海上の戦い
「じゃあ私は無意識の内に皆と逸れちまったってことか?」
(ああ、流子だけではなくあの喪女も。恐らくは何者かによる干渉を受けたのだろう。
それが極制服によるものか、あるいはさとりの言っていた妖怪によるものかは分からないが、少なくとも影響を受けてないのは、そのさとりだけだろう)
鮮血の話を聞いた流子は舌打ちをした。
要約すると流子と智子は分断され。残ったさとりがその隙を狙われ殺害された。
放送でさとりの名が呼ばれた以上、間違いないだろう。
正直さとりには見透かされてる感じがして、気味が悪く関わった時間もそんなに無いが、それでも自分の近くで人が殺された事に怒りを覚える。
もし、その下手人……いや下手熊か? に会ったら敵ぐらいは取ってやろうと流子は思った。
「だとすれば、やばいな。智子の奴無事だと良いんだが」
極制服を持たず、妖怪という奴でもない智子は今完全に無防備だ。
マコのように修羅場慣れもしてないし悪運も強いか分からない。
早く探さないと熊の餌になってるかもしれない。
(落ち着け流子、今のところ名前は呼ばれていないのだから、最低限の身の安全は守れている環境に居る筈だ)
「それはそうだけど」
(勿論、早目に合流すべきなのは確かだが……その前に我々が死んでは元も子も無いぞ!)
鮮血の叱咤で流子は異変に気付く。
周りを見渡してみると、流子は熊の群れに囲まれていた。
それも空腹から餌を求め集まっただけの熊とは違う。
野生さはまったく感じられず、むしろフォーメンションまで組んでいる。
「なんだこいつら。この動き……本当に熊か?」
(多勢に無勢、撤退するべきだ流子)
「分かってる!」
左手のグローブの線を引き鮮血に血を吸わせる。
次の瞬間、鮮血が光り津波が押し寄せてくる。
「? おお、凄いな鮮血。とうとう津波まで……」
(違うぞ流子! これは私では―――)
「は?」
波は熊達もろとも流子と鮮血を飲み込み、全てを流し去っていった。
――――
帆船が一隻浮かんでいた。
津波の影響からか、未だ穏やかとはいえない海をその船は物ともしない。
船自体は古いもので、中世の時代に作られたかのようなデザインだが、ところどころに現代技術も顔負けなハイテク技術が施されており。
麦藁帽子を被った髑髏が書かれた巨大なマストと、百獣の王ライオンを模したがとても印象的だ。
船の名はサウザンドサニー号。かの有名マンガに登場する船だ。
といっても、これはお台場にあった物がたまたま津波の影響でヒグマロワの会場に流れてしまったものなのだが、その機能は本家に引けを取らない。
現に今、海に浮いてるのがその確固たる証拠になるだろう。
「何処だここ」
その船の上で
ヴァンは一人愚痴っていた。
つい先ほどまで宇宙で戦闘をしていたと思ったら意識が反転。気が付いたら、妙な船の上に居て津波に巻き込まれていた。
船が横転し、沈没しなかったのは不幸中の幸いだろう。
「こっちはカギ爪を殺さねえといけないってのに」
婚約者の敵を目前にしながら変な事に巻き込まれてしまうとは。
我ながら、自分の不運さを呪いたくなってくる。
「……船か」
「お、おいアンタ! 船に乗せてくれ!!」
「ん?」
腹も減ったので魚でも釣ろうかと思ったその時である。
でかい片方だけの鋏を持った女と、何処かただならぬ雰囲気を漂わせた男が泳いで船に近づいてきた。
無視しようかとも思ったが、ここが何処か聞くためにもヴァンは船に積んであったロープを二本持ち出し、二人の男女へ放り投げた。
――――
「ありがとう、助かったよ」
「……礼を言う」
ヴァンは改めて自分が吊り上げた二人の男女を見つめる。
女のほうはぶっきらぼうながらも礼儀正しくもあり、まあ普通だろう。
だが、もう一人の男の方はなんか魚を抱きしめながらさわさわしている。
何か魚も頬を赤らめてビクビクしてる気がするが、魚がビクビクするのは当然のことだろう多分。
後でこの魚は焼いて食おうとヴァンは思った。
「
鷹取迅」
「ヴァン、今は夜明けのヴァンで通ってる」
その内魚を持った男が名乗りあげる。
すぐさまヴァンも同じように名乗り返す。
そんなやり取りをみた
纏流子も、また名乗ろうと口を開いた時。
「ただの痴漢だ」
「……そうか、俺は童貞だ」
ん?
今、痴漢って言ったのは気のせいだろうか。
そうだ気のせいだろう。間違いない自己紹介で痴漢と名乗るなんてそんな……
「痴漢だ」
だが気のせいでは無かった。
かつて
駆紋戒斗が困惑し、無理やりながらに仮説を立てたように流子もまた強引に仮説を立てる。
つまり、これは今巷で自己紹介で性的な事を言うのが流行っているのだと流子は納得した。
「わ、私は纏流子……。そ、その……しょ、処女だ!」
「やめろ、はしたない」
頬を赤らめ恥ずかしさに耐えながら、流行に乗ろうとしたら童貞にはしたないと言われる。
世は理不尽だと流子はしみじみ思った。
「ところでその魚、食っていいか?」
「ああ、犯(く)って良いぞ」
そんな乙女の恥じらいは露知らず、痴漢と童貞は噛み合ってるようで噛み合わないような会話を続けている。
この場に某インキュベーターが居れば、訳が分からないよと溜息を着いていただろう。
ヴァンが魚を手にし厨房に入り火を炊こうとしたその時。
船が大きく揺れた。また津波かと海を確認するが、相変わらず荒れているが津波のようなものは見られない。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
「なんだありゃ?」
(流子!)
「分かってる。見とれてる場合じゃないね!」
今度こそ津波など起こらずちゃんと鮮血を起動させた流子。
上半身はその豊満な胸をサスペンダーだけで隠し、スカートは中が見えるほど短く肝心のパンツは尻の谷間に食い込むというとても破廉恥な姿に変わったが。
これこそが、流子と鮮血の「人衣一体」神衣・鮮血!!
片太刀バサミを手に取り構えタイラントを睨む。
「下がってな」
「何?」
だがそんな流子を制しヴァンが一歩前へと踏み出す。
頭のテンガハットの鍔に付いた輪に指を引っ掛け、テンガハットを左から右へと回す。
腰に巻きつけてあった蛮刀を撓らせ、Vの字を描くように空を切る。
怪獣が相手ならばウルトラマン。ではそのウルトラマンが居なければどうする?
簡単だ。巨大ロボットを呼べばいい。
遥か彼方の宇宙より。大気圏を付き抜け、天を裂き、白銀の剣がロワ会場へと振ってくる。
それは人の形へと変形してゆき、胸部のコックピットを開け主を待つ。
ヴァンはそのコックピットへと乗り込もうとし―――
「あれ?」
否、乗り込めなかった。
理由は明白でヴァンが呼んだロボット―――正式な名称はヨロイだが―――ダン・オブ・サーズデイは縮んでいたのだ。
当然である。巨大ロボットや怪獣、というかタイラントだって縮んでいるのだから、新規枠も当然それに合わせなければならない。
縮んだと言っても、人間大のサイズになっただけであり、ちゃんと動くのでハンデは然程無いが。
―――乗れないのだ。乗れなければどんなロボットもガラクタ同然。
「これ玩具じゃ……」
「……どうなってんだ?」
さてどうしたものかとヴァンが首を傾げる。
流子は呆れ、片太刀バサミをしっかりと握りなおす。
その横で小さな数センチ程の二人組みが、ダンのコックピットへと乗り込んだ事に二人は気付かなかった。
「? ダンが動いた!?」
「は?」
流子がタイラントへと切りかかろうとした次の瞬間、ダンが動き出す。
一人と一匹の間に割って入り、装備していた刀の一閃をタイラントへとお見舞いしていた。
「親父! こいつは中々良いイェーガーだぜ!!」
「だな! これでストライカー・エウレカを食った熊野郎にも仕返しが出来るな!!」
「だがその前にKAIJU退治だぜ!! 行くぜ再戦(リターンマッチ)!!」
ダンのコックピットへと乗り込んだのは、数センチにまで縮んだあのハンセン親子である。
浅倉にストライカー・エウレカを食われた二人は即座に脱出。
小さい体ながらもこのロワを生き抜き、やっとの思いで新たなイェーガーことダンを見つけたのだ。
「ふざけんな! おい返せ! 俺のダンだ!!」
ヴァンが激怒しながらダンの中に居るハンセン親子へと叫ぶ。
しかし、ハンセン親子は一向にダンから降りようとしない。
「少し間こいつを貸してもらう。アンタじゃ乗れないし良いだろ?」
「馬鹿だろお前! 誰が貸すか! 良いから返せ!!」
「ヒャッホー!! こいつ思った通りに動くぜ!!」
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
「俺の話を聞けええええ!! てか何で乗れるんだお前!!!」
本来ならば適性のある者か、改造を施さなければ乗れないダンだが
制限によりサイズが合えば誰でも―――真に乗りこなせるかとともかく―――ダンに乗れるということをヴァンは知る由も無かった。
更に横方から謎のライフルが発射されダンを吹っ飛ばす。
「馬鹿、お前早く電磁シールドを張れ!!」
「え? 電磁? 何だ一体?」
「やっぱお前ら、早くそこから降りろ!!」
ダンを狙い打った遥か上空。
そこには青と白のあの機動戦士ガンダムがあった。
「グオ!」
ガンダムのコックピットに乗るのは勿論ヒグマ。
このガンダムはかつてはサニー号と同じくお台場にあったものだが、サニー号同様津波で流されてきた。
たまたま、それを見かけたヒグマがガンダムに搭乗し操縦をマスター。
制限によりガンダムは人間サイズに、ヒグマはそれに乗れる程度にまで収縮してしまったが、それでも尚この戦力を誇る辺りは流石ガンダムである。
「親父!! 見ろよガンダムだ!!」
「何故こんな場所に……だが今のあれはKAIJUと然して変わらん。
イェーガー乗りとして必ず倒すぞ!!」
「OK親父!」
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
「ヒグマ、行きまーす!!」
「てめえこの野郎! ダンを返せ!! この!!!!」
こうして怪獣とロボット二対の乱闘が幕を開けた。
【会場内 お台場から流れてきたサウザンドサニー号/朝】
【暴君怪獣タイラント@ウルトラマンタロウ】
状態:疲労(小)、ダメージ(小)、飛行中
装備:なし
道具:なし
基本思考:己の本能のまま暴れて、ウルトラ兄弟を倒す。
1:暴れる
[備考]
※タイラントの持っていた
支給品は津波によってどこかに流されてしまいました。
※制限の影響なのかはわかりませんが、身長が縮んでいます。
【
ハーク・ハンセン@パシフィック・リム】
【
チャック・ハンセン@パシフィック・リム】
状態:健康
装備:ダン・オブ・サーズデイ@ガン×ソード
道具:不明
基本思考:イェーガー乗りとしてKAIJUを倒す。
1:目の前の連中を倒す。
2:浅倉にいずれ借りは返す。
※制限で二人とも数センチ大です。
※今のところダンは動かせますが乗りこなせてはいません。
【ガンダムに乗ったヒグマ】
状態:健康
装備:お台場のガンダム@お台場
道具:不明
基本思考:ヒグマ、行きまーす。
1:目の前の連中を倒す
※制限でガンダムは人間サイズ、ヒグマはそれに乗れるほどのサイズになっています。
【ヴァン@ガン×ソード】
状態:健康
装備:蛮刀@ガン×ソード
道具:魚@現地調達
基本思考:帰ってカギ爪を殺す。
1:ダンを取り返して元の大きさに戻す。
目の前でミニチュアサイズの怪獣が現れたと思えば、空から更にミニチュアサイズのロボットが降ってきてガンダムまで乱入してきた。
なんかもう突っ込みどころがありすぎて逆に突っ込めない。
流子は一歩引いて、その戦いを観戦しながらそう思った。
「たくっ大丈夫かな智子の奴」
他もこの調子なら智子が巻き込まれた場合、考えたくはないが死んでしまう可能性は高い。
さっさと海上の有効な移動手段を見つけなければならない。
最悪飛べないことも無いが、目立つし空中で狙い打たれる可能性も高い。
「つってもあまり悠長な事も言ってられないな」
しばらくここで移動手段を探してそれでも何も無ければ飛んでいく。
そう考えた流子は船内へと探索しに入る。
「!?///」
その時、背後に気配を感じたかと思えば、胸を撫でられた。
ただでさえ、素肌を露出しているのだ。その感度は服の上のものとは比べ物にならない。
乳房を甘い感触が刺激する。
「こ、の!」
流子は片太刀ハサミを振って背後の痴漢を撃退しようとするが、そのあまりにも高度な痴漢テクニックにより走った感触に気を取られ、大きく空ぶってしまう。
撃退は諦め、脚力に全神系を傾け前方へと転がるようにして駆け出す。
痴漢の魔の手から流子は抜け出し、背後の痴漢へと片太刀ハサミを向けた。
「私に、手を出すなんてね!」
痴漢、鷹取迅は流子に睨まれながらも涼しい顔をしている。
相手は神衣により超人的な力を得て、真っ向から戦えば鷹取迅の敗北は必須だ。
それを理解できない鷹取迅でもない。だが、痴漢は静かにゆっくりと一歩ずつ流子へと歩んでいく。
「お前は俺と同じ逸脱者だ」
「え? 何言ってんだコイツ」
いきなり痴漢してきたと思ったら同類扱いされた。
怒りを通り越して呆れというか意味が分からない。
「その服装、求めているんだな。共に行こう、高みへ」
(何言ってんのこの人……)
やばい。
今まで様々なピンチや逆境を経験したが、これ程までに身の危険を感じたのは初めてだ。
痴漢に襲われて恐怖する感情とは、こういうものなのだろうと流子他人事のように思った。
(逃げろ。流子、この男は危険すぎる!!)
「分かって―――な?」
「遅い」
以前、穴持たず00に対して行ったのと同じように。
一瞬の内に懐へと入り込んだ鷹取迅。
突然の高速移動に流子は反応しきれず、ただ痴漢のデモンズハンドを受け入れるしかなかった。
「!?」
鷹取迅の手が流子に触れる瞬間、鮮血がその口を開け鷹取迅の手に噛み付こうとする。
(今だ、流子!)
「悪い、鮮血!」
咄嗟に手を引っ込めた隙に、流子は壁に片太刀ハサミを叩きつけ穴を空け鮮血の飛行形態「鮮血疾風」を使用。
穴からサニー号を脱出、鷹取迅から逃げ延びた。
「俺もヤキが回ったか」
鷹取迅は自嘲気味に呟く。
まさか狙った獲物に逃げられるとは。
もしや自分の目利きが鈍っていて、彼女は逸脱者とはまだ別の存在なのだろうかとすら思えてくる。
「どちらにしろ、次会った時にそれは分かるか」
鷹取はそのまま船内を進んでいく。
彼もこの場にずっと留まっているつもりはない。
この先に居る。まだ見ぬ、逸脱者達と出会わなければならないのだ。
大きい船だ、小船の一隻や二隻はあるだろう。
「纏流子、か……」
【会場内 お台場から流れてきたサウザンドサニー号内部/朝】
【鷹取迅@最終痴漢電車3】
状態:健康
装備:デモンズハンド(痴漢を極めた男の手の通称)
道具:基本支給品、ランダム支給品×0~1、「
HIGUMA計画ファイル」
基本思考:己と共に高みへと上ることの出来る、社会、生物などの枠組みから外れた「逸脱者」を見つけ、そのものに痴漢を働く。
1:会場を自由に動ける小船を探す。
2:纏流子……次会った時は……
【会場内 上空/朝】
【纏流子@キルラキル】
[状態]:健康、鮮血疾風使用中
[装備]:片太刀バサミ@キルラキル、鮮血@キルラキル
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに対する抵抗
1:智子を探す
2:痴漢(鷹取迅)を警戒
最終更新:2015年11月18日 13:41