一人、また一人。大切な命が消えていく。最後まで隣にいてくれた彼女も、命を散らしに向かってしまう。まるで運命の迷い路。出口のない世界でぐるぐる、ぐるぐると彷徨い続けて。そしてその果てがこの殺し合いなのだとしたら、それはあまりにも残酷すぎる結末ではないか。

 だけど、知っている。おかしいよって嘆くだけでは何も動かない。この運命の袋小路を、終わらせられるのはきっと、因果に選ばれた私だけ。もう大円団でなくてもいい。だけどこの絶望しかない物語に、僅かでも救いの手を差し伸べることができるなら。

 すぅ、と息を吸い込んで。鹿目まどかは喉が張り裂けんばかり、叫んだ。

「キュウべえぇぇ!」

 器官を酷使しての発声に伴う目眩で、夜の闇が揺らいだかのように見えた。くらりとする頭を押さえ、そして続ける。

「あなたの仕業なんでしょ……!ㅤ私、契約するから……魔法少女に、なるから……!ㅤだから、こんな酷いこと……もうやめてよ!!」

 息を切らせ叫んでも、それに返される言葉は無かった。魔法少女になる決意では解決しない。それは、殺し合いという現実に対して自身の完全な無力を突き付けられたに等しかった。

「どうして……」

 奇跡を提示された。マミさんも、さやかちゃんも、杏子ちゃんも、みんなが生きている世界を。姫神という男がいたあの空間には、絶望の中で死んでいったはずのみんながいたのだ。

 そして同時に、現実も突き付けられた。名前も知らない人だったけど、首を飛ばされて死んでしまった女の子。それはその人だけじゃない、みんなの末路だと言われているような気がしてならなかった。

「どうして、答えてくれないの……?」

 奇跡と現実の板挟み。希望と絶望の演出。その様相を見て、この殺し合いはキュウべえが自分に契約を迫るための舞台だと思っていたのに。相応の決意を込めて叫んだ契約への合意は、虚しく夜空へ消えていった。

 自身の合意がこのゲームを終わらせる鍵でないのなら、本当に友達も知らない人も殺し尽くして、最後の一人になることしか生き残る道はないのだろうか。

「こんなのって……ひどいよ……。」

 生きたかった人たちを生き返らせて、殺し合わせる。なまじ皆が生きているという奇跡というものを見せつけられたのだから、なおさら残酷だ。

 無力感と、もう少し早く契約を決意しなかったことへの後悔が嫌という程頭の中を支配する。それに耐えられなくなって、へなへなとその場にへたり込んだ。

 そして――そんなまどかに一歩ずつ、迫り来る影があった。

(みんな……また死んでしまうのかな。)

 その影は、まどかの姿をその存在すら虚ろな「眼」で捉えるや、ゆっくり、ゆっくりと忍び寄っていく。

(私が何もしなかったから。弱虫だったから。)

 まどかが足音に気付き、ふと視線をやる。夜の闇の中でも、さらに黒々とした深淵をその顔面に纏い、巨大な鉄鋼をその手に携えた『魔女』のような存在が、まどかの頭部目掛けてその手の凶器を振りかざしていた。

(だから私は……罰を受けるのかな。)

 驚きは、一瞬だった。認識が現実に追いつくと、それが運命ならばと、まどかはそっと目を閉じていた。そんな人間の微細な心の動きなど気にとめることもなく、執行者『鋼人七瀬』は無情に鉄鋼を振り下ろす。




「――白桜!」




 その時、桜吹雪混じりの一陣の風が吹き抜けた。

「……?」

 まどかが目を開くと、眼前では何処よりか飛んできた、夜の闇の中でいっそう白く輝く剣が、まどかの頭を砕かんと振り下ろされた鉄鋼とぶつかり合い、拮抗していた。

 その物理法則を無視した剣の動きからは魔法少女の力が思い起こされて。罪悪感と共に、おそるおそる振り返った。

「させない……」

 そしてそこには、一人の少女が立っていた。自分と同じ桃色の、しかし自分よりもいっそう長い髪を風に靡かせて。

「もう私の前で……誰も死なせたりさせないんだからぁーッ!」

 少女は大きく跳躍し、宙に留まる白桜を手に取る。そのまま鋼人七瀬に向けて一閃、胴体を切り離す。虚構から生まれた亡霊はモヤを撒き散らしながら崩れ落ちていく。

「大丈夫?」

 何事も無かったかのように着地し、少女はまどかに手を伸ばした。

「えっと……あなたは……?」

「私は桂ヒナギク。白皇学院の生徒会長よ。」

 差し出された手は先ほどの人間離れした動きに対してスラリと細長く。その手を掴むのにも少しドキドキしてしまう。

「鹿目まどかさんよね。良かったら一緒に……」

 しかし、ヒナギクをいつか助けてくれたマミやさやかと重ね合わせてしまったからこそ。

「ヒナギクさんっ!ㅤ後ろっ!!」

「!?」

 死のイメージも、どうしても切り離せなかった。だからこそ、再生し、再び迫り来る鋼人七瀬に気づけたのだろう。

 まどかの声に咄嗟に反応したヒナギクは白桜を背後へ構え、側面からぶん回された鉄鋼を僅かに防ぐ。しかしいかなる剣道の構えにも属さない即席の防御ではその衝撃を殺し切ることはできず、ヒナギクの身体は打ち飛ばされる。

「うあっ……」

「ヒナギクさん!」

 駆け寄ろうとするまどか。そんな彼女に対し、ヒナギクは一喝する。

「来ないで!」

 腰を打ち付け、ぎこちない動きのままヒナギクは続ける。

「私が引き受けるから……今のうちに逃げて!」

 最初の会場で、少なからず関わりを持った少女、佐々木千穂は目の前で命を奪われた。その光景は、トラウマとしてヒナギクを掴んで離さない。人の喪失というものを、ヒナギクはその身をもって知ってしまった。

 もう誰かを命の危険に晒したくなかった。そんなものに晒されるのは、自分だけで良かった。

「嫌です……!」

 だけど、まどかは逃げたくなかった。例え何もできないとしても、ここで逃げてしまえばそれが永遠の別れになるように思えてならなかった。

「私、見届けます!ㅤそれくらいしかできないかもしれないけど……それでも、そうしたいんです!」

「そう……あなたも大概頑固者なのね。」

 対するヒナギクは腰の痛みを気合いで押し切って、立ち上がる。その決意が、半端な言葉では折れないことは分かる。ナギという、一度言い出したら聞かない負けず嫌いが周りにいるし、何なら自分もそれに近いタイプだ。

ふっと笑みを零しながらも、敵を見据えて構えるその姿はどこまでも気高く、美しく。

「だったら見ててちょうだい。アイツをぶっ倒してみんなで一緒に帰れる方法、考えましょ?」

――そして、その凛とした振る舞いは、まるで"正義の味方"のようにも見えた。


【C-3/平野/一日目 深夜】

【桂ヒナギク@ハヤテのごとく!】
[状態]:腰の打撲
[装備]:白桜@ハヤテのごとく!
[道具]:基本支給品、不明支給品0~2
[思考・状況]
基本行動方針:誰も死なせない
一.まどかを守りながら鋼人七瀬を倒す

※名簿を暗記しました。
※参戦時期は姫神と面識を持つ前です。

【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品 不明支給品1~3(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを終わらせる
一.キュウべえが居るなら、魔法少女になってでも。


【鋼人七瀬@虚構推理】
[状態]:健康
[装備]:鉄鋼@虚構推理
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:参加者の襲撃

※パレスが鋼人七瀬の不死性にどのような影響を与えているのかは以降の書き手にお任せします。


【支給品紹介】

【白桜@ハヤテのごとく!】
桂ヒナギクに支給された剣。所有者の意思に従って空中飛行することが可能という、特殊な力が備わっている。

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019:これでいい 時系列順 021:運命は、英語で言うとデスティニー
投下順
000:オープニング 桂ヒナギク 028:現実・幻想・虚構
鹿目まどか
鋼人七瀬
最終更新:2021年02月12日 22:15