初めに凍りついた。信じられないものを見たときの人の反応と同じように。
次に二人同時して同じ行動を取った。つまり、それぞれ別の方向に逃げ出したのだ。
今二人の頭には女性の歌声は入ってこない。彼らの頭にはその時、一つの名前が焼き付いていた。
(ローレライの悪魔)
"目に見えず、熱すら持たない悪魔。その歌声を聴いたらすぐに逃げなければいけない。さもなければ必ず殺されるだろう。"
行きつけの酒場のマスターが口にした、目に見えない歌姫の噂話。
初めにその話を聞いた時、彼らはその話を笑い飛ばした。
姿の見えない悪魔などいない、いたとしても如何程のものか、と。
しかし、今ではそんなことも忘れ、ただ見えない恐怖から逃げ出そうとした。
彼らは今、まさにその(ローレライの悪魔)に襲われているのだ。
機体にデブリが当たっても気にせずに逃げる。
肉食獣から逃げる草食動物のように。
ひたすらに逃げ、やがて少し落ち着きを取り戻した。
先ほどの場所からずいぶん離れた。ここならもう大丈夫だろうと、彼は安堵し、休もうとした。
そして、姿を隠そうとデブリの後ろに回りこもうとした男が見たものは緑色の光だった。
グワッシュがデブリごと真っ二つに切断され、爆散する。
二機のグワッシュを葬った悪魔は、翼から伸ばした光の刃を消し、残った一機に向かって突撃した。
先程のグワッシュとは反対方向に逃げていた為、その姿は豆粒ほどに小さい。
しかし悪魔は、恐るべきスピードでデブリの中を駆け抜けていく。
全力でバーニアを吹かしているグワッシュよりもなお速く、しかもほとんどデブリに当たらずに宇宙の暗闇を進む。
見る見るうちにグワッシュとの差は狭まり、迫っていく。
寸前でそれを探知したグワッシュのレーダーが警告音を鳴らす。
それに気付いたグワッシュのパイロットが死ぬ物狂いで反撃しようとグワッシュを振り向かせようとした。
しかしグワッシュが振り返るよりも速く、悪魔は翼から再び光の刃を出現させ、グワッシュを追い抜きざまに両断した。
破壊され爆散するグワッシュの火球が宇宙を赤く照らす。その赤い光を後に悪魔はデブリ帯を抜けた。
所定のポイントまで移動すると、そこには一隻の高速船が停泊していた。
悪魔はその高速船の下部へと速度を落としながら滑り込む。
高速船の下で悪魔が完全に止まると同時にハッチが開き、中から3本のアームが出てきた。
それによって悪魔がハッチの中に収納されると、高速船は無音の宇宙を静かに走りはじめた。
所定のポイントまで移動すると、そこには一隻の高速船が停泊していた。
悪魔はその高速船の下部へと速度を落としながら滑り込む。
高速船の下で悪魔が完全に止まると同時にハッチが開き、中から3本のアームが出てきた。
それによって悪魔がハッチの中に収納されると、高速船は無音の宇宙を静かに走りはじめた。
進宇宙暦102年、人の歴史に大きな傷跡が刻まれた年。
火星と地球による戦争、その最中には常にガンダムの姿があった。
しかし、ガンダムでも軍でもなく、一つの勢力として戦争を駆け抜けた者たちもいた。
戦いを生業とし、安息と緊迫の狭間に位置する者達。
そう、人は彼らを「傭兵」と呼んだ。
火星と地球による戦争、その最中には常にガンダムの姿があった。
しかし、ガンダムでも軍でもなく、一つの勢力として戦争を駆け抜けた者たちもいた。
戦いを生業とし、安息と緊迫の狭間に位置する者達。
そう、人は彼らを「傭兵」と呼んだ。
火星からアストロイドベルトの間、おそらくこの進宇宙暦でもっとも治安の悪い区間。
そこでは宇宙海賊やテロリスト、犯罪者が潜み、獲物や機会を待っている。
ゆえに地球連邦軍は幾度となく火星-アストロイドベルト間の浄化作戦を行ったがその全てが満足な成果を挙げることをできずに終わっている。
アストロイドベルトの大量の小惑星と、それを生かす奇襲戦法を得意とする海賊達に真正面からの戦闘に慣れた軍では太刀打ちできないのだ。
そのため地球連邦軍はこの宙域の安全確保をほとんどあきらめた。調子に乗って海賊たちが地球圏に来ないように小規模な掃討作戦を行うだけである。
連邦軍はそれでよかったかもしれないが火星の人々にとってはちっとも良くなかった。
特にアストロイドベルトの資源衛星からレアメタルや鉄を運搬する者たちにとって死活問題である。
そこで彼らは自分のみは自分で守るという精神の元、輸送船を武装したり自分自身でMSを操ったりと自衛手段をとった。
しかしそれだけでは宇宙海賊には対応しきれない。
いくら武装したりMSを操っても所詮素人、その手段はほとんど効果を示さなかった。
ならばと、戦闘のプロ、つまり傭兵を雇うものが出始めた。そしてその効果は抜群だった。
多少金は掛かるが安全に物資を輸送できるならその程度の出費は惜しくないと、他の者達も次々と傭兵を雇い始めた。
しかし急な需要の増加に対して腕の立つ傭兵の数はあまりに少なかった。
そのため商人達はいい傭兵を得ようと必死に金を出すようになった。
それを求めて多くの人が傭兵になり、数年で火星-アストロイドベルト間で働く傭兵の数は4倍近くになった。
今では需要と供給のバランスが取れ、以前より金回りは悪くなったもののそれでも仕事に困るものはいない。
これが傭兵業の発展の歴史だ。そしてその傭兵の中でも一際有名な傭兵団があった。
それが「アスルビエント」、翼を広げた青い鳥のマークをもつ傭兵団だった。
男がベッドの上で横になりながら歌を聴いていた。
宇宙船の狭い個室だがほとんど物は無く、ベッド以外のものといえば服などを入れたロッカーと古いタイプのオーディオプレイヤーが一台置いてあるだけだ。
歌はそのオーディオプレイヤーから流れてきたものだ。
静かな哀愁が漂う音と、澄んだ女性の声。
例えるなら霧の深い月夜のような、美しくそれ故に悲しみが溢れる声。
男はそれを心地よさそうに聴きながらベッドに横になっていた。
男の名前はラング・リッサーと言う。やや短めで長さが不揃いな赤い髪と、目を閉じているため今は見えないが深い青い瞳を持っている。
顔も、美男子とは言えなくとも中の上程度の評価はつけられる。
身体は水泳選手のように引き締まった筋肉をつけているが、それ以外は特に目立つものは無い。
傭兵団"アスルビエント"のパイロット、ラング・リッサーはそんな、冴えない若者のような容姿を持っていた。
そこでは宇宙海賊やテロリスト、犯罪者が潜み、獲物や機会を待っている。
ゆえに地球連邦軍は幾度となく火星-アストロイドベルト間の浄化作戦を行ったがその全てが満足な成果を挙げることをできずに終わっている。
アストロイドベルトの大量の小惑星と、それを生かす奇襲戦法を得意とする海賊達に真正面からの戦闘に慣れた軍では太刀打ちできないのだ。
そのため地球連邦軍はこの宙域の安全確保をほとんどあきらめた。調子に乗って海賊たちが地球圏に来ないように小規模な掃討作戦を行うだけである。
連邦軍はそれでよかったかもしれないが火星の人々にとってはちっとも良くなかった。
特にアストロイドベルトの資源衛星からレアメタルや鉄を運搬する者たちにとって死活問題である。
そこで彼らは自分のみは自分で守るという精神の元、輸送船を武装したり自分自身でMSを操ったりと自衛手段をとった。
しかしそれだけでは宇宙海賊には対応しきれない。
いくら武装したりMSを操っても所詮素人、その手段はほとんど効果を示さなかった。
ならばと、戦闘のプロ、つまり傭兵を雇うものが出始めた。そしてその効果は抜群だった。
多少金は掛かるが安全に物資を輸送できるならその程度の出費は惜しくないと、他の者達も次々と傭兵を雇い始めた。
しかし急な需要の増加に対して腕の立つ傭兵の数はあまりに少なかった。
そのため商人達はいい傭兵を得ようと必死に金を出すようになった。
それを求めて多くの人が傭兵になり、数年で火星-アストロイドベルト間で働く傭兵の数は4倍近くになった。
今では需要と供給のバランスが取れ、以前より金回りは悪くなったもののそれでも仕事に困るものはいない。
これが傭兵業の発展の歴史だ。そしてその傭兵の中でも一際有名な傭兵団があった。
それが「アスルビエント」、翼を広げた青い鳥のマークをもつ傭兵団だった。
男がベッドの上で横になりながら歌を聴いていた。
宇宙船の狭い個室だがほとんど物は無く、ベッド以外のものといえば服などを入れたロッカーと古いタイプのオーディオプレイヤーが一台置いてあるだけだ。
歌はそのオーディオプレイヤーから流れてきたものだ。
静かな哀愁が漂う音と、澄んだ女性の声。
例えるなら霧の深い月夜のような、美しくそれ故に悲しみが溢れる声。
男はそれを心地よさそうに聴きながらベッドに横になっていた。
男の名前はラング・リッサーと言う。やや短めで長さが不揃いな赤い髪と、目を閉じているため今は見えないが深い青い瞳を持っている。
顔も、美男子とは言えなくとも中の上程度の評価はつけられる。
身体は水泳選手のように引き締まった筋肉をつけているが、それ以外は特に目立つものは無い。
傭兵団"アスルビエント"のパイロット、ラング・リッサーはそんな、冴えない若者のような容姿を持っていた。
しばらくして歌が終わると、ラングは名残惜しそうにオーディオプレイヤーの電源を切り、上着を羽織って部屋を出た。
この船は居住区が驚くほど狭い為、通路の幅も狭い。大人二人が互いに壁に張り付いてもすれ違うことができないほどだ。
ラングはその広い肩が壁に当たらないようほとんど横を向いて通路を移動する。この船は船底部で発生させている重力が弱い為、浮くように通路を移動できる。
部屋を出て数歩のところでドアにぶつかる。ラングはドアの開閉スイッチを押し、ドアを開けその中に入っていった。
そこは先ほどの通路が嘘のように広い空間だった。いや、先ほどの通路のせいで広く見えるのかもしれない。
だが少なくともテニスコートの半面ほどの広さはある。その広い空間の中に、いくつかの席と同数のコンソールが設置されている。
そして帯状のモニターに映し出された宇宙が、それらを囲むように存在している。
ここはこの船、アスルファイサのブリッジ。この船のほぼ先端に当たる部分だ。
そんなブリッジの中央、最も高いところにある席の上で、一人の男が静かに寝息を立てていた。
その手にはこの船の舵が握られており非常に危ないのだが、彼に言わせればこんなところ眠っていても通り抜けられると言う自信の表れらしい。
確かにその状態でデブリの隙間を縫うように船を操っているのだからその操船技術の高さが伺える。
そしてその周りにいるほかのクルー達も彼を起こさないことから、仲間からの信頼の高さも伺える。
だがそれでも怖い為、ラングは男を起こすことにした。
「おい、カルロ、起きな。ほら、ほら、ほら」
ラングは男の足を下から掴むとありえない方向に無理やり曲げようとした。
突然の激痛に男が飛び起きるとぱっと手を放し、笑顔でおはようと言う辺りが怖い。
男の方はおはようどころじゃない。気持ちよく快眠(船を操りながらはどうかと思うが)していたところを無理やり起こされたのだ。しかもかなりの痛みを伴って。
怒鳴ろうとして自分の足元に顔を向け、口を開いたところでげんなりと息を吐いた。
「なんだお前か、ラング」
なら仕方が無いと男、カルロ・ビスターシュは呟いた。そのままため息をつき、色の濃い茶髪に手を突っ込む。
「あーくそ、後もう少しで木星までいけたのによぉ」
「どうせ夢だろう?」
「夢に見ちゃいけないか!? ダーツ乗りにとって木星の氷の輪は憧れの場所なんだぞ!」
カルロがぐっと拳を握り力説する。
ダーツと言うのは一人乗りの小型高速機で、その流線型の形からそう呼ばれている。
これに乗る人はダーツ乗りと呼ばれ、宇宙船を操舵するものにとって敬意を示すものとなっている。
と言うのもダーツがあらゆる宇宙航行船よりも速く、そしてその速さゆえ操作が難しいからである。
火星ではそうしたダーツ乗りが多く、その速さを競うレースや勝負が頻繁に行われている。
地球で行われているストリートレーシングと同じようなものだ。
ダーツの値段自体もさほど高くなく、簡単に手に入る為、その競技人口は非常に多い。
年に何度か火星公社主催の大規模な大会が開かれ、その中継は火星コロニーすべてで放映される。
ゆえに優れたダーツ乗りは総じて有名になり、多くの憧れや敬意をその身に受ける。カルロもその一人だ。
だがそんな男もラングにとっては年下の若者でしかない。いつものように力説するカルロを無視し、いつもの席に座った。
「んー、9時間ぐらい寝たかな? 宇宙だと時間の感覚が分からなくて困る」
「15時間ですよ、先輩」
と、ラングの横から冷ややかな声が聞こえてきた。声の方向に顔を向けると黒い長髪が目に入ってきた。
「よぉ、ミリー、今日も綺麗だな」
そうラングが言うとミリーと呼ばれた女性はとくに表情を変えずに「下手なお世辞はいりません」とだけ言った。
彼女の名前はミリン・タチバナといい、まだ19歳の若いオペレーターだ。
そのツンツンとした興味なさげな態度は、クルー達にとっても既におなじみのもの。
特に何かとミリンに話しかけるラングには慣れたもので、いくら興味なさげでもかまわず話続ける。
そしてミリンが切れる寸前で話を終わらす。周りから見ればミリンがラングに手玉に取られているように見える。
これも、クルー達にとっておなじみの光景だ。ちなみにミリーという呼び方はラングの考えた愛称。
ほとんどのクルーがこの呼び方を使う。
この船は居住区が驚くほど狭い為、通路の幅も狭い。大人二人が互いに壁に張り付いてもすれ違うことができないほどだ。
ラングはその広い肩が壁に当たらないようほとんど横を向いて通路を移動する。この船は船底部で発生させている重力が弱い為、浮くように通路を移動できる。
部屋を出て数歩のところでドアにぶつかる。ラングはドアの開閉スイッチを押し、ドアを開けその中に入っていった。
そこは先ほどの通路が嘘のように広い空間だった。いや、先ほどの通路のせいで広く見えるのかもしれない。
だが少なくともテニスコートの半面ほどの広さはある。その広い空間の中に、いくつかの席と同数のコンソールが設置されている。
そして帯状のモニターに映し出された宇宙が、それらを囲むように存在している。
ここはこの船、アスルファイサのブリッジ。この船のほぼ先端に当たる部分だ。
そんなブリッジの中央、最も高いところにある席の上で、一人の男が静かに寝息を立てていた。
その手にはこの船の舵が握られており非常に危ないのだが、彼に言わせればこんなところ眠っていても通り抜けられると言う自信の表れらしい。
確かにその状態でデブリの隙間を縫うように船を操っているのだからその操船技術の高さが伺える。
そしてその周りにいるほかのクルー達も彼を起こさないことから、仲間からの信頼の高さも伺える。
だがそれでも怖い為、ラングは男を起こすことにした。
「おい、カルロ、起きな。ほら、ほら、ほら」
ラングは男の足を下から掴むとありえない方向に無理やり曲げようとした。
突然の激痛に男が飛び起きるとぱっと手を放し、笑顔でおはようと言う辺りが怖い。
男の方はおはようどころじゃない。気持ちよく快眠(船を操りながらはどうかと思うが)していたところを無理やり起こされたのだ。しかもかなりの痛みを伴って。
怒鳴ろうとして自分の足元に顔を向け、口を開いたところでげんなりと息を吐いた。
「なんだお前か、ラング」
なら仕方が無いと男、カルロ・ビスターシュは呟いた。そのままため息をつき、色の濃い茶髪に手を突っ込む。
「あーくそ、後もう少しで木星までいけたのによぉ」
「どうせ夢だろう?」
「夢に見ちゃいけないか!? ダーツ乗りにとって木星の氷の輪は憧れの場所なんだぞ!」
カルロがぐっと拳を握り力説する。
ダーツと言うのは一人乗りの小型高速機で、その流線型の形からそう呼ばれている。
これに乗る人はダーツ乗りと呼ばれ、宇宙船を操舵するものにとって敬意を示すものとなっている。
と言うのもダーツがあらゆる宇宙航行船よりも速く、そしてその速さゆえ操作が難しいからである。
火星ではそうしたダーツ乗りが多く、その速さを競うレースや勝負が頻繁に行われている。
地球で行われているストリートレーシングと同じようなものだ。
ダーツの値段自体もさほど高くなく、簡単に手に入る為、その競技人口は非常に多い。
年に何度か火星公社主催の大規模な大会が開かれ、その中継は火星コロニーすべてで放映される。
ゆえに優れたダーツ乗りは総じて有名になり、多くの憧れや敬意をその身に受ける。カルロもその一人だ。
だがそんな男もラングにとっては年下の若者でしかない。いつものように力説するカルロを無視し、いつもの席に座った。
「んー、9時間ぐらい寝たかな? 宇宙だと時間の感覚が分からなくて困る」
「15時間ですよ、先輩」
と、ラングの横から冷ややかな声が聞こえてきた。声の方向に顔を向けると黒い長髪が目に入ってきた。
「よぉ、ミリー、今日も綺麗だな」
そうラングが言うとミリーと呼ばれた女性はとくに表情を変えずに「下手なお世辞はいりません」とだけ言った。
彼女の名前はミリン・タチバナといい、まだ19歳の若いオペレーターだ。
そのツンツンとした興味なさげな態度は、クルー達にとっても既におなじみのもの。
特に何かとミリンに話しかけるラングには慣れたもので、いくら興味なさげでもかまわず話続ける。
そしてミリンが切れる寸前で話を終わらす。周りから見ればミリンがラングに手玉に取られているように見える。
これも、クルー達にとっておなじみの光景だ。ちなみにミリーという呼び方はラングの考えた愛称。
ほとんどのクルーがこの呼び方を使う。
今日もまたラングに手玉に取られたミリーはそれだけで人を刺し殺せそうな鋭い視線を隣に座る対象に向けていた。
ラングは気にせず、次の依頼内容に目を通した。
「火星上空の警邏?カルロ、お前こんな仕事受けたのか?」
「ん、ああ。なかなかの額がもらえる仕事だったしな。嫌か?」
「いや、そういう判断は全部お前に任せてるから、お前が選んだ仕事ならいやでもなんでもないんだが……」
カルロの返答を聞いてもラングには納得できないものがあった。だがそれを決して口に出さない。口に出す必要が無い。
ラングはラングなりにカルロのことを信頼している。だから必要ない。
自分は、だが。
「カルロ! この仕事の概要、詳しく聞かせな!」
後ろでドアが開いたと思えば途端威勢のいい女性の声が聞こえてきた。
ラングが後ろを振り返るとそこにはカルロをじっと睨む茶髪の女性がいた。
「ね、従姉さん……」
それに気圧されるカルロ。女性の名はノワ・ビスターシュ。カルロの従姉でこちらも元ダーツ乗り。
「あんたの事だからまともな任務だろうけど、警邏を傭兵に頼む時点でおかしいと思わなかったのかい!?」
「い、いや、向こうにはちゃんとした理由があったし……」
「理由? こっちは聞いてないよそんなもん! いったいどんな理由だったか、答えてみな」
「い、いや、近くで海賊が出たからそれを退治するけどその間警邏ができないから代わりにって……」
先ほどラングと話していたときとは違うおどおどした口調で説明するカルロ。
彼にとってこの従姉は畏怖の対象で、絶対勝てない相手でもあった。ラングと出逢った頃から今まで二人の力関係は一切変わっていない。
以前昔の頃をたずねた時、カルロは全身を震わせながら必死に首を振り、何も答えなかった。それだけの恐怖をこの従姉に感じているということだ。
「で、それを聞いて納得したあんたはこの仕事を受けたってことかい?」
カルロが必死に頭を縦に振る。それに対してノワは呆れたといった感じで、しかし確かに怒気を含んだ声音で言った。
「あんた、今火星の動きがおかしいこと知ってるさね? そんなときに火星の警邏を受けるなんてあたしゃ信じられないよ! 全く、一応アルにはいつでも出せるように言っといたよ。なんか起きた時の為にね!」
ノワとカルロの会話を聞いている間、ラングはずっと笑いっぱなしだ。無論隠れてだが。
隣のミリンも同じように笑み……ニヤリとした嫌な笑みだが笑っている。
こうやって仕事の疑問点はすべてノワがカルロに詰め寄るおかげで無くなる。
いつの間にかそういう分担がノワについてしまったのだ。そんな彼女も別にカルロが嫌いなわけではない。
弟として可愛がっているし信頼もしている。けれどそれとこれとは別らしく、ほぼ毎回あのようにカルロに詰め寄る。
この船では当たり前の光景に、ラングは安堵感を覚えた。
「ふぅ、やっぱりいいな」
そう呟くと、ラングは背もたれに身を任せ、ゆっくりと瞳を閉じた。
戦場とは違い、変化の乏しい、惰性とさえ言われそうな日常。
ラングはそんな日常が好きだった。その中に身を委ね、気ままに生きるのも彼の憧れだった。
……例えそれが次の瞬間陽炎のように消えてしまうほど儚いものでも……
ラングは気にせず、次の依頼内容に目を通した。
「火星上空の警邏?カルロ、お前こんな仕事受けたのか?」
「ん、ああ。なかなかの額がもらえる仕事だったしな。嫌か?」
「いや、そういう判断は全部お前に任せてるから、お前が選んだ仕事ならいやでもなんでもないんだが……」
カルロの返答を聞いてもラングには納得できないものがあった。だがそれを決して口に出さない。口に出す必要が無い。
ラングはラングなりにカルロのことを信頼している。だから必要ない。
自分は、だが。
「カルロ! この仕事の概要、詳しく聞かせな!」
後ろでドアが開いたと思えば途端威勢のいい女性の声が聞こえてきた。
ラングが後ろを振り返るとそこにはカルロをじっと睨む茶髪の女性がいた。
「ね、従姉さん……」
それに気圧されるカルロ。女性の名はノワ・ビスターシュ。カルロの従姉でこちらも元ダーツ乗り。
「あんたの事だからまともな任務だろうけど、警邏を傭兵に頼む時点でおかしいと思わなかったのかい!?」
「い、いや、向こうにはちゃんとした理由があったし……」
「理由? こっちは聞いてないよそんなもん! いったいどんな理由だったか、答えてみな」
「い、いや、近くで海賊が出たからそれを退治するけどその間警邏ができないから代わりにって……」
先ほどラングと話していたときとは違うおどおどした口調で説明するカルロ。
彼にとってこの従姉は畏怖の対象で、絶対勝てない相手でもあった。ラングと出逢った頃から今まで二人の力関係は一切変わっていない。
以前昔の頃をたずねた時、カルロは全身を震わせながら必死に首を振り、何も答えなかった。それだけの恐怖をこの従姉に感じているということだ。
「で、それを聞いて納得したあんたはこの仕事を受けたってことかい?」
カルロが必死に頭を縦に振る。それに対してノワは呆れたといった感じで、しかし確かに怒気を含んだ声音で言った。
「あんた、今火星の動きがおかしいこと知ってるさね? そんなときに火星の警邏を受けるなんてあたしゃ信じられないよ! 全く、一応アルにはいつでも出せるように言っといたよ。なんか起きた時の為にね!」
ノワとカルロの会話を聞いている間、ラングはずっと笑いっぱなしだ。無論隠れてだが。
隣のミリンも同じように笑み……ニヤリとした嫌な笑みだが笑っている。
こうやって仕事の疑問点はすべてノワがカルロに詰め寄るおかげで無くなる。
いつの間にかそういう分担がノワについてしまったのだ。そんな彼女も別にカルロが嫌いなわけではない。
弟として可愛がっているし信頼もしている。けれどそれとこれとは別らしく、ほぼ毎回あのようにカルロに詰め寄る。
この船では当たり前の光景に、ラングは安堵感を覚えた。
「ふぅ、やっぱりいいな」
そう呟くと、ラングは背もたれに身を任せ、ゆっくりと瞳を閉じた。
戦場とは違い、変化の乏しい、惰性とさえ言われそうな日常。
ラングはそんな日常が好きだった。その中に身を委ね、気ままに生きるのも彼の憧れだった。
……例えそれが次の瞬間陽炎のように消えてしまうほど儚いものでも……
……リッサー……
突然耳の奥に声が響いた
鼓膜を伝ってではなく、脳に直接呼びかけられたような感覚的な声
同時に苦痛に似た閉塞感に襲われる
いま自分がいる場所が分からなくなるような強い閉塞感
……私の……声は……聞こえる?……
再び声が聞こえる
ラングは答えようとしたが口が動かない
それどころか指一つ動かすことができない
……あなたの……使命……世界の……声……Doll……
目の奥に強い刺激が走る
思わず目を開いたが、何一つ見えない
ただ暗闇だけが広がる
……覚えていて……この光景……止められるのは……イレギュラーの……貴方だけ……
声と共に、今度は一つの光景が頭に入ってくる
二機のガンダムが互いを刺し貫き、爆散する
同時に火星と地球をすさまじい閃光が包みこむ
その閃光は、一瞬にして多くの命を奪い去った
ヒトも、動物も、星さえも
……これは……私では止められない……Dollでも……貴方でなければ……
徐々に声が小さくなっていく
ラングは待ってくれと叫びたかった
しかしいくら叫ぼうとしても口は、身体は動いてくれなかった
……お願い……ラング・リッサー……まことの……私の……民……
まて!! 待ってくれ!!消えるな!! まだなにも!!
声ではなく、心で叫ぶ
瞬間、暗闇は白い光に包まれ、ラングも共に光に包まれる
ま……て……まだ……なにも……
光と自分の境が無くなっていく
自分の存在が消えていく感覚
そんな中ラングの心は叫び続ける
だめだ……消えては……まだ……まだ……!!
手を伸ばして気がした
もう感覚も消えかけている
だが確かに手を伸ばした気がした
そしてその手を、誰かが優しく包むのも、確かに感じた
……私の……名前は―――
声が聞こえたと感じた瞬間、ラングの意識は光と同一化した
突然耳の奥に声が響いた
鼓膜を伝ってではなく、脳に直接呼びかけられたような感覚的な声
同時に苦痛に似た閉塞感に襲われる
いま自分がいる場所が分からなくなるような強い閉塞感
……私の……声は……聞こえる?……
再び声が聞こえる
ラングは答えようとしたが口が動かない
それどころか指一つ動かすことができない
……あなたの……使命……世界の……声……Doll……
目の奥に強い刺激が走る
思わず目を開いたが、何一つ見えない
ただ暗闇だけが広がる
……覚えていて……この光景……止められるのは……イレギュラーの……貴方だけ……
声と共に、今度は一つの光景が頭に入ってくる
二機のガンダムが互いを刺し貫き、爆散する
同時に火星と地球をすさまじい閃光が包みこむ
その閃光は、一瞬にして多くの命を奪い去った
ヒトも、動物も、星さえも
……これは……私では止められない……Dollでも……貴方でなければ……
徐々に声が小さくなっていく
ラングは待ってくれと叫びたかった
しかしいくら叫ぼうとしても口は、身体は動いてくれなかった
……お願い……ラング・リッサー……まことの……私の……民……
まて!! 待ってくれ!!消えるな!! まだなにも!!
声ではなく、心で叫ぶ
瞬間、暗闇は白い光に包まれ、ラングも共に光に包まれる
ま……て……まだ……なにも……
光と自分の境が無くなっていく
自分の存在が消えていく感覚
そんな中ラングの心は叫び続ける
だめだ……消えては……まだ……まだ……!!
手を伸ばして気がした
もう感覚も消えかけている
だが確かに手を伸ばした気がした
そしてその手を、誰かが優しく包むのも、確かに感じた
……私の……名前は―――
声が聞こえたと感じた瞬間、ラングの意識は光と同一化した
「ッ!? レーダーになんか引っかかったぁ!?」
いつの間にか眠っていたラングはその声に起こされた
声の持ち主は先ほどからずっと通信機器やコンソールを動かしていた金髪の男だ。
途端、そこにいた全員の表情が引き締まる。目が覚めたばかりのラングも例外ではない。
瞬時に覚醒し目の前のモニターをじっと睨む。
「シェバル!! 何が引っかかった!!」
ついさっきまで情けなかったカルロも、まるで別人のような鋭い声を飛ばす。
「か、かなりの熱源を持ってる!! デブリじゃない! それにこのスピード、MSだ!!」
シェバルと呼ばれた男は始めこそ上擦った声を出したが後になるほどその声は落ち着いてきた。
この速い落ち着きが彼らの強さの一つであった。
「MS!? グワッジか!?」
「違う、それより速いし、データにも存在しない!」
「ち、向こうが味方である可能性は!?」
「ありません。先ほどから連邦軍の通信回路で呼びかけてますが反応無しです」
さほど広くないブリッジで慌しく情報が飛び交わされる。そんな中、ラングだけが口を閉じ、じっと自分のコンソールに出された相手の情報を見つめていた。
やがて、静かに口を開く。
「火星か……」
その言葉に、カルロは即座に頷き、言った。
「だろうな、ラング、出てくれ!」
「やれやれ、今度からは仕事を選んでくれよ船長」
ラングはシートのベルトを外すとカルロの肩軽く叩きながらそう言って、ブリッジを出て行った。
先ほどの夢も忘れてはいないが今はそれも意識の片隅に追いやった。
いまは目の前の事に集中する。その切り替えの速さもラングの強さだった。
ラングが目指したのは格納庫だった。さほど大きくない船の為20秒もかからずに格納庫の扉の前に着く。
先ほどと同じようにドアの開閉スイッチを押し、ラングは格納庫に入っていった。
いつの間にか眠っていたラングはその声に起こされた
声の持ち主は先ほどからずっと通信機器やコンソールを動かしていた金髪の男だ。
途端、そこにいた全員の表情が引き締まる。目が覚めたばかりのラングも例外ではない。
瞬時に覚醒し目の前のモニターをじっと睨む。
「シェバル!! 何が引っかかった!!」
ついさっきまで情けなかったカルロも、まるで別人のような鋭い声を飛ばす。
「か、かなりの熱源を持ってる!! デブリじゃない! それにこのスピード、MSだ!!」
シェバルと呼ばれた男は始めこそ上擦った声を出したが後になるほどその声は落ち着いてきた。
この速い落ち着きが彼らの強さの一つであった。
「MS!? グワッジか!?」
「違う、それより速いし、データにも存在しない!」
「ち、向こうが味方である可能性は!?」
「ありません。先ほどから連邦軍の通信回路で呼びかけてますが反応無しです」
さほど広くないブリッジで慌しく情報が飛び交わされる。そんな中、ラングだけが口を閉じ、じっと自分のコンソールに出された相手の情報を見つめていた。
やがて、静かに口を開く。
「火星か……」
その言葉に、カルロは即座に頷き、言った。
「だろうな、ラング、出てくれ!」
「やれやれ、今度からは仕事を選んでくれよ船長」
ラングはシートのベルトを外すとカルロの肩軽く叩きながらそう言って、ブリッジを出て行った。
先ほどの夢も忘れてはいないが今はそれも意識の片隅に追いやった。
いまは目の前の事に集中する。その切り替えの速さもラングの強さだった。
ラングが目指したのは格納庫だった。さほど大きくない船の為20秒もかからずに格納庫の扉の前に着く。
先ほどと同じようにドアの開閉スイッチを押し、ラングは格納庫に入っていった。
初めに目の入るのは惚れ惚れするような深い黒。続いてその黒で塗られた4枚の主翼といくつかの武装、そして本体。
狭い格納庫の中、一機だけ存在する美しい機体。
MAF-01『セイレーン』
ラングの愛機にして、現在ではかなり珍しい完全な戦闘機だ。そう、MSではなく戦闘機。ただし旧時代の戦闘機とは違う。MSと同等の力を持たせる為に作られた試作型高性能戦闘機。
多くの試作武装が搭載されており、連邦内部でもその存在を知るものは少ない。これは機密と言うわけではなく興味を示す人間がいないだけである。
MSが主流の今戦闘機など取るに足らない。そう考える人間のほうが遥かに多い時代だ。その考えを変え、戦闘機の支援機としての有能さを示す為に作られた機体。
それがMAF-01『セイレーン』だった。
ラングはすばやく愛機に近づくと、コックピットハッチを空け、中に飛び込む。
ハッチを閉め、コンソールに起動キーを打ち込み、『セイレーン』を起動させる。
同時に『セイレーン』の機体各部に赤い光が走り、すぐに消えてしまった。
その様子を中にいたラングは見ることはできなかったが、全周囲モニターが起動したことでその現象が起きたことを知ることはできた。
さらに機体各部を細かく動かし、以上が無いことを確かめ終わると、機体の下にあるハッチが開いていくのが目に入った。
ぱっと顔を上げると入り口近くのコンソールを操作していた少年がぐっと親指を突き出してきた。
ラングは相手に見えないことを承知で同じように親指を突き出し、すっと表情を引き締める。
ハッチが開ききり、『セイレーン』を支えていたアームが船の外に『セイレーン』を出す。
「ラング・リッサー!! 行ってくる!!」
アームから機体が解放された瞬間、美しい歌声を持つ魔性の鳥は宇宙へと飛び立って行った。
アスルファイサから出撃したラングは、程なくして身元不明のMSを見つけた。
データが無いと聞いたからてっきりカスタムされたグワッジかムウシコスだと思っていたが全く別の機体だ。
紅く塗装され、ビームライフルを構えながらこちらに突撃してくる三機のMS。
確かにグワッジとは比べ物にならないほど速い。最新型のガーランドよりも速いかもしれない。
だが……
「『セイレーン』から見ればまだまだ遅い、な」
そういってラングは三機のMSの後方に回った。
ステルス機能を持つ『セイレーン』を三機のMSは捕捉できていないのだ。それに気付かぬままアスルファイサに近づく三機。
ラングはその後ろにしっかりとついていく。怪しい動きをしたらすぐにでも打ち落とせるよう小型ビームキャノンの標準をそれぞれの機体に合わせる。
自分達の後方で魔性の鳥が爪を磨いているのも知らず、三機のMSはアスルファイサに近づき、突然止まる。
それに合わせ『セイレーン』も逆噴射を用いて停止する。
「そこの船!! 所属と船名を言え!!」
通信を通じて若くない男の声が聞こえてくる。おそらくMSのパイロットの一人だろうが、なかなかに重みのある声だ。
「人に名前を聞くならまず自分から名乗れ。お前達はどこの所属だ!?」
こちらはアスルファイサから。カルロの声だ。
「どこの所属かって? 教えてやろう!! 我らこそ地球連邦の圧政から火星を救おうと立ち上がった、火星義勇軍だ!! どこの馬の骨か分からんが我らに会えたことを誇りに思うがいい!!」
ずいぶんと尊大な口調で先ほどのパイロットが言う。ラングはやや呆れながらも、火星義勇軍と言う言葉に興味を持った。
何故なら名前だけならば既に知っている存在だからだ。
「火星義勇軍ねぇ。こっちの船名はアスルファイサ、所属は傭兵団アスルビエントだ」
こちらもやや呆れ気味に言葉を返すカルロ。それに対しての反応はあまりよくなかった。
「ふははは、なかなか通った名前だが、あのアスルビエントがそんなちっぽけな船に乗っているはずがあるまい!とにかく、お前達の船は我々が拿捕する!! 下手な抵抗をしてみろ!! どうなっても知らんぞ!」
相変わらず尊大な態度を崩さないパイロットに対して、溜息交じりのカルロの声が聞こえてきた。
「はぁ、下手な抵抗はするな、か。じゃ、上手に抵抗すればいいのか? まぁ良いか。ラング、やってくれ」
「了解」
カルロの言葉に対し即答したラングは、何のためらいも無く引き金を引いた。
「何!!」
カルロの言葉に異常を感じたMS達がアスルファイサに向けたビームライフルを撃とうとしたが、時既に遅し。
『セイレーン』の4枚の翼に取り付けられていた小型のビームキャノンが、それぞれのMSの胸部を正確に撃ち抜いた後だった。
狭い格納庫の中、一機だけ存在する美しい機体。
MAF-01『セイレーン』
ラングの愛機にして、現在ではかなり珍しい完全な戦闘機だ。そう、MSではなく戦闘機。ただし旧時代の戦闘機とは違う。MSと同等の力を持たせる為に作られた試作型高性能戦闘機。
多くの試作武装が搭載されており、連邦内部でもその存在を知るものは少ない。これは機密と言うわけではなく興味を示す人間がいないだけである。
MSが主流の今戦闘機など取るに足らない。そう考える人間のほうが遥かに多い時代だ。その考えを変え、戦闘機の支援機としての有能さを示す為に作られた機体。
それがMAF-01『セイレーン』だった。
ラングはすばやく愛機に近づくと、コックピットハッチを空け、中に飛び込む。
ハッチを閉め、コンソールに起動キーを打ち込み、『セイレーン』を起動させる。
同時に『セイレーン』の機体各部に赤い光が走り、すぐに消えてしまった。
その様子を中にいたラングは見ることはできなかったが、全周囲モニターが起動したことでその現象が起きたことを知ることはできた。
さらに機体各部を細かく動かし、以上が無いことを確かめ終わると、機体の下にあるハッチが開いていくのが目に入った。
ぱっと顔を上げると入り口近くのコンソールを操作していた少年がぐっと親指を突き出してきた。
ラングは相手に見えないことを承知で同じように親指を突き出し、すっと表情を引き締める。
ハッチが開ききり、『セイレーン』を支えていたアームが船の外に『セイレーン』を出す。
「ラング・リッサー!! 行ってくる!!」
アームから機体が解放された瞬間、美しい歌声を持つ魔性の鳥は宇宙へと飛び立って行った。
アスルファイサから出撃したラングは、程なくして身元不明のMSを見つけた。
データが無いと聞いたからてっきりカスタムされたグワッジかムウシコスだと思っていたが全く別の機体だ。
紅く塗装され、ビームライフルを構えながらこちらに突撃してくる三機のMS。
確かにグワッジとは比べ物にならないほど速い。最新型のガーランドよりも速いかもしれない。
だが……
「『セイレーン』から見ればまだまだ遅い、な」
そういってラングは三機のMSの後方に回った。
ステルス機能を持つ『セイレーン』を三機のMSは捕捉できていないのだ。それに気付かぬままアスルファイサに近づく三機。
ラングはその後ろにしっかりとついていく。怪しい動きをしたらすぐにでも打ち落とせるよう小型ビームキャノンの標準をそれぞれの機体に合わせる。
自分達の後方で魔性の鳥が爪を磨いているのも知らず、三機のMSはアスルファイサに近づき、突然止まる。
それに合わせ『セイレーン』も逆噴射を用いて停止する。
「そこの船!! 所属と船名を言え!!」
通信を通じて若くない男の声が聞こえてくる。おそらくMSのパイロットの一人だろうが、なかなかに重みのある声だ。
「人に名前を聞くならまず自分から名乗れ。お前達はどこの所属だ!?」
こちらはアスルファイサから。カルロの声だ。
「どこの所属かって? 教えてやろう!! 我らこそ地球連邦の圧政から火星を救おうと立ち上がった、火星義勇軍だ!! どこの馬の骨か分からんが我らに会えたことを誇りに思うがいい!!」
ずいぶんと尊大な口調で先ほどのパイロットが言う。ラングはやや呆れながらも、火星義勇軍と言う言葉に興味を持った。
何故なら名前だけならば既に知っている存在だからだ。
「火星義勇軍ねぇ。こっちの船名はアスルファイサ、所属は傭兵団アスルビエントだ」
こちらもやや呆れ気味に言葉を返すカルロ。それに対しての反応はあまりよくなかった。
「ふははは、なかなか通った名前だが、あのアスルビエントがそんなちっぽけな船に乗っているはずがあるまい!とにかく、お前達の船は我々が拿捕する!! 下手な抵抗をしてみろ!! どうなっても知らんぞ!」
相変わらず尊大な態度を崩さないパイロットに対して、溜息交じりのカルロの声が聞こえてきた。
「はぁ、下手な抵抗はするな、か。じゃ、上手に抵抗すればいいのか? まぁ良いか。ラング、やってくれ」
「了解」
カルロの言葉に対し即答したラングは、何のためらいも無く引き金を引いた。
「何!!」
カルロの言葉に異常を感じたMS達がアスルファイサに向けたビームライフルを撃とうとしたが、時既に遅し。
『セイレーン』の4枚の翼に取り付けられていた小型のビームキャノンが、それぞれのMSの胸部を正確に撃ち抜いた後だった。
目の前で爆散したMSには目もくれず、ラングは『セイレーン』の通信を全周波に変え、あるものを探す。
アスルファイサでも同じことが行われていた。彼らの探していたもの、それは火星義勇軍の宣戦布告だ。
地球には無い新型のMSを開発しているほどだ。それが行われていてもおかしくない。
幸い、探す必要なかった。通信に、全周波で強い割り込みがはいって来たのだ。
『我々、火星コロニー群独立運動団体は今この時をもって、地球連邦に対し独立を宣言する!』
強制的に開かれたモニターに映る、壮年の男性。モニター越しからでも伝わる、研ぎ澄まされた覇気。
『ダイモスよりもたらされた技術が、我々を勝利へ導くのだ!!』
男は手にした日本刀を掲げ、高々と言い放った。
途端、通信という事を忘れてしまいそうになるような爆発的な歓声が巻き起こる。
その歓声をしばらく聞いていたラングは、いい加減飽きてきたのかすべての通信を切った。
熱狂的な歓声も消え、仲間の声すら聞こえなくなったコックピットには、ただ無音だけが広がる。
全周囲モニターの、ちょうど正面にテラファーミングの終わった、赤と青の火星が見える。
その姿が目に入った瞬間、再びあの夢がフラッシュバックする。
語りかけてきた声、頭の中に入ってきた光景……
激しい頭痛と共にそれらがひとつ残らず浮き上がり、渦に飲まれるように混ざってゆく。
全てが混ざり合い、一つの情報となった時、ラングは目を見開いた。
アスルファイサでも同じことが行われていた。彼らの探していたもの、それは火星義勇軍の宣戦布告だ。
地球には無い新型のMSを開発しているほどだ。それが行われていてもおかしくない。
幸い、探す必要なかった。通信に、全周波で強い割り込みがはいって来たのだ。
『我々、火星コロニー群独立運動団体は今この時をもって、地球連邦に対し独立を宣言する!』
強制的に開かれたモニターに映る、壮年の男性。モニター越しからでも伝わる、研ぎ澄まされた覇気。
『ダイモスよりもたらされた技術が、我々を勝利へ導くのだ!!』
男は手にした日本刀を掲げ、高々と言い放った。
途端、通信という事を忘れてしまいそうになるような爆発的な歓声が巻き起こる。
その歓声をしばらく聞いていたラングは、いい加減飽きてきたのかすべての通信を切った。
熱狂的な歓声も消え、仲間の声すら聞こえなくなったコックピットには、ただ無音だけが広がる。
全周囲モニターの、ちょうど正面にテラファーミングの終わった、赤と青の火星が見える。
その姿が目に入った瞬間、再びあの夢がフラッシュバックする。
語りかけてきた声、頭の中に入ってきた光景……
激しい頭痛と共にそれらがひとつ残らず浮き上がり、渦に飲まれるように混ざってゆく。
全てが混ざり合い、一つの情報となった時、ラングは目を見開いた。
幼い頃の記憶、父親と母親が見せてくれた光景
何千年も前から世界を変えてきた意思
そしてその意思を具現化するために作られて人形達
そして同時に蘇える父の言葉
何千年も前から世界を変えてきた意思
そしてその意思を具現化するために作られて人形達
そして同時に蘇える父の言葉
それが、彼に確信を与えた。
真(まこと)の火星の民、1400年前から火星の地下遺跡に住み、研究を重ねてきた民。
地球の歴史には決して残らない時間を生きてきた民。
その民を統べる火星の領主だったリッサー家の使命。
ならば、とラングは思う。
その使命、果たして見せよう。
配役の決まったこの人形劇で、唯一のイレギュラーとして、生きて見せよう。
「それが、真の火星の民の最後の一人である俺の役目なんだろ」
そう、力強く言い放つ。
自分が生まれ育った火星に向かって。
真(まこと)の火星の民、1400年前から火星の地下遺跡に住み、研究を重ねてきた民。
地球の歴史には決して残らない時間を生きてきた民。
その民を統べる火星の領主だったリッサー家の使命。
ならば、とラングは思う。
その使命、果たして見せよう。
配役の決まったこの人形劇で、唯一のイレギュラーとして、生きて見せよう。
「それが、真の火星の民の最後の一人である俺の役目なんだろ」
そう、力強く言い放つ。
自分が生まれ育った火星に向かって。
どこからか、返事が聞こえた気がした。
進宇宙暦102年
火星の独立宣言と時同じくして火星上空に咲いた小さな決意の花。
それは、表の歴史から見れば取るに足らない些細な出来事だった。
だがそれすらも彼らは記録する。
途絶えぬ世界の声を聞き続け、多くの惨状を目に焼き付け、彼らは歴史を記憶する。
それは決して表の歴史、正史には残されない。存在すら肯定されない。
だが確かに彼らは存在し、記憶し続けていた。
後の世に伝わる『焔星の外史』、これはその一行の中の出来事だった。
火星の独立宣言と時同じくして火星上空に咲いた小さな決意の花。
それは、表の歴史から見れば取るに足らない些細な出来事だった。
だがそれすらも彼らは記録する。
途絶えぬ世界の声を聞き続け、多くの惨状を目に焼き付け、彼らは歴史を記憶する。
それは決して表の歴史、正史には残されない。存在すら肯定されない。
だが確かに彼らは存在し、記憶し続けていた。
後の世に伝わる『焔星の外史』、これはその一行の中の出来事だった。