「てーるーちゃーん♪」
高い、少女のような声で髪の長い少年は呼びかける。
後ろに手を組み、テルのまわりをスキップでくるくると回り
正面で立ち止まる。
「ねーえ、テルちゃんはまだ準備できていないのかなあ?」
それは、テルに問いかけているようで、独り言のよう。
テルが返答に困っているのを見ると、再びくるくると回る。
今度は口笛吹きながら。
「ええと・・・始めましょうか?弥散さん」
それを聞いた弥散は顔をぱっとあげると、ニコリと微笑んだ。
「それじゃあ、よろしくねっ」
でもその微笑みは、純粋な白の微笑みではなく、どこか黒さの混じった微笑みで。
それにテルは気付いていただろうか。気づくはずもないだろう。
気づいていれば、こんな状態になっていなかったかもしれない。
こんな状態。
テルは盾を頭上に、屈みこんでいた。
そして、小刻みに震えていた。
彼には、何もきかない。
ポセイドンの水も、アネモイの風も、彼には歯が立たない。
恐怖に目を閉じたままのテル。
テルが構えた盾。
そして、その盾の上には大きな大きな槍。
槍は、テルも何度か見ているもの。
よく知っている。
でも、いつも見ている槍とは違う。
槍の攻撃対象は、テルだった。
「マリストライデント」
弥散のつぶやく声が聞こえた。
覚悟を決めたテルは、今よりもっともっときつく目を閉じた。
やはり、無謀だった。
・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・?
盾に槍が当たる感触も、どこかをけがした感触もない。
そっと目を開けてみる。
正面に見えたのは、二人の男性の、後姿。
「2次職の人が1次したてのかよわい女の子に、なんてことをするんだい?」
「自分の立場をも~ちっと弁えないと、ポプリが怒るよお?」
見慣れた声に、奇妙な仮面。
一弥さんと、イチヤさん。
テルに向けられていた槍は二人によって薙ぎ払われ、そこらに煙となって渦巻いていた。
「う・・・うるさいうるさい!僕の相手はテルちゃんだ!お前らに邪魔する権利なんかない!
邪魔したって、僕の魔力にお前らが敵うはずもないんだ!」
二人に睨まれた弥散は叫ぶ。
「おいおい・・・今お前さんの槍が煙になったの見たろ?」
一弥が半ばあきれて言う。
「・・・っ!」
痛いところを突かれて弥散は少し小さく見えた。
が、すぐに反撃姿勢に入るとがむしゃらに魔法を撃ちだす。
二人に向けられた両掌からは、アローやランスが次々に飛び出していくが
それをも素早い敏捷性で全て避けると、一弥は弥散ののど元に剣の切っ先を突き付けた。
「ほら、解ったでしょう。降参したらどうです」
口調を和らげて一弥が言うものの、突きつけられたその切っ先には恐怖を感じさせられる。
「い・・・いやだっ!お、お前らなんか―」
それでも諦めようとしない弥散。
その弥散にとうとうテルがキレた。
「どうしてそんなことをするんですか!もういいじゃないですか!
私たちが刃を突き付け合う理由がどこにあるっていうの!
ロウさんとリヴォルブさんが話し合えばいいじゃない!」
ちょっと行ってきます。と付け加えて、ロウとリヴォルブのもとへテルは駆け出した。
「テルちゃんっ そこは危ないですよ―」
一弥の呼びかけにも答えず、テルは夢中になって走っていた。
テルの瞳に映った光景は、あまりにも残酷で―。
顔のところどころに切り傷のついたリヴォルブ。
ロウの服には、銃弾であけられた穴が数えきれないほどできていた。
その光景に、それ以上進むことができなくなってしまったテル。
ロウが放った何枚ものトランプは鈍く光りながらリヴォルブを狙う。
所詮紙は紙。鉛の塊にかなうはずもなく、あっさりと撃ち落とされてしまう。
「いい加減っ・・・あきらめたらどうですか!」
リヴォルブがどなり声をあげる。
「諦める・・・ですか。諦められたここまで苦労しませんけどね!」
それを上回る声量でロウも怒鳴る。
会話が終わると同時に二人の攻撃の威力が格段に上がった。
リヴォルブは何度も何度も連射する。
ロウはそれに反撃をせずカードで盾を張った。
紙が鉛に勝てないことは分かり切っているはずなのに。
分厚いとは言えないカードの盾はただの紙くずとなり、灰となり、地面におちて燻っている。
どう見てもリヴォルブが有利だった。
そう見えていたのに、リヴォルブの顔は驚愕のその表情のみだった。
「ろ・・・ロウ、あなた・・・」
白く伸びた髪の毛に、褐色の肌と露出の多い服。
それはまさに、獣。
元の≪彼≫を残した唯一の青い瞳さえ、釣り上って別人のようである。
彼の攻撃手段は、足蹴。
銃を使うリヴォルブにとって接近戦は苦手とする分野。
どうにも照準が定まらない。
それでも、合計のダメージが多いのはロウのほうで、息も上がってしまって思うように体が動かない。
リヴォルブの銃弾がロウの腕をかすめたとき―
ロウは、紫の煙に包まれていた。
化けるときと同じように。
違ったのは、煙が掃けたときにそこにいたのは
血まみれで横たわるロウの姿だった。
静寂の流れるギルドコロシアム控え室。
その静寂に耳が痛くなるほどで。
「・・・ロウさん?」
テルが声をかけるも、反応は見られない。
「ロウさんっ 起きるっす!」
ぺちぺちとコウがロウの頬をはたく。
観戦していただーすとブリュークナクも何事かと真剣な眼差しでそれを見ている。
「だから私怨なんてくだらないと・・・」
リヴォルブの呟く声が静寂に響いた。
「ロウさん~ 起きてようー・・・」
弥散が声をかける。
何に反応したのか、突然ロウの瞼がピクピクと動く。
う、と唸り声が聞こえたかと思うと、そのいつもの垂れた青い瞳が顔をのぞかせた。
「少し寝すぎてしまったようだね」
それほど懐かしくないはずなのに、とても懐かしく感じる声。
よいしょ、と立ち上がるとリヴォルブに向き直る。
「・・・私は、とんでもないことをしてしまった。どうか、許してほしい」
それ以上は何も言わず、ただ右手を差し出した。
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1、ロウが差し出した手を横目に、リヴォルブはこう言った。
そして、手を握り返した。
2、リヴォルブは、ロウの様子を横目に見ながら
その手を払うと、白銀メンバーに向かって声をかけた。