時刻は5時58分。死亡者の発表と、禁止エリアの通達が行われるという放送の開始時刻まで、すでに2分を切っていた。
「……まるでエンタメとでも言いたげじゃねえか。」
殺し合いの会場、〇〇〇〇〇〇〇〇パレスの一角。真奥貞夫は、震える拳を握り込む。見据えるは、己を慕っていた少女の仇。
「上等だ。お前の一言一句を、俺の魂に刻み込んでやる。」
彼を突き動かすのは――身を焦がすほどの怒りであり。凍てつくばかりの悲しみであり。平然と他者を傷付けられる邪悪への嫌悪でもあった。その身が何ら潔白でなくとも――否、悪の代償をその背に負った王であればこそ――悪より悪しき邪悪に、断罪を。
但し――彼の悪を唯一裁くことのできるはずであった勇者はもう、どこにもいない。
■
「……姫神。お前は一体どうして……」
殺し合いという非日常に巻き込まれながらも――幼き頃より殺し屋に命を狙われ続けた三千院ナギにとって、死の恐怖は日常と隣り合わせにあった。この催しとて、未だ日常の延長線上を著しく逸脱してはいない。
「……なあ。この放送とやらで、何かを教えてくれるのか?」
彼女を突き動かすのは――ただただ純粋な疑問であった。何故あの人は、自分たちを殺し合いなどというものに巻き込んだのか。その答えは――かつてあの人が自分の元を去ったその理由にも繋がっているという確信があった。
但し――彼女にとって死の恐怖が茶飯事であったとしても、親友の死そのものはそうではない。
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「……間もなくね。」
暁美ほむらにとって、主催者の目的を探ることは最優先事項であった。そして主催者からの直接のコンタクトを得られる定時放送は、彼らの情報を得られる数少ない機会である。
「何の狙いかは分からないけど……利用させてもらうわ。」
彼女を突き動かすのは――いつかの日の約束。もう歴史の彼方へと葬られたその世界線に、今も彼女は囚われている。インキュベーターの魔の手からまどかを守るため――利用できるものは、例え悪魔であっても利用してみせる。
但し――――――
時計の針が、6時を示した。
各地に散らばる参加者たちは、その思惑こそ様々なれど、その殆どがごくりと生唾を飲み来たる放送に備える。
だが、屋内に位置する参加者はともかく、屋外に放送機器らしきものは存在していない。如何に放送を伝達するのか――抱き続けてきたその疑問は、間もなく解消された。
「――やあ、調子はどうだい?」
その軽口は何かの装置を介してではなく、脳内に直接送信された。その手段こそ一部の者たちにとっては驚くべきものであるが、それ以上に着目すべき点が他にある。
「ほとんどの人にとってははじめましてになるね。」
その声は――姫神のものではなかった。抑揚のない、単調な語り口。知り合いを含む面々を集めての殺し合いという残酷な催しに対し、憐れみも愉悦も、何の感情をも感じさせない声色が、この世界の不気味さにいっそうの拍車をかけていた。
「――ボクはキュゥべえ。厳密にはシャドウだけど、ひとまずはそう呼んでくれるといい。」
会場内にいる何人かは、その名前に顔をしかめて反応を見せた。
「すでに誰かを殺した人も殺されかけた人もいるだろうね。もちろん、殺された人はこの放送を聞いていないわけだけどね。」
「さて、前置きはこれくらいでいいかな? じゃあまずは禁止エリアの発表だ。うっかり聞き逃したりして禁止エリアに入ると首輪が爆発するから気をつけてくれ。」
「……まあ、ボクたちも鬼じゃない。境界線をつい越えてしまうことくらいはあるだろう。その時は今みたいにテレパシーで警告して、30秒はそこから出る猶予をあげよう。」
「それじゃあ改めて、禁止エリアは以下の通りだ。」
「今から二時間後、8:00にF-4。」
「四時間後、10:00にC-3。」
「そして六時間後、12:00にA-2。」
「続いて、脱落者の名前を読み上げるよ。興味がなければ人数だけ覚えてくれればいい。」
『影山 律』
『茅野カエデ』
『烏間惟臣』
『小林トール』
『鷺ノ宮伊澄』
『美樹さやか』
『遊佐恵美』
「以上、七名だ。」
「うーん、お世辞にもよく進んでいるとは言えないね。君たちの中にもまだ殺し合おうとしない人がいるようだ。」
「でも、きっと時間の問題だね。君たちの抱く恐れや不安、そして絶望――いわゆる負の感情は次第に増幅しているはずだ。」
「全部分かっているよ。だってこの会場は――ボクの認知で構成されているからね。」
「それじゃあがんばって。生き残れたら、六時間後にまた会おう。」
テレパシーによる放送が途切れる。姫神に闘志を燃やしていた者、姫神の接触を待っていた者、そして――姫神に協力することが、キュゥべえの企みの阻止に繋がると考えていた者。その情報は、盤面に大なり小なり干渉し、それぞれに様々な想いを残しつつも――殺し合いは再び開始する。
■
「……まったく、わけがわからないよ。」
無表情のままに、放送を終えたシャドウキュゥべえは呟く。視線の先には、長い鼻をした一人の老爺。
「どうして認知に一切歪みの無いボクに、認知の歪みに由来するパレスが存在するんだい?」
そこはパレスの内部ではなく、夢と物質、精神と現実の、狭間の場所――ベルベットルーム。既に用済みとなったがために処刑を執行された双子の死骸を目下に据えながら、老爺は笑う。
「人は、認知のフィルターを通して世界を見る。そこには平常、少なからず歪みが生じるものだ。その歪みが強ければ、大衆心理<メメントス>から独立しパレスを生む。だが……」
姫神にイセカイナビを与えた老爺、イゴール。ベルベットルームの住人にして――大衆の願いを統制する聖杯の化身。
「……聖杯の名の下に人々の歪みの存在それ自体を是とするならば――歪みの無きこそ真なる歪みと言えよう。」
殺し合え、狭間に生きる者たちよ。その舞台の名は――
「――『インキュベーターパレス』。司るは、空白。」
【カロリーヌ@ペルソナ5 死亡】
【ジュスティーヌ@ペルソナ5ㅤ死亡】
【???/ベルベットルーム/一日目ㅤ朝】
【キュゥべえ(シャドウ)@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを運営する。
一:???
【イゴール@ペルソナ5】
[状態]:健康
[思考・状況]
基本行動方針:人々の願いを統制する。
一:???
最終更新:2024年01月14日 11:17