ハルヒと親父 @ wiki
保健室へ行こう5(キョン視点)
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haruhioyaji
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「……キ、キョン……」
誰かが確かにおれのことを呼んだ。
「誰か」ってのは正確じゃないな。
どういう訳か本名より定着したあだ名だが、同僚も、(親しみを込め呼んでいるらしい)生徒も、おれのことは「キョン先生」と呼ぶ。
こんな風に呼び捨てるのは、あいつしかいない。
「ハルヒ? どこだ?」
職員室で野暮用を済ませ、保健室の前まで戻って来たところだった。
ドアを開けようとして、中から鍵がかかってることに気付く。繰り返しになるが、こういうことをするのはあいつしかいない。
結論。中にいるのはハルヒだ。
ポケットから鍵を出し、鍵穴に突っ込もうとした時だった。
「だ、だめ!……キョン……」
その声に手が止まる。体が硬直する。
足腰から力が抜けて、擬音で言えばへなへなと、おれはその場に座り込みそうになった。
「……何やってんだ、あいつは!?」
ああ、もちろん何をやってるか、しっかり推測がついたから出る言葉だ。
妙に切なげで、吐息すら含んでいるような声は、そのうち喘ぎに変わるだろう。
俺なりに精一杯の速度で「その1:今、この場で、ハルヒの声をかき消せるくらい大声で校歌を斉唱する」(何故、校歌?)から「その100:押し倒す」(これ以上、どうやって?)まで、俺が採り得る行動の選択肢を比較対照し、おれはそのなかから中庸でどっちつかずでヘタレな奴を選んだ。
つまり「とりあえず中に入って、様子を見る」だ。
結論から言うと、それはアタマのねじが2、3本飛んじまった奴のすることだった。様子? 見るものなんて、ひとつ切りしかない。そしてそれを見ちまったら、おれの肉体と精神からねじというねじがはじけ飛ぶか、黒ヒゲ危機一髪的に首が飛んでしまうか、どっちかだろう。
おれを満月時の狼男のように駆り立てる、衝立ての向こうから聞こえる声を、まずはなんとかしたかった。別の音でかき消すのは……愚行だ。異常音が人を招き寄せる。誰かにハルヒのこんな声を聞かれてたまるか。
考えがまとまらぬまま、セイレーンの歌声に引き寄せられるがごとく、おれは衝立ての向こうのベッドに近づいていく。耳をふさいで保健室のベッドへとにじり寄る養護教諭なんて他に居るだろうか。オデッセウスはどうしてたっけ? 蠟(ろう)を耳に詰めてた? だが、何の効果もなかったんだよな。確か。
おれの狂いだした理性は「音を断つには、もはや音源をせめるしかない」という自爆的特攻思想に取り憑かれていた。しかし音源=ハルヒをどうにかできるのか? どこの爆発物処理班だって処理するのは不可能だろう。だったら? 誘爆させるしかない!? おれ自身が信管になって?
ついに衝立てを超えた。耳を塞ぎ顔を背け、そっちを見ないまま、最後の望みを次の言葉につないだ。
「ハルヒ!」
行為に没頭するこいつの耳には届いてない。喘ぎはいま、おれの呼びかけとは無関係に、こいつの手と指と感覚神経とだけに連動しているらしい。
背けた顔の先には、ベッド利用者の上着やカバンを入れとくカゴがあった。中にはきれいにたたまれて積まれた制服。それに下着。って、やりすぎだろう。そしてあるべきはずの、ないもの。白衣はどこだ?
「ん……キョン……来て……」
こいつ、ほんとに気付いてないのか。それを確かめる術はあるが実行する勇気がない。しかし、弱った魂を置き去りに、横たわるハルヒの方へ、おれの体はゆらゆらと引き寄せられていく。
狼男から吸血鬼にクラス・チェンジしたらしいおれの目に、ハルヒの白い首筋とのど元が真っ先に飛び込んで来た。
誰かが確かにおれのことを呼んだ。
「誰か」ってのは正確じゃないな。
どういう訳か本名より定着したあだ名だが、同僚も、(親しみを込め呼んでいるらしい)生徒も、おれのことは「キョン先生」と呼ぶ。
こんな風に呼び捨てるのは、あいつしかいない。
「ハルヒ? どこだ?」
職員室で野暮用を済ませ、保健室の前まで戻って来たところだった。
ドアを開けようとして、中から鍵がかかってることに気付く。繰り返しになるが、こういうことをするのはあいつしかいない。
結論。中にいるのはハルヒだ。
ポケットから鍵を出し、鍵穴に突っ込もうとした時だった。
「だ、だめ!……キョン……」
その声に手が止まる。体が硬直する。
足腰から力が抜けて、擬音で言えばへなへなと、おれはその場に座り込みそうになった。
「……何やってんだ、あいつは!?」
ああ、もちろん何をやってるか、しっかり推測がついたから出る言葉だ。
妙に切なげで、吐息すら含んでいるような声は、そのうち喘ぎに変わるだろう。
俺なりに精一杯の速度で「その1:今、この場で、ハルヒの声をかき消せるくらい大声で校歌を斉唱する」(何故、校歌?)から「その100:押し倒す」(これ以上、どうやって?)まで、俺が採り得る行動の選択肢を比較対照し、おれはそのなかから中庸でどっちつかずでヘタレな奴を選んだ。
つまり「とりあえず中に入って、様子を見る」だ。
結論から言うと、それはアタマのねじが2、3本飛んじまった奴のすることだった。様子? 見るものなんて、ひとつ切りしかない。そしてそれを見ちまったら、おれの肉体と精神からねじというねじがはじけ飛ぶか、黒ヒゲ危機一髪的に首が飛んでしまうか、どっちかだろう。
おれを満月時の狼男のように駆り立てる、衝立ての向こうから聞こえる声を、まずはなんとかしたかった。別の音でかき消すのは……愚行だ。異常音が人を招き寄せる。誰かにハルヒのこんな声を聞かれてたまるか。
考えがまとまらぬまま、セイレーンの歌声に引き寄せられるがごとく、おれは衝立ての向こうのベッドに近づいていく。耳をふさいで保健室のベッドへとにじり寄る養護教諭なんて他に居るだろうか。オデッセウスはどうしてたっけ? 蠟(ろう)を耳に詰めてた? だが、何の効果もなかったんだよな。確か。
おれの狂いだした理性は「音を断つには、もはや音源をせめるしかない」という自爆的特攻思想に取り憑かれていた。しかし音源=ハルヒをどうにかできるのか? どこの爆発物処理班だって処理するのは不可能だろう。だったら? 誘爆させるしかない!? おれ自身が信管になって?
ついに衝立てを超えた。耳を塞ぎ顔を背け、そっちを見ないまま、最後の望みを次の言葉につないだ。
「ハルヒ!」
行為に没頭するこいつの耳には届いてない。喘ぎはいま、おれの呼びかけとは無関係に、こいつの手と指と感覚神経とだけに連動しているらしい。
背けた顔の先には、ベッド利用者の上着やカバンを入れとくカゴがあった。中にはきれいにたたまれて積まれた制服。それに下着。って、やりすぎだろう。そしてあるべきはずの、ないもの。白衣はどこだ?
「ん……キョン……来て……」
こいつ、ほんとに気付いてないのか。それを確かめる術はあるが実行する勇気がない。しかし、弱った魂を置き去りに、横たわるハルヒの方へ、おれの体はゆらゆらと引き寄せられていく。
狼男から吸血鬼にクラス・チェンジしたらしいおれの目に、ハルヒの白い首筋とのど元が真っ先に飛び込んで来た。