ただ、幸せな、笑顔 ◆auiI.USnCE
「ふぇぇぇ…………怖いよぉ…………」
「あー……くっそ……どうすればいいんだ……」
「ふぇぇ……」
「だっー! 俺見て泣くなー!」
目の前の幼女は泣き果て、声がからから。
俺――藤巻は精も魂も尽き果てていた。
何故そんな疲れたかというと、色んな意味で幼女に誤解されたのを解く為だった。
明らかに誤解されそうな格好をしていた俺も悪いんだが。
「ご、御免なさい藤巻のお兄ちゃん」
それでも俺自身の誤解は何とか解けた。
…………解けたのか凄く微妙な所だが。
泣きつかれただけかもしれん。
未だにびびってるし……まぁ顔のせいかもしれないが。
けれども、とりあえず名前だけを教える事はできた。
代わりに幼女は名前を教えてくれた。
奈々子というそうだ。
「気にすんな」
「うん……ぐずっ……ふぇ」
それでも、奈々子は未だに怖がっている。
そりゃまぁ理由は簡単だった。
あんなイケメン天使野郎に殺し合いをしろとか言われて。
そして、一人の首が飛んだんだ。
俺自身は好ましくないが平気ではあった。
けれどなぁ…………小学生だぞ?
小学生にそんなもん見せたらトラウマになるに決まってるだろ。
くそっ……なんか妙に腹立たしい。
苛々してむしゃくしゃするけど、此処でそれを見せちまったら奈々子が怯える。
………………ただ、今あっただけのガキなのにな。
なのに、妙に気になる。
ガキだからかもしれない。
これが同い年ぐらいだったら別に気を使う必要はなかったかもしれねぇ。
けど、こんなガキだ。
少なくとも、こんな殺し合いには似合わない。
だから
「心配すんな」
少し気恥ずかしい想いをしながら、ぽんと奈々子の小さい頭に手を置く。
そしてくしゃくしゃと撫でる。
整っていた髪が少しくちゃくちゃになったが気にしない。
「ふ、ふぇ……」
少し落ち着いたのか、俺と同じように気恥ずかしいのか。
頬を少しだけ紅く染めて、俺を見つめる。
けど、それでも、不安そうな瞳は変わらなかった。
「よし、何かほしいものはあるか?」
だから、俺はもう少しだけ奈々子を励ます為に何かを上げようかと思った。
我ながらこんな場所で、何を馬鹿な事言ってるんだろな。
奈々子は驚きながら俺を見て。
そして、ちょっと考えて。
「四つ葉のクローバー」
「あの四つ葉のクローバー?」
「うん、あの」
「そう、あのか」
何があのなのか知らん。
けれども、何か厄介なもの頼んできたな。
と言うかここにクローバーが生えてねえぞ。
やっぱ無理……
「……無理?」
……………………あぁ、もう!
泣きそうな顔で見るな!
くっそ、くっそ。
そんな顔を見せられたら。
「大丈夫だっ! 直ぐ見つけてくる。ちょっと待っていろ!」
そうやって、もう一度乱暴に頭を撫で回して、奈々子をおいて俺は駆け出す。
探し物、四つ葉のクローバー。
目的、奈々子の笑顔を見るため。
さあ、走れ!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
結局の所、俺は何時もの通り、馬鹿だったんだろう。
そして、この事に俺は悩み続けるのだろう。
この島に、俺が存在している限り。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「えへへ」
奈々子は乱暴に撫でられた髪の毛を優しく触る。
思ったよりも悪い人じゃないかもしれない。
こんなにも優しくしてくれたのだから。
つい、言葉にした四つ葉のクローバー。
本心じゃなかったというと嘘になるけど、其処までほしいものじゃない。
でも、あんなにも必死になってくれる事が奈々子には嬉しかった。
だから、つい笑みが零れていた。
ずっと怖かったけど。
ずっと帰りたかったけど。
あの男の人と一緒に居れば安全かもしれない。
そう思うと奈々子は嬉しくて。
つい、くすりと笑ってしまう。
だから、
「信じて……いいのかな?」
彼を信じていいのだろうか。
自分の為に必死になってくれた彼を。
信じて、一緒にいてもいいのかもしれない。
いや、居た方がいいんだ。
そう思ったら、何か幸せだった。
笑みが零れた。
人との触れあいがこんなにも奈々子を恐怖から救ってくれた。
――――嬉しかった。
そして、ガサリという物音が背後からする。
「藤巻のお兄ちゃ――」
けれども、振り返った先にいたのは怖い顔だけど優しい少年じゃなくて。
何処か、闇を背負った暗い顔をした、男の人。
そして――――
パンと乾いた音が一つだけ。
たった一つだけ響いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
歩いている。
男はただ歩いている。
何もかも忘れるように。
何もかも振り切るように。
草を踏みつけながら歩いている。
暗い世界を一人で。
光から逃げるように。
また、殺した。
今度は小学生にも満たない子だった。
殺した事に後悔はあるのだろうか。
解らないが、それでも容赦無く殺した。
その時、脳裏に浮かんだのは。
大切な人の妹と。
そして、あの施設の子供達。
本来、守らないといけない者達。
彼女達が未来を切り開いていくのを応援しなければならない立場なのに。
それでも、男はそれすらも、振り払って。
ただ、大切な人の為に、歩いていた。
その頬に涙が流れていてかは、知りようもない。
知りようも無いのだ。
男は、芳野祐介は歩いている。
深い奈落の底を這うように。
ただ、歩き続けていた。
――――幸運の四つ葉のクローバーすらも踏み躙って。
【時間:1日目午後3時00分ごろ】
【場所:E-08】
芳野祐介
【持ち物:
ベレッタM92(残弾10/15)、不明支給品、 水・食料2日分】
【状況:健康】
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「………………あ?」
呆然と立ち尽くしていた。
やっとの事で見つけた四つ葉のクローバーが手から零れ落ちそうになる。
何故、奈々子は倒れているのだろう。
腹を紅く染めて、倒れているのだろう。
藤巻は信じられないように奈々子を見つめる。
油断があったのかもしれない。
注意をしなければと思いながら。
でも、死んでも蘇るという意識が消えなかったのだろう。
だから、奈々子を置いて離れてしまった。
連れて行けばよかったのに。
「おにい……ちゃ……ごほっ」
奈々子が口から紅い血をを吐き出す。
藤巻は慌てて、彼女に近寄った。
奈々子は淡い笑みを浮かべて、藤巻を見つめる。
「おにいちゃ……ご、御免な」
「誰に、だれにやられた!」
「……四つ葉のクローバーは?」
焦点が合っていない瞳を藤巻に向けて。
ほしがったものをねだる。
「ここに、ある」
「あ、本当だ……」
震える手で渡された四つ葉のクローバーをぎゅっと握って。
「ありがとう……信じて……よかった」
少年に向かって満面の笑みをあげる。
少年は悲痛な顔を浮かべて泣きそうになるのが、少女にとって切なかった。
「これ、あげるね……藤巻のお兄ちゃん……今度はおにい……ちゃんに……幸運……を」
そして、もう一度少年の手に戻されて。
奈々子は笑って。
「ありが……信じ………………よかっ…………た」
最後にそれだけを伝えて。
ゆっくりと目を閉じた。
信じてよかった。
本当によかった。
最後に幸せに感じたのだから。
だから、自然に恐怖は無くて。
今度は藤巻のお兄ちゃんが幸せになればいいななんて。
ちっぽけだけど大切な想いを抱いて。
奈々子は、あまりに呆気なく、短い生涯を終えた。
「はは…………何、いってるんだよ……ど、どうせ蘇る」
藤巻は震える手を押さえながら。
必死に言い聞かせるように。
言葉を紡ぐ。
そうだ、どうせ蘇る。
いつものように。
死なない。
そうだ、そうに決まってる。
そう、思わないと。
駄目だ、駄目なんだ。
「おい……まだ蘇らねえのかよ……」
少し時がたって。
彼は泣きそうになりながら懇願する。
早く笑顔が見たかった。
死に際の笑顔を見たくてやったんじゃなかった。
だから、早く自分の為に蘇ってほしい。
「………………たのむから…………蘇ってくれよ」
また、時がたって。
それでも少女は蘇らない。
眠ったように死んでいる。
全身が震えていた。
もう、事実を認めようとする自分が居た。
けれど、絶対に認めたくなかった。
そんなの、辛すぎた。
そして、更に時がたって。
「…………………………本当に……死んだのか……?」
少年は、遂に現実を見つめる。
奈々子の、『死』を。
ありえなかった『死』を。
彼は、見つめていた。
けれど、けれど。
「よみがえって……くれ」
最後の懇願。
本当に笑顔が見たかった。
彼女に幸せになってほしかった。
けれど、
「あぁ……死んでいる」
奈々子は死んでいた。
完膚なきままに。
手が震えてやまない。
吐き気もする。
久々の死の感触が怖かった。
そして。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああ
ああああぁあああああああああああああああああああああああああああぁああああああああああああああああああああ
あぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
咆哮は絶叫に。
少年は、笑顔が見たかった少女の死を受け容れた。
その手には、幸せの四つ葉のクローバーがずっとずっと。
――――握り締められていた。
【時間:1日目午後4時30分ごろ】
【場所:E-08】
菜々子
【持ち物:無し】
【状況:死亡】
最終更新:2011年09月06日 18:39