nameless


――思えば、彼らが出会うのは必然だったのかもしれない。
この場で得た仲間との絆を信じ、かつて拒絶された世界をも愛し全てを救うため天の道を往く天道総司――に擬態した、名もなき男。
元の世界の仲間を破滅から守る為、全ての世界を滅ぼす冷酷無比な魔王の道を往くキング――紅渡。

同じ男を師に持ち、生涯の友を喪い、そして生来からの名を捨て死者の名を騙る二人の男たち。
あまりに多い共通点を持ち、それぞれ想像を絶する苦難を乗り越えてきた彼らの見る方向は、しかし真逆を向いていた。
師を慕いその正義を信じる者と、師の差し伸べた手を振り払った者。

世界の破壊者をも肯定する者と、その一切を否定する者。
失われた過去の記憶や繋がりをも手繰り寄せようとする者と、過去と未来全ての記憶から自身を消し去ろうとする者。
そして或いは――元の世界に愛すべき女性を残して来た者と、自身の手でその命を奪った者。

彼らはその共通点をも無視して、決して分かり合えない。共通点の多さを覆すほどに大きな互いの譲れぬものの為に。
なれば果たして彼らが出会う時、一体何が起こるのか。
その答えを示す瞬間は、もうすぐそこにまで迫っていた。




「ん~!」

ようやく長く暗い夜の沈黙を抜けその全容を露わにした太陽の光が、市街地の街並みを美しく彩っていく。
それを傍目で見やりながら、総司は真正面から太陽を見据え思い切り伸びをした。
溜まった疲労からか節々から鳴る間接の音と共に、彼は身体の奥底から湧き出すような活力を感じていた。

だがそれは別に、太陽光には人を前向きに活動させる成分を分泌する効果があるから、などと堅苦しい理由からではない。
ただそこにあるだけで世界の全てを照らし輝かせる圧倒的な存在、太陽。
かつては逃げ道を奪われるようでそれを目にするのも憎々しかったというのに、今はその日の下にこそ自分の生きるべき世界があるのだとそう思えるから。

そんな風に考えられるようになった他ならぬ自分自身の心境の変化が、総司にとっては何よりの生きる力となっていた。

「……ふぅ」

朝日から得られるエネルギーを補充し終えたように伸びを終えた総司は、どこへ行くともしれぬ自分の旅について思いを馳せる。
自分がもう自分として迷わない為に必要な“何か”を得るために名護からも離れてわざわざ街までこうして一人出向いてきたというのに、この2時間ほど誰とも出会えていない。
全ての変身制限が解除されたと言えば聞こえはいいが、果たしてこんな調子で胸を張って仲間の元へ帰れる時は来るのだろうかと、少し不安になってしまう。

迷いや疲れから来る先行き不透明な未来に対し溜息をついた総司は、ふとその視界の端に映る色濃い影に気付いた。
背の高い建造物に阻まれ陽の光が届かぬそこは、太陽に拒まれた者たちが息を潜め夜が来るのを待つ為の深い闇。
太陽が全てを照らそうとすればするほどその闇を深めていく、どこまでも消えない絶対の領域である。

かつて総司自身も住みかとしていたその静かな暗闇は、時として明るすぎる日の光よりも人に居心地のいい安らぎを与える。
特にこれから誰かの命を奪う非道を為そうとする悪にとっては、特に。

「……」

ふと自身の中に過った可能性が気にかかり、総司はその闇へと近づいていく。
せめて少し、その中に誰もいないことだけでも把握できればとそう考えて。
だが闇から離れた僅かな時間で、彼は忘れていた。

光が闇を覗く時、闇もまた光を覗いているということを。
深淵を覗こうとする者は、決して自分一人ではないということを。

「な……」

故に、絶句する。
今まさしく影の中からその身を現したその青年の存在を、一切予想していなかったから。
光と闇、その境界線を前にしてそれぞれの側に立つ彼らの出会いは、やはり運命的と呼ぶべきものだった。

「……君の名前は?」

突然の出来事に流れた沈黙を打ち破るように問うてから、総司は影の中に立つ青年の姿を今一度よく観察する。
着ている衣服は全体的に本来の色から更に赤く染まっていて、恐らくはこの殺し合いの中で少なからず人の生き死にに関わってきた事が窺える。
それだけで殺し合いに積極的か否かを判断できる材料になるとは到底思えないが、総司にとっては何より青年の冷たく光る瞳が、何より印象的だった。

「僕の名前は……」

青年はそこまで言って、不自然に言葉を詰まらせた。
焦り故に舌を噛んでしまった、という様子ではないことは、彼の苦虫を噛み潰したような表情が示している。
何らかの事情があって名乗る事が出来ないのだろうか、とすぐに勘づいたのは、皮肉にも総司自身以前まで同じような葛藤を抱えていたからだ。

何か特別な理由があるのだろうと推測して、総司は申し訳ない気持ちを吐き出すように一つ咳払いした。

「……ごめん、名乗るならまずは自分からだよね。僕は天道総司、よろしくね」

「天道総司……?その人は確かもう……」

敵意はないと伝える為に努めたものの、自身の名乗った名前そのものに青年は不信感を抱いたようだった。
とはいえそれも当然の事。“天道総司”という名は、既にこの会場においては6時間以上前に死を告げられた男のものなのだから。
これまで仲間や事情を把握している相手の前でだけ名乗っていた為に理解し切れていなかった、死者の名を騙る、という行為が他者からどう見られるかを初めて実感して、総司は一つ唾を飲み込んだ。

(どうしよう、本当は“僕の名前”を名乗るべきなんだろうけど、でも――)

今度は総司が、言葉を詰まらせる番だった。
今の状況で最も避けなくてはならないのは、青年に自分が『偽名で他者を欺こうとする信用ならない人物』として警戒されてしまうことだ。
そうなれば円滑な情報交換が妨げられるだけではなく、最悪敵として見られる可能性もある。

だが一方で、名護や翔太郎、士と言った仲間たちやカブトゼクターまでもが認めてくれた“天道総司”としての自分を否定するのも違う、と心が訴える。
誰からどんな目で見られようとあの天道総司の代わりに彼がやり残したことをやると決めたのだから、この程度のことで安易にやめるわけにもいかなかった。
だがそれでも、まだやはり自分の本名を名乗るのには躊躇いがある……と思考の泥沼に陥りかけた総司はそれでも、何とか言葉を紡ごうと口を開く。

「ごめん、実は僕の本当の名前は――」

「――総司か、久しぶりだな」

「え、キバット!?」

ふと舞い降りた聞き覚えのある声の方向へ目をやれば、そこで浮遊するのは先ほどまで自分たちと行動を共にしていたキバットバットⅡ世その人。
意表を突くその登場に総司が驚きを示す一方で、青年は一層低く冷たい声を彼に向けていた。

「……キバットバットⅡ世、何故今出てきたんですか?貴方には何も指示を出していないはずですが」

「指示を出されていないからだ。王の命令があればともかく、ないのであれば俺は俺で好きに動かせてもらう」

互いに相手を牽制するような口調を続ける青年とキバットの間に、特別な信頼関係のようなものは見て取れない。
だが二人が共にいたということは、とそこまで考えて総司は以前キバットが口にしていた言葉を思い出す。

「待ってキバット、君はさっき会ったとき言ったよね?君の鎧を纏う人は、自分が認めた王だけだって。もしかして、この人がそうなの?」

それは翔太郎や翔一と共にダグバと戦っている最中、乱入してきた黒い仮面ライダーに関して名護が問うた時のこと。
ベルト部分にぶら下がるように鎮座していたキバットは、鎧の下にいる人物を自分たちの世界を破滅から守りうる王だとしてその存在を隠していた。
或いは彼があの時の仮面ライダーなのではないか……そんな疑問を総司が抱くのは、至極当然のことであった。

「そうだ、この男こそが俺たちの世界を守りファンガイアの未来を繋ぐ新生の王、俺様の管理する闇のキバの鎧を纏うに相応しい力を持つ者だ」

「俺たちの世界を守りって……それじゃあもしかして君が紅渡くん……?」

「その話を知っていると言う事は……まさか貴方、あの時の白いキバですか?」

「そうだよ。それで君はあの時の黒い仮面ライダー、なんだよね?」

「……ええ。ということはつまり、貴方が名護さんの新しい弟子……ですか」

総司の問いに頷いた渡の脳裏に、弟子の危機に師匠が現れるのは当然――そんな言葉と共に自分に攻撃をしてきた名護の姿が呼び覚まされる。
白いキバの鎧を身に纏い名護と共に自分の前に立ちはだかった彼と、此度は素面で対峙していることを自覚して、渡は自分の中に言い知れぬ感情が沸き起こりつつあるのを自覚する。

それが嫉妬であるのか、苛立ちであるのかはまだ説明出来ないけれど。
少なくとも良い感情ではないということは、痛いほど分かっているつもりだった。
そして、一方の総司の中にも、様々な感情が迸っていた。

名護の弟子と出会えた喜びも、切望した彼と以前既に敵として対峙していた悲しみも、ある意味では想像通りのスタンスらしいと納得する自分自身へのやるせなさも。
ありとあらゆる感情の奔流の中、総司が最後に抱いたのは、戸惑いだった。
目の前の彼と名護の言っていた心優しい渡のイメージが、どうしても結びつかなかったから。

本当に彼が名護の大事な一番弟子、紅渡その人なのか、未だどうしても確信を持つ事が出来なかった。
互いに互いを無意識のうちに探していた両者の視線は、先ほどまでにも増して緊張感を孕んでいる。
だがその空気の中でどう話を切り出すべきかという躊躇を先に飲み込んだのは、総司だった。

「……そうだよ、僕は名護さんの弟子。渡くん、君と同じように」

「いいえ、それは違います。僕はもう紅渡でも、名護さんの弟子でもない」

「弟子じゃない?名護さんがそう言ったの?」

「違います。僕が名護さんから、大事なものを奪ったからです」

「それは……君についての名護さんの記憶?」

伏し目がちに放たれた総司の言葉に、渡は思わず目を見張る。
かつてゼロノスのベルトの力を使い、名護の記憶から自分を消したという、最早自分以外知り得ぬ罪。
総司を突き放す為に使うはずだったそれを、まさか向こうが把握しているとは思っていなかったから。

「やっぱり……そうなんだね?」

渡の沈黙を肯定と受け取った総司は、どことなく寂しげな声音を吐いた。
ブラフだったか、と舌打ちをしそうになるが、先ほどの言葉にさほどの迷いが見られなかったことを考えれば、恐らくは裏付けが出来なかっただけでほぼほぼ確信していたのだろう。
顔を顰める渡の一方で、総司はその拳を強く握り締めていた。

「なんで……名護さんから自分の記憶を消すなんてしたの?大切な思い出を忘れちゃうことがどれだけ苦しいのか、分かってるの……?」

総司の言葉はいつしか震え、その瞳には涙が浮かんでいた。
ネイティブに改造される前の人間だったころの記憶を持たない今の自分にとって、記憶の空白に覚える虚しさは誰よりも理解できる。
例えどんな理由があったとしてそれを名護に味合わせた今の渡に対して総司が複雑な感情を抱くのは、至極当然の事であった。

「思い出を忘れる苦しみ……?過去を覚えている苦しみに比べたら、そんなもの……!」

だが、総司の悲しみを真正面から受けてなお怯むことなく対峙する渡は、その顔を怒りに染めていた。
渡が名護の記憶を消したのは、渡にとって決してその場凌ぎの逃げではない。
名護の弟子である“紅渡”と残忍な“キング”の間に存在する溝を、名護が一緒に纏めて抱え込む必要などないと思ったから。

大ショッカーの言葉に従い他者を殺し裏切り続ける今の自分と彼のよく知る紅渡との間のギャップに、彼が苦しむ必要などないのだから。
かつての弟子と仲間を天秤にかけそのどちらかを手にかけねばいられないような矛盾など、彼が抱える必要はないのだ。
自分はただ、誰からも同情されることさえなく、数多の憎しみを一身に背負って最後に死ねばいい。

それで自分の世界は救われ、全てはハッピーエンドで終わる。それが一番誰にとっても素晴らしいことに違いない。
そうして渡なりに必死に考えて出した結論はしかし、そんな理想は間違いだという様に現れたこの男によって否定されようとしている。
自分が名護の記憶を消したという情報さえ持って、その罪さえも“紅渡”が犯した過ちとして一緒に束ねようとしてくる。

そんな総司の存在そのものが、どこまで堕ちても差し伸べられる名護の手そのもののようにすら感じて、渡は最早意固地になってそれを振り払おうとしていた。

「名護さんは僕のことなんて忘れるべきなんです、正義の味方としてあの人が生きるためには、僕は邪魔以外の何者でもないんだから」

「違うよ、思い出のせいでどれだけ苦しんだとしても……嫌な思い出だけ都合よく忘れて幸せになんて、そんなの間違ってる!それに、名護さんは渡くんの事とても大切に思っていたんだよ?邪魔だなんてそんなこと、思っているはずがないよ!」

「えぇ、だから紅渡がいた場所に、僕はもう戻れない。キングの称号を受け継いだ、今の僕では」

キング。ファンガイアの未来の為、身を粉にして戦った偉大なる先代の王が最期に自分に託した一族最高位の称号。
紅渡という個人を捨てそれを自分の名として名乗れば、自分は彼の誇りを借りてどんな冷酷な判断でも下せるような気がしていた。
だからこそ渡は一人でも戦うことが出来たというのに、それを今また名乗った渡の表情に、もう以前のような気高き王の威厳は見られない。

キングという名を“一番強いから”などという不遜な理由で名乗り、生涯の親友を殺したあの邪悪の顔が、どうしてもチラついてしまうから。
だというのに今またキングを名乗ったのは、総司の追及を逃れるための逃げでしかない。
どう取り繕ったってわかり切っている自分の弱さが、何より心苦しかった。

「名護さんが“紅渡”をどれだけ大切に思っていたとしても、キングである僕の存在は彼にとって後悔や汚点にしかなりません。それで名護さんが傷つくくらいなら僕は、あの人の記憶から消えたって構わない」

「そんなの……結局名護さんと向き合うのが怖くて逃げただけじゃないか!」

「逃げ……?僕はただ名護さんが僕を敵として戦う時も苦しまなくて済むようにって思って、だから――」

「――じゃあ何で、あの時名護さんや僕の前から逃げたの?」

痛いところを突かれた、と渡は思わず歯噛みする。
ダグバを倒した後、残る参加者を手にかけようとした自分の前に記憶を失った名護が再び現れた、あの瞬間。
名護が躊躇なく自分を攻撃してきたという事実がどうしようもなく胸に響いて、自分はそこから眼を背けてしまった。

本当は名護が自分を敵とみなしたことさえ好都合と考えて、仮面ライダーの倒すべき悪として戦わなければならなかったのに。
少なくともあの時逃げた理由は疲労や連戦への不安よりも心的要因にあるということは、逃れようのない事実だった。
黙りこくった渡に向けて、総司は歩幅一つ分距離を進める。

「……ねぇ、渡くん、君が名護さんを守りたいって思ってるのは分かってる。でも……わざわざこんな風に皆が悲しくなるような守り方をしなくてもいいじゃないか」

「皆が悲しくなる……?」

「そうだよ、記憶をなくして大事な弟子との思い出を失った名護さんも、それを見る僕らも、そして大切な人と無理矢理戦おうとしてる渡くんだって……こんなの皆辛いだけだよ」

言いながら総司はまた一歩、ゆっくりと渡との距離を詰める。

「もうやめよう、渡くん。僕らが戦う必要なんてない。君が全部抱え込もうとする必要なんてないんだ」

「いいや、貴方にはなくても、僕にはある。キングの称号を受け継いだ者として、王の道を往く必要が」

「違うよ、君はキングなんかじゃない、紅渡でしょ!?」

「なら貴方も……天道総司なんかじゃない」

思わず、総司の足が止まる。
元の名を捨て天の道を継いだ自分と、紅渡の名を捨て王の道を往こうとする今の彼との間に、何の違いがあるというのだろう。
渡にだって自分と同じくらい相当の覚悟があって、それを表明するためにキングを名乗る事情があるのだろうと思うと、どうしても総司はそれを否定する事は出来なかった。

「僕はもう、名護さんの隣を歩けるような人間じゃない……これだけの罪を重ねた僕なんか、あの人と一緒にいて良いわけがない」

「いて良いに決まってる!名護さんは全部の世界を滅ぼそうとして自分勝手に仮面ライダーを殺した僕のことだって支えてくれた……君のことだって、許してくれるはずだよ!」

「確かにそうかもしれません。名護さんは、こんな僕でもきっと許してくれる。だけど……そんな僕のことを、僕自身が絶対に許せない」

渡はそのまま、強くその拳を握りしめる。
総司の言うとおり、名護は自分の記憶を消したことさえ引っくるめてその罪を許してくれるかもしれない。
だがそんな彼の優しさに付け込んでしまうのは、絶対にしてはいけないことだと彼は思っていた。

一度差し伸べられた名護の手を逃げるように拒絶しておいて、今更『キングを名乗るのが辛くなったからやめます』だなんて、そんな都合の良い事が許されて良いはずがない。
例え親友を殺した男と同じ名を名乗る辛さを抱えたとしても、自分にはやはり紅渡としての道はもう残されていないのだ。
であればやはりもう……幾ら逃げと罵られようと、自分は王として戦い続けるしかないではないか。

「じゃあ君は、許せない自分に罰を与えるためだけに戦うつもりなの?そんなやり方で世界を守ったって、意味なんかないじゃないか……!」

「意味なんて必要ありません、僕は僕の大切な人たちを守って、世界を救って……それから全部の罪を背負って死ぬ。皆の記憶からも、綺麗に消え去って」

「だからなんで……なんでそんな……!」

悲しい結末を望むのと続けようとしたのに、込み上げてくる感情が言葉を飲み込む。
代わりに溢れ出そうとした涙を必死に押し止めながら総司は、こんな悲しい物語があっていいはずがないと思った。
渡の理屈は、一見すれば通っているようにも思える。

紅渡ではなくキングとして生きる事でその手を血に汚してでも世界を守り、その後に変わり果てた自分に悲しむ人間がいなくなるように記憶を消す。
そうして紅渡という人間そのものを消し去ってしまうのだから、今はどれだけ苦しくても止まるわけにはいかないのだ、ここで止まれば今までの全てが無駄になってしまうのだと。
それは確かに名護から聞いた渡の人物像から想像出来る通りあまりに優しすぎる物語で……そしてそれ以上に、あまりに悲しすぎる。

名護を始めとする渡の世界の人々が、彼がそうまでして世界を守ることを望むはずがないのに。
それを自分の責任だと抱え込んでしまうこと自体が、彼らにとって何より悲しい事のはずなのに。
渡はそれから目を背けて、自分だけが苦しみを背負い込めるつもりでいる。

だが、それは不可能だ。自己犠牲で得られるハッピーエンドなんて存在しない事を、総司は既に知っている。
海堂や天道、それに名護や士が教えてくれたのだ。どれだけ辛くても、罪を背負って生きていかなければならないのだと。
なればこそ総司は今の渡の事を、このまま見過ごすわけにはいかなかった。

「理解されようとも思いません。ただこれが僕の進むべき道……貴方たちとは決して交わらない、王としての道です」

「渡くん……」

「――僕の名前は紅渡じゃない、キングだ!」

決別の意を込めて再び名乗った渡の瞳からは、既に迷いが失せていた。
理由は単純。自分が紅渡を名乗り戻るべき場所に、既に今の自分より相応しい人間がそこにいることを、理解してしまったから。
天道総司を名乗るこの青年との会話の中で、渡は彼に過去の自分を見てしまった。

名護を敬愛し、彼の弟子としてやれることは何でもやろうという意思に溢れていた、あの頃の自分。
ファンガイアと人の架け橋になろうと無力ながらに努力していた自分と、名護と自分の架け橋になろうとする目の前の青年が、どうしても重なって見えた。
しかし……いやだからこそ。名護の側に自分がいるべき場所はもう残されていないのだろうと、そう思った。

自分勝手なのは分かっている。記憶を消したのは自分なのだし、元々こうなることこそが望みだったのだから。
だけれども自分が“紅渡”としているべき場所でやるべきことをやってくれる存在がいるのであれば……やはり今の自分は、王の道を進むべきではないのか。
他の世界をどれだけ犠牲にしても勝ち残り護りたい者を護る……その使命を成し遂げられるのは、やはり今の自分を置いて他にいないのだから。

先ほどまでとは鋭さの違う渡の真っ直ぐな瞳を受けて、総司は一瞬俯く。
きっと渡は、かつての自分よりもずっと強い意志で“仮面ライダーの敵”でいようとしている。
そんな彼の決意は悲しすぎるが、同時に救う道もまだ残されているのではないかと、彼は想った。

心優しい彼がキングで居続けられるのは、その冷酷な意志と同じくらいに名護を始めとする仮面ライダーが自分のような悪を裁いてくれるという信頼の現れでもあるのではないかと。
つまりは渡が仮面ライダーの正義を深く理解し、そして信じているからこその選択ではないかと、総司は感じていた。
なれば自分の成すべきは一つだと、総司は渡のそれに負けないほどの強い意志で以て彼の双眸を睨み返す。

彼が内心信じているだろう仮面ライダーの正義、それを示す事こそが自分の使命だと、そう信じて。

「……わかったよ、君がどうしても王としての道を往くつもりなら、僕は――天の道を往く」

心中に抱いた決意と共に、総司は人差し指を天に向け高く掲げる。
眩い太陽と重なったそれに呼応するように、赤い軌跡を描いてカブトゼクターがその姿を現した。
自身の主を示すように総司の周囲を二度回ったゼクターは、そのまま彼の右手の平へと収まる。

「ある人が言ってた……『仮面ライダーは皆を護って世界だって救ってしまう正義の味方だ』って。だから僕も、君を救ってみせる。仮面ライダーの端くれとして!」

「僕には救われる必要なんてない……貴方を殺して、今度こそ僕は、僕の進むべき道を往く!」

手にサソードヤイバーを構えながら、渡は総司を睨み付ける。
考えてみれば今まで自分は、名護やユウスケなど、自分に対して手を差し伸べてくる相手から逃げてばかりだったのかも知れない。
記憶を消すだけであったり、戦況の変化を理由にして殺すのを戸惑ったり、言葉に反してその命を奪うことが出来なかったが故に、どこまでもこうしてその手が伸びてくるのかも知れなかった。

どこかに未だ存在する“自分は故意に仮面ライダーを直接殺してはいない”という甘えが自分の中に“紅渡”として生きられるかもしれないという迷いを生んでいるのだとすれば。
そしてそのツケが回った結果としてキバットが犠牲になってしまったのだとすれば。
例え名護やキバットがどれだけ悲しむ事になろうと、自分はその逃げ道を塞ぐほかあるまい。

名護が弟子として愛し、そしてかつての甘い理想を掲げる紅渡そのままのような総司をこの手で直接殺して初めて、自分の道は引き返せないところまで行くのだ。
それが自分の往くべき、自分の選ぶべき王の道なのだと自身に言い聞かせるようにして、彼は地中より飛び出したサソードゼクターをその手に掴む。

――STAND BY

「変身」

――HENSHIN

向かい合った両者はほぼ同時に変身を完了する。
総司はカブトへ、渡はサソードへ。
ゼクター自身が己の力を操るに相応しい資格を持つと認めた彼らが抱く思いは、それぞれ真逆だ。

総司は自分を救ってくれた仮面ライダーのように、渡を救い共に歩む為に。
渡は総司を殺して自分の中に残る過去の“紅渡”を消し去り、後戻り出来ない王の道を進む為に。
同じ師を持つよく似た二人は、自身の継いだ道こそが正しいと証明する為に、今思い切り大地を蹴った。


【二日目 午前】
【D-2 市街地】


【擬態天道総司(ダークカブト)@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第47話 カブトとの戦闘前(三島に自分の真実を聞いてはいません)
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、不安と安堵、仮面ライダーカブトに変身中
【装備】ライダーベルト(ダークカブト)+カブトゼクター+ハイパーゼクター@仮面ライダーカブト、レイキバット@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式×2、753Tシャツセット@仮面ライダーキバ、魔皇龍タツロット@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
基本行動方針:天の道を継ぎ、正義の仮面ライダーとして生きていきたい。
0:もう迷わない強さを見つけるために、“旅”をしてみる。
1:渡くんに勝って彼を救ってみせる。
2:剣崎と海堂、天道や翔一の分まで生きて、みんなのために頑張る。
3:間宮麗奈が心配。
4:放送のあの人(三島)はネイティブ……?
5:士が世界の破壊者とは思わない。
6:元の世界に戻ったら、本当の自分のお父さん、お母さんを探してみたい。
7:剣崎、翔一、ごめんなさい。
【備考】
※自分が翔一を殺したのはキングの罠であることに気付きました。
※渡より『ディケイドを破壊することが仮面ライダーの使命』という言葉を受けましたが、信じていません。



【紅渡@仮面ライダーキバ】
【時間軸】第43話終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、精神疲労(大)、迷い、キバットの死への動揺、相川始の裏切りへの静かな怒り、心に押し隠すべき悲しみ、今後への困惑と混乱、仮面ライダーサソードに変身中
【装備】サガーク+ジャコーダー@仮面ライダーキバ、ゼロノスベルト+ゼロノスカード(緑二枚、赤一枚)@仮面ライダー電王、キバットバットⅡ世@仮面ライダーキバ、ザンバットソード(ザンバットバット付属)@仮面ライダーキバ、サソードヤイバー@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式×3、GX-05 ケルベロス(弾丸未装填)@仮面ライダーアギト、アームズモンスター(ガルルセイバー+バッシャーマグナム+ドッガハンマー)@仮面ライダーキバ、北岡の不明支給品(0~1)、ディスカリバー@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
基本行動方針:……自らの世界を救う為に戦う。
1:総司君を殺して、後戻り出来ない王の道を往く。
2:大切な人達を守り抜く。
3:ディケイドの破壊は最低必須条件……?次会ったときは……。
4:始の裏切りに関しては……。
4:加賀美の死への強いトラウマ。
5:僕は『紅渡』でも『キング』でもない。だけど紅渡には絶対に戻れない。
6:今度会ったとき邪魔をするなら、名護さんも……?
7:キング@仮面ライダー剣は次に会ったら倒す。
8:もう逃げない。
【備考】
※過去へ行く前からの参戦なので、音也と面識がありません。また、キング@キバを知りません。
※ディケイドを世界の破壊者、滅びの原因として認識しましたが、ユウスケの言葉でその討伐を迷い始めています。
※相川始から剣の世界について簡単に知りました(ジョーカーが勝ち残ると剣の世界を滅ぼす存在であることは教えられていません)。
※仮面ライダーレイに変身した総司にかつての自分を重ねて嫉妬とも苛立ちともつかない感情を抱いています。
※サソードゼクターに認められました。
※未だキバットバットⅡ世とサガークにキングとして認められているかは不明です。

142:心の中の薔薇 投下順 144:フォルテ♪覚醒せよ、その魂
145:異形の花々(4) 時系列順 146:名もなき者に捧ぐ歌
139:The sun rises again 擬態天道
136:リブートpf答え、見つからず 紅渡

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最終更新:2019年12月24日 21:18