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Island of Hope and Tears


 あの激動の一日から、しばらく経った。
 そんなある日。
 とある学園都市の、とある病院の、とある病室のテレビに、とある会見の様子が映し出されていた。

『――ビショップさんの熱いハートは、きゅんきゅん伝わって来たよ! これからよろしくね!』
『ハイ。相田さんが在ヒグマ共和国大使となってくだサルのならば、これ以上心強いことはアリマセン』

 フラッシュが炊かれる中で、日本国総理大臣とキュアハートが、ヒグマ共和国の大統領となった少女と、固く握手を交わしている。

 先のヒグマ島事件を収束させた功績を讃えられ、相田マナは正式に、ヒグマ共和国への外交使節団大使となっていた。
 被選挙権の及ぶ年齢になれば、ゆくゆくは日本国総理大臣となることも確実だろうと見込まれている。

 ヒグマ共和国は、日本国の内部に成立した特別な独立国家として、この会見にて正式に認められたことになる。
 いわば、イタリアの中のバチカン市国のような立ち位置だ。


「……いやぁ、ようやくこれでひと段落って感じかしらね、あの島も」

 そのニュースをベッドの上で眺めているのは、御坂美琴だった。

「佐天さんがあの島に行くのって今日でしたっけ?」
「そう、舞台演出の手伝いって名目でね~」

 リンゴの皮を剥きながら、見舞いの初春飾利が友人に問う。
 窓枠に肘をつきながら、佐天涙子がその問いに答えていた。


「いたぞ! 新しいレベル5の、『砂漠の月(デザートムーン)』だ!!」
「やばっ、見つかった!」

 外からの叫び声に、佐天涙子が窓枠から離れて宙に浮く。
 彼女は、最初から3階の病室の外にいて、そこから室内を覗き込んでいたのだ。

 ヒグマ島で、レベル0から急速にその能力を伸ばし、学園都市の基準ではとうにレベル5に至ってしまっていた佐天涙子に、平穏は無かった。
 それは学園都市が、彼女の資質を見誤っていたということの証左であり、学園都市の根幹を揺るがしかねない事態だったからだ。
 学園都市に戻ってからというものの、研究対象として追われる日々が続き、佐天は友人の見舞い一つ満足にできない状態になっていた。


「おお、エントロピー! ネゲントロピー!! あれこそまさに、天を佐(たす)ける世界の半分……!!
 あの能力を解析すれば、今度こそ必ずやレベル6に――、『神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの』へと至れる――!!」


 能力者と思しき白衣姿の老人が、狂喜の笑みを浮かべながら、佐天を目指して空中を歩き始めていた。
 もはや一刻の猶予もない。
 佐天涙子は、その背中に『砂漠の月(デザートムーン)』の銀の翼を展開する。

「ごめん、早いけど私もう行くね……! この方が、ふたりのためだから……!」

 もう、方々の知人に匿ってもらい続けるのも限界だ。
 能力を狙われている自分に巻き込んで、迷惑をかけるわけには行かない。
 佐天涙子は、布束砥信たちの手伝いという名目で、早々にヒグマ共和国へ亡命するつもりだった。
 友人二人は、彼女の言葉に頷いていた。

「大丈夫ですよ佐天さん! また、私たちも会いに行きます!」
「黒子によろしく! こっちの対処は任せて!」

 君のそばを離れる時が来るなんて――。
 初春と一緒に過ごしてきた日々では、考えられなかった。
 最後に一度、佐天と初春はその指先を絡める。
 病院の外に風が渦巻く。
 ふたりの手が離れる。
 銀の翼が風をはらみ、佐天を勢いよく空へと舞い上がらせた。


「――またね、初春!!」
「逃げたぞ! 追えぇ――!!」


 病院の外で、何人もの追手が、飛び去って行く佐天涙子に向けて叫んでいた。
 美琴は窓を閉めて背を向け、まるでDJがターンテーブルを前にするように呼吸を整えて、自然体に目を瞑った。
 ベッドの縁に腰掛け、病衣の袖を払い、襟の合わせを整える。
 そして左手で耳元を押さえると、彼女は右手で真一文字に、目の前の空間を手刀で裂いた。

「――『天網雅楽(スカイセンサー)』、起動!!」

 ニュースの映っていたテレビの映像が、乱れて消える。
 それと引き換えに、瞑目した美琴の視界には、半径1キロ圏内の莫大な情報が描き出されていた。
 テレビアンテナを元に形成した高周波レーダーの情報を元に、続けざまに彼女は、無音の砲撃を敢行する。


「『只管楽砲(チューブラ・ヘルツ)』……」


 窓の外で、佐天涙子を追おうとしていたドローンやロボットたちが、突如音もなく停止する。
 空中を歩いていた老人の左眼が爆裂し、落下する。
 次々と煙を上げて倒れる機械や、墜落して地に紅い華を咲かせた老人に、研究員たちが驚愕している。

「ウワーッ!? 先生が墜ちた!?」
「チクショウ、『砂漠の月(デザートムーン)』か!? あんな遠くから攻撃を!?」

 一体何が起きたのか、外の人には何もわからなかっただろう。

「……今の私には、佐天さんを助ける、この程度が関の山ね……」
「いやあ、充分すごいですよ御坂さん……」
「島で受けたダメージで起電力がガタ落ちしたのが痛すぎるのよね……。ま、こればかりはリハビリするしかないわね……」

 病床からマイクロ波による無音の狙撃をしていた御坂美琴は、窓の外を見やることもなく、自嘲気味に笑った。
 映像が復帰したテレビでは、何事もなかったかのようにニュース番組が続けられている。

『――このように、めでたい記念日となったヒグマ共和国ですけども、どうやら、国民のヒグマ同士で、初のご懐妊の報告もあったとか!』
『はいそうなんです。こちら幸せそうなお写真ですね! 左の隻眼のヒグマが、旦那様のシャオジーさん。右の民族衣装の女性が、なんとヒグマにして魔法少女のケレプノエさんです!』
『ヒグマ共和国の魔法少女さんたちといえば、あの見滝原の台風被害の時にも救援に来てくれた人だよね?』
『そうなんです。日本とヒグマ共和国の国交は、着実に深まっていると言えますね!
 さらに本日、ヒグマ共和国では、独立記念のライブが開催されるそうです! インタラクティブライブの当日券は現在も好評発売中ですよ!
 画面のURLおよびQRコードから、皆さんもぜひ詳細をチェックしてみてくださいね!――』


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 ニュースではその後も、ヒグマを素手で仕留めた初めてのファイナンシャルプランナーだという福田さんや、川﨑宗則さんたちからのお祝いのメッセージなどが続々と報じられている。

 初春はその報道を眺めながら、リンゴや野菜を丸のまま握り潰し、生絞りにしていた。
 『定温保存(サーマルハンド)』の能力を持つ初春にかかれば、ミキサー無しでひんやり生ジュースもお手の物である。
 出来上がった生絞りジュースを勧められた御坂美琴は、そんな初春の姿に感嘆する。

「てか初春さんはやっぱり握力すごいままなのね」
「この前、測定したら90キロありました。あはは」

 パッチールからバトンタッチされ、強化された攻防の身体能力は、あのヒグマ島の戦いの後、そのまま初春の基礎体力として固定されていた。
 握りしめるたびに、あの緑の絵のような日とぬくもりが、思い出される。


「……あの島で紡がれた想いは、しっかり残ってるんですね」
「ええ。私たちも、次のライブの時は、現地参加したいわね」


 運命は動き出す。それぞれの夢を分けて。
 彼女たちはそうして北の空に、想いを馳せた。


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 真昼の空に、蒼い月が浮かんでいる。
 繰り返す、波の上に。
 『砂漠の月(デザートムーン)』の翼で、『下着御手(スカートアッパー)』の風に乗って、佐天涙子は学園都市から北海道に向けて海上を飛び続けていた。

 飛びながら彼女は、前々から気になっていた新刊を電子書籍で購入した。
 本屋では平積みで並べられるほどの大人気だったため、本当ならば紙媒体で手に入れたかったのだが、学園都市内でマークされている彼女にはできなかった。
 コンビニで立ち読みもできない。
 奇しくもアニラ――、皇魁の状況に我が身が重なり、苦笑してしまう。

 ――『ヒグマ・ロワイアル~ヒグマ島事件の真相の実録~』著:宮本明、李徴、小隻、間桐雁夜、フォックス

 購入した本は、そんなタイトルだった。
 移動しながら読みふける。

 それは、フォックスがシャオジーから伝え聞いて記録していた話などを元にして、ロワ書き手である李徴と小説家志望である宮本明が、間桐雁夜などによる綿密な取材にて得られた情報などをさらに追加して、書籍の体裁にまとめたものだった。
 今や全世界の注目の的となっているヒグマ島およびヒグマ共和国での事件のあらましと、各生存者の実話がまとめられたドキュメンタリーは、発売直後から爆発的な売れ行きを見せていた。
 そこには佐天自身が経験し、伝えていたあの日の物語も、克明に記されていた。

 涼やかな風と共に、あの日のことが、思い出される。
 そうして降り立った懐かしい島は、まだ何も変わっていないかのようでいて、着実に変わりつつあった。

 少なくとも激戦のあったB-8――、星空凛のテーマパークが建ったり、瑞鶴の航空基地が建ったりして、最終的にヒグマ島希望放送の衛星局として放送に貢献し、江ノ島盾子の討伐の現場となった拠点には、大きな慰霊碑と記念ホールが建っていた。
 ちらほらと観光客の姿も見え、ホールの前には、イベントの開場前にもかかわらず、数人の列ができたりしている。


「やあ、佐天涙子ちゃんだったよね!」
「あ、間桐さん! お久しぶりです!! 見ましたよ~! 相田さんとビショップさんの記者会見!!」

 その時、取材用のカメラで島の風景を撮っていた間桐雁夜が、島外から飛んできた彼女に気づいて手を挙げる。
 佐天は翼を仕舞って、彼に駆け寄った。


「お仕事にも復帰されたみたいで良かった! 体調いかがですか?」
「ああ。顔の傷はまあ、まだ見ての通りだけど、島で受けた治療のおかげで、体調はだいぶ良いよ。
 また記者として働かせてもらえるようになったんで、今日はちょうど、縁のあるこの島の取材にね」

 白髪と、歪み切った左顔面の痛々しさはそのままだったが、今の雁夜はだいぶ血色も良くなっている。
 機材の入った大きなカバンを抱え、しっかりと記者然とした佇まいだ。
 騒動の後に彼の事情も色々と聞き及んでいた佐天は、歩きながら彼にその後の状況を尋ねた。

「なんかその、聖杯戦争とかでの、ご実家の問題とかは解決したんですか?」
「ああ……。もうね、教会と時計塔とアインツベルンと遠坂に、桜ちゃん関連の情報は全部流したよ。
 最初から俺一人が抱えてたのが間違いだったんだ」

 ヒグマ島から冬木に戻った彼は、島での魔術師誘拐と間桐家の抱える闇を、洗いざらい関係各所にリークしていた。
 第四次聖杯戦争の参加者が彼以外悉く死亡した状況でのその情報は、各所に混乱を巻き起こした。
 その混乱に乗じて、彼は『月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)』を操る黒木智子と共に蟲蔵へ殴り込み、間桐桜を救助して遠坂葵に託し、再度出奔していた。
 あと、ついでに冬木の聖杯は汚染されていたことが発覚したため、話を聞いて助けに来てくれたプリキュア一行に破壊してもらった。

「俺が実家から助け出した桜ちゃんは、今、エーデルフェルトっていう名門の家に引き取られて、幸せにやってるみたいだ。
 なんだか、最近はプロレスにハマってるみたいでね。葵さんから出版社宛てにお礼の手紙だけ来たよ。
 アインツベルンのご令嬢たちも、プリキュアたちを見て、なんかああいう方向性の綺麗な魔法少女を目指すことにしたってさ」
「おお、良かったですね!」

 気になっていた事情に上手く収拾がついたようで、佐天もホッと胸を撫でおろした。


「ああ……、本当に、スキを手放した時に初めて、スキは手に入れることができるんだな……」


 間桐雁夜は、振り向いて南西の海と空を感慨深く眺め、そう呟く。
 海風が、心地よかった。
 遠く耳を澄まして、心を解き放したら、穏やかな想いが満ちてくる。
 悲しい思い出さえ、愛しくなるようだった。

 二人が向かっていた先。ヒグマ島希望放送――、HIGUMAアスレチックの跡地は、温泉を併設した、港直結の大きなビジターセンターになっており、島の玄関口として、きちんと人々を迎え入れられるように改築されていた。
 港への道行きを辿っていた二人に、その時声がかかる。

「よっす涙子。お前も出迎えか?」
「佐倉さん! こっち残ってたんだっけ。調子はどう?」

 赤いポニーテールを私服のパーカーに遊ばせてやってきたのは、佐倉杏子だった。
 杏子と佐天は、相田マナ奪還戦で通じ合った、能力に共通点を持つ戦友だ。
 互いに得難い友人として、久しぶりの再会に声も浮き立った。

「あたしはヒグマ共和国で働きっぱなしよォ。やること多くてまぁ疲れた疲れた。自分ら含めてヒト遣い荒いんだよねぇ研究者サマ方は。
 いくら強くてアルター使いの魔法少女だからって、疲れはするっての。なぁ? そう思うだろ? あんたも?」
「あはは……、まあそうね……」

 杏子は鮭とばをかじりながら、愚痴をこぼす。
 学園都市に帰れば研究対象として追い掛け回されてばかりだった佐天涙子としても、他人事とは思えなかった。
 ヒグマ共和国の研究者は、布束砥信と四宮ひまわりという見知った面子だからまだいいが、学園都市のよくわからない研究者たちに捕まったならただでは済まない。

「そういえば、シーナーさんは協力してくれないの?」
「あれから、完全に『英霊の座』とやらに還っちまったのか、それとも『治癒の書(キターブ・アッシファー)』が完全にアタシに馴染んじまったせいなのか、とにかくとんと出てきてくれねぇや。
 まだまだ聞きたいことは山ほどあったのによ。研究に必要なモンの大半がそれ関連だからまあ骨が折れる。
 本当、何事も生きているうちにしなきゃあなぁ……」

 だが、愚痴りながらも、杏子は満足げだった。
 そうして、ふと気づいたように彼女は涙子に向けて笑みをこぼす。

「ああそういや、アンタたちがご心配の彼女なら、順調だぜ? アタシと研究者サマ方のおかげでな」
「本当!? ありがとう佐倉さん!」

 杏子からの待ち望んでいた言葉に、佐天は目を輝かせ、感謝と共に彼女の手を掴んでぶんぶんと振りまわした。


「佐天涙子、久しぶりね。杏子と間桐さんも」
「涙子ちゃん、杏子ちゃん! 久しぶり~!」

 そんな彼女たちの元に、北海道からの定期船で着いた一行が、海食洞の港からの通路を上がってくる。
 長い黒髪と赤いセルフレーム眼鏡のクールな少女、そして濃いピンク髪をお団子にした少女が手を振った。
 暁美ほむら夢原のぞみだ。

「暁美さん、夢原さん! ちょうど着いたんだ! この前の巨大台風の後、大丈夫だった!?」
「ワルプルギスの夜との戦いでは、本当に助かったわ。
 あなたを始め、武田さんやプリキュア、ヒグマ共和国の皆さんの協力もあったから、随分あっけないくらいだったわ」
「そうそう。今の私たちが力を合わせれば、大抵のことはだいたいなんとかなるなる!!」

 ヒグマ島での戦いが終わった後、脱出までの間で互いに情報交換をしていた彼女たちは、ほむらから見滝原市に襲来するという『ワルプルギスの夜』の話についても当然聞いていた。
 戦友が己の人生の全てを賭けて挑み続けていた相手となれば、行き掛けの駄賃に、この島の生存者たちがその戦いに助力することなど、当たり前だった。

『108lb化膿砲』
『フォックス・グローブ・デカダント』
『煌めきの嵐(メルセルヤンペ)』
『デストゥリエーレ・モルタ・セッタンタセッテ』
『大羆聖離魂砲撃・布愛成(ティロ・ウルサドッペリオン・フィナーレ)』
『ビビッド・ワーニング・ファイナル・オペレーション』
『プリキュア・シューティング・スターライト・ソリューション』
『月炎心恋(ブルー・ブルー・ブルー・ラヴ)』

 などの、練り上げられた大技を立て続けにぶち込まれたのだ。
 表面温度5万度、中心温度数百億度の、星を熔かす真っ蒼な恋――。
 最後に佐天から放たれた火炎放射と共に、さしものワルプルギスの夜も、一瞬で爆散していた。


「ふっふーん、球磨たちの協力も忘れてもらっちゃ困るクマ!」

 その時、暁美ほむらの後ろから、一人の艦娘が胸を張ってひょっこり出てくる。
 長い茶髪に、爽やかな白と緑のセーラー服の少女は、佐天の記憶には無い人物だった。
 ほむらから聞いた話を辿って思い出す。

「球磨さんって……、確か暁美さんと一緒にいたっていう艦娘の人? 復活したの!?」
「島で作られてた新しい艦娘たちと同じよ。……帰った後、海上自衛隊にも協力してもらって『建造』していたの」
「ほむらが球磨の記憶Discをしっかり持ち帰ってくれたから、ばっちり思い出したクマ。スワンプマン的な細かいことは気にせんでいいクマ」

 自衛隊や艦娘たちの協力もあり、ワルプルギスの夜襲来に際しては事前の避難誘導なども万全であった。
 既にヒグマ島の騒動の時点から形成されていた、プリキュア、ゆるキャラ、自衛隊艦娘などとの協力体制は、ヒグマ島からの魔法少女や夢原のぞみ、相田マナ、天龍たちの生還によって、さらに盤石なものとなっていたのだ。
 彼女たちの尽力によって、ワルプルギスの夜襲来の後処理も、つつがなく終わったということらしい。


「あと、紹介しておくわ。友人の美樹さやかと美国織莉子、そして、私の一番大切なかけがえのない友達……、鹿目まどかよ」
「もう、その紹介は恥ずかしいよ、ほむらちゃん」

 暁美ほむらは続いて、船からあがってきた友人たちを紹介し始める。
 巴マミ呉キリカといった生存者たち以外に、そこには佐天のよく知らない者が3人いた。
 ほむらの隣で、ピンク色の髪を小さなツインテールにまとめてはにかむ少女は、鹿目まどかという、ほむらの親友らしかった。
 一見普通の少女に見えるが、杏子やほむらと同格以上のとんでもない魔力が、変身していなくともひしひしと感じられるため、只者でないことは確実だろう。

 美樹さやかと呼ばれた、青髪のショートカットの少女が、島の景色を眺めまわし、お気楽に笑う。


「いや~、マミさんたちみんなこの島で超強化されたっていうし、あたしもその時来てみたかったな~」
「「絶対やめなさい」」「「絶対やめとけ」」

 そんな美樹さやかに向けて、巴マミ、暁美ほむら、佐倉杏子、呉キリカの全員が、口を揃えて言い切った。

「美樹さん、因果が逆よ。私たちが生き残れたのは、本当に、有り得ないくらいわずかな可能性の果ての奇跡に過ぎないのよ」
「強くなれなければ死んでいただけ。また時間遡行できたとしても、もう二度と繰り返したくない1日だったわ……」
「さやか、本当それは冗談でも言うな。同行した奴はほとんど死んだんだ……。あたしも何回死んでたか数えてないぞ」
「そうそう。私たち全員2-3回は死んでたはずだよな? 織莉子がアレに巻き込まれなくて本当に良かったよ……」


 海食洞の港からメイン通りを歩けば、津波や戦いの被害を受けた街並みがだんだんと復興されてきているのがわかる。
 ミサイルを撃墜した南斗列車砲は記念碑のようになっており、遠目にも、佐天が氷漬けにしていた懐かしい百貨店が再建されてきているのが見えた。

『安全第一に作業をいたしております。しばらくの間、御協力をお願いいたします。
                     工事施工者:蔵人カーペンターズ
                     工事現場管理者:クックロビン』

 工事現場の看板には、ヘルメットをかぶったヒグマがお辞儀をしている絵が描かれており、そのようなお願いが記されていた。

 通りには、一大イベントの前にふさわしく、ちくわパンやラーメンなどの出店が並んでいる。
 その中のある出店を見て、夢原のぞみが声を上げる。

「あ、クレープ屋さんだよ! キリカちゃん! みんなにクレープおごってくれる約束だったよね!?」
「いやぁ、そうだったそうだった。ありがたいねぇ。ゴチになりますわキリカさん?」

 続けざまに、佐倉杏子がわざとらしい大仰なしぐさで呉キリカの前に歩み出し、小首をかしげて笑う。
 キリカは頬を引きつらせる。

「んん!? 私が約束したのは、恩人たちだけだったはずだが!?」

 だがキリカの反駁は、即座に隣にいる白髪の令嬢――、美国織莉子にとがめられた。

「あら、キリカは恩人2人にだけクレープを買って、私には食べさせてくれないの? 悲しいわぁ、しくしく」
「な、な、何言ってんだい織莉子! もちろんそんなことあるわけないじゃあないか!!」
「じゃあ他のみんなには? 仲間外れを作るのは不公平じゃない?」
「うおおお、お前らさっさと好きなクレープを選べぇぇぇぇ――!!」

 呉キリカは半ばやけっぱちに財布を取り出し、佐天や雁夜含めたその場の人々に、手当たり次第にクレープをおごり始めていた。
 その様子を眺めて、彼女を焚きつけた本人である美国織莉子は柔和に微笑んでいた。

「うふふ、本当、成長したのねぇキリカも……」
「私としては、あなたと敵対せずに済んで本当に良かったわ。美国織莉子」

 暁美ほむらが、そんな織莉子の隣に立って息をつく。
 別世界線では、ほむらと不倶戴天の敵同士であった美国織莉子は、そんな彼女の様子にいたずらっぽく笑う。

「ええ、私の未来視が、ここまで覆されたんだもの。もう、鹿目まどかさんを狙う必要なんてないわ。ねえ、歌人・焔君(ほむらのきみ)さん?」
「……発売からそんなに経ってないのに、もう私の話のそんな所まで読んだの? まどかの前なんだから、やめてくれるかしら」
「あら、私あなたの歌好きよ? 『いくたびや、闇夜も恋ひし、あらたまの――』」
「やめなさいって言ってるでしょう!?」

 既に『ヒグマ・ロワイアル』を最後まで読み切り、暁美ほむらや呉キリカのあんな話やこんな話まで堪能していた美国織莉子は、彼女の狼狽える様を見て愉悦に浸るばかりだ。
 思わず喪服のワンピースと第二種軍服の翼を持つ魔法少女衣装に変身してしまうほむらの頬を、球磨が横からむにむにと引っ張る。

「え~、相変わらずツレないクマね~。そろそろ伝えてあげても良いんじゃないかクマ~?」
「……ふぁひをひているのかふぃふぁ???」
「見ての通り、ほむらの頬を引っ張っているクマよ」
「ああ、それあのシーンの再現ね球磨さん!? これはエモいというやつね~? そう思うでしょうほむほむさん?」

 爆笑する美国織莉子に、暁美ほむらはわなわなと震えた。
 頬を引っ張る球磨を引き剥がし、ほむらはまどかの肩を掴んで必死に言い聞かせる。

「ええい、まどかは絶対『ヒグマ・ロワイアル』は読まないでね!? 良い!? とんでもなく恥ずかしいんだから!!」
「ほむらお前デーモンにも言われとったじゃないかクマ~。なんなら直接言えばいいのに~」
「あはは……、なんなら私も円環の理としてちょっとは参加してたんだけど……」

 鹿目まどかは照れくさそうにはにかんで、もじもじと指先をいじった。

「ほむらちゃんにも杏子ちゃんにも、因果の力をだいぶ持っていかれちゃって、ただの魔法少女になっちゃったのが申し訳ないくらいだし…」
「良いのよ! 世界の理なんて、まだ私たちが背負わなくても良い!」

 まどかの呟きに、ほむらは一気に声音を固くして言い切る。
 手を取り、両手の指先を絡め合わせる。


「今は、大人たちにしっかり任せて、考え、監査し、改善案を提示し……。その時が来てから、引き継ぎましょう。一緒に……!」
「……うん、ほむらちゃん! 今度は、ずっと一緒にね!」

 にっこりと笑う鹿目まどかの笑顔は、眩しかった。
 そして、かつてあった世界では遂に叶うこともなかった願いが、まどかの口をついた。


「ママや、みんなと、お酒を飲んで楽しめるくらいに、なってから――!」


 球磨が、まどかとほむらの二人を、まとめて勢いよく抱きしめる。

「これからは優秀な秘書艦も仲間もいるクマ。大変なことは、くれぐれも抱え込まずにみんなで挑むクマよ~!」
「……ええ!」
「ちなみに~、熊本は球磨焼酎が有名クマ~! ほむらも、まどかちゃんも、飲めるようになるのが楽しみクマね~!」
「気が早いわよ、球磨……。でも……」

 ――『あしひきの、山橘の、色に出でよ。語り継がれて、逢ふこともあらん』

 そう贈られた歌を思い出し、暁美ほむらは言葉を紡ぐ。
 真昼の空に、薄く月が見える。
 自然と笑顔が、浮かんだ。


「……ありがとう。みんなのおかげで、私はようやく進めるわ……。未来へ……!」

 ――『いくたびや、闇夜も恋ひし、あらたまの、月はまどかにみちゆくものぞ』

 今ようやく、ほむらの願った月は、満ちた。


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 その時、『円環の理』の役割を担っているその者たちは、まだ本州に居た。

「やれやれ、明治からいつまでたっても忙しいですねぇ、サハラ砂漠に黒賀村に神浜、見滝原……。世に絶望の、タネは尽きまじ、といったところですか」
「ま、夕刻の飛行機にゃ間に合いまさぁ」

 巨大なミイラのような獣が、霞のように消える。
 白金と黒赤の魔法少女2名の前で、真黒に濁った四角い石がバラバラと散らばる。
 それらは白金の魔法少女の胸についた、武田の雅桐紋が浮き彫りにされた、金のブローチに吸収されていく。

 端々が金糸で縁取られた純白のジャケットに、金のリボンが裾を止めるシルクハット。
 胸元には紫のシャツが覗き、補色を締めるように金のスカーフが巻かれている。
 腰から下には、上品な金色をベースにしたチェックのプリーツスカートと白いソックスに、革靴。
 キルト礼装のような服装の魔法少女である彼こそ。
 当代『円環の理』――、武田観柳である。


「まあ、その過程で、白金(バイジン)さんとかアリナ・グレイさんとかいう方々と懇意になれましたし、おかげさまで会社も設立できましたし、『自動浄化しすてむ』も安定して運用できるようになりましたんで、いいんですけどね……」
「ドッペルシステムが機能してる街は良いんですが、まだまだ野良の魔女は多いですし、機能しててもこうして、『魔獣』とやらが出現しだしましたしね」

 彼の愚痴に応じるのは、黒いコートの魔法少女だ。
 コートは裾の短い真っ黒なトレンチコートになっており、ウエストがきっちりと絞られている。
 そのボタンは血のように赤く、首もとの赤いネクタイと共に、コートの黒さとコントラストを作っていた。
 両手にも黒い革手袋がはまっており、左の手袋の甲には、歯車の形をした灰色の宝石がついている。
 腰から下を見やれば、コートの裾から、だぼだぼのワイシャツがフレアのように溢れている。
 靴はそのタイツと一体になっており、先端が尖って反り返り、赤いアンクレットのついた、道化のもののよう。

 巨大な道化師のような人形を操作して『魔獣』を撃滅していた彼は、阿紫花英良であった。
 彼との会話で思い出される直近の取引に、武田観柳は頬を掻く。


キュゥべえさんと、絶望回収の按分については取引契約を更改したばかりですからねぇ。
 もう少しこちらの手駒……ヒグマ共和国の方々の状況が安定してから、強気に出たいところです」
「あの宇宙猫さんは、そうやすやすとこちらの主張に再譲歩してくださいますかねぇ?」
「まあ、そこをなんとかするのが、実業家としての腕の見せ所です。伊達に明治から生き残ってません」

 武田観柳は既に、インキュベーターたちに対し、魔力と希望資産の取引に関する魔術的な契約書面を作成し、人類とインキュベーター間における修好通商条約を締結していた。
 これまで、インキュベーターの機能を願いの契約で強引に奪い、希望資産の取引を無理矢理管理下に置くことに成功した魔法少女たちが、別世界線での『円環の理』となっていた事例はある。
 だが、実際に知的生命体としてインキュベーターと同じ土俵に上がり、ナメられることのない関係を築くことができた事例はこれまでに無い。
 あくまで武田観柳は、商人としてインキュベーターをやり込め、商人として魔法少女のシステムを管理し、循環させる算段であった。
 そうして初めて、魔法少女という存在は、謎の外宇宙生命体に良いように扱われていた家畜ではなくなり、彼らと対等の存在となるのだ。

 観柳は魔獣の討伐が完了した裏路地を歩きながら、連れ立つ阿紫花ににっこりと笑いかけた。

「それにしても案外、大元はあの『試製しすてむ』のまま卸したのが成功でしたね!
 一回使い切りの緊急回避手段というのが、非常によろしい!
 魔法少女の皆さんは全員、何回もこの胸飾りをお守りとして買う、お得意様となってくださるわけですからね!」
「あくどいですねぇ兄さん。何度もドッペル化できるようにすることだって、できたわけでしょう?」
「こっちだって『無料さぁびす』でやってるわけじゃないんですよ。業務提携しているアリナさんの『飼育箱』のエサにはなってますが、苦労して作った装置を、バカガキどもに何遍もタダで使わせてやる義理なんてありません。
 私に限らず、他の調整屋の皆さんだってこういうことで生計たててるんですから」


 武田観柳の形成している現時点での『円環の理』は、鹿目まどかや、環いろはといった者が他の世界線で為した博愛的なものとは一線を画している。
 雅桐紋のブローチを経由して絶望を吸収、黄金の回転で魔力を変換して、HIGUMA細胞にてドッペルを具現化させる方法自体は、別の世界線で形成された『円環の理』と同質のものである。
 だが彼の場合、最低限の生存権の保証はするものの、その保証は有料であり、かつ、万が一更新を怠ったり、連続して絶望したりすれば魔女化は免れない。
 武田観柳も貨幣経済も、そこまで愚か者の面倒は見ない。そんな者は早々に魔女となり経済の肥やしになるべきだと考えている。

 一部の者は怒るだろう。不満を漏らすだろう。
 だが、持続可能なシステムとしては、この形態がベストであると、武田観柳は判断したのだ。
 システムの維持には当然コストが必要だ。
 それをたった一人の少女に押し付けるのか、全員である程度分担するかの違いに過ぎない。
 その程度の摂理さえわからぬ者なら、死んだ方が遥かに世のため人のため――。
 そういう理念があった。

 観柳は今や、白金(バイジン)やアリナ・グレイといった魔女の飼育が可能な業者たちと提携することにより、回収した絶望を養殖魔女に吸収させ、低コストでのグリーフシードの安定供給にまで成功している。
 さらにいくつも絶望の吸収先を分散させることで、万が一誰かが裏切った際のリスクマネジメントにもできている。
 表立っての経営関係も、ヒグマを素手で仕留めた初めてのファイナンシャルプランナーである福田さんたちとも協力しており、観柳のシステムはどんどん発展し、強固なものとなっていった。

 朗らかに笑う観柳に向け、阿紫花はタバコに火を付けながら、ふと浮かんだ疑問を投げかける。


「……ちなみに、あのお嬢さん方への、システムの引き継ぎは考えていらっしゃるんで?」
「そこらへんは追々、彼女たちの成人祝いの飲み会でもしてからでいいでしょう。
 おぼこに任せるもんじゃないですよこんなの。もっと経験を積んでから来ていただかないと」
「ちげぇねぇですわ。じゃあその暁には、盛大に祝ってやりましょうぜ。あの頑張ってきたお嬢さん方を……」

 暁美ほむらからの話を聞いて、武田観柳は今の彼女たちにとてもこんなシステムを任せられないと、強く思っていた。
 そして、未熟ながらもその身を挺して世を守ろうとしてきた彼女たちを、労ってやるべきだとも思っていた。
 クツクツと笑う阿紫花英良は、観柳のぶっきらぼうな言い回しの中に、そんな想いがこもっていることを察する。

 ――なんだかんだ兄さんも、感情資産のやりくりが、上手くなってきたんじゃねぇですかい?

 笑う阿紫花に、観柳も上機嫌に問いかける。

「時に、新しい体の調子はどうですか、半魔女の阿紫花さん」
「あのゲージュツカさんの固定のおかげもあってか、HIGUMA細胞の体もよく馴染んでまさぁ。
 ……観柳の兄さんたちには、感謝してもしきれませんぜ」

 人形遣いの魔女となったままだった彼を、暁美ほむらたちの経験やHIGUMAの技術、協力者たちとの協働で人間に戻せたことが、武田観柳の魔法少女としての事業――『円環の理』の始まりだった。
 彼は今や、武田観柳にとっての貴重な働き手にして商品サンプル。かけがえのない、唯一無二のトップモデルだ。

 阿紫花は里帰りもできた。
 弟妹を魔女から守り、すごい人物の元に就職できたことも伝えられた。
 路地裏に差し込む日差しの中、白いジャケットと金のスカートを翻す、いつまでも若々しい素敵な雇い主。
 その振り返った眼鏡の奥に覗く微笑みが、阿紫花にはとても好ましかった。


「……ならば、改めてこれからも、末永くよろしくお願いしますね、阿紫花さん♪」
「……で、お代はいかほど、いただけるんで?」

 阿紫花英良が、指で輪を作って差し出す。
 観柳はにこやかに、今夜ヒグマ共和国で開催される、ライブのチケットを取り出していた。


    □□□□□□□□□□


「涙子――!」

 呉キリカに、佐天涙子たちが出店のクレープをおごってもらっていた時、そこに大きな声で駆け寄ってくる一人の艦娘がいた。
 角のようなヘッドギアと、新調した左目の眼帯が目立つその少女は、天龍だった。
 白いノースリーブシャツに、ストライプのあしらわれた黒いプリーツスカート。
 ファーコートを着崩したスタイルで、艤装の刀も新たに引っ提げて、まるっきり『改二』といった風情だ。

「天龍さん! 栄転おめでとうございます!」
「ほんっとう、よくやったなお前は! 偉い! 偉いぞ!!」
「て、天龍さん、それはもう当日に何度も褒めてもらったって……」

 佐天に会うや否や、天龍は彼女に抱き着き、より豊満になったその胸部装甲に彼女を埋めて撫でまわす。
 天龍はあの騒動以降、正式にヒグマ島鎮守府の第一艦隊旗艦として転属になっていたのだ。
 そんな天龍に向け、間桐雁夜がクレープを佐天に渡しながら取材のマイクを差し出す。


「出会って早々すまない天龍さん。記者として取材させてほしいんだ。
 ――ヒグマ島鎮守府第一艦隊の旗艦としての、現在の江ノ島盾子についての見解をお聞かせいただけますか?」
「……いいぜ間桐記者。じゃあ、ヒグマ島鎮守府を代表して喋ろう」

 一気に真剣な表情になった天龍の様子に、魔法少女たちも含めたその場の全員が、彼女の言葉に聞き入った。


「現在、ヒグマ島鎮守府および海上自衛隊の艦娘を主導として、世界各国の軍事組織に協力を仰ぎ、江ノ島盾子の残存拠点は引き続き掃討中だ。
 研究所に残った通信記録から拠点の位置を割り出し、我々は既にその98%を発見・破壊している。残る拠点も数週間以内に殲滅できる見込みだ。
 その大半は初春飾利氏製作の『対江ノ島盾子用駆除プログラム』にて無力化された後だったが、これまでにザンビア、リビア、マダガスカル、タジキスタン、アイスランドなどの僻地8カ所にて『江ノ島棲姫』の出現を確認している」

 それは佐天涙子にとっても初耳の情報だった。
 あの夜の生放送にて、初春の『対江ノ島盾子用駆除プログラム』は確かに世界中に流れ、ネット上に散らばった江ノ島盾子のデータは粗方駆逐できたはずだった。
 しかし、それでもネットの性質上、完全には駆除できないのも当然であった。
 特に人口密度の低い場所に設置されていた江ノ島盾子の拠点にはプログラムが届いておらず、拠点内に江ノ島盾子の複製体を作らせることになっていた。
 そのため、天龍を始めとしたヒグマ島鎮守府、および日本政府は、騒動の後ただちにその拠点の掃討を始めていたのだ。

「……しかしそれら『江ノ島棲姫』は、基地で培養されていただけの状態で、全て自我を持たず、外にも出ず、掃滅に対して抵抗もしなかった。
 江ノ島盾子の精神、思考がインストールされて活動しているならば、有り得ないことだ」

 だが拠点の掃討時、複製されていた江ノ島盾子は、起動することがなかった。
 その自我は、存在しなかったのだ。
 天龍は拳を握り、顔の前に掲げて雁夜たちに示す。

「……よって、ヒグマ島鎮守府の見解として、江ノ島盾子の精神としての存在は、この世界から完全消滅していると考えられる!」
「ありがとうございます……! それが聞きたかった!」

 間桐雁夜の返事に頷き、天龍は強く言い放った。


「仮に、またHIGUMAやその培養槽なんかを悪用する奴らが出てきたとしても……。
 その時は俺たちがぶっ潰す! そのためのヒグマ共和国防衛省、そのためのヒグマ島鎮守府だ!」

 以前と比べ、天龍は改二になって以降、火力と雷装が上がった代わりにできることが極端に少なくなったのではないかと一部では噂されていた。
 だが彼女は戦闘スタイルをヒグマ島流に一本化しただけのことである。
 純正の艦娘の中で、羆製強化型艦本式缶ないし羆製新型高温高圧缶を扱い切れるのは、もはや彼女しかいなかった。
 その強烈な高圧水蒸気を以て揮われる『天龍峡十勝』の近接戦闘術のキレがあれば、尋常の火砲や艦載機など、彼女には無用の長物であった。

 佐天や魔法少女たちは、天龍の力強い発表に、思わず拍手していた。
 あの夜の戦いが、完全に報われたのだと、改めて実感させられる。
 その時、彼らがたむろしていたクレープ屋台の隣、『龍田揚げ』の屋台から声がかかった。


「――本当、天龍さんたち鎮守府の人はいつも頑張っててすごいんですよ~、間桐さん」

 聞き覚えのあるその声に、雁夜たちはびっくりしてそちらに振り向く。
 屋台から手を振っていたのは、三つ編みおさげの少女、田所恵だった。
 あの日、ゴーヤイムヤ提督の胃石砲を受けて死んでいたはずの彼女の姿に、間桐雁夜は驚愕した。

「恵ちゃん!? どうして!?」
「いやぁ、すごいですよね。布束さんたちのHIGUMA細胞の研究の賜物ですよ。
 私の場合、シーナーさんや杏子さんと同行してたじゃないですか。だから、私の魂の記録が、残ってたんですって!」
「そうそう。それでクソ忙しいんだよアタシ」

 恵の言葉を受けて杏子が笑う。
 現在この島では、佐倉杏子に移譲された『治癒の書』に記録された魂を元にして、亡くなった人々を蘇らせる研究が進められていたのだ。
 佐倉杏子、佐天涙子、夢原のぞみたちが成し遂げた、相田マナの復活再生と同じ手法を確立させる研究だ。
 そうして、残った体組織の情報からHIGUMA細胞にて復元され、魂を戻された研究成果の一人が、ここにいる田所恵なのである。

 佐天涙子に向けてカップ入りの龍田揚げを差し出しながら、彼女は笑いかけた。


「もうすぐ還って来れると思いますよ。白井黒子さんも!」


    □□□□□□□□□□


 そうして、屋台通りの中で一行が盛り上がっているところに、さらに涼やかな声がかかる。

「初めまして~。ルポライターの間桐さんね~?」

 天龍の隣に立ち止まった少女の姿に、一行は目を見開いた。

「天龍型二番艦の、龍田です~」
「……た、龍田さん!?」

 紫がかった尼削ぎの黒髪。
 天使の輪のような艤装を頭上に浮かべ、胸元を強調した黒いワンピースに、細く鋭い薙刀。
 あまりにも見覚えのあるその艦娘は紛れもなく、その身を賭してこの島から一行を外へ脱出させてくれた貢献者、龍田であった。

 だが彼女は、一行に特別の関心を示さず、ただ微笑みを崩さぬままに間桐雁夜を招くだけだった。


「大統領から、島の現在の設備や環境を、間桐さんにご案内するよう仰せつかってます~。どうぞこちらへ~」
「あ、ああ……」

 雁夜は、心の整理も理解もできぬままに、ただ彼女の言葉に引っ張られて、島の中心部へ案内されていった。
 二人の後姿を呆然と見送っていた佐天涙子は、しばらくしてからようやく天龍に向けて口を開いた。


「天龍さん……、あの龍田さんって……?」
「……新しく、この島で『建造』された龍田だ」

 佐天の問いに、天龍は目を伏せて答えた。
 恐る恐る、質問を繋ぐ。

「記憶は……?」
「……球磨は、なんか記憶の記録媒体を持ち帰ってもらってたんだって?」

 その質問に直接答えず、天龍は球磨に話を振った。
 球磨は暁美ほむらと鹿目まどかを抱きしめたまま、神妙な表情で言う。

「おう、そうだクマ。Disc入れてもらうまでは、この島のことなんかロクに思い出せなかったクマけどね」
「……そういうことだ。そういう奇跡でも起きない限り、基本的に新造された艦娘に、記憶は引き継がれねぇんだよ」
「そんな……」

 天龍たちの静かな声に、佐天は息を呑む。
 ――目の前でヒグマを道連れに死んでしまった想い人が、記憶の無い状態で再び現れる。
 それは間桐雁夜にとっては、かなり辛い仕打ちなのではないだろうか。

 佐天涙子が考え込んでいた時、その隣で天龍は、思わず口の端に笑みを浮かべていた。


「……ま、奇跡なんて、起きまくってるがな」
「え、なんて?」


 その呟きを、佐天は聞き逃した。
 天龍は話題を変えようと顔を上げ、暁美ほむらたちに問いかける。

「そういや智子は公演に来ないのか? あと星空凛も。あいつこそ本職のアイドルなんだろ?」
「黒木さんはイギリス……、そして凛も、どこかの島に行ってるらしいわ。なんて言ったかしら、確か、パラディ島……?」

 疑問を投げた天龍に対し、球磨に頬ずりされながら暁美ほむらが答える。
 佐倉杏子と巴マミがそれに続けた。

「夕方の便でギリギリに来るんだっけ? それはあの円環の商人さんと、れいの友達とかか」
「星空さんたちはライブ期間の後半で合流する予定よ」

 マミは携帯の画面を開き、ニュース中継をみんなに見せる。

「ほら見て、ちょうど今、星空さんが国際ニュースで取り上げられてるわ」
『――エルディア国との国交正常化記念のライブが開催されます。主役は元スクールアイドルの星空凛さんで、彼女はヒグマ共和国独立にも貢献した立役者として知られ――』

 報道される画面には、欧風の街並みと人々に囲まれ、手を振り歌い踊る星空凛の姿があった。
 彼女はただ身一つで、この島で勝ち得た事から、その未来を彫り出した。
 履歴を綴り替える威光が、彼女のパフォーマンスの端々に輝いていた。

「今日は各地を中継しての、世界を繋ぐ一大ライブなのよ!」

 それは星空凛を始めとした、『ヒグマ島とりマなメ』の願いによって遂げられた、大イベントであった。


    □□□□□□□□□□


「浅倉の戦いの一部始終を見ていたが……、あれはすさまじかった。あいつは、あの江ノ島盾子と同じ能力を持ってたんだ。
 あいつは、江ノ島盾子に、勝ってた。あれは江ノ島盾子の負けで、浅倉の完全勝利だった」
「うん……」

 佐天と天龍は、ライブの観客となる魔法少女たちや、出演者である巴マミとも別れ、いったん研究所のある島の中心部へ向かっていた。
 お互いにクレープと龍田揚げをつまみ歩きながら、あの夜の戦いを思い出す。

「あいつと江ノ島盾子の差をわけたのは、涙子、お前や俺たちとの出会い……、そして那珂との出会いだったんだと思う」

 楊枝の先の龍田揚げを呑み込み、天龍は佐天に語り掛けた。


「あいつはもしかすると、江ノ島盾子と同じように、俺たちの敵として絶望を振り撒いてた存在だったかもしれねぇ。
 だが、この島での出会いで、あいつも変わったんだ。だからこの島を守るという一点で、俺たちはあいつと協力できた。
 本当に、誰一人欠けても、俺たちはこの未来に辿り着けなかった……。全員が全員のできることをやり切った結果が、この奇跡なんだと思うぜ」
「そうね、本当に……」

 工藤健介、左天、皇魁、ウィルソン・フィリップス、北岡秀一司波深雪――。
 あの島の戦いで、佐天の師といえる年長者は数多くいた。
 その中でも、最後の師とでもいうべき存在であったのが、浅倉威子だった。
 本当に短い共闘ではあったが、佐天涙子が人間としての自分を取り戻し、また、最終的にミサイルを撃墜することができたのは、浅倉との関わりがあってのことだった。

 天龍から改めて伝え聞く浅倉の戦いの一挙手一投足は、思い描くだけでも心惹かれるものだった。
 李徴たちの記したドキュメンタリーでは、方々で人やヒグマを蹂躙していた浅倉の悪行も詳細に記載されていたし、黒木智子は最後まで彼を許してはいなかったが。
 佐天には、彼が本当に心から、この島の一日を楽しみ抜いていたんだろうということが察せた。
 その純粋なパッションに満ちた姿が、いつまでも脳裏で目映い。
 ……智子に言ったら、「お前はヒグマモンスターだった時のヤツに会ってねぇからそんなこと言えるんだよ!」と言われそうだが。


 クレープをほおばる。
 道産の生クリームとブルーベリーの甘酸っぱさが、口いっぱいに広がる。
 ――クレープ屋さんで友達と、おしゃべりできる日々に辿り着けたのは、本当にあの人たちのおかげだった。
 感慨で言葉数も少なくなってしまう佐天たちの前に、その時、聞き覚えのある男性の声がかかった。

「おう、天龍ご苦労。涙子もいっしょだったか」
「よう、提督のおっさん、お疲れ。探してたぜ。そろそろ俺たちも会場警備の交代の時間だ」

 跳ね上がった短い白髪に、額に埋め込まれた仏の白毫のような水晶。
 その両腕には、ごつい金属のガントレットがはまっている。
 袖も通さぬ軍服をマントのように羽織った筋骨隆々たる青年が、二人に向けて手を挙げていた。
 研究所の方向からやってきたその男性に、佐天は晴れやかな笑顔を向ける。

「おじさん、どうなの仕事の調子は?」
「まぁ、おかげさんで割と順調にやってるよ。お前の親族ってことにしたら、受け入れもすんなりさ」
「おじさん直々に会場の警備とは。これはライブも安泰だね」


 ――『ヒグマ共和国防衛大臣 ヒグマ島鎮守府総司令官 佐天アダム』。
 佐天涙子と朗らかに会話するその青年の軍服の胸には、そんな名札がつけられていた。

「おじさんにまた会えるなんて……、本当に夢みたい。あの日死んじゃった人に、少しでもこうして会えることが」
「死んでねぇよ。俺は『お前と第六波動で戦った後、異次元に閉じ込められていたが、お前がミサイルを焼き尽くした時に起きたアルター粒子の奔流で、また現世に戻ってこれた』んだ。
 『そういうことになった』んだ。それ以外のなんでもねぇ」
「あはは、そうだったわね」

 彼、佐天アダムは、アダム・アークライト――、この島には左天として連れてこられ、そして佐天涙子との精神世界での戦いの末に、消滅していたはずの人物であった。
 そんな彼は、佐天涙子と笑い合って、感慨深く空を見上げる。

「まあ、聖杯さまさまだな。『全能者』にはなり損ねちまったが……」

 ヒグマ島の聖杯の効果か、彼は『別に死んではいなかった』ことになった。
 それほどの力が、やはり聖杯にはあったのだ。
 当初目的としていた『全能者』になるチャンスを逃したことが惜しい――、アダム・アークライトにはそう思う気持ちがあったような気もした。
 だが、今の彼は、目の前で楽しそうにしている佐天涙子と天龍の姿を見て、顔をほころばせる。


「……ま、別にもう、元の世界に帰らんでいい気もするしな」
「そうだよ。俺たちの統率を取るには、せめてあんたくらいしっかりした提督が居てくれねえと困るんだからよ」

 天龍が、肘で彼の外腹斜筋を小突く。
 アダムはそんな秘書艦に軽く笑い、佐天涙子の背をたたいた。

「ほら、そんなことより、涙子はまだこっちに用があるんだろ? 俺にかまけてねぇで行ってこい!」
「じゃあまたライブの後でな! 涙子!」
「うん! ありがとう、おじさん! 天龍さん!」

 ライブ会場の方へ向かうアダムと天龍に手を振り、佐天涙子は研究所の方へ駆けてゆく。
 その快活な少女の姿を見送りながら、アダム・アークライト改め佐天アダムは、満足げに腕を組んだ。

「『アツユ』も『独覚』も、乗り越えたんだな……。俺の心配なんて、はなっから不要(ニードレス)だったってわけだ。
 至れる者よ、至れる者よ……、成就めでたし……!」


    □□□□□□□□□□


 島の中心部の研究所――。
 かつてスタディの本拠地であり、ヒグマ帝国の中央部であり、そして今、ヒグマ共和国の中枢となっているその地下区画には、共和国の大統領とその顧問がいた。

「Excellent、とても似合ってるわ。先ほどの会見もとても素晴らしかったわよ、アリサ」
「……ビショップとお呼びくだサイ……。まだその名前にも立場にも、全く慣れマセン……」

 顧問である布束砥信に、会見を終えたばかりの大統領の少女は、そう言って照れくさそうに指先をいじる。


「Why not? その礼服も名前も、とても可愛いわよ。アリサ・ビショップ初代ヒグマ共和国大統領?」


 その少女は、何を隠そう穴持たず203・ビショップヒグマである。
 スライム状になって水と同化できる能力を持つ彼女は、人間型のヒグマのプロトタイプでもあり、能力を完全に解除した状態では人間の少女と遜色ない姿だった。
 蒼いウェーブのロングヘア。はにかむ唇には八重歯のように牙が覗く。
 服装は基本的にはネイビーのレディーススーツであったが、布束砥信のチョイスで、トーク帽やブラウスにはかなり大きめのフリルがつくなどして、可愛げも演出している。
 彼女のアリサという名前は、穴持たずとしての番号・二〇三(アーリンサン)から、李徴に名付けてもらったものだった。

「布束さん! ビショップさん!」

 彼女たちの元に、地上から降りてきた佐天涙子がやってくる。
 華やいだ彼女の声に、布束は軽く、ビショップは恭しく挨拶を返した。

「Long time no see、佐天涙子。元気そうで何よりだわ」
「お久しぶりデス佐天涙子サン。改めて、この島を守って頂キ、ありがとうございまシタ……!」
「そんな堅くならないで……っていうか、ビショップさんってめっちゃ可愛くて美人だったんですね!!」
「エエ!?」
「中継で見てても思ってましたけど、実物は本当、より一層かわゆいですよ……!」

 人間形態のビショップを初めて見た佐天は、興味津々で彼女を様々な角度から眺めやる。
 ただでさえ恥ずかしさと緊張がつのっていたビショップは、それで一層赤面した。

「ほら、私の言った通りでしょう。あなたは人間基準ではとても美しくて可愛いのよ」
「いや、ソンナコト、言われマシても……」

 布束からの追撃に、ビショップはもじもじと身じろぎしてしまう。
 そんな彼女の奥ゆかしい仕草に、佐天の鼻息はさらに荒くなる。

「もったいないですよ! もっと世間に露出させていきましょうよ、ヒグマ共和国大統領の良さみを!!」
「Totally。あなたは今や、この国最大の広告塔と言っても過言ではないのよ。それも仕事だと思いなさい」
「エエイ、私の話は今どうでもイイでショウ!? ハイ佐天涙子さん、さっさと目的の場所に行きマスよ!!」

 二人からの言葉攻めを無理やり切り上げ、ビショップは研究所の中を先導した。
 あの戦いの時に地下に入ることのなかった佐天は、初めての空間に興味深げにあたりを見回す。

「島の地下ってこんなにすごかったんですねぇ」
「共和国の中枢機関としてきちんと機能するよう、地下空間はカーペンターズにかなり改修してもらっているわよ。
 ヒグマ帝国として作られた構造はだいぶ破壊されてしまっていたから」

 地下からライブ会場側に向かいながら、佐天涙子は、布束とビショップに、研究所の培養槽の一室に案内される。
 果たしてそこに、彼女の目的の人物は、いた。


「白井さん――!」


 それは佐天涙子には、かつてケミカロイドのジャーニーを、フェブリや布束と共に助け出した時の情景にも、重なって見えた。
 培養槽の中には、薄桃色の長い髪を揺蕩わせた少女が浮かんでいる。
 間違いなく、あの日の戦いで亡くなっていた友人、白井黒子その人だった。
 布束砥信は、培養槽の表面に触れながら、感慨深げに語る。

「彼女は、佐倉杏子が今保有している、『治癒の書(キターブ・アッシファー)』に魂の記録があった。
 ベースとなる体組織の情報なしに、完全にHIGUMA細胞のみで復活させる初めての人物だけど……。
 まあ、江ノ島盾子にすらできたのだから。あと数日の調整で、恐らく問題なく復活できるでしょう」
「よかった……! あとで御坂さんにもしっかり伝えないと……!」

 佐天涙子はこぶしをぐっと握り、目を潤ませた。

 白井黒子は、田所恵たちから始まった、この島での死者蘇生計画の、第二段階の先駆けだった。
 魂と組織が両方残っていた者たち以外にも、組織だけ、魂だけからでも、その者たちを甦らせられないかという研究だ。

 きっかけは、制裁ヒグマが島内の各所に丸太や石板で作っていた、参加者たちの墓だった。
 その墓のいくつかには、あの制裁ヒグマが誦じ続けていた文言も刻まれていた。

『思いやりをもって(AKAHAI)』
『助け合おう(LOKAHI)』
『喜びの方へ('OLU'OLU)』
『謙虚に(HA'AHA'A)』
『信念を貫け(AHONUI)』

 この墓のおかげで、人知れず散っていった者たちの最後の所在が、かなりわかるようになっていた。
 佐倉杏子の探知能力とも協力し、その捜索はかなり進んで来ている。
 グリズリーセイバーエンジン内部や、その墓などに残っていたわずかな組織から、再生・復活させられる見込みのある者たちが何人もいたのだ。
 この計画は、ヒグマ共和国の贖罪でもあり、再生医療への大きな貢献でもある、一大事業であった。
 HIGUMA細胞を学術的に利権的に守る、研究所と鎮守府の両輪が、この国を支えているのだ。


「みんなお疲れ様~。出前のラーメン届いたよ~」
「有冨さんオススメの味噌ラーメンのお店、ライブ期間中の出店だけじゃなく、この島にも分店出して下さるって!」

 培養槽の前でそんな感慨にふける佐天たちのもとに、少女2人の声がかかる。
 四宮ひまわりと黒騎れいが、研究所の中に差し入れを届けに来たのだ。

「あ、佐天さん来てたんだ。せっかくだから多めに注文しておけば良かったわ」
「あ、いいよいいよ黒騎さん。私さっきクレープとか龍田揚げとかおごってもらったんでお腹すいてないし」

 ラーメンの岡持を手にした黒騎れいが、佐天の姿に気づいて驚く。
 佐天は気楽に手を打ち振った。

「というか二人とも、研究所に入り浸ってて大丈夫なんですか?」
「まあ、卒業後もここに就職させてもらえれば安泰かなって」

 四宮ひまわりはデスクに向かって、さっさと自分の分のラーメンを食べ始める。
 一方の黒騎れいは、布束とビショップにラーメンを渡しながら少し考えた。

「私は元の世界に戻ることも考えたけど……、こっちにはあかねちゃんもひまわりちゃんもいるし。まだしばらく、ここに居たいかな」

 胸元にさがった家のカギに触れ、れいは静かに思いを馳せる。

「……たぶん、私たちの行いを、高次の存在はずっと見守ってくれてる。今の私たちは、とても応援されているんだと思うわ。
 だから今は、できることを精一杯やって、この島を見守ってくれるみんなの想いに、応えたい!」

 佐天涙子たちを前にして、黒騎れいは晴れやかな表情でそう腕を広げた。
 彼女の言葉に、佐天もあの日、ミサイルを撃墜した時のことを思い出す。

「そうですよね、応援……。私もあの時感じたな……。いろんな人に支えてもらってたんだってこと……」
「生存者の願いが、みな、本当に少しずつ叶えられたんでしょうね」

 布束砥信が全員にお茶を配りながら、あの日から今までこの島に起きてきたことを思い返す。

「進化や変化は本来、こうして少しずつ、ゆっくり起きていくものなんだわ。これでも、良い方向の変化が起こりすぎなくらいだけど。
 まあそれが聖杯の効能なんでしょうね……」

 そして彼女は、ふと思い出したように研究所の壁を見やった。


「そういえば司波深雪は、結局うまく司波達也と一緒に『英霊の座』に収まったのかしらね」
「そうあってもらわなくては困りマス……。『シロクマさん』と『シバさん』は、島の守り神、建国のご本尊として祀り上げてるのデスから……」

 布束とビショップたちの視線の先。
 研究所の壁に設えられた神棚。
 そこには、かつてイソマであり司波深雪であり百合城銀子でありヒグマ島の聖杯であった、クマのレリーフが刻まれた金の杯が鎮座している。
 その杯の上には、ガネーシャのように、白いクマと黒いクマが抱き合う像が祀られていた。
 誰が言うでもなく、彼女たちはそこを見つめて、暫く両手を合わせて祈った。

 その時、通路の奥から、ガラガラという何かの騒音が響く。

「ひょええ……」

 そちらを見やれば、台車に載せていた放送機材が一部崩れてしまったようだ。
 それを運んでいたヒグマが、焦りながらもう一度機材を載せなおそうとしている。
 見覚えのあるその情けないヒグマの姿に、佐天涙子はギョッとした。


「――ヒグマ提督!?」
「何やってるの関村。今まで迷惑かけ続けた分、しっかり働きなさい」
「はいぃ――」

 布束砥信が、ラーメンをすすりながらそのヒグマを叱責した。
 声を上ずらせて作業する彼のもとには、さらに何人かの艦娘たちも荷物を運びながらやってくる。

「ヘイ、提督――! ファイトー!」
「てーとくおっそ~い」
「ほらさっさと片しなさいよ。那珂のライブに間に合わなくなるでしょ!」
「Admiralは少し規律が緩んでいるようねっ! 私が一から教えてあげるわ!」
「本当、何やってんの? 爆撃されたいの?」

 艦娘たちに、足蹴にされたり応援されたりしながら奔走するそのヒグマは、佐天にとっては百貨店の混戦以降、とんと姿を見ていなかった者だ。
 武田観柳の点呼の際にも居なかったため、とっくにどこかで野垂れ死んでいるものだと思っていた。
 というかそもそも彼の行方などほとんど気にもしていなかったのだが。
 佐天は呆然とした心を落ち着けるために、一口お茶を飲んだ後、急速に振り向いて布束に尋ねていた。


「え? ヒグマ提督って布束さんの同僚だったんですか?」
「ええ。ヒグマになった時に記憶喪失になってたからあんな状態だったんですって。本当どうしようもない男だわ。
 散々迷惑をかけてくれた分、今はアダム・アークライト……、いえ、佐天アダムの下で、キリキリ働いてもらってるわ」

 惜しいことに、巨大化したカラスに布束がトドメを刺す際、中に吸収されていた関村まで殺す前に、カラスが死んでしまったのだ。
 そのため、ビビッド・クリティカルの一撃は関村には寸止めの状態となり、関村は瀕死のままC-6に放置されていた形になる――。
 そう思い返しながらしかし、布束はこめかみを押さえる。

「……Not true、本当はあいつも死んでいたはずなんだわ。でも、『生き延びたことにした』のは……、きっと、私なんでしょうね……」

 『生存者の願いが、みな、本当に少しずつ叶えられた』のならば。
 その、わずかな可能性を現実に変えたのは、恐らく布束の意志以外になかった。
 あんなどうしようもない同僚でも、もう彼女はこれ以上、同胞に去って欲しくなかったのだ。

 そんな中、最後に荷物を運んでいた二人の背の高い艦娘が、佐天に気づいて歩み寄ってくる。


「佐天涙子さんですね。いつも、ありがとうございます。そして布束さんも」
「こんにちは佐天涙子さん。いい天気ですね」
「あなた、もしかして、大和さん……!? あと扶桑さん!?」

 挨拶してきたその両者の面影は、確かに佐天にも覚えがあった。
 戦艦の艦娘である大和と扶桑は、運んでいた機材を置いて深々とお辞儀をする。

「はい。以前の私がこの島でどうしていたのか、それは話でしか聞いておりませんが……」
「大和さん共々、皆様には大変ご迷惑をおかけしたようですので、今生の私からですみませんが一言陳謝をと思いまして……」
「あ、いや、過ぎたことですしそんな畏まらないで……」

 誠心誠意の言葉に、佐天の方がむしろ恐縮してしまう。
 戦艦ヒ級としての姿しか知らなかった大和は、ポニーテールが笑顔に眩しい。
 扶桑も、絶望シスターと同行していた時の彼女とは比べ物にならないほど表情は明るい。
 彼女は佐天涙子の手を取って微笑む。

「この島で起きたことは、本当にかすかにしか思い出せませんが……。『あの炎の中で、ほんの少しでもあなたの助けになれたこと』は、私の誇りです。
 だから、そこだけは私も覚えているんです……。きっと『むくろさん』も、喜んでいるでしょう」

 扶桑の言葉に佐天は、わたしじゃない月のわたしに陥っていたあの昏迷の夜を思い出す。
 心肺停止の全身熱傷の状態から彼女が復活できたのは、扶桑や戦刃むくろたちが、己の身を顧みず輸血してくれたからに他ならなかった。
 そうだ。
 扶桑たちは、佐天涙子の中で、確かにほんの微かにだけ生き残っていた『生存者』だったのだ。

 それならば、もしかすると――。

 黒木智子が抱き続けていた、クリストファー・ロビンや。
 また、暁美ほむらや巴マミや星空凛たちと一緒にいた様々な人たちも……。
 もしかすると、みな『生存者』である可能性が、本当にわずかに存在しているのではないか。
 彼らから受け継いだものがある限り、彼らはみな、生きているのではないか――?
 そんな考えが、佐天の脳裏をよぎった。


「連合艦隊の旗艦を務めるよりも、敵戦艦と撃ちあうよりも……。今、こうしている時が私は一番好きです。
 大和は……、この未来をもたらして下さったあなたたちに、ずっと感謝しています」

 戦艦大和は、紅白のセーラー服の胸に手を当てて佇み、しみじみとそう感慨を述べた。

「絶望を乗り越えて、こんなにも空の青さを楽しめるようになったのは、皆様のおかげです」
「ありがとうございます。私たちを――、『わたしを殺さないで』下さって」

 佐天と布束にもう一度頭を下げた扶桑と大和は、そうしてヒグマ提督の元へと去って行った。


    □□□□□□□□□□


 そのころ、イギリス郊外。
 アッシュダウン・フォレスト――別名『100エーカーの森』。
 そこには、森の仲間たちと一緒に、草野球に興じる少年がいた。
 彼らの元にその時、下草を踏んで訪れた、誰かの足音が届く。

 知らない足音に、少年たちはボールを投げる手を止めて森の入り口を見やる。
 一人の少女が、歩み寄ってくる。
 朝の陽ざしに、彼女の姿が目映く照らし出される。
 白いサマードレスに、麦わら帽子をかぶった、東洋の黒髪の少女。


「……時計塔の連中とやり合ってたらこんな時間になっちまった。魔術師どものしがらみになんて関わりたくねぇのによ。
 ロードエルメロイの引継ぎなんかテメェらで勝手にやれってんだ、まったく……」

 その少女を一目見た瞬間、少年の心は、奪われていた。
 オリエンタルで謎めいた、長い黒髪の美少女。
 その髪と麦わら帽子から覗く、大きな碧の瞳。
 細く美しい、白魚のような指先。
 白いワンピースの袖に裾にひらめく、華奢で伸びやかなその肢体。

 森の仲間たちと熱闘殺し園をしている場合ではなかった。
 少年は、自分の中の性癖がごりごりに歪んでいく音を聞いた。
 まるで目の前の少女を王女のように讃えるコールが、自分の奥底から鳴り響いているかのようだった。


「まあ、こんだけ縫い綴じられて歪んだ新しい世界でも……。
 お前をライブに誘うのには間に合ったから、よしとするか。クリストファー・ロビン」


 その少女には、今のこの世界が、自分の元居た世界とはわずかに異なっていることがわかっている。
 『Fate』も『HELLSING』も、彼女にとっては創作の中のものだったというのに、聖杯のおかげで今のこの世界は、あのヒグマ島に関与した全ての世界が繋がり合ったような形に再構成されてしまっている。
 今、彼女の目の前にいる少年が、『ヒグマ島に誘拐されなかった可能性』の彼であることも、わかっている。
 だが、そんなことは今、ささいだ。


「あなたは……、お姉さんは、どなたですか?」


 こんな美しいお姉さんに、どうして僕なんかが声を掛けられてるんだ――?

 少年、クリストファー・ロビンの脳裏に、どこか懐かしいデジャビューのような光景がよぎる。
 夢の中で、会った、ような。
 涼やかな彼女の声に、聞き覚えがあるような。
 あの赤化(ルベド)に染まった森の中で、確かに誓ったような――。

『僕の王朝で……、どうか、僕の、お妃さまに……』
『頼む、ロビン……。私の中に……、お前の命のひとかけらだけでも……、息づいていてくれ……』

 どきどきと、胸が高鳴る。
 幼い体に余るほどの感情が、胸の奥のどこかから溢れ出てくる。

 黒髪の少女は、サマードレスの裾をはためかせ、腕をクロスさせ、自信満々にポーズを決めた。
 その指先には、護符のようにライブの関係者優待チケットが挟まれている。


「――黒木智子。お前のアイドルだよ、ロビン」


 彼女は、ロビンの脳裏の少女よりも、より一層美しく煌いて見えた。
 それは理想よりも、さらに20%くらい――。

 自分自身の、自分だけのものを、彼らはその時、ようやく見つけられたような気がした。


    □□□□□□□□□□


 間桐雁夜は、上の空だった。
 龍田に、新しく整備されてきているヒグマ共和国の施設や法制を紹介されていても、その言葉の大半は耳の中を滑っていくだけだった。

 見覚えのある、面影のありすぎる麗しい娘。
 ずっと焦がれていたはずの、逢いたかったはずの少女。
 そのはずなのに、その少女は雁夜の中の彼女の姿と、あまりにかけ離れているように感じた。

 彼女の笑顔も応対も、ただ客人を迎えるだけの、事務的な態度に過ぎないのだろう。
 それはそうだ。
 彼女とは『初対面』なのだ。
 雁夜の知っている龍田と、今彼の前で微笑んでいる龍田は、別人なのだ――。

 頭ではわかっているつもりでも、そのショックでずっと、雁夜はまともな取材ができなかった。

 海風の吹く丘に出て、雁夜は呆然と、手の中に金の指輪を遊ばせていた。

「間桐さん、何を見てらっしゃったんですか~?」
「あ、いや、何というか、昔の思い出の品で……」

 そんな彼の後ろから、龍田がひょっこりと顔を覗かせる。
 微笑みを崩さぬ彼女の視線に、雁夜は誤魔化すのを諦め、深く頭を下げた。


「……ごめんなさい、折角案内してもらったのに、正直あんまり集中できてなくて……」
「あらあら、長旅でお疲れなんですか~?」
「……いや、龍田さんに言うのも違うと思うんですけど、なんか……。あるはずもない奇跡を、期待しちまってた自分がいて……」

 手の中に指輪を握りこんだまま、雁夜は恥じ入るように頬を掻く。
 彼の言葉に、龍田はようやく合点がいったように、笑い声をこぼした。

「ふふっ……、奇跡は、あるみたいですよ~。あなたが、あなたたちが、成し遂げたんですから」
「え……?」

 その言葉が一瞬、雁夜には理解できなかった。


「……今度はその指輪、左手に嵌めてもらえませんか?」


 令呪の消えた痕だけが残っている雁夜の右手を、龍田は左手で優しくさする。
 そして彼女は雁夜の耳に、そっと囁いた。


「私の全てが海色に溶けても……、探し出してくれるんでしょう?」


 そのキラキラとした笑顔を、雁夜は知っていた。
 涙が、こぼれた。


「……忘れませんでしたよ、雁夜さん」


 船は動き出す。
 二隻の艦首が、寄り添うように重なった。


    □□□□□□□□□□


 休息をとった布束とビショップと共に、佐天が地下通路をライブ会場の楽屋に向かっていると、そこに脇道から合流してくる者たちがいた。
 ヒグマたちの居住空間となっていたそこから来たのは、アイヌ民族衣装を纏った少女だった。
 緩くカールした明るいオレンジ色のショートヘア。
 鉢巻きの上に飛び出した熊耳を揺らして、彼女は明るく手を振った。

「ハァイ、佐天涙子ね。今日のライブではよろしくね!」
「あ、メルセレラさん! お疲れ様です! ケレプノエさんたちもおめでとうございます!」
「イヤイライケレ(ありがとう)。あの子たちなら今休んでるけど、元気よ。これからが楽しみね!」

 『煌めく風』のメルセレラは、この島出身の純粋なヒグマでありながら、見滝原市を救った魔法少女の一人でもあるアイドルとして、アリサ・ビショップ大統領と双璧を成す、この島の顔だった。
 妊娠したケレプノエと、シャオジーの夫婦を見舞っていたらしい彼女の背後から、一頭のヒグマも、佐天たちに向けて微笑みかけていた。

「涙女士! あの時は素晴らしい活躍であったな!
 大統領も良い会見であった! ライブでの挨拶も共に良きものとしようぞ!」
「えっと……、もしかして李徴さん? 虎じゃなかったでしたっけ?」

 特徴的な口調とその声はまさしく、かの羆、隴西の李徴子であった。
 佐天の知っている時点の李徴は、黒騎れいの矢で強化されて白虎の姿をしていたはずだが、今の李徴は普通のヒグマの姿となっている。
 混乱する佐天涙子に向け、李徴は少し言い回しに悩みながら答えた。

「ああ……、まあ、この島では、ヒグマでいた方が何かと馴染むのでな。本日のライブでも、弁が立つヒグマ代表ということで司会を拝命している」
「馴染むとかそういう問題ですか!? 一体どうしたんですか?」
「まあ、見てみると良い」

 李徴はそう言って、佐天の前に前脚を差し伸べた。

「むん」


 彼が力を込めるとともに、見る間にその前脚が変形し、黒いヒグマの毛から、白い虎の毛に生え変わる。
 そしてまた、李徴が気合を入れると、その前脚は元のヒグマのものに戻った。
 佐天は驚きに絶句した。

「ど……、どういうことなの……!?」
「自然の境地……、『人は地に法(のっと)り、地は天に法り、天は道に法り、道は自然に法る』――。『無為自然』――。
 ……恐らく我々は、最初から大きな勘違いをしていたのだ」

 佐天の呟きに、李徴は天を仰ぐ。

「そもそも、ヒトとヒグマとを、人工と自然との対立軸として考えることから誤りだったのだ。
 まずもって人間も、自然の営みから産まれ出でた、ヒグマと同じ、ただの生物の一種に過ぎぬ……」
「ええ、そうね……」

 李徴の述べるその感慨に、布束砥信も頷いた。
 李徴は自分の胸に前脚を当て、自らの悟ったことを語り続ける。

「有冨春樹が発見し研究した、自在に変化する『HIGUMA細胞』とやらも、元はただのヒグマから自然に生じたものに過ぎぬはずだ。
 そして、我に起きた、この人間からヒグマへの変化も、同じ偶然が我が身に自然と発生したものに過ぎない……」

 『自分の取り込んだ全てのヒグマの能力を使う能力』を自然と獲得してしまった浅倉威の例もある。
 HIGUMA細胞とて、ただのヒグマから偶発的に発生したのだ。
 進化と変異の過程で、ただの人間が、同じくHIGUMA細胞を生じさせたり、ヒグマに変化したりすることだって、有り得ないことではないのだ。


「――我々は。ヒグマと人間は。最初から同じ、この地上に産まれ出でた、等しき命であったのだ。
 故に我らは、如何様にも変われる。それに思い至った今。もう、我の心に焦りは無くなったよ。
 あの激戦を生き残った我々は皆、その身の中の獣を捕え、真なる『羆』へと至れたのだ……」


 その言葉は、衝撃と共に佐天の胸に響いた。
 ああ、それは。
 いつの間にか指先に怪物のような鱗を生やし、そしていつの間にか全き自分に戻っていた、自分自身にも言えることではないのだろうか。
 自分の中の『獣』、『独覚』、『羆』、『アツユ』。
 そういった存在に心を乱された時に、己の体もまた乱れ、それを乗り越え進化するごとに、自身の姿もまた変わってきたのではないか。
 あのビジョン・クエストの中で。あの燃える華の中で――。


「李徴を始め、あの戦いの生存者は全員、貴重な研究サンプルよ。
 今後の死者の復元はもちろん、ヒトとヒグマの発展にさらに役立っていくはずだわ」

 布束砥信が、李徴の言葉を継いだ。

『High Intelligence Genetic Uncategorized Mutant Animal(高知能遺伝子非分類突然変異種) 通称【HIGUMA(ヒグマ)】』
 HIGUMA計画ファイルでは、当初ヒグマについてそう語られていた。
 有冨を始めとしたSTUDYにも、まだ全貌ははっきりとわからなかったHIGUMAという存在は、ここに至っても未だ研究の途上なのだ。


「あなたたち各自の、独特の経験が、私たち生存者24名の、それぞれの細胞に息づいている。
 私たちはみな、それぞれが異なる『独覚(自分自身で悟りを得た者)』であり、『羆(獣の精神を自分自身の中に捉えた者)』なのよ……」

 あの日の経験の数々を思い出して震える佐天の肩を、布束はそう言ってそっと抱いた。

「だが、そのような異なる者たちであっても、このように手を取り生きて行ける……。
 このライブなどを皮切りに、我らが示すべきは、そのような事実なのだと思うぞ」

 李徴が最後にそう纏めると、メルセレラ、ビショップ、布束たちも、改めてこのライブイベントに賭ける想いを再認識し、頷いた。
 会場に向かう一同の胸には、暖かさが満ちていた。
 佐天涙子はそうして再び歩き出しながら、自分の書かれた物語のことについて思い出す。


「……そう言えば、李徴さんたちの本、電書で読みましたよ。本屋さんでも大人気で。
 他の人たちはこんな状態だったんだってわかりましたし、熱くて、切なくて……、自分の話も、本当感慨深かったです……」
「おお、それは何よりだ! 実際の読者から感想をもらえることほど心の栄養となることは無い……! 感謝する!」

 自分の書いた本が上梓されることは、李徴にとっても念願だった。
 『ヒグマ・ロワイアル』というタイトルには、ロワ書き手としての李徴の自己主張が滲み出ているのが明らかだ。
 そんな彼の自尊心と羞恥心をも、読者からの感想は大きく慰めてくれた。

「……それじゃあお二人ともまた、ライブの時に!」

 楽屋の方に別れる佐天たちを見送り、メルセレラと残った李徴はふと疑問を思い出す。


「そういえばあやつは、本を書いてからまた何処に行ったというのか……」

 あやつというのは、『ヒグマ・ロワイアル』の筆頭著者でもある宮本明のことだ。
 宮本明は、『穴持たずの鉄球』の無限の回転に呑み込まれた後、アメリカかどこかの得体の知れないレースに巻き込まれていたらしい。
 その際彼は、列車の中で空間の隙間を進んで青年たちに攻撃している不気味な巻き髪の男に遭遇して、戦いになったとのことだ。
 なので彼は、青年たちから鉄球を借り、『クマに注意!』と描かれた看板の近くで野生の熊を見つけ、その背に乗って、巻き髪の男に『穴持たずの鉄球』をぶつけて倒したのだという。
 またもやその回転に呑み込まれて、彼はこの島に再度戻ってこれたのだが、その時にはこの島での騒動は全て終わった後だったという訳だ。
 『ヒグマ・ロワイアル』の執筆が終わった後、彼はウェカピポの妹の夫の妻の兄に会いに行くだの、雅に会いに行くだのと喚き散らし、またもや姿をくらませてしまっていた。

「アイツのことは気にするだけ無駄でしょ。どうせネアポリスだか彼岸島だか、どこかで今も暴れまわってるわよ、宮本明は」
「本を出版するのは念願だと言っておったのに……、まあ、あやつもまた、己の中に獣を飼う者だということか」

 その疑問を笑い飛ばすメルセレラに、李徴もやれやれと嘆息した。
 ライブのMCとして最終確認をし始めようとする彼を、そしてメルセレラは、ゆっくりと覗き込む。

「……で、アンタは人間の姿には戻ったりしないの?」
「そうだな……。もはや獣の姿でいることに慣れてしまっていたからな。
 筆耕も明と雁夜がしてくれてしまったし、もはやヒトとなる必要性も……」
「なに、弓のことを忘れた弓の名人みたいなこと言ってんのよ」

 ドン。
 と、李徴の耳元が爆裂する。

「アタシらヒグマが苦労して人間に馴染もうとしてんのに、ひとりだけ獣に逃げ続けてんじゃないわよ、おい。
 配信だのなんだの、アンタや凛に習いながらこっちは必死こいてやってやってんだから……」

 メルセレラの舌打ちと共に、李徴の顔の横で空気が急膨張し、壁に大穴が空いていたのだ。

 ――『見えざる矢を無形の弓につがえ、満月のごとくに引絞ってひょうと放てば、見よ、鳶は羽ばたきもせず中空から石のごとくに落ちて来るではないか。』

 李徴は慄然とした。


「……壁ドンっていうんでしょ、これ」


 違う。
 絶妙に違うのだが、それを言い出すべき口が竦んでいる。
 少女は、肉食獣の笑みを浮かべて、李徴の瞳を覗き込んでいた。


「アタシは覚えてるわよ。なんだっけ?
 『この呼び名は、我が親愛の情と、自ずから出づる君の美しさとを表すものだ』って言ってくれたわよね?」
「美女士(メイニュイシ)……!」
「そう言った責任は、とってもらうわよ。キムンカムイにとって、名前を変えられることはそれだけの重みを持つ。それが流儀……!」

 ああ、その美しい夕日のような煌めく瞳の深くに、お互いの顔が映っている。
 ああ、美しき色どりよ、楽しめよ――。


「――おい、鈍感系物書き。アタシの勉強に、アンタも本気で、付き合いなさいよ」


 李徴は慄然とした。今にして始めて、色恋の深淵を覗き得た心地であった。 


    □□□□□□□□□□


「あー! るいこー!」
「おおフェブリー! 久しぶりだねぇ~! ちょっと大きくなった?」

 一行がライブ会場のホールに上がってくると、佐天涙子に気づき、走り寄ってくる幼女がいた。
 その金髪の幼女を抱え上げ、佐天は頬ずりする。

「ういはーは!? ういはーもくるのー?」
「初春は今日はお留守番~。いい子にしてたら、そのうち来てくれるかも!」
「フェブリいいこにするー!」

 幼女は、かつて佐天が助けたこともある、ケミカロイドのフェブリという者だった。布束が保護していた子供である。
 島が平和になったため、布束はアメリカから、スタディの研究で生み出されたケミカロイドの少女、フェブリとジャーニーたちも連れてきていたのだ。
 ホール脇のプレイルームでは、相田マナや、彼女と同行してきたドキドキプリキュアの面々が、ジャーニーやアイちゃんたちを遊ばせている。
 フェブリをそちらに送り返し、在ヒグマ共和国大使となった相田マナ、円亜久里たちと手を振り合い、佐天はライブの打ち合わせに戻った。


「……で、私の舞台演出は『凍結海岸(フローズンビーチ)』のスモーク演出メインで良いのね?」
「そうそう、それで曲のサビに、その『砂漠の月(デザートムーン)』完全装備の状態で、キラーンと神々しく降り立ってもらえれば……」

 楽屋の入り口で佐天と話し込むのは、このライブのセンター、軽巡洋艦の那珂だ。
 濃いオレンジのドレスに、白い半袖パフスリーブ。
 ブレスレットと白手袋と、フリフリの白いスカート。
 それはあの日の浅倉威子と同じ、『改二』として新調した衣装だった。

「That's so kind of you. すまないわね。舞台演出の代用程度で」
「いえいえ。能力演算のいい訓練ですし。私だって、折角の節目の記念イベントなんですから何か協力したかったですし!」

 『砂漠の月(デザートムーン)』の銀の装備を装着して、佐天はフルアーマーの女神のような格好でガッツポーズする。
 大統領顧問である布束が、呼び立ててしまったことを気に掛けるが、佐天としてはむしろこの機会に呼んでもらったことがかなりありがたかった。
 島外では、いつ学園都市の研究者や暗部に命を狙われるか、わかったものではないからだ。
 佐天は目をそらして指を突き合せた。

「それに、学園都市の追手から守ってもらう身分なんで、何かしらお役に立っておかないとな~なんて……」
「この島の救世主がそんな細かいことを気にしなくて良いわ。それに、移住は大歓迎よ。目下、大統領府直々に誘致をかけてるくらいだもの」

 佐天の杞憂を軽く流し、布束とビショップを先導に、那珂や佐天は舞台の確認をする。
 観客入場の前のホールの舞台は、広く荘厳だった。


「……浅倉さんにも、この舞台、見てもらいたかったね……」
「……うん。那珂ちゃんも、あの後はすごく淋しくなったよ。だけどもう、戻れない。戻らない……!」

 その光景に、浅倉威子のことを思い出した佐天と那珂は頷き合う。

「那珂ちゃんは、涙子ちゃんとはまた違った形で、この島の全てを託されたんだ」

 強く決心した那珂の言葉は、熱量に満ちていた。

「那珂ちゃんは『ヒグマ』であり『人間』であり『軍艦』である、全ての狭間に立ち、全ての断絶の壁を壊し、繋ぐための『アイドル』なんだ。
 今の那珂ちゃんは、『穴持たず』だったみんなの『帰る場所』であり『お母さん』だ。
 イソマ様に、威子ちゃんに、御坂高級技官殿、キリカ先生、プロデューサー、龍田ちゃん……、みんなの協力と支えで、そうしてもらったんだよ。
 だから那珂ちゃんは、『ヒグマ島とりマなメ』は、どんなに悲しくても路線変更せず、絶対にその務めを、果たし続けるんだ――!」


 ヒグマの肉から作られた、軍艦で人間のアイドルがいる。
 人間の姿で生まれ魔力を交わし、今や首長として働くヒグマがいる。
 ヒグマのブレイブを受け継ぎドッキングした、研究者の人間がいる。
 ヒグマの血を輸血され、その毛皮に守られて生き延びた、この島の救世主の人間がいる。
 あの戦いで進化し、生き残った者たちは、誰もがそうして、ヒグマと人間の狭間で高みへと登った者たちばかりだった。

 一行が楽屋の方に戻ってくると、一般と関係者用通路との境界線から、呼びかけてくる者がいた。


「布束さんでしょうか。ライブ開始前のお忙しい時にすみません。ヒグマ共和国への専門職の移住誘致の件で、申し込みをしておりました者ですが。
 早めにご挨拶だけでもと思いまして……」
「Oh、これはご丁寧に……。スタディコーポレーション現社長、ヒグマ共和国大統領顧問の布束砥信よ」

 境界線の狭間で名刺を差し出してきたのは、ほっそりと背の高い、黒いシャツと黒いスラックスで全身黒づくめにした、やせた男性だった。
 名刺交換した布束は、その男性の名前を確認して、硬直した。
 その男性の隣で、長くボリューミーな白髪をふわふわと遊ばせた、白いシャツの小柄なメガネの少女が、布束の名刺を覗き込んでくる。

「ほう、布束さんのお名前は、砥石の信念……。天格は12画。地格も19画。いやはや、苦労されたとお見受けするわ」

 その少女は、可愛らしい声に似つかわしくない、古めかしい口調で布束の姓名を読み上げる。
 そしてメガネをくいっと上げ、その画数から占われた結果に、笑みを浮かべていた。

「じゃが、総格は31。不運に耐えて耐えて、自我を抑えながら人の前に立つことができるならば、最終的に、全てにおいて成功を収めうる……。
 今が、その時なのかもしれんな」
「あな、たは……」

 布束砥信は、震えていた。
 そして佐天涙子が、那珂が、ビショップが、彼ら2人に気づく。
 その姿を見た瞬間、脳裏にフラッシュバックするものがあった。


「「……シーナーさん!?」」
「はい、救急・総合診療医の椎名威文(しいなたけふみ)と申します」

 佐天とビショップの驚愕の声に、黒く痩せた医師の男性は、そう恭しくお辞儀した。
 その隣で、少女が目の横にピースサインを寄せながらウィンクして名乗る。

「妻の椎名衣鶴子(いつこ)じゃ。……おっと、建築家としては旧姓の方が通りが良いかの。四十九院(つるしいん)衣鶴子じゃ」
「ツルシイン……!」「ツルシインさん……!」

 布束と那珂が、声を詰まらせる。
 黒と白の男女は、佐天たちが驚いている理由もわからず、朗らかに笑い合っていた。

「良いじゃろこのキャラ付け。リアルロリババアとして、オレは結構業界では人気なんじゃぞ?」
「あなたの真似をして、朝子がオレっ子になってしまったではありませんか。ほどほどにしてください」


 彼らの様子に、ビショップは思わず、顔を押さえて泣き崩れていた。

「おお、大丈夫かの、ビショップ大統領?」
「嬉しい……、アマリにも、嬉しすぎるのデス……!」
「なんじゃぁ~、オレたち優秀な専門職の移住が泣くほど嬉しいとは。これは来た甲斐があるのう?」

 涙で、声にならない。
 アリサ・ビショップは、ツルシインの腕の中で、思い切り泣いた。
 大統領の責務だのヒトの姿だのを忘れ、恥も外聞も無く、堰を切ったように泣きじゃくり続けた。
 それは今まで懸命に奮闘し続けて来た、不憫な中間管理職に過ぎなかった彼女が、ずっと望んでいたことだったのかも知れなかった。


「なんだかこの島には、初めて来た感じがしません。とても懐かしく、居心地の良い感じがします……」

 大統領の背をさする妻の姿を眺めながら、黒ずくめの男性も感慨深く呟く。
 その時、明るい子供の声が、一般通路から関係者用通路への境界に入ってくる。


「おまつり! おまつり! ここかぁ~、おまつりのばしょはー!?」


 そしてその幼女の声は、立ち尽くす那珂の姿を見て、更に華やいだ。

「うわー! なかちゃんだぁー!! やったぁ! ほんもののなかちゃんだー!!」


 ウルフカットになっている長めの茶髪。
 快活な八重歯が、笑顔から覗く。
 蛇の描かれたTシャツと半ズボンの、ボーイッシュなその幼女の姿は、佐天涙子と那珂に、ある人物を否応なく思い出させていた。

「……浅倉さん!?」
「……威子ちゃん!?」
「威文は私です。この子は、朝子といいます」

 黒ずくめの男性が、屈んでその幼女を紹介する。
 ピースサインをして屈託なく笑うその子の姿に、佐天はなんとか平静を装って言葉をかけることができた。


「……お二人のお子さんですか? すごく元気ですねぇ」
「いえ……、この子は捨て子だったんです。それを私たちが、朝に拾ったので……。
 また、新しい、未来の夜明けへと進んでもらえるよう祈って、朝子と名付けました」

 その男性医師の優しい笑顔に、佐天は、あの日の夕暮れに屋台バスの中で見た、初春の幻を思い出していた。
 ――ああ、後で佐倉さんにも言わなきゃ。あの先生は、きっと、座に還ったんでもなくて……。


「朝子は那珂さんのライブが大好きで、まるで本当の母親を見るかのように、ずっと傍で映して欲しいとねだるんですよ」
「まぁ~、オレの立場もあがったりじゃ。口調を真似てくれとるだけでもよしとするかの」
「ですから、それはほどほどにしてください」

 養子を前にして、医師と建築士の夫婦はとても仲睦まじそうだった。
 ああ、それはあの激動の一日の中では、どこまで願っても叶わなかった光景だったかも知れない。
 幼女はそして養父の手元を離れ、那珂のもとに駆け寄っていた。

「オレ、なかちゃんのうた、スキ! ほんものにあえるの、たのしみにしてたんだー!!」

 那珂の震える胸を溶かすように、その子は笑う。


「これ、なかちゃんにあげる! なかちゃんといっしょのしまにすむから、つくったの!
 つかれたときは、オレがいつでもかたたたきして、なおすから! すぐいえよ!」


 彼女はにっこりとした笑顔で、『こうそくしゅうふくざい』と書かれた紙のチケットの綴りを広げる。

 ――お前もなんか調子悪いんだったら、応急修理くらいしてやるから、すぐ言えよ。……那珂。

 その姿が、記憶の中の笑顔と、重なる。
 那珂の目から、こらえていた大粒の涙が、こぼれた。
 彼女は、目の前の愛おしいファンの女の子を、ぎゅっと抱きしめていた。

「うん、うん……! ありがとう……! これからはずっとこの島で、一緒にいられるもんね……!!」

 嬉し涙で、那珂の言葉の最後は声にならなかった。
 大統領として立ち直ったビショップのもとを離れたツルシインが、その幼女の手を引く。


「ほれ、朝子。那珂さんもライブの準備があるからの。また後でにしようぞ」
「えー」
「えーじゃない。ほれ向こうでみんな遊んでおるぞ。プリキュアの人たちもおるから」
「むー、プリキュアより、ライダーのほうがかっこいいー!!」

 プレイルームの方に追いやられそうになって、その子はむずがった。
 その時、幼女は佐天涙子の姿に気づく。
 煌びやかな銀の女神のようにも、フルアーマーの聖衣のようにも見える彼女の出で立ちに、目を輝かせる。

 養母の手を振り払って、幼女は、その強く美しい年長者の姿を見上げていた。


「すっげぇ! かっこいい! オレもおねえちゃんみたいに、かっこよくなれるかな!?」


 その女の子の眼差しは、まるであの学園都市の、あの月の公園で、能力を夢見ていた幼い誰かのようで――。


 ――そう。
 聖杯は、生き残った私たち全員の願いを、少しずつ、少しずつ叶えてくれた。
 ほころびを。悲しみを。整合性を、縫い綴じるように。
 私たちがこの島で過ごしてきた一歩一歩が、全て無駄にならないように。

 私たちは、ぐるぐると同じところを回っているようだった。
 それでも少しずつ、螺旋階段を登っていた。
 出会いと別れを繰り返す中で、手と手を取り合い、進歩し、進化し、高みへ歩き続けて来た。

 遺伝するのは、DNAではなく、みんなの精神だった。
 送り出してくれた偉人が。
 死に別れた戦友が。
 私たちの中に、大輪の炎の華となって繋がり、咲いてゆく。

 彼らから受け継いだものが、私たちの中に息づいている限り、彼らは『生きている』。

 未来は見えなくても。
 手を振るあなたが、波の彼方に遠くなっても。
 いつだって私たちは、二重の螺旋階段を登りながら、互いを高め合おうと、その向こう側に手を伸ばすんだ。


 そう。この物語は、私たちが永遠に未来へ託し続ける、片想い。


 だから私は。
 三日月の集まったような翼を広げ。
 ダマスカス鋼のような腕輪を掲げ。
 観音の羽衣のようなスカートを翻し。
 銀のナイフのような、鎌のような鋭い爪のある拳を握り込んで――。


「――うん、私たちは何にでもなれるよ! なっちまえばいいじゃない! なりたい自分に!」


 あの日見た誰かのような女の子に、にっこりと笑いかけていた。



          ――Fin――

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最終更新:2026年07月28日 08:29