傍迷惑 ◆TIENe3Twtg



森のより深くに向かっていた足が止まる。
理由らしい理由はなにもない。
ただ"なんとなく"そこに向かう気が削がれた。

元々、そちらに向かう意思すらもなんとなくでしかなかったのだ。
ならば、わずかにでもケチが付いたその指針に従う必要はない。
強い目的と意志があれば撥ね退けられた、"隔離"に無意識に従って。
ヒグマの背から飛び降りる。
未来ではなく今、この場で出来ることを選択し、睨みあう。

「■■■■■■■■ーーーーッ!!」
「■■■■■■■■ーーーーッ!!」

獣達の叫び声が交差し、交錯する。
友情はケンカを妨げる要素にはなりえない。
意味のないケンカ、純粋な力比べ。

ある意味で誠実であったからこそ、彼は獣となりたかったのだ。
主従関係なんていっそ無視して、ケンカの一つもやってみたい。
かつての"主"とやれなかったことを、今の"友"に望んでいる。

人型を模るモノとヒグマ、大きさに伴う力の差は歴然としていても、その激突は全くの互角と言っていい。
先に倒れた方が負け、そうでなくとも一歩でも引いた方が負け。
そんな腕力思考の、それゆえに誰かを魅せる"グラップラー"のごとき闘いがそこにあった。

「■■■■■■■■ーーーーッ!!」
「■■■■■■■■ーーーーッ!!」

一撃が入る毎に、力に耐えられぬ軟弱な地面がひび割れる。
一撃を受ける毎に、それがどうしたと更なる一撃が返される。
そこに明確な戦う理由など存在しない。
強いて言うなら”殴りたいから殴っている”のだ。
目前の相手を”友”と認めるからこそ、闘いは終わらない。

「■■■■■■■■ーーーーッ!!」
「■■■■■■■■ーーーーッ!!」

自然の法則、それは"大きいほど強い"と示している。
この法則に則れば、狂戦士はヒグマに対して為す術を持たないということになるだろう。

だが、それがどうしたというのだ!

この場にある二つの獣は知っているのだ!
この法則を覆す研鑽の意味を。
入山者の技を喰らった"ヒグマ"と、戦場を駆けた"狂戦士"の間には互角の闘いが繰り広げられる。

「■■■■■■■■ーーーーッ!!」
「■■■■■■■■ーーーーッ!!」

狂戦士に刻まれた無窮の武練A+のスキルは狂化しても尚、その存在の技量を保証する。
総ての技と力を持ってして、いなし、返し、受け止め、捌く。
狂いながらも喜気として、更なる力を供給しながら力比べは続いていく。

「■■■■■■■■ーーーーッ!!」
「■■■■■■■■ーーーーッ!!」

対するヒグマ・オブ・オナーも然るものである。
範馬勇次郎に匹敵するとも言われるその"力"は常識の計りには収まりきらない。
宇宙は光の速さで膨張していくという、ヒグマもまたそれほどの成長性を裡に秘めている!
一つの時代で名を馳せた英雄たちの集団"円卓"、その中でも最強の狂戦士の"武"の尽くを、彼は"喰らい、肉とする"。
足捌き、呼吸法、目線の動き、瞬く間に詰まるアドバンテージにも狂戦士は怯まない。
もとより、獣のごとくあるがために騎士は狂戦士として肉を得たのだ。
そして己の全霊をぶつけ合える敵手は、眼前にある。

「■■■■■■■■ーーーーッ!!」
「■■■■■■■■ーーーーッ!!」

超越者、狂戦士の目には目前のヒグマはそう写る。
そうだ、このようなモノにこそ、彼はぶつけたかったのだ。
衝動を、妄念を。
父に甘える子どものように、己の総てを吐き出して尚、揺るがぬ強さ。
それはかつて、彼の偉大なる騎士王に抱いた"信"にも似てその目に写る。
内より湧き出る衝動に身を任せ、二匹の殴り合いは続く。
互い以外はその目に留まらず、ただただ今この瞬間を噛みしめながらに

「■■■■■■■■ーーーーッ!!」
「■■■■■■■■ーーーーッ!!」


ハアッ、ハァッ、と粗い息だけが木霊する一室がある。
座するは間桐雁夜、軟禁状態の彼にできることは何も無い。
鍵すら掛かっていない一室であるが、そこから脱出するという手段を彼は選ぶことができない。

その待遇は良好なものとは決していえないが、劣悪と称するほどのものでもない。
部屋に設置された家具類は豪奢とまでは言わずとも平均的なそれであり、
定期的に供給される食事もまた、そこそこの味と栄養バランスの取られたもの。

彼に求められているのは"バーサーカー"の燃料タンクとしての役割、それだけだ。
その体調管理はむしろ"マキリ"の中にあった頃とは比べ物にならぬほどの良好さともいえた。
だが、それだけだ。
彼には何一つ為すことは許されない。

『そうだね、なんの報酬もなければ頑張る気も起きないか。自殺されてもつまらないし……そうだ。
 もしもバーサーカー、●●スロットが最後の一人になれたのなら。君の願いを叶えてあげよう。
 だから張り切って血反吐を吐いていてくれ』

その言葉に価値はないと知っていても、信用するに値しないと理解していても。
彼にできるのは縋ることだけだ。

「頑張れ、バーサーカー……!」

扉のカギは開いている。
だが、その先にはヒグマがあった。
遠間より聞こえた悲鳴は、自分以外のマスターが逃亡に失敗した結果だろう。
腐っても一流の魔術師である彼らでさえ太刀打ちできぬ存在に、魔術師として二流にも劣る自分が敵う理屈は無い。
彼にできるのは祈ることだけだ。

「大丈夫、俺のバーサーカーは最強なんだから……!」

臓腑より込み上げるモノを堪え切れずに吐き出す。
あらかじめ床に設置していたバケツの中では、ピチピチと威勢よく虫が跳ねていた。
自分で設置したそれに対し、おかしなところに気を配る、ほんの少し前の自分の姿が思い出され、わずかに口角が釣りあがる。

戦場で何が起きているのか、雁夜に知る術は無い。
ただ、その魔力消費の激しさのみが激戦を予感させる。

その身に宿る令呪を抱き、ただ時を待ち、何とも知れぬモノに漠然とした祈りを捧げる。
歯を噛みしめ、悲鳴を噛み殺しながら、意味のない祈りを捧げる。
それ以外に、彼にできることなど何も無かった。


【早朝】
【間桐雁夜】
[状態]:魔力消費中、苦痛
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:耐える
1:俺のバーサーカーは最強なんだ!!(集中線)
[備考]
参加者ではありません、主催陣営の一室に軟禁されていました。
有冨春樹らが既に死亡していることに気付いていません。
魔力不足で気付いたら死んでいるかもしれません。


楽しい時間は長くは続かない。
ぴたりと闘いが止む。
"なんとなく"向かう気が削がれた、その"なんとなく"の感覚が消えていた。

互いのみを見据えていた視線を翻し、狂戦士とヒグマは森へと北上する。
マスターである、雁夜の貧弱さを彼は知っている。
今は選べるのならば、狙うのは強敵よりも弱いエサだ。

命を繋ぐために、もっとこのケンカを続けるために。
命を狩り、この偽りの命を繋ぐために。
ほんの数刻前まで森であった場所へと飛び込んだ。

奥に進めば進むほど、"枯れて"いく景色など気にも留まらない。
なんとなしに、"武器"足りえる何かと、"餌"足りえる何かのみを探しながら駆け上がる。


齧り付いたエサを綺麗に平らげながら、穴持たず14は行く。
たったこれだけのエサではその"飢え"を満たすには到底及ばない。
"美味いエサ"の存在を知っているのだから尚更だ。
記憶と鼻に新しく残る"美味い"匂いを頼りにヒグマは追跡していく。

しかし、この地面は邪魔だ。
そこかしこに倒された木々は移動を邪魔する障害以外の何物でもない。
それなりの樹齢を重ね、倒れた木々は払いどかすには面倒で、乗り越えるのも億劫だ。

ふと、直前の記憶を探り出す。
鮮明な記憶、されど自身の意思の介在せぬ、不快極まりない記憶。

記憶の中で、エサは飛んでいた。
長く飛んでいたわけではなく、高く飛んでいたわけでもない。
それでも、現状に相応しい移動方法だったように思える。

だから、記憶に新しいその姿を真似るようにして。


彼は飛んだ。

【B-8/更地と化した森/早朝】
【穴持たず14】
[状態]:空腹、スイーッと空を飛んでいる。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:飢えを満たす
1:おいしかったー
2:ものたりないなー
[備考]
周囲にはさとりの支給品一式が落ちています。
智子と流子を追っています


彼がバーサーカーでなければそうはならなかったのだろう。
枯れ果て、空ろになった樹木から枝を折ろうなどと考えるわけも無く、結果として拾うのは"木刀"。
そこに落ちていた"木刀"が何なのか、どうしてそんなものが落ちているのか。
そんなことを考える理性は狂化により失われている。

彼が彼でなければ、あるいはそんなことは起きなかったのだろう。
狂戦士の宝具、騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)は 、
彼が罠にかかり丸腰で戦う羽目になった時、拾った楡の木の枝だけで勝利したというエピソードの具現である。
あまりにもわかりやすく"武器"の形を持った"枝"を拾ったのは至極当然の流れだ。

そして宝具であれば英霊ほどの高位存在に対しても"極めて有効に働きうる"。
"格"こそDランクと粗末なものであれど、神秘の存在しない世界から紛れ込んだ"それ"に神秘を与えてしまった。

彼が彼であることができれば、そんなことは起きなかったのだろう。
"鬼斬り"第伍世代十六号、枝分かれと劣化を重ねた模造品とはいえ、
"それ"と同一の性質を持った"木刀"を完全に制御しきったキマイラの少年のように、強力な意志の力で抑えきれたかも知れない。
求められるそれを狂化された身に求めるのは余りにも酷だった。

そのどれもが不足していた今だからこそ、ここで起きたのは必然だ。

力持つ"木刀"が地中より活力を"バーサーカー"に与え、満たし始める。
満たされた分だけ、"彼"が失われていく。
魔力切れによる消滅という興ざめな終わりは既に無い。

だから彼は安心して、衝動に身を任せる。

すぐ近くにある、"人ではない友"を


殺そう。




闘うではなく、殺そうと。わずかに歪んだその衝動に気付くことは、今の彼にできる筈もなく――――


「■■■■■■■■ーーーーッ!!」
友よ、一体どうしたというのだ、そんな意を載せた叫びが挙がる。

卑怯だと思ったわけではない。
それは人間の発明した概念だ、"なんでもあり"は自然界のルール
何一つ禁じ手など存在しない。
木刀を拾ったこと、即座に切りかかってきたこと。
自分の身体にキレイに空いた穴。
そのどれもがどうでもいいことだったが、はっきりと彼は怒っていた。

無毀なる湖光(アロンダイト)の一振りが彼を襲う。
曲線的で直線的な、弧を描く一閃を四本の爪を以てそらし受ける。
ランクA++の神秘を秘めた長剣を真っ向から受けるのは無謀に過ぎる。
それでも、彼はヒグマ・オブ・オナー。
彼自身の爪は、牙は、肉体は、ランクD相当の神秘を帯びている。
三本の矢の故事のように、一つでは成す術なくとも幾重にも重ねれば、やりようはいくらでもある。

受けに回るのみでは終わるはずもない、ヒグマもまた狂戦士へと"武"を返す。

巨腕がしなる。
飛び退き狂戦士は、その攻撃を"避ける"。
それがなによりも気に食わない。

二度、三度と続くそれが気に食わない。
ケンカを外れた今が気に入らない。

これは自然界のルールではない、いうなれば力比べの"俺ルール"。
技を尽くせ、力を尽くせ、その全てを受け止めろ。
ケンカのルール、その場限りの約定。
それが覆された、それがなによりも腹立たしい。
だから、殴りつける。叩けば直るだろう、直らなくても"これ"はいなくなる。
シンプルな感情表現。

狂戦士が木刀を振るう。
うねり、伸びる、鞭のように柔らかい軌道を見切ることは難しく、

「■■■■■■■■ーーーーッ!!」

ヒグマは叫びを挙げる。
そも、見切る必要など無いのだ。
貫かれた左腕をそのままに、左の手にて木刀を掴む。
避けるのならば、捕まえればいい。

もう、逃げようが無いだろう?

右の巨腕がしなる。

それはかつて山に訪れた挑戦者の技。
血と、肉と、骨の理では収まりきらない暴虐も"神秘"の宿る今ならば、扱える筈だ。
ヒグマの肉体を以てしても尚持てあます、魔法のごとき技。

多関節を想像する。想像が肉体を屈服させ、空想が現実へと浸食する。
小さきモノがヒグマに与えた衝撃は甚大で、それ故真似し、封印した禁忌。

一つ一つの関節はカタパルト(射出装置)加速する、加速する、加速する。
空想の多関節は前へ前へと押し上げる。加速の意志は音の壁を乗り超える。
握力×体重×スピード=破壊力。
単純な方程式に規格外のスピードが書き込まれる!

「■■■■■■■■ーーーーッ!!」

マッハ突き。
叫び拳を解き放つのと、狂戦士が楔より放たれるのはほぼ同時だった。
万力のごとく締め付けるヒグマの手は決して木刀を手放そうとはせず、狂戦士もそれを手放すという選択を持たない。
だから半ばで切り落とす。
アロンダイトは掴まれた"枝"を切り落とし(どうせすぐに生長するのだ、長さは問題にならない)
自由を得た狂戦士はヒグマの巨腕を掻い潜る。

それでも、なにも問題は無かった。

巨大な破裂音と共に、避けた筈の狂戦士の身体が揺らぐ。
巨大であるというのはそれだけで暴力だ。
直撃せずとも、空気を叩き、伝わる衝撃は一つの打撃として成立する。
揺らぐ身体に、力任せの巨腕が叩き込まれる。

追い撃ちが続き、狂戦士は体勢を正すことすら間に合わない。
地を踏みしめることもままならぬ体勢で、剣を振るうことは適わない。
肉を切らせて骨を絶つ。
せめてもの反撃と、姿勢など無関係に蠢く木刀は伸び貫けど、己が左腕を盾として使い潰すヒグマには及ばない。
何回も、何回も、一方的な攻撃が続く。


ゆらぐ、ゆらぐ、ゆらぐ。


ぶつかるたびに、あたたかいナニカが、からだをめぐる。
ちからづよい、ナニカが、からだをめぐる。
ナニカが、からだをささえている。


ヨロイはくだけなくても、なかにある、ニクは、ホネは、くだけて、ひしゃげて、つぶれて、おれて。


それでも、カラダはうごく。ココロも、うごきたいといっている。


だから、まだいきている。


バキ、ベシャ、グシャリと。
やわらかいブブンをこわしながら、ぶつかるりずむは、こどうのようだ。


どくん、どくんと、ゆさぶられるようで。
だいじなものが、こぼれおちるようで。


ぶつかるたびに、あたたかいナニカが、カラダをめぐる。
ちからづよい、ナニカが、カラダをめぐる。
ナニカが、カラダをささえている。

だから、まだいきている。
まだ、いきている。


壊すというのは楽しいことだ。
戦うということは壊すと同義で、やはり楽しいことなはずだった。
だというのに、今は楽しさよりも気持ち悪さが勝っている。

爪で斬りかかっても、牙を突き立てても。
割れもせず、斬れもしない、へこみもしない。鎧はその役目を完璧なまでにこなしていた。
それでも尚、衝撃はその内側に間違いなく徹っているはずであり、
事実そのスキマからは血とも肉ともつかぬ、グジュグジュとしたモノが溢れてきている。
手ごたえもある。
肉はもちろん、骨まで届いたと確信する手ごたえもいくつもあった。

だというのに、狂戦士の動きに鈍りは見られない。
まるで効いてなどいないかのように、変化が見受けられない。
それどころかその感触は、徐々に、少しづつ、生き物のそれとはまた別種の硬さを帯び始めている。
ほとんど一方的に殴りつけているのに、追い詰められているのはこちらなのかと、錯覚してしまいそうになる。

これこそが狂化の恐ろしさ、死兵のおぞましさ。

ケガや痛みは勘定に入らない、動くか動かないか、生きているか死んでいるか。
10と0しか存在しない、歪な在り方。

ほんの少し前、拳を交え、築いたはずの友情もあまりにも遠い。
なまじ正しい形を知っていただけに、歪さが畏れすらも呼び込みいれる。

だからそう、焦ってしまったのだ。
距離を取る、間合いを合わせる。
一刻も早く終わらせたいと、願ったのは初めてだった。
勝ち以外知らないヒグマにとって、長引く戦いは歓迎する事態でしかなかったのに。

右の巨腕がしなる。
彼の知りうる最強の威を持つ魔法。
マッハ突きが、狂戦士に突き刺さる。


あながあく。

あながあく。

あたたかい、ナニカがながれてくる。

ながれたナニカのぶんだけ、カラダがなおる。

ながれたナニカのぶんだけ、チカラがわく。

なおったぶんだけ、ココロがこぼれる。

チカラのぶんだけ、ココロがこぼれる。


強ければできることが増える。
強くてもできないことはある。
当たり前なこと、どれだけ力が強くても、自分が乗ったイスを持ち上げることはできない。
その魔法もそういう類のものだった。

ヒグマの渾身の一撃を、狂戦士はアロンダイトにより受け止め、大きく後ろへと弾かれる。
絶対に刃が毀れることのない名剣は、ヒグマの魔法を以てしても不壊を貫き、しかし持ち手は失われる。
アロンダイトを掴んでいた腕は破壊に抗えず、ひしゃげて、折れて、役目を終える。

「■■■■■■■■ーーーーッ!!」

追撃の機会に獣は吠える。吶喊だ、突貫だ。
駆けながらに気付くのは、あまりにも傷ついた己が身体。
大小さまざまな幾つもの穴が空いた左腕。
奇怪なことに凶器の抜けたその後も、一切その肉には収縮が起きず、塞がる素振りは欠片も存在しない。
血の一滴も垂れぬ奇怪な腕は、乾きもののように干からびている。

右腕もまた、それと同等か、それ以上に酷い。
どれだけの剛腕を誇ろうとも、その強さに比例して負担も増大する。
壊れぬものを殴り続けた代償に加えて、最期の一撃。
その時にはナイト・オブ・オーナーは解除されていた。
友のことすら、わからなくなっていた。

神秘の加護を失った右腕の肉は弾け、骨が剥き出しになっている。
左腕とは違い、垂れ下がった肉片も、流れ続ける血液も"生"を主張している。
まだ続いている命。確実に失われていく命の証。

それでも闘志は失われない。
生まれついての勝者であるヒグマに敗北の選択は存在しない。

握力×体重×スピード=破壊力。
腕を失い軽くなった身体は普段以上の速度で駆ける。
失い、軽くなれども、尚その身体は超重量級。
下手な乗用車よりも重い身体はそれだけで一つの凶器だ。

穴があく。

距離を無視して伸びる木刀は、幾つもの穴を胴体に開けていく。

「■■■■■■■■ーーーーッ!!」

それでも、怯まない。
高揚した精神は貪欲に獲物を求める。
吶喊だ、突貫だ。


肉塊が転がっている。
狂ったように空いた大小様々な無数の穴からは、奇妙な事に一滴の血液すら流れない。
穴の開いていない面積の方が少ないほどに、傷口は深く、多い。
何もサディスティックな、あるいは猟奇的な加害者の性質によって、そうなったのではない。
その生物の強力すぎるほどの生命力の頑強さは、それほどの穴が空くまで、生命を手放さなかったのだ。
完全に死亡が確認されるまでの間、執拗なまでに攻撃は加えられた。

そして、それだけの成果を狂戦士は確かに得ていた。

血吸い桜の伝承。
桜が何故あれほどに見事に紅いのか、きっと人の生き血を啜っているんだろう。

木刀がヒグマから啜った生き血は、彼に力を与えた。
闘い、刻まれた筈の傷跡も、その鎧の下には既に存在していない。
ウジュウジュと、這い回る枝が塊りとなり、失われた空間を埋めていく。

もう一つ、大きな変化がある。
狂戦士は、"木刀"を持って、ヒグマを殺した。
山の神と同一視されるほどの、アヤカシを殺した。

それが鍵となって、"木刀"の侵食が、同化が、寄生が深まる。

彼の肉のより深くに、その"根"が這いり込み。
彼の心のより深くに、その"意志"が取って代わる。

そんなことにも、彼は気付けない。
多くを失った、彼の裡に残るのは、たったの二つだけ。

誰か、"友"とここにいた筈だった。
影も形も残らない、そんな漠然とした印象と。

"バケモノ"を殺さなければならない。
どこからか芽生えた、そんな思考だけだった。

どれほどに我を失おうとも、その身に刻まれたスキルは失われない。
現状を省みて、もっとも効率的な移動手段を選択する。
末端より、"枝"が伸びる。
伸びる"枝"は遠く地面に突き刺さり、急激に収縮する。
遠い世界で、立体起動と言われたそれにも似た動きで、バーサーカーは飛んだ。

目指すのは火山。
天然のマナラインの収束地点という絶好の養分源であり、この場からでもわかるほどの、巨大なアヤカシの方角である。

【ヒグマ・オブ・オーナー(羆は徒手にて死せず)だったヒグマ 死亡】

【B-8 更地と化した森/早朝】
【バーサーカー@Fate/zero】
状態:健康、寄生進行中1/3
装備:無毀なる湖光、童子斬り
道具:基本支給品、ランダム支給品1~2
基本思考:バケモノをころす
[備考]
G-5のヒグマドンに向かっています。
ヒグマ・オブ・オーナーに関する記憶が無くなっています。
バケモノが周囲にいない間は、バーサーカーとしての理性を保っています。
バケモノが周囲にいる間は、理性が飛びます。
童子斬りにより地中よりマナを供給しており、擬似的な単独行動スキルとなっています。
マスターが死んでも現界し続けるでしょう。


No.083:ゼロからの獣 本編SS目次・投下順 No.085:人らしい
本編SS目次・時系列順
間桐雁夜 No.128:てんぷら☆さんらいず
No.071:ひとりぼっちになる程度の…… 穴持たず14 No.098:ゼロ・グラビティ
No.015:ベルセルク ヒグマ・オブ・オーナー 死亡
バーサーカー No.115:羆帝国の劣等生

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最終更新:2015年02月13日 15:05