シーソーゲームの行く末は

ああ、太陽があんなに高く。
一体どれだけ時間が経ったのだろうと、身体の至る所に切創の出来た真田麻緒は思う。
傷が痛む、身体は疲労が確実に溜まってきている、コンディションは劣悪と言って良い。
しかしそれは今対峙している幼い少女も一緒――――だと思うのだが、自分よりは体力が残っているように見える気もする。

「はぁ…はぁ…はぁ…」
「ゼェー…ゼェー…」

互いに肩を上下させながら、視線を合わせる。
幼女――――の姿になっているジャック・ザ・リッパーの身体には小さな銃創が二つ、
腹と左肩の辺りに空き血が滴っている。
麻緒の持つコルト.380ガバメントによるものだ。

「……もう、だいぶ時間が経ったな……しぶと過ぎる、お前」
「そりゃこっちの台詞だクソッタレがァ……」

互いに相手を殺せない事に苛立ちを募らせていた。
麻緒の持つガバメントはとっくに弾切れを起こし、彼はもう一つの支給品、ピッケルに武器を持ち替えていた。

(あの時、無駄弾を撃ち過ぎたか……?)

麻緒がジャックと相対するのは、実は二度目であった。
先刻、ジャックより奇襲を受け、その時持っていたガバメントを乱射した。
当たったかどうか確認する余裕も無くその時は発砲した後にその場から逃げ去った。
その後、別の男を麻緒が襲い殺そうとした時、再びジャックが奇襲してきたのである。
そして現在に至る。
弾が尽きるまでガバメントを乱射した結果多少の手傷をジャックに負わせる事に成功した、が、
異常と思える程に素早い動きに翻弄され、相手が手にしたナイフで自分も浅からぬ傷を負わされていた。

「いつまでもテメェに構ってる訳にもいかねぇからなァ、もうそろそろ終わりにしねぇとなァァ!」
「こっちだって、ここで死ぬ訳には、いかないんだよ……」

乳酸が溜まり重くなった筋肉に喝を入れ、二人は身構える。
お互い目的がある。
これ以上は時間を無駄に出来ない。
二人は同時に駆け出した。
これで勝負を付けるために。
互いに肉薄する瞬間、麻緒がピッケルを横に薙ぎ払った。
だが、ピッケルの刃はジャックの胴体を掠りもせず空気を切り裂くに留まる。
ジャックの姿が消えていた。

「!?」

何が起きたのか――――ジャックが跳び上がり、麻緒の頭上を越え彼の背後に回った。
だが麻緒はそれに気付く前に、背中に衝撃を感じた。
その衝撃はやがて焼けるように熱い激痛へと変わり、喉の奥から液体が込み上げてきた。
鉄錆の味のする生ぬるい液体、それが何なのか麻緒は瞬時に理解する。

「がっ……げほっ……」
「ギャハハハハッ、こんな身体になっちまってまともに殺す事も出来ねぇと思ってたがァ、外そうでも無いみてェだなァ」

ジャックは麻緒の背中に突き刺したナイフを引き抜いた。
傷口から鮮血が噴き出す。
麻緒はその場に崩れ落ち、激しく吐血する。
その様子を見てジャックは己の勝利を確信し嗤った。

「ハハハッ……真田麻緒、だったかァ? ……じゃあな、あばよ!!」

そして地面に倒れる麻緒に向かって、ジャックがナイフを振り下ろそうとした。


「待て!!」


しかしそれは突然響いた声によって制止される。
ジャックが声の方向へ視線を向けると、青年と少女の二人の姿が。

「チィ……! 邪魔が入りやがったかァ」

ジャックは舌打ちする。
幼女の身体と化してしかも満身創痍、体力も減りつつある状態でこれ以上戦闘を続ける事は、
さしものジャック・ザ・リッパーと言えど押し負ける可能性があった。
『喰らう』余裕はどうやら無さそうだ。

「ケッ、テメェらの相手は次会ったらだ! あばよ!!」
「! おい、待て――――」

ジャックは二人に背を向け駆け出した。
逃げるのは無様だと思ったが仕方が無い。


【E-5/森/一日目/昼】

【ジャック・ザ・リッパー@夢オチだったオリロワのキャラでロワ】
[状態]:疲労(大)、幼児化(残り一時間)、性別変化(残り一週間)、左肩と腹部に銃創
[服装]:Tシャツのみ
[装備]:コンバットナイフ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品(1)
[思考]
基本:強い人間を殺し、その肉を喰らう。
1:二人(佐原裕二神谷茜)から離れ体勢を立て直す。
[備考]
※ロワ参加前からの参加です。
※固有能力≪無限の刃≫は封印されています
※薬品により幼児化、性別変化しています。
※佐原裕二、神谷茜の容姿を記憶しました。また真田麻緒の名前を交戦中に確認しています。
※どこに向かっているかは次の書き手さんにお任せします。


◆◆◆


「佐原さん! この人……凄い血です」

逃げる幼女を追おうとした佐原裕二だったが、神谷茜の声に引き留められた。
怪我人を放っておく事も出来ず裕二は幼女の追撃を断念し倒れている青年の元へ向かう。

「おい、あんた……うっ」

裕二は息を呑む。
夥しい量の出血、青白くなった顔、浅い呼吸。
医療知識に乏しい者でも、手後れだと言う事は理解出来た。
茜の方に顔を向け裕二は静かに首を横に振る。
それが何を意味するか茜にも分かったようで、悲しそうな表情を浮かべた。

「……っ……あ……い、嫌だ……まだ、死ぬ訳……には……」

青年は動こうとしていたが、もう身体が言う事を聞かない様子だった。

「お、俺……は……美……美緒……を…………いと……い……のに」

喉に血が詰まっているのか殆ど聞き取れない台詞だったが「美緒」と言う名前と思しき単語は聞き取れた。
そう言えば名簿に「真田美緒」と言う名前があった事を裕二は思い出した。

「……美緒……み、お……ご……め……いま、から……おれ……も……そっち……に…………――――」

ふっと、青年の息が絶えた。
無念そうに、裕二が目を瞑る。
茜もまた、泣きそうな表情を浮かべていた。
縁も所縁も無い人物でも目の前で無念を吐露され逝かれると、どうしようもなく悲しい。
開いたままの目を、裕二はそっと閉じさせた。
もう少し来るのが早ければ或いはこの青年を助けられたかもしれないが。

「……美緒、か」

この青年が死の直前に発した「美緒」と言う名前。
名簿に載っている「真田美緒」の事なのかそれともこの殺し合いには呼ばれていない人物なのか分からない。
そもそもこの青年の名前も分からない。
もし名簿に載っている「真田美緒」だとすれば「今から俺もそっちに」と言う台詞から、「真田美緒」なる人物も既に死亡している?
裕二は推測する。
あくまで推測の範囲を出ないが。
ゲーム開始からかなり時間が経ったがこの青年や、学校で見付けた少年を含めてそれなりの数の死亡者が出ているのだろう。
この青年に致命傷を与えたと思われるあの妙に口の悪い幼女や、
先刻出会った狼や少女と言い、殺し合いをやる気になっている者も大勢いるのだろう。
自分や茜と同じように殺し合いに抗おうとしている者はどれだけいるのだろうか。

「佐原さん……」
「ああ、すまない……」
「この人……どうしましょう……」
「……ここに置いていくしかないよ。埋葬する道具も時間も無いし……忍び無いけど」

裕二と茜は青年の死体を置いて先を急ぐ事にした。
その際、青年が持っていたと思われるピッケルを裕二が回収した。


【真田麻緒@オリキャラで俺得バトルロワイアル  死亡】


【E-5/森/一日目/昼】

【佐原裕二@サイキッカーバトルロワイアル】
[状態]:疲労(中)、背中に裂傷(処置済)
[服装]:特筆事項無し
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品(1~3)、ピッケル、青木林の支給品一式
[思考]
基本:≪ヒーロー≫としてこの殺し合いをハッピーエンドで終わらせる。
1:茜ちゃんを守る。
2:これ以上人は死なせたくない。
[備考]
※サイキッカーバトルロワイアル開始前からの参戦です。
※サイキックに制限はありません。

【神谷茜@需要なし、むしろ-の自己満足ロワ3rd】
[状態]:健康
[服装]:特筆事項無し
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品(1~3)
[思考]
基本:佐原さんについていく。
[備考]
※需要なし、むしろ-の自己満足ロワ3rd死亡後からの参戦です。


※E-5森に真田麻緒の死体とデイパック、コルト・ガバメント(0/12)が放置されています。
※佐原裕二、神谷茜の二人がどこに向かっているかは次の書き手さんにお任せします。


◆◆◆


「……痛ぇ」

永久修康は木の幹にもたれかかって座っていた。
撃たれた右肩が痛んで仕方無い。
それに何時間も森の中を歩き続け足の疲労も溜まりに溜まっている。
もう少し歩けば森を抜けられそうな気もするがそんな事より今は休みたい、と言うのが修康の今の気持ちだった。

「くそったれが……」
「おやおや、お疲れのようですねぇ」
「……あ?」

不意に声を掛けられる。
見ればいつの間にか、銀色の長髪――白髪か?――を持った白衣姿の男が近くにいる。
その手には銃と思しき物。

「……!」
「おっと、安心して下さい……貴方に危害を加えるつもりはありません」
「……んな事言われて、信用出来るかっつの」
「それはごもっとも……ですが、本当に殺すつもりならわざわざ話し掛けたりはしませんよ」
「……何か、用かよ」

内心怖がりつつも、修康は無愛想に男に訊く。
男は危害を加えるつもりは無いと口では言っているがもし何かアクションを起こされれば、
相手は拳銃、自分はハリセンで勝ち目はまず無い。

「私は阿見音弘之……あなたの名前をお聞かせ頂けませんか」
「……永久、修康」
「ありがとうございます。少々、質問しても宜しいですか?」
「何? 見れば分かると思うけど俺疲れてんだわ、手短にしてくれねぇかな」
「……貴方は、この殺し合いの中でどう動いていますか?」
「……は?」

阿見音弘之と名乗った男の質問の意図が掴めず修康は困惑する。
困惑したが、修康は正直な気持ちを言う事にした。

「……俺は死にたくない。殺されたくはねぇ。
だけど、な、殺し合いに乗るのも真っ平御免だ。誰かを傷付けたりはしたくないし、殺すなんて以ての外だ。
……つっても……本当に命を奪われそうになったら、相手をどうにかしないといけないだろうし。
……何が言いたいかっつうと、俺はとにかく生き延びたいんだ。でも出来る限り荒事は御免だ、そんな感じだ。
殺したくない、殺されたくない……こんなふざけたゲームの中じゃ、大甘な考えだとは、分かってるけどよ」
「ふむ……成程……いえ、結構な考えだと思いますよ」
「……そうか?」
「ええ……」

その時の阿見音弘之の表情を見た時、修康は背筋に寒いものを感じた。

「少なくとも……『殺し合いの打倒』だとか言う方より、貴方は余程現実を見ていらっしゃる」
「……」

これ以上この男と会話したいとは修康は思わなかった。
さっさと話を切り上げてどこかへ行って欲しい。
しかし一つだけ訊きたい事があったので、修康は阿見音に尋ねる。

「……阿見音さん、だったよな……じゃあ訊くが、あんたはこの殺し合い、どう動いてんだ?」
「私ですか? ……そうですねぇ……まあ……積極的に殺し合うつもりは無い、とだけ言いましょうか」
「……」

いまいち答えになっていないような気がするが、深く追求する気にはなれない。
積極的に殺し合うつもりは無い、と言うなら、今現在自分が襲われる危険はまず無くなった、と考えて良いのだろうか。
もっとも阿見音の事を信頼出来るか出来ないかと訊かれれば答えは「NO」になるが。

「さて……そろそろ私は、失礼します」
「あ、ああ」
「永久修康さん、もし縁があれば、また会いましょう」

二度と会いたくない、と、心の中で修康は毒付いた。


【E-5/森/一日目/昼】

【永久修康@俺のオリキャラでバトルロワイアル2nd】
[状態]:右肩に銃創
[服装]:特筆事項無し
[装備]:特殊ハリセン
[道具]:基本支給品一式、いちごオレ@DOLバトルロワイアル(3)、古いねずみ花火(3)
[思考]
基本:殺し合う気は無い。生き残る事を優先する。
1:しばらく休む。
2:瀬戸麗華、阿見音弘之には注意。
[備考]
※俺オリロワ2nd死亡後からの参戦です。
※瀬戸麗華、阿見音弘之の名前と容姿を記憶しました。

【阿見音弘之@愛好作品バトルロワイアル】
[状態]:健康
[服装]:特筆事項なし
[装備]:拳銃≪百発百中≫@四字熟語バトルロワイヤル
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品(1)、肥後守ナイフ
[思考・行動]
基本:≪白鷺の神様≫として祟りと称し愉悦を求める。
1:ぶらぶらしましょうか。
[備考]
※愛好作品バトルロワイアル参加前からの参加です。
※どこに向かっているかは次の書き手さんにお任せします。


≪支給品紹介≫
【ピッケル】
真田麻緒に支給。
積雪期の登山に使うつるはしのような形の道具。


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051:危機一発 真田麻緒 GAME OVER
051:危機一発 ジャック・ザ・リッパー 083:Dead End - 白紙 -(前編)
047:誰かのためなら悪くはないけれど 佐原裕二 076:パラべラム・アライヴ『Down to Zero we go』
047:誰かのためなら悪くはないけれど 神谷茜 076:パラべラム・アライヴ『Down to Zero we go』
051:危機一発 永久修康 :[[]]
056:メカクシコード 阿見音弘之 076:パラべラム・アライヴ『Down to Zero we go』

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最終更新:2013年02月04日 18:03