トールとエルマ――かつては犬猿の仲と呼ぶにふさわしい間柄であった二人。同じ戦場で共闘する経験など一度もありはせず、連携自体が即席のものだ。そもそも、混沌勢と調和勢で立場が真逆である以上共通の敵というのも滅多に現れるものではないし、ドラゴンという個人志向の強い生き物であることも共闘に向いていない。
その上で、二人はこの上ない連携を見せていた。実力が互角であると謳える程度には、互いの実力を理解し、戦いの一挙一動の癖は分かっている。それに合わせる程度、ドラゴンの超越的戦闘センスをもってすれば容易い。
ㅤ大振りの業物を扱うエルマの攻撃の隙を、身軽なトールが手数でカバーする。トールが小技で圧倒している間に、エルマが大きな一撃を入れる。互いが互いの弱点を補い合って――まるで、分業をどこまでも突き詰めた人間社会のよう。死神の名に恥じぬだけの威力を誇る迫り来る炎を、氷を、雷を、風刃を、二人は優に凌いでいく。
その絶技に、名前などない。己の技に名を授けるは、人の生の儚さに由来する。己の亡き後にも、己が付けた名の技を遺すことで己が生を証明するためだ。永き時を生きるドラゴンにはその必要がない。歴史とともに、ドラゴンの名とその功績は永劫刻まれる。
彼女らは、ドラゴン。時に恵みをもたらす神として。時に破滅をもたらす災禍として。様々な形で祀られ、畏れられてきた存在。
――火炎ガードキル
ㅤ双竜を前に攻めあぐねたか、刈り取るものは二人の守りを崩す方針に切り替える。掲げた銃口より辺りに満ちた光が、トールとエルマを包み込む。
「っ……! 何かされたようだが……。」
ㅤ光に照射されるや否や、熱を通さぬ龍の鱗に赤く、鋭く走った亀裂。その現象に一瞬驚くも、そこに一切の痛みは伴わない。
一体何をくらったのか、その正体の模索が完了する前に、その箇所を目掛けて刈り取るものは虚ろな眼光を向ける。
――マハラギダイン
次の瞬間には、耐火の性質を備えたトールとエルマの鱗が燃え上がる。鱗を貫通し、素肌を焼かれたかの如き火傷は、凡そ両者が一度も受けたことのない類の傷だ。熱い、痛いを通り越して痛覚が機能を忘れるほどの火傷。それに伴っておのずと湧き上がるは、未知の感覚に対する恐怖。たとえドラゴンであれど、生物としての本能には抗えない。
「熱ッ……何ですかこの威力は……!」
「さっきのは火をよく通す魔法か……それがあれば焼き肉がもっと早く食べられるかもしれないな。」
「こんな時にまで食欲ですか……。」
相変わらずですね、と鼻で笑いつつ、目の前の死神に対しても嘲笑を投げかける。
刈り取るもの、それは集合的無意識<メメントス>の奥底にこびりついた人の心の畏怖の現れ。存在そのものが、眠れる恐怖心を引き起こす絶対者だ。
しかしトールもエルマも、恐怖にただ沈むことはない。混沌と調和、二つの勢力というドラゴンの大きな枠組みにも組み入れられることなく、己の意志を貫いてきた二人のドラゴン。例え相手が集合的無意識に語り掛ける恐怖の存在であれど、その感情に迎合されるほど単純ではない。
そして、何よりも心の底から湧き上がる想いがある。かつて敵対し、そして和解した腐れ縁とも言うべきライバルとの共闘。仲直りしてもやはり憎たらしいような、それでいてどこかこそばゆいような、つかず離れずの距離感だった旧友と、今やこうして背中を預け戦っている。
その事実が、トールとエルマの中に少なからず高揚感を与える。恐怖よりも強く突き動かす感情が二人の中にはあった。
「それにしても、まったく舐められたものですね。」
「ああ、ドラゴンを前に炎をひけらかすとはな。」
火炎を司るは、ドラゴンの矜持にして不可侵領域。
刈り取るものは、そこに土足で踏み込んだ。それも一度のみならず、二度。火炎ガードキルが継続しているトールとエルマに、再びマハラギダインが迫る。
それを前に、ニィと笑う二人のドラゴン。
ㅤ刈り取るものの放った業炎を包み込むように、二人の吐いた火球がマハラギダインを真っ向から潰す。ドラゴンの伝承に火山の存在が切っても切り離せないのと同様、炎を操ることにおいてドラゴンが引けを取ることは有り得ない。ましてや、この場にいるドラゴンは一体ではない。最大級の火力の炎が二体分。大気ごと爆ぜるような大爆発が、その場を包み込んだ。
(まだ生きていますか。)
その中心部にいた刈り取るものは、予期せぬ反撃に引き下がる暇もなく爆発の餌食となる。煙霧の立ち込める戦場の中の刈り取るものにトドメを刺すため、トールは走り出す。小林さんの捜索という第一目標が達成されていない現状、刈り取るものを相手に時間を食うのも憚られる。
「待てっ!ㅤトール!」
「!?」
ㅤその時エルマが側面から飛び込んで、トールを押し出す。何をする――トールがそう口に出す前に、一瞬前までトールがいた空間に銃弾が走る。そこにいたのは、トールを突き飛ばしたエルマ。弾丸が、彼女の胴体を貫いた。
――ワンショットキル
ㅤ安易な魔法攻撃が通用しないと分かった刈り取るものが行うは、煙で隠した死の銃撃。ドラゴンの、ドラゴンであるが故の慢心。エルマよりも遅れて戦闘に参加したトールはそれが抜け切っていなかった。数万年に及ぶ、長きを通り越して永きと言い表せるだけの生きてきた時間の積み重ねは、易々と変われない。そして――人の心に住まう刈り取るものは、そういった心の隙を見逃さない。
「……何やってんですか、エルマ。」
胸を撃ち抜かれ、しかし心臓への直撃を免れたエルマは死んではいない。だが、刈り取るものの強力なスキルの連打も、銃撃も、対処しながら戦えるほど傷が浅くもない。この戦線で戦い抜きながら生き延びるだけの力を、エルマは失った。
トールとエルマの実力は互角。戦力確保の観点からは、庇う必要なんてなかった。
その上で、エルマは言う。
「生きて帰ってくれ、トール。あの日々が……大切、なんだろう?」
その言葉に少しだけ口ごもり、寂しそうな顔を見せたエルマ。
エルマにとっても、人間たちと共存するあの世界は大切だ。儚いながらも尊いものであると知っている。だけど、その気持ちはトールが抱いているそれほどではない。小林さんへの執着はトールよりも明らかに劣っているだろうし、他に特別な人間がいるわけでもない。かけがえの無い友人が共にいるのであれば、何なら元の世界に戻ったっていいくらいだ。
ㅤ私が守りたいのはあの世界じゃないんだ――そんな気持ちがどこか心の奥底に潜んでいる自覚があった。だからこそ、誰かが傷つくのならば、トールより私が率先すべきではないか?
何とも自暴自棄な理屈だ。それは分かっている。だが、身体が動いてしまったものは仕方がない。
「そうですね。確かにあの日々は私にとってとても大切なものです。だから私は、あの日常を守りたい。」
その気持ちを、僅かに察するトール。ああ、そういえばここは、本来一人しか生き残れない世界だったな、と今さらながら思い出した。
他でもないトール自身、小林さんを優勝させると謳っていたのだ。それの意味するところはつまるところ、小林さん以外の皆殺しだ。当然、そこには自分もエルマも含まれている。ならば目の前でエルマが深い傷を負っている現状は、甘んじてどころか、喜んで受け入れるべき事象である。エルマという最大級の敵が消え、これで一歩、小林さんの優勝に近づくのだ。
「……でも、そこにあなたも含めての守りたい日常なんですよ。」
エルマの想いに報いるかのごとく、トールは少しだけ素直な言葉を吐いた。初めて聞いたトールの本音に、エルマは目を丸くする。
「帰ってくれじゃなくて、一緒に帰ろう、とでも言ってくださいよ。」
小林さんを優勝させるのが、最も手っ取り早い自分の願いの成就の手段だ。だけど、それは小林さんの願いじゃない。自分を庇って戦闘不能に陥ったエルマをどこか咎めたい今の自分の存在が、まさにその証明だった。
「一緒に帰りましょう、エルマ。この殺し合いを、ブチ壊した後で。」
トールの目から陰りが消えて生気が宿る。その見据える先に存在する死神に向けて、咆哮を上げながら飛び込んでいく。
殺し合いに乗るか脱出を図るか、愛と倫理の狭間で揺れていたトールのバトル・ロワイアルは、今ここに始まりを告げた。
■
住宅街エリアを構成する建物の一室。刈り取るものとの戦いから離脱した三人は、それぞれの治療にあたっていた。
「ありがと、もう大丈夫。自分で動けるわ。」
特にダメージの大きかったさやかも、杏が回復スキルを重ねることで何とか自立できるまで回復した。
元々タフなカルマも、元より回復スキルをかけていた杏も、さやかより早く回復している。
しかし肉体はともかく、精神に受けたダメージも少なからずある。容貌自体が生理的嫌悪感を促す刈り取るものの、更に圧倒的な能力を目の当たりにした三人。その心には、死という概念への恐怖が深く根付いている。
「じゃあ私、戻るね。」
その上でそう言った杏を、カルマは意外そうな顔で見つめる。
「トールって人は下がってろって言ってたけど?」
「別にトールの方の言うことを聞く筋合いもないし。エルマに任された私の役目はアンタたちの回復。それはひとまず済んだでしょ。」
杏は、正直に言えばトールに良い印象は抱いていない。エルマと同じドラゴンである点から実力に信頼が置けるのは確かであろうが、初対面で下等生物と言い放たれたことへの悪印象はぬぐい切れてはいない。実際のところトールの言葉は三人を遠ざけるための優しさでもあったのだが、コミュニケーションによる相互理解の工程を経ていないがために、改心させてきた大きな権力をひけらかす悪人たちとの差が埋められていない。
「じゃああたしも戻るわ。人数は多いに越したことはないし……」
「悪いけど……アンタたちは連れていけない。」
杏はキッパリと言い放った。その強い物言いに、ムッとしながらさやかは理由を問う。
「今度こそ死ぬって言ってんの。」
カルマは身のこなしこそジョーカーにも劣らぬ卓越っぷりであるがペルソナを持っていない。さやかも、超吸魔で魔力を吸われた以上は戦えないはず。
トールやエルマと比べて戦力不足であることは、客観的に見て事実であった。
「んー、俺も正論だと思うよ。」
カルマも、杏の発言に続く。
「最初にヤツと遭遇した俺等は充分戦ってるし、ここで離脱したって誰にも責められない。命を無駄にする方が良くないと思うけどな。」
「……それでも。やっぱりあたし、見捨てたくは……」
しかしさやかの悔しそうな表情は、到底納得しているようではなかった。
「ゴメン、ちょっと酷い言い方しちゃったね。」
そんなさやかに、杏は語り始める。
「本当は、違う。アンタたちを助けたいのは、全部、私のためなんだ。」
唐突にしおらしくなった杏を前に、さやかは反論の口を止める。
「私ね、大切な友達がいた。でも、もう取り戻せない大切なものを奪われて……助けられなかった。私が今戦っているのは、その子――志帆のような子を出さないため。アンタたちを死なせてしまったら……きっと私、その時のように後悔する。」
今の杏を形成しているのは、あの日屋上から飛び降りた志帆に報いるためだ。志帆が鴨志田からされていたことに気づけなかった事実は、どう足掻いても消えない。
だから、これから先、彼女のような犠牲者を出さないこと。それだけが、贖罪の手段だ。
「だから、助けさせてよ。」
断じて、志帆のためではなく。断じて、カルマとさやかのためでもなく。これは、自分のための戦い。
あの日の痛みに、志帆の苦しみに、何かしらの意味を見出そうとするある種の逃避。
「……そっか。」
杏の告解に、さやかは複雑そうに俯いた。
友達を助けられなかった後悔。契約に迷っていたせいでマミさんを失った自分と、どことなく重なった。マミさんみたいに、皆を助ける魔法少女になろうと、後悔が呪いのように己を律することは、共感できる。
――だけど、仁美を助けたことを後悔してしまった自分と、真逆のようにも思えた。自分の卑しさを再認識させられたようで――眩しくて、仕方がなかった。
「ゴメン、それでも――あたしも譲れないんだ。」
俯いたままに――さやかは残存する魔力を放出する。不意に発せられたそれは、瞬時にカルマと杏を昏倒させるだけのショックを与える。
ドサリ、と二人が膝を付く音をよそ目にさやかは振り返る。見据える先は、刈り取るものの戦場。
「二人の言うこと、正しいと思う。でもあたしは、誰かを見捨てるような魔法少女にはならないって決めたの。」
長い間気絶させるほどの威力は出していない。ずっと放置するのは刈り取るもの関係なしに危険であるし、それほどの魔力も残っていない。だから、急いで向かわないと――
「――待ってよ。」
背後から、さやかを呼ぶ声。振り返れば、昏倒させたはずのカルマは立ち上がっていた。口元から血を滴らせながら、滑らかな動きでさやかの前に立ち塞がる。
「さやかはさ、死ぬ気なの?」
どうやら舌を噛んで、その痛みで強引に意識を保ったらしい。そういう処置もできないよう、不意に一瞬で意識を奪ったつもりだったが、或いは予見されていたか。カルマの、初めて会った時から何でも見透かしている様子ならば、納得もできる。
何にせよ意識と肉体が結合していないあたしにはできない芸当ね、と内心で少し毒づいた。
「そうね、死ぬのも厭わないわ。」
「姫神を倒すって言ったのは? まさか、諦めたなんて言わないよね?」
「別に、自殺しにいくわけじゃないわ。ただ、誰かを見捨ててでも生き延びようとはしたくないだけよ。そんなことしたら、あたしは本当に自分っていうのに絶望しちゃう。多分その時が、あたしが身も心もゾンビってやつになるときなんだと思う。」
さやかの言葉の意味するところはあくまで比喩だ。とはいえ両人のあずかり知らぬ実態として、魔力を失ってソウルジェムに穢れが溜まっている現状、大きな負の感情を抱くことは文字通りさやかの肉体を別のものに変える結果をもたらし得るだろう。
「だから止めないで。」
「止めないよ。」
「だからさあっ! って……えっ……?」
カルマの口から、予想だにせぬ言葉が飛んできた。舌を噛んでまで強引に立ち塞がっている以上、自分を止めようとしているのだと思っていたのに。
「死んでも貫きたい矜持があるんでしょ? それを死んでほしくないから止めるって言うんじゃ、殺せんせーを殺すかどうかで喧嘩してる渚くんにも、殺せんせーを殺すと決めた自分にも筋が通らないし。」
それに、カルマも知っている。他者に心から失望したとき、自分にとってそいつは死んだのと同然なのだと。仮にその対象が、他者ではなく自分だったとしたら――その先は、想像に難くない。一学期の期末試験、似た感覚は味わっている。
「……やけに物分かりがいいのね。あんた、もうちょっとひねくれものだと思ってたわ。」
止めないのなら、カルマが何故自分の前に立ち塞がったのかは謎でしかない。しかしそこを追究する意味こそさやかにはないため、やれやれと言わんばかりにカルマを押しのけて行こうとする。
そして両者がすれ違うその瞬間に、再びカルマは口を開いた。
「そんじゃあさ――俺も俺の信念に従って行きたい! ……って言っても止められないよね?」
――前言撤回。カルマは、誰よりもひねくれものだ。
一度相手の主張を認めることで、同じ理屈に対する反論を許さない。A組野球部とのエキシビジョンマッチの時にも使った手である。
何が渚くんにも自分にも筋が通らない、だ。綺麗ごと押し並べて、結局あたしを一人で行かせないという主張<わがまま>を通すための譲歩的要請法<ドア・イン・ザ・フェイス>じゃないか。
「……はぁ、もう、分かったわよ。」
してやられたなあ、と頭を抱えるさやか。最初の魔力をぶつけた段階で一人で戦いに出向くつもりだったが、これ以上口論していると気絶している杏も目を覚ましかねない。
「――でも、ごめんね。」
――ドスッ……
「――なっ……」
だから――強行突破しかなかった。カルマの胴に、さやかの持つ剣でのみね打ちが炸裂した。
「っ……! 待っ……!」
ここにきての更なる不意打ちを、警戒していなかったではない。しかしカルマには、気絶寸前まで陥った麻痺の影響が残っていた。加えて、魔法少女と化したさやかの身体能力。
成すすべなく、追撃に今度こそ意識を沈めていく。
「それでもあたしは、あんたには……カルマには、生きててほしいんだ。こんな姿になったあたしを人間だって言ってくれたこと、すごく嬉しかったから。」
……それに。本心では戦いに戻るべきじゃないって思っているはずなのに。戦場に戻るのは死ぬリスクが高いって分かってるはずなのに。あたしを一人にさせない、ただそのために一緒に行こうとしてくれたことも、嬉しかった。
(でもその優しさ……今の私には辛すぎるんだ。)
こんな私を、人間だと言ってくれる人がいる。
こんな私と、一緒に居たいと思ってくれる人がいる。
どうしても、期待してしまう。もし元の世界に戻れたとして、恭介も同じようにあたしを受け入れてくれるんじゃないか……って。
落差があった方が、落ちた時は痛いんだ。もし、その願いが成就しなかったとしたら。その祈りが、届かなかったとしたら。僅かにでも希望を抱いた分だけ、きっと絶望も深くなる。
「だからあたし……死ぬなら人間である内に死にたい。」
さやかは、振り返ることなく走り出した。
杏を気絶させるのに魔力を浪費したこと。カルマの望むことに背いたこと。様々な要因が、さらにソウルジェムを濁らせていく。彼女を、少しずつ”人間”から遠ざけていく。
【E-6/住宅街エリア 民家/一日目 早朝】
【赤羽業@暗殺教室】
[状態]:ダメージ(中) 気絶
[装備]:マッハパンチ@ペルソナ5
[道具]:不明支給品1~2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:元の日常に帰って殺せんせーを殺す
1.美樹さやかを刈り取るものから保護する。
2.まずは霊とか相談所へ向かい首輪の解除方法を探す
3.渚くんを見つけたら一発入れとかないと気が済まないかな
※サバイバルゲーム開始直後からの参戦です。
※呼び名が美樹さん→さやかに変わりました。
【高巻杏@ペルソナ5】
[状態]:ダメージ(中) 気絶
[装備]:マシンガン※対先生BB弾@暗殺教室
[道具]:基本支給品(食料小) 不明支給品1~2
[思考・状況]
基本行動方針:姫神を改心させる
一.刈り取るものを斃す
二.島にあるであろうパレスの主のオタカラを探し出す
三.食料確保も含め、純喫茶ルブランに向かう
四.怪盗団のメンバーと合流ができたらしたい
※エルマとのコープが3になりました。
※参戦時期は竜司と同じ9月怪盗団ブーム(次の大物ターゲットを奥村にする前)のときです。
※姫神がここをパレスと呼んだことから、オタカラがあるのではと考えています。
【支給品紹介】
【マッハパンチ@ペルソナ5】
カルマに支給されたナックル。速+3の効果がある。
■
自分に立ち向かうあの時のイルルは、きっとこんな気持ちだったのだろう。戦いに身を投じるだけの決意があって、それでも決意の大きさは力と比例しない。それだけで敵は倒せない。守りたいものは、守れない。
エルマが脱落したことは、確実に戦局を動かしていた。こちらの攻撃力は半減、それに対し敵の攻撃はシンプルに倍だ。本来、頭数を揃えて戦っても激戦かつ長期戦が必須の刈り取るもの相手に、単身で挑んでいるのだ。文字通り絶え間ない弾幕、そのすべてがトールの命を刈り取らんと狙っている。弾き飛ばしていた竜の爪は次第にボロボロになっていく。同時に、人間の身体への負荷も決して小さくない。認知の世界の制限によって肉体という名の殻に押し込まれた竜の魂が、全力を出せずにもどかしいと叫んでいる。
(落ち着け、私。)
自分が勝負を急いだせいで、エルマに庇われる事態に陥ったのだ。動悸を抑え、腰を落として構える。冷静に、刈り取るものの一挙手一投足を観察する。
――空間殺法
刈り取るものが放つは、エルマを翻弄した瞬間の絶技。網状の亀裂が空間に形成される。交錯の瞬間、その線に沿って斬撃が走る。
「見切ったっ!」
嚙み合った腕と銃が、ピシリと音を立てて衝突し合う。ドラゴンの本能を理性で鎮めた故の、刹那の防御、そして拮抗。
そこから先は竜の剛力に任せた力業だ。刈り取るものの叡智の結晶たるスキルを、強引に押し返す。
そして、前進。一歩ごとに大地が揺らぎ、風が震える。だが渾身の一撃にはそれでも足りぬ。大きな攻撃を担当するエルマがいない今、ちまちま攻めていても埒が明かない。全身全霊、力を込めて一気に殴り抜く!
方針を決め、どの歩みよりも力強く踏み込む。伴った震脚で振動が一面に響き渡る。
勢いのまま、金剛石の如き硬度の爪が振るわれる。刈り取るものの身体に巻き付いた鎖とぶつかり合い、金属音をかき鳴らした。
手ごたえとしては、充分に効いている。それでも、体力の量そのものが桁違いと言うべきか。刈り取るものはどんな属性の攻撃にも、相性というものはありはしない。あらゆる攻撃がそのまま通用する上で、それを真っ向から潰すのが刈り取るものの真骨頂だ。
――ハマオン
瞬時に対象の命を奪う光の結界が、トールの周囲に形成される。それは混沌を生業とするトールには、いっそう大きな効果を発揮する。
「まずい……!」
攻撃に踏み込んだ手前、即座に回避に移れない。強引に、力任せにそのまま突っ切ろうとしたその時、トールの周囲にもう一つ、光の結界が張り巡らされ、ハマオンと衝突し相殺する。
(これは……エルマの張った結界ですね。助かりました。)
真っ当にタイマンを挑めば、勝てない。おそらくは、この会場にいる誰も。刈り取るものを単騎撃破できる者など居ない。
だが、トールは一人ではない。ドラゴンという単体で完結する生物でありながら、しかし今は仲間がいる。殺し合いに乗らないと決めたからこそ、誰かと協力することができる。
刈り取るものを、真っ赤に燃え上がるブレスが襲う。巻き付いた鉄鎖を媒介し、刈り取るものの全身に熱が伝道していく。
(動きが鈍った……今ッ!)
――氷結ガードキル
トールの全身に青く刻まれた刻印。先ほど受けたのと同じ、属性耐性を消滅させる類の術式か。ならば現状、問題は無い。
(スキルを受ける前に、殴り、抜くっ!)
――ズンッ……
深々と突き刺さった鋭爪。刈り取るものはゆっくりとダウンをとる。ここにきて初めて見せた刈り取るものの大きな隙。それを見逃すトールではない。追撃の乱打が顔面を襲う。
「これでっ……!」
刈り取るものが起き上がると同時に一歩引き下がり、同時に、震脚。
大きく踏み込んだ一撃が迫る。
――タァンッ!
しかし、敵の反応は一瞬早く、銃撃が踏み込んだ脚を撃ち抜いた。
「ぐっ……!」
重量を支える支柱を失い、バランスを崩すトール。即座に立ち直るが、その一瞬の隙に迫るはガードキルを付与したところに形成された氷塊<ブフダイン>。回避の択を失ったトールは、持ち前の爪で受け止める。威力の大部分を殺すも、その代償に、ピシリと音を立てて凍り付く爪。凍結で脆くなったところにさらに衝撃を与えれば、容易に砕けるであろうことは見える。
(こうなってしまえばもう攻撃には使えない……)
それならば、攻撃の要となる武器は爪を用いない徒手空拳だ。しかし並の生物を遥かに凌駕する拳も、刈り取るものを前にしては心細い。こうなればエルマの使っていた武器を貸借するか――
「受け取れっ! トール!」
まるで以心伝心。紡いできた絆が、要請よりも早くエルマを動かした。振り返ると、此方に向けて弧を描きながら投擲された斧が迫ってくる。
――パシッ。
一切の危うげなくそれを受け取るトール。実力が同じ二人だ。普段から武器を用いているかどうかの差はあれ、エルマに扱えてトールに使えぬ道理はない。道具の扱いに慣れておらずとも、攻撃力の確保には、申し分ない。
エルマの助けによって持ちこたえた命。エルマから受け取った斧のバトン。情けなくて腹立たしいほどに、奴のお膳立てを受けすぎている。だけど、悪い気はしない。強大な敵を討つため手を取り合って立ち向かう――それはどこか、ドラゴンに挑む人間のようで。ドラゴンのしがらみごと、何かを破壊してくれる気がした。
脚を怪我して踏み出せないトールは翼を広げ、羽ばたく。瞬く間に刈り取るものの上をとったトールは、そのまま上空から接近。
「ぐおおおおおおおおおおっ!!」
咆哮と共に、重力に身を任せ斧を振りかぶる。
その気迫を前に、刈り取るものの思考回路は安易なスキルでの相殺はできないと判断する。
繰り出すは、刈り取るもの最強のスキル。
――メギドラオン
ドラゴンの意地と、死神の本領。両者は、破壊力を宿してぶつかり合う。
ドラゴンのもたらす混沌が、死神の展開する幻想が、辺り一面を灰色に塗りつぶすように侵食していく。空白の中に、吞み込まれていく。
「おい……トール……?」
破壊の中へと消えていったトールに、エルマは声を振り絞って語り掛ける。
そして煙幕は、次第に晴れる。二つの強大な力の着弾点となった箇所から出でたのは――
「っ……!」
――至高の魔弾
死神の銃口の先――エルマに狙いを定め、そして、放たれる。
トールと刈り取るものが激突し、立っているのが刈り取るもの。その意味が汲み取れないエルマではない。理解してなお、しかしそれが認められない。トールが負けたなど、断じて信じない。神々の軍勢に単身突っ込んでもなお生きて帰ったトールが。真っ向勝負で敗北したなど、決して――
目の前に迫る弾丸よりも、その事実の方がエルマにとっては大きかった。
■
「なっ……!」
さやかが駆けつけた時、エルマは目の前に迫る死を受け入れていたように見えた。実際は、それ以上の驚愕を前に呆然としていたに過ぎないのだが、さやかはその姿をいつかの自分と重ねてしまった。魔法少女の真実を受け入れられず、ただ正義の名の下に殺してくれる魔女を探していた、かつての自分と。
「せああああああっ!!!」
小細工をかける魔力も残っていない。さやかはただ、刈り取るものに愚直に突っ込んでいく。
この惨状を見るに、トールとエルマは負けているのだ。それならば、二人が回復できる時間を稼ぐため。二人と、そして遅れて来るであろうカルマと杏にバトンを繋ぐため。少しでもこの場から距離を離し、少しでもダメージを与える。
「なっ……何故戻ってきた! 杏殿は一体……!」
さやかの身を任せたはずの杏。百歩譲ってさやかと一緒に戻ってくるならばまだ理解できよう。しかし、さやかだけが戻ってくるとはどういう了見か。
トールの最後の攻撃で受けた傷も残っている刈り取るもの。その気迫を押し返せない。後退し、勢いを殺しつつ受けようとするが、なお突き進むさやかの進軍を止められない。
(とにかく……私も……加勢、に……!)
このままだとさやかが死ぬ。そう直感するも、エルマの身体はろくに動かない。刈り取るものを引き下がらせているさやかとの距離が離れていくこともあり、結界を形成するにも届かない。
これから杏も戻ってくるのか? この状態を回復できるとすればそれが頼りか。
そう思い、ひとまず何とか起き上がろうとしたエルマが砂煙の先に見たのは――トールが倒れている姿であった。ドラゴンの力強さも感じさせず、まるで人間のように、弱々しくその場に崩れ落ちていた。
「くっ……トール…!」
無い力を振り絞って這って、何とかトールの下に辿り着く。
杏のように回復スキルが使えるエルマではないが、とりあえず、大丈夫か――そう声を掛けようと、その身体に触れた。
「――嘘、だ。」
信じられない、受け入れがたい真実がそこにあった。
トールは死んでいた。
まだ温かみを帯びたトールの身体が、秒刻みで冷たくなっていくのをこの上なく体感できる。ドラゴンの、鋭敏に研ぎ澄まされた感覚は、それができてしまう。どうしようもないくらい、トールは死んでいた。
「……なあ、お前には守るべき人ができたんじゃないのか?」
トールは以前より一層強くなっていた。守りたいものが明確であるからこそ、揺らがぬ強さがあった。
「返事をしてくれよ、トール……。」
亡骸が言葉を返さぬは摂理。エルマの声は、虚空へ吸い込まれていく。それでもエルマは、構わず紡ぎ続ける。
「いなくなったお前が見つかって……私は安心したんだぞ……。仲直りもできたし……いや、喧嘩してた時でもいい。お前が生きていてくれているだけで……それだけで良かったんだ。」
そっと、亡骸に覆いかぶさって抱きかかえた。ぼろぼろと零れ落ちる涙が、トールの身体を濡らしていく。
体温が完全に無くなってしまう前に、最後に思い切り抱擁を交わし――
「……ああ、弱音は終わりだ。」
――ガッ……!
思い切り、その胴体にかぶりついた。
――ぐしゃ、ぐしゃ
無心で振り動かす顎の動きに伴って、命だったものが唾液と混じりその形を無くしていく。共に人間の世界を見て回った記憶も、価値観が瓦解し、殺し合った苦い記憶も、トールと共にした様々な思い出ごと噛み砕く。
――ぐしゃ、ぐしゃ
骨を砕く感触も、血の匂いへの生理的嫌悪も、そういった諸々の不快感は、驚くほど感じなかった。そんな余裕も無いくらいに、ただただ無心で。何も食べるにしても全身で感じ取っていた味覚も、機能していないのかと思えるほどに壊れていた。
――ぐしゃ、ぐしゃ
おいしくない。
――ぐしゃ、ぐしゃ
血肉で腹は満たされても、胸にぽっかりと空いた穴が冷たいんだ。
――ぐしゃ、ぐしゃ
――ぐしゃ、ぐしゃ
――ぐしゃ、ぐしゃ
…………
……………………
やがて、咀嚼音も血を啜る音も、途絶えていく。そこにドラゴンが存在していたことは、大地に染み付いた血の跡だけが語っていた。魔力を宿したツノも、ドラゴンの能力で解毒可能な程度の毒を帯びた尻尾も、もはや何一つ残っていない。その全てをエルマが文字通り喰らい尽くした。
「お前の仇は私が討つよ。小林さんも私が守ってやる。」
「それに……毒を食らわば皿まで、と言うしな。お前が守りたかったあの世界の調和も守ってやろう。」
「だから、見ていてくれ、トール……。」
「ちゃんと、見守っていてくれよ。」
「お前の存在を、まだ感じていたいんだ。」
「お前がいないと、何を食べたっておいしくないんだよ。」
ドラゴン一匹分の肉体と、それが宿す魔力。残さず喰らったエルマは”戦闘不能”状態を脱し、立ち上がる。
呪いのようにその身を蝕んでいた空腹も、殺し合いを命じられてなお抜けきっていなかったドラゴンであるが故の余裕も、エルマにはもう無い。
その目に見据えるは、友の仇の死神だけ。
その胸に宿すは、友より受け継いだ決意だけ。
殺し合いというものの意味を改めて認識し――エルマのバトル・ロワイアルは、今ここに始まりを告げた。
【小林トール@小林さんちのメイドラゴン 死亡】
【残り 38人】
【E-6/住宅街エリア/一日目 早朝】
【上井エルマ@小林さんのメイドラゴン】
[状態]:ダメージ(大) 満腹
[装備]:無し
[道具]:基本支給品(食料なし) 不明支給品(1~2)
[思考・状況]
基本行動方針:トールの願いを継ぎ、姫神の殺し合いを阻止する。
一.刈り取るものを斃す
二.小林さんを保護する
三.滝谷やカンナと出会えたら、協力を願う
姫神により全身ドラゴン化や魔法が制限されていることを把握しています。
※参戦時期はトールと仲直りした以降。
※杏とのコープが3になりました。以下のスキルを身に付けました。
「エルマの応援」エルマと絆を結んだ者は身体能力がほんの少しだが、底上げされる。
「エルマの本気応援」エルマと同行中している限り戦闘中、経験値が上昇する。(相手の技を見切るなど)
■
エルマが、友の遺骸を喰らっているその時。刈り取るものを戦場から切り離していた魔法少女は、終わりを迎えていた。
元より単体で刈り取るものと渡り合うには実力の足りないさやか。その力を支えていた魔力すらも残っていない状況では、必然の帰結だった。
身体が、動かない。
もはや空っぽの魔力。消せなくなった痛みをすべて受け入れながら、さやかは気力だけでここに立っている。一秒でも長く、時間を稼げ。一撃でも多く、刈り取るものにダメージを遺せ。
(あたしらしく……なんて柄じゃないかもしれないけどさ。)
――ワンショットキル
穢れの満ちたソウルジェムが、遂にグリーフシードへと変わっていくその瞬間。刈り取るものの放った一発の銃弾は”美樹さやか”を砕いた。
太陽の昇った空に、蒼く煌めく結晶がきらきら、きらきらと浄化されていく。
(――でも、魔法少女の最期としてはたぶん、綺麗なんじゃないかな……って。)
砕けて消えた命の中、少女は夢をみた。
コンサートホールの中心で、手にしたヴァイオリンを奏でる一人の少年。
客席に座る大衆の一部となった少女は、彼のためのステージを眺めながら、絶望とは程遠い微笑みを見せる。
紡がれし演目は――絶望の中でも縋るように、女神への祈りに身を捧げるいつかの曲ではなく。蒼く澄み渡った彼女の想いを乗せるかの如く、どこまでも自由奔放な狂詩曲。
いつまでも、ただいつまでも、彼に自由を与えた奇跡のために――彼女のために、泡の中で奏で続ける。
【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ 死亡】
【残り 37人】
【E-6/住宅街エリア外/一日目 早朝】
【刈り取るもの@ペルソナ5】
[状態]:ダメージ(大) SP消費(大) 右腕欠損
[装備]:刈り取るものの拳銃×1@ペルソナ5
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:命ある者を刈り取る
最終更新:2021年09月24日 21:39