EDAJIMAとHIGUMA
――――俺は人間だ。命を助けてくれ。
「う……うわぁあああああああああああああああああ!!!」
マスカルポーネを喰い終えた野生のヒグマが
吉村崇が登った木に再度突撃する。
野生からは逃れられる事は出来ない。待っているのは死あるのみ。 だがその時。
ボンッ!ボンッ!
遠くで、二つの小さな爆発音が鳴り響いた。
「な、なんだ?」
その音を聞いたヒグマは臭いをかぎ始め、音の聞こえた方へと向かって行き、姿を消した。
「た、助かったのか……?」
九死に一生を得た吉村はフラフラと木から降りた。
何が起こったかは分からないがせっかく助かった命を無駄にしないためにも一刻も早く逃げなくては。
俺はここで死ぬわけにはいかない。相方の徳井の為にも東京へ帰らなくては。
地面に落ちていた靴を拾った吉村は急いでその場から離れる。
―――遠くでクチャクチャと咀嚼音が聞こえてくるが、もう無視であった。
「ガハハッッ!!!そうかそうか、それは災難であったのう!!!わしが男塾塾長
江田島平八である!!!」
「はぁ……笑い事じゃないっすよ。マジ死ぬとこだったんですよ?」
森の中を彷徨う吉村が何やら男の怒声が聞こえた方向へと向かうと、孫悟空に続くフィクションのキャラが姿を現した。
名は江田島平八。魁!!男塾という漫画の登場人物であり、同作品における別格の超人だ。
「まあいい。これも何かの縁だ。貴様も俺と一緒に男を磨こうじゃないか。」
「あ、どうも。……って、ヒグマ!?」
「はっはっはっ。心配するな!このヒグマ、美来斗利偉(ビクトリー)・樋熊男は
ヒグマであるという以前に一人の男!わしらの心強い味方である!!!」
「押忍! 光栄です塾長!!」
まるで江田島の舎弟のように振る舞う喋るヒグマを吉村は訝しげに見つめた。
「……なあ、あんた、本当にヒグマなのか?」
「何を言っている貴様!どこからどう見ても純粋なヒグマだろうが!」
「あぁ、済まない。……でもなぁ。」
何故だろう。この樋熊男からは先ほど自分を襲った野生のヒグマから感じたような「恐怖」を感じない。
吉村がそう思った次の瞬間、凄まじい寒気が彼の体を襲った。
「ん?なんじゃ?」
「……き、来た……あいつだ。」
二人と一匹が振り向くと、重い足音を立てて一匹のヒグマがこちらにゆっくりと向かってきているのが見えた。
人を喰ったのか、口元には血の跡がついている。だが、まだ空腹は満たされてないのか先ほどと変わらぬ瘴気を全身から放っていた。
「ほう、あれがお主を襲った羆か?」
「あ、あぁ。早く逃げよう!!」
「グロロー。何を言ってるんだ情けない、ただのヒグマごときこの俺の敵じゃねぇ。塾長!ここは俺に任せてください!」
そう凄んだ樋熊男は前へ飛び出し、野生のヒグマと対峙する。
「おい、もう食事は済ませたんだろ?ここは身を引いちゃくれねぇか?ヒグマ同士で戦っても仕方がないだろう。」
「……グォオオオ……。」
「おっと、このヒグマには言葉が通じねぇか。じゃあ、悪いが、俺の男を磨くための犠牲になってもらおうか。」
一歩も引かない野生のヒグマの姿勢を宣戦布告と受け取り、樋熊男は中国拳法の様な構えを取った。
―――今ここに、ゲーム開始以来初の穴持たず同士の戦いが始まる。(*クマモンは相手の熊が穴持たずじゃなかったので除外です。)
「グオォォォォォ!!!!」
涎を垂らして吠えながら突進してくる野生のヒグマに向かって、樋熊男は冷静を右手を手刀を形成して振り上げる。
そして拳が届くリーチギリギリまでヒグマを近づけ、その奥義を解き放った。
「超人102芸が一つ、猛虎百歩拳!!!!」
樋熊男は手刀を振り下ろし、超人拳法頂上拳の極意の一つを野生のヒグマに繰り出す。
その拳には虎の幻影の形をしたオーラが纏わりつき、共にヒグマに襲い掛かる。
野生のヒグマもその攻撃に合わせて右腕を勢いよく振り上げた。
熊の力に超人拳法を加えた樋熊男の一撃と、ただの野生のヒグマの掌。その力の差は歴然――!
―――――コピーがオリジナルに勝てるかよ。
「え?」
樋熊男がそんな声を聞いたような気がした、次の瞬間。
グシャァァアァァァァッッッ!!!!
野生のヒグマのクローを受け、樋熊男の繰り出した右拳が虎の幻影ごとあっさり粉砕された。
「な…………なにぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!??」
そもそも、ヒグマが拳法を身につければ強くなるという前提が間違っている。
かつて柔術マジシャンノゲイラを圧倒していた野獣ボブ・サップが技を覚えたらヘタレと化したように。
綿密な研究を経て市販されているカレールーに下手に隠し味を加えたらかえって不味くなるように。
消える能力を持つ黒子テツオが派手な技を身に着けたら目立ちすぎて決勝戦でただの凡人に成り下がったように。
既に最強の生物であるヒグマが余計な能力や属性や言語を身につければ弱体化するのは当然の帰結であった。
「ば、馬鹿なぁ!?超人拳法102芸を極めたこの俺様がぁ!?…………え?」
しかし、これだけでは終わらない。そう、ヒグマを目指す男、工藤健介が出来て本物のヒグマが出来ない筈がない。
粉砕された樋熊男の右腕があった場所の空間がいびつに歪み始める。
野生のヒグマの強烈な一撃は右腕を時空ごと切り裂いていたのだ。
その歪みにより発生したのは宇宙のあらゆる光を飲み込む漆黒の―――。
「す、吸い込まれていくぅぅぅぅぅぅ!!!!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!???」
ヒグマが発生させたブラックホールに吸引された樋熊男は時空の彼方へ放流され、この世から跡形もなく消滅した。
「なんてこった……あれが野生の……本物のヒグマの力……!!」
道産子故に真のヒグマの恐ろしさを知る北国の男、吉村崇は目の前に広がる光景に戦慄して膝を崩す。
自分は逃げるしかなかったのであのヒグマの本来の実力を引出すことが出来なかったが、改めて確信した。
あんなのに人間がかなう筈ない。
「……ふん。」
腕を構える塾長から、余裕の笑みが消えた。
食料を入手し損ねたヒグマは不機嫌そうに次の標的を和服姿の巨漢の中年男に定める。
ブラックホールは川で鮭を獲る時とかに便利だが、力の加減を間違えるとうっかり獲物を消滅させてしまうので困り者だ。
「うむ、確かにあやつ、樋熊男はヒグマにしては少々喋り過ぎておった。ヒグマであることを忘れていた分、
おヌシより弱かったのかもしれん。だが、貪欲に戦いのみを求めるヤツはヒグマであるという以前に一人の男であった!!!」
塾長は勢いよく上着を脱ぎ捨て、鍛え抜かれた肉体を露出する。
腹部には大戦時代につけた多くの銃創を初めとした数多くの傷が残っている。
「わしが男塾塾長 江田島平八である!!!僅かな時間だったとはいえ、我が友の命を奪った落とし前、つけさせてもらおうか!!!」
「グオオオオオオオオオォォォォォォ!!!!!」
飢えた野生のヒグマにとって男の生き様など関係ない。どんな生物だろうが目の前に居るのはただの餌。ひたすら襲い、喰らうのみ。
塾長に飛び掛かった野生のヒグマはその右腕のクローを振り上げ、勢いよく獲物に叩き込もうとする。
人間では決して到達できぬ筋力で繰り出された一撃はクローが触れた部分を空間ごと削り取っていき、徐々に黒い穴が出来上がっていく。
「ま、またブラックホールを!?避けろ塾長!!あんたでも喰らったら一溜まりもねぇ!!」
「わしは男塾塾長 江田島平八である!!!立ち向かってくる相手には逃げも隠れもせんわぁ!!!」
このヒグマには人間の知っている常識など通用しない。だがあらゆる常識を超越するのはこの男も同じ。
残念ながら天下無双流のどの奥義もこのヒグマの姿をしたクリーチャーには通用しないだろう。
ならば話は早い。元々我流の拳法、今から通用する技を編み出すだけである!!!
「ふん!!!」
野生のヒグマの拳に合わせて、塾長も右拳を繰り出した。
先ほどの樋熊男とほぼ同じ構図。だが己には鍛え抜かれた鉄拳が。
若かりし頃に天下無双隊隊長として神出鬼没の戦いを繰り広げた日々がある。
振り上げた拳は全盛期時代のマッハパンチを遥かに凌ぐ速度でブラックホールに向けて繰り出され。
――――――塾長の拳も、次元の壁を突破した。
「……グォ!?」
ヒグマの繰り出したブラックホールに塾長のブラックホールがぶつかり、互いに相殺し合って暗黒宇宙を打ち消した。
「ふっ、何を驚く野生のヒグマよ。ブラックホールくらい基本中の基本じゃろ?」
「―――グオオオオオォォォオオ!!!!!」
一撃で仕留め損ねたことで激昂したヒグマは左右のクローを連続で繰り出した。
その一発一発全てに発生するブラックホールに塾長もブラックホールをぶつけて相殺していく。
常軌を逸した攻防に周囲の空間が捻じ曲がり特異点が発生していた。
「塾長すげぇ……野生のヒグマと互角に殴りあってやがる……でも。」
だが吉村は安心できなかった。野生のヒグマにとってブラックホールは腕を振り回すときの
自然現象に過ぎないが塾長は限界を超える打撃を連続で使っているのだ。先に息切れするのは恐らく。
「ふぅ、流石に長くは持たんか。ならば、肉くらいくれてやるわい!!!」
覚悟を決めた塾長はラッシュを止めてガードを解いた。
「な!?何考えてんだ塾長!!」
「グオオオオオオオ!!!」
この好機を逃すなど愚の骨頂。塾長の開いた腹部にヒグマは容赦なくブラックホールを叩き込んだ。
「―――グォ!?」
「なにぃ!?」
野生のヒグマと吉村は驚愕した。ブラックホールが直撃しているにも関わらず、
塾長は地面に踏みとどまっていたのだ。生身で宇宙遊泳が出来る塾長が
たかがブラックホール一発程度で肉体を消滅させる筈がない。
「ふっ、わしを殺したければ核ミサイルでも持ってくるがいい!!!」
塾長は怒声を放ち、動きの止まったヒグマの鼻筋に鉄拳を叩き込んだ。
体力の著しい消耗でもはやブラックホールを発生させる力は残ってないが
野生のヒグマを吹き飛ばし、地面にのたうち回すだけの威力は十分。
「打ち勝った!?野生のヒグマに!!……え?」
体勢を立て直したヒグマは、吉村が先ほど見た姿勢を取っていた。
「あの動きは!?クラウチング!!ま、不味いぞ!!」
野生のヒグマにとってブラックホールなど格闘ゲームの強パンチ程度の動きに過ぎない。
元々ヒグマは四足歩行の生物。つまり地に全ての足をつけた、今からがヤツの本気!!
「――――ウオオオオオオオ!!!!」
野生のヒグマは凄まじい回転速度で回りながら、周囲の木々をなぎ倒して塾長に向かって突進した。
かの巨人殺しの達人、リヴァイ兵士長の車輪斬りを彷彿とさせる挙動から発生する、
その光景、まさに竜巻。だが塾長は微動たりともしない。もはや逃げる体力も残っていないのか?
否!!!
「天下無双流奥義!!!弾丸掌破取りぃ!!!」
五感を研ぎ澄また塾長は突進するヒグマの速度、軌道、回転を読み取り、素手で真っ向から受け止めたのだ!!!
だが銃弾や砲弾のように完全には受け止めきれず、塾長の左腕が根元から千切れ飛ぶ。
しかし、犠牲は大きかったが、ヒグマに致命的な隙を作り出すには十分。
「―――冥凰島至極奥義!!!千覇氣功拳!!!」
右拳から陳老子直伝の奥義中の奥義を放ち、拳の形をした巨大な氣の塊が野生のヒグマの鼻筋に叩き込まれる。
野生のヒグマは顔を拳の形に歪めながら木々をなぎ倒して吹き飛ばされ、倒れた無数の樹木の下敷きになって
沈黙した。
「や、やったぁぁぁ!!!勝った!!!人間がヒグマに!!!」
「ふぅ、流石にしんどかったわい。」
歓喜する吉村を尻目に、塾長は仙豆をもって木の下敷きになっているヒグマの元へ向かっていく。
「おい、何する気だ塾長!?」
「心配するな、死んでるかどうか確認するだけじゃ。」
だがもし生きていたら。久々に己の全てを出し切る程の好敵手に巡り合えたのだ。
ここで別れるのは惜しい。そう思いながらヒグマを押しつぶす木々を片腕でどけていく。
「おーい無事かぁ?―――なにぃ!?」
塾長は一つ思い違いをしていた。確かに雄たけびを上げるばかりで人語は解さなかったが。
――――野生のヒグマの知能は、決して低くはないのである。
倒れた木々の下には、そこに居る筈の野生のヒグマの姿はなく、
先ほど突然首輪が爆発して死亡した
コロッケと
リッド・ハーシェルの遺体が転がっていたのだ。
「貯蔵食料を身替わりにしたじゃとぉッッッ!?なら!奴は今どこにいるッッッ!?」
「逃げろ!!!!塾長ぉぉぉぉ!!!!」
「グオオオオオォォォオオ!!!!!」
塾長が振り向いたと同時に、背後に回っていた野生のヒグマのクローが塾長の頭部に
横なぎに叩き込まれ、塾長の視界が反転して地面に転がり落ちた。
(―――まったく、油断したわい。)
(―――わしも甘くなったのう。)
(―――いかん、早く立ち上がらねば)
(―――なんじゃ?体が動かん。)
塾長が顔を上げると奇妙な光景が広がっていた。自分が仁王立ちで目の前に立っているのだ。
そして奥には勝利の雄たけびを上げるヒグマと、更に奥に絶望的な表情を浮かべる吉村の姿が。
(―――なんでわしが立っておる?)
(―――なぜ、立ってるわしには。)
(―――頭が、無いんじゃ?)
地面に転がり落ちた塾長の生首は、異様な状況をようやく理解し始めていた。
(―――ああ、そういう、ことか。)
もはやただの肉塊と化した塾長の体を喰らうべく、ヒグマが大口を開けて飛び掛かった。
だ か ら ど う し た ! ?
「たかが首から上をもぎ取った位でわしに勝ったと思うなッッッ!!!!
ワシは男塾塾長、江田島平八であるぞぉぉぉッッッ!!!!」
地面に転がる塾長の生首が怒号を上げた瞬間、首のない江田島平八のボディが動き出した。
「―――グォオ!?」
通常ありえない現象に驚愕する野生のヒグマ。だが別に珍しい事ではない。
強靭な生命力を持つニシキヘビは首を斬りおとされてもしばらくの間胴体が動き続けるという。
たとえ脳からの電気信号が途絶えても、塾長の筋肉は、心臓は、血液は、決して即死などしない。
ヒグマの爪は塾長の命を奪っても、その魂までは削りきれなかったのだ。
いつの間にか貫手の形を作っていた塾長の右手が、筋肉の死後硬着で前方へ突き出され、
急に突進を止めることが出来ないヒグマの胸にカウンター効果で突き刺さり、固い体毛を突き破る。
狙うは―――心臓。
「―――――――ウオオオオオオオオオオオオォォォォォ!!!!??????」
心臓を貫かれ、背中から塾長の血まみれの右腕をはやした野生のヒグマは、
断末魔の悲鳴を上げてしばらくした後、ついに絶命した。
「うーん、流石に死んでるかな?」
吉村は怒声を上げた状態の形のまま動かなくなった塾長の生首を見下ろしている。
なんかこの人の事だから仙豆を口の中に入れたら「やれやれ、危うく死ぬところじゃったわい。」
とか言いながら生き返ってきそうだけど流石にねぇ。コントじゃあるまいし。
「……試してみよっか?」
吉村は好奇心で立ったまま死んでいる塾長とヒグマの足元に落ちている仙豆の袋を拾いに行く。すると、
ボンッ!
後ろから爆発音が聞こえ、振り向くと塾長の生首が木端微塵に吹き飛ばされていた。
三つ目の首輪のペナティ爆破が作動したのだ。
「だ、駄目押し!?」
こうでもしないとこの男を完全に殺せないと会場が判断したのだろうか。
吉村は深く溜息をつき、尊敬の眼差しで塾長の生首が転がっていた場所を見つめた。
今の自分はもはやヒグマへの恐怖を感じない。また一つ成長したのだ。
「塾長、あんたは確かにヒグマに勝っていたぜ―――
突然、背中に強烈な衝撃を感じて、吉村は吹き飛ばされた。
警戒心を忘れて不用意にヒグマの死体に近づき過ぎた代償。
そう、塾長に起きた現象が、野生にヒグマに起きないとどうして言えようか。
死んだ筈のヒグマが振り下ろした右腕のクローが、吉村の命を一撃で削り取った。
(……死後硬着って、すげぇ……。)
もはやツッコむ気力も失った芸人、吉村崇が薄れ行く意識の中最期に見たのは、
まるでこの島から一人も逃がさねぇよとでも言うかのようにニヤリと嗤う形に硬着したヒグマの死に顔だった。
【リッド・ハーシェル@テイルズオブエターニア 死亡】
【コロッケ@コロッケ! 死亡】
【美来斗利偉・樋熊男@穴持たず 死亡】
【江田島平八@魁!!男塾 死亡】
【吉村崇@平成ノブシコブシ 死亡】
【ヒグマ(野生)@穴持たず 死亡】
※参加者超過ペナルティ(
駆紋戒斗、
夢原のぞみ、
呉キリカ)でリッド・ハーシェル、コロッケ、江田島平八の首輪が爆発しました
※残りの爆破スイッチは次回以降に使用されると思われます
※Gー7の森に仙豆×2@ドラゴンボール、ランダム
支給品0~4が落ちています
※ヒグマ(野生)はスタディが
HIGUMA(ヒグマ)を大量生産する以前の大元になったオリジナルの一匹でした
最終更新:2015年01月25日 00:06