SURVIVE ◆/wOAw.sZ6U


圧倒的な自然が、津波が街を飲み込んでいく音が水を介して遠くから聞こえる。
べきり、べきり、ひしゃげていく人工の、自然ではない建物。
それは強い力で、いつか自分から全てを奪い去った力を思い出す。

掌を、たった一枚の力を握って。
圧倒的暴力を、人間が敵わない自然を。
人間の力で、討ち果たそうと。

「――変身ッ!!」





駆紋戒斗は苛立ちを顕に走っていた。
漸く出会った男、鷹取迅……痴漢を名乗る社会的にどうしょうもない男に遅れを取った。
それだけでも業腹だというのに、追いかけだせばその辺りには見当たらず。
勿論鷹取は痴漢で凄まじい、いわく言いがたいテクニックは持ち合わせているが生身の人間。
本来戒斗が追いかければすぐに捕まえ、フナッシー・アームズで泣くほどボコボコにするのだって造作も無い。

だのに見つからないのは、また彼が速すぎた所為だった。
普通の人間の速度なら多少ずれた道を追っても距離は離れないが、アーマードライダーの脚力はあっという間にずれた道を、より先に走らせた。
まるで彼の現状を例えるように、戒斗は自分だけの道を怒りながら突っ走っていたのである。

道中流れた放送の名前に知った名前は無く、また興味も存在しなかった。
淘汰された弱者など、彼に必要ない。
寧ろ鷹取の名前が無かったこと、生き残った強者のことが戒斗の関心を占める。

耳元では相変わらずインベスもどきが喚いていた。
一度返事をしたら虚言とも妄言ともつかぬ地方の宣伝文句を高音で聞かされて辟易したので無視を決め込んでいる。
戒斗が知らぬことであるがふなっしーの言葉の27.4%は嘘でできているらしい。

無意味な進軍とふなっしーの喧しさに辟易した戒斗は変身を解除した。
物言わぬロックシードに安堵する珍しい体験である。

足を止めて、空を仰ぐ。
朝が近い、これから日が昇る。
戒斗は意識を切り替える。
闇雲に動きまわることが果たして強者の振る舞いと言えるか?否だ。
市街地の、高台を目指そう、そしてそこから探す。
それは鷹取で、まだ見ぬ強者だ。

ある種目立つように高台に立てば強者を誘い込めるかもしれない。
状況認識も兼ねられる、そしてこれは後にも正解行動であったと戒斗は考える。

コンクリートの階段を駆け上がる。

およそ五階建ての廃ビル。研究施設か、単なる住居なのかは非常階段を駆け上がった戒斗に判断はつかず。
隣接するように建つ同じ作りのビルが2つ程見えた。
屋上階から見渡す景色は、廃墟らしくどこか寂れて、人の息吹を損ねている様子であった。

「鷹取は……ちっ、見当たらんな」

正体不明の不気味さが、ぞっと戒斗の背筋を舐めた。
警戒を強め、息を詰める。
どれだけ見つめようと、ゴーストタウンの様相は寂しく人を、熱を持っていない。
だが、そうじゃない、根本的に違う。
遠く引いていくような、生命と熱が引きずられて現在の位置に残っていないような、そんな感覚。
風が、潮を孕んだ風が戒斗の体を通り抜けた。

振り返ると、地鳴りに似た音が聞こえる。
地平の彼方から、生命を飲み込み同化する原初の母が這いずり迫っていた。

「津波……か」
高所にいることが、戒斗の精神を冷静にさせた。
少なくとも即時的な死は無い。
ただ足元のビルが津波の衝撃に耐えきるかと言う確信もまた等しく無く。
異常事態に飲まれきるなど、強者にとってあるべきではない。
まして挑戦者は、挑むこと無く負けていい訳がないのだ。

半ば、強がりのように戒斗は拳を握る。




浅倉威は過酷な環境で生きてきた。
彼は幼いころに自分の家を焼き払い、天涯孤独の身となって泥をすすって生きてきた。
彼の口には泥の味が残っている。
暴力はそんな浅倉の清涼剤であった。
殴り、殴られ、そうしている間だけ、彼の説明のできない苛立ちは収まる。
戦うことは楽しい。
獣の如き本能、蛇のような狡猾さ、そして苛々するという人間の欲求。

奇妙なバランスで成り立つ、浅倉威という男。
現在そのバランスの比重が狂い始めている。
王熊になった時からそれは進行していた。
苛々する以上に腹が減ってたまらない。
あれだけ食ったというのに、キリキリと腹が悲鳴をあげている。
気がついたら自分のライダーとしての召喚器である牙召杖ベノバイザーをぼりぼりと齧っていた。

流れていくビルの上でしっかり火を通して食した三体の怪物。
二体はヒグマで、一体は怪獣だったがこの際どうだっていい。
酷く、浅倉は愉快だった。
自然の摂理に組み込まれた、自然が呼ぶ破壊を喜ぶ獣。
食欲が、浅倉の獣の割合を広げていった。
口内に涎が満ち、息が荒くなる。

しかし、消えていない。
泥の味が、暴力を欲する心が。
視界に入った人間を見た瞬間、泥が胃から食道へ逆流する。
吐き出しそうな苛立ち、懐かしいくらいの歓喜。
それは人間の浅倉威が必要とする暴力への大事な引き金で。
同時に、ヒグマモンスターの食欲を満たす獲物の匂いでもあった。


未だ海水は途切れず、一歩間違えば体は水没する。
浅倉は危険など皆無とばかりに飛翔し男の前に立った。

「何者だ」
轟々と水がぶつかりあう音がうるさい。
凛として構える男、駆紋戒斗はヒグマモンスターに問う。
ただの人間の癖に、いっかな怯むこともなく。

「なんだっていい……戦え!!」
質問には答えない姿勢で、ヒグマモンスターは突進する。
戦え、捕食ではなく暴力を浅倉は優先した。

直情的なそれを横っ飛びに避け、戒斗は笑った。
獲物を見つけた、狩人の眼で。

「人か?インベスか?ヒグマか?いや……本当になんだっていいのかも知れないな」
ナシの形が刻まれた錠前を指にかけてくるりと回し握る。
彼の手癖であり、戦いの合図だ。

「変身!」
ガシャン、戦極ドライバーにはめ込まれたロックシードが両断される。
西洋風のファンファーレとともに、その姿はアーマードライダーバロンに変わった。
<<ナシ・アームズ! 梨汁ブッシャーーーー!!>>

奇天烈な鎧を纏ったライダーの登場に、浅倉も笑った。
獣の眼で、舌なめずりをするように。



ロックシードは鎧の力だけではなく武器をライダーに与える。
本来のバロンならばバナナ・ロックシードから生み出されるバナスピアーが武器だ。

今バロンの手にあるのは見慣れぬ銃火器。
水色と黄色を主色にしたこれまた派手なカラーリングの砲身は太く、口径も末広がりで、ラッパの形に似ていた。
玩具かパーティグッズのようなクオリティだが、バズーカ、と呼んでいいのだろうか、これは。
そう戒斗が武器に戸惑っていると、甲高い不安を煽る声がご丁寧に解説をしてくれた。
《これは梨汁バズーカなっしー!!さああぶっ放すなっしーよ!!ヒャッハァー!!!!》

「名前までふざけてるな……」

片耳を無意味だろうが塞ぎながらひとりごちる。
その間もヒグマモンスターは攻撃を仕掛けていたが、予測のつかない次元法則を無視したバロンの動きに対応できずその手は空を切っていた。
だからといって、バロンの心には余裕も慢心も無かった。
今はまだ避けられる、しかしこれが一度直撃すれば……真空を生み出しそうな勢いの薙ぎにバロンの神経は冷える。

その一方で、高揚していた。
漸くまともな『強者』に巡り会えたと。
簒奪し、乗り越えるに値する『力』の持ち主と戦えたと。
鷹取は『技』に秀でた男であった。
だから彼を乗り越えた時に手に入るのは技。

それは確かに『強者』の一パターンではあるが、戒斗の本懐ではない。
奪い取り、踏みにじる……それが本当の勝利の形。
力とは、強さの証をたてるもの。
目の前で暴れる獣は、正しく戒斗の欲するものであった。


「苛々させる……ちょろちょろと逃げてばかりか」
唸り声を上げ、浅倉はカードを取り出す。
しかし召喚器であるベノバイザーは見当たらない。食べてしまった気がする。
ならば、そうかと、ヒグマモンスターはカードをその牙で貫いた。

――スイングベント

無機質な音声と共に、ヒグマモンスターの腕から長いエビルダイバーの尾を模したムチ、エビルウィップが現れる。
異様な光景であったが、ヒグマモンスターは気にも留めない。
戦いやすい体になったものだと、いっそ感心すらしていた。
勢い良く高圧電流が走るムチを振り回し、バロンの軌道を阻害する。

「容易い!」
激とともに空を蹴り、満月を描くようにバロンは翻る。
ムチを振り切ったヒグマモンスターに照準を合わせ、引き金に指をかけた。
扱い慣れぬ武器だからこそ慎重を期す立ち回りだったのだ。

狙うはカウンター、相手の大きな攻撃の隙。
規格外のふなっしーの動きと、バズーカの合わせ技。

《ヒャッハァァーーーー!!!!》
叫び声を上げながら梨の形状をした弾がヒグマモンスターに迫る。
ヒグマモンスターは伸びきった右腕をそのままに、にやりと、笑った。


――ストライクベント

左腕が、T字を頭につけた怪獣、回転怪獣ギロスの形に変容した。
ガントレット、と言うには些か異質であった。
腹話術の人形のように腕から生える姿は、後ろから見なければアドベントでモンスターを召喚したのかと見間違える。
取り込まれてなお、意思を持ってギロスは咆哮し、その名前通りの回転で弾を弾き返そうとする。

《梨汁ブッシャァーーー!!!》
跳ね返され、そのまま堕ちると思われた弾が静止し、奇声と爽やかな梨の果汁を撒き散らし炸裂した。
散弾となった梨の礫はギロスを、周囲を抉る。

余談だが梨の果汁のシミは酸化した血液の後に似ている。
食する際は白い衣服を着ないよう、もしくは汁をこぼさないよう注意したい。

自由気ままな弾道は正しくふなっしーの特性だ。
勿論ヒグマモンスターにもその弾は届く。
それどころか向かいの建物にもめり込んでいる。
大迷惑な武器である。
鈍い音を立てて梨が殺到していく様を眺め、戒斗は勝利を確信した。


ひゅっ、と音が遅れて聞こえた。
認識した瞬間、電撃がバロンの体を襲う。
「なぁあっ……!?」
ギロスの背後から伸びたエビルウィップが、バロンの足に絡みついていた。
ぐっしょりと、果汁まみれのムチ。
あれだけの集中砲火を食らってなおも衰えぬ腕力は礫を切り裂き僅かな隙を絡めとったのだ。

ヒグマモンスターは痛みでは怯まない、死の影も踏み倒す。
圧倒的自然を、遺伝子の暴走を支配下に入れた浅倉威は今や死ぬまで能力を落とさぬ
周囲を取り巻く津波のような『災害』であった。

人間は、自然に弱い。
津波でも、竜巻でも、ただの雨に、晴天にすら簡単に生命を奪われる。

高圧電流に悶え、バロンは地面に叩きつけられる。
ヒグマモンスターはけたたましい哄笑を伴い跳躍した。
見上げる、見上げさせられる空に映る『強者』の姿。

鈍い感覚の指でバズーカの引き金を引く。
一矢報いるのだ。

ぎりり、と食いしばった歯から漏れた音は、ビルの破壊音に紛れて戒斗の耳にしか届かなかった。



――あれは、怪物であるが、力を、自然を完全に制御していた。


冷たい水と闇の中で、戒斗は沈んでいた。
屋上の床ごと怪獣で殴られ、階下に落とされたのだ。
窓から侵入した海水がひたひたと溜り、戒斗を受け止める。
流されないのは、鎧が重量を持っているからだろうか。
それとも津波が緩やかになってきたのか。
いいや、そんなことより。

浮かび上がらなくては。
瞳をこじ開け、強く、強者にならなくては。


しかし、闇をむさぼるようにずぶずぶと沈んでいくのは、なぜだか心地よかった。
このまま、諦めてしまえば、楽になれると生命の母は戒斗に囁く。
十分強者であったと、挑戦者であったと。
そして死ねるのだ。
強い姿で死ねる。
あの怪物に死ぬ直前まで銃を構え、ぶつけたのだ。
それでいいではないか、有終の美というものだろう。
このまま浮かび上がっても、生き延びても、いるのは強者ではない。
ぼろぼろの弱者だ。


――違う!!

光が駆紋戒斗の両目に注ぎ込まれる。
水面に、朝日が届いていた。
屈折した光は揺らめき、戒斗を導く。

ごぼり、と空気が口端から漏れる。

強者のまま死ぬだと?ふざけるな。
生きてこそ、生きているからこそ、強者足りえるのだ。
死者は、こんなぼろぼろの自分にも劣る、弱者だ。

水中で覚醒した戒斗をあざ笑うかのように、変身が解けた。
ベルトが耐久の限界を迎えたらしく、ずるりと戒斗の腰を離れる。
それを捕まえ、ロックシードだけでも回収したが。

錠前を握って、浮上していく。
開くことの無い力、まるで今の戒斗のようで。
成長しない種、実を結ばない。

それでも太陽は降り注ぎ、夜を照らした。
たった一枚の『夜』を。

戒斗は手を伸ばす、一枚の生命に。

――戦え。

夜に指先が届くと、知らない声が戒斗の意識に唆す。

――言われなくとも!!

海の誘惑を振り払い、がっしりと、生命を戒斗は掴んだ。



ヒグマモンスターは悠々と階段を降り、バロンが浮上するのを待っていた。
死体であれば食うし、生きていれば戦う。
明瞭に分けられた思考だ。

ヒグマの本能が食しつつも保存しようと働きデイパックを携えていたが、先ほどの梨の礫の被害か穴が空いている。
左腕も負傷が酷く食い捨てた。召喚しなおせばいい話だ。
不機嫌だが、食事を控えているとなると獣の心は満たされていた。

ふ、と乳白色の霧が辺りに満ち始める。
水と、日差しのせいだろうか。
それにしても不自然だ。
浅倉は、本能的に苦い屈辱を思い出す。

吹き付けるような霧、相対したライダーの中でも上位の力を持つ仮面ライダーナイトのサバイブ形態を。

「……苛々する……苛々するぜ……だが……楽しいな」
食事が遠のいた苛立ち、屈辱を蒸し返された苛立ち。
それを全て上回る、戦いへの歓喜。

今しがた想起した相手が、目の前に立っている。
どうして居るのか、そんなことは浅倉にはどうでもよかった。
戦える、その一事に心が浮き立つのだ。


海水を吐きながら、戒斗は決して膝を折らなかった。
ここで折ってしまえば二度と立てない、そう確信したのだ。
水をしたたらせ握るカードデッキ。

キィンと耳鳴りがする。
この物体に宿る記憶が、断片的に戒斗に流れていた。
記憶と言っても、このカードデッキを持つもののルール程度だ。
生命を賭して、願いのために戦い続けるというそれだけ。

水面に戒斗が映る。
その表情は死人でも、弱者でもない。
明確な意思を持った、生きる『強者』だった。

「――変身ッ!!」

カードデッキは、使用者が望むカードを吐き出す。
駆紋戒斗は望む。
生きることを。


――サバイブ


朝日が差し込むビル内に、夜の騎士が降り立った。


【G-4:廃ビル内 朝】



【浅倉威@仮面ライダー龍騎】
状態:仮面ライダー王熊に変身中、ダメージ(中)、ヒグマモンスター
装備:カードデッキ@仮面ライダー龍騎、ライアのカードデッキ@仮面ライダー龍騎、ガイのカードデッキ@仮面ライダー龍騎
道具:基本支給品×3
基本思考:本能を満たす
0:一つでも多くの獲物を食いまくる。
1:腹が減ってイライラするんだよ
2:北岡ぁ……
3:目の前にいるナイトと戦い食う
[備考]
※ヒグマはミラーモンスターになりました。
※ヒグマは過酷な生存競争の中を生きてきたため、常にサバイブ体です。
※一度にヒグマを三匹も食べてしまったので、ヒグマモンスターになってしまいました。
※体内でヒグマ遺伝子が暴れ回っています。
※ストライカー・エウレカにも変身できるかもしれませんが、実際になれるかどうかは後続の書き手さんにお任せします。
※全種類のカードデッキを所持しています。
※ゾルダのカードデッキはディケイド版の龍騎の世界から持ち出されたデッキです。
※召喚器を食べてしまったので浅倉自体が召喚器になりました。カードを食べることで武器を召喚します。
※カードデッキのセット@仮面ライダー龍騎&仮面ライダーディケイドはデイパックに穴が空いたために流れてしまいました。


【駆紋戒斗@仮面ライダー鎧武】
状態:仮面ライダーナイト・サバイブ、重症
装備:翼召剣ダークバイザーツバイ、仮面ライダーナイトのカードデッキ@仮面ライダー龍騎
道具:基本支給品一式。ランダム支給品なし。ナシ(ふなっしー)ロックシード
基本思考:鷹取迅に復讐する。力なきものは退ける。
0:生きて勝つ
[備考]
※カードデッキのセット@仮面ライダー龍騎&仮面ライダーディケイドの仮面ライダーナイトのカードデッキ@仮面ライダー龍騎により仮面ライダーナイトになりました。
※戦極ドライバーさえあれば再びバロンに変身することもできます。



※G-4周辺にカードデッキのセット@仮面ライダー龍騎&仮面ライダーディケイドのナイトのカードデッキ以外が流れました。
 無事に流れているかもしれないし、壊れているかもしれません。


No.113:文字禍 本編SS目次・投下順 No.115:羆帝国の劣等生
No.111:金の指輪 本編SS目次・時系列順
No.074:スーパーヒーロー大戦H 駆紋戒斗 No.135:BOAT
No.099:大沈没! ロワ会場最後の日 浅倉威

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最終更新:2015年12月13日 17:13