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――――あたたかな手から生まれた心を持たない人形。 笑うこともなく、話すこともない。








     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






天上の世界で生まれ、暴走した立華奏の分身。
一度はオリジナルによって消失したはずだが、再びまた、この殺し合いの島にて活動をしている。
今度の分身は、神たるディーによって創造されたものだ。
其処に立花奏が持っていた生徒の為といった意識はない。

ただ、立華奏を模した戦闘機械。

けれど、其処には立華奏の意識と記憶は持っている。
また、アブソーブでは消失しないといわれた立華奏の分身。


そして、ハーモニクスを使えないといった、ハーモニクスならざる立華奏の分身である個体。


全くの模倣ではなく、歪な形で存在しているこの島での立華奏の分身。



そんな存在を作り出し、行動させた天上の神は、いったい、



―――一何を求めたのだろうか? 何を求めているのだろうか? 



そして、


――――何の意味があるのだろうか?







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「…………ん……あれ……?」

日が沈みかかった夕暮れ時。
草原に横たわる様に気絶していた姫百合瑠璃はむくりと起き上がった。
未だに頭が痛いが、それを労わる様に頭をさする。
それから瑠璃は頭を抑えながら、徐々に気絶する寸前の記憶を手繰り寄せていく。
確か自分は珊瑚の為に、人を殺そうとして。
放送してるバカが居て、そいつを襲おうとして。
逆に此方が撃退されて、殺されたか、気絶させられたかして。
それで、今目を覚ましている。
それならば、今自分は生きているのか。
ほっと胸を撫で下ろして、大きく息を吐いたその瞬間

「あ、起きたわよ」

背後に感じる気配と、聞こえてくる女の高い声。
瑠璃は驚きながら、振り返ると其処には真紅のワンピースを着こなしている気品の高そうな少女が立っていた。
少女の手には大きい無骨なボウガンが握られていて、瑠璃は無意識の内に緊張してしまう。
気がつけば周りにきられた縄が沢山ある。
と言う事はあの後拘束され、この女に拘束を解かれ、助けられたのだろうか。

「…………えーと、それで、名前は何かしら?」
「……そっちから名乗るべきやと思うやんけど」

訝しげに名前を聞いてきた少女に、瑠璃は不安になりながらも不遜に問い返す。
気絶してる所を見られ、助けられたからと言ってイニシアチブを取られたくないと思ったからだ。

「……むっ……まあいいわ。綾之部、綾之部可憐よ」
「……瑠璃」
「はい?」
「姫百合瑠璃や。一度で覚えや」
「……あんたねぇ」

可憐と名乗った少女は頬をひつくかせ、眉をひそめている。
少しだけ話しただけでも、プライドが高そうだなと瑠璃は思う。
この女だけなら、何とか出来るかもと瑠璃は考えを巡らす。
そして、今気づいた事ではあるが、支給されていたはずのリボルバーが無くなっている。
あの二人に取られたか、この少女に取られたかは解からないけど。
だけど、武器が無いなら無いなりにやる手段はあると瑠璃は思う。
そうして、瑠璃は可憐にどうしかけようか、思案しかけたその瞬間、


「――そこまでだ、二人とも」

またしても背後から降りかかる声。
瑠璃が振り返ると長身で引き締った筋肉を持つ男が立っていた。
手に刀を持ち瑠璃達を見つめている。
何時から居たのだろうと瑠璃は内心で驚いている。
気配を消しながら、瑠璃の背後に接近したのだろうか。
それにしても近すぎる。距離にすると数十センチも無い。
これだけで男が只者ではない事が何となくだが理解できた。

「って、貴方、声を発すれば直ぐ来ると言ったじゃない」
「む、少し遠くまで見回りをしててな、すまない」

あの可憐の小さな声を拾ったのだろうか。
どれ位遠くにいたかわからないが、少なくとも周りには居なかった。
となると、直ぐに声を拾いそれなりに遠い距離から、来た事になる。
そして、この身のこなし。やはり格闘技を使った少女みたいな化物じみた強さなのだろう。

「それはまあいい。瑠璃と言ったな? 俺はオボロと言う。そして単刀直入に聞く。何があった?」
「何があったって……」
「お前の声と名前を聞く限り、放送の主ではない事は確かだしな、もう一度聞く。何があった?」

オボロの眼光は鋭く、瑠璃を射抜くように見つめる。
瑠璃は、思わず、息が詰まるような感覚に襲われてしまう。
可憐は何とか出来ると思ったが、この男は一筋縄ではいかない。
此処で失敗は出来ない。失敗したら恐らく瑠璃にとっていい結果にはならないだろう。
最悪殺されてしまう可能性だってある。
慎重にこなさなければならない。

「そりゃ……あんた達も聞いてやろ? 放送」

あれだけのでかい音での放送だったのだ。
草原しかない場所で瑠璃を見つけたと言う事は、聞いていた事は確かなのだろう。
それで向かってきたのは間違いないだろう。
しかしあの放送は殺し合いを否定するための放送だった。

だから、瑠璃は

「ああ……そうだな。そしてお前が気絶していた」
「そうよ、なんで貴方は気絶したの……?」
「そりゃ……襲われたからにきまっとるで」

自分が生き残るために、珊瑚の為に嘘をつく。
瑠璃は返り討ちにあっただけで、別に襲われたのではない。
だから、まず簡単な嘘を吐く。実際気絶していたので、危害を加えられたと言うのは事実なのだから。

「襲われた……!?」
「そや、あの女ともう一人おった男にや」
「あの放送は殺し合いを否定する物だったはずだが……?」
「けど、それは嘘やった。仲間を呼ぶ振りをして、寄って来たものを殺すためやったんや」

そして、放送そのものを嘘だと瑠璃は言う。
出来るだけ矛盾がなく、自分の都合のよい為に。
一部始終を見られていたらお仕舞いだが、見る限りそれはないようだから。
だから、瑠璃は生き残るために最善を尽くす。

「しかし、それなら疑問が残るな」

だが、オボロは瑠璃の嘘を知ってるかのように、瑠璃に対して疑問を投げかける。
瑠璃は少しビクリとしながらも、オボロの疑問を待つ。

「殺すつもりだったら……なんで、お前は生きてるんだ?」

そう、それはオボロ達にとって当然の疑問。
殺すつもりで呼びかけたら、瑠璃は死んでなければならない。
気絶で済んでいる訳がないのだ。
瑠璃はその当然の疑問について、


「さぁ……よく解からんわ」
「なっ!?」
「拳での一撃を食らって意識が混濁したまでは、覚えてるんやけどそれから先は知らんのや」


涼しげに解からないと瑠璃は言葉を吐く。
実際に何故殺されてないかを説明で取り繕えば繕うほどぼろが出てしまう。
瑠璃自身気絶させられたのだから、その後の事はよく解からない。
気絶していたと言う事実は瑠璃に味方をしている。
だから、取り繕う事もなく、ただ解からないと言う。
そして、

「知らないって……」
「さあ……もしかしたら、あんたらが着たから殺す暇なかったやないの?」
「それは……」

可憐が口ごもり、そっぽに向く。
ありえる可能性を試しにあげてみたら、どうやら当たりだったようだ。
大方去っていく奴らを見たのだろう。
だとしたら、瑠璃にとって好都合だ。
後は

「それだけや、うちの言葉がどれだけ信用してもらえるかわからないけど……せやけど、うちが知ってる事はこれだけや」

語る言葉はない。
内心不安で震えていても、少し強がって被害者を演じていればいい。
弱者を演じて、襲われた女の子と思ってもらえればいい。
判断するのは、彼らに任せればいい。
最も情報も少ない今、彼らが示す答えなんて、解かっている。
どうせ、彼らは瑠璃の思った通りの人たちだろう。
それは、

「解かった。お前の言葉を信じよう」
「オボロっ?!」

きっと、彼らがお人好しだという事。
放送を聴いて訪れる人間は、お人好しかバカか、自分のようなそれに乗じて殺そうと企む人間に違いないのだろうから。
瑠璃は上手くいったと内心でゆっくりと微笑んだ。
最も可憐は信じられないようにオボロを見つめているが。
まあ、可憐なら自分でも出し抜けるだろうと瑠璃は思っている。

「確認するが、お前は殺し合いもすることがなく、そして独りなんだな?」
「そや……不安で仕方ないんや」
「そうか……お前も弱い少女でしかないなら……俺がお前も護ろう」
「おおきに……お願いしてもええかな?」
「ああ、任せておけ」

オボロの提案を瑠璃は当然のように呑む。
可憐のような少女を連れていることから、どうせこういう展開になる事は見えていた。
解かった事だが、自分が返り討ちにあった事やオボロの身のこなしを見ても自分は大分弱者に位置されるようだ。
武装もない今、単純に戦っても生き残れないだろう。
だから、オボロのような強い人間に護ってもらって、助けてもらおう。
そして、期に乗じて、オボロ達も殺そう。
それが、瑠璃のような弱者ながらも殺し合いに乗る者の出来る手段だろう。

よって、瑠璃は弱くて、不安に怯える少女を演じて、オボロの提案を呑む。
最も不安に怯えてるのは確かだったが。
けれど、それは自分の身ではなくて、珊瑚の事で。
弱いあの子が殺されていないか……それだけが少し不安だった。

「じゃあ……よろしゅうな」

瑠璃はその不安を隠して、オボロに言葉をかける。
可憐が未だに睨んでいたが、とりあえずは気にしない。
もしかしたら、珊瑚は殺されてるかもしれないという可能性。
それが自身も殺されかけたせいか、どうしても否定できなくて。

何となく、空を見つめる。
憂いの表情を浮かべて、瑠璃は祈る。
どうか、珊瑚が無事でありますように、と。
ただ、それだけを祈りながら。









     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「ちょっとオボロ!」
「なんだ可憐? そんなに怒ってどうした?」

不安げそうに空を見上げる瑠璃から、可憐はオボロを引っ張り少し離れる。
そして、聞かれない距離になった所で途端に可憐は怒り出す。
オボロは気づいていないようだが、可憐の言いたい事は決まっている。

「あの子の言葉、信じるの? とても信じきれる段階まで着てないと思うけど」
「ふむ……それはそうだが」

瑠璃を信じるのかと言う事。
瑠璃の言ってる言葉は確実に信じられる段階までとても着ていないのだ。
矛盾点も知らないで通されたのだから。
オボロもその点は承知しているようだ。

「だが、それじゃあ疑うのか? 瑠璃の言っている事が間違いだと言い切れるのか」
「いや……それも言い切れないけど」
「それに瑠璃が言っている部分で正しい事もあったのは事実だ」
「それもそうだけど……」

とはいえ、瑠璃が言っている事を間違いだと否定できる材料はない。
それに瑠璃が言っていた、自分達が二人組みを見たと言うのも事実なのだから。
ならば、オボロは

「とりあえず、信じて様子を見る。疑わしいなら、その時はその時だ」

今は信じて様子を見る。
それがオボロの出した答えだった。
可憐は理解は出来るが、それでも納得しきれなかった。

「それに……」
「それに?」
「瑠璃が弱い者ではある事は変わりないだろう? ならば俺は瑠璃も護る。それが俺の役目だ」

そう、それなのだ。
オボロのいい所であり、可憐が少しイラついてる最もな理由だ。
弱者を護るという考えは褒めるべきだろう。
だが、ほんの少しだけ。
少しだけ、自分ひとりだけと言った意識はあったのだ。
だから、それが少し寂しくて、けれどそんな自分に苛々して。

ぽつんと、可憐は小さく呟く。


「……きっと貴方は弱い人なら誰でも助けるんでしょうね」


それはきっと事実だろう。
先ほどの会話で解かっていた。
けど、この割り切れない気持ちはなんだろう。

なんだか、可憐は唐突に自分が孤独のように思えて。
そんな感情に襲われて事に驚いて、オボロを見つめる。

「……うん? 何か言ったか?」
「別になんでもないわ」

聞こえてないならいい。
助けてもらって感謝もしているのは事実だ。
だから、今はオボロについていこうと可憐は思った。
胸を襲った理解できない孤独に思えるという感情はあえて、無視をした。


「そうか、なら後ろで一緒に瑠璃と下がっていろ」
「……え?」
「……襲撃者が、来るぞ!」

突然、オボロの声が低くなる。
そして、その目は途端に鋭くなり、前を向く。
可憐は下がりながら、その襲撃者の姿を見る。


それは、目を赤くした、何処か人形のような、少女だった。










     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「……ちっ! 中々やるな!」
「………………」

人形のような、少女、いや、立花奏の分身である彼女はただ自分に存在する意識のまま戦っている。
それはただ、攻撃せよ、戦えという意識のまま、手甲剣を振るっているだけだ。
目の前の男、オボロといったか。
中々の強者だが、彼女は意に返さず、淡々と剣を振るう。

音無との遭遇の後に、自分の肩の怪我を包帯を巻くなどして簡単に応急処置をした。
此処はもう天上ではないことは知識として知っている。
殺せば蘇られない。わたしはそれを何故か知っていた。
だから、傷はなおさなければならなかった。
銃弾は残っていないから処理そのものは簡単だった。
実際に右腕を楽に動かす事が出来る。
そして、また動き出したら、オボロ達を見つけた。
だから、攻撃の意識のまま、襲い掛かった。
弱者を保護しているようだから、攻撃して煽動するのが目的だ。


そう、戦えばいい。
そう、攻撃すればいい。


それが、わたしの存在理由。


「……っ、ぐあっ!?」


オボロを強化した力のまま吹き飛ばした。
けれど、オボロは意に返さず向かっていく。
ならば、もう一度吹き飛ばすだけだ。
戦えばいい。
ただ、戦っていけばいい。

「オオオオオオオッ!」

オボロが地を蹴り、舞うように空を跳んでいく。
凄まじい速さだが、ガードスキルを使えば対応できる。
オボロの跳ぶタイミングを見計らい、天使はそれに合わせる。

「……………………」
「ぐぉ……!」

また、オボロを吹き飛ばした。
けど、直ぐに立ち上がる。
浅かったか。
けど、また攻撃すればいい。
それが、存在する理由。


またしても、オボロの俊足を生かした攻撃。
大丈夫だ、またあわせればいい。
その意識のまま動き、吹き飛ばした。

けれど、また立ち上がる。
怪我をおわせないつもりはないのだが、何故彼は怪我を負わないのだろう。
上手くいなされているのだろうか。
けれど、また戦えばいい。


戦って。
戦って。

戦え。


わたしの存在理由のまま。


それが、わたしだ。




 ◇ ◇ ◇



「ぐっ」

なんど、吹き飛ばしたんだろう?
もう、覚えていない。

けれども彼は傷つかない。
切り裂こうと思っても、いなされる。
だから吹き飛ばすので精一杯だ。

いや、戦ってみて解かる事だが、恐らく実力そのものはオボロの方が高い。
けど、彼は何故か実力を抑えている気がする。
それが何故だか解からないけど。
劣勢なのに抑えるなんて、意味不明だ。

オボロはまた吹き飛ばされる。
でも、向かっていく事をやめない。
いっそ殺してしまえばいいのだろうか。

そうだ、殺してしまおうか。
……いや、それはダメだ。

何故だか、解からない。
解からないけど、ダメな気がする。

そう思って、跳んで上から攻撃してきたオボロを吹き飛ばす。
けど、オボロは立ち上がった。


そして、彼は何故か笑う。


「やはりな」

その呟きは何処か確信めいたような感じだった。
何か嫌な感じがする。
早々に片付けなければ。
そう考え、手甲剣を掲げ、切り込む。

「甘いっ」
「……っ!?」

信じられない、予想外の事が起きた。
切込みをオボロによって弾かれたのだった。
有り得ないと思い、もう一度仕掛けるがまた弾かれた。

「もう、お前の攻撃はきかん!」

馬鹿な、何が起きた?
攻撃が読まれたというのか。
いや、わたしが試されていたとでもいうのか。
そこに実力を抑えていた意図があるのだろうか。

いや、そんな事、考える必要なんてない。
そうだ、戦え、戦え。
攻撃して、そんなのまやかしだと振り払え。

「きかんと言った筈だっ!」

もう一度仕掛けるが、今度は完全に避けられた。
なんだ、何が起きた?
もう、力を抑える必要がない……?

何故……?


「お前の刃を受け続けて、そして確信した」


何を?
何を知ったというのか?
わたしの刃は攻撃する為だけだ。


「お前の刃は、心が存在していない、空っぽの刃だ」


空っぽ?
心が存在しない。
何を言うの?
当たり前、私の刃は攻撃する為にあるのだから。
そう、

「それがどうしたというの? 私の刃は戦う為だけにあるの」

それが、わたしの存在理由だから。
けれど、オボロは否定する。

「だから、お前は俺には勝てん! 空虚な心の刃で、俺の意志を籠めた刃で勝てると思うなっ!」


だから、何を言うの?
空虚な刃な訳がない。
戦う事がわたしなのだから。
そう思って剣を振るうが弾き返される。

「戦う事がわたしなの。空っぽな訳がない」
「なら―――聞こう」

聞く?
何を?


「お前――――何の為に戦っている? 戦う理由は何だ? 答えろっ!」


戦う理由?
そんなの決まっている。


それは――――――それは?


え?


……それは、何?


一度消されて、また蘇って。
そして、また戦って。

ただ、戦う為に。



あれ、じゃあ、わたし、何の為に、戦っているんだろう?


前は……前は何の為に戦っていたのだっけ?


……思い出せない。


いや、違う。戦う事が、わたしだ。


それが、わたしの存在理由……存在理由のはず……なのに。


わたしには、戦う理由が、あったのに。

解からない。
答える事が、出来ない。


ただ、戦えばいい。
それだけしか、思い出せない。
何故だろう、戦う事が、わたしだったのに。

何故……だろう。
戦う理由は必要ない。
そんな気持ちがあるのに。
でも、それが何だか可笑しい気がする。


あれ……あれ――――なんだ。




――――わたし、こんなにも、からっぽ、だったんだぁ。



「あぁ…………」


剣が、解除される。
防御が、解除さえる。


自己矛盾が、襲ってくる。


何時の間に、こんな、存在になってたんだろう。




――――わたし、こんなにも、歪な、人形、だったんだぁ。




「わたしは………………何もかも失ったのね……何も無いん……だ」



がらがらと何かが、崩れていく。


それは、わたしのからだ?
それは、わたしの存在理由?
それは、わたしのからっぽな心?



もう、解からなかった。







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





そして、人形は人形である事に気づいて。
何もかも、からっぽだという事に気づいて。
自己意識なんて、とても薄くて。
存在理由なんて、そもそも存在しなくて。


何もかも、崩壊していく。


その、始まりだった。






     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




……なんだ?
人形のような少女が防御すら止めてしまっている。
俺は容赦なくそのまま攻撃を振るが、防御をする素振りすら無い。
いきなり殺すのも忍びないし、仕方なく峰で刀を振るった。
そしたらそのまま少女は受けて、吹っ飛んだ。

「お、おいどうした?」
「…………………………空っぽだったの」

それは、俺が指摘した事ではあった。
だけど、それ以上に何か様子が可笑しい。
なんだ、何が起きたんだ?


「何も無かったんだぁ………………わたしの戦う理由」


お、おい。
なんで、そんなに無防備なんだ。
……訳がわからない。


「わたしは、なんで、この島に、存在したの、かな?」


人形のような少女の独白は続く。
それはまるで、今までの戦いぶりとは比べようも無く。


「わたしは、どうして、ここに、いるの?」


自分が自分である事の意義。
自分が居る事への疑問。

それを考えるのは、とても、哀しい事なのだろう。


「わたしは、なーんにも、ないんだぁ…………あぁぁ……あああああぁぁぁあ」


哀しい少女の慟哭。
けれど、少女は涙を流せていなかった。
涙が出ないのか、叫びが地に響く。


「なら、わたしは、どこにいく? どうすればいい? 解からない、解からない……わからないっ!」


少女の絶叫。

壊れたかのように、叫んで。


そして、手甲剣を顕現させ、俺に向かって来る。
まるで死にたがっているように。
殺せと言うばかりに。
暴走したように、襲い掛かってくる。



それに対して、俺はどうする?
どうしたい?


決まっているだろう?
俺は護りたい。
大切な人も、弱い少女も。全部。

今、目の前の少女はどうだ?


――――泣きたがっていたじゃないか。



なら――――決まっている。



「お前を…………たった一人の弱い少女すら、護れないなら、俺は存在する意義が無い」


だから。


「お前を救ってみせるっ!」



俺は、少女を救うために。


地を蹴り――――風になった。







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇








「あ、また……」

戦闘を見守っていた可憐の呟きが漏れる。
不安そうな可憐を見ながら、瑠璃は燻っていた。

(そうだ、これでええんや)

これでいい。理想的な展開のはずだ。
強い人に護られながら。強い人の戦闘を避ける。
それでいい。それが望んだ道だ。

けど、瑠璃は納得がいかない。
これでいいのかと自問する。
胸に浮かぶのは大切な珊瑚の事。
珊瑚を守るために、自分は居るんじゃなかったか。
それなのに、ただ護られてるだけでいいのかと。
心の中でずっと燻っている。
理性はこれでいいと思っているのに、感情がとまらない。

「…………っ、あのバカ! 何で防御しないのよ!」

隣で可憐の叫びが響く。
オボロが防御を捨て、少女に何か言ってるらしい。
オボロが飛ばされるのを見ながら、瑠璃は思う。

(――――あーもう知らんっ! うちはさんちゃんを護りたい。このまま、動けずに居られるわけあらへんやろ!)

自分の気持ちに嘘をつくな。
珊瑚を護りたい。
だから、

「可憐、ちょっと、それかしいっ!」
「あ、ちょっと何処にいくの!?」
「決まってるやろ! 助けにいくんや!」

ボウガンを分捕って瑠璃は駆ける。
護られるばかりは嫌だ。
護られて護られて、それで、納得できるのか?
珊瑚を護る者として、護られるだけの存在は嫌だ。

だから、瑠璃は駆け出した。
ただ、戦場へ向かって。







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「あぁぁああぁああああっ!」

言葉にならなかった。
ただ剣を振るった。
何も無いわたしはやはり戦いに頼るしかなかった。
できれば、このまま消えて無くなればいい。
きっとオボロは剣を振るい殺してくれるだろう。
だから、私はただ、闇雲に剣を振るった。

「ぐっ!?」

なのに、オボロは防御せず、吹き飛んでいった。
何故だろう?
何故そんな事をするんだろう。

わたしには、もう何も、残っていないのに。

「聞いてくれ、戦う理由が無いなら、戦わなくていいんだっ!」

戦う理由が無いなら戦わなくていい?
確かにそうかもしれない。
けれど、

「無理よ……だって、わたしは戦う為にしか存在しないから。攻撃する事で自己を保ってられるから。たとえ戦う理由が無くても」


私は戦う為に、存在しているのだから。
戦う理由が存在しなくても。
矛盾だらけの歪な人形でしかない。

「そんな訳が……ないっ! 泣こうと思った少女が、戦う為に存在している……そんな訳が無いっ!」

……ああ、わたしは泣こうとしていたの?
あの叫びに、そんな意味があるの?
前は理解できていたはずなのに。
今は、ちっとも理解できる気がしない。
そして、オボロは言う。


「お前は弱い少女だ…………だから、俺が護ってやるっ!」


護る……?
わたしを……?
わたしが弱い?


なんで、そんな優しい言葉をかけるの?
戦うしかない人形に。


「護る……?
「ああ護ってやる! お前だけじゃない戦えない者、弱い心の者……皆護るさ」


護る……かぁ。
何処か懐かしい響きがする。
それに、温かい。

なんだろう、この気持ち。

ずっと前から、存在していたかもしれない。

そんな、気持ち。


こんな、人形に、そんな言葉をかけてくれて、何故か、温かかった。


でも、


「無理よ、わたしは攻撃する事が、戦う事が存在意識としてあるの……護られるだけになんて……なれない……なりたいかもしれない……けど、なれないのよ!」


ただ護られる事は無理なのだから。
わたしという存在が生まれた時点で攻撃する事が宿命付けられてるのだから。
だから、わたしは戦い付ける事を決められてるんだ。



「だから――――」
「それなら――――誰かを護る為にその力を使えばええんや! 誰かを護る、それを戦う理由にすればいいんや!」


不意に響く、別の少女の声。
振り返るとボウガンを持ちながら、此方を向いて、叫んでいた。

「瑠璃っ!? 危ないぞ!」
「うちかて、護られてるだけは嫌や! 護りたい人を護りたいんや!」

少女は気丈に叫ぶ。
護りたいと。


「せやけど、うちには力が無いから、護れるかもわからへん……せやけど…………あるんやろ! あんたには護れるだけの力が!」


わたしに向かって叫んでいる。
護るだけの力?
わたしが持つのは

――――ガードスキル。


誰かを護る為に、生まれた力。
オリジナルが使える、護る力。
その力。


「けど、わたしには、護る人もいないっ! 護れるかも解からないっ……いつか誰かを攻撃してしまうかもしれないっ!」


でも、力を持っても護れないものは護れない。
護りたいものもいない。
わたしは攻撃するだけの存在だ。
それを護る力に転化するなんて、


わたしに出来るわけがない。



「なら、試してみればいいさ。俺は出来ると思う」
「……え?」

オボロが、わたしに言う。
何故、散々わたしが貴方を攻撃したのに。
そんな事、何故信じられるの?


「だって、お前は俺を殺そうと思えば、殺せた。なのに殺さなかった」
「それは役目だからよ」
「違うな、お前の本質はきっと温かいモノだ。そう、きっとお前は――――」


すうと息を吸う音が聞こえる。
何を言うか解からないのに。
ないはずのものが鼓動をうってるような音が聞こえた。


「優しさ故に――――殺せなかったんだ。だから、お前はきっととても優しい人間なんだ」




―――――あぁ。


それは、オリジナルから受け継いだモノだから、当たり前であるのに。
わたしは、蘇らない事を知識で知っていた。
だから、殺さなかった?


わたしが、やさしい、から?


……あぁ。


わたしは、何故か、その言葉が、とても、嬉しい。


「戦う理由が無いなら、見つければいい」
「護る人が居なきゃ、見つければいいんや」

オボロと瑠璃が言葉を紡ぐ。
わたしを優しく見守って。

ねえ、二人とも。


「誰かを護る為に、戦うというのは、それは、とても、優しい存在理由ね」


わたしは、そんな言葉を紡いでいてた。

震える声で、私は彼らに問う。


「―――――わたしにも、誰かを護る事が出来る?」


―――――わたしに、だれかを、護る事が、できますか?


「ああ、出来るさ……例え不安になっても、大丈夫だ。俺たちが、ついてる」


それは、わたしにとって素晴らしく優しい回答。



「あぁ……あぁ」


温かいモノが頬を伝わった。


それが、涙だと認識した時、わたしは泣いてる事に気付いた。


そして、わたしは、護る為に、戦える事に、気付いた。


その事が嬉しくて


「あぁああああああああああぁぁあああああああああ」


わたしはただ、泣いた。


優しい雫が、沢山こぼれた。


ただ、優しさだけが其処にあった。




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





戦うだけの人形は、そうして完全に崩壊した。
その後にに残ったのは、優しさと存在理由を求めている、人形のような、少女だった。


全てが終わって。
新しい何かが始まった。


それは、天上の神が意図した事なのか、どうかは解からない。


けれど、ここに、立華奏のコピーであった、少女は。


――――温かい優しい心を持って、静かに、ゆっくりと独立した彼女として、歩き出した。





     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「なあ、お前の名前はなんだ?」
「わたしの名前?」

オボロに、名前を聞かれた。
わたしは答えようとして、思いつかなかった。
立華奏は今はふさわしくない気がしたから。

「そうね、わたしは―――――わたしの名前を無くしたの」


そう、名前はもう、今は無い。

わたしがわたし自身の存在意義を本当に見つけた時。



――――私にふさわしい名前はきっと、見つかるのだろう。





     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





――――いつか聞いてほしいこの思いも、言葉にはならないけど、力の限りを振り絞って、生きていくことを知るから




【時間:1日目午後17時40分ごろ】
【場所: F-5】


 名前を無くした少女
 【持ち物:なし】
 【状況:右肩に銃創(治療済み)】

 オボロ
 【持ち物:打刀、水・食料一日分】
 【状況:肉体的疲労(大)】


 姫百合瑠璃
 【持ち物:クロスボウ,水・食料一日分】
 【状況:健康】

 綾之部可憐
 【持ち物:水・食料一日分】
 【状況:健康】


103:終わりの世界の壊れた少女の小唄 時系列順 100:Shattered Skies
112:思い願うこと、貫くこと~Several Cross-Point~ 投下順 114:例え、届かなくても
064:死というものは オボロ 123:なまえをよんで
綾之部可憐
姫百合瑠璃
073:Dead of Alive? 立華奏(harmonics1)


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最終更新:2011年09月09日 02:40