「良かった、無事だったんだな。」
「……杏子ちゃん!」
出会った集団の中に含まれていたまどかを見て、杏子はほっと安堵のため息をついた。
魔女化の行方が気になっているさやか、まったくもって目的の読めないほむら、死んだはずのマミ――杏子の知り合いたちは再会に際し何かしらの不安材料を抱えている。そんな中でも純粋に再会を望めるのは、まどかただ一人だった。魔法少女としての実力を持たず、それでいて危険を顧みず戦いの場に出向くタチ。言葉を選ばず評すると、真っ先に死んでもおかしくないタイプだ。だからこそ、出会えたことは素直に喜ばしいことだ。
「おっと。」
出会い頭に駆け寄ってくるまどかを杏子は制止する。きょとんとした顔持ちで向き直るまどかを見て、今度は侮蔑の意味を込めたため息をつく杏子。
「あのなぁ……あたしがどんな奴だったかもう忘れたのか? ここじゃ簡単に他人を信用するもんじゃないよ。」
「でも、杏子ちゃんは信用できるから。」
「……ちっ、チョーシ狂うぜ。ホントに分かってんのか?」
元より、佐倉杏子という魔法少女は自分のために魔法を使うのだと公言してきた。信念を巡り、強制されるまでもなくさやかと殺し合いになったことだってある。己が損得勘定で他害すらも厭わない、佐倉杏子は行動原理の根底にエゴを見据えて評すべき人間だ。そして、まどかはそれを少なからず知っているのだ。
文字通り命を懸けた決心に横やりを入れられ、姫神に対する怒りが先行した現状だからこそ殺し合いへの反逆を掲げている杏子であるが、仮に巡り合わせが少しズレていたら、今も殺し合いに乗っていたとしても、何らおかしくはない。そういう人間に対し――目の前のまどかは無条件に信頼を見せた。
現に乗っていないのだから、自分のことは信頼してくれても構わない。だがまどかは、同じようにさやかもマミも、ほむらも信頼するのだろう。彼女たちの状況やスタンスの分からない今、それはまどかの命取りとなりかねない。そんな警告もかねて、まどかの額を指で小突く。それを受け照れくさそうに笑うまどかを見て、杏子はもう一度、様々な感情の入り混じったため息をついた。
(ま、合流できたことだし、こっからはあたしが気を付けてりゃいいか。)
そんなまどかに絆された経験のある杏子としては、それがまどかの長所であることも知っている。性善説を抱いて他人と接するだけの人間であれば、ただの平和ボケだ。鹿目まどかという人間はそれだけでなく、他者に優しさを「伝達」できるという強さを持っている。根底の芯の強さに裏打ちされた真っすぐな言葉で、相手をも引き込んでしまう。
ㅤ彼女のそんな一面を変えてしまうよりは、危険人物への警戒の面では自分が仲介する方が良いと思えるし、何より手っ取り早い。
「あなたが鹿目さんのお友達?」
「ん? ああ。」
会話がひと段落したのを見計らってか、まどかの同行者三人の中の一人、桃色の髪の少女が杏子へと駆け寄ってくる。口ぶりから見るに、まどかから自分のことをすでに聞いているというところだろう。
「私は桂ヒナギク。白皇学院の生徒会長よ。」
「……佐倉杏子だ、よろしく。」
ヒナギクの凛とした立ち振る舞いからは、気高さだけでなく頭の良さも感じ取れる。
(あたしもさやかのこととか色々と紗季さんに話しちゃいるけど……一方的に知られてるってのはちっとやりにくいもんだな。)
元の世界での行いにどこか後ろめたさがあるからか、杏子は少しだけそう感じた。が、それだけではないことに気付く。
「なんだよ。あたしの顔に何かついてるか?」
ヒナギクは、物珍しいものを見るかのようにじろじろと杏子の顔を凝視しているのだ。
「ああ、ごめんなさい。ただ鹿目さんから聞いた話と食い違うから……えっと……」
「……?」
妙な話をするものだ、と杏子は首を傾げる。まどかと出会ってからまだほとんど会話をしていないし、その内容だって今までの自分と乖離したものでもなかったはずだ。一体何が、まどかの話と食い違うというのか。
その答えは、どことなく気まずそうな表情をしたまどかの側から返ってきた。
「えっと……杏子ちゃん、どうして生き返ってるの……?」
刹那、あまりの想定外の発言に思考が停止する。言葉の咀嚼が即座に追い付かなかった。何せ、生き返るということはすなわち死を前提としているわけで、そしてまどかは、"自分"に対して何故生き返っているのかを問うているわけで……
「……はぁぁぁ!?」
その意味に到達するや否や、喉が張り裂けそうなくらい叫んだ。つまるところまどかは、自分が死んだと認識した上で話しているのだ。
「ちょ、ちょっと待て。一体どういうことだ?」
「えっと……杏子ちゃんだけじゃなくてマミさんやさやかちゃんもだけど……どうしてなのかなって。」
「悪ぃ、順序を追って話してくれ。」
「うん。えっとね……」
確かに、疑問はあった。死んだはずのマミに、魔女になったはずのさやか。この世界に、いるはずのない者が呼ばれているのは分かっていたのだ。しかしそれでも、自分は疑問を抱く側であると信じていた。まさか、自分もマミやさやかと同じ括りの、疑問を抱かれる側であるとは思っていなかった。
「んと……つまりまどかから見ればあたしは、数日前に死んだってことか?」
「うん……。」
話を聞いてみると、自分は魔女となったさやかを道連れに自爆したとのこと。その物語は確かに、自分が辿ろうとしていた道だ。だが、それを決行に移した覚えはない。杏子はその直前に、この殺し合いに招かれたのだから。
「にわかにゃ信じられねーけど……嘘には聞こえねーしな。マミの奴やさやかがここにいるって事実とも合致するのは確かだ。だが……そうなるとあたしたちは別の時間から集められてるってことか?」
これから反逆する主催者は、時間を超える力を持っているかもしれない。すなわち、もし上手く反逆の作戦が立てられても、全部なかったことにされる可能性すらあるということだ。
「別の時間……。」
「鹿目さん? 心当たりでもあるの?」
「……ええと。」
脳裏に過ぎるのは、別の時間を生きているというほむらの言葉。
みんなの命が失われていった中、彼女だけは最後までそこにいてくれた。でも、周りを拒んで独り走り続ける彼女の語る言葉は、頼りなくて。命なんて、簡単に掻き消えてしまいそうで。
「……いえ。分かりません。」
「そうよね。時間を超えるなんて、ネコ型ロボットじゃあるまいし……。」
分かっている。自分だけでなく他の皆の命が懸かっているこの状況下、情報となり得るものは惜しまず出していくべきだ。それを理解した上で――ほむらの能力については黙っていることを選んだ。
そもそもほむら自身がこの殺し合いに招かれていることや、ほむらへの信頼も含め、彼女の意思によって彼女がこの催しに関与しているとは思えない。そして何より、それがほむらの戦う理由だと、あの瞬間に分かったから――それは、不用意に踏み込んではならない領域だ。彼女が何を願ったのか、正確に理解しているわけではない。ただ、それがどんな願いであれ、人並みに傷付き、人並みに悲しむ一人の少女が、死と隣り合わせの戦いの宿命を受け入れてまで享受した願いであることに変わりはない。
不用意に情報を流すことで、主催者との繋がりの疑念が生まれ、結果的にほむらに不利益が及ぶ可能性が、低いだろうがゼロではない。したがって、まどかは沈黙を選んだ。
■
ㅤ杏子たちから少し離れ、紗季はひとり考え事に耽っていた。
知人の情報を語った時の杏子が一般人であるまどかの身を案じていたのは自分も知るところだ。その再会にあえて水を差すつもりはない。杏子たちから一時的に離れていることに、そんな気持ちが含まれているのは確かだ。
(……なんて、空気を読んだだけならいいのだけれど。)
本当は、自覚している。新しい恋人を作っていた九郎に深入りせぬよう、再会してからも一定の距離感を保っていたことにも、未知なるものを遠ざけようとする思惑が少なからず混じっていたことを。
言ってしまえば、まだ怖いのだ。魔法少女という非現実に、ずぶずぶと深く関わっていく自分が。
黄泉竈食という概念があるように、関わりを深めてしまえば、もう普通の人間には戻れないとでも思っているのだろうか。それとも、見知ったものが常世の理を変えてしまったあの時の得体の知れない恐怖を、もう知りたくないと身構えているのだろうか。
「――お互い、大変なことに巻き込まれたものですね。」
間もなくして、まどかの方の同行者の男、二人のうちの一人が話しかけてきた。どことなく九郎に似た、人畜無害そうな男性。名簿によると、滝谷という人か。
「ええ、本当に。」
ただでさえ元の場所で怪異や想像力の怪物といった存在と立て続けに出くわし、さらには杏子という魔法少女やモバイル律という超科学との邂逅。
「ところで……あなたも怪異とか魔法少女とか、そういったものに類するタチなのかしら……?」
……真っ先に、その点においての疑問があった。
「いや、ただの人間ですよ。」
にっこりと微笑みながら、滝谷はそう言った。我ながら魔法少女の例えは無いよな、などと思いながら、どこか安堵している自分がいた。
「ただ、あっちにいるファフ君はそういうのに分類されるかもしれません。 彼は俗に言うドラゴンと呼ばれる生き物なので。」
「えっ……ド、ドラゴン!?」
非科学的な存在への心の準備は、既にできていると自負していた。その上で、ドラゴンとは予想の斜め上だった。
妖怪が人の形をしていても頭の中のイメージとの差異はない。魔法少女は、むしろ人の形でなければ意外に感じるだろう。だが、ドラゴンはそうではない。人間離れした体躯と風貌――仮にドラゴンを模した想像力の怪物が生まれるとしても、その形は崩れることがないだろう。
滝谷の指した先にいる男、ファフニールはそうではなかった。ドラゴンと銘打ちながらも、その姿はどう見ても人間のそれ。それだけで滝谷の言葉を嘘と断じるつもりはないし、ここで無駄な嘘をつく意味もないためおそらくは事実なのだとすら思っている。思った上で――諦念を込めて、苦々しく呟く。
「……何でもいるのね、この世界って。」
「はは、だから殺し合いなんて言われても……何とかなる気がしているんでしょうね。」
何とかなる――何とかできるでも、何とかしようでもなく。
(ああ、そういうこと。)
滝谷にとっては何気ないひと言だったかもしれないが、それを聞いて納得がいった。
「あなたも、わけのわからない存在たちを傍観している側ということね。」
滝谷は自分と似ている――そう思った。非科学的な出来事が周りに存在することをすでに受け入れている。そして、その上で当事者になるまいと努めている。何とかなる、と――否、正しくは、何とかなればいいなあと流れに身を任せている。その思考形態は、非現実的な存在と関わりを深めることを恐れる自分と、きっと根底では繋がっている。
「でももしかすると……私たちも変わらないといけないのかも。」
不死身の体質を持つ九郎や、『撃破』の概念が無い鋼人七瀬。そして、一般的な通念にしたがえば人間よりも上位存在であるドラゴンや魔法少女といった存在。殺し合いというゲームの体を成していながらも、あまりにも、自分や滝谷といった一般人が勝てる仕様となっていない。弱者を強者が一方的に嬲り殺すショーが目当てならば、それでもいいのかもしれない。だが、姫神が仮にもこれを殺し合いと銘打ったからには、自分たちに対し何かしらの変化を要求するメッセージをその中に感じ取らずにはいられないのだ。
その言葉に――滝谷の表情が一瞬だけ、変わったような気がした。
「……まったく、耳が痛いよ。」
滝谷の目指すところは、ドラゴンたちを中心に形成された今のコミュニティを維持するところにある。当事者にならなくとも、外部から眺めているだけでも楽しいものがそこにはある。
その現状を保つことは、日常の中ではともかく、殺し合う世界では容易ではない。だから、傍観者でのみはいられないと思ってはいた。だけどそれは、人間にできる範囲の当事者性であり。人間を辞めるべきかどうかという瀬戸際である自覚など、一切なかった。変わる決意も結局は、現状維持のための決意でしかなかった。
「これは、僕も魔法少女にならないといけませんかね。」
「……その例えは、忘れてちょうだい。」
その時、滝谷の傍らで何も言わず佇んでいたファフニールが、談笑が始まった二人を見かねてか腹立たしそうに近付いてきた。
「……いい加減にしろ。これからの方針を立てるのだろう?」
「……そうだね。じゃあ、向こうで話している子たちも集め、話し合いといこうか。」
合流のため、まどか達三人の方へと向かっていく。その傍らで、滝谷は物憂げな様子で自身のザックを覗き込んでいた。その所作に、誰も気付かない。或いは、気付いたとしても何も関心を抱かない。
■
「そう……鋼人七瀬と出くわしていたのね。」
これまでに起こったことを簡潔に纏めたヒナギクから、これまでの経緯を大まかに聞いたところ、鋼人七瀬との交戦があったようだ。
「実はヒナギクさんが守ってくれて、助かったんだ。」
「そっか、サンキューな。コイツ命知らずなとこあるからさ、心配だったんだよ。でも、出会いに恵まれたようで何よりだ。」
「どういたしまして。何にせよ、全員無事で良かったわ。」
「ええっと……ただ気になるのは……倒すと霧のように姿を消したってどういうこと? 私の知る限り、鋼人七瀬にそんな特性は付与され得ないはずなのだけれど。」
ヒナギクの語る鋼人七瀬は、あの想像力の怪物のそれと概ね一致していた。だが、岩永とともに、人々が鋼人七瀬について如何なる想像をし得るのかは調べられる限り調べたはずだ。一般人が知り得る程度にネットの世界の表層に存在している鋼人七瀬の噂は、全て紗季の頭に入っている。だがその中に、「消える」類のものは存在していなかった。鋼人七瀬に消滅されては困る六花が予言獣くだんの能力まで用いて情報操作をしていたのだから、むしろそのような特性はあってはならないとすら言えるだろう。
「消えたんなら成仏したんじゃねーの? 実際、あたしらは鋼人七瀬を倒せるかもって言ってただろ?」
「だと良いのだけれど……」
確かに実際に消滅したのならなんの問題もない。だが、岩永があれだけ知恵を駆使して消滅させようとしていた怪物を、単なる実力行使で倒せてしまえたと言われれば、そう簡単にことが運ぶはずがないと言いたくもなるというものだ。鋼人七瀬に存在していて欲しいというわけではないが、拍子抜けだとでも言うべきか。
「それでも、あれは元々不死身の怪物よ。警戒を怠るべきではないでしょうね。」
「当然だ。宝を守りたいのなら、アイドルの亡霊とやらに限らず全てを警戒しろ。必要ならば殺せ。」
「……なあ、コイツ本当に殺し合いに乗ってないのか?」
「それ、私が最初に貴方に感じたことだから。」
「ファフ君は、ここに来る前からこうなんだよね……。」
「……っていうかツッコミそびれていたけど。」
話の流れを戻しつつ切り出したのはヒナギク。その話の向く先は、ファフニール。
「あなた、名簿には大山猛って書いてたはずよね。何でファフ君って呼ばれてるわけ?」
「む、コセキやジューミンヒョーとやら名のことか? それならばトールがフドーサンとやらのために勝手に作った名だ。俺のものではないし、この名前が通じるのもトールと滝谷くらいだろうな。」
「はは……」
サラリと戸籍の偽造をカミングアウトする危なっかしさにハラハラしながら、滝谷は薄ら笑いを浮かべていた。
「ただ正直、僕も忘れかけていた名前だ。写真が付属してるからファフ君だと分からない知り合いはいないと思うけど。」
「つまり主催者は戸籍を頼りに名簿を作ったってことかしら。……でも、『小林さん』なんて人もいたわよね?」
最初に、杏子と共に疑問に感じた名前を挙げる紗季。
「ああ、それも僕の知り合いだよ。あの人滅多に名乗らないからなぁ……。とはいえ、こうなるとたぶん、主催者は僕らの事情には疎いんじゃないかな。」
「――その可能性は高いと思います。」
名簿の考察を遮って紗季の方向から――しかし紗季のものとは異なる声が聞こえた。
「……律。突然喋り出さないでちょうだい、ビックリするから。」
その声は、紗季のポケットから取り出された携帯電話から聞こえてきたようだ。
「律……参加者の名前ね。連絡できてるの?」
「いえ、どうやら参加者とは別の律みたい。」
「おはようございます! 自律思考固定砲台、縮めて律と申します!」
携帯の中で、二次元の少女が挨拶をしていた。戸惑いながらも会話を少し交わすと、滝谷とファフニールもそれが定型文ではなく一定の思考能力に基づくものであると理解できる。
「……滝谷。これは何だ。」
「……さあ、僕にも分からないなぁ。高度な技術が用いられているのは分かるけど。」
唐突に提示されたバーチャル美少女に対し、湧き上がるヲタク心を抑え猫をかぶる滝谷。
「ところで、主催者が僕たちの情報をあまり持っていない可能性が高いという話だけど……何か分かることがあるのかい?」
「はい。僭越ながら、名簿を拝見させて頂きました。」
液晶画面に支給された名簿をパラパラと捲る律が表示される。そして、『茅野カエデ』の名と顔写真が示されたページが、アップで提示された。
「……コイツは。」
苛立たしげに、ファフニールは画面を睨み付けた。不意打ちからの一撃離脱を決められ、左腕を落とされた相手の顔だった。
「私の中には彼女のデータが存在しますが、この名前は本名ではありません。プライバシーもあるのでこれ以上は伏せますが、戸籍を改ざんしていた彼女のことを主催者側が把握しているのかは疑問です。」
知り合いへの分かりやすさを重視するならば、『茅野カエデ』の名を使うことに疑問はない。ただし、その場合はファフニールの名をほとんどの者が知らない『大山猛』と表記したことと矛盾する。
「……めんどくせーな。結局、主催者のリサーチが不完全だったってことだろ? つまり敵は万能でもなんでもなく、限界はあるってことだ。それなら付け入る隙だってあるかもしれねえ。話が早いじゃんかよ。」
「そうね、この上なくシンプルだわ。」
「こうしている間にも誰かが死んでるかもしれないんだ。これからのことを決めようぜ。」
原点回帰。結局、殺し合いの反逆のための手段が、『人数を集める』ことに落ち着くのは変わらない。
そして改めて、これまでの動向を紗季の側から話し始める。杏子としか出会っておらず話すことは少ないものの、しかし見滝原中学校に向かう方針とその理由について話し終えた。
「もちろん、協力するわ。」
「私も、足手まといになるかもしれないけど……それでも、一緒に行きたい。」
ヒナギクとまどかは彼女ら自身の性分も相まって二つ返事だった。特にまどかは、見滝原中学校でさやかとマミとほむらと合流が見込めるという点からも前向きだ。
「――くだらんな。」
しかし、ファフニールにとってはそうではない。
吐き捨てられたひと言に、杏子はムッとした顔で反論する。
「何だよ。何か文句あんのか?」
「脱出を目指すことに異論はない。だが、人を集める意義が何処にある? 徒党を組めば姫神の目にも留まる上、裏切り者が紛れ込む可能性も上がる。脱出なら、少数の信頼出来る者のみでするべきだ。」
「それは……。」
杏子はそれに反論できなかった。姫神の隙をつく以上、姫神に察知されないことは必須であることはファフニールの言う通りだ。それに――裏切り者が集団を崩壊に導くことだって無いとは言えない。ステルスマーダーが紛れ込めばもちろんの事だが、有り合わせの集団など、仮に明確な悪意がなくとも何かがすれ違って瓦解することも有り得るだろう。……家族の繋がりでさえ、そうなのだから。
「……それでも、あたしはやるよ。酔狂かもしれないけどさ、ハッピーエンドっていうのを諦めたくないんだ。」
それが理想主義者だというのなら、それでもいい。さやかの、眩しいくらいに真っ直ぐな性分が思い出させてくれた、大切なもの。いつか憧れた父のように、誰かのために行動することは、愚直だと言われようとも、綺麗だ。
「……好きにするといい。」
最初から、ファフニールは杏子の脱出手段をアテにはしていない。首輪のせいか制限されているドラゴンの力さて取り戻すことが出来たなら、殺し合いからの脱出など容易いとすら考えている。
「ごめんね、僕はファフ君に着いていくよ。」
滝谷にとっても、ファフニールに着いていくことは自身の安全に繋がると理解している。同時に、自分が居ないとファフニールがどう動くか分からないという懸念でもある。
「僕たちは元々放送を聞いてから方針を立てるつもりだったからね、ここに残ろうと思う。」
「そう、残念だけど……仕方ないわね。」
ファフニールの言うことにも一理あり、否定する気は紗季にもない。何なら、これまでの言動から予想の範疇だった。
しかし、続くヒナギクの言葉はこの中の誰にとっても予想外だった。
「だったら……ごめんね、鹿目さん。やっぱり私は別行動にしようと思うわ。」
「えっ……どうして?」
「ファフニールさんみたいに、自分たちだけで助かろうとはしたくないの。それだったら、別々に回った方が効率的でしょ?」
ヒナギクを突き動かすのは、殺し合いを強要するなんて許せないという通念上の正義感であり――そして、千穂を目の前で失ったことの後悔でもある。
この世界にいるのは、鋼人七瀬のような意思のない怪物もいるにはいるが、誰もが姫神によって集められた被害者だ。救える命であるかもしれないというのに、警戒心などという曖昧な根拠で失わせてしまうのは、悲しいことだ。
「……でも、危険よ。」
「大丈夫。私、元の世界で使い慣れた剣が支給されていたからある程度は戦えるわ。」
(……元の世界で使い慣れてたらそれはもう銃刀法違反なんじゃないかしら。)
浮かんだ疑問はひとまず不問にするとしても、彼女の話によれば、その剣に鋼人七瀬の振り下ろす鉄骨を受け止めるだけの力があるのは確かなようだ。その地点で、彼女の戦力は自分の遥か上を行く。やもすれば、杏子以上かもしれない。その場合はむしろ、3人と1人に分かれたとしても、戦力の天秤はヒナギクの側に傾くだろう。
「……ヒナギクさん。また、会えるよね……?」
「ええ、もちろんよ。ひとまず次の0時を目安に見滝原中学校に向かおうと思うわ。」
再会の約束をして、三人は見滝原中学校の方向へと向かって行った。それを見送った後、ヒナギクが向かった方向は、南。ひとまずは負け犬公園を目指し、知り合いとの合流を図る腹積もりだ。
そしてその場には当然、滝谷とファフニールのみが残された。
憑き物が取れたように、大きくため息を漏らす滝谷。その様子が気になって、ファフニールは尋ねた。
「……滝谷。お前はこれで良かったのか?」
「どうして?」
「ドラゴンが群れないのは強者たるゆえの摂理だ。だが、人間は……お前は、そうではない。」
それを受け、クスリと笑う滝谷。
「もしかして、心配してくれてるのかい?」
ファフニールは、思いやりという言葉からは遠くかけ離れたドラゴンだった。生き方がそもそも人間のそれと違ったのだから、当然のことだ。
だけど――そんな、人間よりも永い時を生きた者たちが、人間ににじり寄り、何かが変わりつつあるのだ。
(――でももしかすると……私たちも変わらないといけないのかも。)
頭の中で、紗季の言葉が反芻する。紗季が語ったのは、あくまでも精神面での話でしかない。例えば、人魚とくだんの肉をそれぞれ食した九郎の話がフラッシュバックして、今でも肉を食べることができない。未知なるものへの根源的な拒絶反応。それの克服に繋げるべきという話に過ぎない。この殺し合いからの脱出にあたり岩永や九郎の手を借りるつもりなのだから、トラウマの克服が彼女の生還に繋がることに疑いはない。
だが――滝谷にとってはそうではなかった。彼は、望めば今すぐにでも、『肉体的に』変わることが出来るのだ。
殺し合いの世界に招かれ、現状把握がてら真っ先に開いたザックには――説明書の付属した、液体入りの注射器の箱。『試作人体触手兵器』と呼ばれるらしいその薬品は、接種することにより強大な力を得られるとともに、メンテナンスを怠ると地獄の苦痛が待ち受けているという。
それが事実であるかどうかはどうも眉唾ものだ。強大な力というのも、存在としての規模が違うドラゴンと比べられるほどのものなのか分からない。だが、その真偽も、その効力も、さしたる問題では無いのだ。ただ、それを用いようと思った地点で。ただ、人間の手に余るだけの力を求めた地点で。それは、人間を辞めることに他ならなかった。
滝谷はそれをそっと、封印するかのようにザックの底にしまいこんだ。今はファフ君が傍にいて、自分が何かをする必要もなく守ってくれている。コミュニティはまだ維持されている。だけど、この世界ではそれがいつ脅かされるやも分からない。そんな時は――或いは僕も、何かに変わらないといけないのだろうか。
【C-3/平野/一日目 黎明】
【桂ヒナギク@ハヤテのごとく!】
[状態]:腰の打撲 疲労(低)
[装備]:白桜@ハヤテのごとく!
[道具]:基本支給品、不明支給品0~2
[思考・状況]
基本行動方針:誰も死なせない
一.負け犬公園へ向かう
二.18時間後、見滝原中学校に向かう
三. 佐々木千穂の思い人に出会ったら、共に黙とうを捧げたい…
※名簿を暗記しました。
※参戦時期は姫神と面識を持つ前です。
※情報交換によりドラゴンや異世界の存在、鋼人七瀬、魔法少女について知りました。
【滝谷真@小林さんちのメイドラゴン】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品0~2(本人確認済み)、試作人体触手兵器@暗殺教室
[思考・状況]
基本行動方針:好きなコミュニティーを維持する
一.放送に耳を傾けて今後の方針を考える。
二.ファフ君がドラゴンとして殺し合いに乗るのを防ぐためにも、まずは自分が死なない
三.小林さんの無事も祈る
[備考]
アニメ2期第6話(原作第54話)より後からの参戦です。
【大山猛(ファフニール)@小林さんちのメイドラゴン】
[状態]:左腕喪失(再生中) 人間に対するイライラ(低)
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品0~3(本人未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:姫神を殺す。
一.放送に耳を傾けて今後の方針を考える。
二.ひとまずは滝谷を守りながら脱出の手段を探す。
[備考]
滝谷真と同時期からの参戦です。
【支給品紹介】
【試作人体触手兵器@暗殺教室】
滝谷に支給された薬品入りの注射器。接種することで殺せんせーが得たものと同じような触手を後天的に植え付けることができる。原作では、雪村あかりが使用した。
本ロワでは制限の代わりとして、以下の設定を適用する。
『原作のようにマッハ戦闘を可能にするほどの速度を出せるまで身体に適合するには、この殺し合いの実質的な制限時間である三日間では足りない程度の期間を要するため、実際に得られる力はパワーバランスを著しく破壊しない程度に絞られる。』
「……!」
紗季とまどかと杏子の三人がその銃声を聞きつけたのは、ファフニールたちと別れ、10分ほど経った頃だった。
紗季は、その音を知らなかった。警察官として発砲音やその危険性を察知できており、相応に危機感を覚えていたが、認識はそこで止まっていた。
まどかも、その音を知らなかった。その音の意味を理解できないほど楽観的ではないが、しかしその主を識別できるほど"彼女"との仲を深めていなかった。
(この音……)
一方、杏子は――その音を知っていた。むしろ、現物の銃器の音を知らないからこそ、それにしか結び付けられなかった。
(……ティロ・フィナーレじゃねえかよっ!)
かつて魔法少女の先輩、巴マミとタッグを組み、魔女と戦っていた時に幾度となく背中を預けてきた、"正義"の音。何の因果が巡ったかは知らないが、彼女の正義は今――殺し合いの渦に呑まれている。敵が鋼人七瀬のような怪物であればいいのだが、名簿に載った人間の割合を考えても、その確率は低い。
「悪ぃ、あたしは先に行く。」
「……杏子ちゃん?」
「ちょっと、落ち着きなさい。銃撃戦が起こってるのよ。」
「……それでも、だ。」
「あっ……待ちなさいったら!」
二人の制止も聞かぬまま、杏子は大地を蹴って加速し、森の中へと消えていく。
(一体どうしたの、杏子ちゃん……)
俯いたまま戦場へ向かって行った彼女は、ついさっきまでの彼女とは打って変わって、思い詰めたような様子だった。何があったのかは、マミと杏子の関係を知らないまどかには推理できるまで至らない。だが、苦しそうに戦場へ走る杏子の姿からは、死ぬ間際のさやかの姿が思い返された。そのまま、永遠の別れになってしまうような気がしてならなかった。
「私も……行きます!」
「ええ……佐倉さんを追う必要はあると思うわ。でも……」
そして紗季にとっても――嫌な予感が頭をめぐって離れなかった。都市伝説などに警察は動かないからと独自調査のために単独行動をとって、そのまま鋼人七瀬の手によって帰らぬ人となった、寺田刑事。今の杏子だけではなく、危険な地帯にあえて飛び込もうとしているまどかも例外なしに、彼と重ねてしまうのだ。
「……私の傍は、離れないで。」
痛ましいほどに必死なその言葉に、まどかは頷くことしかできなかった。そして同時に――この世界に渦巻く絶望の種に、得体の知れない恐怖が襲ってきた。
【C-4/平野/一日目 早朝】
【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[装備]:綾崎ハーマイオニーの鈴リボン
[道具]:基本支給品 不明支給品1~2(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを終わらせる
一.杏子たちと見滝原中学校に向かう
二.キュウべえが居るなら、魔法少女になってでも
※情報交換によりドラゴンの存在と向こうの世界(異世界)と鋼人七瀬について知りました。
【弓原紗季@虚構推理】
[状態]:疲労(小)
[装備]:モバイル律
[道具]:不明支給品1~2、ジュース@現地調達(スメルグレイビー@ペルソナ5)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いの破綻
1:杏子を放っておけないため見滝原中学へ同行する
2:可能であれば九朗君、岩永さんとの合流
3:美樹さやかに警戒(巴マミの存在も僅かに警戒)
4:魔法少女にモバイル律……別の世界か……
※鋼人七瀬を倒す作戦、実行直後の参戦です
※十中八九、六花が関わってると推測してます
※杏子から断片的ですが魔法少女に関する情報を得ました
※モバイル律からE組生徒の情報及び別の世界があるという可能性を得ました。
※杏子とのコープが4になりました。以下のスキルを身に付けました。
「警察の追い打ち」杏子の攻撃で相手をダウンできなかった場合、追撃する。
「現実トーク」相手との会話交渉が決裂した時に、人間であれば、交渉をやり直せる。
【C-4/D-4境界付近/一日目 早朝】
【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:姫神に対するストレス、魔法少女の状態
[装備]:なし
[道具]:不明支給品1~3 ジュース@現地調達(中身はマッスルドリンコ@ペルソナ5)
[思考・状況]
基本行動方針:とりあえず姫神を殴らないと気が済まない
1:紗季と見滝原中学へ向かう
2:鋼人七瀬に要警戒
3:さやかに会ったら…
※魔女化したさやかと交戦中の時の参戦です
※最初の場のやり取りを大雑把にしか把握していませんが、
大まかな話は紗季から聞いています
※紗季から怪異、妖怪と九朗、岩永の情報を断片的に得ました
※モバイル律からE組生徒の情報及び別の世界があるという可能性を得ました。
※さやかは魔女化した状態と思ってます
※パレスの中では、鋼人七瀬が弱体化してる可能性は仮説であるため、
実際に彼女が本当に弱体化してるかどうかは分かりません
■
ある地点の森の中で繰り広げられている銃撃戦は、しばらくの間、停滞を見せていた。木々という遮蔽物が、弾の命中精度を大きく下げている状況。弾薬に限りがある中、無駄撃ちを避けながらの様子見が長く続いている。
銃撃戦を担う片側、鎌月鈴乃は暗殺を生業とする戦闘スタイル。弾幕をくぐり抜け、武身鉄光による一撃を当てること、それが最も手っ取り早く相手を制圧させる手段だ。十字架を模したロザリオを大槌に変化させられることはすでにバレている。不意打ちは通用しない。
もう一方の巴マミ。魔法で形成し、魔力の続く限り放てる弾薬も、鈴乃の魔避けのロザリオの効力で回避され続け、得意とする手数で押し切る戦術が機能していない。
両者の最も得意とする戦術がともに有効に働かない現状。見せていない手札は両者ともにゼロではない。聖法気を用いた小技の連撃と、一撃で敵を仕留める大技ティロ・フィナーレ。ともにこれまでの戦闘スタイルを一新する緩急差を利用した不意打ちでありながら――そのどちらもが、これまで戦ってきた相手の得意な土俵であると理解している。リスクは、少なからず伴う。
(それでも……)
(だからといって……)
ただでさえ、誤解やすれ違いから始まった決闘。戦う理由は同じ方向を向いていようとも。
(――カンナ殿を助けるために……)
(――渚くんを守るために……)
どちらの信念も、リスクを甘受してでも止まれない理由に足り得るのだ。
「「負けるわけにはいかないっ!」」
遮蔽物となっていた木から飛び出し、聖法気を練り上げる鈴乃。それに対し、マミは変質させたリボンを木に横巻きに結び付ける。
「武身鉄光……」
鈴乃の手には、魔法を弾く性質を付与された大槌。しかしその狙い澄ます先はマミではなく、その前方の空間。
「――武光烈波っ!」
破壊力に特化したそれを振るうと、それに伴う衝撃波がマミへと吹きすさぶ。襲いかかる風塵がマミの視界を覆い、鈴乃の姿はその瞬間に隠される。即座、サイドステップ。視界から消えている間に素早い動きで撹乱せんと、利き腕と逆なマミの左側に跳んだ。
「――前が見えないのなら……」
次の瞬間、木に巻き付けてあったリボンがまるで触手のようにうねり、大地に根付いたはずのそれを引き抜いた。
「薙ぎ払ってしまえばいい!」
「なっ……ぐあああっ!!!」
巻き付けた木ごと、前方に振り払う。予想だにしていない反撃に、持ち前の素早さまで加算され激突する鈴乃。その衝撃に、一直線に吹き飛んでいく。その先には、一本の大樹。阻むものなく激突し、全身から血を吹き出しなが崩れ落ちる鈴乃。
(今が……この上ないチャンスっ!)
マミの追撃の中身に思考を費やす余裕は、今の鈴乃にはない。マスケット銃の追撃でも充分に脅威だ。
(くっ……急いでこの木の裏に……!)
だからこそ、それが咄嗟の判断から導き出された行動であり――
(もちろん、そう動くわよね。なら……)
「……そいつごと、吹き飛ばすっ!」
――それはマミの計算の、範囲内。
鈴乃が立ち上がったその時に、砂煙の奥に見たのは――身の丈に合わぬ巨大な大砲を、鈴乃に向けて構えた姿。
「しまっ……!」
「――ティロ・フィナーレ!」
しかし、照準を鈴乃と、その背後にある巨木に定めたその時。
「えっ……?」
マミの視界に、映ってはならないものが映った。
撃ち抜こうとしているその巨木の裏から。唐突に吹き飛ばされてきた鈴乃から、逃げるように。
――走り去ろうとする、塩田渚の姿だった。
(――あっ……)
……駄目だ。
トリガーを引く指は反射でも停止できる段階にない。必殺技の、発射自体は止められない。
だから、撃ち殺しちゃう――――――誰を?
決まってる。鎌月鈴乃、渚くんを傷付けかねない私の敵。
それだけ?
近くには、南で待っておくように言っていたはずの渚くんが何故か隠れていた。
それは、つまり?
……あっ。
守るはずの、渚くんごと――殺しちゃう。
「いっ……いやあああああっ!」
直後、マミの背中から生えたリボンが大砲の先に絡み付く。発射そのものは止められるものでなくとも。絶望から一気に放出された魔力はその一瞬だけ、渚の知る殺せんせーの"触手"並の速度を展開し、発射よりも早くその銃口の向く先を強引に捻じ曲げた。
的外れの方向に放たれたティロ・フィナーレ。それは誰ひとり撃ち抜くこともなく虚空へと消えていく。そして、強引な停止のために魔力を使ったマミは、その場にどさりと崩れ落ちる。
「まずいっ……!」
自分の存在に気付いていないマミの大砲の照準が自分へと向いた時、渚は命の危機をこの上なく感じ取った。だからマミがギリギリで自分の存在に気付きその照準を強引に変えてくれた時――命が助かったことによる安堵が先行し、その場で呆然と立ち尽くしてしまった。
そのせいで――目の前にマミと戦っていた鈴乃が――殺し合いに乗っているようにしか見えない少女が、自分を発見したことに気付くのが、遅れてしまった。
(――殺されるっ!)
恐怖がまず、心の中を支配した。次に、何をすべきかが見えてきた。腰のナイフへと、手を伸ばし――
「――逃げろ。」
次に聞こえた言葉は、渚の認識を反転させた。
「……えっ?」
殺せんせーを殺すための教室で、一年近く殺意を磨いてきたからこそ、分かる。その一言には、凡そ殺意というものが籠っていなかった。
そもそも、マミと鈴乃が戦っているのは、鈴乃が殺し合いに乗っているからだという前提があったはずだ。それならば、鈴乃の標的はマミに留まらず、当然に渚も含まれるはずだ。
「あの女の相手は私がするから、早く逃げるんだっ!」
(あっ……この人……)
渚は、気付く。
(何か、誤解がある……! マミさんと戦う理由が……ない……!)
この決闘が、何かの間違いによって導かれていたということに。
そして、それと同時のことだった。
「――やあ、調子はどうだい?」
……殺し合いが始まって6時間が経過し、
第一回放送が開始した。
或いは、殺し合いにまで発展したが、誰も死なずに解かれ得る誤解の連鎖かもしれない。しかしこの場で巻き起こっているのは、少なくとも今はまだ完全には終わっていない決闘である。
まだ、未来は確定していない。しかしただひとつ言えるのは――この放送が、彼女たちの局面を充分に変え得るものであるということだけだ。
【C-4/D-4境界付近/一日目 早朝 放送開始時刻】
【鎌月鈴乃@はたらく魔王さま!】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:ミニミ軽機関銃@魔法少女まどか☆マギカ、魔避けのロザリオ@ペルソナ5
[道具]:基本支給品 不明支給品0~1(本人確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:皆が幸せになれる道を探す
一.マミを無力化する。
二.カンナ殿、千穂殿、すまない……。
※海の家に行った以降からの参戦です。
※小林カンナと互いの知り合い・支給品の情報交換をしました。
【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:ダメージ(中)、魔力消費(大)渚の保護を重視
[装備]:魔法のマスケット銃
[道具]:基本支給品、ロッキー@魔法少女まどか☆マギカ(半分)、不明支給品(0~2)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。殺し合いに乗る者を殺してでも、皆を守る。
一:鎌月鈴乃が……渚くんの近くにっ!
二:渚、まどか、さやかを保護する。杏子、ほむらとは一度話をする。
三:渚くんと会話をしていると安心する...彼と一緒に行動する。
※参戦時期は魔女・シャルロッテに食われる直前です。
※潮田渚と互いの知り合い・支給品の情報交換をしました。
【潮田渚@暗殺教室】
[状態]:健康
[装備]:鷹岡のナイフ@暗殺教室
[道具]:基本支給品 不明支給品(0~2)
[思考・状況]
基本行動方針:暗殺の経験を積む...?
一:鈴乃さんは殺し合いに乗っていない……?
二:何ができるか、何をすべきか、考える。
三:暗殺をするかどうかはまだ悩み中。
四:とりあえず巴さんの通っている見滝原中学校へ向かう。
※参戦時期は死神に敗北以降~茅野の正体を知る前までです。
※巴マミと互いの知り合い・支給品の情報交換をしました。
最終更新:2024年01月14日 11:21