ひとりぼっちになる程度の……
◇
名前を交換しあう程度に自己紹介を終え、少し突っ込んだ話し合いが始まる。
異常事態だ、のんびりとした平和なお茶のみ話で終わらせることはできない。
真っ先に声を上げたのは流子。
背負った獲物をグルグル回し突き立てる。
小さくヒッと悲鳴を挙げる智子を尻目に、問いかける。
「私はこのもう片方を「「持ってる奴を探している」」
「残念ながら、私は知りませんね、お力になれず申し訳ない」
その言葉の出掛かりを食うように、さとりが言葉を続ける。
片太刀バサミを構え、流子が斬りかかる。
「その口ぶり。「てめぇが片太刀バサミの女だな」」
「いえいえ違います、それは鬼龍院皐月という方なのでは……
とこれは早とちりでしたか、ありがとうございます、鮮血さん」
まるで読んでいた、とでも言うように片太刀バサミを避けながら、奇妙な会話は続く。
言葉もハサミも止まずに進み、その度にさとりが言葉を被せ、付け加える。
「なんだかわからねえが「話が早え、だったら聞きたい事がある」」
「すいませんが私はあなたが知る以上のことを教えることはできません」
大きく跳んで距離を取り、改めて言葉を紡ぐ。
「改めて、さとり妖怪をやっています、古明寺さとりと申します。
さとり妖怪のことを智子さんはご存知のようですが、心を読む程度の能力を持つ妖怪です」
もっとも、今考えていることがわかる程度で、記憶の中まで覘ける訳ではないのですが、と付け加える。
少し過激な自己紹介。
「ビッチとは失礼ですね、髪の毛を染めるような奴はビッチ?これは地毛です。
ピンクは淫乱、間違いない?これは薄紫なのですが、光の加減ですかね……
そういえば地上にいる仙人は桃色の髪をしているらしいのですが、そうだとしたらおかしな仙人もいるものです。
あら、助けなければ良かった、というのは少し悲しいです……
改めて言葉にされるとそうは思えない?助かってよかった?ありがとう、あなたは優しい子ですね……
ふふふ、そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに……
"妹"が目を閉ざしたのは怖かったからだ。
その目に映るものの多くはあまりにも愚かで、汚くて、醜くて。
そんなものを見たくはないと目を閉ざした。
"私"が目を閉ざさなかったのは怖かったからだ。
その目に映るものの多くはあまりにも愚かで、汚くて、醜くて。
見たくはないそんなものでも、"家族"と生きるためには必要だった。
だから"私"は少しだけ深く、まばたきをする。
そんなことをしても読める心は表層意識だけで、普段と何も変わらないのだけど。
”無意識に”流れ込む心を読むのではなく、"意識的に"観察しようと考える時、なんとなくそうする癖が出来ていた。
仮にも命を助けてくれた"恩人たち"に対して失礼この上ないことは承知していたが、それを押しのけてでも見極めたいと考えていた。
少しだけ深く、まばたきをする。
命の掛かった場だ、本来ならばこのような粗い手段をとるべきではないのだろう。
それでも"恩人たち"には、自分がどのようなものなのか、知った上で行動を共にしたかった。
私がどういうものか、わかった上で行動するのと、そうでないのでは危険人物と遭遇した際のリスクが大きく変わってしまう。
多少胡散臭がられようと、煙たがられようと、これが命を守るための最善だと信じたかった。
少しだけ深く、まばたきをする。
見極めは終わった。彼女たちは信用できる。
そうして、私はまた、一人になった。
◇
「べ、別に悔しくねーし!!優しいだとか、嬉しくなんかなかったし!!」
首を振る、周囲を見渡す。
見えるのは一面の、半ばでへし折れた、木、木、木、木、木。
それだけだ。誰もいない。
あっれ、これちょっといい感じなんじゃないの?
私の時代キタコレ?
そんな感じに調子に乗り始めたと思ったらこれだ。
「き、期待なんてしてなかったし、むしろどうせこうなるんだろうなー、くらいに思ってたし!」
必死こいて自己防衛。
大して痛くなかったし~と、後付を重ねる。
あー、涙出てくる。
「あー、もう、私の寿命一年減らしていいからあいつら事故死しねーかな……」
いっそ世界とか滅びねえかなぁ……
そんなことを考えながら、とぼとぼと歩き始める。
やっべ、吐きそう。
【B-8/更地と化した森・東側/早朝】
【
黒木智子@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
[状態]:緊張・吐き気、膝に擦り傷
[装備]:なし
[道具]:基本
支給品,ランダム支給品0~1
[思考・状況]
基本行動方針:二人と合流する
1:智子とさとりを探す
2:死にたい
◇
「オーイ、智子ー!!さとりー!!」
一体どこに行きやがったんだ、と声を上げる。
見えるのは一面の、半ばでへし折れた、木、木、木、木、木。
それだけだ。誰もいない。
虫や鳥の騒ぐ声すらなくなった、不自然なまでに希薄な森。
重苦しい重圧に満ちた、死んだ森だ。
(それは違うぞ、流子)
「違うって何がだよ、鮮血」
相棒の言葉も何処か遠い。
何だってんだ、これは。
(気付いていないのか?二人が何処かへ行ってしまったんじゃない、お前が自分で歩いてここに来たんだ)
「ハァ?!何言ってるんだよ!」
【B-8/更地と化した森・東側/早朝】
【
纏流子@キルラキル】
[状態]:健康
[装備]:片太刀バサミ@キルラキル、鮮血@キルラキル
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに対する抵抗
1:智子とさとりを探す
2:鮮血の話を聞く
◇
"彼"は、南に向かって移動していた。
南などと言う概念を"彼"は知らなかったが、
そちらの方がより"美味い"土の在処だということを"彼"のものではない本能は理解していた。
("彼"自身は今まで土に美味い不味いがあるなどと、考えたこともなかった。)
"彼"と"彼じゃないモノ"の意思の一致による行動である。
途中、"彼"は自分以外の同族(のようなもの)を発見した。
"彼"自身は知る由もないことだが、
ちょうどいい感じの宝具をその手に"掴んだ"そのヒグマは、穴持たずではないヒグマと仮称されるものだ。
"彼じゃないモノ"の本能は、それを『殺せ』と命じた。
"彼"の本能と意思は、同族を殺すことを拒んだ。
まだ"一人"もアヤカシを殺していない"彼"には、"彼じゃないモノ"に逆らう余地があった。
(それを一人、と呼称するか、あるいは一体、一匹、一頭などと呼称するかは大いに好みが介在する余地があるものである)
だから、より"美味い"土を求めて、"彼"は南下を続けた。
まだ、"彼"は"彼"のままでいられた。
南下を続け、訪れた森には三人の存在がいた。
一人は"アヤカシ"であり、二人は人間である。
"彼じゃないモノ"の本能は、それを『殺せ』と命じた。
"彼"の本能と意思は、それに逆らう意味を見出さなかった。
だから、"彼"はそれを『殺す』ことにした。
しかし、"彼じゃないモノ"は、"人間"を傷つけることが出来るようには出来ていなかった。
だから、"彼"は息を潜め、気配を殺して、待つことにした。
殺すべきものが、一人になる瞬間を。
それが訪れるのは、すぐと言えるほどに短い時間の後で。
安心して"彼だったモノ"はそれに襲いかかった。
"彼"の意思など、そこには存在しなかった。
◇
「くっ!」
『殺せ』という思念を読み取った、その瞬間にバックステップを踏んだのが幸した。
直前まで私がいた空間は数十本にも及ぶ『枝』により串刺しになっていた。
あとほんの少しでも対処が遅れていたら、全身を貫かれていたのだろう。
……逃げ遅れ、穴の開いたこの右手同様に。
血すら流れない、その穴の痛みから目を背け、意識を凝らす。
そうでもしなければ見失ってしまいそうだ。
枝が縮んでいく。
その根元にはヒグマがいた、『穴持たず』と称されるほどの巨体。
それにも関わらず、その巨体は全く気配というものを発していない。
読み取れる思念もそぞろで、『戦い』どころかまるで眠っているかのように曖昧だ。
もしも『第三の目』のみを頼りにしていたならば、下手人は別にいると判断しただろう。
光を捉える肉の目は、その羆の咥えた木刀と『両の手』から伸びる『枝』を見つめている。
そして肉眼だけを頼りにしていたならば、ここにある二つ目の意思に気づけなかっただろう。
「鮮血さんと同じ九十九神ですか、それも寄生型とは性質の悪いものを」
樹木に纏わる伝承は多岐に枝分かれする。
その幾つかが目前の木刀に部分的に符合し、乖離している。
幾つものそれをひっくるめたような妖怪なのだろう。
なんてご都合主義。
再度伸び来る『枝』たちを、今度は余裕を持って避ける。
スリルと美しさに満ちた弾幕ごっこに慣れ親しんだ、幻想郷の住民を舐めてはいけない。
不意を突かれたならばともかく、単純に真っ直ぐ飛び交うだけの弾幕など当たる訳がない。
「ただ、その不意を撃たれないというのが難しい、というのはやっかいですね」
御神木という伝承がある。
神域の境界を示し、禁足地として人が踏み込むことを制限される。
それは人の"無意識に"潜む、畏れを駆り立てるもの。
目前の樹妖もまた、この性質を受け継いでいる。
智子と流子、二人と分断されたことに気付くことすら遅れてしまう。
まるで"無意識を操る程度の能力"のようなこれははっきりと厄介だ。
地面を突き進んできた『枝』を横に跳ね、避ける。
『学習』が進んでいる、長期戦は不利か?
「幸い、単純思考以上のものはできないようですし、避けるだけならしばらく持ちそうですが」
さとり妖怪の伝承には、ヒグマの身体をも殺めるような破壊力を持つものは存在しない。
人を襲うそれも『奇襲』を旨としたものであり、決してその膂力を担保してくれるものではない。
弾幕を放つ、着弾。
「弾幕ごっこであれば、これで終わりなのですが」
わずかに仰け反るも、ヒグマの厚い身体はビクともしない。
さとりは戦闘は余り得意ではないと自称している。
弾幕ごっこであればともかく、『殺し合い』における決定打を持たないのだ。
人間相手ならばまだしも、海千山千の妖怪や、穴持たずを前にしては分が悪い。
こうした場合、尻尾を巻いて逃げ出すのが一番の対処法なのだが……
「"無意識を操る程度の能力"の前ではそうもいきませんね」
背中を向けて、一度でも"敵"を見失えば、再度その姿を捉えることはできないかもしれない。
今は大きな"ピンチ"だが、同時に"チャンス"でもあるのだ。
だから、機会を待つ。
意識を研ぎ澄まし、敵の表層意識の海に浮かび上がるものを待つ。
少しだけ深く、まばたきをする。
◇
避ける、避ける、避ける、避ける。
爪も、牙も、その巨体も使わない、単純な『枝』による攻撃が続く。
時が経つに連れ『森』が死んでいく。
折れた樹木とはいえ、その幹も枝もまだ生きている。
人の死後も細胞は生き続け、爪や髪の毛など末端部分の成長が続くように、生命体としての死が確定していようとも細胞は生き続ける。
根を張る足から、貪欲にそのわずかな"生"をも食い漁りながら、穴持たずだったモノの攻撃は続く。
『学習』は続く。
単純に獲物に対して直線的に進むだけだった『枝』は、徐々に成長を続ける。
こういう風に伸ばせば獲物はこういう風に逃げる。
重ねられた経験からそんな計算が成り立ち、戦略性を帯び始める。
少しずつ、伸ばし切った『枝』を、回収せずに残し始める。
気付かれぬように、"意識の端にのぼらぬように"ひっそりと。
篭目篭目と網目を増やし、蜘蛛の巣のように逃げ場を無くす。
一種のごまかし、知性による罠。
ごまかしが限界に、その罠に獲物が気付くだろうその"境界"を見極めて、最後の『枝』を放ち、最初の『弾幕』を放つ。
名づけるならば、羆符『羆気猛進』
◇
その瞬間を、さとりもまた待っていた。
ヒグマを倒すことは、さとりには不可能だ。
だが、考えてみれば彼女にヒグマを倒す必要性は存在しない。
"彼女"の命を貪欲なまでに狙っているのは、あの"木刀"だけなのだ。
あのヒグマの心はむしろ平和そのものと言ってもいい。
満ち足りた心は無用な殺生を望むようには思えず、対処すべきは"木刀"のみであると考えてもいい。
とはいえ、直接"木刀"を狙っても意味は無い。
ヒグマの顎の咬合力は絶大であり、そうでなくとも頭を狙った弾幕など本能的に防ぐだろう。
それではヒグマの怒りすら買う逆効果。
だから、"彼女"は、待つことにした。
"木刀"による支配がヒグマの身体に及び、『枝』だけではなく"身体"をも攻撃の手段に用いる瞬間を。
かくして、彼女は"木刀"との勝負に勝った。
一瞬の隙を突いた彼女の"弾幕"は、ヒグマから"木刀"を引き離した。
めでたし、めでたし。
ガブリ
【古明寺さとり@東方project 死亡】
◇
さとりは一つ、勘違いをしていた。
それは、彼女の"心を読む程度の能力"が、過去にまで、記憶にまで及ばない、
今この瞬間考えていることしか読むことができないことから来た勘違い。
彼女は地霊殿の『家族』と、ヒグマを何処か重ねてしまった。
それが大きなミステイク。
彼女の見たヒグマは満たされていた。
故に心豊かでいられた。殺意なく過ごすことができていた。
だが、その平穏さは、"木刀"童子斬りに寄生されていたからこその豊かさだ。
飢えを失ったからこその平和主義だ。
"木刀"を失い、再び"飢え"を手に入れたヒグマは、"穴持たず"は。
迷い無く目前の"餌"に齧り付く。
バリバリ、ムシャムシャ、バキバキ、ゴクン。
ゲップ。
こうして、ひとりぼっちになる程度の気質を持った穴持たずは、美味しい餌にありつけましたとさ。
めでたし、めでたし。
【B-8/更地と化した森/早朝】
【穴持たず14】
[状態]:空腹
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:飢えを満たす
1:おいしかったー
2:ものたりないなー
[備考]
周囲にはさとりの支給品一式と童子斬りが落ちています。
最終更新:2015年02月05日 14:33