フォルテ♪覚醒せよ、その魂



「通りすがりの、仮面ライダー……だと?」

 怪訝な表情を浮かべる名護啓介を前に、門矢士は不敵な笑みで応える。
 総司を必死に探したその姿を見て、やはりこの男も信頼できる仮面ライダーの一人だとすぐに気付いた。もっとも、今は亡きヒビキや橘朔也も名護のことを仲間と認めていたから、疑う余地など微塵もないが。

「……まさか、門矢士……そしてディケイドとは君のことなのか!? 世界を破壊する悪魔と、恐れられた男が……」
「なるほど。俺のことをよく知っているみたいだな。
 その通りだ。俺は世界の破壊者……絶望と悲劇を齎す悪魔と恐れられたこともあったな」

 胸を張りながら宣言した瞬間、名護の表情は驚愕に染まった。
 やはり、この男も何かを吹き込まれたのだろう。アポロガイストがディケイドの脅威を紅渡に遺したように、何者かが名護に自分の悪評を伝えたらしい。もちろん、ディケイドが世界を破壊する悪魔であることに変わりはないため、否定するつもりは微塵もないが。
 だが、ここで名護と戦うわけにはいかない。この男を破壊することはヒビキと橘はもちろん、総司に対する裏切りにも繋がるからだ。

「……いいや、嘘をつくのはやめなさい」

 しかし、名護からの返答はあまりにも予想外だった。

「俺はこれまで、数多くの犯罪者と……そして平和を脅かす悪と戦い続けてきた。
 その多くの者たちには、共通点があった……怒りと憎しみ、そして他者を踏み躙ろうという悪意が表情に満ちている。だが、君にはそれがない」

「ほう……お前の目には、俺が清く正しい清廉潔白な人間に見えるのか?」
「君の過去に何があったのか、俺は詳しく知らない。しかし、君を信頼する人間はいる……小野寺ユウスケ君のように。だから、自分を卑下するのはやめるんだ」

 名護の口から出てきた名前に、ほんの僅かだが感情が動かされる。
 小野寺ユウスケ。いくつもの世界を巡った士にとって、始めて出会った旅の仲間にして、共に困難を乗り越えた相棒だ。そんな彼の笑顔と、この手で命を奪った五代雄介の最期が同時に浮かび上がり、思わず俯きそうになる。
 恐らく、ユウスケの影響で名護は門矢士という人間を信用しているはずだ。しかし、一方で世界の破壊者としてのディケイドに対する警戒心も抱いているだろう。

「……どうやら、お前も相当のお人好しみたいだな。ヒビキや橘も、お前のことを信頼していたしな」
「ヒビキと橘も?」

 その名前が発せられた途端、今度は名護が表情を曇らせてしまう。
 理由を聞く必要などない。志を同じくした仲間が、既にこの世にいない事実を再び突きつけてしまったのだから。

「ヒビキと橘は……この戦いに乗った連中や、そして大ショッカーから誰かを守るために戦っていた。
 俺はあいつらの最期を見届けてやれなかったが、自分の信念を貫こうとしたはずだ。あの二人がいたから、俺もこうして生きている」

 だから、二人のことを忘れないためにも、名護に伝えた。
 ヒビキと心を通わせて、仮面ライダー響鬼の力を取り戻せたからこそコーカサスビートルアンデッドを倒すまでの活路を見出だすことができた。橘がいたからこそ、本性を現したアルビノジョーカーの打倒するきっかけを巧は掴めたし、自分もこうして名護の前に立てている。
 彼らの勇姿を振り返ると同時に、名護の表情に覇気が戻っていくのが見えた。

「俺はあいつらのことを忘れるつもりはない。そして、あいつらと共にいた啓介の名前も、胸に刻むつもりだ」
「……彼らのことを伝えてくれて、感謝する。やはり、二人は最後まで熱い正義を抱きながら戦っていたのか」
「ああ。響鬼とギャレンがいたからこそ、守られた命もあるはずだ」

 ヒビキと橘の記憶と、名護啓介という男の名前を胸に残す。名護に対する詫びは、それ以外に思いつかなかった。
 忘れてはいけない男はまだいる。

「啓介に伝えることは他にもある。あの男……天道総司のことだ」
「総司くんの!? 君は、彼に会ったのか!?」

 案の定、名護は狼狽するが、構うことなく続けた。

「俺は総司やレイキバットから全てを聞いた。病院のことや、そしてキングのことも……だが、それでも総司は俺を守るために戦った。
 仮面ライダーカブトとして、俺に力を貸してくれたからこそ、キングに勝つことだってできたさ」
「君を守るために戦い、キングに勝った……? まさか、総司君はあのキングを倒したのか!?」
「残念だが、キングには逃げられた。だけど、あいつに愚弄された奴らの無念は晴らされたはずだ」

 少なくとも、嘘を言ったつもりはない。
 総司に命を守られたことは事実だし、仮面ライダーカブトに変身した総司と力を合わせた記憶も胸に残り続けている。キングの脅威は終わった訳ではないが、愛弟子が忌仇を打ち破ったことだけは伝えてやるべきだろう。
 もちろん、デストワイルダーが現れる直前の暴走については、わざわざ蒸し返す必要などないが。

「今の総司は変わり続けている。啓介が総司を導き、そして救ったように……総司もまた、誰かを導くために旅立ったのさ。俺はお前にそれを伝えるために現れた」
「総司君が旅立った……つまり、俺の助けはもう必要ないということか?」
「いいや、お前の助けはまだまだ必要だ。総司にとって、啓介は故郷でもある……あいつが帰る場所には、お前もいないと駄目なんだ。
 そして総司も誰かにとっての故郷になれるよう、自分の道で歩いている途中だ。だから、今は見守ってやれ……あいつはいつだって、お前のそばにいるからな」

 かつて、ダークカブトとして全てを破壊しようと企んだ総司が、全てを守るために仮面ライダーカブトとして戦えるようになったのは、名護啓介のおかげだ。総司は名護に幾度となく支えられたことで答えを見つけたが、今度は自分自身で歩き出そうと決意している。
 困難は多いだろうが、今の総司なら大丈夫だった。

「……しかし、総司君は悲しんでいるはずだ。翔一君を自らの手で殺めてしまった以上、まだどこかに隠れているキングに狙われる恐れもある」
「確かに、キングはまた総司を狙うかもしれないな。だが、総司はキングの言葉に惑わされず、そして自分の意志で打ち倒した……その時の姿は、まさに『正義の仮面ライダー』だったぞ?」
「正義の仮面ライダー……」
「総司は啓介たちのことも信じていたからこそ、キングを倒し、そして今も悩み続ける誰かを助けにいきたいと思えるようになった。だから、総司はもう1人で飛べる。
 お前がやるべきことは、仮面ライダーとして戦い……そして総司の帰りを待つことだ」

 それこそが、今の総司の願いだった。
 総司がこれからどこに向かい、何をしようとするのかはわからない。けれど、もう迷うことはないし、どんな悪意にも負けないことが確信できる。
 このまま名護や仲間たちの元に戻るだけでは駄目だと、総司は言っていた。だから、総司の意志を尊重するためにも、今は名護に会わせられない。

「そうか……俺がいない間、君が総司君を支えてくれたんだな。総司君を助けてくれて、ありがとう」
「俺はあいつの願いを叶えてやっただけだ。あいつは、仮面ライダーとして誰かを守りたかったみたいだからな。
 そして、最後にもう一つだけお前に伝えるべきことがある。紅音也のことだ」
「紅音也……君は彼にも会えたのか!?」
「ああ、あいつからはちょっと根性注入をされた。そのお返しとして、啓介に音也と渡のことを伝えないといけないからな」

 紅渡とは違い、名護啓介は殺し合いに乗っていない。だから、”お説教”をする必要まではないが、音也からの恩義だけは伝えるべきだ。
 一方で、名護の表情は再び曇ってしまう。苛立ちなどではなく、まるで大事な何かを失ったような悲しみを抱いているように見えた。

「……一つ聞きたい。君が見た”紅渡”とは、どんな男なんだ?」
「はぁ? お前は何を言ってるんだ? あいつは、お前の……」
「総司君からも聞いた。紅渡とは、俺の一番弟子であった男だと……だが、俺は彼の記憶を、彼自身によって消されているらしいんだ」
「……なるほどな」

 名護の口から出てきた言葉に驚愕するも、すぐに受け入れる。
 紅渡に関係する記憶が名護の中より消されていた。どんな原理かはわからないが、かつて出会った紅渡なら成し遂げてもおかしくない。あの男の胸中は最後まで読めなかった為、仮面ライダーキバ以外の力を持っていても、充分にあり得た。
 厳密に言えば、旅のはじまりで出会った紅渡とこの世界にいる紅渡は別人だ。しかし、紅渡の全貌がわからない以上、名護の記憶が消す手段を持つ可能性は否定できない。

「聞いた話だと、彼もこの殺し合いに乗っているようだが……」
「俺もあいつのことはよくわからない。あいつは、俺たちのことを一方的に襲いかかって、あまつさえ命を奪おうとした」
「そうか。ならば、俺は彼とも……」
「だが、渡が真に悪人であるかどうかは知らない。あいつは、何か意地があるように見えた。譲れない何かや、果たすべき使命があるからこそ、あえて自分一人で全てを抱えようとしているはずだ」
「譲れない何かや、果たすべき使命……」

 そして、沈黙が広がる。
 渡からは命を奪われかけたが、音也や名護の義理がある以上は悪評を広める訳にはいかない。キングのような卑怯な真似をするつもりはないし、また渡に対する”お説教”だってまだ途中だからだ。

「啓介。お前は渡をどうするつもりだ?」
「……紅渡と出会った時、何をするべきかはまだ決まっていない。居場所や、顔もわからない男を探すことは困難だろう。だが、彼が涙を流しているのであれば……俺は彼の手を取るつもりだ。
 総司君は言っていた。俺は紅渡を最高の弟子と認めていたと……だから俺は弟子である彼を救いたい」
「ならば、やはり啓介には無理をさせられないな。お前みたいな奴は、例え自分が不利な状況になろうとも誰かのために戦おうとする。周りの制止を振り払ってでもな。
 啓介のことだ。総司のことを守るためなら、自分を盾にするつもりだったはずだ……あいつを守りたいのは結構だが、お前が死ぬことを総司が望むわけないだろう」

 すると、名護は黙り混んでしまう。
 図星だろう。一真や巧だって、自らの傷を省みずに戦い抜いたのだから、名護も自己犠牲で悪に立ち向かおうとしてもおかしくない。

「そもそも、お前や総司は病院でキングたちと戦ったばかりだろ? なら、時間制限も解除されていない。総司からお前のことを頼まれた以上、くだらない罠で死なせる訳にはいかないからな」

 正確な残り時間はわからないが、今の名護は制限で仮面ライダーとして戦えないはずだ。加えて、大ショッカーが追加戦力を会場に投入することを知らせた以上、名護が不意討ちを受ける危険すらある。

「それに、俺も総司と共に戦ったばかりで、どうせ制限を受けている。制限が解除されることをただ待つよりも、お前の独断行動を止めた方が有意義だ。
 言っておくが、お前が無茶をするなら、腕尽くでも止めるつもりだからな?」
「……何から何まで、見抜かれていたか。そういうことなら、君の好意に甘えさせてもらおう」

 やはり、図星だったのだろう。名護のような純粋な男は非常にわかりやすく、また嘘が苦手だ。
 名護のことを止めようとしていたことは本当し、腕尽くというのも決して建前ではない。総司には悪いと思うが、名護がどんな無茶を働くのか分からない以上、強引にでも止めさせるべきだった。


「門矢士……いいや、士君。君には大きな借りができてしまったな」
「言ったはずだ、総司から啓介のことを頼まれたと。それに、総司だけじゃなくユウスケのことだってある。
 それだけだ」
「……士君、君は本当に世界を破壊する悪魔なのか? やはり、君が誰かを傷付けるような男には到底思えないが……」
「言ったはずだ。俺は世界の破壊者。
 かつて俺は、数え切れないほどの仮面ライダーを破壊した。そして俺の存在こそが、世界を破滅に導いている。
 もしかしたら、今こうしている間にも……俺のせいで破壊されている世界があるかもしれないぞ?
 例えば、啓介や渡が生きるキバの世界とかな」

 名護の希望を踏みにじるように、真っ向から否定した。
 例え何があろうとも、ディケイドが世界の破壊者であることは変わらないし、破壊者としての使命に目覚めてからは数え切れないほどのライダーを破壊した。だから、ディケイドである門矢士がいる限り、どこかの世界が破壊される運命にあると言われようとも否定しない。
 それこそ、ディケイドの影響で『キバの世界』の崩壊が確定することも、充分にあり得た。

「いいや、俺は君が破壊者と決めるつもりはない。例え、君の存在が世界の崩壊に何らかの関係があったとしても……俺は君の命を一方的に奪ったりなどしない。
 もちろん、俺とて愛する者が生きる世界が破壊されることを黙って見ているつもりはないし、また士君の影響で世界が消滅するのであれば……対策を考えるつもりだ」
「どうやって、俺から世界の崩壊を防ぐつもりだ? 俺が存在する限り、お前の世界が消える可能性を考えないのか?」

「一つの可能性に囚われすぎては、また別の可能性を見つけることはできない。
 俺達人間は、他者を慈しみ、そして未知に対する探究心を持ち合わせている。困難に陥ろうとも、その度に誰かと力を合わせて乗り越え続けた。
 だから、本当に君が世界滅亡の原因であろうとも、変える方法を見つけられるはずだ。士君が総司君を救ってくれたように、俺も世界と士君……そして紅渡君が救われる可能性を見つけたい」

 いわゆる、青臭い理想論だった。
 根拠はなく、また今も存亡の危機に陥っている世界の住民が聞けば、反発することに間違いはない。自らの世界を守るため、殺し合いに乗った者からすれば腸が煮えくり返るだろう。
 だけど、否定する気にはなれなかった。名護啓介はどこまでも真っ直ぐで、正義感に溢れていたからこそ、総司も信頼したのだから。

「なるほどな。やっぱり、お前は総司の師匠だな」
「総司君が自分の道を歩こうとしていることはわかった。ならば、そんな総司君が胸を張っていられるように、俺は俺として……この胸に宿る正義の炎に従い、最後まで戦うつもりだ」
「なら、俺は何も言わない。総司が自分の道を進んだように、啓介も啓介自身の道を歩けばいいだけだ」

 こうして、名護啓介もまた旅をし続けるのだろう。
 彼の助けを必要としている人間はまだいる。一人でも多くを守り、救うまでに歩みを止めるつもりがないことが、名護啓介という男だ。出会ってから間もないが、言霊と眼力から熱い心が感じられる。

「それと、城戸真司達のことも伝えるぞ。あいつらは、ここよりも南のエリアにいた」
「真司くん達にも会ったのか!?」
「ああ、放送で呼ばれた乃木という男と戦っていた。
 乃木は大ショッカーを潰そうとしていたが、邪魔と思った相手は容赦なく殺しにかかる奴だから気を付けろ。しかも、一度倒しても蘇るほどにしぶとい奴だ……きっと、今もどこかで俺たちのことを狙っているはずだ」

「乃木か……わかった。その男についても注意しよう。
 だけど、真司君たちも強いから簡単に負けることはないと、俺は信じている。修二君やリュウタロス君も、今はまだ未熟かもしれないが……いつか総司君と肩を並べられるほどに、成長してくれるはずだ」

 名護の言う通り、城戸真司と間宮麗奈は強い意志を見せていた。リュウタロスも乃木に抗っていたようだし、三原修二も決して逃げ出さずにみんなと共にいた。
 だから、彼ら四人が弱いだなんてありえないし、リュウタロスと三原の二人も総司のように成長するだろう。

「俺が伝えるべきことはもう伝えた。さっさと病院に戻るぞ」
「そうだな。そして士君、もしもまだ仲間を探すのであれば……一条薫や左翔太郎君とも出会うんだ。彼らは今、サーキット場で特訓をしているが、特訓が終われば病院で出会えるはずだ」
「一条薫と左翔太郎か……」

 その途端、自分でも声のトーンが下がっていくのを感じた。
 北のサーキット場には、かつてスーパーショッカーとの戦いで共闘した左翔太郎がいる。再会は喜ばしいが、自らの存在が彼に危害を及ぼす可能性も生まれてしまう。
 ディケイドの影響で他のライダーが命を落とす……やはり、ただの戯言と切り捨てることはできなかった。

「……なら、あいつらにも会うときが来るかもな」

 しかし、自分一人のワガママを押し通して、総司や名護の仲間を無視することなどできない。キングや乃木はもちろんのこと、フィリップについても翔太郎達に伝える必要があった。

「乗れ、こいつを使った方が早い」

 そう言いながら、トライチェイサーの後部座席に乗ることを促す。頷く名護の姿からは、先程までの焦燥感は見られず、ただ威風堂々とした雰囲気を放っている。

 ――今回は名護啓介と一緒にいるんだね、士。君は世界の破壊者じゃなかったのかい?

 ふと、海東大樹の嫌味が聞こえた気がした。
 しかし、いつもの得意げな笑みを浮かべているようにも感じる。素直じゃなかったが、やはり彼も仮面ライダーとしての心意気を持っていたのだろう。
 もっとも、普段の海東の素行は到底褒められなかったが。

(悪いが、今の俺はディケイドとして戦うことができない。それに、総司やユウスケのために啓介を守る……それだけだ)
 ――なるほどね。なら、僕は高みの見物をさせて頂こう。破壊者である士が、本当に彼を守り切れるのかどうかを。

 精々頑張りたまえ。その言葉を最後に、海東の皮肉は聞こえなくなった。


 ◆


(門矢士か……感じのいい青年だ。やはり、ユウスケ君の言う通りだった)

 通りすがりの仮面ライダーこと門矢士の笑みを胸に刻んだ名護啓介は、ただ前を見つめている。
 士からは色々と世話になった。総司や真司、そして紅渡のことを伝えて貰っただけではなく、同行してもらっている。
 ここまでサポートをして貰ったからには、士を裏切らないように戦うべきだった。キングの他にも、乃木怜治という危険人物を知ったからには、余計にこの命を粗末にできない。

(総司君、君の進むべき道は分かった……君が自分一人で旅立とうというなら、俺は信じて待とう。
 男の旅立ちを邪魔するなんて無粋な真似はしない)

 一抹の寂しさを抱くが、それ以上に総司の決断を祝福していた。
 総司は多くの人間の守りがあって仮面ライダーカブトになったように、今度は誰かを守る盾として歩けるようになった。
 事実、総司は自分の助けがなくとも、士と共にキングに勝っている。ならば、士が言うように今は彼を待ち続けて、再び巡り会える時が来たら祝福しよう。
 その時が来たら、より大きく成長した総司の姿が見られるはずだ。

(士君だけじゃない。今の俺は、ヒビキや橘……そして音也など、たくさんの仮面ライダー達から想いを継承された。ならば今の俺がやるべきことは、これまでと同じだ)

 今の自分がやるべきことは、数多くの仮面ライダー達と同じように正義を成し遂げること。弟子の総司が広い世界に向かって羽ばたいたのに、師匠が総司だけにこだわってどうするのか。
 悪魔の集団大ショッカーを正義のためにも倒して、そして士や総司を始めとした仮面ライダーたちを生存させた上で、世界滅亡を止める方法も見つけたかった。例え、ディケイドの存在が世界が破壊される要因であろうとも、最後まで諦めてはいけない。
 何かを破壊するための力は、同時に何かを生み出すことにも繋がる。士は総司の絶望を破壊して、新たなる道を歩むきっかけを作ったように。
 翔太郎や一条、そして士からは無茶をするなと咎められたのだから、やはりこの命を粗末にすることはできなかった。
 総司と胸を張って再会できるよう、一人でも多くを救うために進みたかった。その為にも、まずは体を休めるべき。

――僕は、僕の守りたいものを全て守るだけです

 不意に、闇のキバに変身した青年の声が脳裏に蘇る。

――はい、俺、中途半端はしません、絶対に!

 そして、ほんの僅かな再会を果たした小野寺ユウスケの力強い声も、頭の中でリプートされた。
 彼らのことを全て知る訳ではない。しかし、二人は純粋な想いを胸に抱いたのは確かだ。どんな理由があろうとも、彼らに殺し合いを強制させた大ショッカーに正当性など認めてはいけなかった。
 二人のように、すべてのものを守るためにも、中途半端なことをしない。もちろん、津上翔一が最期に言い残したように、中途半端でも生き続けることを忘れるつもりはない。
 そうでなければ、元の世界で帰りを待っている最愛の妻にも顔向けができなかった。


 ◆


 名護啓介と共に、門矢士はD-1エリアの病院に辿り着いていた。
 ここでは、キングの罠によって命を奪われた津上翔一が眠っている。名護から彼が眠る場所まで案内してもらったが、苦い記憶をほじくり返したはずだ。
 その償いとして、せめて総司のことを翔一に伝えたい。

「津上翔一。啓介から聞いたぞ……最期まで総司の無事を願っていたと。だけど、総司のことなら心配するな。あいつはもう、一人で飛べる」

 津上翔一がどんな男であるか、士には全くわからない。
 かつて、『アギトの世界』にて芦河ショウイチは葦原涼のように荒んでいたが、他者を思いやり続ける熱い心を持ち続けていた。大切な人間を守るために戦っていたショウイチや涼の姿を忘れられる訳がない。
 だから、ショウイチのパラレルにして涼の仲間である翔一も、強さと優しい心を持ち合わせた男のはずだった。

「お前が最期に何を想ったのか、俺は知らない。だけど、お前のことだから総司たちの無事を願っていたはずだ。
 翔一も知ってるように、あいつらはみんな強いぞ? 真司、麗奈、修二、リュウタロス、そして総司と啓介……転んで怪我をしても、最後には立ち上がっている。だから、翔一は何も心配しなくていいんだ」

 総司は翔一の命を奪ったことで絶望していたが、それでも士の命を守ろうとしてくれた。彼の心の強さは、翔一の影響もあったはずだ。
 真司と麗奈だって充分な強さを持っているし、二人のように三原修二とリュウタロスが成長する可能性もある。だから、翔一が心配する必要はないことを伝えたかった。

「翔一はゆっくり休んでいろ。そして、みんなのことを見守っていればいい……翔一の分まで、俺達が戦ってやるから。俺は門矢士、通りすがりの仮面ライダーだからな……覚えておかなくてもいいが」

 そう言い残して、翔一が眠る地から背を向ける。

「士君、もういいのか?」
「ああ、総司たちのことはもう伝えた」

 伝えるべきことは山ほどあるが、今は翔一のことばかりを考えていられない。残るは翔太郎と一条、それに紅渡など探すべき相手はいる。

「啓介、翔一は確か言っていたそうだな。中途半端でもいいから、生きろと」
「その通りだ。彼は、死にいく最期の時まで、自分の傷に目を向けずに……一条に生きろと言っていた。いいや、一条だけじゃない。翔太郎君や俺も含まれていた。
 そして、彼は最期まで総司君の身も案じていた。だから、総司君を救ってくれた士君のことを感謝しているはずだ」
「だったら、俺達はここで待たないといけないようだな。総司は旅に出て、一条薫と翔太郎の二人もサーキット場で特訓している最中だ。
 それに、真司達もいつかここに戻ってくるかもしれない……その時、帰る場所が滅茶苦茶になっていたら安心していられないだろ?」

 大ショッカーによって用意された病院だが、名護や総司たちは確かに同じ時間を過ごしていた。真司や麗奈、三原やリュウタロスもいたはずだ。
 一度はキングによって滅茶苦茶にされたが、名護たちがここで絆を培ってきたことは変わらない。憩いの空間が壊されても、立て直すことができる。

「確かに、みんながここで過ごしてきた時間はかけがえのないものだ。キング達によって壊されたが……荒れた場所なら整えればいいし、そこでみんなを迎えることだってできる」
「ああ、俺達が色々準備して“前みたい”……とまではいかなくても、安心できる病院に作り直せるはずだ」

 キングに対する嫌みを含めながら、名護を励ますように呟く。
 総司は何度倒れそうになっても立ち上がったように、彼が帰るべき場所を何度壊されようとも立て直せばいい。真司達だって、今はどこかで戦っているはず。
 いつか、みんなとまた巡り会うときが来るまで、帰ってくる場所を守るべきだろう。光栄次郎が、自分たちの帰りをいつだって待ってくれたように。

「なら、俺と士君の二人で少しずつ立て直していこう。そしてもう一つ、俺は君のことをもっと知りたい。士君のことを知っていけば、士君と全ての世界を救える方法が見つけられるからな」
「別に構わないが、そんなことをしても無駄だと思うぞ? 俺の意思とは関係なく、世界が破壊されたらどうするつもりだ」
「いいや、どんな経験だろうと決して無駄にはならない。学んだこと、経験したこと……全てが可能性を広げるきっかけになる。今を生きる子ども達だって、たくさん勉強を重ねれば将来の進路だって安定するのと、同じ理由だ」
「……確かに、勉強して知識を増やせば、視野も広がるな」

 まるで子どもに言い聞かせるような理屈だが、特に否定するつもりはない。
 士自身、これまでの旅では巡り会ってきた仮面ライダー達のことを知ったからこそ、絆と共に力を手にすることができたからだ。

「俺も、将来父親になる時が訪れたら、我が子にはたくさんの教育と経験を積ませるつもりだ。ゆとりを持ち、それでいて頼れる人間になれる願いを込めて」
「だったら、お前を守らなければいけない理由も増えたな。総司だけじゃなく、翔一も啓介が生きることを願っていたなら……お前の子どもだって、父親には生きていてほしいと願うはずだ」
「痛いところを突かれたな……だが、士君の言うことはもっともだ。俺は総司君だけじゃなく、翔一君の願いも尊重してあげたい」

 名護も頷いてくれる。
 しかし、彼の表情からは張り詰めたような雰囲気は消えていた。総司の命を救うことで視野狭窄に陥っていたが、今の名護ならもう心配はいらない。
 名護啓介もまた、多くの遺志を受け継いでいるのだから、自分の命を蔑ろにする無茶はしないはずだ。

「親がいなくなったら、子どもにとって大きなトラウマになる。お前は、自分の家族にそんな傷を負わせたいのか?」
「そんなはずはないだろう! 俺は、愛する妻と子には最大の愛情を持って向き合うつもりだ!
 もちろん、時には互いにぶつかることがあるだろう。だけど、自分の立場や感情を押しつけず、そして相手の言い分も認めていきたい。
 相手の怒りも受け止めて、お互いに大きくなっていくつもりだ」
「なるほど……総司も、そうやって成長できたんだな。この際だ、総司が戻ってくるまでに、総司のことをお前から聞いておくことにする」
「ああ、いくらでも構わないとも。それに俺も、士君だけじゃなく……ユウスケ君のことだって知りたかった。ユウスケ君をよく知る士君にしか、聞けそうにないからな」

 病院に向かう足取りと、声のトーンが軽やかになっていく。
 この男……名護啓介に出会えて正解だったと、そんな思考が芽生えてしまう。総司はもちろんのこと、この地でユウスケが何をしていたのかをほんの少しでも知ることができるのだから。
 きっかけこそは最悪だし、野上良太郎の死を冒涜するような思考はできるわけがない。だけど、フィリップ達から離れたことで、真司や総司を守り、名護の無茶を止めることができたことは確かだ。
 起こしてしまったことは変えられないが、一番重要なことは今だ。良太郎や翔一の分まで戦い、みんなの居場所を守り続けることが自分の義務だろう。

(良太郎、翔一……お前らはみんなを見守っていてくれればいい。良太郎や翔一が見守るなら、俺達は前に進み続けるだけだ)

 だからこそ、良太郎と翔一に対する感謝を込めながら心の中で宣言する。
 彼らは願っていたのだから、その気持ちには応えたい。二人のためにも、今は一人でも多くの仮面ライダーに会うべきだろう。
 死ぬなよ、お前ら。これまでに出会い、そしてこの先で待ち構えているであろう仮面ライダー達の無事を祈りながら、門矢士は名護啓介と共に進んでいた。


【二日目 朝】
【D-1 病院前】


【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】MOVIE大戦終了後
【状態】ダメージ(中)、疲労(大)、決意、仮面ライダーディケイドに1時間40分変身不能
【装備】ディケイドライバー@仮面ライダーディケイド、ライダーカード一式@仮面ライダーディケイド、ディエンドライバー+ライダーカード(G3、王蛇、サイガ、歌舞鬼、コーカサス)+ディエンド用ケータッチ@仮面ライダーディケイド、トライチェイサー2000@仮面ライダークウガ
【道具】支給品一式×2、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、キバーラ@仮面ライダーディケイド、 桜井の懐中時計@仮面ライダー電王 首輪探知機@オリジナル
【思考・状況】
基本行動方針:大ショッカーは、俺が潰す!
0:どんな状況だろうと、自分の信じる仮面ライダーとして戦う。
1:今は啓介と共に病院で休む。
2:巧に託された夢を果たす。
3:友好的な仮面ライダーと協力する。
4:ユウスケを見つけたらとっちめる。
5:ダグバへの強い関心。
6:音也への借りがあるので、紅渡を元に戻す。
7:仲間との合流。
8:涼、ヒビキへの感謝。
【備考】
※現在、ライダーカードはディケイド、クウガ、龍騎~電王の力を使う事が出来ます。
※該当するライダーと出会い、互いに信頼を得ればカードは力を取り戻します。
※ダグバが死んだことに対しては半信半疑です。


【名護啓介@仮面ライダーキバ】
【時間軸】本編終了後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、精神疲労(中)、左目に痣、決意、仮面ライダーイクサに50分変身不能、仮面ライダーブレイドに55分変身不能
【装備】イクサナックル(ver.XI)@仮面ライダーキバ、ガイアメモリ(スイーツ)@仮面ライダーW 、ファンガイアバスター@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式×2(名護、ガドル)
【思考・状況】
基本行動方針:悪魔の集団 大ショッカー……その命、神に返しなさい!
0:自分の正義を成し遂げるため、前を進む。
1:直也君の正義は絶対に忘れてはならない。
2:総司君のコーチになる。
3:紅渡……か。
4:例え記憶を失っても、俺は俺だ。
5:どんな罪を犯したとしても、総司君は俺の弟子だ。
6:一条が遊び心を身に着けるのが楽しみ。
7:最悪の場合スイーツメモリを使うことも考慮しなくては。
8:キングや乃木怜治のような輩がいる以上、無謀な行動はできない。
【備考】
※ゼロノスのカードの効果で、『紅渡』に関する記憶を忘却しました。これはあくまで渡の存在を忘却したのみで、彼の父である紅音也との交流や、渡と関わった事によって間接的に発生した出来事や成長などは残っています(ただし過程を思い出せなかったり、別の過程を記憶していたりします)。
※「ディケイドを倒す事が仮面ライダーの使命」だと聞かされましたが、渡との会話を忘却した為にその意味がわかっていません。ただ、気には留めています。
※自身の渡に対する記憶の忘却について把握しました。
※士に対する信頼感が芽生えたため、ディケイドが世界破壊の要因である可能性を疑いつつあります。

143:nameless 投下順 145:異形の花々(1)
142:心の中の薔薇 時系列順
139:The sun rises again 門矢士 151:Chain of Destiny♮彷徨える心
名護啓介

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最終更新:2020年01月24日 15:38