例え、届かなくても ◆auiI.USnCE
―――手を伸ばしても、きっと、届かない。届くわけが、ない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
出逢いの切欠はなんだっただろう?
今はもうとてもおぼろげな記憶だけど。
でも不思議とウマはあった。
だから、ずっと一緒に居た。
大学まで一緒になった。
あいつの事、何でも理解できてる。
自惚れかもしれないけど。
そんな気がしたのよ。
でも、やっぱり、それは、そんな気でしかなかった。
あいつはどんどん先に行って。
まっすぐ、まっすぐやりたい事だけに一直線で。
前を向いて、ずっと進んでいく。
あたしはそんな、あいつに向かって手を伸ばそうとして。
追いつこうと、縋ろうとして。
でも、あたしは伸ばそうとした手が伸ばしきれなかった。
そのまま、宙を掴んで、ただ彷徨って。
結局、あいつの背には届かないんだろうなと、思ってしまった。
――――あたしの手は、届かないと、そう、感じてしまった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「さて、もう少しで山道には出るかな?」
「そうですね」
わざと明るく振舞いながら、銃を持って進む瑞希を、遊佐は冷たく観察しながら追随している。
とりあえず、瑞希を盾にしながら、行動をするという手段をとった遊佐は歩きながらも、高瀬瑞希という人間を観察していた。
盾にするつもりでも、どんな人間かは理解しておきたい。
自分の様に裏がある人間なのか、それとも真性のお人好しなのか。
まずそれを理解する為に、彼女を静かに観察し、そして冷酷に分析する。
時には会話を交えて、高瀬瑞希の本質を、知る為に。
いつものオペレーションの様に、見て、そして考え出した答えは。
(言うまでもなく、お人好しでしょうね)
やはり、最初の印象の通り、ただのお人好しだった。
それも筋金入りのお節介。
ぶっきらぼうながらも、気遣いの忘れない優しい女性。
悪い事は見過ごせず、正しいと思った事を行う。
そんな、普通の女性でしかなかった。
悪く言えば、日常というぬるま湯につかった女でしかない。
だから、戦力的期待値など薄いし、遊佐や戦線の価値になる人間ではない。
盾にするのが、一番いい女ではあるのだが。
(けれど――)
一つだけ、引っかかる事がある。
些細な、問題。
気にする必要性が無い……とは言い切れない。
たった、一つの不確定要素。
それが、戦線や自分に仇名す可能性になる。
数パーセントでしかないかもしれない。
けれど、捨てきれない可能性。
「瑞希さん。詳しく聞きたいのですけど……」
「何?」
「貴方が言った『千堂和樹』は貴方にとって一体どんな人物なのですか?」
高瀬瑞希にとって、千堂和樹という存在が。
ただの腐れ縁と彼女が説明した存在が。
どうしても、その説明では納得いかないのだ。
遊佐の直感が、ただの腐れ縁ではないと告げている。
だから、彼女が、千堂和樹という人間に対して、どう思っているのか。
場合によっては、その感情が鋭い刃になる、その可能性を。
遊佐は、オペレーターとして捨てきれないのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
なんとなく。
なんとなくなんだよ。
一緒にいれたらいいなって。
ずっと、出来るなら、ずっと。
そう思ってた。
そうだといいなって。
けれど、そんなは無理なんだなって。
何となく、だけど、そう解かったんだ。
だって、あいつは真っ直ぐに進んでいく。
どんどん先に行って。
あたしは、そんなあいつの背をずっと見ていくんだ。
それでもいい。
いいんだと思い込もうとしたんだ。
だって、あたしじゃあいつを振り返らせる事は無理だから。
あたしの手じゃ、きっとあいつには届かない
あいつが真っ直ぐ行くと決めたら、絶対に止めないから。
だから、それで、いいと思った。
けれど――――それでも――――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「どうって、ただの腐れ縁よっ」
「本当に?」
「嘘つくはずないでしょ。そりゃあ、馬鹿だし一直線だけど……あたしはただ世話を焼いてるだけだし」
瑞希は呆れたように、遊佐に簡単に告げた。
そして、気に障ったのか少し歩く足を速めていく。
瑞希の背を見ながら、遊佐はその反応を分析し始める。
(腐れ縁だけでずっと世話を焼き続ける……ですか)
一応、筋は通っている。
けれど、納得は勿論出来るわけが無い。
遊佐の中で疑念は強まっていく。
高瀬瑞希は極度のお人好しだ。
それは間違いない。
けれど。
「瑞希さん」
「今度は何?」
「『銃の安全装置』が外れてますよ?」
「えっ……ま、まぁいつでも撃てるようにした方がいいか……と思って」
「暴発するかもしれませんから、平常時はかけておいた方がいいです」
「そう……解かったわ」
お人好しだからこそ、誰かを殺す可能性だってある。
例えば、『誰かを護るため』に。
勿論、簡単に殺す事なんてお人好しだからこそ、出来ないだろうけど。
でも、
(安全装置をはずしてたの……実は、私達を殺そうとしてたんじゃないですか?)
最初に、高瀬瑞希が遊佐と春原を見つけた時。
彼女が勘違いしなければ、遊佐が誘導しなければ。
二人纏めて、殺そうとしていたんじゃないのか。
その、千堂和樹の為に。
勿論、覚悟がぶれて、殺せず、今に至るのだろうけど。
そして、安全装置をかけられない理由が、未だに誰かの為にという意識があるのではないかと。
遊佐は、まるで他人事のように、観察し、分析をする。
勿論、今考えているのは、可能性の話でしかない。
考えている事が正解と言えるには、まだ大分弱い。
だから、遊佐は瑞希を観察し、見極める。
もし、遊佐が考えた通りならば、それはそれで考えは無数にある。
(それはそれで、扱いを変えて使いますよ、高瀬瑞希さん。貴方がどんな考えでも―――)
だから、遊佐は静かに笑う。
冷静に、誰にも気付かれないように。
(今は――――私の駒でしかありません。私は私の目的に……その駒を有効活用する、それだけです)
目の前の駒を、上手く扱ってみせる。
その自身が、遊佐にはあるから。
遊佐にだって護りたいものはある。
その為に、遊佐は遊佐の本分を発揮する。
観察し、分析し、そしてそれを指揮官に伝え、場合によっては自らが判断を下す。
オペレーターとして、自らやる事をやる、それだけだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして、あたし達は殺し合いに呼ばれた。
理由はわからない。
わからないけど、殺さなければならない。
それはきっと悪い事だと思う。
してはいけない事だと理解できる。
けれど、もう、生きれないと一緒なのだ。
あたし達が生き残る可能性なんてきっと低いだろう。
なら、ならね。
あたしは、最後まであいつに真っ直ぐいってほしい。
ずっと、ずっと先へ。
真っ直ぐ貫いて欲しい。
あいつの背に手は届かなくても。
あいつの、進むべき道は護りたい。
他の何もかもを捨てても。
護ってやりたい。
だって、あたしはあいつが今でも――――
まだ、迷っている。
だから、あの子も助けた。
護りたかった。それもあたしの本心だった。
でも、それでも、あいつを、あたしは――
それでいいのか、解からない。
本当に、いいのか、解からない。
解かる訳、無い。
でも、だけど。
あたしは、あいつに真っ直ぐに進んで欲しい。
たとえ、あたしを見てなくても。
振り返らなくても。
それで、いいから。
いいから、あたしは。
あいつに生きて欲しいから。
だから。
その為に、戦うんだ。
【時間:1日目午後4時ごろ】
【場所:D-4】
遊佐
【持ち物:不明支給品、水・食料一日分】
【状況:健康】
高瀬瑞希
【持ち物:SIG SAUER P220(残弾14/15)、水・食料一日分】
【状況:健康】
最終更新:2011年09月06日 18:36