651 名前:光の翼(6) 1/5 :2015/09/18(金) 08:59:06.02 ID:S5URKxtz0
その夜。シーブックたちは食卓で情報交換を行っていた。刹那とヒイロとジュドーの姿がなかったが
刹那はソレスタルビーイング、ヒイロはプリベンターの活動で、ジュドーはジャンク屋仲間の家に泊まってくるということだった。
刹那とヒイロはともかく、ジュドーは自分に内緒で金儲けの話を進めているのではと勘繰ったガロードだったが
さすがに弟のトラブルを無視してまで金儲けに走るような人間ではないと考えを改める。
「俺はジャミルのところに行ってきたけど、心当たりはないってさ」
ジャミル・ニートは裏社会、主にバルチャー達に顔が利く。
バルチャーというと強盗まがいのならず者集団と思われがちだが、有力なバルチャーにはその土地の名士などと懇意にして上手く世を渡っている者も多い。
ジャミル自身が博識ということもありガロードは期待していたのだが、よい結果は得られなかったようだ。
「シーブックの方は?」
「犯人みたいな奴は見つけた」
「本当か!?」
カミーユが目を見開き、ガロードが身を乗り出す。
「これ――サナリィで借りてきたんだ」
と、オーティスに借りたレコードブレイカーの写真を取り出す。
「こいつが?」
「確かに、背中はV2っぽいけど…見たことねーぞ、こんなの」
「誰かに盗まれて、サナリィの本社にはもう存在しないらしい」
「ってことは、今度はこいつを探さなきゃいけないってこと?」
「ああ。見たとおり、変わった見た目だろ? 見た人がいればすぐにわかるはず――」
「待ってくれ」
シーブックの言葉を遮ったのはカミーユだった。
「俺も、犯人のものらしい機体の情報を手に入れたんだ」
「本当か?」
「そういえば、兄さんは昼間どこに行ってたんですか?」
「俺はコウ兄さんと一緒にゲーブル探偵事務所に行ってきたんだ」
カミーユは、昼間の自身の行動について語りだした。

  •  ・ ・
その日の昼間。カミーユと(ちょうど暇をしていた)コウはヤザン・ゲーブルの探偵事務所を訪ねていた。
「ンで、俺のところに来たってわけだ」
新聞記者兼探偵という奇特な男だが、腕は確かだ。
応接室でカミーユの説明を受け、ヤザンは得心した風にうなずいた。そして真顔になってこう言った。
「断る」
「理由は?」
「気に入らん。以上」

652 名前:光の翼(6) 2/5 :2015/09/18(金) 09:02:46.40 ID:S5URKxtz0
「それだけ!?」
カミーユの問いに対してあっさりと言ってのけるその男にカミーユは苛立ちを覚えた。
それに気が付いたコウは、いつカミーユが爆発しやしないかと隣で気をもんでいるようだった。
しかしカミーユはこういう場において激昂してもかえって不利になるだけだと、短いながらも暮らしていたエゥーゴ社で教わっていた。
「それだけだ。俺ぁ仕事を選んでるんだよ。ガキに使われるのも気に入らねえ」
「無茶苦茶だ…!」
コウが言う。事実その通りだが、ヤザンはどこ吹く風だ。
「どっこい、こんなんでも生活できてるもんでな。スタンスを変える気はない。帰れ」
「わかりました。お時間を取らせてしまい申し訳ありませんでした。…失礼します」
こういう相手に何を言っても無駄だ。カミーユは素直に頭を下げた。
普段から考えられないようなカミーユの殊勝な態度にコウは驚いていたが、カミーユが頭を下げるのを見て慌ててそれに倣った。
「待ちな」
「何か」
帰ろうとするカミーユを、ヤザンが呼びとめた。
「ガキがお上品に取り繕ってんじゃねえよ。ハラワタ煮えくり返ってんのが丸わかりだぜ」
「そうですか? 繕うのをやめるとあんたをぶん殴らなくちゃいけなくなるんですが」
やはり相当に怒っていたのだろう。言うことに遠慮がない。普段とはまた違う迫力にコウが隣で一人慄いていた。
「おお、怖い怖い。しかし繕うなと言った瞬間にとっとと繕うのをやめちまう潔さは気に入った。
 特別サービスだ、いいこと教えてやる」
「え?」
あんたに気に入られたって嬉しくもなんともない、と憎まれ口をたたこうとしたカミーユの口から思わず素っ頓狂な声が漏れた。
Gジェネ社の輸送船が襲撃された事件は知ってるな?」
「は、はい…」
「そいつの"積み荷"について、マスコミ連中は全く報道しねえが…ザンスカール社とGジェネ社が共同開発した最新のMSって噂だ ザンスカールっていえば、サナリィのライバル企業の一つだろ? 技術者の引き抜きくらいやっててもおかしくねえ」
「まさか、その"積み荷"が…」
「あくまで噂。しかもその噂を事実と仮定して立てた憶測。調べるだけ時間の無駄になる可能性のが高いがな」
「あ、ありがとうございます…でもなんで」
「言ったろ、時間の無駄になる可能性の方が高いからだって。俺はそんなに暇じゃねえんだ
 調べたきゃ、てめぇらで勝手に調べてみな」
「…わかりました。それでは、失礼します」
「おお、帰れ帰れ。二度と来んな」
ゴミでも払うような手ぶりをしつつ、ヤザンはカミーユらを追い返した。

653 名前:光の翼(6) 3/5 :2015/09/18(金) 09:04:10.84 ID:S5URKxtz0
「…タイミングの悪い」
カミーユたちが出て行ってしばらくして、入口を睨みながらヤザンは呟いた。
「面白そうなヤマ逃しちまったじゃねえか。公務員なんざなるんじゃなかったぜ」
カミーユたちにもたらした情報、本当は自分が直接調べるつもりだったのだ。
技術は確かな変態企業がこれまた変な企業と提携して製造した秘密の超高性能MS。
探偵である前に一流のMS乗りであるヤザンが心ひかれるのは当然だった。
「なあダンケル…秘密捜査官って公務員に入るのか?」
助手のラムサスが、隣にいる同じく助手のダンケルに聞く。
「所長がそう言ってんなら、そうなんだろ? …大変ですね、所長も」
「本当にな。輸送船襲撃事件の調査なんざ警察にやらせときゃいいってのに、ゴップの奴は何を考えているんだか…」
ヤザン・ゲーブル――ヴァスキ秘密捜査官はコートを羽織り、事務所を出て行った
秘密捜査官の調査が必要な輸送船襲撃事件。その裏に何があるのか、好奇心に心を躍らせて。

  •  ・ ・

「――とまあ、そんなことがあったわけだ。」
「事故で盗まれたMSか…そういえば何が盗まれたのか報道されてなかったな」
「…うん、確かに報道されてないね」
情報端末を片手にキラが言った。キラはキラでネット界隈を漁っていたらしい。
「ネットじゃ色々と推測されてるみたい。伝説巨神にザク神様、宇宙を破壊する機械のバケモノ
 やはり新しいガンダム、いやザクだ、いやいやヅダが最高だとか…」
「ふーん…」
「でも、その積み荷にしろF99にしろ、警察でも見つけられないようなモノなんだよね。
 僕らに見つけられると思う?」
「それを言うなよ…」
あえて考えないようにしていたことを指摘され、カミーユは頭を抱えた。
「本当に輸送船襲撃事件の犯人がジェリド先輩を襲ったんなら、シロー兄さんに任せるしかないと思うな」
現実的な意見である。
「…ウッソ、お前はどう思う?」
「え、僕ですか?」
カミーユに話を振られ、ウッソが自分を指差した。

654 名前:光の翼(6) 4/5 :2015/09/18(金) 09:06:42.48 ID:S5URKxtz0
「お前なあ。そもそもジェリドに疑われてんのはお前なんだぞ。お前は今後どうしたいんだって話
 キラの話も加味して、な」
「そう…ですね…」
キラの言うことはもっともだ。これまで調べた候補がジェリド襲撃の犯人であれば、ウッソ達にはどうにもできないだろう。
警察すらも欺いた相手なのだから。それに、これ以上兄たちを巻き込むのも心苦しかった。
「ひとまず、様子を見ようと思います。兄さんたちには悪いけど…」
「ん。了解」
「犯人突き止めて警察や先輩から謝礼もらおうと思ったんだけどなー」
「お前、そんなこと考えてたのかよ」
あっさりと、いつもの――事件が起きる前の食卓の様子に戻った。気に病むなということだ。
まあそんなこんなで。消化不良といった感を残しつつも、夜は更けていった。

  •  ・ ・

翌日の朝。
「行ってきまーす」
ガンダムファイトの観戦チケットを片手に、セカイとアルとシュウトが出かけるのを見送る。
身内なら簡単にチケットが手に入る――などとは思うなかれ。ドモンが家族にチケットを渡すことは意外に少なかったりする。
見てほしい試合の時はきちんと渡してくるので、それ以外の時は欲しい人が努力をして手に入れろ、ということだろう。
ではこのチケットはどうやって手に入れたかといえば、セカイがあらゆるツテを頼って手に入れたものだ。
「ギャン子さん達によろしくね」
そのツテには彼のガールフレンドたちも含まれる。当のガールフレンドたちはデートのつもりでウキウキしているのだろうに。
「おう。じゃ、行ってくる」
内心で苦笑しながら、鈍感な兄たちを手を振って見送る。
「さて…どうしようかな」
この日のウッソは特に予定もなく、余ったハーブを使って作ったハーブティなどを飲んでいた。
他に家に残っているのはドモンの修行に付き合わされて心身ともに疲弊したベルリだけだ。
ジェリド襲撃事件については消化不良な結果ではあったが、やれることはもうないのだし。休んでいるのも悪くはないだろう。
ソファに座り、ぼーっと窓の外を眺める。日差しを浴びながら、鮮やかな色に彩られた農園を見てハーブティを呑む。
――僕なんかより、トレーズさんやロラン兄さんがやってる方が似合いそうだなあなどと思い、ウッソは一人笑った。
完全にリラックスした状態。じわじわと眠気がやってきて、ウッソは眠気に誘われるまま意識を手放した。

655 名前:光の翼(6) 5/5 :2015/09/18(金) 09:07:55.24 ID:S5URKxtz0
昼。電話の音でウッソは意識を取り戻した。うつらうつらとしているうちに、本当に眠ってしまったようだった。
寝起きで鈍くなっている体を急かして電話を取る。
「はい、ガンダム家ですが…」
気のせいか、どこかで聞いたような気がする男の声だ。しかしその口調には険があった
『ウッソ・エヴィンだな』
「…? どなたですか」
『Gジェネ社の輸送船を襲ったのは私だ』
「えっ!?」
『貴様に決闘を申し込む。今すぐ"カサレリア"とかいう孤児院に一人で来い。要求を違えた場合はカサレリアを焼き尽くす』
「カサレリア――シャクティの家を!? なんでそんなこと…」
切られてしまった。いたずら電話ならまだいい。しかし、違ったらどうなるか。
兄たちを頼りたかったが、だめだ。こんな電話があったことが知れれば、自分ひとりで行かせてはくれないだろう。
自分ひとりで行かなければ、カサレリアが――シャクティの家が破壊されてしまうのだ。
それに、もしもシャクティが家に居たら。ウッソはおぞましい想像に身を震わせた。
「…大丈夫。ぼくはスペシャルなんだ」
不安を振り切るための独り言だったが、あまり効果はないようだった。しかし、どれだけ不安でもやるしかない。

格納庫。家人がほとんど外に出ているので、当然ながら空きが目立つ。V2ガンダムに乗り込み、アサルトバスターのパーツを取り付ける。
以前は全体にエネルギーが行き渡らない欠点があったが、兄たちによって改良されていた。一息ついて、口を開く。

「ウッソ・エヴィン。V2ガンダム――行きます!」
光の翼をはためかせ、V2ガンダムが空を舞う。目指すはカサレリア。――犯人はそこにいる。


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最終更新:2017年05月23日 22:49