「あなたは、殺し合いに乗っていないと言いました。」
「でもあなたはその言葉を信用できないんでしょう?」
開口一番に発された言葉は、和解とはほど遠い険悪なものだ。しかし岩永の言葉が理不尽な言いがかりであると主張する以上、そこで真は引いてはならない。
「ええ、その正否は分かりません。……しかし、あなたがこの殺し合いに『乗らない』選択肢を少なくとも現実的に取り得ると見ていること、それだけは分かります。」
「……どういうこと?」
「考えてもみてください。現状、私たちは爆弾付きの首輪を嵌められて殺し合いを強制されているんです。
ここで我が身が最も可愛い正常な人間であれば、生き残るために誰かを殺す選択をする。それならば、『乗らない』選択肢などそもそも脳内に生まれ得ないものですよ。
……にもかかわらず殺し合いに乗らない選択肢を選ぶ人間には、ふたつの理由が考えられます。他者を殺してまで生き残りたくなく、生を諦めているか――或いは、殺し合わずとも脱出ができる可能性に賭けているか。
そしてその規範は当然に、殺し合いに乗らないことを詐術に用いる者にも存在しています。」
真の語った殺し合いへのスタンスは、嘘である。そして岩永はその嘘を嘘であると断定できない。しかしそれが嘘であるという仮定の下では、真が、その嘘をもって他者を騙せると判断したこと。それは紛れもない真実として岩永に提示されているのだ。それは、真の中に『生き延びるためであっても他者を殺したくない』という意識規範があること、もしくは真が『脱出の可能性とて現実的なものと考えている』ということに他ならない。
「……つまり、仮に私が殺し合いに乗っていた場合であっても、殺し合いに乗らないことを平常として謳えるだけの意識が私の中にある――そう言いたいわけね?」
「ええ、話が早くて助かります。その意識が小なりともあるのであれば、仮にあなたが殺し合いに乗っているとしても、交渉の余地は充分にある。つまり私がすべきは、殺し合いに乗らないことのメリットが乗るメリットを上回ること――もとい、殺し合いに乗るデメリットが乗らないデメリットを上回ることを提示することに他なりません。」
「……回りくどいことをするのね。私は最初から乗っていないのだから、そんな小細工は必要ないのに。」
「だとしたら、私の用意した回答はあなたへの無礼も相当に含むでしょう。何故なら私は、乗らないことのメリットだけでなく、乗ることのデメリットも用意してきたから。……それはある種、あなたへの『脅迫』を意味します。」
頭角を現した本題を前に、真はため息を漏らす。全てを見透かすがごときこの少女が前に立ち塞がっている地点でろくな話じゃあないと想像はしていたけれど、それがハッキリと明示されたのだ。
「……ホント、厄介な相手に捕まったものね、私も。」
それだけではない。少なくとも岩永が語る予定の語りの中には、殺し合いに乗ること――すなわちこの場で岩永を殺すことに、何らかのデメリットがあることをあらかじめ提示されたのだ。その地点で、それが何であるか問い質さないことには真は岩永を殺せない。
「では……まずは定義を確認しておきましょうか。私の言う『和解』とは、不干渉ではありません。殺し合いを打破するために以降の行動を共にし、情報を共有することまでを含みます。」
岩永がまず切り出した内容は、さっそく譲歩できないところだった。真の目的は、心の怪盗団『ザ・ファントム』の存続、すなわち怪盗団全員の生還にある。放送によれば彼等はまだ誰も死んでおらず、まだその目的はくじかれていない。みんなが生還できるのなら、心の怪盗団以外の他者と手を組むこととて選択肢に入るのは真のスタンスからして間違いない。
「まずはそのメリットを提示しておきましょうか。私はこの殺し合いの主催者、姫神葵の裏にいるであろう人物を知っています。」
「……! それ、確かなの?」
それを聞いた真の表情が驚愕に染まる。真には全く裏の読めていないこの殺し合いに、姫神以外の人物が関与していることを岩永は確信しているのだ。
仮に名簿に明智吾郎の名が無かったら、彼の関与を疑っていたかもしれない。仮に明智についてもう少し調査が進んでいれば、獅童正義やその軍門の関与を疑っていたかもしれない。仮に世界の真実に辿り着いていたならば――統制を担う聖杯の関与を、察知していたかもしれない。
真は、そのどれでもなかった。姫神葵という人物にこそ面識は無かったが、世を賑わす心の怪盗団であるというだけで誰からでも狙われる原因ならば有している。
「少なくとも私はそう確信しています。放送の主が姫神の声でなかったことから、主催側が一枚岩でないことは容易に想像つきますし。」
「一体、それは誰なの?」
口から出まかせだとは思えないが、現状、岩永と真の情報交換において、岩永は自身の持つ情報をほとんど出していない。興味ありげに質問で返す真。
(……この名簿に鋼人七瀬が載っている地点で、彼女に自身の存在を秘匿する意思はない。それなら、名前を出したくらいで首輪を爆破されることはないでしょう。)
少しだけ、考える風な表情を見せた岩永であったが、間もなくして口を開いた。
「――桜川六花。世の秩序に干渉してでも己が目的を叶えんとする者です。」
「……抽象的すぎて分からないけど……要は悪党ってことよね。」
「今はまだ詳細は伏せますが……ひとまず、これで情報の前払いということで。ところで、桜川六花の名前に聞き覚えはありますか?」
「いいえ、特に無いわね。強いて言うなら、桜川の苗字は名簿にあったかしら。」
名前だけでなく、イセカイナビを取り戻した時に、桜川六花なる人物がいかなる認知の歪みを有しているのか、その内容となるキーワードも手がかりがあるのであれば手に入れておきたいところだ。少なくとも、真の最終的な目標は優勝ではなく姫神の改心にある。しかし奴に協力者がいるというのなら話は変わってくる。姫神だけでなくその人物もまた改心の対象であるのだから、その人物の情報を知る者がいると言うのならば、協力する理由にもなるだろう。
あえてその選択肢を遠ざけている理由として、真たち怪盗団の現状があった。改心後の会見中に廃人化し、そのまま死亡した奥村邦和の一件。それ以来、世間における心の怪盗団の信用は地に落ちたと言っても過言ではないのだ。
特に最初の会場で姫神は、竜司を怪盗たる集団に属する者であると実質的にカミングアウトした。厳格には心の怪盗団であると言われたわけではないが、怪盗と言えばそれを示すのだという世論は形成されてしまっている。仮に対主催者の集団ができたとしても、少なくとも正体がバレている竜司は爪弾きにされる可能性が高いのだ。
ではそうなった場合に、心の怪盗団のメンバーは竜司を見捨てるか? 否、彼等は、そして真自身とて、絶対にその選択を取らない。竜司が対主催集団から孤立するのであれば、それらと敵対してでも竜司の側に付くだろう。それが弱気を助け強きをくじく怪盗団の反逆の意思であり、それがかつての真を救った怪盗団の誓約であり、そしてそれが真が居場所であると感じている怪盗団の信念なのだから。
だから、対主催同士であったとしても怪盗団のメンバー以外と組むのは困難だという認識は真の中に存在する。そして、なればこそ敵対者の淘汰という結論がある。怪盗団と敵対し得る勢力を残すくらいなら、最初から怪盗団の礎にする方が合理的だ。真が殺し合いに乗っている考えの根底には、世間が怪盗団を見る目への不信が根付いている。
「私から提供できる協力のメリットはこの情報にあります。逆に私を殺すと、主催者に繋がる情報を得られる機会は喪失するともいえます。」
百歩譲って、岩永が心の怪盗団の支持者、もしくはそれを受け入れる度量の持ち主だったとしよう。そうすれば、彼女自身とは協力していけるかもしれない。しかし、彼女が増やしていくであろう他の協力者についてはそうではない。岩永が自分だけでなくさらに他の者たちとも協力するスタンスを取るのであれば、必ず怪盗団に不信を抱く人物も存在するだろう。
「……しかし、これだけでは不十分です。何故なら、私が私の持つ全ての有力な情報を提供したならば、私を生かしておく価値がなくなる。つまり私は、常にあなたに与えられる情報を温存しなくてはならないことになる。」
「だから、私はそんなこと――!」
言い返そうとした時、真は気付いた。少なくとも殺し合いに乗っていないと謳っている以上、協力を要請する岩永の言葉には、全て二つ返事で返すしかないということに。殺し合いに乗ることのデメリットとやらの話に語りが進んでいないから、問答無用で殺す選択肢が取るに取れない。つまり真としては岩永の話を、基本的には黙って聞く他ないということだ。様々に言い分を許しつつも、最終的には「本当に殺し合いには乗っていないのだから構わない」の常套句で許容しなくてはならない。
「……いいえ、何でもない。」
それの何が和解だ。まるでこれが対等な話し合いであるかのごとく進行させているが、真の反応は最初から誘導されている。何を主張しようとも、自分が真顔で嘘をつけるという前提に岩永が立っている以上、この場では自分の語る真実に力はない。一切の反論が、許されていない。
そう、これは――言うなれば、推理だ。探偵が容疑者を集め、それぞれに納得のいくように言論を進めていくかのごとく進行しつつも、しかしその導線はすべて犯人を追い詰める、ただそれだけのために敷かれている。議論の進むべき道は最初から決まっている。
確かに、その予兆は最初から感じていた。わざわざ姿を現した岩永の意図が読めず、迂闊に殺せないこと。そして、殺せないがために殺し合いに乗っていないフリをするしかないということ。消去法的に選ばされた行動の、まるで全てが岩永の思う通りに誘導されているかのような。
「……いや、待って。」
――気に入らない。
"推理"を語る岩永が初めから潔白であるかのように見なされる土台がそこにあることが、気に入らない。
「そもそもこの談合には、重要な視点が抜け落ちているわ。」
"探偵"こそが正義であると誰が言ったか。
"探偵"は真実を語ると誰が決めたか。
「だってそうでしょう? あなたが私に取り入って、私を背後から撃つつもりである可能性は否定できないじゃない。」
岩永と対等であるというならば、真の側にも疑念を発露する余地がある。岩永が真を警戒するが故の討論ならば、真にも同等の主張をする権利がある。殺意の無い証明を成すことが無理難題であればこそ、二人の邂逅はこうして捻れているのだ。
「そもそもの話、殺し合いに乗らないにあたっての同行者が欲しいのならさっきまで一緒だった綾崎ハヤテでも良かったはずよね? にもかかわらずあなたは私に接触し……同時に彼はこの場にいない。その地点で、彼がすでにあなたに殺されている可能性まで浮かんでくるわ。」
真はさらに続ける。岩永との討論においてようやく見出した優位性だ。自らの置かれた立場が不利であったのならば、その立場を反転させてしまえばいい。
(綾崎ハヤテを切り捨てた理由……深堀りされると都合が悪い。)
一方、岩永がハヤテを一人で行かせた理由は、三千院ナギを最優先とするハヤテのスタンスが時に己の安全確保と衝突し得るからだ。しかしその真実を語るのは、後に紡ぐ予定の虚構との折り合いがつかない。少なくとも綾崎ハヤテの行動の手網は、岩永がある程度握れる立場にあることは仄めかしておく必要がある。
「確かに、私とて殺意が無いことの証明はできません。でも、私はその上であなたと協力体制を築くことを最優先としたいのもまた確か。」
真は、パレスとは何であるのか、その知識を有している。仮に現状、殺し合いに乗っているのだとしても、脱出のために動いてもらうだけの理由がある。だからこそ、真の協力を得ることを最優先事項に据えた一手を打つ価値がある。
「では、これでいかがでしょうか。」
「っ……!」
岩永が懐から取り出したのは、かつて九郎の力を借りて処分に当たった隕石の欠片。それから発される電撃の威力は真もすでに知るところであり、岩永を殺してでも奪う価値を見出してすらいる産物だ。真は一歩引いて、岩永の出方を伺う。
もしも発射しようものなら、電撃ごとヨハンナで打ち払えるよう準備して――
「ちょっと、何を――!」
しかし岩永がもう片方の手に握ったものを確認するや、真はその顔を驚愕の色に染めた。
――パキィンッ!
次の瞬間、ハヤテから受け取った支給品、クルミ割り器が隕石の欠片を粉々に砕いた。基本支給品である腕時計のベルトに用いられた絶縁性のナイロンを挟み込むことで漏電を起こすこともなく、電撃発生装置としての役割を失った欠片がその場に零れていく。
「っ……!」
「これで、私があなたを物理的に害する手段は失われました。」
隕石の欠片の破壊の意味は、武装解除に留まらない。有用な支給品の奪取という、真が岩永を殺すに足る理由のひとつが失われた。
そもそも、岩永琴子は秩序を重んじる知恵の神である。本来、宇宙的な怪異の産物である隕石の欠片に秘められた電撃の力は、否定して然るべきものに他ならない。
桜川六花の企みを阻止するという目的の下に桜川九郎の人魚・くだんの力を利用しているように、その力の持ち主に殊更秩序を破壊する目的が見られず、かつ一定の妥当性・必要性があれば秩序に反する力を利用することも視野に入れないではない。その一方で、その力を封じることにこそ、真への武装解除という明確な理由が生じている今、隕石の欠片を破壊することにも何ら躊躇する理由はない。むしろ、秩序維持を生業とする知恵の神の本分であるとすら言える。
「……どうかしてるわ。」
だが、そんな事情など真は知らない。知る由もない。支給品に人の命以上の価値を置いて、怪盗団のためにそれを確保しようとしている真にとって、岩永の行動は狂気じみたものにしか見えない。
「私のことを警戒していると宣っておきながら、その一方で私への抵抗手段を自ら捨て去るなんて。」
そして、その手段を真には到底、真似出来ないのだ。他者を殺してまで集めた支給品を捨てることはもちろんであるが、己の心の一部であるペルソナは物理的に武装解除が出来ない。たとえヨハンナが、岩永にはただのバイクに見えていたとしても、そもそもバイク自体が充分に凶器であると見なせるのだ。
確かに、目の前で支給品を砕いた岩永とてペルソナ、もしくはそれに準ずる異能の力を持っていないとは限らない。だが、真はその疑問を岩永にぶつけることはできない。一般人には到底浮かびえないその疑問を呈すること自体が、自分が異能の力を持っていることのカミングアウトと同義だ。
別にペルソナはバレてはならない類の力というほどではないが、それは律を殺害した力。万が一ルブランを訪れる前の岩永が律の死体を目撃していたとしたら、彼に残った傷跡と照合するなどして彼の殺害が発覚しかねない。
そして丸腰となった岩永は、再び口を開く。
「確かに私は、この談合はあなたへの脅迫でもあると言いました。しかし、脅迫材料が武力であるなどとはひと言も言ってませんよ。」
「……じゃあ、何だって言うの。」
着地点は、未だ見えない。しかし真は、思い知ることとなる。着地点を遠くに見据えた岩永琴子のやり口を。
「――この場にいない綾崎ハヤテ。それこそが、私があなたに提示する脅迫材料です。彼がこの場にいないからこそ、仮にあなたが殺し合いに乗っていたとしても、あなたは私を殺せない。」
言葉の刃を振りかざしながらも、片や見えないところで猛毒を注入するかのごとく――
「つまり……武器は彼に預けている……そういうこと?」
「いいえ。あの自転車は確かに彼に譲り渡しましたが、武器として渡したものは何もありません。
この談合に当たって私が彼に与えたのはただ一つ、言伝です。その内容は、以下の通り。」
――最後の一撃は、指し示された。
「『放送で岩永琴子の死亡が確認された場合、新島真、ならびに彼女の仲間と思われる怪盗の名を冠する集団、その全員を危険人物として他の参加者に周知せよ。』」
――真っ赤な嘘だ。
ハヤテに対し、岩永の死後の言伝などされていない。仮にそれがなされていた場合、進んで死に向かうかのような岩永の行動を、ハヤテはむしろ躍起になって止めていただろう。
「そんなっ……」
言葉の上ではともかく、行動の上で岩永は何も真の実力行使に対する対策を練っていない。しかし、仲間の居場所が脅かされかねないその虚構は、真に致命的なひと言を、言わせてしまった。
「――みんなは……関係ないじゃないっ!」
直後、真は自分の発した言葉にハッとしたように、慌てて口を押さえた。だが、手遅れだということはその場の空気が物語っている。姫神に怪盗の肩書きを暴露された竜司と真の繋がりが――世間的に悪と見なされている怪盗団であることが――岩永の前に露呈してしまった。
ただし、現実として心の怪盗団を知らない岩永にとって、それはさしたる問題ではない。
「……。」
「ともかくこれで、あなたは私を殺せない。さらには、見捨てることもできない。私があなたと関係ないところで死んでも、綾崎ハヤテにそれを区別することはできませんから。」
何より、武力で圧倒的に上回っていながら口封じもできないのがもどかしい。岩永の仕掛けた爆弾が爆発するのは、岩永を殺したその時である。
怪盗団以外を死の海に蹴落としてでも、怪盗団の皆だけは守りたい――真のそんな決意に、鉄の鎖で巻き付くのごとく、岩永は己の命を怪盗団の命運に結び付けたのだ。
「……これで私が本当に乗っていなかったら……ううん、事実乗っていないのだから、随分な不義理を働いてくれたものじゃない。」
「人殺しすら許容される空間で、今さら何を言いますか。」
岩永としても、真以外に原因を置く自身の死によって、真や怪盗団に不当な不名誉を被せるのは面白くない。真が自分を殺すことさえ封じられれば、ひとまず同行関係は築けるのだから、それで良い。
だからこそ、その不義理をも『岩永琴子ならやりかねない』とまで思わせるために、ルブランでは根拠の揃わぬ内に真を殺人犯と糾弾した。証拠もなく、疑惑の段階で真相に先走り得るという印象を真に植え付けた。
その一方で、岩永は真を殺人犯だと明らかにした根拠を『女の勘』と曖昧にしか説明していない。仮に岩永の死亡が次の放送で明らかになった場合、ハヤテは真を警戒することはあっても、確信を持って殺人犯だと触れ回るようなことはないだろう。
ただ一つ、不安要素があるとするならば、『ハヤテごと口封じができるのなら真は岩永を心置き無く殺せる』ということだ。ハヤテが負け犬公園に向かうことは真も想像している通りだろう。岩永を殺害し、負け犬公園でナギの捜索をしている最中のハヤテの口封じに向かうことが、岩永の推理に対する最大のカウンターであった。
「……そして、これまで長く話してきたことにより、すでにハヤテさんは負け犬公園の探索を終えている頃でしょう。ナギさんを見つけられていれば良いですが……どちらにせよ、捜索を終えた彼がどこに向かっているか、もう私たちには分かりません。」
だからこそ、あの脅迫を語りの最後の一撃に据えた。真が現状に気付いた時に、ハヤテを追う猶予を与えないために。
――怪盗攻略議会は、今ここに終結を迎えた。
和解は、成功。真は岩永を殺せない状況が形成され、そして心の怪盗団のブレインと妖怪怪異の知恵の神が、主催者への反逆のために情報を統合するに至った。ふたつの世界の叡智が揃うこの談合は、殺し合いの世界を打ち破る鍵となるか。
【D-4/草原/一日目 朝】
【岩永琴子@虚構推理】
[状態]:健康 義眼/義足装着
[装備]:怪盗紳士ステッキ@ペルソナ5
[道具]:基本支給品ㅤクルミ割り器@ハヤテのごとく!
[思考・状況]
基本行動方針:秩序に反する殺し合いを許容しない
一.不死者を交えての殺し合いの意味は?
二.九郎先輩と合流したい。
※綾崎ハヤテと三千院ナギの関係について大体を聞きました。
※鋼人七瀬を消し去った後からの参戦です。
※この会場がパレスと呼ばれる認知の世界が混ざっていると知りました。
※新島真は暗所恐怖症だと勘違いしています。
※新島真ならびに正義の怪盗団は何かしらの異能の力を有しているのではと推測しています。
【新島真@ペルソナ5】
[状態]:健康 焦り(大)
[装備]:アーザードの聖法衣@小林さんちのメイドラゴン
[道具]:基本支給品×2 不明支給品(0~3) 影山律の不明支給品(0~1) さやかのバット@魔法少女まどか☆マギカ マグロバーガー@はたらく魔王さま!×2
[思考・状況]
基本行動方針:心の怪盗団全員で生還する。
1.双葉……頼んだわよ……。
2.明智を見つけたら、殺して自分の罪を被ってもらおう。
※ニイジマ・パレス攻略途中からの参戦です。
※ハヤテの探し人(三千院ナギ)を知りました。
※ハヤテ・岩永の関係する場所を知りました。
【支給品紹介】
【クルミ割り器@ハヤテのごとく!】
綾崎ハヤテに支給され、岩永琴子に渡った。
三千院家で使っていたクルミ割り器。豪華な意匠が施されており、おそらくは高級品と思われる。
■
岩永がいなくなった今、空いたハヤテの背中には代わりのものが収まっていた。聖剣デュランダル――煌びやかに輝く装飾の成された抜き身の剣。何ら意思を持たぬその剣を前にして、移動速度に気を使う必要など一切ない。お嬢さまの身の安全、ただそれだけを考慮し、保護にのみ走るのであれば、探索及び敵の排除の両面で岩永以上に優れた相棒であると言えよう。
ハヤテの方針にとりたてて大きな変化はない。ただ、武器を背負いながら二人乗りができなかったからこれまではザックにしまっていたものを、岩永との別れによって所持し始めたというだけに過ぎない。強いて言うならば、この世界では誰もが大なり小なりしている武装を強くしたというだけだ。だが、それはあくまで大まかな方針の上での話だ。
お嬢さまの幼なじみである彼女が死んだ。
お嬢さまよりも遥かに強いゴーストスイーパーである彼女が死んだ。
取り留めのない日常をお嬢さまと共に過ごしてきたはずの彼女が、死んだ。
その事実と向かい合えば向かい合うほど、現在進行形で何かが崩れ去っている実感が抜けない。伊澄の死による焦燥は、確かにハヤテの心に深く根差していた。その背に主張する刀剣は、紛れもなくその表れと言える。
「――着いたっ!」
元は最速の自転車便と呼ばれた男である。目的地である負け犬公園に到着するのに、さほど時間は要さなかった。開放された門をくぐり抜け、急ブレーキを踏み込み停止する。
――その瞬間。
「わっ……!!」
急ブレーキによって機体にかけられた負荷によってデュラハン号は空中分解した。
デュラハン号は元を辿れば、一文無しで日本に降り立った真奥貞夫が、得始めたばかりの僅かな収入を振り絞って購入した格安自転車である。さらには、二人乗りやハヤテ特有の高速運転で機体のキャパを超えて強引に乗り回したこと。すでに、限界を迎えていた。
「……くそっ!」
デュラハン号から叩き付けられ地面に叩き付けられても、まるで何事も無かったかのように立ち上がるハヤテ。新幹線から振り落とされた上にトラックに轢かれても無傷で立ち上がるまでの頑丈な肉体は、その程度で壊れはしない。だが、お嬢さまを探す効率を格段に高めていた自転車は壊れてしまった。
もっと言えば、デュラハン号は岩永さんと取引したものだ。彼女と離れ離れになった上にこうしてデュラハン号まで失って――ああ、この殺し合いにおける彼女との絆はもう、失われてしまったのだと、そう思わずにはいられなかった。
(……何としても、守らないと。)
もはや僕は今、岩永さんを捨ててここに立っている。もちろん、それを提案したのは向こうからだ。だけど裏切りを考えていたことは事実であり、さらにその想像の通りにことが進んでいることもまた現実。心の上では、岩永さんを切り捨てたのは僕だ。
決意と共に背中の剣を手に取る。お嬢さまを脅かす敵がいるならば、すぐにでも、1秒でも早く敵を殲滅して、お嬢さまを守れるように。
真っ先に向かったのは、自動販売機前。お嬢さまの誘拐を企てた己の過去の戒めの場所にして、お嬢さまと出会った思い出の場所。
「っ……!」
そこは凄惨な有り様だった。肝心の自動販売機は側面からの衝撃で大きくひしゃげている。周辺の遊具や木々もおびただしい数の裂傷のようなものが刻まれている。
もしお嬢さまがこの場所を目指していたら。そしてそのまま留まっていたとしたら。この破壊を実行した危険人物と出会わずに済むとは思えない。実際、その惨状を作り上げた人物である佐倉杏子は殺し合いには乗っていないのだが、少なくとも負け犬公園の現状からそれを推察することは不可能だ。
「――お嬢さまっ!ㅤいらっしゃいませんか!」
負け犬公園の自動販売機は、これまでの日常を共にしてきた光景のひとつ。そして、そこに刻まれた破壊の痕。これまでの日々は決定的に破壊されてしまったのだと、嫌でも思い知らされてしまう。
「お嬢さま……お嬢さまああああっ!」
剣を握った手を血が滲むほど強く握り締めながら大声で叫んだ。当然、その相手はここにはいない。そのためその叫びに返す者など、いるはずもなく。お嬢さまがいると予測していた地点に大破壊がぶちまけられていたことも含め、焦燥感ばかりが膨らんでいく。
だが、どれだけ叫び見回そうとも、お嬢さまの姿は見つからない。もしかしたらどこかに隠れているのかもしれないと、園内のランニングコースへと向かい、駆け出す。
しかし、間もなくぐるりとひと回りを終えても、何の成果も得られない。公園内のどこに身を隠していても、ハヤテの声または視線が届かないはずがない。
お嬢さまは負け犬公園にたどり着いていないという、ただただ無情な結論だけがそこに示された。
「そんな。それじゃあ……」
それはお嬢さまがいる可能性が最も高い場所、つまり唯一の手がかりが潰えてしまったことに他ならない。他の場所を探そうにも、お嬢さまがいる可能性が高いと推測できる場所はない。現在進行形で負け犬公園に向かっている可能性もあれば、殺し合いの開始から負け犬公園から遠く離れた場所にいて、体力的に向かうことすら諦めている可能性だってある。この場に留まるか、それとも探しに行くか。仮に行くとして、どの方角に向かうか。いかなる行動を取ろうとも、お嬢さまと出会える確率が最も高い場所など想像が及ばない。岩永さんなら何かしらの根拠の元にその答えを導き出してくれたかもしれないが、彼女とはすでに別れている。
公園を一蹴した後に自動販売機前に戻ってくると、そこには当然のようにデュラハン号の残骸があった。せめてこれさえ使えたならば、しらみ潰しに探すにも効率的に行えていたはずだ。しかしチェーンが千切れてペダルの折れたその鉄くずにその役割がもう果たせないのは明白だった。
「ああ、もうっ!!」
ㅤたまりたまったモヤモヤを叩きつけるように、手にした剣をひと凪ぎ振り下ろした。その剣の『何でも斬れる』という評価は決して飾りではなく、鈍い音と共にデュラハン号の残骸は両断される。
「まったく、どうしていつもいつも……!」
まるで、呪われているかのように立て続けに起こる不幸。鉄くずを刻んだところで、苛立ちは癒えない。お嬢さまを探す過程でランニングコースを全力疾走で駆けてきたために呼吸は荒くなっており、息苦しさが感情の昂りをさらに加速させる。
ハヤテの脳内を占めているのは、お嬢さまの行方だけだった。だから、考えもしていなかったのだ。負け犬公園という地を目指し得るのは、お嬢さまだけではないということを。
そして――
「ハヤテ君?」
――今の自分が客観的に見て、いかなる様態を晒しているのかということを。
「誰だっ!?」
その声に反応し、咄嗟に振り返る。手にした剣を構えながら。その剣幕に一瞬怯みつつも、声をかけた少女――桂ヒナギクは、想い人でもある執事と向き合った。
「ヒナギクさん……。」
負け犬公園に辿り着いたヒナギクが見たのは、植え込みから自動販売機に至るまでことごとく残された破壊の痕――そしてそれを前に、鉄くずに当たり散らし、負け犬公園の中に存在するオブジェクトに新たなる裂傷を刻み込むハヤテの姿だった。
「良かった、無事だったんですね。」
「……その前に。事情を聞いてもいいかしら?」
駆け寄ろうとするハヤテを静止して告げるヒナギク。そこでようやく冷静になったハヤテが、今の自分を取り巻いている状況に気付く。公園内をめちゃくちゃにしたことまで自分の仕業であると、勘違いされているのではないか、と。
「っ……! 違うんです、これは……!」
「……言葉にしなくても分かってるわ。」
「……えっ?」
「ここに残っているほとんどのキズはその剣よりも細いもの。剣と言うよりは、槍のようなもので付けられたように見えるわね。」
誤解は、生じない。誰が呼んだか、完璧超人。その観察眼も一般的な女子高生の域を優に超えている。
「はい!ㅤだから……」
「……でも、私はその上で。ハヤテ君の現状を看過できないの。」
しかし、なればこそ。ハヤテの精神状態が危うい状態にあることも、理解していた。
「らしくないじゃない、やたら焦って。何かあったの?」
「……まあ、これはヒナギクさんも分かっていることでしょうけど……」
伏し目がちになりながら語るその様子に、ヒナギクには次の言葉が概ね、予想がついた。そしてその予想通りの言葉を、ハヤテは紡いだ。
「……伊澄さんが、亡くなったんです。」
その焦燥の原因を、ハヤテは簡潔に――しかしこの上なく荘厳に、述べる。それを受けたヒナギクは少し俯きがちになりながら返す。
「……ええ。」
目の前で死んだ佐々木千穂の時とはまた違う。いつどこで死んだのかも不明瞭なままに、単に放送という曖昧な手段で知り合いの死を突き付けられたことは、ヒナギクの心にも少なからず影を落とした。どうすれば彼女が死ななくて済んだのかなど、後悔する余地すらも残してくれない。関わることも最初から許されぬままに、死という結果だけがそこにあった。
「つまり……この世界には伊澄さんを殺せるような人がいるってことなんですよ……!」
切羽詰まった様相でハヤテは語る。
伊澄の持っていたゴーストスイーパーの力を、ハヤテは何度も見てきたから、そんな彼女を殺せる相手がこの世界で殺し合いに乗っているという事実に対し、お嬢さまの身の危険を感じずにはいられない。
しかしその一方で、ヒナギクは伊澄の力のことを知らない。成人男性に見える者も一定数いるこの殺し合いに、伊澄を殺せるような人など決して少なくないだろうという認識がヒナギクにはある。
言葉は、不完全だ。この場においてハヤテの言葉がヒナギクに正しく伝達されることはない。
「……だったら、どうするの?」
――だけど、それでも。
「……お嬢さまを、守ります。」
言葉が不完全でも、発した言葉が正しく受け取られる保証なんてどこにもなくても。
言葉の裏の心だけは、きっと等身大のままに伝わることのできるものだから。
「――もし敵がいたとしたら、命を奪ってでも?」
ㅤそれは、考えないようにしていたことだった。
ㅤそれを認めてしまえば、岩永さんの信頼を本当に、裏切ってしまうことになるから。
「…………ええと、それ、は……。」
ぼかすことも、或いはできたかもしれない。だけどヒナギクの視線が、ハヤテの逃げ場を無くした。安易な虚構は通用しないと、彼女の目が物語っていた。
「……はい。お嬢さまを守るためなら、その覚悟はできています。」
「…………そっか。」
時が止まったように、しばらく二人とも声を発さなかった。そしてその沈黙に疲れたように、先に声を発したのはハヤテの側。
「……ごめんなさい、ヒナギクさん。もう、行きます。」
そう言って明後日の方を向いて、ハヤテはナギの捜索のために立ち去る。一瞬だけ垣間見えた、視線の逸れた横顔からでも、ひしひしと伝わってくる真摯な感情――その片鱗すらも、向いている先は決して自分ではなく。
「ねぇ、ハヤテ君。私は――」
痛々しいほどに痛感する。この恋はもう、終わっているのだ、と。否――最初から始まることすらもなかったのだ。
「――ハヤテ君のことも心配だわ。」
だってあなたは最初から、私のことを見ていなかった。あなたの見る先には常に、ナギがいた。
この想いは、伝わらない。
真っ直ぐに伝えるには感情が追い付かなくて。だけど遠回しな気持ちなんて、あなたに届けるには足りないから。
「……でも。」
――だけど。
言葉にしないと伝わらない想いならば。私の心だけを届けるに足る想いが、あなたに無いのならば。
「――今回ばかりは私も、譲れないんだから。」
鈍感なあなたにも伝わるよう、言葉にすればいい。
あるがままの想いを、"告白"すればいい。
ㅤ勇気を出して、あと一歩――
「私はもう……誰も死なせないって決めたのっ!」
――強引にでも、振り向かせてやるんだからっ!
「――白桜ああぁッ!!」
陽光の煌めく空の下に、一陣の風が吹き抜けた。
「……うわあっ!」
今や亡き友の忘れ形見となった剣は、まるで太刀風の如く瞬時に、ヒナギクをハヤテの眼前へと運んだ。そして同時に、その剣はハヤテへとその矛先を向ける。
「なっ……ヒナギクさん!?」
「構えなさい、ハヤテ君。」
この恋に、飾った言葉なんていらない。ただ想いの丈をぶつけ、一歩を踏み出す勇気さえあればいい――ほんとはずっと分かっていたのに。
「どうして……どうしてジャマをするんですかっ!」
「……違うのよ。私は別に、ナギを助ける邪魔をしたいわけじゃない。」
――罪を犯した人間が、その罪の報いを受けるとするならば、それはいつのことだろう。
私は、嘘をつき続けてきた。皆にも、自分の心にも。
友達である歩を、裏切るのが怖くて。あなたとの関係が、少しでも変わってしまうのが怖くて。ぐるぐる、ぐるぐると同じところを廻り続けて。
たった一言の告白、その一歩を踏み出す勇気をいつまでも保留してきたが故に――今ここに、あなたと剣を交わす因果が生まれた。
「でも、この気持ちまでもを抑え込んで、ここでハヤテ君を行かせて……そのせいで誰かが犠牲になってしまったら私、殺されたあの子にもう顔向けができないもの。」
ハヤテの脳裏に過ぎるは、いつか遠い昔の光景。些細な、しかし致命的なすれ違いの果てに、互いに剣を取り戦うまでに至った天王州アテネと、決定的に道を違えたあの時。
「だから、ハヤテ君。この先へ進みたければ、私を倒してからにしてもらうわ!」
「っ……! だったら……」
今も、あの時と同じだ。正しいのは目の前の少女で、間違っているのは、僕で。
「僕は、進みます! たとえ……ヒナギクさんを倒すことになっても!」
僕らは、弱くて、不器用で、何もかもを手にすることなんてできない。二兎を失うのが怖くて、進んで何かを切り捨てる。言ってしまえば、幸せの妥協だ。譲歩できないラインを切らぬギリギリまで、幸せを放り捨てていく。
【D-3/負け犬公園/一日目 朝】
【綾崎ハヤテ@ハヤテのごとく!】
[状態]:健康 焦り
[装備]:聖剣デュランダル@はたらく魔王さま!
[道具]:基本支給品 不明支給品0~1
[思考・状況]
基本行動方針:お嬢様を守る
一.たとえ、この命にかえても。
二.ヒナギクさんを倒して、先に進む。
三.新島真並びに注意する。
四.真さんにお嬢様の事を話したのは失敗でした……
※ナギとの誤解が解ける前からの参戦です。(咲夜から初柴ヒスイの名を聞かされています)
※新島真は暗所恐怖症だと勘違いしています。
【桂ヒナギク@ハヤテのごとく!】
[状態]:腰の打撲 疲労(低)
[装備]:白桜@ハヤテのごとく!
[道具]:基本支給品、不明支給品0~2
[思考・状況]
基本行動方針:誰も死なせない
一.綾崎ハヤテを止める。
二.二日目スタート時までに、見滝原中学校に向かう
三. 佐々木千穂の思い人に出会ったら、共に黙とうを捧げたい…
※名簿を暗記しました。
※参戦時期は姫神と面識を持つ前です。
※情報交換によりドラゴンや異世界の存在、鋼人七瀬、魔法少女について知りました。
【支給品紹介】
【聖剣デュランダル@はたらく魔王さま!】
天使ガブリエルが扱っている聖剣。本人曰く『何でも斬れちゃう』ほどの斬れ味を誇る(アルシエルの肉体や遊佐の聖剣に弾かれているため、そういった特殊効果は無い)。
最終更新:2022年03月24日 17:45